(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0003】
[0003]数十年間にわたって、フルオロポリマーは、光学材料、耐腐食コート、燃料電池膜から弾性体材料に至るまで、より多くの用途が見出されてきた。テトラフルオロエチレン(TFE)、トリフルオロエチレン(TrFE)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、フッ化ビニリデン(VDF)、フッ化ビニル(VF)、ヘキサフルオロプロペン(HFP)、ペンタフルオロプロペン(PFP)、テトラフルオロプロペン(TFP)、トリフルオロプロペン(TrFP)、およびパーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)等のフルオロポリマーの調製に好適な種々のフッ素化モノマーが存在する。これらのフッ素化モノマーの中でも、1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(CF
3CH=CFH、HFO−1234ze)はもっとも研究のなされていないモノマーの一つである。ラジカル重合に関して1,3,3,3−テトラフルオロプロペンは反応性が低いので、1,3,3,3−テトラフルオロプロペンホモポリマーおよび1,3,3,3−テトラフルオロプロペン/テトラフルオロエチレンコポリマーは、5,000〜15,000気圧下という高い圧力下での放射線重合でしか得られなかった。J.Polym.Sci.A:Polym.Chem.(1973)、11、1973〜1984を参照。当該方法は1,3,3,3−テトラフルオロプロペンホモポリマーおよびコポリマーを工業的スケールで製造することを非常に困難にする。フッ化ビニリデン(CF
2=CH
2、VDF)と1,3,3,3−テトラフルオロプロペンを含むいくつかのフッ素化モノマーとのコポリマーは英国特許1,281,976に記載されている。しかしながら、当該特許はこのコポリマーに関してわずかな情報しか開示しない。
【0004】
[0004]新規なフルオロポリマーおよび当該フルオロポリマーを製造するための新規な方法への要求が存在する。本発明はこの要求に応える。
【0005】
[0005]生物付着は、濡れた表面に望ましくない生物の堆積および成長が起こることである。それは水性プロセスによるほとんどの産業において重大かつ世界規模の問題である。生物付着によって影響を受ける産業としては、特にパルプおよび製紙産業、食品産業、ならびに二、三例を挙げると水中建設、造船、漁業、塩水脱塩などに関連する産業である。
【0006】
[0006]生物付着を避けるための一つの方法は、微生物が付着できない疎水性表面を形成する無毒なコーティングを用いることである。一般に、フルオロポリマーは非付着性でありかつ摩擦を低減することから、生物付着回避に関して有用であると考えられている。
【0007】
[0007]生物付着と同様に、表面への望ましくない氷の堆積もしばしば特定の産業において問題となる。この問題に対する一つの方法は氷を付着させない疎水性表面を形成する無毒なコーティングを用いることであった。
【0008】
[0008]海洋環境における生物付着に対抗する最適な表面エネルギーは常に約20〜30mJ/m
2であることが研究によって示されている。J.Mater.Sci:Mater Med(2006)、17、1057〜1062を参照。今までのところ、この特に低い表面エネルギーの範囲を形成するフルオロポリマーはほとんど見つかっていない。例えば、一方ではポリ(テトラフルオロエチレン)(PTFE)、ポリ(ヘキサフルオロプロペン)(PHFP)、ポリ(2,3,3,3−テトラフルオロプロペン)(ポリ−1234yf)は20mJ/m
2以下の表面エネルギーを有し、また他方、ポリフッ化ビニリデン(PVFD)およびポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)は約30mJ/m
2程度である。唯一、ポリトリフルロロエチレン(PTrFE)のみが約20〜30mJ/m
2の範囲の表面エネルギー有すると報告されている。
【0009】
[0009]生物付着および氷の堆積を回避するための新規な改善された方法および製品に対する要求が存在する。本願発明はこの要求に応える。
【発明の概要】
【0012】
