(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記光起電力層が、n型層、i型層及びp型層の組合せ、n型層、バッファ層及びp型層の組合せ、n型層及びp型層の組合せ、並びにn型層及び金属薄膜の組合せからなる群から選択されるいずれか一つを備えてなる、請求項1〜4のいずれか一項に記載の光起電力素子。
前記光起電力層が、i型層及びp型層の組合せ、バッファ層及びp型層の組合せ、p型層単独、並びに金属薄膜単独からなる群から選択されるいずれか一つを備えてなり、且つ、前記配向多結晶酸化亜鉛焼結体がn型ドーパントでドープされ、それにより前記基板がn型層として機能する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の光起電力素子。
前記n型ドーパントが、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、硼素(B)、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)及びシリコン(Si)からなる群から選択される1種以上を含む、請求項6に記載の光起電力素子。
【発明を実施するための形態】
【0014】
光起電力素子
本発明は光起電力素子に関する。光起電力素子とは、物質に光を照射することで起電力が発生する現象(すなわち光起電力効果)を利用する素子である。本発明における光起電力素子は、PIN型フォトダイオード、PN型フォトダイオード、ショットキーフォトダイオード等の種々の形態を有することができ、紫外線フォトダイオード/センサー、可視光フォトダイオード/センサー、赤外線フォトダイオード/センサー等の各種センサー、シリコン系太陽電池、CIGS系太陽電池等の各種太陽電池等の種々の用途を包含する。本発明の好ましい態様においては、光起電力素子はシリコン系太陽電池又はCIGS系太陽電池として用いられる。本発明の別の好ましい態様においては、光起電力素子は紫外線センサーとして用いられる。
【0015】
図1に、本発明の一態様による光起電力素子の構成を模式的に示す。
図1に示される光起電力素子10は、基板12と、基板上に設けられる光起電力層14と、光起電力層上に設けられる電極16とを備えてなる。なお、光起電力素子10はPIN型フォトダイオードとしての層構成を有しているが、本発明の光起電力素子はこれに限らず様々な形態及び用途を有しうることは前述したとおりである。
【0016】
基板12は、板状の配向多結晶酸化亜鉛焼結体から構成される。酸化亜鉛結晶は六方晶ウルツ鉱型構造を有しており、配向多結晶酸化亜鉛焼結体は無数の酸化亜鉛結晶粒子が配向された状態で焼結により互いに結合されてなる固体である。酸化亜鉛結晶粒子は酸化亜鉛を含んで構成される粒子であり、他の元素として、ドーパント及び不可避不純物を含んでいてもよいし、酸化亜鉛及び不可避不純物からなるものであってもよい。そのような他の元素は六方晶ウルツ鉱型構造のZnサイトやOサイトに置換されていてもよいし、結晶構造を構成しない添加元素として含まれていてもよいし、あるいは粒界に存在するものであってもよい。また、酸化亜鉛焼結体も、酸化亜鉛結晶粒子以外に他の相又は上述したような他の元素を含んでいてもよいが、好ましくは酸化亜鉛結晶粒子及び不可避不純物からなる。もっとも、配向多結晶酸化亜鉛焼結体は、MgO、CdO、ZnS、ZnSe及びZnTeからなる群から選択される1種以上の結晶と混晶化されたZnOからなるものであってもよく、また、配向多結晶酸化亜鉛焼結体にはn型ドーパントがドープされ、それにより基板12がn型酸化亜鉛層として機能するように構成されてもよい。n型ドーパントの好ましい例としては、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、硼素(B)、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)及びシリコン(Si)からなる群から選択される1種以上が挙げられる。
【0017】
いずれにせよ、配向多結晶酸化亜鉛焼結体は、多数の酸化亜鉛単結晶粒子を含んで構成される酸化亜鉛焼結体からなり、多数の単結晶粒子が一定の方向にある程度又は高度に配向したものである。このように配向された多結晶酸化亜鉛焼結体は、酸化亜鉛単結晶よりも高強度で且つ安価でありながら、高い光電変換効率を実現可能とする。これは、多結晶酸化亜鉛焼結体上に光起電力層を形成する場合、その配向性に起因して光起電力層の構成物質のスムーズな結晶成長が促される結果、結晶粒子の大粒径化や光起電力層の結晶品質の向上がもたらされるためである。例えば、シリコン系太陽電池の場合は、シリコン結晶の大粒径化が可能になり発電効率が向上する。同様に、CIGS系太陽電池の場合には、CIGS結晶の大粒径化が可能になり発電効率が向上する。一方、紫外線センサーの場合には、ガラス板や金属板等の基板上に成長させるのと比べて、半導体機能層である光起電力層の結晶品質が向上し、センサー感度が向上する。特に、配向された基板12上に光起電力層14の構成層をエピタキシャル成長により形成した場合、法線方向に結晶方位が揃った状態が実現されるため、前述した結晶粒子の大粒径化及び/又は光起電力層の結晶品質の向上をより高度に実現して、より高い光電変換効率が得られる。そもそも、このように配向された多結晶酸化亜鉛焼結体は、酸化亜鉛単結晶よりも高強度で且つ安価であり、それ故、単結晶基板を用いる場合よりも非常に安価でありながら大面積の光起電力素子の製造も可能となる。
【0018】
