【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託による研究成果に係る出願、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記導電性フィラー成分が、クロム、モリブデンおよびタングステンからなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1から7のいずれか1項に記載の回路基板。
前記導電性フィラー粉末が、クロム、モリブデンおよびタングステンからなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項9から11のいずれか1項に記載の導体ペースト。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、このような回路基板では、昨今の半導体デバイスの小型化、高密度化および高速化等といった高性能化に伴い、導体パターンの低抵抗化や耐ヒートサイクル性の向上(例えば−40〜250℃の温度範囲でヒートサイクルを繰り返した時の基板と導体パターンとの接合性の向上)が求められている。
【0006】
導体パターンを低抵抗化する一つの方策として、電気伝導の障害となる非導電成分、例えば上記無機フィラーの含有量を低減することが考えられる。しかしながら、単純に無機フィラーの含有量を減らすと、基板との接合性が低下することがあり得る。さらに、導体パターンの熱膨張率が高くなって、例えば熱膨張率の小さい基板(例えば窒化物系セラミックスからなる基板)を用いた場合に、接合性(例えば耐ヒートサイクル性)の低下を招来する虞がある。
また、導電性を維持する一つの方策として、銅の酸化防止のために導体層の表面にめっき処理を施すことがある。しかしながら、導体パターンに非導電性の無機フィラーを含む場合、当該部位に局所的にめっきが乗らず、いわゆるピットが発生することがある。このことは直ちに接合性の低下につながるわけではないが、導体パターンの内部で徐々に酸化が生じて導電性が低下することがあり得る。
【0007】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、電気抵抗率が低減され且つ耐ヒートサイクル性にも優れた導体パターンを備える回路基板を提供することである。また、他の目的は、かかる導体パターンを形成するための導体ペーストを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、様々な角度から検討を重ねた結果、ガラスフリットやシリカ等の無機フィラーにかえて、導電性フィラーを用いることに想到した。そして、更なる検討を重ね、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明によって、セラミックスからなる絶縁基板と、該絶縁基板の表面に形成されたガラスレスの導体パターンと、を備える回路基板が提供される。上記導体パターンは、上記絶縁基板に接する銅めっき層と、該銅めっき層上に形成された導体層とを備える。上記導体層は、ガラス成分を含まず、銅成分と導電性フィラー成分とを含む。上記導電性フィラー成分の含有割合は、上記銅成分100質量部に対して50質量部以上200質量部以下である。上記導体層の体積熱膨張率は13.5ppm/℃以下である。上記導体パターンの電気抵抗率は20μΩ・cm未満である。
【0009】
導体層に上記割合で導電性フィラーを含むことにより、該導電性フィラー成分が熱膨張率を調整する役割を果たし、導体層の体積熱膨張率(以下、単に「熱膨張率」ということもある。)を13.5ppm/℃以下に安定的に制御することができる。これにより、低温〜高温のヒートサイクルに対しても高い耐久性を実現することができる。
また、絶縁基板と導体層との間に銅めっき層を介在させることで、導体層にガラス成分を含まずとも、絶縁基板と導体パターンとが強固に一体化された回路基板を実現することができる。さらに、導体パターンをガラスレスとすることで、優れた導電性(電気抵抗率が20μΩ・cm以下)を実現することができる。
加えて、導電性フィラーを用いることでピットの発生をも防止することができ、ニッケル−金めっき表面に欠陥のない導体パターンを実現することができる。
したがって、本発明によれば、電気抵抗率が低減され且つ耐ヒートサイクル性にも優れた回路基板を実現することができる。
【0010】
なお、本明細書において「熱膨張率」とは、特に断りの無い限り、一般的な示差膨張方式の熱機械分析(Thermo Mechanical Analysis:TMA)に基づいて室温〜300℃(例えば30〜300℃)の温度範囲にて測定した体積膨張率の平均値(体積平均熱膨張率)を指すものとする。また、本明細書において「電気抵抗率」とは、一般的な抵抗率計を用いて4端子4探針法で測定した値を指すものとする。
【0011】
上記導体層中の導電性フィラー成分の含有割合は、上記銅成分100質量部に対して75質量部以上であるとよい。これにより、例えば熱膨張率の小さい基板を用いた場合に、より優れた耐ヒートサイクル性を実現することができる。このため、本発明の効果をより高いレベルで発揮することができる。
【0012】
上記導体層中の導電性フィラー成分の含有割合は、上記銅成分100質量部に対して150質量部以下であるとよい。導電性フィラー成分は銅成分に比べると導電性が低いため、導電性フィラー成分の含有割合を上記範囲とすることで、導体層をより低抵抗化することができる。したがって、本発明の効果をより高いレベルで発揮することができる。
