(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
負の一軸光学異方性又は負の二軸光学異方性を有しており、前記第1基板と前記第1偏光板との間及び/又は前記第2基板と前記第2偏光板との間に配置された視角補償板を更に含む、
請求項1に記載の液晶表示装置。
【背景技術】
【0002】
垂直配向型の液晶表示装置は、基本的構成として、対向配置される2つの基板と、それら基板間に設けられる垂直配向の液晶層と、基板外側にそれぞれ配置される2つの偏光板を備えている。この垂直配向型の液晶表示装置において、2つの偏光板の吸収軸を互いに直交した配置(クロスニコル配置)とし、かつ基板と偏光板の間に視角補償板を配置することにより、正面観察時および斜め方向からの観察時において非常に良好な暗表示が得られるようになり、優れたノーマリーブラック表示を実現することができる。
【0003】
このような垂直配向型の液晶表示装置において、さらに一方基板の裏面側の偏光板よりも外側に反射板を設けることでバックライト不要の反射型の液晶表示装置を得ることができる。また、さらに一方基板の裏面側の偏光板よりも外側に半透過板を設け、かつバックライトを設けることで半透過型の液晶表示装置を得ることができる。しかし、ノーマリーブラック表示の液晶表示装置では背景表示部(非表示部)が暗表示となるため、反射による表示を観察すると観察者には非常に暗く感じる。特に、表示部において文字や図柄を用いるセグメント表示型の液晶表示装置においてはその傾向が強い。このため、反射型や半透過型の液晶表示装置においては、ノーマリーホワイト表示が広く用いられる。上記のような垂直配向型の液晶表示装置に関する従来技術は、例えば特開2002−40428号公報(特許文献1)や特開2013−238784号公報(特許文献2)に開示されている。
【0004】
特許文献1に開示される液晶表示装置は、ランダムまたは面内で連続的な配向変化をする液晶層を有している場合に、上基板と下基板のそれぞれの外側に円偏光板を配置することにより、液晶層の配向不均一を不可視化して透過率を上昇させている。この液晶表示装置の原理については、上記した2つの円偏光板の円偏光回転方向が同じである場合に、液晶層のリタデーションをΔとすると、出力光強度Ioutがcos
2(Δ/2)に相関することが示されている。すなわち、液晶層の基板面内での配向方向は出力光強度に対して無関係であることが示されている。
【0005】
ここで、垂直配向した液晶層の電圧無印加時におけるリタデーションはほぼゼロとなるため出力光強度Ioutは最大になり、液晶層に閾値電圧以上の電圧が印加されると配向変化によってリタデーションが増加することから出力光強度Ioutは最小へ向かって変化する。すなわち、ノーマリーホワイト表示を実現することができる。この文献において、円偏光板は直線偏光板と1/4波長板を組み合わせて構成されており、直線偏光板の配置については任意でよいことが示されている。また、この文献では、基板面内の一方向に配向処理が施された液晶層を有するモノドメイン垂直配向型の液晶表示装置に関する実施例も示されている。この実施例ではノーマリーブラック表示とした場合が示されているが、2つの円偏光板の組み合わせを変更すればノーマリーホワイト表示とすることもできる。さらにこの文献では、上下各基板と各円偏光板の間に負の一軸光学異方性を有する位相差板を配置することによって視角特性が改善されることも示されている。
【0006】
特許文献2に開示される液晶表示装置は、2つの基板と、それら基板間に設けられる垂直配向の液晶層と、基板外側にそれぞれ配置される2つの偏光板(直線偏光板)を備え、さらに、各基板と各偏光板の間の少なくとも一方に位相差板を配置したことを特徴としている。この液晶表示装置における位相差板は、面内遅相軸が各偏光板の吸収軸に対して45°の角度をなして配置され、かつこの面内遅相軸が液晶層の電圧印加時における液晶層の層厚方向の中央における配向方向に対して直交するように配置されている。また、位相差板については、その面内位相差値の合計が200〜320nmであることが好ましく、正の一軸光学異方性または負の二軸光学異方性を示す光学特性を有することが好ましい、とされている。