[0010]本発明は、トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンモノマーとフッ化ビニリデンモノマーを反応媒体中で反応させることを含む、トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン単位およびフッ化ビニリデン単位を含むコポリマーの合成方法を提供する。本発明のある態様において、トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンモノマーとフッ化ビニリデンモノマーは水性乳化重合によって重合される。本発明の他の態様において、コポリマーは100,000ダルトン超あるいは400,000ダルトン超の平均分子量を有する。本発明の他の態様において、トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンモノマーとフッ化ビニリデンモノマーは、パーフルオロメチルビニルエーテルモノマーとさらに反応する。当該コポリマーはパーフルオロメチルビニルエーテル単位をさらに含む。
【0013】
[0011]本発明はトランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン単位およびフッ化ビニリデン単位を含むコポリマーを提供する。本発明のある態様において、コポリマーは100,000ダルトン超あるいは400,000ダルトン超の平均分子量を有する。本発明の他の態様において、コポリマーはパーフルオロメチルビニルエーテル単位をさらに含む。本発明の他の態様において、コポリマーは約20〜約30mJ/m
2の表面エネルギーを有する。本発明の他の態様において、コポリマーは、トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン単位およびフッ化ビニリデン単位から本質的になる。
【0014】
[0012]本発明は、前述の任意のコポリマーを製品に適用することを含む、製品に生物付着が生じることを避けるための方法を提供する。本発明は、前述の任意のコポリマーを支持体に適用することを含む、約20〜約30mJ/m
2の表面エネルギーを有する表面を形成する方法を提供する。本発明は、前述の任意のコポリマーを製品に適用することを含む、製品に氷が堆積することを避けるための方法を提供する。
【0015】
[0013]本発明は、トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン/フッ化ビニリデンコポリマーをポリマー製造の添加物/助剤として使用することを含む、ポリマーの製造方法を提供する。
【0016】
発明の詳細な説明
[0014]発明者らは、水性乳化重合によって高分子量のトランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン/フッ化ビニリデンコポリマーを合成することが可能であることを見出した。以降、1,3,3,3−テトラフルオロプロペンという用語はトランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンを意味する。発明者らは、さらに、特定の1,3,3,3−テトラフルオロプロペンモノマー単位とフッ化ビニリデンモノマー単位との比を有するコポリマーが約20〜約30mJ/m
2の表面エネルギーを有し、かつ特定の表面エネルギー値はコポリマー中の特定の1,3,3,3−テトラフルオロプロペンモノマー単位とフッ化ビニリデンモノマー単位との比により制御できることを見出した。これらの知見は後述の実施例において詳述される。この範囲の表面エネルギーを有する表面は生物付着に対して耐性を有する。J.Mater.Sci.:Mater.Med.(2006)17:1057〜1062を参照。
【0017】
[0015]本発明は、トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンモノマーとフッ化ビニリデンモノマーを反応媒体中で反応させることを含む、トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン単位およびフッ化ビニリデン単位を含むコポリマーの合成方法を提供する。
[0016]1,3,3,3−テトラフルオロプロペンおよびフッ化ビニリデンモノマーの共重合は、水性乳化溶液中、特にラジカル重合反応において用いられる水性乳化溶液中にて実施される。このような水性乳化溶液としては、限定されないが、脱ガス脱イオン水、緩衝化合物(限定されないが例えば、Na
2HPO
4/NaH
2PO
4)、乳化剤(限定されないが例えば、C
7F
15CO
2NH
4、C
4F
9SO
3K、CH
3(CH
2)
10CON(CH
3)CH
