特許第6307064号(P6307064)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6307064金属性単層カーボンナノチューブと半導体性単層カーボンナノチューブとの分離方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6307064
(24)【登録日】2018年3月16日
(45)【発行日】2018年4月4日
(54)【発明の名称】金属性単層カーボンナノチューブと半導体性単層カーボンナノチューブとの分離方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/172 20170101AFI20180326BHJP
   B82B 1/00 20060101ALI20180326BHJP
【FI】
   C01B32/172
   B82B1/00ZNM
【請求項の数】10
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-504465(P2015-504465)
(86)(22)【出願日】2014年3月10日
(86)【国際出願番号】JP2014056214
(87)【国際公開番号】WO2014136981
(87)【国際公開日】20140912
【審査請求日】2017年2月27日
(31)【優先権主張番号】特願2013-46851(P2013-46851)
(32)【優先日】2013年3月8日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100153693
【弁理士】
【氏名又は名称】岩田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 直敏
(72)【発明者】
【氏名】新留 康郎
(72)【発明者】
【氏名】加藤 雄一
【審査官】 森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】 Sang-yong JU, et al.,Selection of carbon nanotubes with specific chiralities using helical assemblies of flavin mononucleotide,Nature Nanotechnology,2008年 6月30日,Vol.3 No.6,Page. 356-362
【文献】 Dewu LONG, et al.,Photoinduced Charge Separation in Riboflavin/Carbon Nanotubes Superstructures,The Journal of Physical Chemistry C,2008年 8月21日,Vol.122 No.33,Page. 13000-13003
【文献】 加藤雄一, 井上彩花, 新留康郎, 中嶋直敏,フラビン誘導体による単層カーボンナノチューブのカイラリティ選択的可溶化,日本化学会講演予稿集,2013年 3月 8日,Vol.93 No.2,Page. 532
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00 − 32/991
B82B 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単層カーボンナノチューブから金属性単層カーボンナノチューブと半導体性単層カーボンナノチューブとを分離する方法であって、
溶媒に対する溶解性を示すためのアルキル鎖部位と、単層カーボンナノチューブと相互作用するための芳香環を有する部位とを有する低分子化合物を含む溶液に、単層カーボンナノチューブを分散させ、該分散溶液を溶液部分と固形部分に分離することを含む、
前記方法。
【請求項2】
低分子化合物がフラビン誘導体を含むものである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
フラビン誘導体が、10-ドデシル-7,8-ジメチル-10H-ベンゾ[g]プテリジン-2,4-ジオン及び/又は10-オクタデシル-7,8-ジメチル-10H-ベンゾ[g]プテリジン-2,4-ジオンを含むものである、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記溶液部分に可溶化された半導体性単層カーボンナノチューブが含まれ、前記固形部分に金属性単層カーボンナノチューブが含まれる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記分散が、撹拌、振盪、ボールミル又は超音波照射により行われるものである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記分離が、静置、ろ過、膜分離、遠心又は超遠心により行われるものである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記溶液部分から半導体性単層カーボンナノチューブを回収すること、及び/又は、前記固形部分から金属性単層カーボンナノチューブを回収することを含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
溶媒に対する溶解性を示すためのアルキル鎖部位と、単層カーボンナノチューブと相互作用するための芳香環を有する部位とを有する低分子化合物を含む、金属性単層カーボンナノチューブと半導体性単層カーボンナノチューブとの分離剤。
【請求項9】
低分子化合物がフラビン誘導体を含むものである、請求項記載の分離剤。
【請求項10】
フラビン誘導体が、10-ドデシル-7,8-ジメチル-10H-ベンゾ[g]プテリジン-2,4-ジオン及び/又は10-オクタデシル-7,8-ジメチル-10H-ベンゾ[g]プテリジン-2,4-ジオンを含むものである、請求項記載の分離剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属性単層カーボンナノチューブと半導体性単層カーボンナノチューブとを含む単層カーボンナノチューブ(以下、CNT)から、両者を効率的に分離する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブ(CNT)は、グラフェンシート(炭素六員環からなる層)を円筒状に丸めた、直径が数nm〜数十nmのチューブ状の物質であり、熱的・化学的安定性、力学的強度、電子伝導性、熱伝導性、近赤外域まで伸びた分光特性を有する優れたナノマテリアルとして注目されている。
