(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の具体的な実施形態について、詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0020】
<受理溶液>
本発明の一実施形態の受理溶液は、少なくとも多価金属塩と、水溶性溶媒と、樹脂と、界面活性剤と、を含有した受理溶液である。受理溶液上に水性色材インクを塗布することにより、印刷した際の画像品質を向上させることができる。又、本実施形態の受理溶液中に含有される多価金属塩は、多価金属イオンと有機物の陰イオンとを含有する塩である。多価金属イオンとは、価数が少なくとも2価以上の金属のイオンをいう。有機物の陰イオンとは、有機化合物の陰イオンであり、水溶性溶媒中に溶解可能な陰イオンをいう。水溶性溶媒とは、25℃の水100質量部中に、1気圧下で5質量部以上、溶解することができるものをいう。色材とは、染料及び顔料をも含む概念である。
【0021】
尚、本明細書において多価金属塩を含有する受理溶液とは、受理溶液作製時において多価金属塩を添加して得られる受理溶液のみならず、多価金属イオンを生成し得る化合物と、有機物の陰イオンを生成し得る化合物と、を受理溶液作製時に添加することによって、多価金属イオンと有機物の陰イオンを含有する受理溶液を含む概念である。例えば、受理溶液作製時において直接的に多価金属塩として添加せずとも、有機物の陰イオンを生成し得る化合物(例えば、カプリル酸)及び多価金属イオンを生成し得る化合物(例えば、水酸化カルシウム)を受理溶液中に添加することによって、各化合物が受理溶液中でイオンを形成し、有機物の陰イオン(例えば、カプリル酸のイオン)及び多価金属イオン(例えば、カルシウムイオン)が受理溶液中に含有されるような態様である場合も本発明の範囲である。
【0022】
そして、本実施形態に関する有機物の陰イオンの有機性値/無機性値の比であるOV/IV値(以下、単に、有機物の陰イオンのOV/IV値と表記する。)は、0.25以上1.30未満である。ここで、有機性値、無機性値とは、有機概念図における有機性値、無機性値を意味し、すべての有機化合物に対し、その炭素領域の共有結合連鎖に起因する「有機性」と、置換基(官能基)に存在する静電性の影響による「無機性」との2因子とを、「有機定性分析」(1970年、 藤田穆ら著)に記載の規定により数値化し、その有機性値をX軸、無機性値をY軸にとった図上にプロットしていくものである。尚、本明細書において、「有機物の陰イオンの有機性値・無機性値」とは、陰イオンそのもの(例えばカプリル酸のイオン:C
8H
15COO
−)の有機性値・無機性値ではなく、計算の便器上、有機物の陰イオンに水素イオン(H
+)が付与された有機物(例えばカプリル酸:C
8H
15COOH)の有機性値・無機性値を意味するものである。
【0023】
本発明者らの見解によれば、受理溶液の保存安定性が低下する原因として以下のことが見出された。受理溶液中において、樹脂エマルジョンの分散性を向上させるには、樹脂エマルジョンにおいて、樹脂の表面を覆い尽くすように樹脂と樹脂エマルジョンを形成するための界面活性剤の疎水部とが吸着する必要がある。しかしながら、多価金属塩に由来する有機物の陰イオンの疎水部と、樹脂との吸着性が高い場合には、樹脂エマルジョンに多価金属塩に由来する有機物の陰イオンが吸着する場合や、樹脂表面の樹脂エマルジョンを形成するための界面活性剤と、多価金属塩に由来する有機物の陰イオンとが、置換される場合がある。そして、樹脂エマルジョンの一部に多価金属塩に由来する有機物の陰イオンがあることにより、受理溶液中における樹脂の分散性が低下し、樹脂同士が凝集することとなる。その結果、受理溶液の粘度が上昇し、受理溶液の保存安定性が低下する。又、受理溶液の保存安定性が低下することにより、受理溶液をインクジェット方式により吐出した際に、インクジェットヘッドで曲がりや不吐出のノズル数が増大することにより、吐出安定性も低下する。
【0024】
そこで、本実施形態の受理溶液は、有機物の陰イオンにおけるOV/IV値と、界面活性剤の構造が特定されている。有機物の陰イオンにおけるOV/IV値は、有機物の陰イオンの無機性値に対する化合物の有機性値の比に対応する値であり、有機物の陰イオンの無極性の度合いを示す指標である。本実施形態の受理溶液は、受理溶液に含有される有機物の陰イオンのOV/IV値、及び界面活性剤の構造及びHLB値を特定した。これにより、樹脂エマルジョンに多価金属塩に由来する有機物の陰イオンが吸着又は置換することを防止し、受理溶液の保存安定性及び吐出安定性を向上させることを可能にした。
【0025】
【化2】
(式中、R1は、炭素数が1以上5以下の分岐してもよいアルキレン基を表す。R2は、水素又は炭素数1以上3以下の分岐してもよいアルキル基を表す。R3は、水素又は炭素数1以上3以下の分岐してもよいアルキル基を表す。Aは2又は3を表す。Xは、エチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイドを表す。nは整数を表す。)
【0026】
この界面活性剤は、疎水部である「R」及び親水部である「(X)
n−H」により構成される界面活性剤である。疎水部である「R」のOV/IV値を計算すると、例えば、トリスチレン化フェニルエーテルでは、OV/IV値は、7.1〜7.5程度となる。すなわち、受理溶液に含有される有機物の陰イオンのOV/IV値の0.25以上1.30未満よりも極めて大きい値となる。そのため、有機物の陰イオンより界面活性剤の方がより、受理溶液に含有される樹脂の吸着力が強くなる。したがって、受理溶液に含有される有機物の陰イオンの有機性基が受理溶液に含有される樹脂と吸着することにより、樹脂エマルジョンに多価金属塩に由来する有機物の陰イオンが吸着又は置換することを防止し、受理溶液の保存安定性及び吐出安定性が向上する。
【0027】
以下、受理溶液に含有される各成分について具体的に説明する。
【0028】
[多価金属塩]
本実施形態に関する多価金属塩は、多価金属のイオンと、有機物の陰イオンと、を含む多価金属塩である。受理溶液に多価金属塩を含有することによって、ブリーディングやフェザリングを有効に抑制することができる。以下、有機物の陰イオン及び多価金属のイオンについてそれぞれ説明する。
【0029】
(有機物の陰イオン)
本実施形態の受理溶液の多価金属塩に含有される有機物の陰イオンは、上述したとおり、有機性値/無機性値の比であるOV/IV値が0.25以上1.30未満である。有機物の陰イオンのOV/IV値が0.25未満となると、脱水和が生じることにより、受理溶液中における有機物の陰イオンの分散性が低下し、受理溶液の保存安定性及び吐出安定性が低下するため、好ましくない。有機物の陰イオンのOV/IV値が1.30以上であると、受理溶液に含有される有機物の陰イオンの有機性基が受理溶液に含有される樹脂と吸着しやすくなり、樹脂エマルジョンの分散性が低下し、受理溶液の保存安定性及び吐出安定性が低下するため、好ましくない。
【0030】
有機物の陰イオンのOV/IV値は、0.35以上がより好ましく、0.50以上が更に好ましい。又、有機物の陰イオンのOV/IV値は、1.20以下が好ましく、1.00以下がより好ましい。
【0031】
有機物の陰イオンの具体例としては、安息香酸(OV/IV値=0.85)、サリチル酸(OV/IV値=0.53)、2、4−ジヒドロキシ安息香酸(OV/IV値=0.38)、2、5−ジヒドロキシ安息香酸(OV/IV値=0.38)、ジメチロールプロピオン酸(OV/IV値=0.29)、パントテン酸(OV/IV値=0.29)、コハク酸(OV/IV値=0.27)、マレイン酸(OV/IV値=0.26)、グルタル酸(OV/IV値=0.33)、スベリン酸(OV/IV値=0.53)、トリメリット酸(OV/IV値=0.39)、メチルマロン酸(OV/IV値=0.27)を挙げることができる。受理溶液の保存安定性及び吐出安定性の観点から、安息香酸、サリチル酸、スベリン酸が特に好ましい。