一方、配向していない多結晶酸化亜鉛焼結体を基板に用いた場合、光起電力層14の構成層を形成する際に、様々な結晶方位の粒子がランダムな方向に結晶成長する。この結果、互いの結晶相が干渉してエピタキシャル成長を阻害し、基板の法線方向に結晶方位が揃った状態を形成することができない。また、面方位によって結晶成長速度が異なるため均質、平坦な光起電力層を形成することができず、良質な光起電力層を形成することが困難である。
【0019】
前述のとおり、配向多結晶酸化亜鉛基板を用いることで単結晶基板を用いる場合よりも安価で大面積の光起電力素子の製造が可能となる。従って、基板12は25cm
2以上の面積を有するのが好ましく、より好ましくは100cm
2以上であり、更に好ましくは400cm
2以上である。別の表現をすれば、基板12は5cm×5cm以上の大きさを有するのが好ましく、より好ましくは10cm×10cm以上であり、更に好ましくは20cm×20cm以上である。基板12は大きければ大きいほど光起電力素子として太陽電池等への用途が広がる点で好ましく、その面積ないし大きさに上限は規定されるべきではない。
【0020】
配向多結晶酸化亜鉛焼結体を構成する酸化亜鉛単結晶粒子の平均粒径は、1〜100μmであるのが好ましく、より好ましくは10〜80μmであり、さらに好ましくは20〜50μmである。これらの範囲内であると光電変換効率、機械強度等に優れる。なお、本発明における焼結体粒子の平均粒径は以下の方法により測定されるものである。すなわち、板状焼結体より、適切なサイズの試料を切り出し、板面と垂直な面を研磨し、濃度0.3Mの硝酸にて10秒間エッチングを行った後、走査電子顕微鏡にて画像を撮影する。視野範囲は、板面に平行及び垂直な直線を引いた場合に、いずれの直線も10個から30個の粒子と交わるような直線が引けるような視野範囲とする。板面に平行に引いた3本の直線において、直線が交わる全ての粒子に対し、個々の粒子の内側の線分の長さを平均したものに1.5を乗じた値をa
1とし、同様に、板面に垂直に引いた3本の直線において、直線が交わる全ての粒子に対し、個々の粒子の内側の線分の長さを平均したものに1.5を乗じた値をa
2とし、(a
1+a
2)/2を平均粒径とする。
【0021】
配向多結晶酸化亜鉛焼結体の配向面方位は特に限定されるものではないが、(100)面、(002)面、又は(101)面が好ましく例示される。配向度については、例えば、基板表面における配向度が50%以上であるのが好ましく、より好ましくは65%以上、さらに好ましくは75%以上である。この配向度は、XRD装置(例えば、株式会社リガク製、製品名「RINT−TTR III」)を用い、板状酸化亜鉛の表面に対してX線を照射したときのXRDプロファイルを測定し、以下の式により算出することにより得られるものである。
【数1】
【0022】
光起電力層14が基板上に設けられる。光起電力層14は、光起電力素子における光電変換機能を担う層であればよく、基板12の構成材料である配向多結晶酸化亜鉛焼結体上で所望の光電変換機能を確保できるかぎり、光起電力素子の種類や方式は限定されない。光起電力層14は、n型層、i型層及びp型層の組合せ、n型層、バッファ層及びp型層の組合せ、n型層及びp型層の組合せ、並びにn型層及び金属薄膜の組合せからなる群から選択されるいずれか一つを備えてなるのが好ましい。この点、図示例の光起電力層14は、p型層14a、i型層14b及びn型層14cの組合せからなる。このようなn型層、i型層及びp型層の組合せは、PIN型フォトダイオードに相当する層構成であり、PIN型フォトダイオードにおいて採用される公知の層構成に従って適宜各層を構成すればよい。n型層、バッファ層及びp型層の組合せは、PIN型フォトダイオードの一種又はその類似形態とみなすこともできるが、CIGS太陽電池等の太陽電池において採用される公知の層構成に従って適宜各層を構成すればよい。また、n型層及びp型層の組合せは、PN型フォトダイオードに相当する層構成であり、PN型フォトダイオードにおいて採用される公知の層構成に従って適宜各層を構成すればよい。さらに、n型層及び金属薄膜の組合せは、ショットキーフォトダイオードに相当する層構成であり、ショットキーフォトダイオードにおいて採用される公知の層構成に従って適宜各層を構成すればよく、例えば金属薄膜としては仕事関数の大きな金属(例えばAu、Pt等)の極薄膜によるショットキーコンタクトにより空乏層を形成する構成とされる。すなわち、本発明の光起電力素子は、PIN型フォトダイオード、PN型フォトダイオード、及びショットキーフォトダイオードのいずれか一種であるのが好ましい。もっとも、前述のように配向多結晶酸化亜鉛焼結体がn型ドーパントでドープされ、それにより基板がn型層として機能する場合には、光起電力層が、i型層及びp型層の組合せ、バッファ層及びp型層の組合せ、p型層単独、並びに金属薄膜単独からなる群から選択されるいずれか一つを備えてなるのが好ましいといえる。この場合には、n型基板、i型層及びp型層の組合せ、n型基板、バッファ層及びp型層の組合せ、n型基板及びp型層単独の組合せ、並びにn型基板及び金属薄膜の組合せが、それぞれ、PIN型フォトダイオード、太陽電池、PN型フォトダイオード、及びショットキーフォトダイオードに相当する層構成を成すといえる。また、p型層−i型層−n型層の一形態として、i型層の厚みを薄くした量子井戸構造を採りうる。光起電力層14を構成する各層は、光起電力素子の最終用途に応じて公知技術に従い適宜決定すればよい。
【0023】
