(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6306977
(24)【登録日】2018年3月16日
(45)【発行日】2018年4月4日
(54)【発明の名称】立坑構築方法
(51)【国際特許分類】
E21D 1/00 20060101AFI20180326BHJP
E02D 5/20 20060101ALI20180326BHJP
E02D 3/12 20060101ALI20180326BHJP
【FI】
E21D1/00 Z
E02D5/20 101
E02D3/12 102
E02D3/12 101
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-167417(P2014-167417)
(22)【出願日】2014年8月20日
(65)【公開番号】特開2016-44410(P2016-44410A)
(43)【公開日】2016年4月4日
【審査請求日】2017年2月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100122781
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 寛
(72)【発明者】
【氏名】坂梨 利男
(72)【発明者】
【氏名】谷澤 史剛
【審査官】
苗村 康造
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−222914(JP,A)
【文献】
特開平11−247174(JP,A)
【文献】
特開平08−049236(JP,A)
【文献】
特開2007−247339(JP,A)
【文献】
特開2015−229822(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 1/00〜 9/14
E02D 3/12
E02D 5/00〜 5/20
E02D 29/00〜 37/00
E02D 17/00〜 17/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
略円筒形の立坑を構築するための立坑構築方法であって、
前記立坑の前記略円筒形に対応する形状の土留壁を地上から構築する土留壁構築工程と、
平面視で前記土留壁の内側の領域において当該土留壁の下端よりも上方の位置から当該下端よりも下方の位置まで延在すると共に、地下水圧及び土圧に耐え得る厚さの底部改良体及び側部改良体を有する有底の容器形状の地盤改良体を、地上からの地盤改良処理によって構築する地盤改良体構築工程と、
前記土留壁の内側かつ前記地盤改良体の前記側部改良体よりも上方の領域をドライ掘削するドライ掘削工程と、
前記地盤改良体の上に、前記立坑の本設底版を構築する底版構築工程と、
前記本設底版上に本設構造物を構築する本設工程と、
を備え、
前記地盤改良体の前記側部改良体は円筒状をなし、前記側部改良体の円筒外周面が前記土留壁の下部の内周面に対して所定の上下幅で接触する、ことを特徴とする立坑構築方法。
【請求項2】
前記地盤改良体と前記土留壁との境界部に薬液を注入して当該境界部に止水性を付与する止水処理工程を更に備えたことを特徴とする請求項1に記載の立坑構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立坑構築方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、このような分野の技術として、下記特許文献1に記載の立坑構築方法が知られている。この構築方法は、機械式攪拌工法や高圧噴射攪拌工法などによって土中に地中梁を構築し、その後土留壁を構築する。次に土留壁に囲まれた立坑内部に水を導入して立坑内部を地中梁まで水中掘削し、その後、地中梁上に水中コンクリートで仮設底版コンクリートを打設する。その後、立坑内部の水を排水し、仮設底版コンクリート上に本設のコンクリートを打設する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−130066号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種の立坑構築方法においては、掘削底面以深の土留壁の深度を浅くすることが求められている。そして立坑の底部においては、構築途中において土圧や地下水圧に耐え得る合理的な構造を構築することが求められる。