(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された装置では、円周シール溶接を行うので、溶接により生じた残留応力を取り除くための熱処理が必要となる。
【0006】
また、過熱器や再熱器などの伝熱管には、炉内の上部に配置される吊り下げ式の伝熱管がある。このような炉内上部の吊り下げ式の伝熱管を、切り替えにより補修する、或いは、応急処置的にプラグ等により閉塞するためには、作業を行えるように損傷箇所の高さ付近まで足場を炉内に設置する必要がある。また、作業終了後には足場を撤去する必要がある。
このような足場の設置から撤去するまでの間はボイラを停止しなければならない。足場の設置作業及び撤去作業には相当の作業時間を要し、この作業時間分、ボイラ停止期間が長期化する。
【0007】
本発明は、上記のような課題に鑑み創案されたもので、短いボイラ停止期間で且つ簡単な処置で、損傷した伝熱管の応急処置を行えるようにした、損傷した伝熱管の応急処置具及び損傷した伝熱管の応急処置方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)上記の目的を達成するために、ボイラの火炉天井壁に吊り下げられた伝熱管が損傷した際に、前記伝熱管の鉛直部分に挿入され、前記損傷した伝熱管の応急処置をする、応急処置具であって、貫通孔を有する天壁と、前記天壁の外縁から垂下する周壁と、前記天壁と前記周壁との間に形成され前記天壁に近接するにしたがって縮小しテーパ状の内周面で区画される凹部とを有する外側プラグと、前記貫通孔に挿通される索状部材と、前記外側プラグの前記凹部側に配置されるとともに前記索状部材が上面に接続され、前記上面に近接するにしたがって縮小するテーパ状の外周面を有する内側プラグと、前記外側プラグの前記天壁の上面に固定され、周壁に開口を有する管状部材とを備え、前記索状部材を牽引して前記テーパ状の外周面を有する前記内側プラグを、前記外側プラグの前記テーパ状の前記凹部に圧入することで、前記外側プラグの前記周壁を押し広げて前記伝熱管の内周面に圧接させることを特徴としている。
【0009】
(2)前記索状部材が前記管状部材に挿通されることが好ましい。
【0010】
(3)前記外側プラグを形成する材料が、前記内側プラグを形成する材料よりも剛性率の低い材料であることが好ましい。
【0011】
(4)前記内側プラグを形成する材料が、前記外側プラグを形成する材料よりも膨張係数の高い材料であることが好ましい。
【0012】
(5)上記の目的を達成するために、ボイラの火炉天井壁に吊り下げられた伝熱管が損傷した際に、前記伝熱管を閉塞する閉塞方法であって、前記伝熱管を、前記火炉天井壁の上部で切断する第1ステップと、前記伝熱管に、前記切断した箇所から、請求項1〜4の何れか1項記載の損傷した伝熱管の応急処置具を挿入する第2ステップと、前記管状部材を操作して前記外側プラグの高さを保持しつつ、前記索状部材を操作して前記内側プラグを上方に牽引することで、前記外側プラグの前記周壁を押し広げて前記伝熱管の内周面に圧接させて前記伝熱管を閉塞する第3ステップと、前記管状部材に冷却流体を流通させる第4ステップとを備えたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、吊り下げ式の伝熱管が損傷した場合でも、損傷した伝熱管の応急処置に関する作業を全て炉外から行うことができる。つまり、炉外から、損傷した伝熱管に応急処置具を挿入した後、索状部材により内側プラグを上方に引き上げることで、外側プラグを押し広げて損傷した伝熱管を閉塞し、さらに、炉外から管状部材を介して損傷した伝熱管に冷却水を供給することができる。
【0014】
