(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記開先形成工程において、前記横向き姿勢で前記アーク溶接を行うことが可能に、且つ、前記隙間が前記開先の底部から上方に延在するように、前記2つの母材及び前記裏当て板部を配置させることを特徴とする請求項1に記載の母材溶接方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載の鉄道車両構体の腰板形材と窓部形材とがなす開先は、横向き姿勢でアーク溶接が可能なものであり、開先の底部を構成する雄形突片の先端部分は雌形突片に内側から密着している。このように水平方向の一方向にだけ向かって開口する開先でアーク溶接が行われる場合、溶融金属中の気泡は当該開口からしか逃げられない。気泡はアークや浮力によって溶融金属中を移動し、開口に到達したものは大気に逃がすことが可能である。しかしながら、溶融金属は比較的短時間で凝固するため、開先の底部側に存在する又は底部側に一旦流動してきた気泡は開口に到達する前に、溶融金属が凝固する。この結果、溶接部には多くのブローホールが形成されてしまう。また、上向き姿勢でアーク溶接を行う際も、開先は下方を向いて開口するため、横向き姿勢の溶接と同様に、溶接部には多くのブローホールが形成されてしまう。このように溶接部に多くのブローホール(欠陥)が形成されると、継ぎ手の機械的性能が低下するという問題が生じる。
【0005】
そこで、本発明の目的は、横向き姿勢又は上向き姿勢でアーク溶接を行う際にブローホールとなる気泡が残留しにくくなる母材溶接方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の母材溶接方法は、横向き姿勢又は上向き姿勢でアーク溶接を行うことが可能に、母材の端面を別の母材の端面に向かい合わせてその間に開先を形成する開先形成工程と、前記アーク溶接によって前記開先に溶融金属を充填して前記2つの母材を溶接する溶接工程とを含む母材溶接方法において、
前記2つの母材は、互いに嵌合可能な中空押出形材から構成されており、前記開先形成工程において、
前記2つの母材を嵌合させることで前記開先を形成し、前記2つの母材に亘り且つ前記開先の底部を構成する裏当て板部と少なくとも一方の母材との間に、前記開先を前記底部側から大気に連通させる隙間を形成する。
【0007】
これによると、溶接工程において生じる溶融金属中の気泡を、開先の底部側から隙間を介して大気に逃がすことが可能となる。このため、溶接部にブローホールが形成されにくくなる。
また、開先を容易に形成することが可能となる。
【0008】
本発明において、前記開先形成工程において、前記横向き姿勢で前記アーク溶接を行うことが可能に、且つ、前記隙間が前記開先の底部から上方に延在するように、前記2つの母材及び前記裏当て板部を配置させることが好ましい。これにより、隙間を介して溶融金属中の気泡を効果的に大気に逃がすことが可能となる。
【0010】
また、本発明において、前記裏当て板部は、前記一方の母材に一体的に形成されていることが好ましい。これにより、隙間の調整がしやすくなる。
【0011】
また、本発明において、前記裏当て板部には、前記隙間を構成する溝が形成されていることが好ましい。これにより、隙間を容易に形成しやすくなる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の母材溶接方法によると、溶接工程において生じる溶融金属中の気泡を、開先の底部側から隙間を介して大気に逃がすことが可能となる。このため、溶接部にブローホールが形成されにくくなる。
また、開先を容易に形成することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態である母材溶接方法によって製造された鉄道車両の車体構造について、
図1を参照しつつ説明する。車体1は、床面を形成する台枠11と、車体1の左右の面を形成する一対の側構体12と、屋根を形成する屋根構体13と、車体1の長手方向Aに対して両端を閉鎖する面を形成する一対の妻構体(不図示)とから構成されている。
【0015】
台枠11の幅方向B(長手方向Aと直交する方向)の両端部には、L字断面形状を有する接続形材15が設けられている。側構体12、屋根構体13及び接続形材15は、長手方向Aに長尺な中空押出形材からなり、これら形材同士の端部が上下方向C(長手方向A及び幅方向Bと直交する方向)に嵌合された状態で長手方向Aに沿って溶接されることで、車体1が構成される。また、本実施形態の車体1は、側構体12、屋根構体13及び接続形材15に、アルミニウム製のダブルスキン構造の構体材が採用されているが、特にこれに限定するものではない。