シリコン系太陽電池用の光起電力素子の場合、特許文献1に記載されるような公知の構成が採用可能である。例えば、p型層及びn型層は、非晶質シリコン系半導体材料、微結晶シリコン系半導体材料、または多結晶シリコン系半導体材料から構成すればよい。非晶質(a−と略記する)シリコン系半導体材料の例としては、a−Si、a−SiC、a−SiGe a−SiGeC、a−SiO、a−SiN、a−SiON、a−SiCON等が挙げられる。微結晶(μc−と略記する)シリコン系半導体材料の例としては、μc−Si、μc−SiC、μc−SiGe、μc−SiO、μc−SiGeC、μc−SiN、μc−SiON、μc−SiOCN等が挙げられる。多結晶(poly−と略記する)シリコン系半導体材料の例としては、poly−Si、poly−SiC、poly−SiGe等が挙げられる。特に光入射側の層としては、光吸収の少ない結晶性の半導体材料かバンドギャップの広い非晶質半導体層が適しており、具体的にはa−SiC、a−SiO、a−SiN、a−SiON、a−SiCON、μc−Si、μc−SiC、μc−SiO、μc−SiN、μc−SiON、μc−SiOCN、poly−Si、poly−SiC等が挙げられる。i型層は、水素を含有する非晶質シリコン系半導体材料から構成され、例えばa−Si、a−SiC、a−SiGe、a−SiGeC、a−SiSn、a−SiSnC、a−SiSnGe、a−SiSnGeC等が挙げられる。i型層としては僅かにp型又は僅かにn型の層も使用できる。伝導型をp型またはn型にするために導入される価電子制御剤の導入量は、1000ppm〜10%が好ましい範囲として挙げられる。
【0024】
CIGS系太陽電池の光起電力素子の場合、特許文献4に記載されるような公知の構成を応用可能である。例えば、p型層はCu(In,Ga)Se
2(CIGS)、Cu(In,Ga)(SeS)
2(CIGSS)又はそれらの組合せで構成すればよい。p型層とn型層の間に設けられるバッファ層は、CdS、ZnS、ZnO、ZnMgO、ZnS(O,OH)又はこれらの組合せで構成すればよいが、好ましくはCdSである。n型層としてはn型ZnOが好ましく用いられる。したがって、n型ZnOとして板状の配向多結晶酸化亜鉛焼結体から構成される基板を用いることができる。CIGS系太陽電池の従来の製造においては、ガラス基板上にMo電極層、p型層、バッファ層及びn型層がこの順に形成されるのが一般的であったが、本発明の光起電力素子によればこのn型層として配向多結晶酸化亜鉛焼結体の基板を用いることができる。その場合、従来の製造順序とは逆に、配向多結晶酸化亜鉛焼結体(n型酸化亜鉛)の基板上に、バッファ層、p型層、及びMo電極層をこの順に形成することでCIGS系太陽電池を構築可能となる。これにより、従来必要とされていたガラス基板を不要として製造工程の簡素化及び低コスト化をも図れる。なお、上記説明はCIGS系太陽電池に関して行ったが、CIGS系可視光赤外光用フォトダイオードの構築にも適している。
【0025】
ところで、III−V族化合物半導体は、III−V族化合物半導体を用いて単一のpn接合を構成することで高い変換効率が得られるだけでなく、互いに異なる波長領域の光を吸収する半導体を用いて複数のpn接合を構成する多接合太陽電池にも利用可能である。具体的には、In
(1−x)Ga
xN系太陽電池(バンドギャップ:約0.7〜3.4eV、0≦x<1)が知られている(例えば特許文献11(特許第5364782号)参照)。III−V族化合物半導体系太陽電池用の光起電力素子の場合、特許文献11に記載されるような公知の構成を応用可能である。p型層としては、Mg、Zn等のp型ドーパントを少なくとも一種ドープしたIn
(1−x)Ga
xNを、n型層としては、Si、Ge、Sn等のn型ドーパントを少なくとも一種ドープしたIn
(1−x)Ga
xNを用いることができる。従来の構造においては、基板材料に石英やサファイア等を用いることが一般的であったが、本発明の光起電力素子によれば配向多結晶酸化亜鉛焼結体を基板として用いることができる。その場合、基板に導電性を与えることにより、電極として利用することが可能となる。特に、酸化亜鉛はIn
(1−x)Ga
xN系材料と格子整合性が高いため、バッファ層を使用しなくとも高品質な半導体層を基板上に直接作製可能となる。ただし、酸化亜鉛とIn
(1−x)Ga
xN系材料の相互拡散を抑制する目的で、バッファ層を使用してもよい。In
(1−x)Ga
xN系材料の成膜方法としては、公知の方法を採用可能であり、MOCVD(有機金属気相成長法)、MBE(分子線エピタキシー法)、HVPE(ハライド気相成長法)、スパッタリング等の気相法、Naフラックス法、アモノサーマル法、水熱法、ゾルゲル法等の液相法、粉末の固相成長を利用した粉末法、及びこれらの組み合わせが好ましく例示される。
【0026】
あるいは、PIN型フォトダイオードにあってはp型層、i型層及びn型層の少なくとも一つの層(特にn型層)又は全ての層を、PN型フォトダイオードにあってはp型層及びn型層の少なくとも一つの層(特にn型層)又は全ての層を酸化亜鉛系の材料で構成してもよい。このような構成は紫外光用フォトダイオードに特に適する。この場合、同じく酸化亜鉛で構成される基板との間で配向ないし結晶方位を整合させやすく、それにより光電変換効率を高めることができる。この場合、光起電力層14は、p型ドーパントがドープされたZnOからなるp型酸化亜鉛層14aを少なくとも含むのが好ましい。これにより、i型酸化亜鉛層14b及び/又はn型酸化亜鉛層14cとの組み合わせによりp−i−n接合又はp−n接合による光起電力素子を構成しうる一方、n型酸化亜鉛層14cを有しない構成を採用した場合であっても、基板12をn型酸化亜鉛層として機能しうるように構成することで、基板12との組み合わせによりp−i−n接合又はp−n接合による光起電力素子を構成可能である。p型ドーパントの好ましい例としては、窒素(N)、リン(P)、砒素(As)カーボン(C)リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、銀(Ag)及び銅(Cu)からなる群から選択される1種以上が挙げられる。また、p型酸化亜鉛層は、MgO、CdO、ZnS、ZnSe及びZnTeからなる群から選択される1種以上の結晶と混晶化されたZnOからなるものであってもよく、この混晶化されたZnOにp型ドーパントがドープされていてもよい。例えば、ZnOとMgOの混晶であるMg