【0007】
ところで、上記した特許文献1に開示される公知技術に基づいて透過型かつノーマリーホワイト表示のモノドメイン垂直配向型の液晶表示装置を作製し、電圧無印加時における背景視角特性を観察したところ、視認方位を液晶表示装置の左右方位(3時方位、9時方位)へ変化させて深い極角角度から外観観察すると背景の色が黄色から茶色に変化する現象(カラーシフト)が生じて表示品位が低下することが分かった。これについては、特許文献1に開示があるように、上下各基板と各円偏光板の間に負の一軸光学異方性を有する位相差板を配置することによってカラーシフトが抑制される。
【0008】
他方、上記した特許文献2に開示される公知技術に基づいて、上下基板のうち一方の基板と偏光板との間に面内位相差が略1/2波長である位相差板を配置し、他方の基板と偏光板との間には位相差板を設けない構成としてノーマリーホワイト表示のモノドメイン垂直配向型の液晶表示装置を作製して外観を観察したところ、上記した特許文献1に基づいて作製した液晶表示装置の場合と同様のカラーシフトが観察された。これについては、位相差板として適切なパラメータを有する負の二軸光学異方性を有する位相差板を用いることでカラーシフトが抑制される。
【0009】
しかしながら、負の一軸光学異方性を有する位相差板や負の二軸光学異方性を有する位相差板はいずれも環状オレフィンポリマー等の高価な材料を用いた位相差板を用いることから、これらを用いることでカラーシフトを抑制できたとしても、従来のTN配向等を用いたノーマリーホワイト表示の液晶表示装置に比べてコストが著しく上昇してしまい、費用対効果が低いという点で改良の余地がある。
【0010】
なお本出願において、位相差板の面内屈折率をnx、ny、厚さ方向屈折率をnzとし、nx方向を面内遅相軸と定義するとき、正の一軸光学異方性はnx>ny=nz、正の二軸光学異方性はnx>ny<nz、負の一軸光学異方性はnx=ny>nz、負の二軸光学異方性はnx>ny>nzで定義される。なお、nx>ny=nzを有する光学フィルムは正のAプレートと呼ぶ。nx=nz>nyを有する光学フィルムは負のAプレートと呼ぶ。nx=ny<nzを有する光学フィルムは負のCプレートと呼ぶ。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、一実施形態の液晶表示装置の基本構造を示す断面図である。
【
図2】
図2は、液晶層の電界印加時の配向方向と各偏光板、1/2波長板、1波長板の光学軸の配置関係を示す図である。
【
図3】
図3は、他の実施形態の液晶表示装置の基本構造を示す断面図である。
【
図4】
図4は、この実施形態における液晶層の電界印加時の配向方向と各偏光板、1/2波長板、1波長板の光学軸の配置関係を示す図である。
【
図5】
図5(A)は、実施例1の分光スペクトル計算結果を示す図であり、
図5(B)は、実施例2の分光スペクトル計算結果を示す図である。
【
図6】
図6(A)は、比較例1の分光スペクトル計算結果を示す図であり、
図6(B)は、比較例2の分光スペクトル計算結果を示す図である。
図6(C)は、比較例3の分光スペクトル計算結果を示す図である。
【
図7】
図7(A)は第1光学板の面内位相差を25nmに設定した場合の分光スペクトルを示した図、
図7(B)は第1光学板の面内位相差を145nmに設定した場合の分光スペクトルを示した図、
図7(C)は第1光学板の面内位相差を265nmに設定した場合の分光スペクトルを示した図、
図7(D)は第1光学板の面内位相差を385nmに設定した場合の分光スペクトルを示した図である。
【
図8】
図8(A)は第1光学板の面内位相差を340nmに設定した場合の分光スペクトルを示した図、