【0032】
多価金属塩に含有される有機物の陰イオンの含有量(モル当量)は、受理溶液全量中0.005Eq以上であることが好ましく、0.01Eq以上であることがより好ましく、0.02Eq以上であることが更に好ましく、0.04Eq以上であることが更により好ましく、0.05Eq以上であることが最も好ましい。ここでEq(モル当量)とは有機物の陰イオンの価数を「l」、多価金属塩1分子あたりの有機物の陰イオンの数を「m」、多価金属イオンの価数を「n」とした時、n/(l×m)の式で定義される。例えば、二クエン酸三マグネシウム(Mg
3(C
6H
5O
7)
2)の場合、多価金属塩1.0モル等量に相当する有機物の陰イオンのモル当量は2/(1×3)=0.67Eqとなる。0.005Eq以上であることにより、印刷した際の画像品質をより向上させることができる。有機物の陰イオンの含有量は、受理溶液全量中0.80Eq以下であることが好ましく、0.60Eq以下であることがより好ましく、0.40Eq以下であることが最も好ましい。有機物の陰イオンの含有量が、受理溶液全量中0.80Eq以下であることにより、受理溶液中における有機物の陰イオンの分散性が向上し、受理溶液の保存安定性及び吐出安定性が向上する。
【0033】
(多価金属イオン)
本実施形態の受理溶液の多価金属塩に含有される多価金属イオンとは、価数が少なくとも2価以上の金属のイオンをいう。多価金属イオンを用いることでインクのにじみを抑制することができる。多価金属イオンとしては、例えばカルシウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン、チタンイオン、鉄(II)イオン、鉄(III)イオン、コバルトイオン、ニッケルイオン、銅イオン、亜鉛イオン、バリウムイオン、ストロンチウムイオン等が挙げられる。なかでも、インク中の色材との相互作用が大きく、滲みやムラを抑制する効果が高くなることから、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、ニッケルイオン、亜鉛イオン、アルミニウムイオンより選択される1種以上を含有することが好ましい。
【0034】
多価金属イオンの好ましい含有量(モル濃度)受理溶液全量中0.01mol/L以上であることが好ましく、0.02mol/L以上であることがより好ましく、0.05mol/L以上であることがより好ましい。多価金属イオンの含有量が、受理溶液全量中0.01mol/L以上であることにより、印刷した際の画像品質をより向上させることができる。多価金属イオンは、受理溶液全量中0.40mol/L以下であることが好ましく、0.30mol/L以下であることがより好ましく、0.20mol/L以下であることがより好ましい。多価金属イオンの含有量が、受理溶液全量中0.40mol/L以下であることにより、受理溶液中における多価金属イオンの分散性が向上し、受理溶液の保存安定性及び吐出安定性が向上する。
【0035】
[界面活性剤]
本実施形態の受理溶液に含有される界面活性剤は、受理溶液に含有される樹脂の少なくとも一部を樹脂エマルジョンとし、受理溶液の表面張力を調整する役割を有する。本実施形態に関する界面活性剤は、HLB値が9以上19以下であって、以下の構造を有する界面活性剤である。
【0036】
【化3】
(式中、R1は、炭素数が1以上5以下の分岐してもよいアルキレン基を表す。R2は、水素又は炭素数1以上3以下の分岐してもよいアルキル基を表す。R3は、水素又は炭素数1以上3以下の分岐してもよいアルキル基を表す。Aは2又は3を表す。Xは、エチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイドを表す。nは整数を表す。)
【0037】
本実施形態に関する界面活性剤は、HLB値が9以上19以下である。HLB値が9以上19以下であることにより、樹脂との親和性(疎水性)が向上し、樹脂エマルジョンの形成が阻害されずに、受理溶液の保存安定性及び吐出安定性が向上する。本実施形態に関する界面活性剤は、HLB値が10以上であることが好ましい。本実施形態に関する界面活性剤は、HLB値が18以下であることが好ましい。HLB値とは、Hydrophilic−Lipophilic Balanceであり、界面活性剤の水及び油への親和性を意味する値である。HLB値は、グリフィン法によって計算することができる。
【0038】
式中のR1は、炭素数が1以上5以下の分岐してもよいアルキレン基であるが、樹脂エマルジョンの分散性の観点から(−CH
2−)又は(−CH(CH
3)−)であることが好ましい。尚、R1を含む官能基(C
6H
4(R2)―R1−)は、芳香環のどの位置に配置されていてもよい。
【0039】
式中のR2及びR3は、水素又は炭素数1以上3以下の分岐してもよいアルキル基であるが、樹脂エマルジョンの分散性の観点から水素(−H)であることが好ましい。尚、R2及びR3の官能基は、芳香環のどの位置に配置されていてもよく、複数の位置に配置されていてもよい。
【0040】
式中のAは、2又は3であることにより、樹脂エマルジョンの良好な分散性を実現することができる。Aは3であることがより好ましい。Aが1であると、樹脂と界面活性剤との吸着性が低下し、相対的に有機物の陰イオンの有機性基が受理溶液に含有される樹脂と吸着しやすくなり、受理溶液の保存安定性及び吐出安定性が低下する。Aが4以上となると、界面活性剤の疎水部「R」のOV/IV値が高くなりすぎるため、樹脂エマルジョンの分散性が低下する。
【0041】
式中のXは、エチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイドである。Xは、界面活性剤の親水部を構成する。親水部「(X)
n−H」中、Xはエチレンオキサイドで構成されていてもよく、プロピレンオキサイドで構成されていてもよく、エチレンオキサイド及びプロピレンオキサイドの双方が含まれた共重合で構成されていてもよい。界面活性剤の水溶性溶媒との親和性を確保する観点から、Xはエチレンオキサイドで構成されていることが好ましい。
【0042】
式中のnは、上記Xの繰り返し単位数である。nは界面活性剤のHLB値が9以上19以下となるようになれば、特に制限はされない。nは、9以上であることが好ましく、14以上であることがより好ましく、19以上であることが更に好ましい。nは、60以下であることが好ましく、57以下の整数であることが好ましく、55以下の整数であることがさらに好ましい。nが9以上60以下であることで、樹脂エマルジョンの分散性が向上する。
【0043】
上記の構造を有する界面活性剤は、具体的には、トリスチレン化フェニルエーテル(TSP)、トリベンジルフェニルエーテル(TBP)、ジスチレン化フェニルエーテル(DSP)ジベンジルフェニルエーテル等を挙げることができる。
【0044】
上記の構造を有する界面活性剤の含有量は、受理溶液に含まれる樹脂の含有量及び受理溶液に求められる表面張力にもよるが、受理溶液全量中0.5質量%以上であることが好ましく、1.5質量%以上であることがより好ましい。上記の構造を有する界面活性剤の含有量が受理溶液全量中0.5質量%以上であることにより、受理溶液に含有される樹脂から適当な量の樹脂エマルジョンを形成することができる。上記の構造を有する界面活性剤の含有量は、受理溶液全量中4.5質量%以下であることが好ましく、3.5質量%以上であることがより好ましい。上記の構造を有する界面活性剤の含有量が受理溶液全量中4.5質量%以下であることにより、受理溶液に求められる表面張力を得ることができる。
