特許第6307151号(P6307151)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6307151光学材料用エピスルフィド化合物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6307151
(24)【登録日】2018年3月16日
(45)【発行日】2018年4月4日
(54)【発明の名称】光学材料用エピスルフィド化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 331/02 20060101AFI20180326BHJP
   C08G 18/38 20060101ALN20180326BHJP
   C08G 59/14 20060101ALN20180326BHJP
   C08G 75/08 20060101ALN20180326BHJP
   G02C 7/12 20060101ALN20180326BHJP
   G02C 7/00 20060101ALN20180326BHJP
【FI】
   C07D331/02
   !C08G18/38 074
   !C08G18/38 076
   !C08G59/14
   !C08G75/08
   !G02C7/12
   !G02C7/00
【請求項の数】3
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2016-507794(P2016-507794)
(86)(22)【出願日】2015年3月11日
(86)【国際出願番号】JP2015057166
(87)【国際公開番号】WO2015137402
(87)【国際公開日】20150917
【審査請求日】2016年8月24日
(31)【優先権主張番号】特願2014-47890(P2014-47890)
(32)【優先日】2014年3月11日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2014-185995(P2014-185995)
(32)【優先日】2014年9月12日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】塚田 英孝
(72)【発明者】
【氏名】川口 勝
【審査官】 早川 裕之
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/095016(WO,A1)
【文献】 特開平11−322930(JP,A)
【文献】 特開2003−048883(JP,A)
【文献】 特表2013−539450(JP,A)
【文献】 特表2013−541531(JP,A)
【文献】 特開2010−190919(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 331/02
C08G 18/38
C08G 59/14
C08G 75/08
G02C 7/00
G02C 7/12
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリセリンを塩素化し、ジクロロプロパノールを得る工程と、
前記ジクロロプロパノールをエポキシ化し、エピクロルヒドリンを得る工程と、
前記エピクロルヒドリンを硫化剤と反応させ、チオール化合物を経てビス(クロロヒドリン)(ジ)スルフィド化合物を得る工程と、
前記ビス(クロロヒドリン)(ジ)スルフィド化合物を塩基条件下でエポキシ化し、エポキシ化合物を得る工程と、
前記エポキシ化合物を硫化剤と反応させて、下記一般式(1)で表されるエピスルフィド化合物を得る工程と、
を含む、光学材料用エピスルフィド化合物の製造方法:
【化1】
(式中、nは0又は1を示す。)。
【請求項2】
前記グリセリンは、植物由来原料から得られたものである、請求項1に記載の光学材料用エピスルフィド化合物の製造方法。
【請求項3】
前記ジクロロプロパノールを得る前記工程は、グリセリンを塩素化し、アリルクロライド、1,2−ジクロロプロパン、2,3−ジクロロプロペン、2−クロロアリルアルコール、1,3−ジクロロプロペン、および1,2,3−トリクロロプロパンから選択される少なくとも1種の塩素系副生物を含むジクロロプロパノール含有組成物を得る工程であり、
前記エピクロルヒドリンを得る前記工程は、前記ジクロロプロパノール含有組成物に含まれる前記ジクロロプロパノールをエポキシ化し、前記工程で得られた前記塩素系副生物を5000ppm以下の量で含むエピクロルヒドリン含有組成物を得る工程である、請求項1または2に記載の光学材料用エピスルフィド化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学材料用エピスルフィド化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックレンズは、無機レンズに比べ軽量で割れ難く、染色が可能なため近年、眼鏡レンズ、カメラレンズ等の光学素子に急速に普及してきている。
【0003】
プラスチックレンズ用樹脂には、さらなる高性能化が要求されてきており、高屈折率化、高アッベ数化、低比重化、高耐熱性化等が求められてきた。これまでにも様々なレンズ用樹脂素材が開発され使用されている。
【0004】
その中でも、スルフィド系樹脂からなる光学材料は、高屈折率、高アッベ数であり、屈折率1.6を超える超高屈折率材料として検討が行われている。スルフィド系樹脂は、エピスルフィド化合物を含む重合性組成物を重合させて得られる(特許文献1から4)。近年、エピスルフィド化合物およびそれから得られる光学材料用樹脂の品質の向上を目的に種々の検討も行われている(特許文献5,6)。
【0005】
エピスルフィド化合物の原料であるエピクロルヒドリンについても、従来の化石原料(プロピレン、アリルアルコール等)から合成する製造ルートに代わって、天然物起源のグリセリンを塩素化、エポキシ化して合成する製造ルートが開発され、エポキシ樹脂などへの応用が検討されている(特許文献7)。しかし光学材料用途については検討されていない。
【0006】
植物由来原料を用いて得られるプラスチックレンズ材料としては、イソソルビドから誘導される構成単位を含むポリカーボネート樹脂を主成分とし、射出成形により得られるメガネレンズが提案されている(特許文献8)。これによって植物由来原料から製造され、高耐熱、高強度、低歪の光学レンズを得ることができているが、屈折率などの光学物性には改善の余地があった。
【0007】
さらに、特許文献9では、植物由来の原料を用いた樹脂を提案しているが、屈折率1.6を超える超高屈折率材料としての用途ではなく、得られた樹脂の光学物性などは示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−194083号公報
【特許文献2】特開2000−256435号公報
【特許文献3】特開2001−163874号公報
【特許文献4】国際公開第2013/115212号パンフレット
【特許文献5】国際公開第2013/157490号パンフレット
【特許文献6】特開2013−142073号公報
【特許文献7】特表2013−541531号公報
【特許文献8】特開2010−190919号公報
【特許文献9】特開2011−225863号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、透明性、耐熱性などのバランスに優れ、屈折率1.60を超える超高屈折率である光学材料を得ることができる光学材料用エピスルフィド化合物の製造方法、当該製造方法により得られたエピスルフィド含有組成物および該組成物を含む光学材料用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは鋭意検討の結果、所定の製造方法から得られるエピスルフィド化合物を用いることにより、透明性、屈折率、耐熱性などのバランスに優れ、屈折率1.60を超える超高屈折率プラスチックレンズ等の光学材料を提供できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下に示すことができる。
【0011】
[1] グリセリンを塩素化し、ジクロロプロパノールを得る工程と、
前記ジクロロプロパノールをエポキシ化し、エピクロルヒドリンを得る工程と、
前記エピクロルヒドリンを硫化剤と反応させ、チオール化合物を経てビス(クロロヒドリン)(ジ)スルフィド化合物を得る工程と、
前記ビス(クロロヒドリン)(ジ)スルフィド化合物を塩基条件下でエポキシ化し、エポキシ化合物を得る工程と、
前記エポキシ化合物を硫化剤と反応させて、下記一般式(1)で表されるエピスルフィド化合物を得る工程と、
を含む、光学材料用エピスルフィド化合物の製造方法:
【化1】
(式中、nは0又は1を示す。)。
[2] 前記グリセリンは、植物由来原料から得られたものである、[1]に記載の光学材料用エピスルフィド化合物の製造方法。
なお、本発明において「(ジ)スルフィド化合物」とは、スルフィド化合物またはジスルフィド化合物を意味する。
[3] 前記ジクロロプロパノールを得る前記工程は、グリセリンを塩素化し、アリルクロライド、1,2−ジクロロプロパン、2,3−ジクロロプロペン、2−クロロアリルアルコール、1,3−ジクロロプロペン、および1,2,3−トリクロロプロパンから選択される少なくとも1種の塩素系副生物を含むジクロロプロパノール含有組成物を得る工程であり、
前記エピクロルヒドリンを得る前記工程は、前記ジクロロプロパノール含有組成物に含まれる前記ジクロロプロパノールをエポキシ化し、前記工程で得られた前記塩素系副生物を5000ppm以下の量で含むエピクロルヒドリン含有組成物を得る工程である、[1]または[2]に記載の光学材料用エピスルフィド化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の製造方法より得られたエピスルフィド化合物を用いることにより、透明性、屈折率、耐熱性などのバランスに優れ、屈折率1.60を超える超高屈折率プラスチックレンズ等の光学材料を得ることができる。
さらに、植物由来原料から得られたエピスルフィド化合物を用いることにより、バイオマス度が25%以上を有し、さらに上記物性にも優れたプラスチックレンズ等の光学材料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の光学材料用エピスルフィド化合物の製造方法は、
グリセリンを塩素化し、ジクロロプロパノールを得る工程と、
前記ジクロロプロパノールをエポキシ化し、エピクロルヒドリンを得る工程と、
前記エピクロルヒドリンを硫化剤と反応させ、チオール化合物を経てビス(クロロヒドリン)(ジ)スルフィド化合物を得る工程と、
前記ビス(クロロヒドリン)(ジ)スルフィド化合物を塩基条件下でエポキシ化し、エポキシ化合物を得る工程と、
前記エポキシ化合物を硫化剤と反応させて、下記一般式(1)で表されるエピスルフィド化合物を得る工程と、を含む。
【0014】
【化4】
【0015】
式中、nは0または1を示す。
一般式(1)で表されるエピスルフィド化合物は、具体的にはビス(2,3−エピチオプロピル)スルフィド、ビス(2,3−エピチオプロピル)ジスルフィドである。
本実施形態においては、これらのエピスルフィド化合物の製造方法を説明する。
【0016】
(ビス(2,3−エピチオプロピル)スルフィドの製造方法)
本実施形態において、光学材料用エピスルフィド化合物であるビス(2,3−エピチオプロピル)スルフィドの製造方法は、下記反応式(2)に示すように、以下の工程を含む。
(i)グリセリンを塩素化し、ジクロロプロパノールを得る工程(下記反応式(2)のa))
(ii)前記ジクロロプロパノールをエポキシ化し、エピクロルヒドリンを得る工程(下記反応式(2)のb))
(iii)前記エピクロルヒドリンを硫化剤と反応させ、チオール化合物を経てビス(クロロヒドリン)スルフィド化合物を得る工程(下記反応式(2)のc))
(iv)前記ビス(クロロヒドリン)スルフィド化合物を塩基条件下でエポキシ化し、エポキシ化合物を得る工程(下記反応式(2)のd))
(v)前記エポキシ化合物を硫化剤と反応させて、ビス(2,3−エピチオプロピル)スルフィドを得る工程(下記反応式(2)のe))
【0017】
【化5】
【0018】
これらの工程について、以下詳細に説明する。
工程(i)