図8(B)は第1光学板の面内位相差を305nmに設定した場合の分光スペクトルを示した図、
図8(C)は第1光学板の面内位相差を265nmに設定した場合の分光スペクトルを示した図、
図8(D)は第1光学板の面内位相差を240nmに設定した場合の分光スペクトルを示した図である。
【
図9】
図9は、比較例2の液晶表示装置の分光スペクトルを示した図である。
【
図10】
図10は、他の実施形態の液晶表示装置の構造を示す断面図である。
【
図11】
図11は、他の実施形態の液晶表示装置の構造を示す断面図である。
【
図12】
図12は、他の実施形態の液晶表示装置の構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0021】
図1は、一実施形態の液晶表示装置の基本構造を示す断面図である。この液晶表示装置は、対向配置された第1基板1および第2基板2と、第1基板1に設けられた第1電極11と、第2基板2に設けられた第2電極12と、第1基板1と第2基板2の間に配置された液晶層7を基本構成として備える。
【0022】
本実施形態の液晶表示装置は、例えば、電極同士の重なり合う領域が表示したい文字や図案を形作るように構成され、基本的に予め定めた文字等のみを表示可能であり、概ね、有効表示領域内における面積比で50%以下程度の領域が文字等の表示に寄与するものであるセグメント表示型の液晶表示装置である。なお、液晶表示装置は、複数の画素がマトリクス状に配列されたドットマトリクス表示型であってもよいし、セグメント表示型とドットマトリクス型が混合したものであってもよい。
【0023】
第1基板1および第2基板2は、それぞれ例えばガラス基板、プラスチック基板等の透明基板である。図示のように、第1基板1と第2基板2は、所定の間隙(例えば4μm程度)を設けて貼り合わされている。
【0024】
第1電極11は、第1基板1の一面側に設けられている。同様に、第2電極12は、第2基板2の一面側に設けられている。第1電極11および第2電極12は、それぞれ例えばインジウム錫酸化物(ITO)などの透明導電膜を適宜パターニングすることによって構成されている。
【0025】
第1配向膜3は、第1基板1の一面側に第1電極11を覆うようにして設けられている。第2配向膜4は、第2基板2の一面側に第2電極12を覆うようにして設けられている。これらの第1配向膜3、第2配向膜4としては、液晶層7の配向状態を略垂直配向に規制する垂直配向膜が用いられている。本実施形態では、各配向膜3、4にはラビング処理等の一軸配向処理が施されている。これにより、液晶層7には、88.5°〜89.9°程度の高いプレティルト角が与えられる。
【0026】
液晶層7は、第1基板1と第2基板2の間に設けられている。本実施形態においては、誘電率異方性Δεが負の液晶材料を用いて液晶層7が構成される。液晶層7に図示された太線は、液晶層7における液晶分子の配向方向を模式的に示したものである。ここで、液晶層7の層厚方向の略中央における液晶分子の電圧印加時の配向方向13は、第1基板1の側から見た平面視における液晶分子の倒れる方向として規定される。この配向方向13は、各配向膜3、4への一軸配向処理によって定まるものであり、本実施形態においては、配向方向13と一軸配向処理の方向とが略平行である。
【0027】
第1偏光板5は、第1基板1の外側に配置されている。同様に、第2偏光板6は、第2基板2の外側に配置されている。第1偏光板5と第2偏光板6は、各々の吸収軸が互いに略直交するように配置されている。
【0028】
第1光学板である1/2波長板8は、第1偏光板5と第1基板1の間であって、1波長板9よりも第1偏光板5に近い側に配置されている。第2光学板である1波長板9は、第1偏光板5と第1基板1の間であって、1/2波長板8よりも第1基板1に近い側に配置されている。なお、1/2波長板8と1波長板9の配置は逆であってもよい。すなわち、1/2波長板8が第1基板1に近い側に配置され、1波長板9が第1偏光板5に近い側に配置されてもよい。