2COONa、CH
3(CH
2)
11OSO
3Na、C
12H
25C
6H
4SO
3Na、C
9H
19C
6H
4O(C
2H
4O)
10H等)が挙げられる。
【0018】
[0017]水溶性のラジカル開始剤は、1,3,3,3−テトラフルオロプロペンモノマーとフッ化ビニリデンモノマーの共重合においてフリーラジカル構成成分を形成する任意の化合物であってよい。このような開始剤の限定されない例としては、Na
2S
2O
8、K
2S
2O
8、(NH
4)
2S
2O
8、Fe
2(S
2O
8)
3、(NH
4)
2S
2O
8/Na
2S
2O
5、(NH
4)
2S
2O
8/FeSO
4等、およびこれらの組合せが挙げられる。
[0018]重合は、通常は、所望の1,3,3,3−テトラフルオロプロペン/フッ化ビニリデンコポリマーを得るのに十分な温度、圧力、反応時間で実施され、このような目的で使用されることが公知であるオートクレーブ反応器等(ただし限定されない)中で実施してよい。
【0019】
[0019]本発明の一態様において、重合は約30〜約80℃の温度、約50psi〜約500psiの圧力において実施される。重合時間は所望の重合度が達成できる任意の時間としてよい。限定されない態様において、約48〜約700時間であってよい。当業者は、1,3,3,3−テトラフルオロプロペン/フッ化ビニリデンコポリマーの所望の転化率および分子量によって前記条件が改良または変動されることを理解できる。
【0020】
[0020]1,3,3,3−テトラフルオロプロペンモノマーおよびフッ化ビニリデンモノマーの相対量および絶対量、ならびに開始剤の量は、生成コポリマーの転化率、および/または生成コポリマーの分子量によって与えられる。限定されないが、概して、開始剤は共重合反応における全モノマーを基準として、ラジカル開始剤の量は1.5重量%未満として与えられる。
【0021】
[0021]所望の共重合の収率を得るために、開始剤は共重合系に複数回添加してもよい。限定されないが、概して、開始剤は共重合系へ1〜5回添加される。
【0022】
[0022]ターポリマーを製造するために、第三のモノマーを1,3,3,3−テトラフルオロプロペンモノマーおよびフッ化ビニリデンモノマーに導入してもよい。このような第三のモノマーとしては、限定されないが、パーフルオロメチルビニルエーテル、ヘキサフルオロプロペン、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン等が挙げられる。
【0023】
[0023]本発明の好ましい態様において、HFO−1234zeとVDFの共重合は乳化重合法によって行われる。乳化重合溶液は、脱ガス脱イオン水、緩衝剤であるNa
2HPO
4/NaH
2PO
4、乳化剤であるC
7F
13COO(NH
4)、酸化性の開始剤である(NH
4)
2S
2O
8からなる。HFO−1234zeとVDFの混合物は、低温にてオートクレーブ反応器に移される。還元性の開始剤であるNa
2S
2O
5が脱ガス脱イオン水に溶解され、次いでシリンジポンプを用いてオートクレーブ反応器内に注入される。オートクレーブ反応器はゆっくりと所望の温度に加熱され(例えば35℃)、重合終了までこの温度に保たれる。コポリマー中の実際のモノマー比は
19F−NMR分析により決定される。コポリマーの分子量はCPG測定により得られる。本発明のコポリマーの表面エネルギーは、水およびジヨードメタンの接触角により得られる。前述のすべての分析方法は当該分野において公知であるので、これ以上の説明は割愛する。
【0024】
[0024]本発明のある態様において、本発明のコポリマー中の1,3,3,3−テトラフルオロプロペンモノマー単位対フッ化ビニリデンモノマー単位の比は、約90:10モル%〜約10:90モル%である。本発明のある態様において、本発明のコポリマー中の1,3,3,3−テトラフルオロプロペンモノマー単位対フッ化ビニリデンモノマー単位の比は、約90:10モル%〜約70:30モル%、約70:30モル%〜約50:50モル%、約50:50モル%〜約30:70モル%、約30:70モル%〜約10:90モル%である。
【0025】
[0025]本発明のある態様において、1,3,3,3−テトラフルオロプロペンモノマーおよびフッ化ビニリデンモノマーは水性乳化重合法により重合される。本発明の他の態様において、1,3,3,3−テトラフルオロプロペンモノマー単位およびフッ化ビニリデンモノマー単位を含むコポリマーは100,000ダルトン超または400,000ダルトン超の重量平均分子量を有する。重量平均分子量はゲルろ過クロマトグラフィーで測定されるが、当該方法は当該分野において公知であるのでこれ以上の説明は割愛する。