グリセリンを塩素化する場合、塩素化剤として、塩素、塩化水素などが使用でき、触媒の存在下又は不存在下で行うことができる。好ましくは好適な触媒の存在下で反応を行う。この場合、カルボン酸又はカルボン酸誘導体に基づく触媒、例えばカルボン酸無水物、カルボン酸塩素化物、カルボン酸塩又はカルボン酸エステルが有利に用いられる。
触媒としては、酢酸、蟻酸、プロピオン酸、酪酸等の脂肪酸及び安息香酸などの芳香族カルボン酸誘導体から選択される少なくとも1種のカルボン酸等が挙げられる。カルボン酸としては、ジ−、トリ−又はテトラカルボン酸などのポリ(カルボン酸)でもよく、その中ではジカルボン酸が好ましい。
【0019】
塩素化反応では、溶媒として、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ニトロベンゼン等の芳香族系溶媒類、ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタン等の脂肪族系溶媒類、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、メトキシエタノール、エチレングリコール、グリセリン等のアルコール類等及び水が好ましく用いられる。これらは単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
【0020】
反応温度は20〜160℃が好ましく、80〜140℃であればより好ましく、90〜120℃であれば更に好ましい。この反応は、塩化水素を使用する場合、一般に0.002バール以上、好ましくは0.02バール以上、特に好ましくは0.05バール以上の塩化水素の分圧で実施され、この圧力は、一般に50バール以下、好ましくは30バール以下、特に好ましくは20バール以下である。
【0021】
工程(ii)
ジクロロプロパノールからエピクロルヒドリンを合成する際、ジクロロプロパノールに対し、塩基当量は0.5〜5当量が好ましく、0.9〜2.0当量であれば更に好ましい。用いることができる塩基は、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジメチルシクロヘキシルアミン、ジエチルアニリン、ピリジン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、ナトリウムメチラート、t−ブトキシカリウム、燐酸一水素二ナトリウム、酢酸ナトリウム等の有機・無機塩基類である。
【0022】
本発明のエピクロルヒドリンを製造するための方法では、反応温度は0〜140℃が好ましく、10〜50℃であれば更に好ましい。使用できる溶媒として、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ニトロベンゼン等の芳香族系溶媒類、ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタン等の脂肪族系溶媒類、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、メトキシエタノール、エチレングリコール、グリセリン等のアルコール類等及び水が好ましく用いられる。これらは単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
【0023】
工程(iii)
エピクロルヒドリンに硫化水素、水硫化ナトリウム、硫化ナトリウム等の硫化剤を反応させ、1−クロロ−3−メルカプト−2−プロパノール(チオール化合物)を経由してビス(クロロヒドリン)スルフィド化合物を合成する。このチオール化合物を経由する場合、チオール化合物を単離することなく系内で直接ビスクロロヒドリンを得ることもできる。これら硫化剤の使用量は、エピクロルヒドリンに対して、0.3〜4当量、好ましくは0.4〜3当量、より好ましくは0.5〜2当量とすることができる。
この際、反応触媒として、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジメチルシクロヘキシルアミン、ジエチルアニリン、ピリジン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、ナトリウムメチラート、t−ブトキシカリウム、燐酸一水素二ナトリウム、酢酸ナトリウム等の有機・無機塩基類を加えた方が好ましい結果を与える場合が多い。これら塩基の中では、無機塩基類の方が比較的好ましく、無機塩基類のなかでは水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、水酸化カルシウム等が好ましい。
これら塩基の添加量は、エピクロルヒドリンに対して0.1〜10wt%が好ましく、0.3〜5wt%であればさらに好ましい。反応温度は−20〜50℃が好ましく、0〜40℃であれば更に好ましい。
【0024】
反応溶媒は、使用してもしなくてもよいが、使用する場合はトルエン、キシレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ニトロベンゼン等の芳香族系溶媒類、ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタン等の脂肪族系溶媒類、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、メトキシエタノール、エチレングリコール、グリセリン等のアルコール類、水等が好ましく用いられる。これらは単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
水と芳香族系溶媒類、または水と脂肪族系溶媒類等の二層分離型混合溶媒系を用いる場合は、相間移動触媒として、アルコール類、4級アルキルアンモニウム塩、アルキルまたはアリールカルボン酸金属塩、アルキルまたはアリールスルホン酸金属塩、酸性アルキルまたはアリール燐酸エステルとその金属塩等の界面活性剤類を加えた場合、好ましい結果を与える場合が多い。これらの界面活性剤類の添加量は、反応マス総重量に対して0.001〜20wt%が好ましく、0.1〜10wt%であればさらに好ましい。
【0025】
工程(iv)
工程(iii)で得られた反応マスにトリエチルアミン、トリブチルアミン、ジメチルシクロヘキシルアミン、ジエチルアニリン、ピリジン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、ナトリウムメチラート、t−ブトキシカリウム、燐酸一水素二ナトリウム、酢酸ナトリウム等の有機・無機塩基類を加えて、エポキシ化合物を含む組成物を得る。
【0026】
これら塩基は、単独でも2種類以上を併用してもよいが、用いる塩基の種類は有機塩基類よりも無機塩基類の方が比較的好ましく、無機塩基類のなかでは水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが好ましい。これらの塩基の使用量は、先に使用したエピクロルヒドリンに対して、1〜10当量が好ましく、2〜5当量であれば更に好ましい。また、反応温度は−10〜60℃が好ましく、5〜30℃であれば更に好ましい。通常は、このような2段法によって反応式(2)において表されるエポキシ化合物が合成されるが、エピクロルヒドリン類に対して当量以上の有機・無機塩基類を加え、次いでエピクロルヒドリン類を加える1段法でも合成可能である。工程(iv)においては、エポキシ化合物を含む組成物として得られる。
【0027】
工程(v)
チオエポキシ化合物(ビス(2,3−エピチオプロピル)スルフィド)を含む組成物は、工程(iv)で得られたエポキシ化合物を含む組成物において、エポキシ化合物を硫化剤と反応させることで得られる。硫化剤としては、チオ尿素、又はチオシアン酸ナトリウム、チオシアン酸カリウム、チオシアン酸アンモニウム、チオシアン酸カルシウム、チオシアン酸鉛等のチオシアン酸塩等が挙げられる。チオシアン酸塩を使用する場合は、チオシアン酸ナトリウム、チオシアン酸カリウム、チオシアン酸アンモニウムが比較的に好ましく、チオシアン酸ナトリウムであれば更に好ましい。
【0028】
硫化剤であるチオ尿素、又はチオシアン酸塩の使用量は、例えば、エポキシ基に対して当量以上で用いられるが、好ましくは1〜5当量、更に好ましくは1〜3当量の範囲である。1当量未満では純度が低下し、5当量を超えると経済的に不利になる場合がある。
反応温度はチオ尿素、又はチオシアン酸塩の種類によって大きく異なる為特に限定はできないが、チオ尿素を使用する場合は凡そ10〜30℃が好ましく、チオシアン酸塩を使用する場合は凡そ30〜60℃が好ましい。
【0029】
チオエポキシ化合物を合成する場合、通常、エポキシ化合物の合成時とほぼ同様の反応溶媒が使用される。例えば、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ニトロベンゼン等の芳香族系溶媒類、ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタン等の脂肪族系溶媒類、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、メトキシエタノール、エチレングリコール、グリセリン等のアルコール類等が好ましく用いられる。これらは単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。エポキシ化の場合と異なり、チオエポキシ化の場合は、水は反応速度を遅くさせる傾向にある為、あまり好ましくは用いられない。
【0030】
本実施形態の製造方法のように、グリセリンから製造されるエピクロルヒドリンは、不純物(塩素系副生物、加水分解性塩素)の量が、アリルクロライドやプロピレンなどの石油資源由来原料から合成されたエピクロルヒドリンに比べて少ない。塩素系副生物としては、アリルクロライド、1,2−ジクロロプロパン、2,3−ジクロロプロペン、2−クロロアリルアルコール、1,3−ジクロロプロペン、1,2,3−トリクロロプロパンなどを挙げることができる。これらの塩素系副生物は反応性に富んでいるため、エピスルフィド化合物の製造において副生成物を生成する原因となる。そのため、グリセリンから製造されるエピクロルヒドリンを用いることにより、中間体や最終物の色相などの品質や保管安定性、精製負荷などの点で優れる。これらの塩素系の不純物は、エピクロルヒドリンと沸点が近く、蒸留でも完全に除去することは困難である。
本発明者らは、例えば、塩素系副生物であるジクロロプロペンが、クロロメルカプトプロパノールと反応してクロロー(2−クロロアリル)チオ)プロパノールなどのより構造の複雑な塩素系不純物を生じ、さらに製造工程進む中で最終物中の不純物含量を増加させることを見出し、さらにグリセリンから製造されるエピクロルヒドリンを原料とすることでこのような副生物の生成を抑制できることを見出し、本発明を完成させた。さらに、植物由来原料から得られたグリセリンから製造されるエピクロルヒドリンは、当該効果により優れることを見出し、本発明を完成させた。
本実施形態の製造方法から得られるエピクロルヒドリンは、塩素系不純物の量が5000ppm以下、好ましくは4500ppm以下、2000ppm以下、150ppm以下、50ppm以下である。
本実施形態において、このような不純物を含むグリセリンやエピクロルヒドリン等は、それぞれグリセリン含有組成物やエピクロルヒドリン含有組成物等と表すことができる。
結果として、色相などの品質の良いエピスルフィド化合物が得られるため、成形体において光学物性のばらつきや光学歪の発生率などが抑制され、光学製品の歩留まりが向上する利点を有している。
【0031】
本実施形態において、エピスルフィド化合物であるビス(2,3−エピチオプロピル)スルフィドは、上記のように、グリセリンを塩素化し、エポキシ化することで得られるエピクロルヒドリンを原料として合成される。原料として用いられるグリセリンは、化石資源原料由来でも天然物起源のものでもよいが、バイオマス度の高いエピスルフィド化合物を得ることができるという観点から天然物起源のものが好ましい。グリセリンは、例えば植物もしくは藻類などの油脂を鹸化することにより得られる。
【0032】
本実施形態において、植物由来原料から得られたグリセリンから、ビス(2,3−エピチオプロピル)スルフィドを合成するには、以下のように植物由来原料から得られたグリセリンを含む組成物を反応液のまま次工程に用いることにより行うことができる。これにより、ビス(2,3−エピチオプロピル)スルフィド含有組成物(エピスルフィド含有組成物)として得ることができる。
【0033】