【0029】
図2は、液晶層の電界印加時の配向方向と各偏光板、第1光学板である1/2波長板、第2光学板である1波長板の光学軸の配置関係を示す図である。いずれも、第1基板1の側から平面視した場合の光学軸が示されている。図示のように、電界印加時の液晶層の配向方向13が6時方位(270°方向)であるとすると、1/2波長板8の面内遅相軸は当該配向方向13と略平行な方向に配置され、1波長板9の面内遅相軸は当該配向方向と略直交する方向に配置される。
【0030】
また、第1偏光板5の吸収軸は電界印加時の液晶層の配向方向13に対して45°の角度をなす方向に配置され、かつ近接する1/2波長板8の面内遅相軸に対して45°の角度をなす方向に配置される。同様に、第2偏光板6の吸収軸は電界印加時の液晶層の配向方向13に対して45°の角度をなす方向に配置され、かつ近接する1/2波長板8の面内遅相軸に対して45°の角度をなす方向に配置される。また、上記のように第1偏光板5と第2偏光板6の吸収軸同士は略直交する方向に配置される。
【0031】
ここで、第1光学板である1/2波長板8については、面内位相差が例えば200nm〜400nm程度であって、正の一軸光学異方性を有するいわゆる正のAプレートの光学フィルムが用いられる。また、第2光学板である1波長板9については、面内位相差が例えば400nm〜600nm程度であって、正のAプレートの光学フィルムが用いられる。1/2波長板8と1波長板9のいずれについても、その材質は、例えばポリカーボネート、または環状オレフィンポリマーであることが好ましい。
【0032】
図3は、他の実施形態の液晶表示装置の基本構造を示す断面図である。また、
図4は、この実施形態における液晶層の電界印加時の配向方向と各偏光板、第1光学板である1/2波長板、第2光学板である1波長板の光学軸の配置関係を示す図である。上記した
図1、
図2に示した実施形態との違いは、1波長板9が第2基板2と第2偏光板6の間に配置されている点であり、それ以外は上記実施形態と同様である。なお、1/2波長板8と1波長板9の配置を入れ替えてもよい。すなわち、1/2波長板9が第2基板2と第2偏光板6の間に配置され、1波長板9が第1基板1と第2偏光板6の間に配置されてもよい。
【0033】
次に、上記した実施形態の液晶表示装置における電圧無印加時の背景表示部(非表示部)の色調をシミュレーション解析によって評価した結果について、比較例と合わせて説明する。シミュレーション解析の条件は以下の通りである。これらの条件とした液晶表示装置における、3時方位、9時方位(0°方向、180°方向)における法線から50°傾けた(極角50°)ときの電圧無印加時の分光スペクトルを計算した。
【0034】
<実施例1>
・上記
図1、2において示した構造
・液晶層厚:4μm
・液晶材料:Δn=0.0914、Δε=−5.1、カイラル材の添加なし
・プレティルト角:89.5度(第1基板、第2基板ともに)
・電圧印加時の液晶層の層厚方向の中央における配向方向:6時方位(270°方向)
・1/2波長板:面内位相差265nmの正のAプレート
・1波長板:面内位相差540nmの正のAプレート
・各波長板の材質:ポリカーボネート
・光源:標準光源D65
・シミュレータ:シンテック製液晶表示器シミュレータLCDMASTER
【0035】
<実施例2>
・上記
図3、4において示した構造
・その他は実施例1と同条件
【0036】
<比較例1>
・実施例1と同条件の液晶層、偏光板を備え、かつ第1基板と第1偏光板の間、第2基板と第2偏光板の間にそれぞれ1/4波長板を配置した構造であり、各1/4波長板は互いに遅相軸が平行、かつ当該遅相軸が電圧印加時の液晶層の層厚方向の中央における配向方向に対して略直交して配置
・各1/4波長板:面内位相差140nmの正のAプレート
・その他は実施例1と同条件
【0037】