【0013】
ここに開示される回路基板の好適な一態様では、上記導電性フィラー成分の平均粒子径が、4μm以上50μm以下である。これにより、導電性フィラーの取扱性や導体層形成時の作業性を向上することができる。また、銅粉末同士の焼結(シンタリング)を妨げずに、導体層の電気抵抗を低減することができる。さらに、好ましくは高い機械的強度を実現することができる。
なお、本明細書において「平均粒子径」とは、一般的な粒度分布測定装置を用いて、レーザー回折・光散乱法で測定した体積基準の粒度分布において、微粒子側から累積50%に相当する粒子径(50%体積平均粒子径。D
50やメジアン径ともいう。)を指すものとする。
【0014】
ここに開示される回路基板の好適な一態様では、上記絶縁基板が窒化ケイ素基板である。窒化ケイ素(Si
3N
4)からなる基板の熱膨張率は凡そ2.6ppm/℃と、銅の熱膨張率(16ppm/℃)に比べて非常に小さい。このため、ここに開示される技術の適用が特に効果的である。
【0015】
ここに開示される回路基板の好適な一態様では、上記銅めっき層の平均厚みが2μm以下である。上述の通り、絶縁基板を構成するセラミックと銅めっき層を構成する銅は、熱膨張率が大きく異なる。このため、絶縁基板と銅めっき層との剥離を防止するためには、銅めっき層の厚みを小さく抑えて絶縁基板との熱膨張率の整合をとることが有効である。これにより、一層優れた熱的安定性(耐ヒートサイクル性)を実現することができる。
【0016】
ここに開示される回路基板の好適な一態様では、上記導体層の平均厚みが100μm以上300μm以下である。導体層の厚みを厚くすることで、電気伝導性の向上や放熱性の向上を実現し得る。また、一般に、比較的厚めに形成された導体層では低温〜高温(例えば−40〜250℃)のヒートサイクルの繰り返しによって剥離やクラック等の不具合が生じ易い傾向にある。しかしながら、ここに開示される技術によればこのような不具合を防止することができるので、導体層の低抵抗化と優れた接合性との高いレベルでの両立が可能となる。したがって、このような場合に本発明がとりわけ顕著な効果を奏する。
【0017】
ここに開示される回路基板の好適な一態様では、上記導電性フィラー成分が、クロム、モリブデンおよびタングステンからなる群から選択される少なくとも1種を含む。これらいわゆるクロム族金属は、金属のなかでも熱膨張率が小さく、かつ高温環境下でも化学的安定性が高い。このため、ここに開示される技術において好ましく用いることができる。
【0018】
また、本発明の他の側面として、ガラスレスの導体層を形成するための回路基板用の導体ペーストが提供される。かかる導体ペーストは、銅粉末と、導電性フィラー粉末と、熱可塑性樹脂と、溶媒と、を含む。上記導電性フィラー粉末の含有割合は、上記銅成分100質量部に対して50質量部以上200質量部以下である。そして、上記導体ペーストを銅めっき層上に付与して上記導体層を形成し、導体パターンとしたときに、(1)上記導体層の体積熱膨張率が13.5ppm/℃以下であり、(2)上記導体パターンの電気抵抗率が20μΩ・cm未満であることを実現する。
このような導体ペーストを用いることで、ガラスレスであっても熱膨張率の低い導体層を実現することができる。これにより、例えば熱膨張率の小さなセラミック基板(例えば窒化ケイ素基板)とも良好な接合性を実現することができ、なおかつ優れた耐ヒートサイクル性を実現することができる。その結果、熱的安定性が高く、電気抵抗率が一層低減された導体パターンを実現することができる。
【0019】
ここに開示される導体ペーストの好適な一態様では、上記導電性フィラー粉末の平均粒子径が4μm以上50μm以下である。これによって、接触抵抗をより低減することができる。さらに、好ましくは高い機械的強度を実現することができる。
【0020】
ここに開示される導体ペーストの好適な一態様では、上記銅粉末の平均粒子径が、上記導電性フィラー粉末の上記平均粒子径以下である。これによって、導体層の電気抵抗をより低減することができる。
【0021】
ここに開示される導体ペーストの好適な一態様では、上記導電性フィラー粉末が、クロム、モリブデンおよびタングステンからなる群から選択される少なくとも1種を含む。これにより、電気伝導性の向上、熱伝導性の向上、機械的強度の向上、耐ヒートサイクル性の向上のうち少なくとも1つを実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、ここに開示される技術の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄(例えば一般的な回路基板の製造方法や導体ペーストの調製方法等)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0024】
≪回路基板≫