(i)植物由来原料から得られたグリセリンを含む組成物において、該グリセリンを塩素化し、ジクロロプロパノールを含む組成物を得る工程
(ii)前記組成物において、前記ジクロロプロパノールをエポキシ化し、エピクロルヒドリンを含む組成物を得る工程
(iii)前記組成物において、前記エピクロルヒドリンを硫化剤と反応させ、チオール化合物を経てビス(クロロヒドリン)スルフィド化合物を含む組成物を得る工程
(iv)前記組成物において、前記ビス(クロロヒドリン)スルフィド化合物を塩基条件下でエポキシ化し、エポキシ化合物を含む組成物を得る工程
(v)前記組成物において、前記エポキシ化合物を硫化剤と反応させ、ビス(2,3−エピチオプロピル)スルフィドを含む組成物を得る工程
【0034】
工程(i)において用いられる、植物由来原料から得られたグリセリンを含む組成物は、菜種油、パーム油、ひまし油、オリーブ油などの植物油脂または藻類などの油脂に含まれるグリセリンの脂肪酸エステルから加水分解やエステル交換を施すことで得ることができる。
【0035】
工程(v)は、組成物を精製する工程を含むことができる。
【0036】
植物由来原料から得られたグリセリンを原料に用いることにより、光学材料の製造プロセス全体の環境負荷低減を図ることができる。さらに、グリセリンから製造されるエピクロルヒドリン中の不純物(塩素系副生物、加水分解性塩素)は、プロピレンなどの石油資源由来のエピクロルヒドリンに比べ少ない。そのため、エピスルフィド化合物の製造において、中間体や最終物の色相などの品質や保管安定性、精製負荷などの点で優れている。
結果として、植物由来原料から得られたグリセリンを原料に用いることにより、地球環境の保全に貢献し、品質の良いエピスルフィド化合物が得られるため、光学物性のばらつきや光学歪の発生率などが抑制され、光学製品の歩留まりが向上する利点をも有している。
【0037】
(ビス(2,3−エピチオプロピル)ジスルフィドの製造方法)
光学材料用エピスルフィド化合物であるビス(2,3−エピチオプロピル)ジスルフィドの合成方法は、下記反応式(3)に示すように、以下の工程を含む。
【0038】
(i)グリセリンを塩素化し、ジクロロプロパノールを得る工程(下記反応式(3)のa))
(ii)前記ジクロロプロパノールをエポキシ化し、エピクロルヒドリンを得る工程(下記反応式(3)のb))
(iii)前記エピクロルヒドリンを硫化剤と反応させて、ビスクロロヒドリンとし、次いで酸化することによりビス(クロロヒドリン)ジスルフィド化合物を得る工程(下記反応式(3)のc))
(iv)前記ビス(クロロヒドリン)ジスルフィド化合物を塩基条件下でエポキシ化し、エポキシ化合物を得る工程(下記反応式(3)のd))
(v)前記エポキシ化合物を硫化剤と反応させて、ビス(2,3−エピチオプロピル)ジスルフィドを得る工程(下記反応式(3)のe))
【0039】
【化6】
【0040】
これらの工程について、以下詳細に説明する。
工程(i)
グリセリンを塩素化する場合、塩素化剤として、塩素、塩化水素などが使用でき、触媒の存在下又は不存在下で行うことができる。好ましくは好適な触媒の存在下で反応を行う。この場合、カルボン酸又はカルボン酸誘導体に基づく触媒、例えばカルボン酸無水物、カルボン酸塩素化物、カルボン酸塩又はカルボン酸エステルが有利に用いられる。
触媒としては、酢酸、蟻酸、プロピオン酸、酪酸等の脂肪酸及び安息香酸などの芳香族カルボン酸誘導体から選択される少なくとも1種のカルボン酸等が挙げられる。カルボン酸としては、ジ−、トリ−又はテトラカルボン酸などのポリ(カルボン酸)でもよく、その中ではジカルボン酸が好ましい。
【0041】
反応溶媒として、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ニトロベンゼン等の芳香族系溶媒類、ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタン等の脂肪族系溶媒類、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、メトキシエタノール、エチレングリコール、グリセリン等のアルコール類等が好ましく用いられる。これらは単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
【0042】
反応温度は20〜160℃が好ましく、80〜140℃であればより好ましく、90〜120℃であれば更に好ましい。この反応は、塩化水素を使用する場合、一般に0.002バール以上、好ましくは0.02バール以上、特に好ましくは0.05バール以上の塩化水素の分圧で実施され、この圧力は、一般に50バール以下、好ましくは30バール以下、特に好ましくは20バール以下である。
【0043】
工程(ii)
ジクロロプロパノールからエピクロルヒドリンを合成する際、ジクロロプロパノールに対し、塩基は0.5〜5当量が好ましく、0.9〜2.0当量であれば更に好ましい。
用いることができる塩基は、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジメチルシクロヘキシルアミン、ジエチルアニリン、ピリジン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、ナトリウムメチラート、t−ブトキシカリウム、燐酸一水素二ナトリウム、酢酸ナトリウム等の有機・無機塩基類等が挙げられる。
【0044】
エピクロルヒドリンを製造するための方法では、反応温度は0〜140℃が好ましく、10〜50℃であれば更に好ましい。使用できる溶媒として、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ニトロベンゼン等の芳香族系溶媒類、ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタン等の脂肪族系溶媒類、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、メトキシエタノール、エチレングリコール、グリセリン等のアルコール類等が好ましく用いられる。これらは単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
【0045】
工程(iii)
エピクロルヒドリンに硫化水素、水硫化ナトリウム、硫化ナトリウム等の硫化剤を反応させ、1−クロロ−3−メルカプト−2−プロパノール(チオール化合物)を経由してビス(クロロヒドリン)ジスルフィド化合物を合成する。これら硫化剤の使用量は、エピクロルヒドリンに対して、0.5〜2当量が好ましく、0.9〜1.2当量であれば更に好ましい。
この際、反応触媒として、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジメチルシクロヘキシルアミン、ジエチルアニリン、ピリジン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、ナトリウムメチラート、t−ブトキシカリウム、燐酸一水素二ナトリウム、酢酸ナトリウム等の有機・無機塩基類を加えると好ましい結果を与える場合が多い。これら塩基の中では、無機塩基類の方が比較的好ましく、無機塩基類のなかでは水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、水酸化カルシウムが好ましい。これら塩基の添加量は、エピクロルヒドリンに対して0.1〜10wt%が好ましく、0.3〜5wt%であればさらに好ましい。反応温度は−20〜50℃が好ましく、0〜30℃であれば更に好ましい。
【0046】
反応溶媒は、使用してもしなくてもよいが、使用する場合はトルエン、キシレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ニトロベンゼン等の芳香族系溶媒類、ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタン等の脂肪族系溶媒類、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、メトキシエタノール、エチレングリコール、グリセリン等のアルコール類、水等が好ましく用いられる。これらは単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。水と芳香族系溶媒類、または水と脂肪族系溶媒類等の二層分離型混合溶媒系を用いる場合は、相間移動触媒として、アルコール類、4級アルキルアンモニウム塩、アルキルまたはアリールカルボン酸金属塩、アルキルまたはアリールスルホン酸金属塩、酸性アルキルまたはアリール燐酸エステルとその金属塩等の界面活性剤類を加えた場合、好ましい結果を与える場合が多い。これらの界面活性剤類の添加量は、反応マス総重量に対して0.001〜20wt%が好ましく、0.1〜10wt%であればさらに好ましい。
【0047】
得られたチオール化合物である1−クロロ−3−メルカプト−2−プロパノールは、塩素、臭素、ヨウ素、過酸化水素、次亜塩素酸ソーダ等の酸化剤を用いてジスルフィド化させ、ビス(クロロヒドリン)ジスルフィド化合物を得ることができる。これら酸化剤の使用量は、エピクロルヒドリンに対して、0.2〜5当量が好ましく、0.4〜2.0当量であれば更に好ましい。反応温度は0〜50℃が好ましく、0〜30℃であれば更に好ましい。反応溶媒は、使用してもしなくてもよいが、使用する場合はトルエン、キシレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ニトロベンゼン等の芳香族系溶媒類、ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタン等の脂肪族系溶媒類、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、メトキシエタノール、エチレングリコール、グリセリン等のアルコール類、水等が好ましく用いられる。
【0048】
工程(iv)
工程(iii)で得られた反応マスにトリエチルアミン、トリブチルアミン、ジメチルシクロヘキシルアミン、ジエチルアニリン、ピリジン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、ナトリウムメチラート、t−ブトキシカリウム、燐酸一水素二ナトリウム、酢酸ナトリウム等の有機・無機塩基類を加えて、エポキシ化合物を含む組成物を得る。
【0049】
これら塩基は、単独でも2種類以上を併用してもよい。用いる塩基の種類は有機塩基類よりも無機塩基類の方が比較的好ましく、無機塩基類のなかでは水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが好ましい。これらの塩基の使用量は、先に使用したエピクロルヒドリンに対して、1〜10当量が好ましく、2〜5当量であれば更に好ましい。
また、反応温度は−10〜60℃が好ましく、5〜30℃であれば更に好ましい。通常は、このような2段法によって本発明に係わるエポキシ化合物が合成されるが、エピクロルヒドリン類に対して当量以上の有機・無機塩基類を加え、次いでエピクロルヒドリン類を加える1段法でも合成可能である。工程(iv)においては、エポキシ化合物を含む組成物として得られる。
【0050】
工程(v)
チオエポキシ化合物(ビス(2,3−エピチオプロピル)ジスルフィド)を含む組成物は、工程(iv)で得られたエポキシ化合物を含む組成物において、エポキシ化合物を硫化剤と反応させることで得られる。硫化剤としては、チオ尿素、又はチオシアン酸ナトリウム、チオシアン酸カリウム、チオシアン酸アンモニウム、チオシアン酸カルシウム、チオシアン酸鉛等のチオシアン酸塩等が挙げられる。チオシアン酸塩を使用する場合は、チオシアン酸ナトリウム、チオシアン酸カリウム、チオシアン酸アンモニウムが好ましく、チオシアン酸ナトリウムが更に好ましい。
【0051】
硫化剤であるチオ尿素、又はチオシアン酸塩の使用量は、例えば、エポキシ基に対して当量以上で用いられるが、好ましくは1〜5当量、更に好ましくは1〜3当量の範囲である。1当量未満では純度が低下し、5当量を超えると経済的に不利になる場合がある。
反応温度はチオ尿素、又はチオシアン酸塩の種類によって大きく異なる為特に限定はできないが、チオ尿素を使用する場合は凡そ10〜30℃が好ましく、チオシアン酸塩を使用する場合は凡そ30〜60℃が好ましい。
【0052】