<比較例2>
・実施例1と同条件の液晶層、偏光板を備え、かつ第1基板と第1偏光板の間に1/2波長板を配置した構造であり、1/2波長板は遅相軸が電圧印加時の液晶層の層厚方向の中央における配向方向に対して略直交して配置
・1/2波長板:面内位相差280nmの正のAプレート
・その他は実施例1と同条件
【0038】
図5(A)は、実施例1の分光スペクトル計算結果を示す図であり、
図5(B)は、実施例2の分光スペクトル計算結果を示す図である。
図6(A)は、比較例1の分光スペクトル計算結果を示す図であり、
図6(B)は、比較例2の分光スペクトル計算結果を示す図である。なお、各図においてAzimは0が3時方位、180が9時方位を示している。
【0039】
図5(A)に示すように、実施例1の液晶表示装置では左右方位ともに各比較例に比べて短波長側の透過率低下が抑制されており、ニュートラルな色調が得られている。これは正面観察時の分光スペクトルとほぼ一致しており、左右方位に対して観察角度を変化させてもカラーシフトが抑制されることを示している。この実施例1の条件で実際に液晶表示装置を作製し外観観察したところ、シミュレーション解析結果が示す通り、カラーシフトがほぼ生じないことが確認された。また、実施例1において1/2波長板と1波長板の積層順を逆にした場合についてもシミュレーション解析を行ったがその結果は
図5(A)と同様であり、この場合においてもカラーシフトを抑制できることが示された。
【0040】
図5(B)に示すように、実施例2の液晶表示装置においても左右方位ともに各比較例に比べて短波長側の透過率低下が抑制されており、ニュートラルな色調が得られている。これは正面観察時の分光スペクトルとほぼ一致しており、左右方位に対して観察角度を変化させてもカラーシフトが抑制されることを示している。また、実施例2において1/2波長板と1波長板の配置を入れ替えた場合についてもシミュレーション解析を行ったがその結果は
図5(B)と同様であり、この場合においてもカラーシフトを抑制できることが示された。
【0041】
図6(A)に示すように、比較例1の液晶表示装置では短波長側の透過率が低下しており、外観上、表示色が黄色または茶色になると考えられる。なお、正面観察時にはニュートラルな色調が得られる。3時方位、9時方位の分光スペクトルの相違(依存性)は観察されず、同等であった。この比較例1の条件で実際に液晶表示装置を作製し外観観察したところ、シミュレーション解析結果が示す通り、左右方位(3時方位、9時方位)における表示色の黄ばみ、すなわちカラーシフトが顕著に観察され、表示品位が低いことが確認された。
【0042】
図6(B)に示すように、比較例2の液晶表示装置においても短波長側の透過率が低下しており、外観上、表示色が黄色または茶色になると考えられる。なお、正面観察時にはニュートラルな色調が得られる。3時方位、9時方位の分光スペクトルの相違(依存性)は観察されず、同等であった。この比較例2の条件で実際に液晶表示装置を作製し外観観察したところ、シミュレーション解析結果が示す通り、左右方位(3時方位、9時方位)における表示色の黄ばみ、すなわちカラーシフトが顕著に観察され、表示品位が低いことが確認された。
【0043】
なお、比較例3として、比較例2の液晶表示装置に対してさらに第2基板(裏側基板)と第2偏光板との間に厚さ方向位相差が220nmである負の一軸光学異方性を有する視角補償板、いわゆる負のCプレートを配置した場合についても上記と同様にシミュレーション解析を行った。
図6(C)は、比較例3の分光スペクトル計算結果を示す図である。この比較例3では、上記した実施例1、2の場合と同様に短波長側の透過率低下が抑制されており、カラーシフトが抑制されることが分かった。この構造の液晶表示装置を実際に作製して観察したところ、シミュレーション解析結果が示す通りの結果が確認された。
【0044】