xZn
1−xO(0.1≦x≦0.4)にNをドープした化合物が特に好ましい。ZnOをMgOと混晶化することでバンドギャップが広がり、受光波長を高エネルギー側にシフトさせることができる。また、ZnOをCdO、ZnS、ZnTe又はZnSeとの混晶としてもよく、これによりバンドギャップが狭まり、受光波長を低エネルギー側にシフトさせることができる。前述のとおり、光起電力層14は、p型酸化亜鉛層14aと基板12との間に、n型ドーパントがドープされたn型酸化亜鉛層14cを更に備えてもよい。n型ドーパントの好ましい例としては、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、硼素(B)フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)及びシリコン(Si)からなる群から選択される1種以上が挙げられる。また、n型酸化亜鉛層は、MgO、CdO、ZnS、ZnSe及びZnTeからなる群から選択される1種以上の結晶と混晶化されたZnOからなるものであってもよく、この混晶化されたZnOにn型ドーパントがドープされていてもよい。例えば、ZnOとMgOの混晶であるMg
xZn
1−xO(0.1≦x≦0.4)にAl又はGaをドープした化合物が特に好ましい。もっとも、前述したように、基板12がn型酸化亜鉛層として機能するように構成されている場合には、n型酸化亜鉛層14cは省略可能である。加えて、前述のとおり、光起電力層14は、p型酸化亜鉛層14aとn型酸化亜鉛層14cとの間に、p型酸化亜鉛層14a及びn型酸化亜鉛層14cのいずれよりもバンドギャップが小さいZnO、又はMgO、CdO、ZnS、ZnSe及びZnTeからなる群から選択される1種以上とZnOとの混晶からなり、且つ、p型ドーパント及びn型ドーパントを含まないi型酸化亜鉛層14bを少なくとも有してもよい。このi型層を薄くした構成はp−n接合の一態様である量子井戸構造の光起電力素子に相当し、光電変換効率をより一層高めることができる。もっとも、n型酸化亜鉛層14cを省略してn型酸化亜鉛基板を用いる場合には、光起電力層14は、p型酸化亜鉛層14aと配向多結晶酸化亜鉛焼結体12との間に、p型酸化亜鉛層14a及び配向多結晶酸化亜鉛焼結体12のいずれよりもバンドギャップが小さいZnO、又はMgO、CdO、ZnS、ZnSe及びZnTeからなる群から選択される1種以上とZnOとの混晶からなり、且つ、p型ドーパント及びn型ドーパントを含まないi型酸化亜鉛層を少なくとも有するように構成すればよい。
【0027】
光起電力層14は、配向多結晶酸化亜鉛焼結体の配向性に倣ってエピタキシャル成長した構造を有し、それにより法線方向に揃った結晶方位を有するのが特に好ましい。基板12の構成材料である多結晶酸化亜鉛焼結体が配向していることで、光起電力層14の結晶方位もそれに倣って成長するため方位が一定になり、前述した結晶粒子の大粒径化及び/又は光起電力層の結晶品質の向上をより高度に実現して、より高い光電変換効率が得られる。このような構造を有する光起電力層14の成膜方法は、基板の配向性に倣った成長を促す方法であれば特に限定されないが、スパッタリング法、分子線エピタキシー法(MBE)、固体エピタキシャル成長法等が好ましく例示される。固体エピタキシャル成長法は、例えば、基板上にエアロゾルデポジション法(AD法)により成膜しておき、被膜加熱により単結晶化することにより好ましく行うことができる。このように多結晶酸化亜鉛焼結体の焼結粒径に揃って機能層を成長させるため、法線方向は単一方位(単結晶)に揃い、且つ、x−y方向に粒界が存在する柱状構造の集合体のような構造となる。この場合、光起電力層がx−y方向に粒界を持つため、水平方向の光は粒界で散乱及び反射され、結果として法線方向の光が高強度となる。その結果、光の指向性が高まり、更なる高強度及び高効率が得られる。
【0028】
電極16は光起電力層14上に設けられる。電極16は光起電力素子の用途に応じて公知の電極材料で構成すればよいが、ITO等の透明導電膜、又は格子構造若しくはモスアイ構造等の開口率が高い金属電極とすれば、光起電力層14における受光効率を上げられる点で好ましい。なお、CIGS系太陽電池用の光起電力素子とする場合、電極16はMo、Cr、W又はこれらの組合せで構成するのが好ましく、Moが特に好ましい。
【0029】
図1において基板12は対向電極として機能するように構成されているが、そうでない場合には、基板12の光起電力層14と反対側に対向電極を別途設ければよい。また、基板12が十分な導電性を持たない場合は光起電力層14中に含まれるn型層を電極としてもよいし、n型層に電極を設置してもよい。
【0030】
配向多結晶酸化亜鉛焼結体の製造方法
基板12として用いる配向多結晶酸化亜鉛焼結体は、酸化亜鉛結晶粒子に磁場を印加して配向させる方法(例えば特許文献10(特許第4378535号公報)に開示される方法)の他、以下に説明するように、原料に板状酸化亜鉛粉末を用いて成形及び焼結を行うことにより製造することができる。
【0031】
(1)板状酸化亜鉛粉末の作製