チオエポキシ化合物を合成する場合、通常、エポキシ化合物の合成時とほぼ同様の反応溶媒が使用される。例えば、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ニトロベンゼン等の芳香族系溶媒類、ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタン等の脂肪族系溶媒類、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、メトキシエタノール、エチレングリコール、グリセリン等のアルコール類等が好ましく用いられる。これらは単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。エポキシ化の場合と異なり、チオエポキシ化の場合は、水は反応速度を遅くさせる傾向にある為、好ましくは用いられない。
【0053】
グリセリンから製造されるエピクロルヒドリン中の不純物(塩素系副生物、加水分解性塩素)は、プロピレンなどの石油資源由来のエピクロルヒドリンに比べ少ない。そのため、エピスルフィド化合物の製造において、中間体や最終物の色相などの品質や保管安定性、精製負荷などの点で優れている。
結果として、品質の良いエピスルフィド化合物が得られるため、光学物性のばらつきや光学歪の発生率などが抑制され、光学製品の歩留まりが向上する利点を有している。
【0054】
本実施形態において、エピスルフィド化合物であるビス(2,3−エピチオプロピル)ジスルフィドは、上記のように、グリセリンを塩素化し、エポキシ化することで得られるエピクロルヒドリンを原料として合成される。原料として用いられるグリセリンは、化石資源原料由来でも天然物起源のものでもよいが、バイオマス度の高いエピスルフィド化合物を得ることができるという観点から天然物起源のものが好ましい。グリセリンは、例えば植物もしくは藻類などの油脂を鹸化することにより得られる。
【0055】
本実施形態において、植物由来原料から得られたグリセリンから、ビス(2,3−エピチオプロピル)ジスルフィドを合成するには、以下のように植物由来原料から得られたグリセリンを含む組成物を反応液のまま次工程に用いることにより行うことができる。これにより、ビス(2,3−エピチオプロピル)ジスルフィド含有組成物(エピスルフィド含有組成物)として得ることができる。
なお、反応条件は、前記工程(i)〜(v)と同様である。
【0056】
(i)植物由来原料から得られたグリセリンを含む組成物aにおいて、該グリセリンを塩素化し、ジクロロプロパノールを含む組成物を得る工程
(ii)前記組成物において、前記ジクロロプロパノールをエポキシ化し、エピクロルヒドリンを含む組成物を得る工程
(iii)前記組成物において、前記エピクロルヒドリンを硫化剤と反応させ、次いで酸化することによりビス(クロロヒドリン)ジスルフィド化合物を含む組成物を得る工程
(iv)前記組成物において、前記ビス(クロロヒドリン)ジスルフィド化合物を塩基条件下でエポキシ化し、エポキシ化合物を含む組成物を得る工程
(v)前記組成物において、前記エポキシ化合物を硫化剤と反応させ、ビス(2,3−エピチオプロピル)ジスルフィドを含む組成物を得る工程
【0057】
工程(i)において用いられる、植物由来原料から得られたグリセリンを含む組成物は、菜種油、パーム油、ひまし油、オリーブ油などの植物油脂または藻類などの油脂に含まれるグリセリンの脂肪酸エステルから加水分解やエステル交換を施すことで得ることができる。
工程(v)は、組成物を精製する工程を含むことができる。
【0058】
植物由来原料から得られたグリセリンを原料に用いることにより、光学材料の製造プロセス全体の環境負荷低減を図ることができる。さらに、グリセリンから製造されるエピクロルヒドリン中の不純物(塩素系副生物、加水分解性塩素)は、プロピレンなどの石油資源由来のエピクロルヒドリンに比べ少ない。そのため、エピスルフィド化合物の製造において、中間体や最終物の色相などの品質や保管安定性、精製負荷などの点で優れている。
結果として、植物由来原料から得られたグリセリンを原料に用いることにより、地球環境の保全に貢献し、品質の良いエピスルフィド化合物が得られるため、光学物性のばらつきや光学歪の発生率などが抑制され、光学製品の歩留まりが向上する利点をも有している。
【0059】
[光学材料用重合性組成物]
本実施形態の光学材料用重合性組成物は、上述のエピスルフィド化合物またはエピスルフィド含有組成物を含み、さらに、ポリイソシアネート(a)および/またはポリチオール(b)を含むことができる。
まず、各成分について説明する。
【0060】
(ポリイソシアネート(a))
ポリイソシアネート(a)としては、例えば、
ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサンジイソシアネート、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネートメチルエステル、リジントリイソシアネート、m−キシリレンジイソシアネート、α,α,α′,α′−テトラメチルキシリレンジイソシアネート、ビス(イソシアナトメチル)ナフタリン、メシチリレントリイソシアネート、ビス(イソシアナトメチル)スルフィド、ビス(イソシアナトエチル)スルフィド、ビス(イソシアナトメチル)ジスルフィド、ビス(イソシアナトエチル)ジスルフィド、ビス(イソシアナトメチルチオ)メタン、ビス(イソシアナトエチルチオ)メタン、ビス(イソシアナトエチルチオ)エタン、ビス(イソシアナトメチルチオ)エタン等の脂肪族ポリイソシアネート化合物;
イソホロンジイソシアネート、ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、ジシクロヘキシルジメチルメタンイソシアネート、2,5−ビス(イソシアナトメチル)ビシクロ−[2.2.1]−ヘプタン、2,6−ビス(イソシアナトメチル)ビシクロ−[2.2.1]−ヘプタン、3,8−ビス(イソシアナトメチル)トリシクロデカン、3,9−ビス(イソシアナトメチル)トリシクロデカン、4,8−ビス(イソシアナトメチル)トリシクロデカン、4,9−ビス(イソシアナトメチル)トリシクロデカン等の脂環族ポリイソシアネート化合物;
フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート、ジフェニルスルフィド−4,4−ジイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネート化合物;
2,5−ジイソシアネートチオフェン、2,5−ビス(イソシアナトメチル)チオフェン、2,5−ジイソシアネートテトラヒドロチオフェン、2,5−ビス(イソシアナトメチル)テトラヒドロチオフェン、3,4−ビス(イソシアナトメチル)テトラヒドロチオフェン、2,5−ジイソシアネート−1,4−ジチアン、2,5−ビス(イソシアナトメチル)−1,4−ジチアン、4,5−ジイソシアネート−1,3−ジチオラン、4,5−ビス(イソシアナトメチル)−1,3−ジチオラン等の複素環ポリイソシアネート化合物;
等を挙げることができ、1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0061】
さらに、これらイソシアネート化合物の塩素置換体、臭素置換体等のハロゲン置換体、アルキル置換体、アルコキシ置換体、ニトロ置換体や、多価アルコールとのプレポリマー型変性体、カルボジイミド変性体、ウレア変性体、ビウレット変性体、ダイマー化あるいはトリマー化反応生成物等も使用することができる。これらイソシアネート化合物は単独でも、2種類以上を混合しても使用することができる。
【0062】
これらポリイソシアネート化合物のうち、入手の容易さ、価格、得られる樹脂の性能等から、ジイソシアネート化合物が好ましく使用される。例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、2,5−ビス(イソシアナトメチル)ビシクロ−[2.2.1]−ヘプタン、2,6−ビス(イソシアナトメチル)ビシクロ−[2.2.1]−ヘプタン、m−キシリレンジイソシアネート、および2,5−ビス(イソシアナトメチル)−1,4−ジチアンから選択される少なくとも1種であることが好ましく、2,5−ビス(イソシアナトメチル)ビシクロ−[2.2.1]−ヘプタン、2,6−ビス(イソシアナトメチル)ビシクロ−[2.2.1]−ヘプタン、およびm−キシリレンジイソシアネートから選択される少なくとも1種が特に好ましい。
【0063】
[ポリチオール(b)]
本実施形態において、ポリチオール化合物(b)としては、例えば、
メタンジチオール、1,2−エタンジチオール、1,2,3−プロパントリチオール、1,2−シクロヘキサンジチオール、ビス(2−メルカプトエチル)エーテル、テトラキス(メルカプトメチル)メタン、ジエチレングリコールビス(2−メルカプトアセテート)、ジエチレングリコールビス(3−メルカプトプロピオネート)、エチレングリコールビス(2−メルカプトアセテート)、エチレングリコールビス(3−メルカプトプロピオネート)、トリメチロールプロパントリス(2−メルカプトアセテート)、トリメチロールプロパントリス(3−メルカプトプロピオネート)、トリメチロールエタントリス(2−メルカプトアセテート)、トリメチロールエタントリス(3−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(2−メルカプトアセテート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、ビス(メルカプトメチル)スルフィド、ビス(メルカプトメチル)ジスルフィド、ビス(メルカプトエチル)スルフィド、ビス(メルカプトエチル)ジスルフィド、ビス(メルカプトプロピル)スルフィド、ビス(メルカプトメチルチオ)メタン、ビス(2−メルカプトエチルチオ)メタン、ビス(3−メルカプトプロピルチオ)メタン、1,2−ビス(メルカプトメチルチオ)エタン、1,2−ビス(2−メルカプトエチルチオ)エタン、1,2−ビス(3−メルカプトプロピルチオ)エタン、1,2,3−トリス(メルカプトメチルチオ)プロパン、1,2,3−トリス(2−メルカプトエチルチオ)プロパン、1,2,3−トリス(3−メルカプトプロピルチオ)プロパン、4−メルカプトメチル−1,8−ジメルカプト−3,6−ジチアオクタン、5,7−ジメルカプトメチル−1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカン、4,7−ジメルカプトメチル−1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカン、4,8−ジメルカプトメチル−1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカン、テトラキス(メルカプトメチルチオメチル)メタン、テトラキス(2−メルカプトエチルチオメチル)メタン、テトラキス(3−メルカプトプロピルチオメチル)メタン、ビス(2,3−ジメルカプトプロピル)スルフィド、2,5−ジメルカプトメチル−1,4−ジチアン、2、5−ジメルカプト−1,4−ジチアン、2,5−ジメルカプトメチル−2,5−ジメチル−1,4−ジチアン、及びこれらのチオグリコール酸およびメルカプトプロピオン酸のエステル、ヒドロキシメチルスルフィドビス(2−メルカプトアセテート)、ヒドロキシメチルスルフィドビス(3−メルカプトプロピオネート)、ヒドロキシエチルスルフィドビス(2−メルカプトアセテート)、ヒドロキシエチルスルフィドビス(3−メルカプトプロピオネート)、ヒドロキシメチルジスルフィドビス(2−メルカプトアセテート)、ヒドロキシメチルジスルフィドビス(3−メルカプトプロピオネート)、ヒドロキシエチルジスルフィドビス(2―メルカプトアセテート)、ヒドロキシエチルジスルフィドビス(3―メルカプトプロピネート)、2−メルカプトエチルエーテルビス(2−メルカプトアセテート)、2−メルカプトエチルエーテルビス(3−メルカプトプロピオネート)、チオジグリコール酸ビス(2−メルカプトエチルエステル)、チオジプロピオン酸ビス(2−メルカプトエチルエステル)、ジチオジグリコール酸ビス(2−メルカプトエチルエステル)、ジチオジプロピオン酸ビス(2−メルカプトエチルエステル)、1,1,3,3−テトラキス(メルカプトメチルチオ)プロパン、1,1,2,2−テトラキス(メルカプトメチルチオ)エタン、4,6−ビス(メルカプトメチルチオ)−1,3−ジチアシクロヘキサン、トリス(メルカプトメチルチオ)メタン、トリス(メルカプトエチルチオ)メタン等の脂肪族ポリチオール化合物;