【0016】
続いて、車両1を構成する接続形材15及び側構体12の溶接方法について、
図2及び
図3を参照しつつ、以下に説明する。
図2は、
図1中右方にある側構体12と接続形材15とを嵌合したときの要部断面図である。先ずは、接続形材(母材)15及び側構体(母材)12の概略構成について説明する。接続形材(母材)15及び側構体(母材)12は、
図2に示すように、押出し成形によってつくり出された中空押出形材であって、接続形材15の上端部と側構体12の下端部とが上下方向Cに嵌合可能に構成される。接続形材15及び側構体12は、
図2中右方に配置された外面板21,31と
図2中左方に配置された内面板22,32とが複数の中板23,33,34によって連結されたものである。中板23は接続形材15の上端に形成され、中板33は側構体12の下端に形成されている。
【0017】
接続形材15には、
図2に示すように、外面板21の上端面21aから上方に突出した裏当て板部25が一体的に形成されている。外面板21の上端面21aは、外側(
図2中右側)に向かうに連れて下方に位置するように傾斜している。中板23は裏当て板部25の上端と繋がっている。内面板22は中板23よりも上方に突出して形成されており、その上端面22aが内側(
図2中左側)に向かうに連れて下方に位置するように傾斜している。
【0018】
側構体12には、
図2に示すように、内面板32と中板33とが連結された角部から下方に突出した裏当て板部35が一体的に形成されている。内面板32の下端面32aは、内側に向かうに連れて上方に位置するように傾斜している。外面板31は中板33よりも下方に突出して形成されており、その下端面31aが外側に向かうに連れて上方に位置するように傾斜している。
【0019】
接続形材15と側構体12は、
図2に示すように、端面21aと端面31aとが、端面22aと端面32aとが上下方向Cに対向するように配置されるとともに、各端面間に開先41,42が形成されるように、嵌合される。各裏当て板部25,35は、接続形材15と側構体12とを嵌合させたときに、外面板31及び内面板22よりも内側において、接続形材15と側構体12とに亘るように形成され、開先41,42の底部を構成する。
【0020】
裏当て板部25,35には、
図2に示すように、溝25a,35aが形成されている。本実施形態における溝25a,35aの深さは、0.2mmであるが、これに限定するものではない。溝25aは、開先41の底部から上方に延在し、開先41の底部と連通する隙間S1を構成する。また、溝25aは、長手方向Aに延在しており、接続形材15の長手方向A全体に亘って形成されている。これにより、隙間S1が溝25aの長手方向Aの両端で大気と連通する。このため、接続形材15と側構体12とを嵌合させたときに、開先41の底部は、溝25aが構成する隙間S1によって大気と連通する。なお、裏当て板部25には、上下方向C又は幅方向Bに延在し、長手方向Aに沿って互いに離隔して配置された複数の大気連通孔(不図示)が形成されていてもよい。これら大気連通孔は、溝25aの長手方向Aの途中部位にそれぞれ接続される。こうすることで、溝25aによって構成される隙間S1が大気連通孔を介しても大気と連通する。
【0021】
溝35aは、開先42の底部から下方に延在し、開先42の底部と連通する隙間S2を構成する。また、溝35aは、長手方向Aに延在しており、側構体12の長手方向A全体に亘って形成されている。これにより、隙間S2が溝35aの長手方向Aの両端で大気と連通する。このため、接続形材15と側構体12とを嵌合させたときに、開先42の底部は、溝35aが構成する隙間S2によって大気と連通する。なお、裏当て板部35にも、上下方向C又は幅方向Bに延在し、長手方向Aに沿って互いに離隔して配置された複数の大気連通孔(不図示)が形成されていてもよい。これら大気連通孔は、溝35aの長手方向Aの途中部位にそれぞれ接続される。こうすることで、溝35aによって構成される隙間S2が大気連通孔を介しても大気と連通する。
【0022】
このような接続形材15に側構体12を溶接することで、側構体12と台枠11とが連結される。本実施形態においては、接続形材15と側構体12とをミグ溶接するが、これに限定するものではなく、ミグ溶接以外のアーク溶接によって溶接されてもよい。ミグ溶接をする場合、まず、
図2に示すように、接続形材15と側構体12とを嵌合させて、図示しない治具で接続形材15と側構体12とを固定する。このとき、外面板21,31の端面21a,31a間、内面板22,32の端面22a,32a間に開先41,42を形成する(開先形成工程)。このとき形成される開先41,42は、ともに長手方向Aに延在し、且つ水平方向に向かって開口している。このため、これら接続形材15と側構体12と溶接は横向き姿勢で行われる。なお、開先41,42部分は、予め前処理として脱脂される。