さらに、損傷した伝熱管は、応急処置具により閉塞されるとともに冷却水を流通させるので、損傷した伝熱管のシール溶接、及び、シール溶接により生じる残留応力を除去するための伝熱管の熱処理が不要となる。つまり、損傷した伝熱管には高圧蒸気が流通しないので、応急処置具だけで十分に閉塞を行うことができ、シール溶接ひいては残留応力を除去するための伝熱管の熱処理が不要となる。
したがって、短いボイラ停止期間で且つ簡単な処置で、損傷した伝熱管の応急処置を行える。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
なお、以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。以下の実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができるとともに、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることが可能である。
また、本発明の損傷した伝熱管の応急処置具及び応急処置方法は、ファイバースコープやガイド波による検査の結果、伝熱管に損傷が発見された場合に、応急処置として、損傷した伝熱管の閉塞及び冷却を行うものである。つまり、次回の定期点検時などで伝熱管の損傷箇所を新管に切り替えるまでの間、損傷した伝熱管を閉塞・冷却してボイラ運転中の伝熱管の脱落を防止するためのものである。
【0017】
[1.ボイラの全体構成]
本発明に係るボイラ(蒸気発生装置)1の全体構成を、
図1を参照して説明する。
ボイラ1は、内部に火炉(燃焼室)2が形成される火炉壁3と、火炉壁3の下部に多段に設置されたバーナ4と、火炉2の出口に連結された煙道5と、火炉2の上部から煙道5に向かってこの順に並ぶ過熱器6,再熱器7及びエコノマイザ8と、火炉2よりも上方に設けられたドラム9とを備えている。
【0018】
火炉壁3は、管軸方向を上下方向に向けた水管(図示略)が複数並ぶ水冷壁として構成されている。各水管は上下各端部が図示しないヘッダ,上昇管及び降水管を介してドラム9に接続されている。
【0019】
バーナ4から噴射された燃焼用空気と燃料は、バーナ4の噴射口において火炎を形成し、燃焼ガスを発生する。燃焼ガスは火炉2を上昇し、過熱器6,再熱器7及びエコノマイザ8をこの順に通過する。
【0020】
給水ポンプ(図示略)から供給された水は、エコノマイザ8で燃焼ガスと熱交換して予熱された後、火炉壁3へと送られる。火炉壁3へと送られた水は、ドラム9や、火炉壁3を構成する各水管等からなる循環路を循環しながら、バーナ4の火炎や燃焼ガスにより加熱されて、飽和水と飽和蒸気とからなる二相流となる。飽和蒸気は、ドラム9により分離されて、過熱器6に導入され、バーナ4の火炎や燃焼ガスによって加熱され、過熱蒸気となる。
【0021】
この過熱蒸気は、主蒸気管を介して発電用の蒸気タービンに供給され、蒸気タービンでの膨張過程の中途で取り出された蒸気は、低温再熱蒸気管を介して再熱器7に導入され、燃焼ガスによって再度過熱されて高温再熱蒸気管を介して再び蒸気タービンに供給される(主蒸気管、蒸気タービン,低温再熱蒸気管及び高温再熱蒸気管は図示略)。
【0022】
[2.吊り下げ式伝熱器の構成]
過熱器6及び再熱器7は、火炉天井壁3Aに吊り下げられた吊り下げ式伝熱器である。過熱器6及び再熱器7は同様に構成されているので、以下、過熱器6を代表例として、
図2を参照してその構成を説明する。
【0023】
過熱器6は、
図2に示すように、入口管寄6Aと、出口管寄6Cと、複数の過熱管(伝熱管)6Bとを備えて構成されている。
管寄6A,6Cは、その軸心線を火炉の左右方向に向けた姿勢で、火炉天井壁3Aの上方、すなわち火炉2の外側(以下、炉外ともいう)に配設されている。
【0024】