1,2−ジメルカプトベンゼン、1,3−ジメルカプトベンゼン、1,4−ジメルカプトベンゼン、1,2−ビス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,3−ビス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,4−ビス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,2−ビス(メルカプトエチル)ベンゼン、1,3−ビス(メルカプトエチル)ベンゼン、1,4−ビス(メルカプトエチル)ベンゼン、1,3,5−トリメルカプトベンゼン、1,3,5−トリス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,3,5−トリス(メルカプトメチレンオキシ)ベンゼン、1,3,5−トリス(メルカプトエチレンオキシ)ベンゼン、2,5−トルエンジチオール、3,4−トルエンジチオール、1,5−ナフタレンジチオール、2,6−ナフタレンジチオール等の芳香族ポリチオール化合物;
2−メチルアミノ−4,6−ジチオール−sym−トリアジン、3,4−チオフェンジチオール、ビスムチオール、4,6−ビス(メルカプトメチルチオ)−1,3−ジチアン、2−(2,2−ビス(メルカプトメチルチオ)エチル)−1,3−ジチエタン等の複素環ポリチオール化合物;
等を挙げることができ、1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0064】
ポリチオール(b)としては、4−メルカプトメチル−1,8−ジメルカプト−3,6−ジチアオクタン、4,8または4,7または5,7−ジメルカプトメチル−1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカン、ペンタエリスリトールテトラキスメルカプトアセテート、ペンタエリスリトールテトラキス(2−メルカプトアセテート)、ペンタエリスリトールテトラキスメルカプトプロピオネート、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、2,5−ビス(メルカプトメチル)−1,4−ジチアン、ビス(メルカプトエチル)スルフィド、1,1,3,3−テトラキス(メルカプトメチルチオ)プロパン、4,6−ビス(メルカプトメチルチオ)−1,3−ジチアン、2−(2,2−ビス(メルカプトメチルチオ)エチル)−1,3−ジチエタン、1,1,2,2−テトラキス(メルカプトメチルチオ)エタン、3−メルカプトメチル−1,5−ジメルカプト−2,4−ジチアペンタン、トリス(メルカプトメチルチオ)メタン、およびエチレングリコールビス(3−メルカプトプロピオネート)から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0065】
ポリチオール(b)は、植物由来原料から得られたポリチオールであって、4−メルカプトメチル−1,8−ジメルカプト−3,6−ジチアオクタン、4,8または4,7または5,7−ジメルカプトメチル−1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカンから選択されることがより好ましい。
【0066】
(重合触媒)
本実施形態の重合性組成物は、重合触媒の存在下あるいは不存在下に、加熱あるいは常温放置により重合がなされ、樹脂を製造することができる。
本重合触媒の種類としてはアミン類、ホスフィン類、有機酸およびその塩、エステル、無水物類、無機酸、4級アンモニウム塩類、4級ホスホニウム塩類、3級スルホニウム塩類、2級ヨードニウム塩類、ルイス酸類、ラジカル重合触媒類、カチオン重合触媒類等が通常用いられる。
【0067】
上記重合触媒は単独でも2種以上を混合して用いてもよく、これら重合触媒のうち、反応性の異なる2種以上のものを併用すると、モノマーのハンドリング性、得られる樹脂の光学物性、色相、透明性、光学ひずみ(脈理)が向上する場合があるため、好ましい場合がある。
【0068】
硬化触媒の好ましいものの具体例として、アミン類としては、例えば、トリエチルアミン、トリ−n−プロピルアミン、トリイソプロピルアミン、トリ−n−ブチルアミン、トリイソブチルアミン、N,N−ジメチルベンジルアミン、N−メチルモルホリン、N,N−ジメチルシクロヘキシルアミン、ジメチルジプロピレントリアミン、ペンタメチルジエチレントリアミン、ビス(2−ジメチルアミノエチル)エーテル、N−メチルモルホリン、N,N'−ジメチルピペラジン、トリエチレンジアミン、N,N,N',N'−テトラメチルエチレンジアミン、ビシクロオクタンジアミン(DABCO)等の3級アミン類、例えば、テトラメチルアンモニウムブロミド、テトラエチルアンモニウムブロミド、テトラプロピルアンモニウムブロミド、テトラブチルアンモニウムブロミド、テトラヘキシルアンモニウムブロミド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド等の4級アンモニウム塩類、例えば、イミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、ベンジルメチルイミダゾール、2−エチル−4−イミダゾール等のイミダゾール類、例えば、ピラゾール、3,5−ジメチルピラゾール等のピラゾール類、例えば、1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジノール、1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ヒドロキシエチル−4−ピペリジノール、メチル−1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジルセバケート、メチル−1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジルセバケートとビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケートとの混合物、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−1−(オクチルオキシ)−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)[[3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル]メチル]ブチルマロネート、テトラキス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)ブタン−1,2,3,4−テトラカルボキシレート等のヒンダードアミン類が挙げられる。その他、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリn−プロピルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリn−ブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリベンジルホスフィン、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、1,2−ビス(ジメチルホスフィノ)エタン等のホスフィン類、ジメチル錫ジクロライド、ジブチル錫ジクロライド、ジブチル錫ジラウレート、テトラクロロ錫、ジブチル錫オキサイド、塩化亜鉛、アセチルアセトン亜鉛、塩化アルミ、フッ化アルミ、トリフェニルアルミ、テトラクロロチタン、酢酸カルシウム等のルイス酸、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロ燐酸、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロ砒酸、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロアンチモン、トリフェニルスルフォニウムテトラフルオロ硼酸、トリフェニルスルフォニウムヘキサフルオロ燐酸、トリフェニルスルフォニウムヘキサフルオロ砒酸等のカチオン重合触媒が挙げられるが、これら例示化合物のみに限定されるものではない。
【0069】
これら硬化触媒は単独でも2種以上を混合して用いても良い。
硬化触媒の添加量は、式(1)で示されるエピスルフィド化合物を含有する組成物の総重量に対して0.001〜10wt%の範囲で用いられ、好ましくは0.01〜1wt%の範囲で使用される。
【0070】
(硫黄)
本実施形態の重合性組成物、得られる成形体の屈折率向上を目的として硫黄を添加することができる。光学樹脂に使用するものとしては、その純度は好ましくは98%以上であり、より好ましくは99%以上、さらに好ましくは99.5%以上のものである。純度を高める為に、揮発成分を除去する方法も好ましい場合がある。
【0071】
性状としては、重合性組成物に溶解可能な形状であれば問題ないが、好ましくは粉末状、さらに好ましくは微粉末状である。
添加する量は、エピスルフィド化合物と硫黄の合計重量を100重量部とした場合、10から50重量部、好ましくは10から40重量部、より好ましくは10から30重量部使用する。添加の際は、イミダゾール類、アミン類などの公知の加硫触媒を併用することができる。
【0072】
(樹脂改質剤)
樹脂改質剤としては、エポキシ化合物類、(メタ)アクリレート類を含むオレフィン類、アミン化合物類、チオール化合物類、ポリフェノール類、アミノ酸及びメルカプトアミン類、有機酸類及び無水物、メルカプト有機酸類等が挙げられる。
【0073】
(その他添加剤)
樹脂改質剤の他に、目的に応じ問題のない範囲で、内部離型剤、光安定剤、ブルーイング剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、染料、充填剤等の公知の各種添加剤などを加えてもよい。内部離型剤は式(4)に示される酸性リン酸エステルを使用することができる。
【0074】
【化7】
【0075】
式中、mは1または2の整数を示し、nは0〜18の整数を示し、R1は炭素数1〜20のアルキル基を示し、R2、R3はそれぞれ独立に水素原子または、メチル基、エチル基を示す。[ ]m内の炭素数は4から20であることが好ましい。
【0076】
一般式(4)中のR1としては、例えば、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、へプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、テトラデカン、へキサデカン等の直鎖の脂肪族化合物から誘導される有機残基;
2−メチルプロパン、2−メチルブタン、2−メチルペンタン、3−メチルペンタン、3−エチルペンタン、2−メチルヘキサン、3−メチルヘキサン、3−エチルヘキサン、2−メチルへプタン、3−メチルへプタン、4−メチルへプタン、3−エチルへプタン、4−エチルへプタン、4−プロピルへプタン、2−メチルオクタン、3−メチルオクタン、4−メチルオクタン、3−エチルオクタン、4−エチルオクタン、4−プロピルオクタン等の分岐鎖の脂肪族化合物から誘導される有機残基;
シクロペンタン、シクロへキサン、1,2−ジメチルシクロヘキサン、1,3−ジメチルシクロヘキサン、1,4−ジメチルシクロヘキサン等の脂環族化合物から誘導される有機残基;
等を挙げることができるが、これら例示化合物のみに限定されるものではない。
【0077】
酸性リン酸エステルの市販品として、STEPAN社製のZelecUN、城北化学工業社製のJPシリーズ、東邦化学工業社製のフォスファノールシリーズ、大八化学工業社製のAP、DPシリーズ等を挙げることができる。
【0078】
光安定剤としては、ヒンダードアミン系化合物を用いることができる。
ヒンダードアミン系化合物は、Chemtura社製のLowilite76、Lowilite92、BASF社製のTinuvin123、Tinuvin144、Tinuvin292、Tinuvin765、Tinuvin770DF、ADEKA社製のアデカスタブLA−52、LA−72、城北化学工業社製のJF−90、JF−95等を挙げることができる。
【0079】
ブルーイング剤としては、可視光領域のうち橙色から黄色の波長域に吸収帯を有し、樹脂からなる光学材料の色相を調整する機能を有するものが挙げられる。ブルーイング剤は、さらに具体的には、青色から紫色を示す物質を含む。
【0080】