また、CNTには、前記グラフェンシートが1層である単層CNT(以下、SWNT)、グラフェンシートが2層である2層CNT(以下、DWNT)、グラフェンシートが2層以上の多層CNT(以下、MWNT)があるが、特にSWNTは、その量子効果が顕著であるため、注目されている。
【0003】
SWNTは、そのカイラリティ(螺旋度)の違いによってアームチェア型、ジグザグ型、及びカイラル型に分類することができ、直径などの構造面の変化が生じると共に、その電気的特性(バンドギャップ、電子準位など)はカイラル角に依存して変化することが知られている。アームチェア型のカーボンナノチューブは金属的な電気的特性を持ち、その他のカイラル角を持つカーボンナノチューブは半導体的な電気的特性を持ち得ることが知られている。この半導体的な電気的特性を持つ単層カーボンナノチューブ(以下、「半導体性SWNT」)におけるバンドギャップは、カイラリティに依存して変化する。このような物性を利用して、半導体性SWNTは、高性能トランジスタや超短光パルス発生、光スイッチなどの材料として期待されている。他方、金属的な電気的特性を持つ単層カーボンナノチューブ(以下、「金属性SWNT」)は、希少金属を用いた透明導電材料の代替品として液晶ディスプレイや太陽電池パネル用の透明電極への利用が期待されている。
【0004】
ところで、SWNTは、レーザー蒸発法、アーク放電法、及び化学気相成長法(CVD法)などの種々の方法で合成されている。しかし、現状では、いずれの合成方法を用いても、金属性SWNTと半導体性SWNTの混合物の形態でしか得られていない。
そのため、半導体性SWNTと金属性SWNTとを分離する技術の開発が進められている。
しかしながら、従来手法には、多段階の工程を必要とすること、SWNTの収率が悪いこと、といった問題がある。これは実用(産業)化に大きな障害を与えている。また従来手法には、分離に用いた分散剤の除去が難しいこと、分離されたSWNTの長さが短いこと、といった問題がある。これは上記金属性SWNTを用いた応用においては抵抗率の上昇を招き、半導体性SWNTの応用においては、トランジスタ性能の低下を招いている。
【0005】
上記従来手法としては、具体的には、例えば、界面活性剤で分散したCNTを微小電極上で誘電泳動する方法がある(非特許文献1)。また、水溶性のフラビン誘導体で分散したSWNT溶液を調製し、これに界面活性剤を加えることでフラビン誘導体により分散させた特定カイラリティのSWNTと界面活性剤で分散した特定カイラリティのSWNTとを作製し、塩析によって界面活性剤分散SWNTを取り除くことで分離する方法がある(非特許文献2)。
【0006】
また、半導体性SWNTと金属性SWNTとの混合物を液体中に分散させ、金属性SWNTを粒子と選択的に結合させ、粒子と結合した金属性SWNTを除去して半導体性SWNTを分離する方法(特許文献1)、界面活性剤で分散したSWNT溶液のpHやイオン強度を調節することで、SWNTの種類によって異なる程度のプロトン化を生じさせ、電場をかけることで金属型と半導体型とを分離する方法(特許文献9)、核酸分子により分散したSWNTを、イオン交換クロマトグラフィーにより分離する方法(特許文献5)がある。
また、界面活性剤で分散したSWNTを、密度勾配超遠心分離法により、金属性SWNTと半導体性SWNTに分離する方法がある(非特許文献3)。
【0007】
さらに、界面活性剤で分散したSWNTをゲルに含ませたSWNT含有ゲルを用いて物理的分離手段により、金属性SWNTと半導体性SWNTに分離する方法がある(特許文献6〜8、非特許文献4及び5)。
これらの方法は、分散剤でSWNTを分散させる工程と、SWNTの分離を行う工程との2段階に分かれており、多段階の工程を必要とするために工業化が難しい。また、1段階目の工程において高出力な超音波の照射と超遠心を用いるために、SWNTの収率が悪く、分離されたSWNTの長さが短いという問題がある。
【0008】
他の従来方法としては、例えば、過酸化水素によって半導体性SWNTを選択的に燃やす方法(非特許文献6)がある。また、SWNTをニトロニウムイオン含有溶液で処理した後、濾過および熱処理してSWNTに含有する金属性SWNTを除去し、半導体性SWNTを得る方法(特許文献2)、硫酸及び硝酸を用いる方法(特許文献3)、電界を印加してSWNTを選択的に移動分離し、電気伝導率範囲を絞った半導体性SWNTを得る方法(特許文献4)などがある。
これらの方法は、分散と分離が1工程で済む反面、半導体性SWNTと金属性SWNTのどちらかしか得ることができない、SWNTの回収率が低い、分離されたSWNTの長さが短く、欠陥が導入されてしまうと行った問題がある。
【0009】
さらに別の従来方法としては、例えば、ポリフルオレン誘導体(非特許文献7〜10)やポリアルキルカルバゾール(非特許文献11)、ポリアルキルチオフェン(非特許文献12)を用いて有機溶媒中で半導体性SWNTを選択的に分散させる方法がある。これらの方法は、作業工程は1ステップであり、分離においても超遠心を必要としない。しかしながら、分散される半導体性SWNTの収率が低いという問題がある。また、分散剤がポリマーであるため、SWNTと強く吸着して分離後の除去が極めて難しいという問題がある。
【0010】
他方、分散後に分散剤を除去する方法としては、例えば、オリゴマーのフルオレン誘導体を合成してSWNTを分散させる方法(非特許文献13)、光反応によりポリマーの構造を変化させてSWNTへの吸着力を弱める方法(非特許文献14)、フォルダマーを用いて溶媒条件を変えることによりSWNTへの吸着力を弱める方法(非特許文献15)がある。しかしながら、これらの方法は、半導体性SWNTと金属性SWNTの選択的分散性を有していない、分散される半導体性SWNTの収率が低いという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2007−31238号公報
【特許文献2】特開2005−325020号公報
【特許文献3】特開2005−194180号公報
【特許文献4】特開2005−104750号公報
【特許文献5】特開2006−512276号公報
【特許文献6】国際公開第2009/75293号
【特許文献7】特開2011−168417号公報
【特許文献8】特開2011−195431号公報
【特許文献9】特開2005−527455号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Krupke, R.; Linden, S.; Rapp, M.; Hennrich, F. Adv. Mater. 2006, 18, 1468-1470.