ここに開示される回路基板は、セラミックスからなる絶縁基板と、該絶縁基板の表面に形成された導体パターンと、を備えている。上記導体パターンは、上記絶縁基板に接する銅めっき層と、該銅めっき層上に形成された導体層とを備えている。そして、以下の(A)〜(D):(A)導体層が、ガラス成分を含まず、銅成分と導電性フィラー成分とを含むこと;(B)導体層における導電性フィラー成分の含有割合が、上記銅成分100質量部に対して50質量部以上200質量部以下であること;(C)上記導体層の体積熱膨張率が13.5ppm/℃以下であること;(D)上記導体パターンの電気抵抗率が20μΩ・cm未満であること;によって特徴づけられる。したがって、その他の構成要素については特に限定されず、種々の用途に応じて任意に決定することができる。
【0025】
<絶縁基板>
ここに開示される回路基板の絶縁基板は、セラミック材料からなる。セラミック材料としては、例えば、金属炭化物からなる炭化物系セラミックス;金属窒化物からなる窒化物系セラミックス;金属酸化物からなる酸化物系セラミックス;金属のホウ化物、フッ化物、水酸化物、炭酸塩、リン酸塩等からなるセラミックス;等が例示される。
一好適例として、熱膨張率が比較的小さなもの、具体的には、窒化ケイ素(シリコンナイトライド:Si
3N
4)、窒化アルミニウム(アルミナイトライド:AlN)、窒化ホウ素(BN)等の窒化物系セラミックス;炭化ケイ素(シリコンカーバイド:SiC)等の炭化物系セラミックス;コーディエライト(2MgO・2Al
2O
3・5SiO
2)、ムライト(3Al
2O
3・2SiO
2)等の複合酸化物系セラミックス;が挙げられる。
なかでも、とりわけ熱膨張率が小さなセラミック材料(および該材料の30〜500℃の平均体積熱膨張率)を例示すると、コーディエライト(<|0.1|ppm/℃)、窒化ホウ素(1.4ppm/℃)、窒化ケイ素(2.6ppm/℃)、炭化ケイ素(3.7ppm/℃)、窒化アルミニウム(4.6ppm/℃)、ムライト(5.0ppm/℃)等が挙げられる。特に、窒化ケイ素は曲げ強度が凡そ600〜800MPaと機械的強度に優れる。このため、高い機械的強度の要求される用途で好ましく用いることができる。また、窒化アルミニウムは熱伝導率が150〜200W/m・Kと高いため、放熱性を要求される用途で好ましく用いることができる。
【0026】
<導体パターン>
ここに開示される回路基板の導体パターンは、上記絶縁基板に接する銅めっき層と、該銅めっき層の表面に固着された導体層とを備える。また、かかる導体パターンの電気抵抗率は20μΩ・cm未満であり、好ましくは15μΩ・cm以下、より好ましくは10μΩ・cm以下、特には6μΩ・cm以下であるとよい。
【0027】
銅めっき層は、接合力の小さな絶縁基板と導体層とを接合するための、言わば接着層である。銅めっき層を設けることにより、導体層にガラス成分(無機バインダ成分)を含まずとも強固に一体化された回路基板を実現することができる。
かかる銅めっき層は、実質的に(例えば、銅めっき層全体の95質量%以上が)銅成分からなる。このため、銅めっき層の熱膨張率は、銅の熱膨張率と概ね同等であり得る。ゆえに、例えば絶縁基板が熱膨張率の小さなセラミック材料からなる場合には、絶縁基板と銅めっき層との熱膨張率が大きく異なることがある。例えば、絶縁基板が窒化物系セラミックスからなる場合、銅めっき層の熱膨張率が、絶縁基板の熱膨張率に対して3〜5倍以上大きくなることがあり得る。したがって、このような場合には銅めっき層の厚みを薄くして、熱応力を小さく抑えることが好ましい。
上記の理由から、好適な一態様では、銅めっき層の平均厚みが5μm以下(好ましくは3μm以下、より好ましくは2μm以下)である。これにより、銅めっき層の熱膨張率をほぼ考慮する必要が無くなり、耐ヒートサイクル特性を一層向上することができる。また、銅めっき層の平均厚みは、0.01μm以上(好ましくは0.05μm以上、より好ましくは0.1μm以上、例えば0.5μm以上)であるとよい。これにより、絶縁基板と導体層とをより安定的に接合することができ、熱的安定性の高い回路基板を実現することができる。
【0028】
導体層は、配線回路としての導電機能や、半導体デバイスで発生した熱を逃がす放熱機能を発揮する部位である。ここに開示される回路基板に備えられた導体層は、熱膨張率が13.5ppm/℃以下(例えば13.5〜11.5ppm/℃、一例では13ppm/℃以下)である。これにより、例えば熱膨張率の比較的小さな絶縁基板を用いる場合であっても、優れた耐ヒートサイクル性を実現することができる。
かかる導体層は、ガラス成分を含まず、典型的にはその他の非導電性の(絶縁性の)無機フィラーも含まず、銅成分と導電性フィラー成分とを含んでいる。上述の通り、ガラス成分は電気伝導性や熱伝導性が低い。このため、当該ガラス成分を少なくとも意図的には混入させないことで、電気伝導性や熱伝導性に優れた導体層を実現することができる。さらには、耐ヒートサイクル性の向上などを目的として導体層の表面にめっきを施す場合にあっても、ピットの発生を高度に防止することができる。
【0029】
銅成分は、導体層に電気伝導性や放熱性を付与するための必須構成成分である。かかる銅成分は、平均粒子径が0.1μm以上(典型的には0.5μm以上、好ましくは1μm以上、例えば2μm以上)であって、10μm以下(典型的には5μm以下、例えば4μm以下)の銅粉末が焼結されてなるとよい。これにより、導体層を緻密化することができる。また、導体層形成時の取扱性や作業性を向上することができる。
【0030】