紫外線吸収剤としては、2,2'−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−アクリロイルオキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−アクリロイルオキシ−5−tert−ブチルベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−アクリロイルオキシ−2',4'−ジクロロベンゾフェノン等のベンゾフェノン系紫外線吸収剤、
2−[4−[(2−ヒドロキシ−3−ドデシルオキシプロピル)オキシ]−2−ヒドロキシフェニル]−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン、2−[4−(2−ヒドロキシ−3−トリデシルオキシプロピル)オキシ]−2−ヒドロキシフェニル]−4,6−ビス(2,4ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン、2−[4−[(2−ヒドロキシ−3−(2'−エチル)ヘキシル)オキシ]−2−ヒドロキシフェニル]−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス(2−ヒドロキシ−4−ブチルオキシフェニル)−6−(2,4−ビス−ブチルオキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2−(2−ヒドロキシ−4−[1−オクチルオキシカルボニルエトキシ]フェニル)−4,6−ビス(4−フェニルフェニル)−1,3,5−トリアジン等のトリアジン系紫外線吸収剤、
2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−メチルフェノール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−tert−オクチルフェノール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ジ−tert−ペンチルフェノール、2−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−メチル−6−tert−ブチルフェノール、2−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−2,4−tert−ブチルフェノール、2,2'−メチレンビス[6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェノール]等のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤などが挙げられるが、好ましくは2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−tert−オクチルフェノールや2−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−メチル−6−tert−ブチルフェノールのベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤が挙げられる。これらの紫外線吸収剤は単独でも2種以上を併用することもできる。
【0081】
これら添加剤の添加量は構成成分の合計100重量部に対して、0.05重量部から2.0重量部が好ましく、0.05重量部から1.5重量部がより好ましい。
本実施形態の光学材料用重合性組成物は、前述の成分を混合することにより得ることができる。混合方法は、従来公知の方法により行うことができる。
【0082】
本実施形態の重合性組成物は、a)前述のエピスルフィド含有組成物を含む重合性組成物、b)前述のエピスルフィド含有組成物にさらにポリチオール化合物を含む重合性組成物、c)前述のエピスルフィド含有組成物にさらにポリチオール化合物およびポリイソシアネート化合物を含む重合性組成物である。
高いバイオマス度を有する観点から、植物由来原料から製造されたモノマー成分を含むことが好ましく、a)の重合性組成物中に含まれるエピスルフィド含有組成物は植物由来原料から製造されるものとする。b)の重合性組成物においては、エピスルフイド含有組成物またはポリチオール化合物の少なくとも一方が植物由来原料から製造されるものとする。c)の重合性組成物においては、エピスルフイド含有組成物またはポリチオール化合物、またはポリイソシアネート化合物の少なくとも1つが、植物由来原料から製造されたものとする。
【0083】
本実施形態の光学材料用重合性組成物は、前述の成分を混合することにより得ることができる。混合方法は、従来公知の方法により行うことができる。
【0084】
本実施形態の光学材料用重合性組成物は、ポリイソシアネート(a)の総イソシアナト基に対するポリチオール(b)の総メルカプト基のモル比は0.8〜1.2の範囲内であり、好ましくは0.85〜1.15の範囲内であり、さらに好ましくは0.9〜1.1の範囲内である。前記範囲内で、光学材料、特に眼鏡レンズとして好適に使用される光学材料用重合性組成物を得ることができる。
【0085】
[成形体]
本実施形態の光学材料用重合性組成物を重合硬化することにより、透明性、屈折率、耐熱性、強度などの物性に優れた成形体を得ることができる。成形体のTgは、60℃以上、好ましくは70℃以上、さらに好ましくは80℃以上である。
さらに、植物由来原料を用いることで、地球環境に調和する光学材料用樹脂を含んでなる成形体を得ることができる。光学材料用樹脂のバイオマス度を25%以上とすることができる。
【0086】
非化石資源の活用の観点からは、植物由来原料を用い、高いバイオマス度を有する材料を用いることが好ましい。しかしながら、樹脂のバイオマス度を向上させていくと、物性等が低下する場合があった。
【0087】
本発明者らが鋭意検討したところ、植物由来原料から得られたグリセリンから得られるエピスルフィド含有組成物を用いることにより、バイオマス度が25%以上のスルフィド樹脂および当該樹脂を含んでなる成形体が得られ、非化石資源の活用に貢献することができるとともに、さらに透明性、耐熱性、強度に優れ、かつ、屈折率、アッベ数、離型性等の物性のバランスにも優れる光学材料用樹脂および当該樹脂を含んでなる成形体が得られることを見出し、本発明を完成させたのである。
【0088】
[用途]
本実施形態の成形体からなる光学材料は、注型重合時のモールドを変えることにより種々の形状として得ることができる。具体的には、プラスチックレンズ、カメラレンズ、発光ダイオード(LED)、プリズム、光ファイバー、情報記録基板、フィルター、発光ダイオード、自動車用光学レンズ、ロボット用光学レンズ等の各種用途に使用することが可能である。特に、プラスチックレンズ、カメラレンズ、発光ダイオード等の光学材料、光学素子として好適である。
【0089】
プラスチックレンズとしては、ポリチオウレタン樹脂からなるプラスチック眼鏡レンズ、偏光フィルムの少なくとも一方の面に、ポリチオウレタン樹脂からなる層が積層しているプラスチック偏光レンズを挙げることができる。
【0090】
[プラスチック眼鏡レンズの製造方法]
本実施形態のプラスチック眼鏡レンズの製造方法は、以下の工程を備える。
工程(1):レンズ注型用鋳型内に、本実施形態の光学材料用重合性組成物を注入する。
工程(2):レンズ注型用鋳型内の光学材料用重合性組成物を重合硬化する。
以下、各工程に沿って順に説明する。
【0091】
工程(1)
本工程においては、ガスケットまたはテープ等で保持された成型モールド(レンズ注型用鋳型)内に、本実施形態の重合性組成物を注入する。この時、得られる成形体に要求される物性によっては、必要に応じて、減圧下での脱泡処理や加圧、減圧等の濾過処理等を行うことが好ましい。
【0092】
工程(2)
本工程においては、所定の温度で成型モールド内に注型された重合性組成物の重合を開始し、該組成物を重合する。重合条件については、使用するポリイソシアネートやアルコールの種類、モールドの形状等によって大きく条件が異なるため限定されるものではないが、およそ0〜140℃の温度で1〜48時間かけて行われる。
【0093】
得られたプラスチック眼鏡レンズは必要に応じて、片面又は両面にコーティング層を施して用いてもよい。コーティング層としては、プライマー層、ハードコート層、反射防止層、防曇コート層、防汚染層、撥水層等が挙げられる。これらのコーティング層はそれぞれ単独で用いることも複数のコーティング層を多層化して使用してもよい。両面にコーティング層を施す場合、それぞれの面に同様なコーティング層を施しても、異なるコーティング層を施してもよい。
【0094】
これらのコーティング層はそれぞれ、紫外線からレンズや目を守る目的で紫外線吸収剤、赤外線から目を守る目的で赤外線吸収剤、レンズの耐候性を向上する目的で光安定剤や酸化防止剤、レンズのファッション性を高める目的で染料や顔料、さらにフォトクロミック染料やフォトクロミック顔料、帯電防止剤、その他、レンズの性能を高めるための公知の添加剤を併用してもよい。塗布によるコーティングを行う層に関しては塗布性の改善を目的とした各種レベリング剤を使用してもよい。
【0095】
プライマー層は通常、後述するハードコート層と光学レンズとの間に形成される。プライマー層は、その上に形成するハードコート層とレンズとの密着性を向上させることを目的とするコーティング層であり、場合により耐衝撃性を向上させることも可能である。プライマー層には得られた光学レンズに対する密着性の高いものであればいかなる素材でも使用できるが、通常、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂、メラニン系樹脂、ポリビニルアセタールを主成分とするプライマー組成物などが使用される。プライマー組成物は組成物の粘度を調整する目的でレンズに影響を及ぼさない適当な溶剤を用いてもよい。無論、無溶剤で使用してもよい。
【0096】
プライマー層は塗布法、乾式法のいずれの方法によっても形成することができる。塗布法を用いる場合、レンズへスピンコート、ディップコートなど公知の塗布方法で塗布された後、固化させることによりプライマー層が形成される。乾式法で行う場合は、CVD法や真空蒸着法などの公知の乾式法で形成される。プライマー層を形成するに際し、密着性の向上を目的として、必要に応じてレンズの表面は、アルカリ処理、プラズマ処理、紫外線処理などの前処理を行っておいてもよい。
ハードコート層は、レンズ表面に耐擦傷性、耐摩耗性、耐湿性、耐温水性、耐熱性、耐候性等機能を与えることを目的としたコーティング層である。
【0097】
ハードコート層は、一般的には硬化性を有する有機ケイ素化合物とSi,Al,Sn,Sb,Ta,Ce,La,Fe,Zn,W,Zr,InおよびTiの元素群から選ばれる元素の酸化物微粒子の1種以上および/またはこれら元素群から選ばれる2種以上の元素の複合酸化物から構成される微粒子の1種以上を含むハードコート組成物が使用される。
【0098】
ハードコート組成物には前記成分以外にアミン類、アミノ酸類、金属アセチルアセトネート錯体、有機酸金属塩、過塩素酸類、過塩素酸類の塩、酸類、金属塩化物および多官能性エポキシ化合物の少なくともいずれかを含むことが好ましい。ハードコート組成物にはレンズに影響を及ぼさない適当な溶剤を用いてもよい。無論、無溶剤で使用してもよい。
【0099】
ハードコート層は、通常、ハードコート組成物をスピンコート、ディップコートなど公知の塗布方法で塗布した後、硬化して形成される。硬化方法としては、熱硬化、紫外線や可視光線などのエネルギー線照射による硬化方法等が挙げられる。干渉縞の発生を抑制するため、ハードコート層の屈折率は、レンズとの屈折率の差が±0.1の範囲にあるのが好ましい。
【0100】
反射防止層は、通常、必要に応じて前記ハードコート層の上に形成される。反射防止層には無機系および有機系があり、無機系の場合、SiO、TiO等の無機酸化物を用い、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、イオンビ−ムアシスト法、CVD法などの乾式法により形成される。有機系の場合、有機ケイ素化合物と、内部空洞を有するシリカ系微粒子とを含む組成物を用い、湿式により形成される。
【0101】