このことから、各実施例では2つの正のAプレートを用いているがその厚さ方向の位相差を用いることで、負のCプレートと同等な視角補償が実現できていることが示される。ただし、負のCプレートは、例えば環状オレフィンポリマーを2軸方位に同じ延伸倍率で延伸加工する高度な技術を要するために材料を含め高コストである。それに対して、各実施例では、ポリカーボネート製の正のAプレートを用いることで低コスト化が図られるという優位性がある。
【0045】
次に、第1光学板である1/2波長板の適切な数値範囲を探索するために、実施例1の液晶表示装置において2つの波長板の面内位相差を変化させたときの分光スペクトルをシミュレーション解析した。計算条件は実施例1の場合と同様である。
【0046】
図7(A)は第1光学板の面内位相差を25nmに設定した場合の分光スペクトルを示した図、
図7(B)は第1光学板の面内位相差を145nmに設定した場合の分光スペクトルを示した図、
図7(C)は第1光学板の面内位相差を265nmに設定した場合の分光スペクトルを示した図、
図7(D)は第1光学板の面内位相差を385nmに設定した場合の分光スペクトルを示した図である。いずれにおいても、第1光学板と第2光学板である1波長板との面内位相差の差分が275nmで一定となるように1波長板の面内位相差も調整した。
【0047】
図7(A)の分光スペクトルにおいては、短波長側の透過率が大きく低下している。すなわち、この条件の液晶表示装置は、比較例の場合と同様に、外観上黄ばんだ色調に観察される。
図7(B)の分光スペクトルにおいては、短波長側の透過率は低いが
図7(A)の場合や比較例の場合と比較すれば短波長側の透過率が上昇しており、左右方位に対するカラーシフトが抑制されていることが分かる。
【0048】
図7(C)の分光スペクトルにおいては、短波長側の透過率はさらに上昇しており、正面観察時の分光スペクトルと同等な色調が得られている。すなわち、左右方位に対するカラーシフトが抑制されていることが分かる。
図7(D)の分光スペクトルにおいては、短波長側の透過率はさらに若干上昇し、かつ長波長側の透過率が若干低下しており、わずかに青い色調となることが分かる。この場合でも、
図7(A)の場合や比較例の場合よりは左右方位に対するカラーシフトが抑制されており、外観上はほとんど問題とならないレベルであった。なお、分光スペクトルについては代表的な4つを示したがこれら以外にもシミュレーション解析を行っており、その結果を総合すると、第1光学板である1/2波長板の面内位相差は、145nm以上385nm以下の数値範囲とすることが好ましいことが分かった。
【0049】
次に、1/2波長板と1波長板との面内位相差の差分として適切な数値範囲を探索するために、実施例1の液晶表示装置において2つの波長板の面内位相差を変化させたときの正面観察時の分光スペクトルと右方位の極角50°観察時の分光スペクトルをシミュレーション解析した。計算条件は実施例1の場合と同様である。また、比較対象として、上記した比較例2の液晶表示装置についても同様に分光スペクトルをシミュレーション解析した。
【0050】
図8(A)は第1光学板である1/2波長板の面内位相差を340nmに設定した場合の分光スペクトルを示した図、
図8(B)は第1光学板の面内位相差を305nmに設定した場合の分光スペクトルを示した図、
図8(C)は第1光学板の面内位相差を265nmに設定した場合の分光スペクトルを示した図、
図8(D)は第1光学板の面内位相差を240nmに設定した場合の分光スペクトルを示した図である。いずれにおいても、第2光学板である1波長板の面内位相差は540nmで一定とした。したがって、第2光学板と第1光学板の面内位相差の差分はそれぞれ200nm、235nm、275nm、300nmである。また、
図9は、比較例2の液晶表示装置の分光スペクトルを示した図である。
【0051】
図8(A)〜
図8(D)に示すように、いずれの条件においても正面観察時と50°極角観察時との分光スペクトルの差は小さく、