【0026】
[0026]本発明のある態様において、本発明の重合はパーフルオロメチルビニルエーテルモノマーをさらに含み、その結果パーフルオロメチルビニルエーテル構造単位をさらに含むターポリマーを生成する。
【0027】
[0027]本発明は1,3,3,3−テトラフルオロプロペン単位およびフッ化ビニリデン単位を含むコポリマーを提供する。本発明のある態様において、コポリマーは100,000ダルトン超または400,000ダルトン超の重量平均分子量を有する。本発明のある態様において、前記コポリマーはパーフルオロメチルビニルエーテル構造単位をさらに含む。本発明のある態様において、コポリマーは1,3,3,3−テトラフルオロプロペン単位およびフッ化ビニリデン単位から実質的になる。本発明の他の態様において、コポリマーは約20〜約30mJ/m
2の表面エネルギーを有する。本発明の他の態様において、コポリマーは約20〜約25mJ/m
2あるいは約25〜約30mJ/m
2の表面エネルギーを有する。
【0028】
[0028]
本発明は、前述の任意のコポリマーを製品表面に適用することを含む、製品への生物付着を防止する方法を提供する。本発明は、前述の任意のコポリマーを支持体に適用することを含む、約20〜約30mJ/m
2の表面エネルギーを有する表面を形成する方法を提供する。本発明の他の態様において、当該表面は約20〜約25mJ/m
2あるいは約25〜約30mJ/m
2の表面エネルギーを有する。本発明は、前述の任意のコポリマーを製品表面に適用することを含む、製品への氷の堆積を防止する方法も提供する。
【0029】
[0029]本発明のコポリマーの表面エネルギーは水およびジヨードメタンの接触角により得られる。この方法は当該分野で公知である。
【0030】
[0030]1,3,3,3−テトラフルオロプロペンおよびフッ化ビニリデンを含むコポリマーは、当該分野で公知の種々の方法で支持体または製品に適用することができる。限定されない例において、後述する実施例に記載されるように、コポリマーは溶解されて支持体または製品に適用され、そして乾燥される。
【0031】
[0031]本発明の範囲内で使用される製品は、定常的にあるいは永遠に水に晒されるか水中に置かれるがために生物付着が起こりがちな任意の人工物であってよい。そのような製品の非限定的な例は、種々のボート、船、もしくは潜水艦、水中もしくは水の近くで使用される機械または装置、橋、海洋掘削プラットホーム、および海底ケーブルである。本発明のいくつかの態様において、製品は、船、ボート、潜水艦、海底ケーブル、海洋掘削プラットホーム、および橋からなる群から選択される。本発明の他の態様において、製品は少なくとも部分的に水中に置かれる。本発明の他の態様において、製品は少なくとも実質的に水中に置かれる。
【0032】
[0032]以下の実施例は本発明をより詳しく説明するが、本発明はいかようにも限定解釈されるべきでない。
【実施例】
【0033】
実施例1
[0033]
撹拌している100mLの脱ガス脱イオン水に、2.133gのNa
2HPO
4・7H
2O、0.586gのNaH
2PO
4、2.116gのC
7F
15CO
2NH
4を加えた。次いで、前記水溶液に、0.327gの(NH
4)
2S
2O
8を撹拌かつ窒素バブリングしながら加えた。シリンジを用いて、得られた水溶液を速やかに真空の300mLオートクレーブ反応器に移した。内部の水溶液をゆっくり撹拌しながらオートクレーブ反応器をドライアイスにて冷却した。内部温度が約−4℃に低下したとき、122.5gの1,3,3,3−テトラフルオロプロペンおよび14.33gのフッ化ビニリデンをそれぞれオートクレーブ反応器に装入した。装入の終点において、内部温度は約−5℃よりも低かった。ドライアイスによる冷却を止めた。オートクレーブ反応器を空気によってゆっくり加熱した。内部の水溶液を300rpmで撹拌した。
【0034】
[0034]内部温度が約10℃に上昇したとき、0.316gのNa
2S
2O
5を3mLの脱ガス脱イオン水に溶解したものをオートクレーブ反応器中にポンプにて注入し、次いでポンプを洗浄するために2mLの脱ガス脱イオン水を注入した。オートクレーブ反応器を35℃までゆっくり加熱した。初期の内部圧力は184psiであった。
【0035】
[0035]67時間後、内部圧力が151psiに低下した。加熱を止めた。オートクレーブ反応器を空冷した。撹拌速度を100rpmに減じた。室温にて、0.308gの(NH