【0023】
次に、
図3(a)に示すように、開先41に対してミグ溶接を行う。本実施形態における溶接条件としては、溶接電流が206A、電圧が23.4V、トーチ仰角が15°、前進角が15°で行う。ミグ溶接が実行されると、ノズル51の先端面であって溶接ワイヤ52の周囲からは、矢印G方向、すなわち開先41に向けてシールドガス(不活性ガス)が供給される。これにより、開先41及びその周囲近傍にシールドガスが充填され、シールドガス雰囲気がつくられる。なお、シールドガスは、開先41を介して溝25aが構成する隙間S1にも充填される。そして、溶接ワイヤ52と開先41との間にアークが発生し、開先41に溶融金属が充填される(溶接工程)。
【0024】
このとき、
図3(a)に示すように、開先41部分(母材)及び溶接ワイヤ表面の付着物及び内部の水素、シールドガス、周囲の空気などにより溶融金属中に複数の気泡Eが発生する。溶融金属は、アーク流Fによって矢印Dに示すように、開先41の開口→底部→開口というように流動する。このため、複数の気泡Eは、溶融金属の流れ及び自身の浮力などにより、溶融金属中を移動する。
【0025】
複数の気泡Eのうち、開先41の開口側へと移動し且つ当該開口に到達した気泡E1は、
図3(b)に示すように、大気へと逃げる。溶融金属は比較的短時間で凝固するため、開先41の底部側に存在する気泡E2は開先41の開口に到達できないため、当該開口から大気へと逃げられない。しかしながら、本実施形態における裏当て板部25には、溝25aによって開先41の底部と連通する隙間S1が形成されているため、気泡E2がアーク流によって隙間S1に到達しやすい。気泡E2は、隙間S1に到達すると当該隙間S1を介して大気へと逃げる。このため、溶融金属中に気泡が極めて少なくなり、溶融金属が凝固したときに溶接部16(
図3(c)参照)にブローホールが形成されにくくなる。
【0026】
また、溝25aは、開先41の底部から上方へと延在している。つまり、隙間S1が開先41の底部から上方へと延在している。気泡E2はアーク流に加えて浮力も生じるため、開先41の底部上方に集まりやすい。このため、隙間S1を介して気泡E2を効果的に大気へと逃がすことができる。
【0027】
次に、開先42に対してミグ溶接を行う(溶接工程)。この場合は、開先41に対する溶接条件と同じ条件で実行される。開先42に対する溶接においても、上述と同様に、溶融金属中に複数の気泡が発生すると、そのほとんどが開先42の開口及び溝35aが構成する隙間S2から大気へと逃げる。溝35aは、開先42の底部から下方に延在している。つまり、隙間S2も開先42の底部から下方に延在している。このため、開先42の底部上方に留まる気泡を大気へと逃がしにくくなるが、底部近傍の気泡E2はアーク流によって底部近傍を移動するため、隙間S2に到達しやすい。このため、開先42の底部近傍に留まる気泡の大部分を大気へと逃がすことが可能となる。このため、開先42における溶融金属中に気泡が極めて少なくなり、溶融金属が凝固したときに溶接部16にブローホールが形成されにくくなる。
【0028】
接続形材15及び側構体12との溶接が終了すると、
図3(c)に示すように、溶接部16の表面(開先41の開口側)であって外面板21,31の表面から盛り上がった余盛り部分が削られる。なお、溶接部の表面(開先42の開口側)であって内面板22,32の表面から盛り上がった余盛り部分も削られる。この仕上げ工程で、溶接部16の表面側に形成されたブローホールが除去される。
【0029】
上述の開先41,42の溶接部16における溶接長500mm中のブローホールの数を調べた結果、開先41の溶接部16においては、10〜20個程度のブローホールが確認され、開先42の溶接部においては、100個程度のブローホールが確認された。また、隙間S1を設けた状態で、端面21a,31aを水平面として互いに離隔させてなる開先に、同じ溶接条件で溶接を行った溶接部における溶接長500mm中においては、40個程度のブローホールが確認された。また、溝25aが形成されていない裏当て板部25を外面板31に密着させて隙間S1を設けずに、同じ溶接条件で開先41に溶接を行った溶接部における溶接長500mm中においては、200個程度のブローホールが確認された。これより、開先41,42及び開先を底部側から大気に連通させる隙間を構成することで、溶融金属中の気泡を大気へと逃がしやすくなって、ブローホールの数が大幅に減少することがわかる。
【0030】
以上に述べたように、本実施形態の溶接方法においては、溶接工程において生じる溶融金属中の気泡を、開先41,42の底部側から隙間S1,S2を介して大気に逃がすことが可能となる。このため、溶接部16にブローホールが形成されにくくなる。