各過熱管6Bは、管寄6A,6Cの軸心線に沿って複数並べられている。各過熱管6Bは、略U字形状の曲げ管であり、2つの鉛直部分(以下、鉛直管ともいう)6Ba,6Baと、これらの鉛直管6Ba,6Baの各下端の相互間に位置する水平部分(以下、水平管ともいう)6Bbとを一体に有する。各過熱管6Bは、一端(鉛直管6Baの一方)を入口管寄6Aに接続され、他端(鉛直管6Baの他方)を出口管寄6Cに接続されている。各過熱管6Bは、管寄6A,6Cに接続される端部近傍の一部分を除いて、火炉2の内側(以下、炉内ともいう)に配置されており、この炉内に配置された部分において、過熱管6Bを流通する蒸気が炉内を流れる燃焼ガスと熱交換する。
なお、鉛直管6Ba,6Baは、軸心線が厳格に鉛直方向に沿ったものだけでなく、軸心線が略鉛直方向に沿ったものも含む。
【0025】
[3.応急処置具の構成]
本発明の一実施形態としての応急処置具について
図3を参照して説明する。応急処置具の説明では、応急処置具が伝熱管の鉛直部部分(本実施形態では過熱管6B)に挿入された状態を基準として上下方向を定め、後述の軸心線CLを基準に内側及び外側を定める。
【0026】
応急処置具10の概略を説明すると、応急処置具10は、次回の定期点検時等に伝熱管の損傷箇所を新管に切り替えるまでの応急処置として、損傷した伝熱管を閉塞するとともに冷却するためのものである。すなわち、ボイラ1の運転を短期間だけ停止して応急処置具10を使用して損傷した伝熱管を閉塞するとともに伝熱管に冷却流体を流通させ、ボイラ1の運転を再開後は上記冷却流体により伝熱管が冷却されて伝熱管の脱落が防止される。そして、その後に行われる次回の定期点検の機会を利用して、伝熱管の損傷箇所が新管に切り替えられる。
【0027】
以下、過熱管6の鉛直管6Baに応急処置具10を挿入して、この鉛直管6Baを閉塞及び冷却する場合を例にして、応急処置具10の構成を具体的に説明する。
応急処置具10は、
図3に示すように、外側プラグ11と、ワイヤ(索状部材)12と、内側プラグ13と、管状部材14とを、同一の軸心線CL上に並べるようにして構成されている。
【0028】
外側プラグ11は、一定の外径Do_11を有する有天円筒形状のものである。つまり、外側プラグ11は、円形の天壁11Aと、この天壁11Aの外縁(外縁近傍も含む)から垂下する略円筒状の周壁11Bと、天壁11Aと周壁11Bとの間に形成される凹部11Cとを一体に備えて構成される。凹部11Cは円錐台形状の空間である。換言すれば、凹部11Cを区画する壁面(つまり周壁11Bの内周面11Ba)は、天壁11Aに近接するにしたがって軸心線CLに近接する(縮径する)テーパ状に形成されている。
天壁11Aの円形中心には、上下(厚み方向)に貫通する貫通穴11Aaが設けられている。この貫通穴11Aaにワイヤ12が挿通されている。
【0029】
外側プラグ11は、内側プラグ13を形成する材料よりも剛性率の低い材料(例えばクロムの含有率が1〜2[%]程度の低合金鋼)により形成されている。また、外側プラグ11は、剛性率の低い材料を使用する他、周壁11Bの肉厚など外側プラグ11の寸法・形状を適宜設定して、外側プラグ11の剛性を、内側プラグ13により周壁11Bを押し広げることができるような剛性に設定している。
なお、外側プラグ11を形成する材料に、内側プラグ13を形成する材料よりも剛性率の高い材料を使用することも可能である。つまり、外側プラグ11の周壁11Baの肉厚を薄くすれば、外側プラグ11の材料の剛性率が、内側プラグ13の材料の剛性率より高くても、周壁11Baの剛性を内側プラグ13よりも低くすることができるからである。
【0030】
内側プラグ13は、円錐台形状の(すなわち、上面13Aに近接するにしたがって縮小するテーパ状の外周面13Cを有する)中実部材であり、その上面13Aの円形中心にはワイヤ12の下端が接続されている。内側プラグ13は、外側プラグ11を形成する材料よりも膨張係数の高い材料(例えばSUS材)により構成するのが好ましい。
【0031】
管状部材14は、冷却流体としての水(以下、冷却水ともいう)を鉛直管6Baに流通させるためのものである。管状部材14は、その下端が