4)
2S
2O
8を3mLの脱ガス脱イオン水に溶解したものをオートクレーブ反応器中にポンプにて注入し、次いでポンプを洗浄するために2mLの脱ガス脱イオン水を注入した。0.306gのNa
2S
2O
5を3mLの脱ガス脱イオン水に溶解したものをオートクレーブ反応器中にポンプにて注入し、次いでポンプを洗浄するために2mLの脱ガス脱イオン水を注入した。撹拌速度を300rpmに上げた。オートクレーブ反応器をゆっくり35℃に加熱した。
【0036】
[0036]さらに95時間後、内部圧力は132psiに低下した。加熱を止めた。オートクレーブ反応器を空冷した。撹拌速度を100rpmに減じた。室温にて、残圧をゆっくりと開放した。重合混合物をろ過した。少量の固体コポリマー析出物を脱イオン水で完全に洗浄し、減圧下(29inHg)35℃で乾燥し乾燥物とした。ろ液(反応生成物)を濃塩酸で酸性化してコポリマーを析出させた。反応生成物から得たコポリマーを脱イオン水で完全に洗浄し、減圧下(29inHg)35℃で乾燥し乾燥物とした。あわせたコポリマーの量は22.9gであり、重合収率は16.7%であった。
【0037】
[0037]反応生成物から得たコポリマーの実際のモノマー単位の比は、
19F−NMRで分析したところ47.5モル%の1,3,3,3−テトラフルオロプロペン対52.5モル%のフッ化ビニリデンであった。GPC(ゲルろ過クロマトグラフィー)で分析したコポリマーの重量平均分子量は258.420であった。DSCで分析したコポリマーのTgは42℃であった。コポリマーはアセトン、THF、および酢酸エチルに可溶であった。コポリマーは42℃未満の温度で熱可塑性を示した。
【0038】
実施例2
[0038]撹拌している100mLの脱ガス脱イオン水に、2.128gのNa
2HPO
4・7H
2O、0.587gのNaH
2PO
4、2.100gのC
7F
15CO
2NH
4を加えた。次いで、前記水溶液に、0.315gの(NH
4)
2S
2O
8を撹拌かつ窒素バブリングしながら加えた。シリンジを用いて、得られた水溶液を速やかに真空の300mLオートクレーブ反応器に移した。内部の水溶液をゆっくり撹拌しながらオートクレーブ反応器をドライアイスにて冷却した。内部温度が約−3℃に低下したとき、1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(90.1g)およびフッ化ビニリデン(36.7g)をそれぞれオートクレーブ反応器に装入した。装入の終点において、内部温度は約−5℃よりも低かった。ドライアイスによる冷却を止めた。オートクレーブ反応器を空気によってゆっくり加熱した。内部の水溶液を300rpmで撹拌した。
【0039】
[0039]内部温度が約0℃に上昇したとき、0.298gのNa
2S
2O
5を3mLの脱ガス脱イオン水に溶解したものをオートクレーブ反応器中にポンプにて注入し、次いでポンプを洗浄するために2mLの脱ガス脱イオン水を注入した。撹拌速度を500rpmに上げた。オートクレーブ反応器を35℃までゆっくり加熱した。初期の内部圧力は316psiであった。
【0040】
[0040]18時間後、内部圧力は35℃で238psiであった。加熱を止めた。オートクレーブ反応器をドライアイスで冷却した。撹拌速度を300rpmに減じた。内部温度が約0℃に下がったとき、0.331gの(NH
4)
2S
2O
8を3mLの脱ガス脱イオン水に溶解したものをオートクレーブ反応器中にポンプにて注入し、次いでポンプを洗浄するために2mLの脱ガス脱イオン水を注入した。ドライアイスによる冷却を終了した。内部温度が約10℃に上昇したとき、0.312gのNa
2S
2O
5を3mLの脱ガス脱イオン水に溶解したものをオートクレーブ反応器中にポンプにて注入し、次いでポンプを洗浄するために2mLの脱ガス脱イオン水を注入した。撹拌速度を500rpmに上げた。オートクレーブ反応器をゆっくり35℃に加熱した。このとき内部圧力は219psiであった。共重合を再開した。
【0041】
[0041]さらに68時間後、内部圧力は35℃で158psiに低下した。加熱を止めた。室温にて、残圧をゆっくりと開放した。乳化混合物をろ過した。ろ液(反応生成物)を濃塩酸で酸性化してコポリマーを析出させた。コポリマーを脱イオン水で完全に洗浄し、減圧下(28inHg)35℃で乾燥し乾燥物とした。乾燥コポリマーの量は70.3gであり、重合収率は55.4%であった。
【0042】
[0042]コポリマーの実際のモノマー単位の比は、
