(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
噴射計測装置としては、
図4に示すように、検査液体を充填したシリンダ形状の測定容器100と、測定容器100内に検査液体を噴射するノズル(弁ニードル)101と、測定容器100内の検査液体の測定容器100の長手方向の軸に沿って振動する第1圧力固有振動102の節に配置した圧力センサ103とを備えた噴射計測装置が知られている(特許文献1)。
【0003】
ここで、この噴射計測装置においては、測定容器100内へのノズル101からの検査液体の噴射に伴う圧力変動を圧力センサ103で検出し、検出した圧力変動を周波数分析して、第1圧力固有振動102の第1高調波の周波数と、測定容器100の長手方向の距離より推定した第1高調波の波長である推定波長により音速を求める。そして、求めた音速と、測定容器100の容積と、圧力センサ103で検出した測定容器100内の検査液体の圧力上昇量とから、ノズル101から測定容器100内へ噴射された検査液体の噴射量を算出する。
【0004】
このような噴射計測装置によれば、測定容器100内の検査液体の測定容器100の長手方向の軸に沿って振動する第1圧力固有振動102の節に圧力センサ103を配置しているので、圧力センサ103への第1圧力固有振動の影響は抑制される。よって、圧力変動の検出の際に、第1圧力固有振動の周波数成分をノイズとしてフィルタによって除去する必要が無くなり、当該第1圧力固有振動の周波数成分を含む広い周波数範囲において検査液体の圧力変動を検出することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のような圧力固有振動の周波数と圧力固有振動の推定波長より音速を測定し、測定した音速を用いて検査液体の噴射量を測定する噴射計測装置によれば、圧力固有振動の推定波長の実際の波長に対する相違による誤差等、個々の噴射装置の特性等に応じた測定誤差が発生してしまうことがある。
【0007】
そこで、本発明は、圧力固有振動の周波数と圧力固有振動の推定波長より求まる音速を用いて検査液体の噴射量を測定する噴射計測装置において、より適正な計測を行えるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題達成のために、本発明は、所定圧力で液体を内部空間に充填した密閉容器と、前記密閉容器の内部空間に向かって液体を噴射するノズルと、前記密閉容器の内部空間内の液体の圧力を検出する複数の圧力センサと、波長を設定する波長設定手段と、前記波長設定手段によって設定された波長を用いて液体の噴射量を計測する計測手段とを備えた噴射計測装置を提供する。ただし、前記複数の圧力センサは、各圧力センサの測定子と前記ノズルの噴射口との間の距離が相互に異なるように配置されている。また、前記波長設定手段は、前記ノズルから液体を噴射させ、当該噴射による圧力変化の各圧力センサにおける検出時刻の時間差と、各圧力センサの測定子と前記ノズルの噴射口との間の距離の差によって音速を算出すると共に、当該噴射による圧力の変動を前記複数の圧力センサのうちの少なくとも一つの圧力センサを用いて計測し、計測した圧力の変動が表す圧力振動の周波数を算定し、算定した音速をc
d、算定した周波数をf
dとして、波長λを
λ= c
d/f
d
により設定するものである。また、前記計測手段は、前記ノズルから液体を噴射させ、当該液体の噴射による圧力の変動を前記複数の圧力センサのうちの少なくとも一つの圧力センサを用いて計測すると共に、計測した圧力の変動が表す圧力振動の周波数と、計測した圧力の上昇量を算定し、算定した周波数をf、算定した圧力の上昇量をΔP、前記密閉容器の容積をVとして、液体の噴射量Iqを、前記波長設定手段によって設定された波長λを用いて、
Iq = (ΔP×V) / (f
2×λ
2 )
により算出するものである。
【0009】
ここで、このような噴射計測装置は、前記密閉容器の内部空間を球形状とし、前記ノズルを、前記密閉容器の前記内部空間の球形状の球面に対して凹凸を形成しないように配置し、前記圧力センサを、前記密閉容器の前記内部空間の球形状の球面に対して凹凸を形成しないように配置することが好ましい。
【0010】
このようにすることにより、液体の噴射によって発生する振動を乱れのない単一のモードの振動とすることができ、精度よく液体の振動の周波数を算出することができるようになる。また、この結果、液体の噴射量または噴射率を良好に測定できるようになる。
【0011】