【非特許文献2】Ju, S.-Y.; Doll, J.; Sharma, I.; Papadimitrakopoulos, F. Nature nanotechnology 2008, 3, 356-362.
【非特許文献3】Arnold, M. S.; Green, A. a; Hulvat, J. F.; Stupp, S. I.; Hersam, M. C. Nat. Nanotechnol.2006, 1, 60-65.
【非特許文献4】Tanaka, T.; Jin, H.; Miyata, Y.; Fujii, S.; Suga, H.; Naitoh, Y.; Minari, T.; Miyadera, T.; Tsukagoshi, K.; Kataura, H. Nano letters 2009, 9, 1497-500.
【非特許文献5】Liu, H.; Nishide, D.; Tanaka, T.; Kataura, H. Nature communications 2011, 2, 309.
【非特許文献6】Miyata, Y.; Maniwa, Y.; Kataura, H. J. Phys. Chem. B 2006, 110, 25-29.
【非特許文献7】Nish, A.; Hwang, J.-Y.; Doig, J.; Nicholas, R. J. Nat. Nanotechnol. 2007, 2, 640-646.
【非特許文献8】Chen, F.; Wang, B.; Chen, Y.; Li, L.-J. Nano letters 2007, 7, 3013-3017.
【非特許文献9】Ozawa, H.; Fujigaya, T.; Niidome, Y.; Hotta, N.; Fujiki, M.; Nakashima, N. J. Am. Chem. Soc.2011, 133, 2651-2657.
【非特許文献10】Akazaki, K.; Toshimitsu, F.; Ozawa, H.; Fujigaya, T.; Nakashima, N. J. Am. Chem. Soc.2012, 134, 12700-12707.
【非特許文献11】Lemasson, F. A.; Strunk, T.; Gerstel, P.; Hennrich, F.; Lebedkin, S.; Barner-Kowollik, C.; Wenzel, W.; Kappes, M. M.; Mayor, M. J. Am. Chem. Soc. 2011, 133, 652-655.
【非特許文献12】Lee, H. W.; Yoon, Y.; Park, S.; Oh, J. H.; Hong, S.; Liyanage, L. S.; Wang, H.; Morishita, S.; Patil, N.; Park, Y. J.; Park, J. J.; Spakowitz, A.; Galli, G.; Gygi, F.; Wong, P. H.-S.; Tok, J. B.-H.; Kim, J. M.; Bao, Z. Nature communications 2011, 2, 541.
【非特許文献13】Berton, N.; Lemasson, F.; Hennrich, F.; Kappes, M. M.; Mayor, M. Chem. Commun. 2012, 48, 2516-2518.
【非特許文献14】Umeyama, T.; Kawabata, K.; Tezuka, N.; Matano, Y.; Miyato, Y.; Matsushige, K.; Tsujimoto, M.; Isoda, S.; Takano, M.; Imahori, H. Chemical communications (Cambridge, England)2010, 46, 5969-5971.
【非特許文献15】Zhang, Z.; Che, Y.; Smaldone, R. a; Xu, M.; Bunes, B. R.; Moore, J. S.; Zang, L. J. Am. Chem. Soc. 2010, 132, 14113-14117.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
前述した従来手法には、多段階の工程を必要とすること、SWNTの収率が悪いこと、といった問題があり、これらの問題は工業化に大きな障害を与えるものである。また、従来手法には、分離に用いた分散剤の除去が難しいこと、分離されたSWNTの長さが短いこと、といった問題がある。これは上記金属性SWNTを用いた応用においては抵抗率の上昇を招き、半導体性SWNTを用いた応用においては、トランジスタ性能の低下を招くこととなる。
そこで、本発明が解決しようとする課題は、上記問題を解決し得る、SWNTから金属性SWNTと半導体性SWNTとを効率的に分離する新規な方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、上記課題を解決するべく鋭意検討を行った。その結果、低分子化合物により、半導体性SWNTを選択的に分散させる(可溶化させる)ことにより、SWNTから、金属製SWNTと半導体性SWNTとを分離できることを見出した。また、溶媒で洗浄することでSWNTから低分子化合物を取り除くことができ、別の界面活性剤等を用いてSWNTを再分散できることを見出した。本発明を完成した。