【0045】
[樹脂]
本実施形態の受理溶液には樹脂を含有する。樹脂としては、親水性基を有する樹脂や、カチオン系又はノニオン系樹脂エマルジョンが挙げられる。本実施形態に関する界面活性剤の疎水部との吸着性の観点から、カチオン性樹脂及び/又はノニオン性樹脂であることが好ましく、カチオン性樹脂であることがより好ましい。このような樹脂を用いることにより、得られた印刷物に耐擦過性、耐水性、耐溶剤性、耐ブロッキング性等の各種耐性を付与したり、印刷物の光沢や印刷濃度を向上することができる。又、本実施形態の受理溶液に含有する樹脂の少なくとも一部は、樹脂エマルジョンとして含有する。本実施形態において樹脂エマルジョンとは、連続相が水溶性溶媒であり、分散粒子が樹脂微粒子である水性分散液を意味する。樹脂エマルジョンを形成することによって、樹脂が立体反発力や静電反発力によって樹脂微粒子として受理溶液中に分散することができる。
【0046】
上記樹脂エマルジョンは、一般に連続相である水溶性溶媒が蒸発や浸透等により減少すると、増粘・凝集する性質を持ち、色材の記録媒体への定着を促進する効果を有する。色材を凝集することによりインクのにじみを防止するいわゆる凝集系の本実施形態の受理溶液であれば、多量のインクを高速で固定化することができる。一方、記録媒体上に受理溶液を吐出して乾燥・固化して多孔質層を形成し、その多孔質層上にインクを塗布して、そのインクを多孔質層の多孔に浸透させるいわゆる浸透系の受理溶液もあるが、凝集系の本実施形態の受理溶液とは、インクを定着させる原理・作用機序が異なるものである。
【0047】
本実施形態の受理溶液に含有される樹脂は、所望の耐水性を示すことができるものであれば特に限定されるものではないが、例えば、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル酢酸ビニル共重合樹脂、ポリエチレン樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン(シリコン)樹脂、アクリルアミド樹脂、エポキシ樹脂、あるいはこれらの共重合樹脂や混合物を用いることができる。これらのものは耐水性に加えて耐溶剤性も向上させることができる点で好ましい。中でも、吐出安定性、耐水性及び耐溶剤性に優れたものとすることができることから、アクリル樹脂を含むものであることが好ましい。
【0048】
アクリル樹脂としては、(メタ)アクリル酸エステルモノマーを構成するモノマーの主成分として含むものであれば特に限定されるものではない。(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては、公知の化合物を使用することができ、単官能の(メタ)アクリル酸エステルを好ましく用いることができる。例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸アラルキルエステル、(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル等を挙げることができる。具体的には、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸−n−プロピル、(メタ)アクリル酸−iso−プロピル、(メタ)アクリル酸−n−ブチル、(メタ)アクリル酸−sec−ブチル、(メタ)アクリル酸−iso−ブチル、(メタ)アクリル酸−tert−ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ネオペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸−iso−オクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸−iso−ノニル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸シクロペンチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸−2−メチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニルオキシエチル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニルオキシエチル、(メタ)アクリル酸ジシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸アダマンチル、(メタ)アクリル酸アリル、(メタ)アクリル酸プロパギル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ナフチル、(メタ)アクリル酸アントラセニル、(メタ)アクリル酸アントラニノニル、(メタ)アクリル酸ピペロニル、(メタ)アクリル酸サリチル、(メタ)アクリル酸フリル、(メタ)アクリル酸フルフリル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフリル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル、(メタ)アクリル酸ピラニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェネチル、(メタ)アクリル酸クレジル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸−3,4−エポキシシクロヘキシルメチル、(メタ)アクリル酸−3,4−エポキシシクロヘキシルエチル、(メタ)アクリル酸−1,1,1−トリフルオロエチル、(メタ)アクリル酸パーフルオルエチル、(メタ)アクリル酸パーフルオロ−n−プロピル、(メタ)アクリル酸パーフルオロ−iso−プロピル、(メタ)アクリル酸ヘプタデカフルオロデシル、(メタ)アクリル酸トリフェニルメチル、(メタ)アクリル酸クミル、(メタ)アクリル酸−3−(N,N−ジメチルアミノ)プロピル、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル、(メタ)アクリル酸ブトキシエチル、(メタ)アクリル酸−2−シアノエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸トリメトキシシリルプロピル、(メタ)アクリル酸トリエトキシシリルプロピル、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン等の(メタ)アクリル酸エステル類、等が挙げられる。なお、「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」及び「メタクリル」の両者を意味するものである。これらのモノマーは、三菱レイヨン(株)、日本油脂(株)、三菱化学(株)、日立化成工業(株)等から入手することができる。
【0049】