本発明は、合理的な構造で土留壁の深度を浅くする立坑構築方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の立坑構築方法は、略円筒形の立坑を構築するための立坑構築方法であって、立坑の略円筒形に対応する形状の土留壁を地上から構築する土留壁構築工程と、平面視で土留壁の内側の領域において当該土留壁の下端よりも上方の位置から当該下端よりも下方の位置まで延在すると共に、地下水圧及び土圧に耐え得る厚さの底部改良体及び側部改良体を有する有底の容器形状の地盤改良体を、地上からの地盤改良処理によって構築する地盤改良体構築工程と、土留壁の内側かつ地盤改良体の上方の領域をドライ掘削するドライ掘削工程と、地盤改良体の上に、立坑の本設底版を構築する底版構築工程と、本設底版上に本設構造物を構築する本設工程と、を備えたことを特徴とする。
【0006】
この立坑構築方法によれば、地盤改良体の上部が土留壁の下部に接し、地盤改良体の下部は土留壁の下方の地盤に接している。ドライ掘削工程においては、立坑の底部に外側からの土圧と地下水圧が作用する。このとき、地盤改良体と地盤改良体内部に囲まれた土塊重量、地盤改良体と土留壁との摩擦、及び地盤改良体と土留壁下方の地盤との摩擦が、上記の土圧と地下水圧とに対抗する。よって、立坑に必要な深さを超えて土留壁を深部に延長する必要がなく、土留壁の深度を浅くすることができる。また、地盤改良体を有底の容器形状にすることにより、地盤改良体の壁厚を地下水圧及び土圧に耐え得るように、合理的な厚さに調整することができる。
【0007】
また、本発明の立坑構築方法は、地盤改良体と土留壁との境界部に薬液を注入して当該境界部に止水性を付与する止水処理工程を更に備えたこととしてもよい。この構成により、地盤改良体と土留壁との境界部から立坑内部に侵入する水を抑制することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の立坑構築方法によれば、合理的な構造で土留壁の深度を浅くする立坑構築方法を提供することを目的とする。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態に係る立坑構築方法が適用される立坑の例を示す断面図である。
【
図2】本実施形態に係る立坑構築方法のフローチャートである。
【
図3】(a)は、実施形態に係る立坑構築方法の土留壁構築工程を示す断面図であり、(b)は、地盤改良体構築工程を示す断面図である。
【
図4】(a)は、実施形態に係る立坑構築方法のドライ掘削工程を示す断面図であり、(b)は、ドライ掘削工程及び止水処理工程を示す断面図である。
【
図5】実施形態に係る立坑構築方法の躯体構築工程を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、
図1〜
図5を参照しながら本発明に係る立坑構築方法の実施形態について詳細に説明する。
図1に示す本実施形態の立坑1は、例えば直径約35m、深さ約110mといった大深度の円筒形の立坑である。立坑1は、地上2に開口を有しており、例えばシールドマシーンを搬入するための立坑として使用される。立坑1は、地上2から下方に延在する略円筒形状の土留壁3と、土留壁3の下端3aの上方の位置から下端3aの下方の位置まで延びる地盤改良体5とを備えている。立坑1の内部は、土留壁3と地盤改良体5とによって周囲の地盤から仕切られている。更に立坑1は、地盤改良体5の上に設けられた本設底版7と、本設底版7上で土留壁3の内側に構築された本設壁9とを備えている。この立坑1を通じてシールドマシーン(図示せず)が底部に搬入され、シールドマシーンによって立坑1の底部から水平方向に延びるシールドトンネル11が施工される。
【0011】
図2〜
図5に示されるように、立坑1を構築するための立坑構築方法は、土留壁構築工程と、地盤改良体構築工程と、ドライ掘削工程と、止水処理工程と、底版構築工程と、躯体構築工程と、を備えている。
【0012】
(土留壁構築工程:S101)
図3(a)に示されるように、土留壁構築工程では、立坑1の円筒形に対応する形状の土留壁3(連壁)を地上2から構築する。具体的には、地上2から掘削機によって平面視リング状で深さ約140m、幅1.5mの穴21を掘削し、鉄筋篭23を吊り込んで穴21内に設置する。その後、穴21にコンクリートを打設することで、円筒形の土留壁3が構築される。
【0013】
(地盤改良体構築工程:S102)