【0015】
ここでいう低分子化合物とは、溶媒に対する溶解性を示すためのアルキル鎖部位と、単層カーボンナノチューブと相互作用するための芳香環を有する部位とを有する低分子化合物のことであり、例えば、有機溶媒に可溶なフラビン誘導体が好ましく挙げられる。具体的な工程としては、限定はされないが、例えば、フラビン誘導体とSWNTとを有機溶媒中に加え、超音波を照射してSWNTを分散させ、この分散溶液に遠心を行うことで、その上澄み(溶液部分)として半導体性SWNTが分散した溶液を得ることができる。他方、金属性SWNTは、それを含む沈殿物(固形部分)として得ることができる。
【0016】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)単層カーボンナノチューブ(SWNT)から金属性SWNTと半導体性SWNTとを分離する方法であって、溶媒に対する溶解性を示すためのアルキル鎖部位と、SWNTと相互作用するための芳香環を有する部位とを有する低分子化合物を含む溶液に、SWNTを分散させ、該分散溶液を溶液部分と固形部分に分離することを含む、前記方法。
ここで、上記低分子化合物としては、カイラリティ選択性を有する低分子化合物であればよく、特に限定はされないが、例えば、フラビン誘導体を含むものが挙げられ、具体的には、10-ドデシル-7,8-ジメチル-10H-ベンゾ[g]プテリジン-2,4-ジオン(化学構造式は、後述の構造式(1)に示す)及び/又は10-オクタデシル-7,8-ジメチル-10H-ベンゾ[g]プテリジン-2,4-ジオンを含むものが挙げられる。
【0017】
上記(1)の分離方法においては、上記溶液部分に可溶化された半導体性SWNTが含まれ、上記固形部分に金属性SWNTが含まれることが好ましい。
上記(1)の分離方法においては、上記分散は、例えば、撹拌、振盪、ボールミル又は超音波照射により行われ、上記分離は、例えば、静置、ろ過、膜分離、遠心又は超遠心により行われる。
上記(1)の分離方法は、例えば、上記溶液部分から半導体性SWNTを回収すること、及び/又は、上記固形部分から金属性SWNTを回収することをさらに含む方法であってもよい。
【0018】
(2)溶媒に対する溶解性を示すためのアルキル鎖部位と、SWNTと相互作用するための芳香環を有する部位とを有する低分子化合物を含む、金属性SWNTと半導体性SWNTとの分離剤。
ここで、上記低分子化合物としては、カイラリティ選択性を有する低分子化合物であればよく、特に限定はされないが、例えば、フラビン誘導体を含むものが挙げられ、具体的には、10-ドデシル-7,8-ジメチル-10H-ベンゾ[g]プテリジン-2,4-ジオン(化学構造式は、後述の構造式(1)に示す)及び/又は10-オクタデシル-7,8-ジメチル-10H-ベンゾ[g]プテリジン-2,4-ジオンを含むものが挙げられる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、作業工程が1ステップであり、かつ安価な設備で、半導体性SWNTと金属性SWNTとが分離されたSWNTを得ることができる。また、高い回収率で、従来手法と比較して長さの長いSWNTが得られる。さらに、分離後は分散剤を除去することができるため、分離によって広範な用途への応用が制限されることがない。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】フラビン誘導体の一つである10-ドデシル-7,8-ジメチル-10H-ベンゾ[g]プテリジン-2,4-ジオン(10-Dodecyl-7,8-dimethyl-10H-benzo[g]pteridine-2,4-dione)(以下、FC12又はdmC12と称することがある)でトルエン中に分散させたSWNTの吸収スペクトル(実線)とFC12の吸収スペクトル(点線)を示す図である。 図1では、金属性SWNTの吸収は400〜600 nmに見られるが、FC12で分散させたSWNTの吸収スペクトルでは500〜600 nmに吸収ピークが見られない。 950〜1600 nmは半導体性SWNTのEs11に由来する吸収である。 600〜900 nmは半導体性SWNTのEs22に由来する吸収である。
【0021】
図2】FC12でトルエン中に分散させたSWNTのフォトルミネッセンススペクトルを示す図である。
図3】FC12でトルエン中に分散させたSWNTのRamanスペクトル(実線)、および水に分散させたSWNTのRamanスペクトルを示す図である。
図4】FC12でトルエン中に分散させたSWNTのAFM像を示す図である。
図5】AFM像から求めたFC12でトルエン中に分散させたSWNTの長さ分布を示す図である。平均長さは1.1μmである。
【0022】
図6】FC12でトルエン中に分散させたSWNTを再回収し、コール酸ナトリウムを用いて再分散させた溶液の吸収スペクトル(実線)およびコール酸ナトリウムを用いて分散させたSWNT溶液の吸収スペクトル(点線、コントロール)を示す図である。450〜600 nmの吸光度が相対的に低いことは金属性SWNTの減少を示している。
図7】FC12でトルエン中に分散させたSWNTの吸収スペクトルを示す図である。遠心加速度を変えた場合。
図8】FC12でo-キシレン中に分散させたSWNTの吸収スペクトルを示す図である。
図9】FC12でp-キシレン中に分散させたSWNTの吸収スペクトルを示す図である。