また、このような噴射計測装置が噴射量を計測する液体は、自動車エンジンやその他の燃料であってよい。
以上のような噴射計測装置によれば、圧力変化の各圧力センサにおける時刻検出に適した噴射パターンで液体を噴射して適切な波長λを設定すれば、以降は、任意の測定対象の噴射パターンの噴射に対して、圧力センサを用いて高速かつ適正に噴射量の計測を行うことができる。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、本発明によれば、圧力固有振動の周波数と圧力固有振動の推定波長より求まる音速と、測定容器の容積より検査液体の噴射量を測定する噴射計測装置において、煩雑な作業を必要とすることなく適正な計測を行えるようになる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について説明する。
図1に本実施形態に係る噴射計測装置の構成を示す。
図示するように、噴射計測装置は、燃料で満たされた密閉容器1、密閉容器1内に燃料を噴射するインジェクションノズル2、インジェクションノズル2に噴射する燃料を供給するインジェクションポンプ3、密閉容器1内の燃料の圧力を検出する二つの圧力センサ4、連結管を介して密閉容器1に連結された排出バルブ5、排出バルブ5に連結され排出バルブ5が開状態にある期間中、密閉容器1内の燃料の圧力が規定背圧Pbとなるまで密閉容器1内の燃料を排出するリリーフバルブ6、測定制御装置7とを備えている。
【0015】
次に、測定制御装置7は、測定シーケンスの制御を行うシーケンス制御部71と、測定シーケンスに従って燃料の噴射量や噴射率の測定を行う測定部72とを備えている。
次に、
図2aに、密閉容器1の形状と、密閉容器1に対するインジェクションノズル2と圧力センサ4の配置を示す。
図示するように、密閉容器1は、球形状の内部空間11と、内部空間11に連結する排出流路12とが設けられており、内部空間11、排出流路12には、燃料が満たされている。そして、
図1に示すように、排出流路12には連結管を介して上述した排出バルブ5が連結されている。
【0016】
また、密閉容器1には、インジェクションノズル2が、先端の噴射口が内部空間11の球形状の球面に対して凹凸なく位置するように固定されており、インジェクションノズル2から燃料が内部空間11に噴射される。
【0017】
そして、二つの圧力センサ4は、先端の測定子が内部空間11の球形状の球面に対して凹凸なく位置するように固定されている。
ここで、以上のように本実施形態では、密閉容器1の燃料が充填される内部空間11の形状を球形状とし、インジェクションノズル2の先端と二つの圧力センサ4の先端を内部空間11の球形状の球面の一部を形成するように配置している。よって、密閉容器1の内部空間11の球形状の内部には燃料以外の異物は存在せず、インジェクションノズル2から燃料を内部空間11内に噴射すると、単一のモードの固有振動が、球形状の内部空間11内の異物によって乱されない形態で発生する。よって、圧力センサ4で固有振動を他の振動に妨げられない形態で良好に検出することができる。
【0018】
さて、二つの圧力センサ4は、インジェクションノズル2の先端の噴射口と圧力センサ4の先端の測定子との間の距離が、二つの圧力センサ4で異なるように配置される。すなわち、インジェクションノズル2の先端の噴射口と圧力センサ4の先端の測定子との間の距離が一方の圧力センサではL1となり、他方の圧力センサではL2(L2>L1)となるように、二つの圧力センサ4を配置する。
【0019】
たとえば、
図2aに示すように、インジェクションノズル2の噴射口が配置されている位置を密閉容器1の内部空間11の中心の上方向として、一方の圧力センサ4を密閉容器1の内部空間11の中心の横方向に、他方の圧力センサ4を密閉容器1の内部空間11の中心斜め下方向に配置する。
【0020】
ただし、二つの圧力センサ4の配置は、インジェクションノズル2の先端の噴射口と圧力センサ4の先端の測定子との間の距離が、二つの圧力センサ4で異なる配置であればよく、たとえば、
図2b-fに示すように配置してもよい。
【0021】
すなわち、
図2bは、一方の圧力センサ4を密閉容器1の内部空間11の中心の横方向に、他方の圧力センサ4を密閉容器1の内部空間11の中心の下方向に配置した例を表しており、
図2cは、一方の圧力センサ4を密閉容器1の内部空間11の中心の斜め上方向に、他方の圧力センサ4を密閉容器1の内部空間11の中心の下方向に配置した例を表しており、