外側プラグ
11の天壁11Aの上
面に固定され、その周面には、左右方向に貫通する貫通孔14Aが周方向に沿って複数設けられている。また、管状部材14の内部空間にワイヤ12が挿通されている。
上記の貫通孔14Aを介して、管状部材14の内側から管状部材14の外側へ、又は、管状部材14の外側から管状部材14の内側へ冷却水を流通させることができる。
本実施形態では、冷却流体には水を使用するが、空気や低温の蒸気やその他のガスを使用することもできる。
【0032】
ここで、外側プラグ11,内側プラグ13及び管状部材14についてさらに説明する。
外側プラグ11の外径Do_11〔但し内側プラグ13により押し広げられていない状態、すなわち
図3(a)に示す状態の外径〕は鉛直管6Baの内径Di_6よりも小径に設定されている。すなわち、外側プラグ11の横断面は、鉛直管6Baの流路断面(蒸気の流通方向に対して垂直な断面)よりも小さく設定されている。これにより、鉛直管6Baと外側プラグ11との間には隙間tが形成されて、外側プラグ11を鉛直管6Ba内に挿入可能となっている。
また、内側プラグ13の最大径(すなわち下面13Bの径)D_13B及び管状部材14の外径Do_14は、何れも鉛直管6Baの内径Di_6よりも小径に設定されている。つまり、内側プラグ13及び管状部材14の各横断面(底面を含む)は、鉛直管6Baの流路断面よりも小さく設定されている。これにより、内側プラグ13及び管状部材14が鉛直管6Ba内にそれぞれ挿入可能となっている。
【0033】
また、内側プラグ13の上面13A(つまり外側プラグ11の凹部11Cに向く面)の径D_13Aは、凹部11Cの入口の開口径D_entよりも小さく設定されている。これにより、内側プラグ13の先端(上面13A)が凹部11C内に入り込むことができる。
【0034】
また、内側プラグ13の上面13Aの径D_13A及び下面13Bの径D_13Bは、凹部11Cの上面の径(凹部11Cを規定する天壁11Aの下面の径)D_clg及び下面の径(入口の開口径)D_entよりも大きく設定されている(D_13A>D_clg, D_13B>D_ent)。つまり、内側プラグ13は全体的に凹部11Cよりも大きな形状となっている。
図3(b)に示すように、ワイヤ12を引き上げて、内側プラグ13を外側プラグ11の凹部11C内に圧入すると、外側プラグ11は内側プラグ13よりも剛性が低いため、凹部11Cの側面を規定する外側プラグ11の内周面11Baが、内側プラグ13によって二点鎖線で示す位置から実線で示す位置まで押し広げられる。これにより、内側プラグ13の周囲において、外側プラグ11の外周面11Bbが全周に亘って鉛直管6Baの内壁に押圧され、鉛直管6Baが閉塞される。
【0035】
ここで、
図3(b)における外側プラグ11の内周面11Baを示す実線と二点鎖線との間の領域Sが、内側プラグ13の外周面13Cによって内周面11Baが押し広げられる量である。この量が、
図3(a)における鉛直管6Baと外側プラグ11との間の隙間tを埋めるに十分な量となるように、凹部11Cの形状・寸法(外側プラグ11の内側の形状及び寸法)と内側プラグ13の外側の形状及び寸法が設定されている。
異なる表現をすると、鉛直管6Baに挿入していない状態で、内側プラグ13を凹部11Cに圧入した時に、外側プラグ11の外周面11Bbの横断面が、鉛直管6Baの流路断面よりも大きくなるように、凹部11Cの形状・寸法と内側プラグ13の外側の形状及び寸法が設定されている。
【0036】
また、
図3(b)に示す構成では、内側プラグ13をその上面13Aが外側プラグ11の天壁11Aの下面に接するまで上方に引き上げているが、内側プラグ13の上面13Aが天壁11Aの下面に接するよりも低い位置で鉛直管6Baを閉塞できるような構成でも良い。
また、