導電性フィラー成分は、導体層の熱膨張率を調整するための必須構成成分(熱膨張率調整材)である。かかる導電性フィラー成分としては、以下のような性質:(1)熱膨張率が小さい(好ましくは熱膨張率が10ppm/℃以下、例えば4〜6ppm/℃程度);(2)導電性に優れる(好ましくは電気抵抗率が10μΩ・m以下、例えば6μΩ・m以下);(3)500℃程度の高温域においても化学的に安定である;を有するものを好ましく用いることができる。
【0031】
このような性質を満たす好適例としてクロム族金属、すなわち、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、およびタングステン(W)が挙げられる。クロム族金属は、金属のなかでも相対的に熱膨張率が小さい。このため、導体層中にクロム族金属を含むことで、当該導体層の熱膨張率を効果的に低減することができる。なかでも、タングステンは0〜100℃の平均熱膨張率が4.5ppm/℃と全金属中で最も小さい。このため、より少ない含有割合で導体層の熱膨張率を好適な範囲に調整することができ、好ましい。
また、モリブデンは電気抵抗率が非常に小さく、電気伝導性や熱伝導性にも優れる。さらに、高温での機械的強度も高い。したがって、導体層本来の機能性(導電機能や放熱機能)をより高いレベルで発揮させることができ、好ましい。
【0032】
導電性フィラー成分は、平均粒子径が0.5μm以上(典型的には1μm以上、好ましくは2μm以上、例えば4μm以上)であるとよい。これにより、銅粉末同士の焼結(シンタリング)を妨げずに、導体層の電気抵抗を低減することができる。さらに、好ましくは高い機械的強度を実現することができる。
また、上記導体層を平滑性に優れかつ均質なものとする観点からは、平均粒子径が50μm以下(典型的には30μm以下、例えば20μm以下)であるとよい。
【0033】
好適な一態様では、導体層中の銅成分を構成する粒子の平均粒子径に比べて、導電性フィラー成分を構成する粒子の平均粒子径が大きい。例えば、銅成分を構成する粒子の平均粒子径に対して、導電性フィラー成分を構成する粒子の平均粒子径が1.2〜3倍程度大きいとよい。これにより、導体層の抵抗が一層低減され、更に高い導電性を実現することができる。
【0034】
導電性フィラー成分を構成する粒子の形状は、例えば、球状、楕円状、破砕状、繊維状等であり得る。より平滑性や均質性の高い導体層を実現する観点からは、例えば平均アスペクト比(長径/短径比)が凡そ1〜1.5(例えば1〜1.3)の球状、楕円状、もしくは破砕状の粒子が好ましい。
【0035】
ここに開示される技術において、導電性フィラー成分は、銅成分100質量部に対して、50質量部以上(典型的には55質量部以上、例えば75質量%以上、さらには100質量部以上)の割合で含ませる。これにより、導体層の熱膨張率を好適な範囲に(比較的小さく)調整することができ、絶縁基板との熱膨張率の整合をとることができる。その結果、界面剥離等の不具合を高度に防止することができ、耐ヒートサイクル性の高い導体層を実現することができる。
また、導電性フィラー成分の含有割合の上限は、銅成分100質量部に対して、200質量部以下(典型的には180質量部以下、例えば150質量%以下)である。これにより、銅めっき層との接合性に優れ、かつ電気伝導性や放熱性の高い導体層を実現することができる。
【0036】
導体層では、例えば、銅成分と導電性フィラー成分との合計体積を100体積%としたときに、銅成分の体積比率が、55体積%以上80体積%以下(例えば60体積%以上75体積%以下)であるとよい。換言すれば、導電性フィラー成分の体積比率が、20体積%以上45体積%以下(例えば25体積%以上40体積%以下)であるとよい。
なお、導体層中には、本発明の効果を著しく低減させない限りにおいて、銅成分と導電性フィラー成分以外の成分(例えばこの種の分野で一般に使用され得る各種添加剤)を含んでもよい。
【0037】
導体層のサイズや厚みは、例えば実装(接続)する半導体デバイスの寸法、高さ、間隔(配置)等を考慮して決定すればよく特に限定されないが、導電性や放熱性を確保する観点からは、できるだけ広い領域に、比較的厚めの導体層を形成することが好ましい。かかる理由から、導体層の厚みは100μm以上(典型的には120μm以上、例えば150μm以上)であるとよい。また、厚みの上限は、耐久性や作製容易性の観点から、例えば300μm以下(例えば250μm以下)であるとよい。
【0038】
<ニッケル−金めっき層>
ここに開示される回路基板の好適な一態様では、導体層の表面にニッケルめっき層および/または金めっき層を備える。これにより、高温環境下においても導体層が酸化されることを高度に防止することができる。したがって、耐ヒートサイクル性をより一層向上することができる。
【0039】
<実施形態>
以下、
図1を参照しつつ一実施形態に係る回路基板について説明する。なお、以下の図面において、同様の作用を奏する部材・部位には同じ符号を付して説明し、重複する説明は省略または簡略化することがある。図面に記載の実施形態は、本発明を明瞭に説明するために必要に応じて模式化されており、実際の回路基板の寸法関係(長さ、幅、厚さ等)を必ずしも正確に反映したものではない。
【0040】
図1に示す態様において、回路基板1は絶縁基板(セラミック基板)2の表面に導体パターン4,6を備えている。絶縁基板2の一方の表面には、予め定められた設計図に沿った導体パターン(配線回路)4が形成されている。この形態では、サイズ(長さ等)や厚みが異なり別個独立した複数(ここでは計7つ)の導体パターン4が絶縁基板2上に形成されている。各導体パターン4は、銅めっき層4aと導体層(配線層)4bから構成されている。また、絶縁基板2のもう一方の表面には、ほぼ全面にわたり1つの導体パターン(放熱層)6が形成されている。導体パターン6は、配線回路4と同様に、銅めっき層6aと導体層6bから構成されている。