図10】FC12でo-ジクロロベンゼン中に分散させたSWNTの吸収スペクトルを示す図である。
図11】フラビン誘導体の一つである10-ドデシル-7,8-ジメチル-10H-ベンゾ[g]プテリジン-2,4-ジオン(dmC12又はFC12)における3位のイミド水素(-NH-)の有無による、半導体性SWNT上のdmC12(FC12)の平均移動距離の測定結果を示す図である。当該測定は、分子力学計算(MM)で構造最適化を行った後、MD(Molecular Dynamics)を行った。
図12】フラビン誘導体の一つである10-ドデシル-7,8-ジメチル-10H-ベンゾ[g]プテリジン-2,4-ジオン(dmC12又はFC12)のダイマーについて、各SWNT(半導体性SWNT及び金属性SWNT)上のdmC12(FC12)の平均移動距離の測定結果を示す図である。当該測定は、分子力学計算(MM)で構造最適化を行った後、MD(Molecular Dynamics)を行った。
図13】フラビン誘導体の一つである10-ドデシル-7,8-ジメチル-10H-ベンゾ[g]プテリジン-2,4-ジオン(dmC12又はFC12)又は10-オクタデシル-7,8-ジメチル-10H-ベンゾ[g]プテリジン-2,4-ジオン(以下、dmC18と称することがある)でトルエン中に分散させたSWNTの、吸収スペクトル(UV-vis-NIR)及びフォトルミネッセンススペクトル(2D-PL)をそれぞれ示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施することができる。
なお、本明細書は、本願優先権主張の基礎となる特願2013-046851号明細書(2013年3月18日出願)の全体を包含する。また、本明細書において引用された全ての刊行物、例えば先行技術文献、及び公開公報、特許公報その他の特許文献は、参照として本明細書に組み込まれる。
本願明細書等においては、前述のとおり、単層カーボンナノチューブを「SWNT」と表記し、半導体性単層カーボンナノチューブを「半導体性SWNT」と表記し、金属性単層カーボンナノチューブを「金属性SWNT」と表記する。
【0024】
本発明は、前述のとおり、金属性SWNTと半導体性SWNTとが混在してなるSWNTから、金属性SWNTと半導体性SWNTとを分離する方法である。
当該分離方法は、具体的には、所定の物性・構造を有する低分子化合物を含む溶液に、SWNTを分散させ、該分散溶液を溶液部分と固形部分に分離することを含む方法である。この方法により、前記溶液部分には可溶化された半導体性SWNTが含まれ(分離され)、前記固形部分には金属性SWNTが含まれる(分離される)。また、当該分離方法は、上記溶液部分から半導体性SWNTを回収することや、前記固形部分から金属性SWNTを回収することも含んでいてもよい。
【0025】
本発明の分離方法において、上記分離の対象となるSWNTは、例えば、HiPCO法、CoMocat法、ACCVD法、アーク放電法、レーザーアブレーション法等により合成されたものが挙げられる。
【0026】
本発明の分離方法において、分散剤として使用する低分子化合物としては、溶媒に対する溶解性を示すためのアルキル鎖部位と、SWNTと相互作用するための芳香環を有する部位とを有する低分子化合物が挙げられる。当該低分子化合物は、カイラリティ選択性を有する低分子化合物であればよく、特に限定はされないが、例えば、フラビン誘導体、特に有機溶媒に可溶なフラビン誘導体が好ましく挙げられる。当該フラビン誘導体としては、具体的には、例えば、下記構造式(1)で示される10-ドデシル-7,8-ジメチル-10H-ベンゾ[g]プテリジン-2,4-ジオン(FC12又はdmC12)等が好ましいが、特にこれに限定はされず、例えば、下記構造式中の-C12H25で示されるアルキル基の部分については、溶媒に対する溶解性を示し得る範囲でアルキル基の長さにバリエーションがあってもよく、具体的には-CmH2m+1(但し、mは、5〜25の整数が好ましく、10〜20の整数がより好ましい。)で示されるアルキル基であるもの等が好ましく挙げられる。特に、上記mが18である場合のフラビン誘導体、すなわち10-オクタデシル-7,8-ジメチル-10H-ベンゾ[g]プテリジン-2,4-ジオン(dmC18)が好ましく挙げられる。
【0027】
【化1】
【0028】
ここで、上記構造式(1)で示されるようなフラビン誘導体(上述したアルキル基「-CmH2m+1」の長さが異なるものも含む)において、7位及び8位に存在する「メチル基(-CH3)」は、分離対象であるSWNTとの間でCH-π相互作用(すなわち、炭素に結合した水素とπ電子系の間に働く引力)を生じさせ、SWNT(特に半導体性SWNT)の溶解性を向上させることができる点で重要であると考えられる。
また、当該フラビン誘導体の3位に存在する「イミド水素(-NH-)」は、使用するフラビン誘導体同士を水素結合によりダイマー形成させるために働き、その結果、より多くのフラビン誘導体をSWNT(特に半導体性SWNT)に相互作用させる(吸着させる)ことができる点で重要であると考えられる。このことは、後述する実施例6及び図11に示すように、当該イミド水素があるフラビン誘導体の場合は、当該イミド水素がない場合に比べて、半導体性SWNT上での平均移動距離が小さい、すなわち半導体性SWNTに対する相互作用(吸着性)が大きいことからも理解できる。