アクリル樹脂を構成するモノマーとしては、酸基を有する酸基含有モノマーや水酸基を有する水酸基含有モノマー、及びアミノ基を有するアミノ基含有モノマーを含むものであってもよい。上記酸基を有する酸基含有モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、クロトン酸、シトラコン酸、無水マレイン酸、マレイン酸モノメチルエステル、マレイン酸モノブチルエステル、イタコン酸モノメチルエステル、イタコン酸モノブチルエステル、ビニル安息香酸、シュウ酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、カルボキシル基末端カプロラクトン変性(メタ)アクリレート等のカルボキシル基含有脂肪族系単量体等のエチレン性不飽和二重結合及びカルボキシル基を有するカルボキシル基含有モノマーを挙げることができる。上記水酸基を含有する水酸基含有モノマーとしては、不飽和二重結合及び水酸基を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ヒドロキシ(メタ)アクリレート、メチルα−(ヒドロキシメチル)(メタ)アクリレート、エチルα−(ヒドロキシメチル)(メタ)アクリレート、n−ブチルα−(ヒドロキシメチル)(メタ)アクリレート、1,4−シクロヘキサンジメタノールモノ(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。上記アミノ基含有モノマーとしては、不飽和二重結合及びアミノ基を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えば、(メタ)アクリルアミドN−モノメチル(メタ)アクリルアミド、N−モノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−n−プロピル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、メチレンビス(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド等のアクリルアミド化合物、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、モルホリンのエチレンオキサイド付加(メタ)アクリレート等の窒素原子含有(メタ)アクリレート化合物、N−ビニルピロリドン、N−ビニルピリジン、N−ビニルイミダゾール、N−ビニルピロール、N−ビニルオキサゾリドン、N−ビニルサクシンイミド、N−ビニルメチルカルバメート、N,N−メチルビニルアセトアミド、(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−2−オキサゾリン、(メタ)アクリロニトリル等を挙げることができる。
【0050】
又、アクリル樹脂を構成するモノマーとしては、上記(メタ)アクリル酸エステルモノマー等以外に、必要に応じてその他のモノマーを有するものであってもよい。このようなその他のモノマーとしては、上記(メタ)アクリル酸エステルモノマーと共重合が可能であり、所望の耐水性及び耐溶剤性を有するものとすることができるものであれば特に限定されるものではなく、エチレン性不飽和二重結合の数が1つである単官能モノマーであっても、2以上である多官能モノマーであってもよい。例えば、酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、N−ビニルピロリドン、ビニルピリジン、N−ビニルカルバゾール、ビニルイミダゾール、ビニルエーテル、ビニルケトン、ビニルピロリドン等のビニルモノマー;スチレン、スチレンのα−、o−、m−、p−アルキル、ニトロ、シアノ、アミド、エステル誘導体、ビニルトルエン、クロルスチレン等の芳香族ビニルモノマー;エチレン、プロピレン、イソプロピレン等のオレフィンモノマー;ブタジエン、クロロプレン等のジエンモノマー;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のビニルシアン化合物モノマー等を用いることができる。又、ポリエテレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、1,3一ブチレングリコールジアクリレート等のジアクリレート化合物;トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールエタントリアクリレート、テトラメチロールメタントリアクリレート等のトリアクリレート化合物;エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート等のジメタクリレート化合物;トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレート等のトリメタクリレート化合物;ジビニルベンゼン等を用いることができる。なお、アクリル樹脂は、これらのモノマーを用いて形成可能なものであるが、モノマーの共重合の形態については、特に限定されるものではなく、例えばブロックコポリマー、ランダムコポリマー、グラフトコポリマー等とすることができる。樹脂エマルジョンは、例えば、乳化重合反応させ、反応後に中和させて製造することができる。乳化剤としては、通常の高分子型界面活性剤を用いてもよく、不飽和結合を有する反応性界面活性剤を用いてもよい。合成方法については、特に限定されるものではないが、例えば、反応性界面活性剤、非反応性界面活性剤、ポリビニルアルコール、セルロース誘導体等の存在下で水と、モノマーと、乳化剤と、重合開始剤とを混合して乳化重合することができる。又、樹脂エマルジョンは、乳化重合反応させることなく、樹脂微粒子を、界面活性剤とともに、水と混合することによっても得ることができる。例えば、(メタ)アクリル酸エステル又はスチレンと(メタ)アクリル酸エステルからなる樹脂微粒子及び界面活性剤を水中に添加して混合することにより得ることができる。
【0051】
樹脂エマルジョンの平均粒子径は、受理溶液中での分散安定性と、インクジェット吐出性の観点から、30〜300nmが好ましく、50〜250nmがより好ましい。なお、本発明において、顔料の数平均粒子径は、測定温度25℃にて濃厚系粒径アナライザー(大塚電子(株)製、型式:FPAR−1000)を用いて測定することができる。
【0052】
樹脂エマルジョンの質量平均分子量は、受理溶液の安定性と、塗膜耐水性の観点から、10000〜1000000が好ましく、100000〜500000がより好ましい。なお、本発明において樹脂の分子量は、質量平均分子量Mwを示すものであり、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により測定された値であり、東ソー(株)製の「HLC−8120GPC」にて、校正曲線用ポリスチレンスタンダードを標準にして測定することができる。
【0053】
樹脂エマルジョンのガラス転移点は、低吸収性基材や非吸収性基材に印刷した場合でも、耐水性、耐溶剤性及び耐擦過性を有する印刷物を形成可能であることから、又、印刷物を形成するために高い温度をかけることを回避でき、多くのエネルギーを不要とすることや、印刷基材が熱による損傷を受けにくいものとすることができることから、0〜100℃が好ましく、10〜90℃がより好ましく、20〜80℃がより好ましい。なお、ガラス転移温度(Tg)は、例えば島津製作所(株)製の示差走査熱量計「DSC−50」にて測定することができる。
【0054】
[水溶性溶媒]
本発明の受理溶液に用いる溶剤は、樹脂等を分散又は溶解することができるものである。このような溶剤として、水溶性を有する水溶性溶媒を用いる。
【0055】
ここで、本明細書において水溶性溶媒とは、25℃の水100質量部中に、1気圧下で5質量部以上、好ましくは20質量部以上、より好ましくは50質量部以上、更に好ましくは70質量部以上溶解することができるものをいう。
【0056】