反射防止層は単層および多層があり、単層で用いる場合はハードコート層の屈折率よりも屈折率が少なくとも0.1以上低くなることが好ましい。効果的に反射防止機能を発現するには多層膜反射防止膜とすることが好ましく、その場合、低屈折率膜と高屈折率膜とを交互に積層する。この場合も低屈折率膜と高屈折率膜との屈折率差は0.1以上であることが好ましい。高屈折率膜としては、ZnO、TiO、CeO、Sb、SnO、ZrO、Ta等の膜があり、低屈折率膜としては、SiO膜等が挙げられる。
【0102】
反射防止層の上には、必要に応じて防曇コート層、防汚染層、撥水層を形成させてもよい。防曇コート層、防汚染層、撥水層を形成する方法としては、反射防止機能に悪影響をもたらすものでなければ、その処理方法、処理材料等については特に限定されずに、公知の防曇コート処理方法、防汚染処理方法、撥水処理方法、材料を使用することができる。例えば、防曇コート、防汚染処理方法では、表面を界面活性剤で覆う方法、表面に親水性の膜を付加して吸水性にする方法、表面を微細な凹凸で覆い吸水性を高める方法、光触媒活性を利用して吸水性にする方法、超撥水性処理を施して水滴の付着を防ぐ方法などが挙げられる。また、撥水処理方法では、フッ素含有シラン化合物等を蒸着やスパッタによって撥水処理層を形成する方法や、フッ素含有シラン化合物を溶媒に溶解したあと、コーティングして撥水処理層を形成する方法等が挙げられる。
【0103】
本実施形態のプラスチック眼鏡レンズはファッション性やフォトクロミック性の付与などを目的として、目的に応じた色素を用い、染色して使用してもよい。レンズの染色は公知の染色方法で実施可能であるが、通常、以下に示す方法で実施される。
【0104】
一般的には、使用する色素を溶解または均一に分散させた染色液中に所定の光学面に仕上げられたレンズ生地を浸漬(染色工程)した後、必要に応じてレンズを加熱して色素を固定化(染色後アニール工程)する方法である。染色工程に用いられる色素は公知の色素であれば特に限定されないが、通常は油溶染料もしくは分散染料が使用される。
【0105】
染色工程で使用される溶剤は用いる色素が溶解可能もしくは均一に分散可能なものであれば特に限定されない。この染色工程では、必要に応じて染色液に色素を分散させるための界面活性剤や、染着を促進するキャリアを添加してもよい。
染色工程は、色素及び必要に応じて添加される界面活性剤を水又は水と有機溶媒との混合物中に分散させて染色浴を調製し、この染色浴中に光学レンズを浸漬し、所定温度で所定時間染色を行う。染色温度及び時間は、所望の着色濃度により変動するが、通常、120℃以下で数分から数十時間程度でよく、染色浴の染料濃度は0.01〜10重量%で実施される。また、染色が困難な場合は加圧下で行ってもよい。
【0106】
必要に応じて実施される染色後アニール工程は、染色されたレンズ生地に加熱処理を行う工程である。加熱処理は、染色工程で染色されたレンズ生地の表面に残る水を溶剤等で除去したり、溶媒を風乾したりした後に、例えば大気雰囲気の赤外線加熱炉、あるいは抵抗加熱炉等の炉中に所定時間滞留させる。染色後アニール工程は、染色されたレンズ生地の色抜けを防止する(色抜け防止処理)と共に、染色時にレンズ生地の内部に浸透した水分の除去が行われる。
【0107】
[プラスチック偏光レンズの製造方法]
本実施形態のプラスチック偏光レンズの製造方法は、以下の工程を備える。
工程(a):レンズ注型用鋳型内に、偏光フィルムの少なくとも一方の面がモールドから離隔した状態で、該偏光フィルムを固定する。
工程(b):前記偏光フィルムと前記モールドとの間の空隙に、本実施形態の光学材料用重合性組成物を注入する。
工程(c):前記光学材料用重合性組成物を重合硬化して、前記偏光フィルムの少なくとも一方の面にポリチオウレタン樹脂からなる層を積層する。
以下、各工程に沿って順に説明する。
【0108】
工程(a)
レンズ注型用鋳型の空間内に、熱可塑性ポリエステル等からなる偏光フィルムを、フィルム面の少なくとも一方が対向するモールド内面と並行となるように設置する。偏光フィルムとモールドとの間には、空隙部が形成される。偏光フィルムは予め附形されていてもよい。
【0109】
工程(b)
次いで、レンズ注型用鋳型の空間内において、モールドと偏光フィルムとの間の空隙部に、所定の注入手段により本実施形態の光学材料用重合性組成物を注入する。
【0110】
工程(c)
次いで、光学材料用重合性組成物が注入された偏光フィルムが固定されたレンズ注型用鋳型をオーブン中または水中等の加熱可能装置内で所定の温度プログラムにて数時間から数十時間かけて加熱して硬化成型する。
重合硬化の温度は、重合性組成物の組成、触媒の種類、モールドの形状等によって条件が異なるため限定できないが、0〜140℃の温度で1〜48時間かけて行われる。
【0111】
硬化成形終了後、レンズ注型用鋳型から取り出すことで、偏光フィルムの少なくとも一方の面にポリチオウレタン樹脂からなる層が積層された、本実施形態のプラスチック偏光レンズを得ることができる。
本実施形態のプラスチック偏光レンズは、重合による歪みを緩和することを目的として、離型したレンズを加熱してアニール処理を施すことが望ましい。
【0112】
本実施形態のプラスチック偏光レンズは、必要に応じ、片面又は両面にコーティング層を施して用いられる。コーティング層としては、プラスチック眼鏡レンズと同様の、プライマー層、ハードコート層、反射防止層、防曇コート層、防汚染層、撥水層等を挙げることができる。
【0113】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、本発明の効果を損なわない範囲で、上記以外の様々な構成を採用することができる。
【実施例】
【0114】
以下に、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下説明中、特に言及が無い限り「部」、「%」は重量基準である。
【0115】
(エピスルフィド化合物のバイオマス度(%)の算出方法)
植物由来原料のエピクロルヒドリンを炭素基準のバイオマス度100%として、これに基づき、合成されたエピスルフィド化合物のバイオマス度を炭素基準で算出した。
エピスルフィド化合物のバイオマス度(%)={(エピスルフィド化合物分子中のエピクロルヒドリン由来の炭素数)×(エピクロルヒドリンのバイオマス度(%))}/{(エピスルフィド化合物分子中の炭素数)}
【0116】
(ポリチオールのバイオマス度(%)の算出方法)
植物由来原料のエピクロルヒドリンを炭素基準のバイオマス度100%として、これに基づき、合成されたポリチオールのバイオマス度を炭素基準で算出した。
ポリチオールのバイオマス度(%)={(ポリチオール分子中のエピクロルヒドリン由来の炭素数)×(エピクロルヒドリンのバイオマス度(%))}/{(ポリチオール分子中の炭素数)}
【0117】
(光学材料用樹脂のバイオマス度(%)の算出方法)
実施例7に記載した樹脂のバイオマス度は、エピスルフィド化合物およびポリチオールのバイオマス度に基づき、炭素基準で算出した。
(光学材料用樹脂のバイオマス度(%))={(用いたエピスルフィド化合物の炭素数)×(エピスルフィド化合物のバイオマス度(%))+(用いたポリチオール化合物の炭素数)×(ポリチオール化合物のバイオマス度(%))}/{(用いたエピスルフィド化合物の炭素数)+(用いたポリチオール化合物の炭素数)}
【0118】
(レンズの性能試験法)
重合により得られたレンズは性能試験を行い評価した。性能試験は、屈折率・アッベ数、耐熱性、比重とし、以下の試験法により評価した。
・ 屈折率(ne)アッベ数(νe): 島津製作所製プルフリッヒ屈折計KPR−30を用いて、20℃で測定した。
・ 耐熱性: 島津製作所社製TMA−60を使用し、TMAペネトレーション法(50g荷重、ピン先0.5mmφ)でのガラス転移温度(Tg)を耐熱性とした。
・ 比重:20℃にてアルキメデス法により測定した。
【0119】
(GC−MS測定条件)
合成により得られたエピクロルヒドリン、クロロメルカプトプロパノールはGC−MSにより分析を行った。
・ GC−MS: HP−6890GC/5973N MSD
・ Column: DB−5MS
・ Oven条件: 60℃(1.0minホールド)⇒(10℃/min)⇒200℃(5.0minホールド)
・ Carrier: He 1.5ml/min
【0120】
[実施例1] (1,3−ジクロロ−2−プロパノールの合成)
植物由来原料から得られたグリセリン237g(2.57mol)、および33%塩化水素水溶液559.3g(5.06mol)、アジピン酸219g(1.50mol)を、異なるラインから反応器(1)に連続的に供給し、130℃にて滞留時間は20時間で操作した。この反応中、反応器(1)から発生する蒸気を、25℃の反応器(2)に供給し、水相および有機相をデカンター(反応器(3))に供給し、分離した水相フラクションを反応器(2)にリサイクルし還流を保持した。デカンター出口で15%の1,3−ジクロロ−2−プロパノールを含む水相および88%の1,3−ジクロロ−2−プロパノールを含む有機相を回収し、1,3−ジクロロ−2−プロパノール270g(2.09mol)を得た。
【0121】
[実施例2] (エピクロルヒドリンの合成)
1リットルガラスサーモスタット付き反応器に、実施例1で得られた1,3−ジクロロ−2−プロパノール 258.76g(2.01mol)を充填した。フラスコに、20分かけて、25℃にて激しく攪拌しつつ、397.1gのNaOHの19.1重量%水溶液(1.90mol)を添加した。添加の終了時に、得られた混合物を分液漏斗に移した。有機相を分離し、蒸留により99.97%のエピクロルヒドリン159.8g(1.73mol)を得た。得られたエピクロルヒドリンをGC−MSで測定したところ、アリルクロライド、1,2−ジクロロプロパン、2,3−ジクロロプロペン、2−クロロアリルアルコール、1,3−ジクロロプロペン、1,2,3−トリクロロプロパンなどの塩素系副生物は、検出限界(1ppm)以下であり、アリルクロライドやプロピレンなどの石油資源由来原料から合成されたエピクロルヒドリンに比べ、含有量が少ないことが確認された。
【0122】
[実施例3](ポリチオール化合物の合成)
(4,8−ジメルカプトメチル−1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカンを主成分とするポリチオール化合物の合成)
反応器内に、2−メルカプトエタノール51.2重量部、脱気水(溶存酸素濃度2ppm)26.5重量部、49重量%の水酸化ナトリウム水溶液0.16重量部を装入した。植物由来のグリセリンから製造されたエピクロルヒドリン(日本ソルベイ社製、EPICHLOROHYDRIN(ECH))61.99重量部を9〜11℃にて6.5時間かけて滴下装入し、引き続き60分撹拌を行った。
次いで、17.3%の硫化ソーダ水溶液150.0重量部を7〜37℃にて5.5時間かけて滴下装入し、120分撹拌を行った。
そして、35.5%の塩酸279.0重量部を装入し、次に、純度99.90%のチオ尿素125.8重量部を装入し、110℃還流下にて3時間撹拌して、チウロニウム塩化反応を行った。45℃に冷却した後、トルエン214.0重量部を加え、26℃まで冷却し、25重量%のアンモニア水溶液206.2重量部を26〜50℃で30分掛けて装入し、50〜65℃で1時間撹拌により加水分解反応を行い、目的とするポリチオール化合物のトルエン溶液を得た。該トルエン溶液を、36%塩酸59.4重量部添加し、34〜39℃で30分酸洗浄を2回実施した。脱気水(溶存酸素濃度2ppm)118.7重量部を添加し35〜45℃で30分洗浄を5回実施した。加熱減圧下でトルエン及び微量の水分を除去後、1.2μmのPTFEタイプメンブランフィルターで減圧濾過して4,8−ジメルカプトメチル−1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカン(以下、化合物A)、4,7−ジメルカプトメチル−1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカン(以下、化合物B)、および5,7−ジメルカプトメチル−1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカン(以下、化合物C)を主成分とするポリチオール化合物115.9重量部を得た(化合物A/B/C=85/5/10(モル比)の異性体混合物)。
【0123】
[実施例4](ポリチオール化合物の合成)
(4,8−ジメルカプトメチル−1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカンを主成分とするポリチオール化合物の合成)