さらに、SWNTに相互作用する(吸着する)上記フラビン誘導体は、後述する実施例7及び図11に示すように、相互作用する対象が半導体性SWNTであるか金属性SWNTであるかで、SWNT上での平均移動距離、すなわちSWNTに対する相互作用(吸着性)に有意な差があり(平均移動距離: 金属性SWNT>半導体性SWNT)、したがって、半導体性SWNTの溶解性をより高くすることができるという効果を有し得る。
【0029】
本発明の分離方法において用いる溶媒としては、公知の有機溶媒であればよく、特に限定はされないが、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等。クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、クロロメチルベンゼン、ブロモベンゼン等。ナフタレン誘導体等。ヘキサン、シクロヘキサン、THF、DMF等が挙げられる。
【0030】
上記溶媒に、分散剤としての低分子化合物と、分離対象としてのSWNTを加えた後、分散させる(分散溶液を調製する)際の手段としては、特に限定はされないが、例えば、撹拌、振盪、ボールミル、超音波照射(バス型、プローブ型、カップ型)等の手段が挙げられる。
当該分散は、例えば超音波照射によって行う場合、5〜80℃(より好ましくは10〜40℃)の温度条件下で、5〜720分(より好ましくは10〜180分)行うことが好ましいが、特に限定はされない。
【0031】
上記分散後、分散溶液を溶液部分と固形部分に分離する際の手段としては、特に限定はされないが、例えば、静置、ろ過、膜分離、遠心、超遠心等の手段が挙げられる。
【0032】
分離後の溶液部分から半導体性SWNTを回収する手段としては、特に限定はされないが、例えば、自然乾燥、エバポレータ等により溶媒を除去する手段や、あるいは、溶液部分を加熱するか、又は分散剤にとっての良溶媒の滴下によって一度凝集させた後、ろ過や膜分離を行う手段が好ましく挙げられる。また、分散剤を除去する手段としては、特に限定はされないが、再結晶(冷却による溶解度変化を用いた析出)、線上、昇華、燃焼等の手段が好ましく挙げられる。
他方、分離後の固形部分から金属性SWNTを回収する手段としては、特に限定はされないが、例えば、ろ過、膜分離、遠心分離、超遠心等の手段が好ましく挙げられる。
【0033】
本発明においては、金属性SWNTと半導体性SWNTとが混在してなるSWNTから、金属性SWNTと半導体性SWNTとを分離することのできる分散剤を提供することもできる。
当該分散剤は、具体的には、有効成分として、溶媒に対する溶解性を示すためのアルキル鎖部位と、単層カーボンナノチューブと相互作用するための芳香環を有する部位とを有する低分子化合物を含むものであり、当該低分子化合物は、カイラリティ選択性を有する低分子化合物であれば特に限定はされない。
当該低分子化合物としては、例えば、フラビン誘導体を含むものが好ましく、具体的には、例えば、前記構造式(1)で示される10-ドデシル-7,8-ジメチル-10H-ベンゾ[g]プテリジン-2,4-ジオン(FC12又はdmC12)等を含むものがより好ましいが、特にこれに限定はされず、例えば、前記構造式(1)中の-C12H25で示されるアルキル基の部分が、溶媒に対する溶解性を示し得る範囲でアルキル基の長さにバリエーションがあってもよく、具体的には-CmH2m+1(但し、mは、5〜25の整数が好ましく、10〜20の整数がより好ましい。)で示されるアルキル基であるもの等が好ましく挙げられる。特に、上記mが18である場合のフラビン誘導体、すなわち10-オクタデシル-7,8-ジメチル-10H-ベンゾ[g]プテリジン-2,4-ジオン(dmC18)が好ましく挙げられる。
本発明の分離剤は、有効成分としての上記低分子化合物以外に、適宜、他の成分を含んでいてもよく、特に限定はされない。
【0034】
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0035】
フラビン誘導体の一つである10-ドデシル-7,8-ジメチル-10H-ベンゾ[g]プテリジン-2,4-ジオン(FC12又はdmC12;下記構造式(1) 参照)を合成した。
【0036】
【化2】
【0037】
トルエンにFC12とCVD法の一つであるHiPCO法により合成されたSWNT(酸により触媒除去済みのもの)を0.6 mg/mLとなるよう加え、バス型超音波照射器(BRANSON5510)により超音波を3時間照射した。その後、分散液を冷却遠心機(himac CF-15R)により10000×G、25℃の条件で10分遠心し、上澄みを回収した。
【0038】
回収した上澄み溶液の吸収スペクトルを測定した。図1中の実線に、トルエン中に分散させたSWNTの可視および近赤外の吸収スペクトルを示す。光路長は1 mmである。ここでは、半導体性SWNTの第一バンドギャップEs11とEs22とが見られる。これら二つのバンドからFC12が半導体性SWNTを孤立分散させていることが明らかである。波長500 nm以下の可視の大きな吸収は、FC12によるものである(図1中の点線、0.1 mg/mL FC12 toluene溶液)。500〜550 nmに孤立分散のSWNTのバンドが見られないことおよびベースラインの低さはFC12による半導体性SWNTの選択的可溶化を示している。光路長1 mmに対してのSWNTの吸光度が0.2程度あるということは、従来手法で用いられる一般的な界面活性剤(ドデシル硫酸ナトリウムやコール酸ナトリウム)による可溶化に対して、およそ10倍程度のSWNTを孤立分散させているということを意味する。