19F−NMRで分析したところ35.2モル%の1,3,3,3−テトラフルオロプロペン対64.8モル%のフッ化ビニリデンであった。GPC(ゲルろ過クロマトグラフィー)で分析したコポリマーの重量平均分子量は384,540であった。DSCで分析したコポリマーのTgは20℃であった。コポリマーはアセトン、THF、および酢酸エチルに可溶であった。コポリマーによるコーティングフィルム(アルミニウム基板への溶液キャスト法により形成)は、96.6°の水接触角、73.4°のジヨードメタン接触角を示した。これは23.3mJ/m
2の表面エネルギーに相当し、海洋環境において生物付着耐性を示すのに最適な値であった。J.Mater.Sci:Mater.Med.(2006) 17:1057−1062を参照。
【0043】
実施例3
[0043]撹拌している100mLの脱ガス脱イオン水に、2.156gのNa
2HPO
4・7H
2O、0.589gのNaH
2PO
4、2.168gのC
7F
15CO
2NH
4を加えた。次いで、前記水溶液に、0.272gの(NH
4)
2S
2O
8を撹拌かつ窒素バブリングしながら加えた。シリンジを用いて、得られた水溶液を速やかに真空の300mLオートクレーブ反応器に移した。内部の水溶液をゆっくり撹拌しながらオートクレーブ反応器をドライアイスにて冷却した。内部温度が約−4℃に低下したとき、1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(21.7g)およびフッ化ビニリデン(57.6g)をそれぞれオートクレーブ反応器に装入した。装入の終点において、内部温度は約−5℃よりも低かった。ドライアイスによる冷却を止めた。オートクレーブ反応器を空気によってゆっくり加熱した。内部の水溶液を300rpmで撹拌した。
【0044】
[0044]内部温度が約5℃に上昇したとき、0.284gのNa
2S
2O
5を3mLの脱ガス脱イオン水に溶解したものをオートクレーブ反応器中にポンプにて注入し、次いでポンプを洗浄するために2mLの脱ガス脱イオン水を注入した。撹拌速度を500rpmに上げた。オートクレーブ反応器を35℃までゆっくり加熱した。内部温度が約30℃に上昇したとき、発熱開始が観測された。内部圧力は約37℃において558psiであった。オートクレーブ反応器を周期的にドライアイスで冷却して内部温度を42〜36℃に制御した。約3時間後、内部温度を35℃に保つために加熱を再開した。
【0045】
[0045]合計で40時間の重合を行った後、内部圧力が35℃で85psiに低下した。そして加熱を止めた。オートクレーブ反応器を空冷した。撹拌速度を50rpmに減じた。室温にて、残圧をゆっくり開放した。白色ゴム状のコポリマーの析出物が得られ、これを脱イオン水で完全に洗浄し、次いで減圧下(29inHg)70℃で乾燥し乾燥物とした。乾燥コポリマーの量は67.7gであり、重合収率は85.4%であった。
【0046】
[0046]コポリマーの実際のモノマー単位の比は、
19F−NMRで分析したところ9.5モル%の1,3,3,3−テトラフルオロプロペン対90.5モル%のフッ化ビニリデンであった。GPC(ゲルろ過クロマトグラフィー)で分析したコポリマーの重量平均分子量は448,320であった。DSCで分析したコポリマーのTgは0℃であった。コポリマーは0℃よりも高い温度においてエラストマーの性能を示した。
【0047】
実施例4
[0047]撹拌している100mLの脱ガス脱イオン水に、2.124gのNa
2HPO
4・7H
2O、0.583gのNaH
2PO
4、2.094gのC
7F
15CO
2NH
4を加えた。次いで、前記水溶液に、0.318gの(NH
4)
2S
2O
8を撹拌かつ窒素バブリングしながら加えた。シリンジを用いて、得られた水溶液を速やかに真空の300mLオートクレーブ反応器に移した。内部の水溶液を100rpmで撹拌しながらオートクレーブ反応器をドライアイスにて冷却した。内部温度が約−4℃に低下したとき、46.5gの1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、48.7gのパーフルオロメチルビニルエーテル、および31.0gのフッ化ビニリデンをそれぞれオートクレーブ反応器に装入した。装入の終点において、内部温度は約−5℃よりも低かった。ドライアイスによる冷却を止めた。オートクレーブ反応器を空気によってゆっくり加熱した。同時に撹拌速度を500rpmに上げた。
【0048】
[0048]内部温度が約12℃に上昇したとき、0.321gのNa
2S
2O