原料となる板状酸化亜鉛粉末は、後述する成形及び焼成工程によって配向焼結体が得られる限り、いかなる方法により製造されたものであってもよい。例えば(101)面配向焼結体を得るには、特許文献9(特許第3128861号公報)に記載される方法に従って製造した板状酸化亜鉛粉末を原料として用いればよい。
【0032】
本発明の好ましい態様によれば、(002)面配向焼結体を得るには、以下の製法を持って製造した板状酸化亜鉛粉末を原料として用いればよい。該板状酸化亜鉛粉末は、亜鉛イオン含有原料溶液を用いて溶液法により酸化亜鉛前駆体板状粒子を生成させる工程と、前駆体板状粒子を150℃/h以下の昇温速度で仮焼温度まで昇温させて仮焼し、複数の酸化亜鉛板状粒子からなる酸化亜鉛粉末を生成させる工程とを有する方法により作製することができる。
【0033】
(002)面配向焼結体を得るための板状酸化亜鉛粉末の製造方法においては、まず、亜鉛イオン含有原料溶液を用いて溶液法により酸化亜鉛前駆体板状粒子を生成させる。亜鉛イオン供給源の例としては、硫酸亜鉛、硝酸亜鉛、塩化亜鉛、酢酸亜鉛等の有機酸塩、亜鉛アルコキシド等が挙げられるが、硫酸亜鉛が後述する硫酸イオンも供給できる点で好ましい。溶液法による酸化亜鉛前駆体板状粒子の生成手法は特に限定されず公知の手法に従って行うことができる。
【0034】
原料溶液は水溶性有機物質及び硫酸イオンを含むのが多孔質として比表面積を大きくできる点で好ましい。水溶性有機物質の例としてはアルコール類、ポリオール類、ケトン類、ポリエーテル類、エステル類、カルボン酸類、ポリカルボン酸類、セルロース類、糖類、スルホン酸類、アミノ酸類、及びアミン類が挙げられ、より具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール等の脂肪族アルコール、エチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、グルセリン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等の脂肪族多価アルコール、フェノール、カテコール、クレゾール等の芳香族アルコール、フルフリルアコール等の複素環を有するアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、アセチルアセトン等のケトン類、エチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ポリオキシアルキレンエーテル、エチレンオキサイド付加物、プロピレンオキサイド付加物等のエーテルあるいはポリエーテル類、酢酸エチル、アセト酢酸エチル、グリシンエチルエステル等のエステル類、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、酪酸、蓚酸、マロン酸、クエン酸、酒石酸、グルコン酸、サリチル酸、安息香酸、アクリル酸、マレイン酸、グリセリン酸、エレオステアリン酸、ポリアクリル酸、ポリマレイン酸、アクリル酸−マレイン酸コポリマー等のカルボン酸、ポリカルボン酸、あるいはヒドロキシカルボン酸やその塩類、カルボキシメチルセルロース類、グルコース、ガラクトース等の単糖類、蔗糖、ラクトース、アミロース、キチン、セルロース等の多糖類、アルキルベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、アルキルスルホン酸、α−オレフィンスルホン酸、ポリオキシエチレンアルキルスルホン酸、リグニンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸等のスルホン酸類やその塩類、グリシン、グルタミン酸、アスパラギン酸、アラニン等のアミノ酸、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ブタノールアミン等のヒドロキシアミン類、トリメチルアミノエチルアルキルアミド、アルキルピリジニウム硫酸塩、アルキルトリメチルアンモニウムハロゲン化物、アルキルベタイン、アルキルジエチレントリアミノ酢酸等が挙げられる。これらの水溶性有機物質の中でも、水酸基、カルボキシル基、アミノ基のうち少なくとも一種の官能基を有するものが好ましく、水酸基とカルボキシル基を有するヒドロキシカルボン酸やその塩類が特に好ましく、例えばグルコン酸ナトリウム、酒石酸等が挙げられる。水溶性有機物質は、後述するアンモニア水が添加された原料溶液中に約0.001重量%〜約10重量%の範囲で共存させるのが好ましい。好ましい硫酸イオン供給源は、上述したとおり硫酸亜鉛である。原料溶液は前述したドーパント等の添加物質を更に含むものであってもよい。
【0035】
このとき、原料溶液は70〜100℃の前駆反応温度に加熱されるのが好ましく、より好ましくは80〜100℃である。また、この加熱後又はその間に原料溶液にアンモニア水が添加されるのが好ましく、アンモニア水が添加された原料溶液が70〜100℃で0.5〜10時間保持されるのが好ましく、より好ましくは80〜100℃で2〜8時間である。
【0036】