図3(a),(b)に示す構成では、内側プラグ13は全体的に凹部11Cよりも径(幅)の大きな形状となっているが、これに限定されない。例えば、外側プラグ11を押し広げて全周に亘って鉛直管6Baの内壁に押圧できるものであれば(鉛直管6Baの内周面に外側プラグ11が押圧される押圧部を、鉛直管6Baの全周に亘って連続して形成できるものであれば)、内側プラグ13は、一部だけが凹部11Cよりも径(横断面)の大きな形状を有するものであっても良い。
また、鉛直管6Baを応急処置具
10により閉塞しても、冷却流体が応急処置具
10から漏えいして水平管6Bbの損傷部を介して炉内に漏えいすることも考えられる。本実施形態では、冷却流体には水を使用するが、冷却流体の種類(水、空気や低温の蒸気やその他のガスなど)や温度は、仮に炉内に漏えいしたとしてもバーナ5の燃焼や蒸気温度に影響が生じないように適宜選択される。
【0037】
[4.損傷した伝熱管の応急処置方法]
本実施形態の伝熱管の閉塞方法について
図3及び
図4を参照して説明する。
ボイラ1の主蒸気量又は再熱蒸気量が設定量より少ない、または管温度の異常な上昇が検出されるなどの過熱器6や再熱器7(以下、伝熱器6,7と表記する)に損傷の兆しが見られたときには、ボイラ1の運転を停止し、ファイバースコープやガイド波により伝熱器6,7の検査を行う。検査の結果、伝熱器6,7に損傷が発見された場合には、この検査により判明した損傷情報(損傷形態、損傷の大きさ、損傷箇所など)に基づいて損傷に対する処理を検討する。つまり、上記損傷情報として、損傷により生じた開口の大きさ、損傷の種類(溝状き裂なのか、過熱管6Bの相互間のスペーサを基点とした割れなのかなど)、損傷した伝熱器6,7の伝熱管(損傷管)及び損傷管の損傷箇所を特定できるので、損傷範囲が狭いことから次回の定期点検まで応急処置で済ませるか、或いは、損傷箇所が広いので速やかに新管に切り替えるかを検討する。
【0038】
以下、
図4に示すように、過熱管6Bの水平管6Bbの斜線で示す位置に損傷が検出され、その損傷に対し応急処置を行うものとして説明を行う。
先ず、損傷が検出された過熱管(以下、損傷管ともいう)6Bにおいて、作業者により、火炉天井壁3Aと管寄6A,6Cとの間における
図4中に二点鎖線で示す部分(以下、抜管部ともいう)6Ba′が切断され抜管される(第1ステップ)。なお、抜管部6Ba′よりも下方の鉛直管6は、火炉天井壁3Aにより支持される。
そして、抜管部6Ba′の管寄6A,6C側(つまり切断箇所)に、プラグ20が溶接されて密封される。これにより、応急処置後にボイラ1の運転を再開しても、この損傷管6Bには蒸気が流通しない。この損傷管6Bには流通しない分の蒸気は、管寄6A,6Cに接続された他の過熱管6B(
図2参照)に流通するようになる。
ここで、火炉天井壁3Aと管寄6A,6Cとの間(換言すれば炉外)には一般的に常設のアクセス路が設けられているので、特別に足場を組むことなく、上記抜管作業及び後述の応急処置具10による作業を行うことができる。
【0039】
次いで、抜管した箇所から、作業者により、下方の鉛直管6Ba,6Baに応急処置具10がそれぞれ挿入される(第2ステップ)。これにより、
図4及び
図3(a)に示す状態となる。
【0040】
そして、作業者は、各応急処置具10について、管状部材14を把持して外側プラグ11の位置を保持しつつ、ワイヤ12を介して内側プラグ13を上方に引き上げる。すなわち、外側プラグ11に対して相対的に内側プラグ13を上方に移動させる。これにより、
図3(b)に示すように、内側プラグ13が、外側プラグ11の凹部11Cに圧入され、外側プラグ11が押し広げられる。押し広げられた外側プラグ11の外周面11Bbがその全周に亘って損傷管6Baの内周面に圧接して、鉛直管6Ba,6Baがそれぞれ閉塞される(第3ステップ)。
【0041】
そして、各応急処置具10の管状部材14内に冷却水を流通させる。冷却水は、管状部材14内を下方へ流通し、外側プラグ11の近傍まで到達すると貫通孔14Aから管状部材14