5を3mLの脱ガス脱イオン水に溶解したものをオートクレーブ反応器中にポンプにて注入し、次いでポンプを洗浄するために2mLの脱ガス脱イオン水を注入した。オートクレーブ反応器を35℃までゆっくり加熱した。内部圧力は270psiであった。
【0049】
[0049]19時間後、内部圧力が157psiに低下した。そして加熱を止めた。オートクレーブ反応器を空冷した。撹拌速度を300rpmに減じた。室温にて、0.308gの(NH
4)
2S
2O
8を3mLの脱ガス脱イオン水に溶解したものをオートクレーブ反応器中にポンプにて注入し、次いでポンプを洗浄するために2mLの脱ガス脱イオン水を注入した。0.311gのNa
2S
2O
5を3mLの脱ガス脱イオン水に溶解したものをオートクレーブ反応器中にポンプにて注入し、次いでポンプを洗浄するために2mLの脱ガス脱イオン水を注入した。撹拌速度を500rpmに上げた。オートクレーブ反応器をゆっくり35℃に加熱して重合を再開した。内部圧力は134psiであった。
【0050】
[0050]さらに64時間後、内部圧力が35℃で109psiに低下した。そして加熱を止めた。オートクレーブ反応器を空冷した。室温にて残圧を開放した。乳化混合物をろ過した。ろ液(反応生成物)を濃塩酸で酸性化してターポリマーを析出させた。得られたターポリマーを脱イオン水で完全に洗浄し、減圧下(29inHg)35℃で乾燥して乾燥物とした。乾燥ターポリマーは73.4gであり、収率は58.2%であった。
【0051】
[0051]コポリマーの実際のモノマー単位の比は、
19F−NMRで分析したところ21.4モル%の1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、26.1モル%のパーフルオロメチルビニルエーテル、52.5モル%のフッ化ビニリデンであった。GPC(ゲルろ過クロマトグラフィー)で分析したコポリマーの重量平均分子量は388,600であった。DSCで分析したコポリマーのTgは0℃であった。コポリマーは0℃よりも高い温度においてエラストマーの性能を示した。
【0052】
実施例5
[0052]撹拌している100mLの脱ガス脱イオン水に、2.161gのNa
2HPO
4・7H
2O、0.584gのNaH
2PO
4、2.093gのC
7F
15CO
2NH
4を加えた。次いで、前記水溶液に、0.269gの(NH
4)
2S
2O
8を撹拌かつ窒素バブリングしながら加えた。シリンジを用いて、得られた水溶液を速やかに真空の300mLオートクレーブ反応器に移した。内部の水溶液をゆっくり撹拌しながらオートクレーブ反応器をドライアイスにて冷却した。内部温度が約−4℃に低下したとき、2.56gの1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、55.0gのパーフルオロメチルビニルエーテル、および44.7gのフッ化ビニリデンを含む混合物をオートクレーブ反応器に装入した。装入の終点において、内部温度は約−5℃よりも低かった。ドライアイスによる冷却を止めた。オートクレーブ反応器を空気によってゆっくり加熱した。内部の水溶液を300rpmで撹拌した。
【0053】
[0053]内部温度が約15℃に上昇したとき、0.307gのNa
2S
2O
5を3mLの脱ガス脱イオン水に溶解したものをオートクレーブ反応器中にポンプにて注入し、次いでポンプを洗浄するために2mLの脱ガス脱イオン水を注入した。オートクレーブ反応器を35℃までゆっくり加熱し、同時に撹拌速度を500rpmに上げた。内部温度が約28℃となったとき、わずかな発熱開始が観測された。内部温度が37℃に上昇した。内部圧力は493psiであった。オートクレーブ反応器を周期的にドライアイスで冷却し内部温度を35℃周辺に制御した。40分後、オートクレーブ反応器を再加熱して内部温度を35℃に保った。
【0054】
[0054]トータルで43時間の重合の後、内部圧力が35℃で43psiに低下した。そして加熱を止めた。オートクレーブ反応器を空冷した。撹拌速度を100rpmに減じた。室温にて残圧を開放した。透明な反応生成物を100mLの脱イオン水で希釈した後、濃塩酸で酸性化してターポリマーを析出させた。得られたターポリマーを脱イオン水で完全に洗浄し、減圧下(29inHg)50℃で乾燥して乾燥物とした。乾燥ターポリマーは92.1gであり、収率は90.1%であった。
【0055】
[0055]コポリマーの実際のモノマー単位の比は、