SWNTの濃度と収率を試算すると、それぞれおおよそ0.05〜0.12 mg/mLと8〜20 %となる。この試算方法は篠原らの論文(Kuwahara, S.; Sugai, T.; Shinohara, H. Phys. Chem. Chem. Phys. 2009, 11, 1091-1097.)を参考にした。半導体性SWNTと金属性SWNTの両方が含まれるドデシル硫酸ナトリウムにより分散したSWNTの280 nmの吸光係数が2.1 ± 0.7 x 10-5 mg mL-1cm-1である(前掲Kuwahara, S. et al.,Chem. Chem. Phys. 2009)。SWNTの吸収スペクトルの形状から判断すると、可視領域の吸光係数は、280 nmの吸光係数のおおよそ半分程度に当たる(前掲Kuwahara, S. et al.,Chem. Chem. Phys. 2009)。この計算を用いて図1のスペクトルから収量を計算すると、600 nmの吸光度0.05を採用した場合0.05 mg/mLであり、700 nmの吸光度0.12を採用した場合0.12 mg/mLとなる。
【0039】
回収した上澄み溶液のフォトルミネッセンスを測定した。図2に、トルエン中に分散させたSWNTのフォトルミネッセンス2次元マップを示す。HiPCO法で合成される半導体性SWNTがおおよそ満遍なく可溶化されていることが分かる。
回収した上澄みの溶液をメンブレンフィルターろ過し(PTFE 0.1μm(Millipore))、アセトンで洗浄した。ろ紙のラマンスペクトルを測定した。コントロールとして、HiPCO法SWNTを水に分散させ、メンブレンフィルターろ過し(HTTP 0.4μm(Millipore))、ろ紙のラマンスペクトルを測定した(励起光波長633 nm)。ラマンスペクトルを図3に示す。HiPCO法で合成されるSWNTのMetalic/Semiconductorの比率(金属性SWNT/半導体性SWNT)は、吸収スペクトルから求めるのは困難である(Miyata, Y.; Yanagi, K.; Maniwa, Y.; Kataura, H. J. Phys. Chem. C 2008, 112, 13187-13191.)。そこで、633 nm励起のラマンスペクトルのSWNTのRBMのピーク面積比率から概算されている(前掲の非特許文献4)。ラマンスペクトルのRBMのピークの面積で計算したところ、上記Metalic/Semiconductorの比率は、水分散HiPCOを基準として97.4 %となった。
【0040】
SWNTの長さの分布を調べるために、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定した。回収した上澄みの溶液をスピンコートし、ジクロロメタンで洗浄した。図4に、SWNTのAFM像を示す。ランダムに選んだ48のSWNTの像から、長さの分布を求めた。長さの分布を図5に示す。平均長さは1.1μmであった。従来手法により得られる半導体性SWNTの平均長さは0.4μm程度であるため、およそ2〜3倍の長さのSWNTが得られたことなる。これは、FC12によるSWNTの分散量が大きいことに由来するものである。分散性が良好であるため、バス型超音波照射器による超音波照射というような、穏和な条件で分散できるため、SWNTが超音波によって短くなることを避けることができる。
【0041】
回収した上澄み溶液30 mLを冷凍庫(-5℃)で冷やして過剰なFC12を析出し、除去した。エバポレータでトルエンを蒸発させ、SWNTをサンプル管側面に析出させた。このSWNTを500 mLのアセトンで13回洗浄した。1 wt%のコール酸ナトリウム水溶液10 mLをそのサンプル管に加え、バス型超音波照射器で3時間、水浴で冷やしながらプローブ型超音波照射器で30分超音波を照射した。その溶液を超遠心分離機により120000×G、25℃の条件で1時間遠心し、上澄みを回収した。上澄みの吸収スペクトルを測定した。その結果を図6の実線に示す。他方、コントロールとして、半導体性SWNTと金属性SWNTとを分離していないHiPCO法で合成されたSWNTをコール酸ナトリウムにより分散させた溶液を遠心し回収した上澄みの吸収スペクトルを、図6の点線に示す。吸収スペクトルを見ると、500〜1400 nmに孤立分散したSWNTの吸収が見られた。前述の従来手法に示すポリフルオレン誘導体等により分散した半導体性SWNTは洗浄できず、界面活性剤を用いて水溶液に分散させることはできない。この結果は、FC12が低分子化合物であるため洗浄によって取り除くことができることを示している。コントロールに対して、450〜600 nmの吸光度が相対的に低いことから、金属性SWNTが相対的に減少していることが示された。
【実施例2】
【0042】
実施例1において、トルエンのFC12とSWNT分散液の遠心加速度条件を、100×G、500×G、1000×G、3000×Gと変化させ、回収した上澄みの吸収スペクトルを測定した。吸収スペクトルを図7に示す。実施例1での10000×Gの条件と変わらずに、半導体性SWNTの選択的可溶化が見られた。
【実施例3】
【0043】