次に、前駆体板状粒子を150℃/h以下の昇温速度で仮焼温度まで昇温させて仮焼し、複数の酸化亜鉛板状粒子からなる酸化亜鉛粉末を生成させる。昇温速度を150℃/h以下と遅くすることで、前駆物質から酸化亜鉛に変化する際に前駆物質の結晶面が酸化亜鉛に引き継がれ易くなり、成形体における板状粒子の配向度が向上するものと考えられる。また、一次粒子同士の連結性が増大して板状粒子が崩れにくくなるとも考えられる。好ましい昇温速度は120℃/h以下であり、より好ましくは100℃/h以下であり、更に好ましくは50℃/h以下であり、特に好ましくは30℃/h以下であり、最も好ましくは15℃/h以下である。仮焼前に、酸化亜鉛前駆体粒子は洗浄、濾過及び乾燥されるのが好ましい。仮焼温度は水酸化亜鉛等の前駆化合物が酸化亜鉛に変化できる温度であれば特に限定されないが、好ましくは800〜1100℃、より好ましくは850〜1000℃であり、このような仮焼温度で前駆体板状粒子が好ましくは0〜3時間、より好ましくは0〜1時間保持される。このような温度保持条件であると水酸化亜鉛等の前駆化合物を酸化亜鉛により確実に変化させることができる。このような仮焼工程により、前駆体板状粒子が多くの気孔を有する板状酸化亜鉛粒子に変化する。
【0037】
所望により、酸化亜鉛粉末には添加物質を混合してもよい。そのような添加物質としては、第二成分として、成形体の用途や仕様に応じた所望の特性(例えば導電性や絶縁性)を付与する種々の添加剤や前述したようなドーパントであることができる。これらのドーパント元素はこれらの元素を含む化合物又はイオンの形態で酸化亜鉛粉末に添加すればよい。添加物質の添加方法は特に限定されないが、酸化亜鉛粉末の微細気孔の内部にまで添加物質を行き渡らせるため、(1)添加物質をナノ粒子等の微細粉末の形態で酸化亜鉛粉末に添加する方法、(2)添加物質を溶媒に溶解させた後に酸化亜鉛粉末を添加し、この溶液を乾燥する方法等が好ましく例示される。
【0038】
本発明の別の好ましい態様によれば、(100)面配向焼結体を得るには、以下の製法を持って製造した板状酸化亜鉛粉末を原料として用いればよい。該板状酸化亜鉛粉末は、亜鉛塩水溶液にアルカリ水溶液を加えて60〜95℃で2〜10時間攪拌することにより沈殿物を析出させ、この沈殿物を洗浄及び乾燥し、さらに粉砕することにより得ることができる。亜鉛塩水溶液は、亜鉛イオンを含む水溶液であればよく、好ましくは、硝酸亜鉛、塩化亜鉛、酢酸亜鉛等の亜鉛塩の水溶液である。アルカリ水溶液は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水溶液であるのが好ましい。亜鉛塩水溶液及びアルカリ水溶液の濃度及び混合比は特に限定されないが、モル濃度が同じ亜鉛塩水溶液及びアルカリ水溶液を同じ体積比で混合するのが好ましい。沈殿物の洗浄はイオン交換水で複数回行うのが好ましい。洗浄された沈殿物の乾燥は100〜300℃で行われるのが好ましい。乾燥された沈殿物は板状の酸化亜鉛一次粒子が凝集した球状の二次粒子であるため、粉砕工程に付されるのが好ましい。この粉砕は、洗浄された沈殿物にエタノール等の溶媒を加えてボールミルで1〜10時間行うのが好ましい。この粉砕によって、一次粒子としての板状酸化亜鉛粉末が得られる。こうして得られる板状酸化亜鉛粉末は、好ましくは0.1〜1.0μmであり、より好ましくは0.3〜0.8μmの体積基準D50平均粒径を有する。この体積基準D50平均粒径はレーザー回折式粒度分布測定装置によって測定することができる。
【0039】
(2)成形及び焼成工程
上記の方法で製造した板状酸化亜鉛粉末をせん断力を用いた手法により配向させ、配向成形体とする。このとき、板状酸化亜鉛粉末に、ドーパント用の金属酸化物粉末(例えばα−Al
2O
3粉末)等の他の元素又は成分を添加してもよい。せん断力を用いた手法の好ましい例としては、テープ成形、押出し成形、ドクターブレード法、及びこれらの任意の組合せが挙げられる。せん断力を用いた配向手法は、上記例示したいずれの手法においても、板状酸化亜鉛粉末にバインダー、可塑剤、分散剤、分散媒等の添加物を適宜加えてスラリー化し、このスラリーをスリット状の細い吐出口を通過させることにより、基板上にシート状に吐出及び成形するのが好ましい。吐出口のスリット幅は10〜400μmとするのが好ましい。なお、分散媒の量はスラリー粘度が5000〜100000cPとなるような量にするのが好ましく、より好ましくは20000〜60000cPである。シート状に成形した配向成形体の厚さは5〜500μmであるのが好ましく、より好ましくは10〜200μmである。このシート状に成形した配向成形体を多数枚積み重ねて、所望の厚さを有する前駆積層体とし、この前駆積層体にプレス成形を施すのが好ましい。このプレス成形は前駆積層体を真空パック等で包装して、50〜95℃の温水中で10〜2000kgf/cm
2の圧力で静水圧プレスにより好ましく行うことができる。また、押出し成形を用いる場合には、金型内の流路の設計により、金型内で細い吐出口を通過した後、シート状の成形体が金型内で一体化され、積層された状態で成形体が排出されるようにしても良い。得られた成形体には公知の条件に従い脱脂を施すのが好ましい。
【0040】
上記のようにして得られた配向成形体は1000〜1500℃、好ましくは1100〜1400℃の焼成温度で焼成されて、酸化亜鉛結晶粒子を配向して含んでなる酸化亜鉛焼結体を形成する。上記焼成温度での焼成時間は特に限定されないが、好ましくは1〜10時間であり、より好ましくは2〜5時間である。こうして得られた酸化亜鉛焼結体は、前述した原料となる板状酸化亜鉛粉末の種類により(101)面、(100)面、(002)面等に配向した配向焼結体となる。その配向度は高いものであり、好ましくは基板表面における配向度が50%以上であり、より好ましくは65%以上、さらに好ましくは75%以上である。
【実施例】
【0041】
本発明を以下の例によってさらに具体的に説明する。
【0042】
例1
ノンドープZnO配向焼結体基板を用いて、p−i−n積層構造による光起電力機能層を備えた光起電力素子を以下のようにして作製した。
【0043】
(1)ノンドープZnO配向焼結体基板の作製及び評価
(1a)板状酸化亜鉛粉末の作製