19F−NMRで分析したところ1.4モル%の1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、34.5モル%のパーフルオロメチルビニルエーテル、64.1モル%のフッ化ビニリデンであった。GPC(ゲルろ過クロマトグラフィー)で分析したコポリマーの重量平均分子量は442,230(主成分)および7,728,300(副成分)であった。DSCで分析したコポリマーのTgは−29℃であった。このターポリマーは低温においてフッ素化エラストマーとして使用可能である。ターポリマー中の1,3,3,3−テトラフルオロプロペンモノマー単位は硬化部位にもなりうる。
【0056】
実施例6(1,3,3,3−テトラフルオロプロペン/フッ化ビニリデンコポリマーのポリマー加工助剤としての使用)
[0056]Haake社製の向回転噛合式コニカル二軸押出機を、溶融樹脂をダイへ送るのに使用する。押出物の溶融温度は約200℃である。ダイは金属ブロックを積層したものと脱着可能な3つのシム(shim)からなる。ダイギャップを0.5mmにするために中間シムを使用する。他の2つの外部シムはダイの表面を形成し、分析のために外される。
【0057】
[0057]使用するポリマーは、十分に安定化されたブテン−フィルムグレードLLDPE(エクソンモービルLL−1001.32、エクソンモービル社から入手可能)であり、メルトインデックスが1.0、密度が0.918である。全添加物の量が低く、かつその組成にポリマー加工添加剤/助剤(PPA)を含まないことからこのベース樹脂を選択した。
【0058】
[0058]使用するポリマー加工添加剤/助剤(PPA)は、トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン/フッ化ビニリデンコポリマーである。ベース樹脂中にPPAを2%含むマスターバッチを調製し、これを用いてPPAを添加する。PPA重量分率が0.1%となるように、マスターバッチをベース樹脂とともにタンブルブレンドする。試験の前に、10mLのLDPE中に重量分率70%のCaCO
3を含む市販のパージ剤(ヘリテージプラスチックス社製 HM−10)を用いて、装置をパージする。金属シムも超音波浴中にてブタノンを用いて洗浄する。
【0059】
[0059]装置をパージし洗浄する。安定した条件となるまでベース樹脂を装入して押出す。剪断速度は概して300s
−1である。PPA(すなわちトランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン/フッ化ビニリデンコポリマー)を添加し、圧力が平衡となるまで押し出す。この時点で押出機を停止し、ダイを取外して分解し、シムを取出す。通常この工程を1分以内で行うと、ダイの取外しおよび分解によるコーティング外観への影響が非常に小さくなる。一定間隔におけるフィルムサンプルのメルトフラクチャーのパーセンテージに基づいて、加工助剤の性能が評価される。加工助剤を用いない場合と比べて、加工助剤を用いるとメルトフラクチャーは実質的に低下する。
以下に本発明の実施態様を示す。
[1]トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンモノマーとフッ化ビニリデンモノマーを反応媒体中で反応させることを含む、トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン単位およびフッ化ビニリデン単位を含むコポリマーの合成方法。
[2]前記トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンモノマーとフッ化ビニリデンモノマーを、水性乳化重合によって重合する、[1]に記載の方法。
[3]前記コポリマーが100,000ダルトン超の重量平均分子量を有する、[2]に記載の方法。
[4]前記コポリマーが400,000ダルトン超の重量平均分子量を有する、[2]に記載の方法。
[5]トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン単位およびフッ化ビニリデン単位を含むコポリマー。
[6]100,000ダルトン超の重量平均分子量を有する、[5]に記載のコポリマー。
[7]400,000ダルトン超の重量平均分子量を有する、[5]に記載のコポリマー。
[8]パーフルオロビニルエーテル単位をさらに含む、[5]に記載のコポリマー。
[9]前記[5]に記載のコポリマーを製品に適用することを含む、製品への生物付着を防止する方法。
[10]1,3,3,3−テトラフルオロプロペン/フッ化ビニリデンポリマーをポリマー加工添加剤/助剤としてポリマーに添加することを含む、ポリマーの調製方法。