図2dは、一方の圧力センサ4を密閉容器1の内部空間11の中心の斜め上方向に、他方の圧力センサ4を密閉容器1の内部空間11の中心斜め下方向に配置した例を表しており、
図2eは、一方の圧力センサ4を密閉容器1の内部空間11の中心の斜め下方向に、他方の圧力センサ4を密閉容器1の内部空間11の中心の下方向に配置した例を表しており、
図2fは、一方の圧力センサ4を密閉容器1の内部空間11の中心の斜め上方向に、他方の圧力センサ4を密閉容器1の内部空間11の中心の横方向に配置した例を表している。
【0022】
次に、
図3に、測定制御装置7の測定部72の機能構成を示す。
図示するように、測定制御装置7の測定部72は、FFT処理部721、ピーク周波数算出部722、フィルタ723、上昇圧力算出部724、噴射測定部725、遅延時間算出部726、音速算出部727、波長設定部728を備えている。
【0023】
以下、このような噴射計測装置の、燃料の噴射量(質量)の測定原理について説明する。
密閉容器1の容積をVとし、Kを燃料の体積弾性係数とすると、燃料を体積ΔVだけ密閉容器1内に噴射したときの密閉容器1内の燃料の圧力上昇ΔPは、式(1)で表される。
【0024】
ΔP=(K×ΔV)/V …(1)
一方、液体中の音速cは、ρを燃料の密度として、式(2)によって表される。
c = ( K/ρ )
1/2 …(2)
よって、式(1)と式(2)より、燃料の噴射量Iqは、式(3)で示される。
Iq = ΔV×ρ =(ΔP×V) / c
2 …(3)
ここで、密閉容器1の球形状の内部空間11の燃料中の音速cは、λを内部空間11の燃料の基本振動の波長、fを内部空間11の燃料の基本振動の周波数として式(4)によって表される。
【0025】
c =f×λ …(4)
そして、式(4)を式(3)に代入すると、式(5)が得られる。
Iq = (ΔP×V) / (f
2×λ
2 )…(5)
ここで、基本振動の波長λは、基本振動の周波数fと異なり、温度などによって変化する燃料の体積弾性係数や密度に依存せずに、密閉容器1毎に固定的に定まる定数であるため、式(5)より、予め、密閉容器1の容積Vと、波長λを求めて設定しておけば、液体の噴射量Iqは、燃料の基本振動の周波数fと、液体の圧力上昇ΔPより適正に算出することができる。
【0026】
また、噴射量Iqを時間微分することにより、燃料の噴射率を算出することもできる。
以下、噴射計測装置において、以上のような式(4)、(5)を利用して燃料の噴射量を計測する動作について説明する。
さて、噴射量の算出は、燃料の噴射量の計測動作の実行前に行う基本振動の波長λを設定するために行うキャリブレーション動作と、基本振動の波長λの設定後に行う燃料の噴射量の計測動作とより実現される。
【0027】
まず、キャリブレーション動作について説明する。
キャリブレーション動作において、測定制御装置7のシーケンス制御部71は、インジェクションポンプ3を駆動し、インジェクションノズル2から密閉容器1内に所定のキャリブレーション動作用の噴射パターンで燃料を噴射する。
【0028】
一方、キャリブレーション動作において、測定制御装置7の測定部72は、シーケンス制御部71の制御下で、以下のように基本振動の波長λを設定する。
すなわち、遅延時間算出部726は、二つの圧力センサ4から出力される二つの圧力信号に基づいて、キャリブレーション動作用の噴射パターンの噴射によって発生した圧力変動の二つの圧力センサ4への到達時間の差を遅延時間Dtとして算出する。
【0029】
ここで、二つの圧力センサ4から出力される二つの圧力信号に基づく遅延時間Dtの算出は、たとえば、二つの圧力信号が表す圧力が有意に上昇した時刻の差、すなわち、インジェクションノズル2の燃料の噴射により発生した圧力波が二つの圧力センサ4の測定子に到達した時刻の差を遅延時間Dtとして算出することにより行う。なお、各圧力信号が表す圧力が有意に上昇した時刻は、圧力信号が燃料噴射前の圧力(規定背圧Pb)から所定値以上増加した時刻として求めるようにしてもよいし、圧力信号を微分した信号の値が所定値を超えた時刻として求めるようにしてもよい。
【0030】
そして、音速算出部727は、遅延時間算出部726が算出した遅延Dtから音速c
dを、インジェクションノズル2の先端から二つの圧力センサ4の先端の測定子までの距離L2、L1(L2>L1)を用いて、
c
d = (L2-L1)/Dt
によって算出する。
【0031】