具体的には、本発明の受理溶液に用いることのできる水溶性溶媒は、水、水溶性有機溶剤又はこれらの混合溶剤を含むものが好ましい。水、水溶性有機溶剤又はこれらの混合溶剤を全溶剤中に50質量%以上含むものであることが好ましく、特に、70質量%以上含むものであることが好ましく、80質量%以上含むものであることがより好ましく、90質量%以上含むものであることが更に好ましく、95質量%以上含むものであることが更になお好ましい。水、水溶性有機溶剤又はこれらの混合溶剤をこのような範囲含むものであることにより、樹脂の分散安定性をより優れたものとすることができる。なお、上記水溶性溶媒に含まれる水としては、種々のイオンを含有するものではなく、イオン交換水や蒸留水、超純水等の、脱イオン水を使用することが好ましい。
【0057】
このような水溶性有機溶剤としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、n−ペンタノール等の炭素数1〜5のアルキルアルコール類;3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール、3−メトキシ−1−プロパノール、1−メトキシ−2−プロパノール、3−メトキシ−n−ブタノール等の1価のアルコール類;1−ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、3−メトキシプロパンアミド、3−ブトキシプロパンアミド、N,N−ジメチル−3−メトキシプロパンアミド、N,N−ジブチル−3−メトキシプロパンアミド、N,N−ジブチル−3−ブトキシプロパンアミド、N,N−ジメチル−3−ブトキシプロパンアミド等のアミド類;アセトン、ジアセトンアルコール等のケトン又はケトアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のオキシエチレン又はオキシプロピレン共重合体;エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、イソブチレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,2−プロパンジオール、2−メチル−1,2−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール等のジオール類;グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、1,2,6−ヘキサントリオール等のトリオール類:メソエリスリトール、ペンタエリスリトール等の4価アルコール類;エチレングリコールモノメチル(又はエチル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、n−ヘキシル、2−エチルヘキシル)エーテル、ジエチレングリコールモノメチル(又はエチル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、n−ヘキシル、2−エチルヘキシル)エーテル、トリエチレングリコールモノメチル(又はエチル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル)エーテル、プロピレングリコールモノメチル(又はエチル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル)エーテル、ジプロピレングリコールモノメチル(又はエチル、イソプロピル、n−ブチル,イソブチル)エーテル等のモノアルキルエーテル類;ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル等の多価アルコールのジアルキルエーテル類;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N−エチルエタノールアミン、N−ブチルエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、N−ブチルジエタノールアミン等のアルカノールアミン類;N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等の含窒素複素環化合物;γ−ブチロラクトン、スルホラン等の環状化合物等が挙げられる。
【0058】
水溶性溶媒に水溶性有機溶剤が含有される場合、特に受理溶液をインクジェット吐出する場合には、水溶性有機溶剤として水よりも沸点の高いもの、すなわち、沸点が100℃より高いものを含むことが好ましく、なかでも、沸点が150℃以上のものを含むことが好ましく、特に、沸点が180℃以上のものを含むことが好ましい。特に受理溶液をインクジェット吐出する場合には、ノズルに付着した受理溶液や、インクジェットヘッド内部の微細なチューブ内で、インク中の水溶性有機溶剤が揮発して受理溶液の粘度が高くなることを抑制でき、ノズルやチューブが詰まってインクジェットヘッドが破損することを防ぐことができるからである。又その結果、流動性が良好で、連続吐出性や放置後吐出性が良好な受理溶液とすることができるからである。水よりも沸点の高い水溶性有機溶剤はすべての水溶性有機溶剤中に10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、さらに30質量%以上含むものであると好ましい。
【0059】
又、水溶性有機溶剤の沸点が高すぎる場合には、乾燥に多くのエネルギーが必要となり、又、乾燥に要する時間が長く必要になるため、高速連続印刷に対応することが困難になる。そのため、水溶性有機溶剤の沸点は300℃以下であることが好ましい。
【0060】
低吸収性基材及び非吸収性基材に印刷する場合には、溶媒が基材の内部へ浸透しにくいため、低揮発性溶剤の含有量を抑制することが好ましく、沸点250℃以上の水溶性有機溶剤の含有量が、受理溶液100質量部に対して5質量部未満であることが好ましい。さらに、沸点280℃以上の水溶性有機溶剤を実質的に含有しないことがさらに好ましい。なお、本明細書において280℃以上の水溶性有機溶剤を実質的に含有しないとは、受理溶液100質量部に対して1質量部未満であることをいう。
【0061】
沸点が280℃以上の水溶性有機溶剤としては、例えば、トリエチレングリコール(沸点:285℃)、テトラエチレングリコール(沸点:314℃)、グリセリン(沸点:290℃)、1,2,6−ヘキサントリオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ジグリセリン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等を挙げることができる。
【0062】
沸点が250℃以上280℃未満の水溶性有機溶剤としては、トリプロピレングリコール(沸点:268℃)、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル(沸点:274℃)、トリエチレングリコールモノブチルエーテル(沸点:271℃)、ジエチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル(沸点:272℃)、1,6−ヘキサンジオール(沸点:250℃)、3−メチル−1,5−ペンタンジオール(沸点:250℃)、等を挙げることができる。
【0063】