【0031】
また、隙間S1が開先41の底部から上方に延在していることで、隙間S1を介して溶融金属中の気泡を効果的に大気に逃がすことが可能となる。
【0032】
また、開先41,42が、接続形材15及び側構体12を嵌合させることで形成される。これにより、開先41,42を容易に形成することが可能となる。
【0033】
また、裏当て板部25は接続形材15に、裏当て板部35は側構体12に一体的に形成されている。これにより、接続形材15及び側構体12を嵌合するだけで、隙間S1,S2を形成することが可能となるため、隙間S1,S2の調整がしやすくなる。
【0034】
本実施形態においては、裏当て板部25,35が接続形材15及び側構体12に一体的に形成されているが、別部材であってもよい。この変形例においては、
図4に示すように、開先形成工程において、溝125aを有する裏当て板部125を、外面板21,31とほぼ同様な構成である2つの外面板121,131に亘るように配置して開先141の底部を構成する。このとき、溝125aが上下方向Cに延在し且つ開先141の底部と連通する隙間S3を構成するように、裏当て板部125の上端部及び下端部を、図示しない治具により、外面板121,131に当接させた状態で保持する。開先141は、外面板121の上端面121a及び外面板131の下端面131a間に形成される。隙間S3は大気と連通している。これにおいても、横向き姿勢で開先141にアーク溶接が実行されても、上述の実施形態と同様な効果を得ることができる。さらに本変形例においては、隙間S3が開先141の底部から上下に延在している。このため、開先141の底部に存在する溶融金属中の気泡を、効果的に大気へと逃がすことが可能となる。なお、裏当て板部125は、外面板121,131のいずれか一方と離隔していてもよい。好ましくは、上方に位置する外面板131と離隔することが好ましい。こうすれば、隙間S3が開先141の底部から上方に延在することとなり、上述の実施形態と同様な効果を得ることができる。
【0035】
また、別の変形例として、裏当て板部25,35に溝25a,35aが形成されていなくてもよい。この場合、接続形材15と側構体12とを嵌合させるときに、裏当て板部25の上端部と外面板31との間、及び、裏当て板部35の下端部と内面板22との間に、例えば、0.2mmのライナープレートを挟んで開先41,42の底部側に隙間を形成してもよい。なお、ライナープレートは、長手方向Aに互いに離隔して複数配置してもよいし、長手方向Aに長尺な1枚のライナープレートを採用してもよい。また、ライナープレートの厚みは0.2mm以外でもよく、適宜選択すればよい。これにおいても、開先41,42の底部が隙間と連通し、且つ隙間は大気と連通しているため、上述と同様な効果を得ることができる。
【0036】
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な変更が可能なものである。例えば、上述の実施形態においては、横向き姿勢でアーク溶接が実行されていたが、上向き姿勢で行ってもよい。つまり、
図5に示すように、開先形成工程において、外面板21,31とほぼ同様な構成を有する外面板221,231が、開先241が斜め下方を向くように形成されていても、2つの外面板221,231に亘り且つ開先241の底部(上部側)を構成する裏当て板部225に形成された溝225aによって隙間S4が構成されている。このため、当該開先241にアーク溶接が実行されても、溶融金属中の気泡が、上述の実施形態と同様に、隙間S4を通って大気へと逃げる。この結果、溶接部にブローホールが形成されにくくなる。
【0037】
上述の実施形態においては、開先形成工程において、接続形材15と側構体12とがなす開先41,42が底部側で連通する隙間S1,S2を形成していたが、これら隙間は、側構体12を構成する長手方向Aに長尺な複数の中空押出形材間の開先と底部側で連通する位置に形成すればよい。要するに、横向き又は上向き姿勢でアーク溶接を行うことが可能に、母材の端面を別の母材の端面に向かい合わせて、その間に開先を形成する際に、2つの母材に亘り且つ当該開先の底部を構成する裏当て板部と2つの母材のうちの少なくとも一方との間で開先と底部側で連通し且つ大気と連通する隙間を形成すればよい。こうすれば、上述の実施形態と同様な効果を得ることができる
。
【0038】
また、上述の実施形態においては、開先41を構成する外面板21の上端面21a及び外面板31の下端面31aと、開先42を構成する内面板22の上端面22a及び内面板32の下端面32aとは、開先形状を取るために互いに傾斜していたが、互いに平行であってもよい。