続いて、
図3(b)に示されるように、地盤改良体構築工程では、地上2からの地盤改良処理によって地盤改良体5を構築する。具体的には、土留壁3の内側の領域で、地上2から土留壁3の下端3a近傍までロッド27を挿入し、例えば高圧噴射撹拌工法によって地盤と固化材料とを混合攪拌し、地盤改良体5を構築する。構築される地盤改良体5は、平面視で土留壁3の内側の領域で土留壁3の下端3aよりも約10m上方の位置から当該下端3aよりも約40m下方の位置まで延在する。また、地盤改良体5は、円板状の底壁部(底部改良体)5aと、当該底壁部5aの上に位置する円筒状の側壁部(側部改良体)5bとを有する有底の容器形状(椀型形状)をなしている。すなわち、地盤改良体5は、U字型の鉛直断面を有する形状をなしている。地盤改良体5の底壁部5aの厚さ(上下幅)及び側壁部5bの厚さ(水平幅)は10mであり、この底壁部5a及び側壁部5bの厚さは、地盤改良体5が位置する深度において、地下水圧及び土圧に耐え得る厚さに対応する。
【0014】
(ドライ掘削工程:S103)
続いて、
図4(a)に示されるように、ドライ掘削工程では、土留壁3の内側かつ地盤改良体5の上方の領域Aを、気中で地上2からドライ掘削する。
図4(b)に示されるように、ドライ掘削は地盤改良体5の上面5cが露出するまで行う。なお、ドライ掘削の途中で、地盤改良体5と土留壁3との境界部4に凍結管を挿入し、凍結工法によって当該境界部4の止水性を確保してもよい。
(止水処理工程:S104)
その後、止水処理工程では、地盤改良体5と土留壁3との境界部4に、ロッドを挿入し、例えば水ガラス系の薬液を注入して当該境界部4に止水性を付与する。この止水処理工程により、境界部4を通じた立坑1内部(領域A)への地下水の侵入が抑制される。
【0015】
(躯体構築工程:S105)
続いて、
図5に示されるように、躯体構築工程では、地盤改良体5の上に、立坑1の本設の底版をなす本設底版7を構築する(底版構築工程)。その後、地盤改良体5の上に本設壁9等の本設構造物を構築する(本設工程)。本設壁9は、地盤改良体5の上面に土留壁3の内側に沿って立設される。土留壁3は、そのまま立坑1の内壁の一部として利用される。
【0016】
続いて、上述した本実施形態の立坑構築方法による作用効果について説明する。この立坑構築方法では、土留壁3の内側を地上2から気中で掘削するドライ掘削を実行している。よって、ドライ掘削工程においては、特に、土留壁3の下端3a近傍において周囲の土圧や地下水圧が作用することになる。これに対し、ドライ掘削工程における立坑1の下部の構造では、地盤改良体5の上部が土留壁3の下部に対して所定の上下幅(本実施形態では約10m)で接しており、地盤改良体5の下部は土留壁3の下方の地盤29に接している。
【0017】
よって、有底の容器形状の地盤改良体5と地盤改良体5内部に囲まれた土塊の重量、地盤改良体5と土留壁3との摩擦、及び地盤改良体5と土留壁3下方の地盤29との摩擦が、下方及び側方からの土圧と地下水圧とに対抗する。これにより、立坑1に必要な深さを大きく超えて土留壁3を深部に延長する必要がなく、土留壁3の深度を浅くすることができる。また、前述の通り、所定の厚さに形成された底壁部5a及び側壁部5bは、地盤改良体5が位置する深度において、地下水圧及び土圧に耐え得るので、地盤改良体を中実構造にするよりも合理的な構造である。すなわち、地盤改良体5を有底の容器形状にすることにより、地盤改良体5の壁厚を地下水圧及び土圧に耐え得るように、合理的な厚さに調整することができる。そして、地盤改良体を中実構造にするよりも、地盤改良体に使用する材料等を節減することができ地盤改良体構築工程を短縮することができる。また、地下水圧及び土圧に耐え得る地盤改良体5を底部に構築する構造により、ドライ掘削が可能になり、構築中の立坑1内(領域A内)への注水や排水等の工程が発生しない。
【0018】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、各請求項に記載した要旨を変更しない範囲で変形したものであってもよい。例えば、実施形態では円筒形の立坑1に本発明を適用しているが、本発明は、例えば、正多角筒形、楕円筒形など、完全な円筒形以外の立坑にも適用することができる。
【符号の説明】
【0019】
1…立坑、3…土留壁、3a…下端、5…地盤改良体、5a…底壁部(底部改良体)、5b…側壁部(側部改良体)、7…本設底版、9…本設壁(本設構造物)。