反応器内に、2−メルカプトエタノール51.2重量部、脱気水(溶存酸素濃度2ppm)26.5重量部、49重量%の水酸化ナトリウム水溶液0.16重量部を装入した。実施例2で得られた99.97%のエピクロルヒドリン1.99重量部を9〜11℃にて6.5時間かけて滴下装入し、引き続き60分撹拌を行った。
次いで、17.3%の硫化ソーダ水溶液150.0重量部を7〜37℃にて5.5時間かけて滴下装入し、120分撹拌を行った。
そして、35.5%の塩酸279.0重量部を装入し、次に、純度99.90%のチオ尿素125.8重量部を装入し、110℃還流下にて3時間撹拌して、チウロニウム塩化反応を行った。45℃に冷却した後、トルエン214.0重量部を加え、26℃まで冷却し、25重量%のアンモニア水溶液206.2重量部を26〜50℃で30分掛けて装入し、50〜65℃で1時間撹拌により加水分解反応を行い、目的とするポリチオール化合物のトルエン溶液を得た。該トルエン溶液を、36%塩酸59.4重量部添加し、34〜40℃で30分酸洗浄を2回実施した。脱気水(溶存酸素濃度2ppm)118.7重量部を添加し35〜45℃で30分洗浄を5回実施した。加熱減圧下でトルエン及び微量の水分を除去後、1.2μmのPTFEタイプメンブランフィルターで減圧濾過して4,8−ジメルカプトメチル−1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカン(以下、化合物A)、4,7−ジメルカプトメチル−1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカン(以下、化合物B)、および5,7−ジメルカプトメチル−1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカン(以下、化合物C)を主成分とするポリチオール化合物116.1重量部を得た(化合物A/B/C=85/5/10(モル比)の異性体混合物)。
【0124】
このポリチオール化合物のバイオマス度は、エピクロルヒドリンのバイオマス度100%に基づき、炭素基準で以下の式より算出される。
ポリチオール化合物のバイオマス度={(ポリチオール化合物分子中のエピクロルヒドリン由来の炭素数)×(エピクロルヒドリンのバイオマス度(%))}/{(ポリチオール化合物分子中の炭素数)}=60%
【0125】
[実施例5](エピスルフィド化合物の合成)
撹拌棒、温度計,ガス封入管、コンデンサーを備えた反応フラスコに、植物由来のグリセリンから製造されたエピクロルヒドリン(日本ソルベイ社製、EPICHLOROHYDRIN(ECH))190g(2mol)、メタノール500ml、水酸化カルシウム1.0gを仕込み、撹拌しなから内温を0〜5℃に保ち、そこへ、硫化水素ガス75g(2.2mol)をガス封入管を通して反応系内に2時間で吹き込み、5℃で3時間熟成した。
【0126】
反応液をろ過しメタノールを脱溶媒後、残存物の蒸留を行い、クロロメルカプトプロパノールを得た。得られたクロロメルカプトプロパノールと純水1000ml、炭酸水素ナトリウム168g(2mol)を仕込み、内温を5〜10℃に保ちながら、ヨウ素固体254g(1mol)を1時間かけて分割装入し、10℃のまま12時間熟成した。
熟成の終えた反応液をろ過し、得られた白色結晶を減圧下、乾燥させた。乾燥した白色結晶とメタノール250ml、トルエン500mlを再び反応器内に仕込み、内温を3〜5℃に保ちながら、47wt%苛性ソ−ダ240g(2.8mol)を1時間で滴下し、30分熟成した。反応終了後、トルエン100mlを追加し、純水で3回有機層を水洗した。
得られた有機層を無水硫酸マグネシウムで脱水し、ろ過して得られたろ液を脱溶媒した。
【0127】
脱溶媒後の残存物をろ過して、ビス(2,3−エポキシプロピル)ジスルフィドを得た(収率92%)。撹拌棒、温度計、コンデンサーを備えた反応フラスコに、ビス(2,3−エポキシプロピル))ジスルフィド100g(0.54mol)、チオ尿素100g(1.3mol)、酢酸2g、トルエン250ml、メタノール200mlを仕込み、内温を15℃に保ち16時間撹拌した。
【0128】
反応終了後、トルエンを150ml追加し、食塩水、1%硫酸水、再び食塩水で洗浄を行った。得られた有機層を無水硫酸マグネシウムで脱水後ろ過を行い、得られたろ液を脱溶媒した。脱溶媒後の残存物にアセトニトリル600mlを加えて溶解し、上澄み液をろ過した。
得られたろ液の脱溶媒後の残存物をろ過して、ビス(2,3−エピチオプロピル)ジスルフィドを85wt%含有するチオエポキシ化合物の組成物を77.5g(純度換算収率58%)を得た。この純度85wt%のチオエポキシ化合物の組成物50gをシリカゲルカラムクロマト法により分取を行い、エピスルフィド化合物を38g得た。
【0129】
[実施例6](エピスルフィド化合物の合成)
撹拌棒、温度計,ガス封入管、コンデンサーを備えた反応フラスコに、実施例2で得られた99.97%のエピクロルヒドリン190g(2mol)、メタノール500ml、水酸化カルシウム1.0gを仕込み、撹拌しなから内温を0〜5℃に保ち、そこへ、硫化水素ガス75g(2.2mol)をガス封入管を通して反応系内に2時間で吹き込み、5℃で3時間熟成した。
【0130】
反応液をろ過しメタノールを脱溶媒後、残存物の蒸留を行い、クロロメルカプトプロパノールを得た。アリルクロライドやプロピレンなどの石油資源由来原料から合成されたエピクロルヒドリンから得られたクロロメルカプトプロパノール(旭化学社製)は、GC−MS測定のリテンションタイムが10minの成分が強度比で0.2%であるのに対し、ここで得られたクロロメルカプトプロパノール中の10minの成分は強度比で0.03%であった。グリセリンから製造されるエピクロロヒドリンを原料とすることで、塩素系不純物から派生する不純物生成を抑制し、不純物含量を抑制できることが明らかとなった。
得られたクロロメルカプトプロパノールと純水1000ml、炭酸水素ナトリウム168g(2mol)を仕込み、内温を5〜10℃に保ちながら、ヨウ素固体254g(1mol)を1時間かけて分割装入し、10℃のまま12時間熟成した。
熟成の終えた反応液をろ過し、得られた白色結晶を減圧下、乾燥させた。乾燥した白色結晶とメタノール250ml、トルエン500mlを再び反応器内に仕込み、内温を3〜5℃に保ちながら、47wt%苛性ソ−ダ240g(2.8mol)を1時間で滴下し、30分熟成した。反応終了後、トルエン100mlを追加し、純水で3回有機層を水洗した。
得られた有機層を無水硫酸マグネシウムで脱水し、ろ過して得られたろ液を脱溶媒した。
【0131】
脱溶媒後の残存物をろ過して、ビス(2,3−エポキシプロピル)ジスルフィドを得た(収率92%)。撹拌棒、温度計、コンデンサーを備えた反応フラスコに、ビス(2,3−エポキシプロピル))ジスルフィド100g(0.54mol)、チオ尿素100g(1.3mol)、酢酸2g、トルエン250ml、メタノール200mlを仕込み、内温を15℃に保ち16時間撹拌した。
【0132】
反応終了後、トルエンを150ml追加し、食塩水、1%硫酸水、再び食塩水で洗浄を行った。得られた有機層を無水硫酸マグネシウムで脱水後ろ過を行い、得られたろ液を脱溶媒した。脱溶媒後の残存物にアセトニトリル600mlを加えて溶解し、上澄み液をろ過した。
得られたろ液の脱溶媒後の残存物をろ過して、ビス(2,3−エピチオプロピル)ジスルフィドを85wt%含有するチオエポキシ化合物の組成物を77.9g(純度換算収率58%)を得た。この純度85wt%のチオエポキシ化合物の組成物50gをシリカゲルカラムクロマト法により分取を行い、エピスルフィド化合物を39g得た。
【0133】
このエピスルフィド化合物のバイオマス度は、エピクロルヒドリンのバイオマス度100%に基づき、炭素基準で以下の式より算出される。
エピスルフィド化合物のバイオマス度={(エピスルフィド化合物分子中のエピクロルヒドリン由来の炭素数)×(エピクロルヒドリンのバイオマス度(%))}/{(エピスルフィド化合物分子中の炭素数)}=100%
【0134】
[実施例7]
ビス(2,3−エピチオプロピル)ジスルフィド (実施例5で得られたエピスルフィド化合物;31.8g)に、N,N−ジメチルシクロヘキシルアミン 0.007g、N,N−ジシクロヘキシルメチルアミン 0.032gを溶解させさらに、4,8−ジメルカプトメチル−1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカン、4,7−ジメルカプトメチル−1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカン、および5,7−ジメルカプトメチル−1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカンを主成分とする混合物(実施例3で得られたポリチオール化合物;3.2g)を加えて20℃で30分間攪拌して調合液を調製した。この調合液を600Paにて1時間脱泡を行い、1μmPTFEフィルターにて濾過を行った後、中心厚2mm、直径80mmの2Cのプラノー用ガラスモールドに注入した。このガラスモールドを30℃から19時間かけて少しずつ昇温し80℃まで上昇させ、80℃で2時間保温した。室温まで冷却させて、ガラスモールドから外し、樹脂レンズを得た。得られた樹脂レンズを更に120℃で3時間アニールを行った。得られた樹脂は屈折率(ne)1.738、アッベ数32、Tg78℃、比重1.47、バイオマス度96%であった。
【0135】
[実施例8]
ビス(2,3−エピチオプロピル)ジスルフィド (実施例6で得られたエピスルフィド化合物;31.8g)に、N,N−ジメチルシクロヘキシルアミン 0.007g、N,N−ジシクロヘキシルメチルアミン 0.032gを溶解させさらに、4,8−ジメルカプトメチル−1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカン、4,7−ジメルカプトメチル−1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカン、および5,7−ジメルカプトメチル−1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカンを主成分とする混合物(実施例4で得られたポリチオール化合物;3.2g)を加えて20℃で30分間攪拌して調合液を調製した。この調合液を600Paにて1時間脱泡を行い、1μmPTFEフィルターにて濾過を行った後、中心厚2mm、直径80mmの2Cのプラノー用ガラスモールドに注入した。このガラスモールドを30℃から19時間かけて少しずつ昇温し80℃まで上昇させ、80℃で2時間保温した。室温まで冷却させて、ガラスモールドから外し、樹脂レンズを得た。得られた樹脂レンズを更に120℃で3時間アニールを行った。得られた樹脂は屈折率(ne)1.738、アッベ数32、Tg78℃、比重1.47、バイオマス度96%であった。
【0136】
樹脂のバイオマス度(%)=[{31.8(エピスルフィド化合物の重量部)/210.4(エピスルフィド化合物の分子量)×6(エピスルフィド化合物 1分子中の炭素数)×100(エピスルフィド化合物のバイオマス度%)}+{3.2(ポリチオール化合物の重量部)/366.7(ポリチオール化合物の分子量)×10(ポリチオール化合物 1分子中の炭素数)×60(ポリチオール化合物のバイオマス度%)}]/[{31.8(エピスルフィド化合物の重量部)/210.4(エピスルフィド化合物の分子量)×6(エピスルフィド化合物 1分子中の炭素数)}+{3.2(ポリチオール化合物の重量部)/366.7(ポリチオール化合物の分子量)×10(ポリチオール化合物 1分子中の炭素数)}]=96%
【0137】
上記実施例において、グリセリンから得られた原料を用いて得られるエピスルフィド化合物を含む重合性組成物から、高屈折率で、耐熱性などの物性のバランスに優れる光学材料用スルフィド系樹脂を得ることができ、また、エピスルフィド化合物、ポリチオール化合物ともに植物由来原料から製造した化合物を組み合わせて、バイオマス度70%以上の高いバイオマス度を有する、光学材料用樹脂を得ることができた。
【0138】
この出願は、2014年3月11日に出願された日本出願特願2014−047890号を基礎とする優先権および2014年9月12日に出願された日本出願特願2014−185995号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。