ノンドープの(002)面配向ZnO粉末を次のようにして作製した。硫酸亜鉛七水和物(高純度化学研究所製)173重量部とグルコン酸ナトリウム(和光純薬工業製)0.45重量部をイオン交換水300重量部に溶解した。こうして得られた溶液をビーカーに入れ、マグネットスターラーで攪拌しながら90℃に加熱して溶解させた。この溶液を90℃に保持し、攪拌しながら25%アンモニウム水49重量部をマイクロチューブポンプで滴下した。滴下終了後、90℃で攪拌しながら4時間保持した後、溶液を多量のイオン交換水に投入し、静置した。容器の底部に堆積した沈殿物を濾過により分離し、更にイオン交換水による洗浄を3回行い、乾燥して白色粉末状の酸化亜鉛前駆物質を得た。得られた酸化亜鉛前駆物質をジルコニア製のセッターに載置し、電気炉にて大気中で仮焼することにより、酸化亜鉛板状多孔質粉末を得た。仮焼時の温度スケジュールは、室温から900℃まで昇温速度100℃/hにて昇温した後、900℃で30分間保持し、自然放冷とした。
【0044】
(1b)成形及び焼成工程
得られた酸化亜鉛板状粒子100重量部に対し、バインダー(ポリビニルブチラール:品番BM−2、積水化学工業株式会社製)15重量部と、可塑剤(DOP:ジ(2−エチルヘキシル)フタレート、黒金化成株式会社製)10重量部と、分散剤(製品名レオドールSP−O30、花王株式会社製)3重量部と、分散媒(2−エチルヘキサノール)とを混合した。分散媒の量はスラリー粘度が10000cPとなるように調整した。こうして調製されたスラリーを、ドクターブレード法により、PETフィルムの上に、乾燥後の厚さが20μmとなるようにシート状に成形した。得られたテープを20×20cmのシートに切断し、500枚の切断テープ片を積層し、厚さ10mmのアルミニウム板の上に載置した後、真空パックを行った。この真空パックを85℃の温水中で、100kgf/cm
2の圧力にて静水圧プレスを行い、板状の成形体を作製した。得られた成形体を脱脂炉中に配置し、600℃で20時間の条件で脱脂を行った。得られた脱脂体を窒素中、1400℃で5時間の条件で常圧焼成して、板状のZnO配向焼結体基板を作製した。
【0045】
(1c)焼結体基板の評価
得られたZnO焼結体基板について以下の評価を行った。
【0046】
(配向度の評価)
得られた焼結体の(002)配向度F
(002)をXRDにより測定した。この測定は、XRD装置(株式会社リガク製、製品名「RINT−TTR III」)を用い、板状酸化亜鉛の表面に対してX線を照射したときのXRDプロファイルを測定し、以下の式によって評価した。
【数2】
【0047】
(焼結粒子の平均粒径の評価)
焼結体粒子の平均粒径を以下の方法により測定した。得られた板状焼結体より、5×5×3mmの試料を切り出し、板面と垂直な面を研磨し、濃度0.3Mの硝酸にて10秒間エッチングを行った後、走査電子顕微鏡にて画像を撮影した。視野範囲は、板面に平行及び垂直な直線を引いた場合に、いずれの直線も10個から30個の粒子と交わるような直線が引けるような視野範囲とした。板面に平行に引いた3本の直線において、直線が交わる全ての粒子に対し、個々の粒子の内側の線分の長さを平均したものに1.5を乗じた値をa
1とし、同様に、板面に垂直に引いた3本の直線において、直線が交わる全ての粒子に対し、個々の粒子の内側の線分の長さを平均したものに1.5を乗じた値をa
2とし、(a
1+a
2)/2を平均粒径とした。
【0048】
(体積抵抗率の評価)
抵抗率計(三菱化学株式会社製、ロレスタAX MCP−T370型)を用い、板状焼結体板面の中心部近傍にて四探針法により、焼結体の体積抵抗率を測定した。
【0049】
その結果、焼結体基板の(002)配向度は80%であり、焼結粒子の平均粒径は38μmであり、体積抵抗率は1×10
−1Ω・cmであった。
【0050】
(2)光起電力素子の作製
得られたノンドープZnO配向焼結体基板上に、多結晶Siを、n層、i層、及びp層をこの順に堆積した。多結晶Si層の形成は、励起周波数13.36MHzのプラズマCVDを用い、基板温度180℃にて行った。シリコン原料には水素希釈のSiH
4原料ガスを使用し、p層及びn層の積層時のドーピングガスとしてB
2H
6及びPH
3をそれぞれ使用した。各層の形成は約3Å/秒程度の積層レートで行った。その後、リソグラフィープロセスを経てp型層上及びn型層上に各々電極を形成した。
【0051】
(3)光起電力素子の特性評価
光起電力素子のp型層上に設けた電極と、n型層上に設けた電極とをリード線を介してテスターに接続し、擬似太陽光(AM1.5、100mW・cm
−2)を光起電力素子上面より照射したところ、開放電圧0.50V、短絡電流20mA・cm
−2の出力を確認した。太陽光照射による光起電力及び光電流の発生が確認できたことから、本例で作製した光起電力素子は太陽電池として機能することが分かった。
【0052】
例2
Alドープされたn型ZnO配向焼結体基板を用いて、p−i−n積層構造による光起電力機能層を備えた光起電力素子を以下のようにして作製した。
【0053】
(1)Alドープされたn型ZnO配向焼結体基板の作製及び評価
(1a)原料粉末の作製
Alドープされた(002)面配向ZnO粉末を次のようにして作製した。塩化アルミニウム六水和物(高純度化学研究所製)8.8重量部をエタノール200重量部に投入して溶解させた。その後、例1で作製した酸化亜鉛板状粒子に上記の溶液を亜鉛:アルミニウム=
100:
0.2(原子比)となるように投入し、ロータリーエバポレーターを用いて乾燥することにより、アルミニウム成分が均一に分散した酸化亜鉛板状粒子を作製した。
【0054】