一方、FFT処理部721は、キャリブレーション動作用の噴射パターンの噴射に対して、二つの圧力センサ4のうちの所定の一つの圧力センサ4から出力される、密閉容器1内の燃料の圧力変動を表す圧力信号をFFT処理し、容器内燃料の圧力振動の各周波数成分の大きさを算出し、ピーク周波数算出部722に出力する。ピーク周波数算出部722は、FFT処理部721が算出した燃料の圧力振動の各周波数成分の大きさがピーク(最大)となる周波数を、燃料の基本振動の周波数f
dとして算出する。
【0032】
そして、波長設定部728は、ピーク周波数算出部722が算出した周波数f
dと、音速算出部727が算出した音速c
dより、基本振動の波長λを算出して設定する。
【0033】
すなわち、式(4)によって、
c
d =f
d×λ
の関係が成り立つので、波長設定部728は、
λ= c
d/f
d
により波長λを設定する。
【0034】
以上、キャリブレーション動作について説明した。
ここで、以上のキャリブレーション動作において用いるキャリブレーション動作用の噴射パターンは、各圧力センサ4において、明確な圧力変化パターンが観測できる噴射パターンとする。すなわち、たとえば、キャリブレーション動作用の噴射パターンとしては、パルス状に大圧力で燃料を噴射する噴射パターンとする。
【0035】
また、以上のキャリブレーション動作においては、インジェクションノズル2に代えて、音源装置を密閉容器1に取り付けて、密閉容器1内に所定の音(たとえば、パルス音)を出射し、当該出射によって生じる圧力変化を圧力センサ4で検出して、上述のように音速c
dや基本振動の周波数f
dや波長λを算出するようにしてもよい。
【0036】
次に、このようにしてキャリブレーション動作によって波長λを設定したならば、以降は、以下のように燃料の噴射量の計測動作を行う。
すなわち、測定制御装置7のシーケンス制御部71は、インジェクションポンプ3を駆動し、インジェクションノズル2から密閉容器1内に燃料を噴射し、排出バルブ5の開閉の制御を行い、密閉容器1内の燃料の圧力を規定背圧に復帰させる処理を一度もしくは繰返し行う。
【0037】
一方、測定制御装置7の測定部72は、シーケンス制御部71の制御下で、以下のように密閉容器1内への燃料の噴射の度に燃料の噴射量Iqを測定する。
すなわち、FFT処理部721は、二つの圧力センサ4のうちの前記所定の一つの圧力センサ4から出力される、密閉容器1内の燃料の圧力変動を表す圧力信号をFFT処理し、燃料の圧力振動の各周波数成分の大きさを算出し、ピーク周波数算出部722に出力する。
【0038】
ピーク周波数算出部722は、FFT処理部721が算出した燃料の圧力振動の各周波数成分の大きさがピーク(最大)となる周波数を、燃料の基本振動の周波数fとして算出する。
一方、フィルタ723は、前記所定の一つの圧力センサ4から出力される圧力信号の高周波領域のノイズを除去して上昇圧力算出部724に出力し、上昇圧力算出部724はフィルタ723がノイズを除去した圧力信号から、密閉容器1内の燃料の圧力上昇ΔPを算出する。
【0039】
そして、噴射測定部725は、キャリブレーション動作で設定された波長λと、ピーク周波数算出部722が算出した燃料の基本振動の周波数fと、上昇圧力算出部724が算出した圧力上昇ΔPと、別途予め設定しておいた密閉容器1の容積Vとから、式(5)に従って燃料の噴射量Iqを算出する。なお、噴射測定部725において、さらに、燃料の噴射量Iqを時間微分して燃料の噴射率(質量)を算出するようにしてもよい。
【0040】
以上、噴射計測装置において燃料の噴射量Iqを算出する動作について説明した。
なお、以上のキャリブレーション動作は、計測動作を行う度に行う必要はなく、噴射計測装置の校正時にのみ行えばよい。
また、以上の噴射計測装置は、FFT処理部721において、二つの圧力センサ4から出力される圧力信号を平均した信号を、FFT処理し、燃料の振動の各周波数成分の大きさを算出して、ピーク周波数算出部722へ出力するように構成してもよい。また、以上の噴射計測装置は、フィルタ723において、二つの圧力センサ4から出力される圧力信号を平均した信号の高周波領域のノイズを除去して上昇圧力算出部724に出力するように構成してもよい。
【0041】
以上、本発明の実施形態について説明した。
このように本実施形態によれば、圧力変化の各圧力センサ4における時刻検出に適したキャリブレーション動作用の噴射パターンで燃料を噴射して適切な波長λを設定すれば、以降は、任意の測定対象の噴射パターンの噴射に対して、圧力センサ4を用いて高速かつ適正に噴射量の計測を行うことができるようになる。
【0042】
なお、本実施形態は、燃料以外の任意の液体の噴射量や噴射率の計測に同様に適用することができる。