o-キシレンにFC12とHiPCO法SWNT(HiPCO法により合成されたSWNT)(触媒除去済みのもの)を加え、バス型超音波照射器(BRANSON5510)により超音波を3時間照射した。その後、分散液を冷却遠心機(himac CF-15R)により10000×G、25℃の条件で10分遠心し、上澄みを回収した。回収した上澄み溶液の吸収スペクトルを測定した(光路長1 cm)。吸収スペクトルを図8に示す。半導体性SWNTの選択的可溶化が見られた。
【実施例4】
【0044】
p-キシレンにFC12とHiPCO法SWNT(触媒除去済みのもの)を加え、バス型超音波照射器(BRANSON5510)により超音波を3時間照射した。その後、分散液を冷却遠心機(himac CF-15R)により10000×G、25℃の条件で10分遠心し、上澄みを回収した。回収した上澄み溶液の吸収スペクトルを測定した(光路長1 cm)。吸収スペクトルを図9に示す。半導体性SWNTの選択的可溶化が見られた。
【実施例5】
【0045】
o-ジクロロベンゼンにFC12とHiPCO法SWNT(触媒除去済み)を加え、バス型超音波照射器(BRANSON5510)により超音波を3時間照射した。その後、分散液を冷却遠心機(himac CF-15R)により10000×G、25℃の条件で10分遠心し、上澄みを回収した。回収した上澄み溶液の吸収スペクトルを測定した(光路長1 cm)。吸収スペクトルを図10に示す。半導体性SWNTの選択的可溶化が見られた。
【実施例6】
【0046】
フラビン誘導体(FC12又はdmC12)における3位のイミド水素(-NH-)の有無、すなわちフラビン誘導体同士の水素結合の有無(ダイマー形成能の有無)による、半導体性SWNTに対する相互作用(吸着性)の比較を、下記の測定及び実験条件による半導体性SWNT上のフラビン誘導体の平均移動距離の測定により行った。具体的には、分子力学計算(MM)で構造最適化を行った後、MD(Molecular Dynamics)を行った。その結果を、図11に示す。

<測定条件・実験条件>
・MM(分子力学計算):SCHRODINGER MACROMODEL 9.6
・MD(Molecular Dynamics):Desmond
・分子力場:OPLS 2005
・溶媒:トルエン
・温度:300 K
・時間:1.2 ns
・(8,6) SWNT(半導体性SWNT)上にフラビン誘導体分子を56個配置

図11の結果から、イミド水素(-NH-)を有するフラビン誘導体(dmC12)の方が、半導体性SWNT上での平均移動距離が小さく、すなわち半導体性SWNTに対する相互作用が大きい(吸着性が高い)ことが認められた。
【実施例7】
【0047】
フラビン誘導体(FC12又はdmC12)(詳しくは、当該フラビン誘導体同士で形成されたダイマー)による、半導体性SWNTと金属性SWNTとに対する相互作用(吸着性)の比較を、下記の測定及び実験条件による各SWNT上のフラビン誘導体の平均移動距離の測定により行った。具体的には、分子力学計算(MM)で構造最適化を行った後、MD(Molecular Dynamics)を行った。その結果を、図12に示す。

<測定条件・実験条件>
・MM(分子力学計算):SCHRODINGER MACROMODEL 9.6
・MD(Molecular Dynamics):Desmond
・分子力場:OPLS 2005
・溶媒:トルエン
・温度:300 K
・時間:1.2 ns
・SWNT((8,6) SWNT(半導体性SWNT)及び(12,0) SWNT(金属性SWNT))上にそれぞれフラビン誘導体ダイマーを28個配置

図12の結果から、各SWNT上のフラビン誘導体ダイマーの平均移動距離は、金属製SWNTより半導体性SWNTの方が有意に小さかった。このことから、当該フラビン誘導体ダイマーは、金属製SWNTよりも半導体性SWNTに対する相互作用の方が有意に大きい(半導体性SWNTに対する吸着性の方が有意に高い)ことが認められ、半導体性SWNTを選択的に可溶化可能なことが認められた。
【実施例8】
【0048】
実施例1と同様の手段・方法により、フラビン誘導体の一つである10-オクタデシル-7,8-ジメチル-10H-ベンゾ[g]プテリジン-2,4-ジオン(dmC18)でトルエン中に分散させたSWNTの吸収スペクトルとフォトルミネッセンススペクトルを、dmC12(FC12)でトルエン中に分散させた場合のSWNTの吸収スペクトルとフォトルミネッセンススペクトル(図1、2参照)と同様に、測定した。dmC18を使用した場合のSWNTの吸収スペクトル(UV-vis-NIR)とフォトルミネッセンススペクトル(2D-PL)を、それぞれ図13に示した。
その結果、dmC18を使用した場合も、dmC12(FC12)を使用した場合と同様に、SWNTのうち半導体性SWNTを選択的に可溶化できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明によれば、作業工程が1ステップであり、かつ安価な設備で、半導体性SWNTと金属性SWNTとが分離されたSWNTを得ることができるため、本発明は極めて有用性に優れたものである。また、本発明によれば、高い回収率で、従来手法と比較して長さの長いSWNTが得られる。さらに、本発明においては、半導体性SWNTと金属性SWNTとの分離後は分散剤を除去することができるため、分離によって広範な用途への応用が制限されることがない。そのため、本発明は実用性にも極めて優れたものである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13