(1b)成形及び焼成
例1の(1b)と同様にして、板状のZnO配向焼結体基板を作製した。
【0055】
(1c)焼結体基板の評価
例1の(1c)と同様にして、得られたZnO焼結体基板の評価を行った。その結果、焼結体基板の(002)配向度は80%であり、焼結粒子の平均粒径は35μmであり、体積抵抗率は8×10
−4Ω・cmであった。
【0056】
(2)光起電力素子の作製
得られたAlドープされたn型ZnO配向焼結体基板上にi−ZnO層及びp−Zn層をこの順に積層した。すなわち、本例では基板自身がAlドーピングによってn型半導体となり、十分に低抵抗なことから、n型ZnO層の成膜を省略した。各層の形成方法は以下のとおりとした。
【0057】
(2a)固相エピタキシャル成長によるi型ZnO層の成膜
市販のノンドープのZnO粉末を成膜原料として、ZnO配向焼結体基板上にp型ZnO膜をエアロゾルデポジション法(以下、ADという)により堆積させた。AD成膜は
図2に示す成膜装置120を使用した。この成膜装置120は、原料成分を含む原料粉末のエアロゾルを生成するエアロゾル生成部122と、成膜粉を種基板121に噴射して原料成分を含む膜を形成する成膜部130とを備えている。
【0058】
エアロゾル生成部122は、成膜粉112を収容しガスボンベ(図示せず)からのキャリアガス111の供給を受けてエアロゾルを生成するエアロゾル生成室123と、生成したエアロゾルを成膜部130へ供給する原料供給管124と、エアロゾル生成室123及びその中のエアロゾルに10〜100Hzの振動数で振動を付与する加振器125とを備えている。成膜部130は、種基板121にエアロゾルを噴射する成膜チャンバ132と、成膜チャンバ132の内部に配設され種基板121を固定する種基板ホルダ134と、種基板ホルダ134をX軸−Y軸方向に移動するX−Yステージ133とを備えている。また、成膜部130は、先端にスリット137が形成されエアロゾルを種基板121へ噴射する噴射ノズル136と、成膜チャンバ132を減圧する真空ポンプ138とを備えている。
【0059】
成膜装置120においては、窒素(N
2)ガスを10L/分の流量にてキャリアガス111として流し、エアロゾル生成室123の圧力は50kPaとし、成膜チャンバ132内の圧力は0.1kPa以下とし、成膜用粉体の噴射ノズル136に備えられたスリット137の開口サイズは10mm×0.4mmとした。成膜時のノズルの走査方法としては、1スキャンを走査距離200mm、スキャン速度1mm/秒とし、1スキャン終了後、10mm走査位置を並行にずらして成膜を行い、計20列スキャンを1サイクルとして行った。この成膜を計60サイクル行い、厚みが約2.5μmのNドープZnOからなるAD膜を得た。
【0060】
得られたZnO膜を
図3の加熱装置を用いて固相エピタキシャル成長させた。
図3には光加熱のための光源として近赤外線ランプ206を使用した。また、ZnOは近赤外線の吸収係数が低いため、ZnO配向焼結体基板202上に白金板203を配設し、ZnO配向焼結体基板202側から近赤外線を照射して、当該近赤外線を上記白金板203に吸収させることにより、膜201をZnO配向焼結体基板202側から加熱した。ZnO配向焼結体基板202及び白金板203は石英製台座204、石英製サンプル保持具207上に設置し、熱電対205にて膜201の温度を計測した。加熱処理は窒素中で行い、昇温速度400℃/分で加熱し、1100℃で10分間保持した。この熱処理によってZnO膜はZnO配向焼結体基板の表面原子配列に倣って成長する固相エピタキシャル成長を生じ、c軸に配向したノンドープZnO層となった。例1で述べたXRDによる配向性評価を行ったところ、配向度は79%であることがわかった。
【0061】
なお、本例ではi型層の成膜に固相エピタキシャル成長法を用いたが、製法には特に限定がなく、MOCVD法や、スピンコートやディッピングなどの溶液法によってノンドープZnO粉末を塗布し、200〜700℃で熱処理する手法としてもよい。
【0062】
(2b)固相エピタキシャル成長によるp型ZnO層の成膜
ノンドープのZnO粉末の代わりに、市販のNドープしたp型ZnO粉末(古河電子製)を成膜原料として用いたこと以外はi型ZnO層と同様にして、i型ZnO層上にp型ZnO膜をエアロゾルデポジション法(以下、ADという)により堆積させ、その後固相エピタキシャル成長させた。この固相エピタキシャル成長を生じ、c軸に配向したNドープZnO層が得られた。例1で述べたXRDによる配向性評価を行ったところ、配向度は78%であることがわかった。
【0063】
なお、本例ではp型層の成膜に固相エピタキシャル成長法を用いたが、製法には特に限定がなく、MOCVD法や、スピンコートやディッピングなどの溶液法によってp型ZnO粉末を塗布し、200〜700℃で熱処理する手法としても良い。
【0064】
(2c)電極の成膜
p型層上及び基板裏面の各々に電極を形成した。具体的には、p型ZnO層上に、Auを電子ビーム蒸着法にて30nm成膜して電極とした。基板裏面に対しても上記同様にして電極を形成した。なお、p型ZnO層上の電極は、光の透過効率を高めるため格子状とした。
【0065】
(3)光起電力素子の特性評価
得られた光起電力素子のp型層上に設けた電極と、基板裏面に設けた電極とをリード線を介してテスターに接続し、紫外線(ブラックライト、波長300−400nm、ピーク波長350nm)を光起電力素子上面より照射したところ、開放電圧1.0V、短絡電流100μAの出力を確認した。紫外線照射による光起電力及び光電流の発生が確認できたことから、本例で作製した光起電力素子は紫外線センサーとして機能することが分かった。