なお、導体パターンは、
図1に示すように絶縁基板2の両面に備えられていてもよく、あるいは片方の表面のみに備えられていても良い。また、導体パターンは、
図1の放熱層6のように1つであってもよく、
図1の配線回路4のように複数であってもよい。また、導体パターンは、絶縁基板2の一部に備えられていてもよいし、絶縁基板2のほぼ全面にわたって備えられていてもよい。さらに、例えば耐ヒートサイクル性の向上や腐食の防止等を目的として、導体層4b,6bの表面にめっき層(例えばニッケルめっき層や金めっき層)を備えていてもよい。
【0041】
かかる回路基板は、電気伝導性や放熱性、機械的強度等の諸特性に優れ、かつ絶縁基板と導体パターンとが強固に一体化されたものであり得る。したがって、ここに開示される回路基板は、パワー半導体等のセラミック電子材料を構成する部材として好適に用いることができる。
【0042】
≪回路基板の製造方法≫
このような回路基板の製造方法は特に限定されないが、例えば以下の工程:
(1)セラミックスからなる絶縁基板の表面に銅めっき処理を施すこと;
(2)銅粉末と導電性フィラー粉末と熱可塑性樹脂と溶媒とを含む導体ペーストを調製すること;
(3)上記調製した導体ペーストを銅めっき処理済みの絶縁基板上に付与すること;および
(4)上記導体ペーストを付与した絶縁基板を、不活性雰囲気中において上記熱可塑性樹脂の燃え抜け温度以上で焼成し、導体パターンを形成すること;
を包含する方法によって製造することができる。以下、各工程を順に説明する。
【0043】
<1.銅めっき処理>
まず、絶縁基板の表面に銅めっき処理を施す。銅めっき処理は、例えば従来公知の一般的な無電解めっきの手法によって形成することができる。すなわち、まずパラジウム等の核形成成分によって核が形成されるように調整し、その上に無電解銅めっきを行うとよい。これにより、核形成成分が絶縁基板の表面に物理的に接合して、絶縁基板の表面に強固に固着された銅めっき層を形成することができる。なお、銅めっき処理の詳細な手順等については、後の実施例で述べる。
【0044】
<2.導体ペーストの調製>
次に、導体ペースト(銅ペースト)を調製する。導体ペーストは、典型的には、銅粉末と、導電性フィラー粉末と、熱可塑性樹脂と、溶媒と、を含んでいる。また、ガラス成分を含まない。そして、以下の条件:上記導電性フィラー粉末の含有割合が、上記銅成分100質量部に対して50質量部以上200質量部以下であること;上記導体ペーストを銅めっき層上に付与して上記導体層を形成し、導体パターンとしたときに、上記導体層の体積熱膨張率が13.5ppm/℃以下であり、電気抵抗率が20μΩ・cm未満であること;を具備することが好ましい。なお、その他の構成要素については特に限定されず、種々の用途に応じて任意に決定することができる。
【0045】
銅粉末は、導体パターンに電気伝導性や放熱性を付与するための成分である。
なお、本明細書において「銅粉末」とは、銅(Cu)を主体とする粒子の集合体をいい、典型的には銅単体から成る粒子の集合体であるが、例えば銅を主体とする合金や銅以外の不純物を微量含むものであっても、全体として銅を主体とする粒子の集合体であればここでいう「銅粉末」に包含され得る。
【0046】
銅粉末を構成する粒子としては、例えば低温(500℃以下)での焼結に適した大きさ(粒子径)のものを用いるとよい。具体的には、平均粒子径が10μm以下のものが好ましく、5μm以下(例えば4μm以下)のものがより好ましい。焼成時の温度を500℃以下と従来に比べて低めに設定できることで、焼成に起因する熱収縮(熱応力による歪み)を抑えることができる。そのため、基材(ここでは銅めっき層)との密着性に優れた導体パターンを実現することができる。また、緻密性の高い導体パターンを形成することができる効果もある。下限値は特に限定されないが、取扱性や作業性等を考慮して、0.1μm以上(典型的には0.5μm以上、好ましくは1μm以上、例えば2μm以上)のものを用いるとよい。また、銅粉末を構成する粒子の形状は、例えば、球状、鱗片状、円錐状、繊維状等であり得る。なかでも、充填性がよく緻密な導体パターンを形成しやすい等の理由から、球状もしくは鱗片状の粒子が好ましく用いられる。このような平均粒子径および/または粒子形状の銅粉末を用いた導体ペーストによれば、電気伝導性や放熱性に優れた導体パターンを形成することができる。
【0047】
導体ペースト中の銅粉末の含有割合は、導体ペースト全体の35質量%以上(例えば40質量%以上)であって、70質量%以下(例えば60質量%以下)であるとよい。これにより、導体パターンの緻密性を高めることができ、高い電気伝導性や放熱性を形成することができる。
【0048】
導電性フィラー粉末は、導体パターンの熱膨張率を調整するためのいわゆる熱膨張率調整材である。導電性フィラー粉末としては、導電性を有する無機物、例えば上述のようなクロム族金属を用いるとよい。また、導電性フィラー粉末を構成する粒子は、平均粒子径が0.5μm以上(典型的には1μm以上、好ましくは2μm以上、例えば4μm以上)であって、50μm以下(典型的には30μm以下、例えば20μm以下)であるとよい。このような導電性フィラー粉末を用いることで、低抵抗かつ熱膨張率が良く抑えられた(例えば導体層の熱膨張率が13.5ppm/℃以下の)導体パターンを安定的に形成することができる。また、作業時に引火等の問題が生じることを高度に防止することができる。