沸点が200℃以上250℃未満の水溶性有機溶剤としては、ジプロピレングリコール(沸点:232℃)、ジエチレングリコール(沸点:244℃)、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル(沸点:242℃)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(沸点:231℃)、トリエチレングリコールモノメチルエーテル(沸点:249℃)、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル(沸点:207℃)、エチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル(沸点:229℃)、エチレングリコールモノヘキシルエーテル(沸点:208℃)、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル(沸点:212℃)、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル(沸点:229℃)、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(沸点:209℃)、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(沸点:247℃)、1,3−プロパンジオール(沸点:214℃)、1,3−ブタンジオール(沸点:208℃)、1,4−ブタンジオール(沸点:230℃)、1,2−ペンタンジオール(沸点:210℃)、1,2−ヘキサンジオール(沸点:223℃)、1,5−ペンタンジオール(沸点:242℃)、1,6−ヘキサンジオール(沸点:250℃)、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール(沸点:232℃)、3−メチル−1,3−ブタンジオール(沸点:203℃)、2−メチル−1,3−ペンタンジオール(沸点:214℃)、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール(沸点:244℃)、等を挙げることができる。
【0064】
沸点が180℃以上200℃未満の水溶性有機溶剤としては、エチレングリコール(沸点:197℃)、プロピレングリコール(沸点:187℃)、1,2−ブタンジオール(沸点:193℃)、2−メチル−2,4−ペンタンジオール(沸点:198℃)等を挙げることができる。
【0065】
水溶性溶媒に含有される水としては、種々のイオンを含有するものではなく、脱イオン水を使用することが好ましい。水の含有量としては、各成分を分散又は溶解可能なものであれば特に限定されるものではないが、水溶性溶媒中に、10質量%以上95質量%以下の範囲内であることが好ましく、なかでも20質量%以上95質量%以下の範囲内であることが好ましく、特に30質量%以上90質量%以下の範囲内であることがより好ましい。
【0066】
又、水溶性有機溶剤の含有量としては、水溶性溶媒中に5質量%以上90質量%以下の範囲内であることが好ましく、なかでも5質量%以上80質量%以下の範囲内であることが好ましく、特に10質量%以上70質量%以下の範囲内であることが好ましい。
【0067】
水及び水溶性有機溶剤の含有量が上述の範囲内であることにより、保湿性が良好でノズル詰まり等の少ないものとすることができるからである。又、インクジェットヘッドによる吐出が容易なものとすることができる。
【0068】
[その他の成分]
受理溶液は、必要に応じて、さらに、従来公知の添加剤を含んでもよい。添加剤としては、例えば、粘度調整剤、pH調整剤、表面張力調整剤、酸化防止剤、防腐剤、防黴剤等が挙げられる。
【0069】
[受理溶液の表面張力]
受理溶液の表面張力は、記録媒体表面への濡れ性や、インクとの混和性の観点から、35.0mN/m以下が好ましく、32.0mN/m以下がより好ましく、30.0mN/m以下がさらに好ましく、特に非吸収性基材に塗布する場合には26.0mN/m以下がより好ましい。受理溶液をインクジェット法により吐出させる場合には、吐出ヘッドからの受理溶液の吐出安定性を良好にする点から、前記受理溶液の表面張力を18.0mN/m以上とすることが好ましく19.5mN/m以上がより好ましい。受理溶液の表面張力は、上記の水溶性溶媒及び上記界面活性剤を適宜選択することにより調整することができる。なお、本発明における表面張力は、測定温度25℃にてWilhelmy法(協和界面科学製 型式:CBVP−Z)で測定された値である。
【0070】
<インクジェット記録用インクセット>
本実施形態のインクジェット記録方法においては、上記の実施形態の受理溶液とインクジェット記録用インクとを組み合わせたインクジェット記録用インクセットを用いることができる。
【0071】
<インクジェット記録用インク>
本実施形態においてインクジェット記録用インクは、色材と、樹脂と、溶剤と、を含有し、溶剤が少なくとも水溶性溶剤を含むインクジェットインクが用いられ、本発明の効果が損なわれない範囲で、必要に応じてさらに他の成分を含有してもよいものである。
【0072】
[色材]
本実施形態においてインクジェット記録用インクの色材は、特に限定されるものではなく、染料系であってもよいし、顔料系であってもよい。印字物の耐水性や耐光性等の耐性が良好である顔料系インクを使用することが好ましい。本発明において、インクジェット記録用インクに用いることのできる顔料は特に限定されない。従来インクジェット用のインクに使用されている有機顔料又は無機顔料等が挙げられる。これらは1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。具体的な有機顔料としては、例えば、不溶性アゾ顔料、溶性アゾ顔料、染料からの誘導体、フタロシアニン系有機顔料、キナクリドン系有機顔料、ペリレン系有機顔料、ジオキサジン系有機顔料、ニッケルアゾ系顔料、イソインドリノン系有機顔料、ピランスロン系有機顔料、チオインジゴ系有機顔料、縮合アゾ系有機顔料、ベンズイミダゾロン系有機顔料、キノフタロン系有機顔料、イソインドリン系有機顔料、キナクリドン系固溶体顔料、ペリレン系固溶体顔料等の有機固溶体顔料、その他の顔料として、カーボンブラック等が挙げられる。
【0073】
本実施形態においてインクジェット記録用インクに用いることのできる顔料の含有量としては、所望の画像を形成可能であれば特に限定されるものではなく、適宜調整されるものである。具体的には、顔料の種類によっても異なるが、インクの組成物全体に対して0.05質量%以上20質量%以下の範囲内であることが好ましく、0.1質量%以上10質量%以下の範囲内であることがより好ましい。顔料の含有量が0.05質量%以上20質量%以下の範囲内であることにより、顔料の分散安定性と着色力のバランスに優れたものとすることができる。
【0074】
本実施形態においてインクジェット記録用インクに用いることのできる顔料は、顔料を顔料分散剤によって水溶性溶媒中に分散させた顔料分散体、であっても、顔料の表面に直接に親水性基を修飾した自己分散型顔料とした顔料分散体であってもよい。ここで顔料分散剤とは、水溶性樹脂であって、顔料表面の一部に付着することでインク内での顔料の分散性を向上させる機能を有する樹脂をいう。水溶性樹脂とは、25℃の水100質量部中に、1気圧下で1質量部以上溶解するものをいう。顔料表面の一部に水溶性樹脂である顔料分散剤が付着した状態にする事で、インク中での顔料の分散性が向上し、高光沢な画像を得る事ができる。本発明において、インクジェット記録用インクに用いることのできる顔料は、複数の有機顔料や無機顔料を併用してもよく、顔料分散剤によって水溶性溶媒中に分散させた顔料分散体と自己分散型顔料を併用したものであってもよい。
【0075】
本実施形態においてインクジェット記録用インクに用いることのできる顔料の顔料分散剤は特に限定されない。例えば、カチオン系、アニオン系、ノニオン系、両性、シリコーン(シリコン)系、フッ素系等の界面活性剤を使用できる。界面活性剤の中でも、次に例示するような高分子界面活性剤(高分子分散剤)が好ましい。
【0076】
[樹脂]