の外に流出する。管状部材14から流出した冷却水は、鉛直管6Baと管状部材14との間を通って上方へと流通する。これにより、鉛直管6Baが冷却される(第4ステップ)。
【0042】
その後、ボイラ1の運転が再開されるが、冷却水の流通は維持される。したがって、鉛直管6Baはバーナ4からの燃焼ガス等により加熱されるが、冷却水により冷却される。鉛直管6Ba(特に上部)は、水平管6Bbに較べて過熱管6Bの荷重による応力を強く受けるため、加熱により軟化すると脱落しやすいが、冷却水により冷却されるので脱落が防止される。
【0043】
なお、火炉天井壁の上方(すなわち炉外)において、鉛直管6Baから冷却水が排出されるが、この排出された冷却水は図示しない設備によりボイラ1を収容するボイラ建屋から排出される。或いは、鉛直管6Baから排出された冷却水を冷却装置により冷却して再び、管状部材14により流入させるようにしても良い。
【0044】
[5.効果]
本発明の一実施形態の応急処置具及び閉塞方法によれば、以下のような効果が得られる。
過熱管6Bなどの吊り下げ式の伝熱管が損傷した場合でも、炉外から、損傷した伝熱管に応急処置具10を挿入するとともにワイヤ12を介して内側プラグ13を上方に引き上げることで、外側プラグ11を遠隔操作により押し広げて損傷した伝熱管を閉塞し、且つ、炉外から、管状部材14を介して損傷管に冷却水を供給できる。つまり、損傷した伝熱管の応急処置に関する作業を全て炉外から行うことができる。
したがって、炉内に足場を設置する必要がないので、処置に伴うボイラ停止期間を短期間とすることができる。
【0045】
さらに、損傷した伝熱管は、応急処置具10により閉塞されるとともに冷却水を流通させるので、損傷した伝熱管のシール溶接、及び、シール溶接により生じる残留応力を除去するための伝熱管の熱処理が不要となる。つまり、損傷した伝熱管には主蒸気などの高圧の蒸気が流通しないので、応急処置具10だけで十分にシール(閉塞)を行うことができ、シール溶接ひいては残留応力を除去するための伝熱管の熱処理が不要となる。
【0046】
また、外側プラグ11の内周面11Baは、天壁11Aに近接するにしたがって縮径するテーパ状に形成されるとともに、内側プラグ13の外周面13Cは上面13Aに近接するにしたがって縮小するテーパ状に形成されているので、楔作用により内側プラグ13により外側プラグ11をスムーズに押し開くことができる。
【0047】
また、ワイヤ12が管状部材14に挿通されているので、ワイヤ12の設置スペースと管状部材14の設置スペースとが共通化され、応急処置具1のサイズをコンパクトにできる。
【0048】
また、外側プラグ11を形成する材料に、内側プラグ13を形成する材料よりも剛性の低い材料が使用されているので、内側プラグ13により外側プラグ11を押し広げやすい。
【0049】
さらに、内側プラグ13を形成する材料が、外側プラグ11を形成する材料よりも膨張係数の高い材料により形成されているので、ボイラ1の運転中に、燃焼ガスにより加熱された際には、外側プラグ11よりも内側プラグ13が大きく膨張する。膨張した内側プラグ13により外側プラグ11が伝熱管内周面に一層強く押圧され、伝熱管の閉塞度を向上させることができる。
【0050】
[6.その他]
(1)上記実施形態では、冷却水を、管状部材14から流入させて、管状部材14と鉛直管6Baとの間から流出させるようにしたが、逆に、冷却水を、管状部材14と鉛直管6Baとの間から流入させて管状部材14から流出させるようにしても良い。
【0051】
(2)上記実施形態では、ワイヤ12を管状部材14に挿通させたが、ワイヤ12を管状部材14に挿通させずにワイヤ12と管状部材14とを隣り合うように配置しても良い。
【0052】
(3)上記実施形態では、貫通孔14Aを、管状部材14の周面に周方向に沿って複数設けたが、貫通孔14Aの数は1つであっても良い。