好適な一態様では、導電性フィラー粉末の平均粒子径が銅粉末の平均粒子径以上である。換言すれば、銅粉末の平均粒子径が導電性フィラー粉末の平均粒子径以下である。これによって、電気伝導性により優れた導体パターンを形成することができる。
【0049】
ここに開示される技術において、導電性フィラー粉末は、上記成分100質量部に対して、50質量部以上(典型的には55質量部以上、例えば75質量%以上、さらには100質量部以上)であって、200質量部以下(典型的には180質量部以下、例えば150質量%以下)の割合で含ませる。
導体ペースト中の導電性フィラー粉末の含有割合は、典型的には導体ペースト全体の25質量%以上(典型的には30質量%以上、例えば35質量%以上)であって、60質量%以下(典型的には55質量%以下、例えば50質量%以下)であるとよい。
かかる構成によると、絶縁基板との熱膨張率の整合を好適にとることができ、剥離等の不具合の発生を抑制することができる。また、導電性フィラー粉末の含有割合を必要最小限に抑えることで、電気伝導性や放熱性に一層優れた導体パターンを形成することができる。
【0050】
熱可塑性樹脂は、導体ペーストを乾燥させた後に、該導体ペースト中の固形分(銅粉末や導電性フィラー粉末)を仮固着させるための接合成分(有機バインダ成分)である。
熱可塑性樹脂としては、使用する溶媒(典型的には有機溶剤)に可溶であって、不活性ガス雰囲気中、500℃以下の低温焼成によって熱分解されて燃え抜けるものを好ましく用いることができる。好適例(およびその燃え抜け温度)としては、アクリル(250℃)、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリアクリル酸ブチル等のアクリル系樹脂(メタクリル樹脂を含む。);ポリアセタール樹脂(310℃);ポリビニルブチラ−ル(460℃)、ポリビニルアルコールとエチレンの共重合体等のポリビニルアセタール系樹脂;ポリスチレン(410℃)、アクリロニトリルとブタジエンとスチレン共重合体(ABS樹脂)等のポリスチレン系樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン(445℃)、環状オレフィン等のポリオレフィン樹脂;等が挙げられる。
【0051】
導体ペースト中の熱可塑性樹脂の含有割合は、例えば銅粉末や導電性フィラー粉末の粒子径によっても異なり得るため特に限定されないが、銅粉末および導電性フィラー粉末を仮固着するために必要な最小限の量まで低減することが好ましい。すなわち、導体ペースト中の熱可塑性樹脂の含有割合は、導体ペースト全体の0.05質量%以上(典型的には0.1質量%以上)であって、1質量%以下(典型的には0.5質量%以下、例えば0.3質量%以下)であるとよい。0.05質量%以上とすることで、安定的に導体パターンを形成することができる。また、1質量%以下とすることで、例えば厚みが100μm以上の導体パターンを形成した際にも、500℃以下の低温焼成によって好適に樹脂成分を燃え抜けさせることができる。その結果、導体パターン中に樹脂が残存し難くなり、接合性を確保しつつも、放熱性や電気伝導性に優れた導体パターンを形成することができる。
【0052】
溶媒は、ここに開示される導体ペーストの構成成分(すなわち、固形分としての銅粉末と導電性フィラー粉末と熱可塑性樹脂)を溶解または分散させるものであると同時に、溶媒の粘度を向上させて塗工時のダレや滲み等を防止する役割をも併せ持つ。導体ペーストは、回路基板の導体パターンを形成するために用いられるため、ペースト状(インク状、スラリー状を包含する。)に調製することで、作業性や成形性を向上させることができ、均質な導体パターンを安定的に形成することが可能となる。
【0053】
溶媒としては、20℃における粘度が200〜2000mPa・s(例えば250〜1700mPa・s)の高粘性有機溶媒を好ましく用いることができる。これにより、上記熱可塑性樹脂の低減に伴う導体ペーストの粘性の低下を補うことができ、塗工不良や接合不良等の不具合を好適に防止することができる。高粘性有機溶媒としては、少なくとも1種のポリオール類(例えばジオール類やトリオール類)を含む有機溶媒を好ましく用いることができる。具体例(およびその粘度)として、オクタンジオール(271mPa・s)や日香MARS(1650mPa・s)が挙げられる。日香MARSは、日本香料薬品株式会社製の溶剤であり、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール等の異性体の混合物である。
なお、本明細書において「粘度」とは、液温が20℃の状態において一般的な粘度計を用いて測定した値をいう。例えば、平行円板型回転粘度計(B型粘度計)を用いて、ローターの回転速度20rpmで測定した値をいう。
【0054】
使用する溶媒の量は、上記構成成分を均質に溶解または分散させ得る量であって、例えば形成する導体パターンの厚み等を考慮して塗工に適した粘度となるよう調整すればよい。導体ペースト中の溶媒の含有割合は特に限定されないが、典型的には導体ペースト全体の1質量%以上(典型的には2質量%以上、例えば3質量%以上)であって、10質量%以下(典型的には9質量%以下、例えば8質量%以下)であるとよい。