図9に示した比較例2の分光スペクトルに比べて、観察角度の変化に対するカラーシフトは大幅に抑制されることが示されている。分光スペクトルについては代表的な4つを示したがこれら以外にもシミュレーション解析を行っており、その結果を総合すると、1/2波長板の面内位相差をRe1、1波長板の面内位相差をRe2としたときに、両者の差分(Re2−Re1)については、200nm≦Re2−Re1≦300nmの数値範囲とすることが好ましいことが分かった。
【0052】
ところで、上記した実施例では液晶層厚を4μmとしていたが、液晶表示装置をマルチプレックス駆動によって動作させる場合を考えると、表示容量、すなわちデューティ数が増大した場合の電気光学特性の急峻性を良好にするためには、液晶層のリタデーションΔndをより大きくすることが有効である。しかし、この場合には液晶層の視角補償が不十分になり、上記した左右方位における背景表示部のカラーシフトが生じ得る。このような場合には、上記した
図1、
図3に示した構造の液晶表示装置に対して、さらに負のCプレートや負の二軸光学異方性を有する視角補償板を併用することで上記のカラーシフトを抑制可能である。
【0053】
図10は、他の実施形態の液晶表示装置の構造を示す断面図である。上記した
図1に示した実施形態との違いは、第2基板2と第2偏光板6の間に負の二軸光学異方性を有する視角補償板14が配置されている点であり、それ以外は上記実施形態と同様である。視角補償板14の遅相軸は、例えば第2偏光板6の吸収軸と略直交に配置される。なお、視角補償板14としては負のCプレートを用いてもよい。さらに、負のCプレートと負の二軸光学異方性を有する視角補償板を積層して、第2基板2と第2偏光板6の間に配置してもよい。
【0054】
図11は、他の実施形態の液晶表示装置の構造を示す断面図である。上記した
図1に示した実施形態との違いは、第1基板1と1波長板9の間に負のCプレート15が配置されている点であり、それ以外は上記実施形態と同様である。なお、負のCプレート15を負の二軸光学異方性を有する視角補償板に置き換えた場合には、面内位相差の影響が発生し視角特性が劣化するため好ましくない。
【0055】
図12は、他の実施形態の液晶表示装置の構造を示す断面図である。上記した
図1に示した実施形態との違いは、第1偏光板5と1/2波長板8の間に負の二軸光学異方性を有する視角補償板16が配置されている点であり、それ以外は上記実施形態と同様である。視角補償板16の遅相軸は、例えば第1偏光板5の吸収軸と略直交に配置される。なお、視角補償板16として負のCプレートを用いてもよい。
【0056】
以上のような実施形態並びに実施例によれば、比較的低コストの光学板を第1光学板および第2光学板として用いることが可能であるため、ノーマリーホワイト表示の垂直配向型の液晶表示装置における左右方向観察時のカラーシフトを低コストに抑制することが可能となる。
【0057】
なお、本発明は上述した実施形態の内容に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において種々に変形して実施をすることが可能である。例えば、上記した実施形態等では1/2波長板、1波長板として正のAプレートを用いていたが、少なくとも一方を負の二軸光学異方性を有する光学板としてもよい。ただし、正の二軸光学異方性を有する光学板や負のAプレートではカラーシフトを抑制することが難しいと考えられる。
【0058】
また、上記した実施形態等では、ラビング処理等の配向処理によって液晶層を一方位に配向されたモノドメイン配向型の液晶表示装置を例示していたが、互いに異なる配向方位を有する2種類のドメインを有するデュアルドメイン配向型の液晶表示装置においても本発明を適用することができる。この場合には、液晶層への電界印加時に配向制御要素(突起や開口など)によって制御される液晶層の層厚方向の中央における配向方向との関係において偏光板や各波長板の配置を設定すればよい。