本発明において、インクジェット記録用インクに用いられる樹脂は、記録媒体の表面への顔料の定着を促進するものである。当該樹脂としては、定着性に優れ、印刷物の耐水性に優れる点から樹脂エマルジョンが好ましく、受理溶液と同様のものとすることができる。
【0077】
[水溶性溶媒]
本発明において、インクジェット記録用インクに用いられる水溶性溶媒としては、水及び水溶性有機溶剤が挙げられる。水溶性有機溶剤は、上記の実施形態の受理溶液において例示された水溶性有機溶剤と同様のものとすることができる。水及び水溶性有機溶剤は、単独でも混合物としても使用することができる。
【0078】
[その他の成分]
本実施形態のインクジェット記録用インクには、必要に応じてさらに、従来公知の添加剤を含んでもよい。添加剤としては、例えば、界面活性剤、ワックスエマルジョン、粘度調整剤、pH調整剤、表面張力調整剤、酸化防止剤、防腐剤、防黴剤等が挙げられる。
【0079】
[インクの調製方法]
本実施形態のインクセットに用いることのできるインクの調製方法は、特に限定されない。例えば、水溶性溶媒に自己分散型の顔料、樹脂、界面活性剤及び必要に応じてその他の成分を添加して調製する方法、水溶性溶媒に、顔料と分散剤を加えて分散した後、樹脂、界面活性剤及び必要に応じてその他の成分を添加して調製する方法、水溶性溶媒に顔料と樹脂と界面活性剤と必要に応じてその他の成分を添加した後、顔料を分散して調製する方法等が挙げられる。
【0080】
<受理溶液の吐出(塗布)方法>
上記の実施形態の受理溶液又はインクセットを用いた吐出方法又は塗布方法(以下、単に吐出方法又は塗布方法と表記することがある。)は、特に限定されるものではない。例えば、スプレー方式、コーター方式、インクジェット方式、グラビア方式、フレキソ方式等を挙げることができる。中でもインクジェット方式により吐出又は塗布されることが好ましい。インクジェット方式であれば、任意の場所へ塗布することも、印刷面全面に塗布することも容易である。
【0081】
又、上記の実施形態の受理溶液は、受理溶液に含まれる有機物の陰イオンから受理溶液の溶媒に不溶な化合物が析出することがない。そのため、受理溶液の溶媒に不溶な化合物が析出することによるインクジェットの吐出が妨げられることはない。そのため、実施形態の受理溶液は、インクジェット方式により吐出されることが好ましい。
【0082】
又、上記の実施形態の受理溶液を記録媒体上に塗布した後に、その受理溶液上に上記のインクを記録媒体の表面に塗布する場合、その記録媒体上における受理溶液は、受理溶液が液体として記録媒体の表面に存在している間に上記のインクを吐出することが望ましい。受理溶液が液体である間にインクを吐出することにより、樹脂エマルジョンが乾燥・固化することによる吐出されたインクのハジキを抑制することができる。更に、受理溶液が液体であれば、インクに含有される溶剤によって樹脂エマルジョンが乾燥・固化した樹脂層を溶解させる必要はない。そのため、インクの定着性を向上させることができる。尚、「受理溶液が液体として記録媒体の表面に存在している」とは、受理溶液が乾燥・固化せずに受理溶液が流動性を有する状態で記録媒体の表面に存在する状態をいう。
【0083】
吐出方法がインクジェット方式であることにより、受理溶液及びインクを記録媒体上の任意の場所へ高速に吐出することが可能である。そのため、受理溶液が液体として記録媒体の表面に存在している間に上記のインクを吐出するには、吐出方法がインクジェット方式であることが最も好ましい。
【0084】
[記録媒体]
インクジェット記録方法において、記録媒体は特に制限されず、吸収性基材、低吸収性基材、及び非吸収性基材のいずれも好適に用いることができる。吸収性基材としては、例えば、更紙、中質紙、上質紙、コピー用紙(PCC)等の非塗工紙、綿、化繊織物、絹、麻、不織布等の布帛等が挙げられる。なお、記録媒体の吸収性は、例えば、JAPAN TAPPI 紙パルプ試験法No.51−87等で試験を行うことができる。非塗工紙は、インクの浸透、吸収を低下させる塗工剤が塗工されていないため、吸収性が高い。
【0085】
ここで、本明細書中における「低吸収性基材」又は「非吸収性基材」とは、ブリストー(Bristow)法において接触開始から30msecまでの水吸収量が10mL/m
2以下である記録媒体をいう。このブリストー法は、短時間での液体吸収量の測定方法として最も普及している方法であり、日本紙パルプ技術協会(JAPAN TAPPI)でも採用されている。試験方法の詳細は「JAPAN TAPPI紙パルプ試験方法2000年版」の規格No.51「紙及び板紙−液体吸収性試験方法−ブリストー法」に述べられている。
【0086】
低吸収性基材としては、例えば、微塗工紙、軽量コート紙、コート紙、アート紙、キャスト紙等の塗工紙等が挙げられる。塗工紙とは、白色顔料やバインダー成分を加えて作った塗工剤を塗って表面平滑性を改善したもので、インクが吸収、浸透されにくい。又、非吸収性基材としては、例えば、ポリエステル系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリイミド樹脂等の、プラスチックフィルム;金属、金属蒸着紙、ガラス、合成ゴム、天然ゴム、皮革等を例示できるがこれらに限定されるものはない。本発明のインクセットに用いることができるインクジェット記録方法は、インクの浸透性が低い低吸収性基材や非吸収性基材を用いた場合でも好適に用いることができ、色ムラがなく、カラーブリードが抑制された鮮明な画像を得ることができる。
【0087】
[印刷装置]
本発明の受理溶液及びインクセットは、インクジェット方式によって記録できるインクジェット記録装置を用いる場合には、ピエゾ方式、サーマル方式、静電方式等のいずれのインクジェット記録装置にも適用することができる。中でも、ピエゾ方式のインクジェット記録装置に用いられることが好ましい。ピエゾ方式の記録ヘッドは、圧力発生素子として圧電振動子を用い、圧電振動子の変形により圧力室内を加圧・減圧してインク滴を吐出する。このような記録ヘッドでは、さらなる高画質化や記録速度の向上を図る試みとして、ノズル列の数を増やすことで記録可能な色の種類を増やしてさらなる高画質化を図る試みがなされ、又、1つのノズル列を構成するノズル開口部の数を増やすことで記録速度の向上を図る試みがなされている。さらに、1つのヘッドに設けられるノズルの数を増やすために、ノズルを微細化する試みもなされている。
【0088】
しかしながら、ヘッドのノズルが微細化されると、固着・残留したインクにより、飛行曲がりやノズル詰まりが引き起こされやすくなる。又、長期間の使用においてインクの成分中に凝集物が発生すると、インク滴の飛翔の障害となり、飛行曲がりやノズル詰まりといったトラブルが発生する。そのため、インクジェットヘッドでの目詰まりが発生せず、安定した吐出が可能なインクジェット用のインクの開発が急務となっている。したがって、凝集物の発生を抑制でき、安定性に優れた本実施形態のインクセットのインクはピエゾ方式のインクジェット記録装置に好適であり、シリアルヘッド方式及びラインヘッド方式のどちらの記録装置にも用いることができる。
【0089】
本実施形態に関するインクジェット記録方法によれば、滲みや白抜けが抑制されて鮮明な画像を得ることができ、且つ、装置の劣化を抑制して、吐出安定性に優れたものとすることができる。
【0090】
当該インクジェット記録方法は、記録媒体として吸収性基材を用いた場合に特に問題となるフェザリングや裏抜けを抑制することができ、又、記録媒体として低吸収性基材又は非吸収性基材を用いた場合に特に問題となる白抜けやカラーブリードを抑制することができるため、記録媒体によらず滲みや白抜けが抑制される。
【0091】