さらに、導体ペースト中に上記熱可塑性樹脂と溶媒の総和が占める割合を、凡そ10質量%以下(典型的には、1〜10質量%、例えば3〜10質量%)とすることが好ましい。このように銅粉末と導電性フィラー粉末の占める割合を高めることで、例えば厚みが100μm以上の導体パターンでも、緻密にかつ安定的に形成することができる。
【0055】
なお、導体ペーストには、該導体ペーストを適した性状(例えば粘性やpH、接合強度等)に調整すること等を目的として、上記主要構成成分に加えて各種の添加剤を添加しても良い。かかる添加剤の一例を挙げると、界面活性剤、消泡剤、可塑剤、増粘剤、酸化防止剤、分散剤、pH調整剤、防腐剤、着色剤等がある。
【0056】
上記構成成分(例えば銅粉末と導電性フィラー粉末と熱可塑性樹脂と溶媒)を所定の割合で調合し、従来公知の分散・混練手法(例えば、ロールミル、ミキサー等)で混練することにより、導体ペースト(銅ペースト)を調製することができる。このように調製された導体ペーストは、従来に比べ低い温度(典型的には500℃以下、例えば400〜500℃)で焼結可能であり、電気伝導性や放熱性、さらに耐ヒートサイクル性に優れる導体パターンを実現可能なことを特徴とする。したがって、セラミックスからなる絶縁基板上に配線回路や放熱層を形成する用途で好ましく用いることができる。
【0057】
<3.導体ペーストの付与>
次に、銅めっき処理済みの絶縁基板の表面に、上記導体ペーストを付与する。導体ペーストの付与(典型的には塗工)には、従来公知の手法(例えば、スクリーン印刷法、メタルマスク印刷法、グラビア印刷法、ドクターブレード法、ディスペンサー塗布法、ディップ塗布法、インクジェット法等)を用いることができる。なかでも、印刷法を好ましく採用することができる。印刷法を用いることで、例えば複雑な形状の(例えば厚みやサイズの異なる)配線パターンに対応した塗工を、簡便かつ精度良く行うことができる。
【0058】
<4.焼成>
次に、典型的には、上記付与した導体ペーストを適当な温度(典型的には30〜150℃、例えば80〜120℃)で予備乾燥させる。
その後、導体ペースト中の銅が十分に焼結され得る温度で所定時間、焼成を行う。焼成温度は、使用する熱可塑性樹脂が燃え抜ける温度より高く設定する。好適には、比較的低温、例えば、熱可塑性樹脂の燃え抜け温度以上であって500℃以下(典型的には350〜500℃、例えば400〜500℃)に設定する。これにより、焼成時の熱収縮(熱応力による歪み)を最小限に抑えることができる。また、焼成時間は、通常凡そ0.1〜5時間程度(典型的には0.5〜3時間)とするとよい。また、焼成時の雰囲気は、銅の酸化を防止する観点から、不活性ガス雰囲気とすることが好ましい。ここで不活性ガス雰囲気とは、酸素および炭化水素ガスを実質的に含まない雰囲気として規定できる。典型的な雰囲気ガスとして、窒素ガス、アルゴンやヘリウム等の希ガスが挙げられる。
これにより、導体ペースト中の熱可塑性樹脂と溶媒は、焼成によってほぼ完全に燃え抜ける。同時に、銅成分が焼結して、銅めっき層の表面に導体層が強固に固着される。なお、上記焼成温度の範囲では、導電性フィラー成分には組成や性状の変化(例えば軟化等)は生じないため、導体ペーストに含有される材料の状態と同等の性状を保っている。
【0059】
次に、典型的には、焼成後の基板にエッチング処理を施す。エッチング処理は、従来公知の一般的な手法によって行うことができる。すなわち、導体ペーストが付与・焼成されなかった部分(導体パターンの非形成部)に付着している銅めっき(詳細には銅めっき中のパラジウム成分)を除去する。これにより、例えば導体層の表面に他のめっき処理を施す場合にも、導体パターンの非形成部にめっき層が成長することを防止し得、耐電圧の低下を防ぐことができる。
さらに、耐ヒートサイクル性の向上や腐食の防止等を目的として、導体層の表面に再度めっき処理(例えばニッケル−金めっき処理)を施すこともできる。
【0060】
このような方法により、セラミックスからなる絶縁基板の表面に、銅めっき層と、実質的に銅成分と導電性フィラー成分からなる導体層とが、この順に形成されてなる回路基板を好適に製造することができる。
かかる導体層の体積熱膨張率は、13.5ppm/℃以下(例えば13.5〜11.5ppm/℃)であり得る。また、銅めっき層と導体層とからなる導体パターンの電気抵抗率は、20μΩ・cm未満(好ましくは15μΩ・cm以下、より好ましくは10μΩ・cm以下)であり得る。
【0061】
なお、ここに示した製造方法では、導体ペーストを調製し、該導体ペーストを銅めっき層の表面に付与することで導体層を形成しているが、かかる態様には限定されない。例えば、費用や製造安定性を勘案して、無電解銅めっきのパターン上に電解複合めっき(銅めっき中に導電性フィラーが分散された状態を作るめっき方法)を施すことによって導体層を形成することもできる。特に比較的厚めの導体層を形成する場合には、めっき速度が求められるため、作業効率の観点からいって無電解銅めっきより電解めっきのほうが有利である。
【0062】
以下、本発明に関する実施例を説明するが、本発明を以下の実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0063】
ここでは、絶縁基板上に導体パターンを形成し、基板と導体パターンとの接合性、ピットの発生の有無、および、導体パターンの電気的特性について評価した。
具体的には、まず、市販の窒化ケイ素基板(三菱マテリアル製)に無電解銅めっき処理を施した。無電解銅めっきの条件を、表1に示す。これにより、窒化ケイ素基板の表面全体に平均厚さ1.5μmの銅めっき層を形成した。
【0065】
次に、表2に示す銅粉末と無機フィラー粉末(F1〜F6)と熱可塑性樹脂と溶媒とを準備した。これらの材料を、表4,5に示す割合でそれぞれ混合して導体ペースト(S1〜S24)を調製した。
【0067】
次に、上記調製した導体ペースト(S1〜S24)を、上記銅めっき層付きの窒化ケイ素基板の表面に、ドクターブレード法によって孔版印刷した。印刷パターンは、30mm×30mmの方形で、印刷厚み(メタルマスク穴)を0.18mmとした。
【0068】
次に、上記導体ペースト付きの窒化ケイ素基板をホットプレート上で加熱乾燥(120℃、3時間)した後、窒素ガス雰囲気中、500℃で1時間焼成した。これにより、上記銅めっき層の表面に、凡そ100〜150μmの導体パターン(銅めっき層+導体層)を形成した。
そして、銅を溶解するエッチング液で短時間処理することにより、窒化ケイ素基板上の(導体パターン非形成部分の)無電解銅めっきを除去した。エッチングの条件を、表3に示す。
【0070】
ここではさらに耐ヒートサイクル性を持たせるために、導体層をニッケルめっきと金めっきで被覆した。これにより、窒化ケイ素基板の表面に、銅めっき層と導体層とニッケル−金めっきとをこの順で備えた回路基板(例1〜例24)を作製した。
表4,5には、導体層中の銅成分100質量部に対する無機フィラー成分の含有割合(質量部)を示している。
【0071】
[体積平均熱膨張率の測定]
導体ペースト(S1〜S24)を用いて、別途、熱膨張率測定用の試料を作製した。具体的には、当該導体ペーストを所定形状(例えば円板状)にプレス成形し、120℃で乾燥した後、窒素ガス雰囲気中にて500℃で1時間焼成した。これにより、測定用試料を作製した。この試料を示差膨張方式の熱機械分析(TMA)に配置して、室温〜300℃の温度範囲で体積膨張率を測定し、その平均値を求めた。
【0072】
[ピットの発生状況]
上記得られた回路基板(例1〜例24)の任意の表面を走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)で観察して、ピットの発生状況を確認した。結果を表4,5の「ピット」の欄に示す。なお、表4,5において「○」は、ピットが確認されなかったことを、「×」はピットが確認された(ニッケル−金めっきの表面に欠陥があった)ことを、表している。
【0073】
[電気的特性]
上記得られた回路基板(例1〜例24)の導体パターンについて、株式会社三菱化学アナリテック製の抵抗率計(型式:ロレスタGP MCP−T610)を用いて4端子4探針法で電気抵抗率を測定した。結果を表4,5の「電気抵抗率」の欄に示す。
【0074】
[接合性]
上記回路基板(例1〜例24)について、−40〜250℃の間でヒートサイクルを200回繰り返した後、接合性を評価した。具体的には、外観上から(目視で)歪みや割れ等の不具合がないかを確認した後、ピンセットで基板から導体パターンを剥がせるか否かを確認し、基板と導体パターンとの機械的な接合性を評価した。
結果を表4,5の「接合性」の欄に示す。なお、表4,5において「○」は、ヒートサイクル後も導体パターンに歪みや割れ等の外観上の不具合が確認されず、かつ両者が良好に接合されていたことを、「×」はヒートサイクル後に外観上の不具合が確認された、および/または両者が剥離していたこと、を表している。
【0077】
表4,5に示すように、無機フィラーとして、導電性の低いシリカやリン酸タングステン酸ジルコニウムを用いた例17〜例24では、ピットの発生が認められた。これに対して、導電性に優れる金属材料(タングステンやモリブデン)をフィラー(導電性フィラー)として用いた例1〜例16では、ピットの発生がなかった。
また、導電性フィラー成分の含有割合を銅成分100質量部に対して50質量部未満とした例1,例5,例9,例13,例14では、導体パターンの電気抵抗率は低かったが、熱膨張率が13.5ppm/℃を超えていた。その結果、導体パターンの窒化ケイ素基板との熱膨張の整合性がとれなくなり、多くの例でヒートサイクル後に導体パターンの剥離が認められた。一方で、導電性フィラー成分の含有割合を高めるにつれ、導体パターンの電気抵抗率は増大する傾向にあった。これは、銅成分に対して導電性フィラー成分の導電率が低いことが原因と考えられる。
これらの比較例に対して、例2〜例4,例6,例7,例10,例11,例15,例16では、電気抵抗率が20μΩ・cmを下回り、かつ耐ヒートサイクル性(基板と導体パターンとの接合性)も良好であった。
かかる結果は、ここに開示される発明の技術的意義を裏付けるものである。
【0078】
また、導電性フィラーとして平均粒子径の異なるタングステンを用いた場合(例1〜例4と例5〜例8と例9〜例12)を比較すると、平均粒子径の大きいタングステンを用いた場合に電気抵抗率が最も低かった。これは、導体層中の該粒子同士の接触の数が減ったためと考えられる。
【0079】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。