非塗工紙等の吸収性基材を記録媒体として用いた場合には、インクが記録媒体に浸透しやすいため、顔料が記録媒体の表面にとどまらず、基材の裏側までインクが達する裏抜けが生じたり、記録媒体表面の色材濃度が低くなる問題や、紙の繊維に沿って広がりやすく、フェザリングが起こりやすく鮮明な画像が得られないという問題があった。記録媒体として低吸収性基材や非吸収性基材を用いた場合には、インクが浸透しにくく、記録媒体表面ではじかれてしまう。そのため、ドットが十分に広がらず、印刷面が充分にインクで埋まらず、印刷ムラや白抜けが生じやすいという問題があった。さらに、非吸収性基材を記録媒体として用いた場合には、乾燥に要する時間が長くなり、はじかれたインク滴同士が不規則につながるため、滲みやムラが生じやすい、という問題があった。
【0092】
本発明者らは鋭意検討の結果、本発明の受理溶液を印刷面に塗布した後、当該受理溶液が乾燥する前にインクジェット用のインクを塗布することにより低吸収性基材や非吸収性基材における印刷ムラや白抜けを抑制することができるとの知見を得た。受理溶液の記録媒体への塗布時期は、インクと受理溶液が記録媒体上で接触するならば、特に限定されるものではないが、フェザリングやブリーディングをより効果的に抑制する点で、インクを吐出する直前に塗布することが好ましい。受理溶液が乾燥する前にインクを塗布することにより、記録媒体表面におけるインクが濡れ広がりやすくインクのドット径が大きくなるため印刷ムラや白抜けがなくなるとともに、受理溶液とインクとが直ちに混合して顔料の分散状態が速やかに変化して、カラーブリードを生じることなく、インクが定着するものと推定される。
【0093】
又、本実施形態においては、記録媒体の表面を30℃以上60℃以下に加熱した状態でインクを吐出し、記録媒体に塗布することが好ましい。インク塗布時の記録媒体のインク塗布部分の表面温度を30℃以上とすることにより、低吸収性又は非吸収性基材の場合でもインクの濡れ広がりが良好になり、鮮明な印刷物を製造することが可能となる。又、インク塗布時の記録媒体のインク塗布部分の表面温度を60℃以下とすることにより、熱による記録媒体の歪みを抑制でき、良好な画像を印刷することが可能となり、さらに、熱によってインクジェットヘッドのノズル面でのインクの固着が抑制され、吐出安定性を維持することが可能となる。
【0094】
<印刷物の製造方法>
上記インクジェット記録方法を用いて印刷物を製造することもできる。例えば、記録媒体上又は色材を含有するインク上に、上記の実施形態の受理溶液を塗布する工程を含む印刷物の製造方法を挙げることができる。上記の実施形態の受理溶液を塗布する工程を含むことで、印刷物の滲みや白抜けが抑制されて鮮明な画像を得ることができる。なお、記録媒体上又は色材を含有するインク上に上記の実施形態の受理溶液を塗布するとは、記録媒体上に上記の実施形態の受理溶液を塗布すること及び記録媒体上に色材を含有するインクを塗布した後に上記の実施形態の受理溶液を塗布することの双方を含む概念である。特に、受理溶液を記録媒体の表面に塗布した後に、インクを記録媒体の表面に塗布することが好ましい。インクジェット方式により吐出すれば、受理溶液又はインクを任意の場所へ塗布させることも、記録媒体の全面に塗布させることも容易であることから、本発明の受理溶液及びインクをインクジェット方式で吐出し、上記の実施形態の受理溶液及びインクを記録媒体の表面に塗布することが好ましい。
【実施例】
【0095】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0096】
<受理溶液の調製>
多価金属塩、樹脂(樹脂エマルジョン)、水溶性溶媒(水溶性有機溶剤、水(イオン交換水))、界面活性剤、を用いて下記表のように実施例及び比較例の受理溶液を調整した。各成分の数字は質量部を意味する。尚、表中の「残部」とは、水以外の各成分を混入後、水を加えることにより受理溶液が全体で100質量部となるように混入したことを意味する。
【0097】
【表1】
【0098】
【表2】
【0099】
表中、「W−1」とは、水(イオン交換水)を意味する。
【0100】
表中、「S−1」とは、1、2−ブタンジオールを意味する。
【0101】
表中、「S−2」とは、1、2−ペンタンジオールを意味する。
【0102】
表中、「S−3」とは、1、2−ヘキサンジオールを意味する。
【0103】
表中、「l―1」とは、BYK−349(ビックケミー社製ポリシロキサン系界面活性剤)である。
【0104】
表中、「l―2」とは、TEGO Twin 4000(エボニック社製ポリシロキサン系界面活性剤)である。
【0105】
表中、「D―1」とは、エマルゲンA−60(花王社製ジスチレン化フェニルエーテル、式中、A=2、R1=「−CH(CH
3)−」、R2=「−H」、R3=「−H」、X=エチレンオキサイド、HLB値=12.8)であり、式(1)には含まれる界面活性剤である。
【0106】
表中、「D―2」とは、エマルゲンA−90(花王社製ジスチレン化フェニルエーテル、式中、A=2、R1=「−CH(CH
3)−」、R2=「−H」、R3=「−H」、X=エチレンオキサイド、HLB値=14.5)であり、式(1)には含まれる界面活性剤である。
【0107】
表中、「D―3」とは、エマルゲンB−66(花王社製トリベンジルフェニルエーテル、式中、A=3、R1=「−CH
2−」、R2=「−H」、R3=「−H」、X=エチレンオキサイド、HLB値=13.2)であり、式(1)には含まれる界面活性剤である。
【0108】
表中、「D―4」とは、ニューコール2604(日本乳化剤社製トリスチレン化フェニルエーテル、式中、A=3、R1=「−CH(CH
3)−」、R2=「−H」、R3=「−H」、X=エチレンオキサイド、HLB値=9)であり、式(1)には含まれる界面活性剤である。
【0109】
表中、「D―5」とは、ブラウノン TSP−7.5(青木油脂工業社製、式中、A=3、R1=「−CH(CH
3)−」、R2=「−H」、R3=「−H」、X=エチレンオキサイド、HLB値=9.2、n=7.5)であり、式(1)には含まれる界面活性剤である。
【0110】
表中、「D―6」とは、EMULSOGEN TS100(クラリアント社製トリスチレン化フェニルエーテル、式中、A=3、R1=「−CH(CH
3)−」、R2=「−H」、R3=「−H」、X=エチレンオキサイド、HLB値=10、n=10)であり、式(1)には含まれる界面活性剤である。
【0111】
表中、「D―7」とは、ニューコール2607(日本乳化剤社製トリスチレン化フェニルエーテル、式中、A=3、R1=「−CH(CH
3)−」、R2=「−H」、R3=「−H」、X=エチレンオキサイド又はプロピレンオキサイド、HLB値=11.2)であり、式(1)には含まれる界面活性剤である。
【0112】
表中、「D―8」とは、ニューコール2609(日本乳化剤社製トリスチレン化フェニルエーテル、式中、A=3、R1=「−CH(CH
3)−」、R2=「−H」、R3=「−H」、X=エチレンオキサイド又はプロピレンオキサイド、HLB値=12.6)であり、式(1)には含まれる界面活性剤である。
【0113】
表中、「D―9」とは、ブラウノンKTSP−16(青木油脂工業社製、式中、A=3、R1=「−CH(CH
3)−」、R2=「−H」、R3=「−H」、X=エチレンオキサイド、HLB値=12.7、n=16)であり、式(1)には含まれる界面活性剤である。
【0114】
表中、「D―10」とは、EMULSOGEN TS160(クラリアント社製トリスチレン化フェニルエーテル、式中、A=3、R1=「−CH(CH
3)−」、R2=「−H」、R3=「−H」、X=エチレンオキサイド、HLB値=13、n=16)であり、式(1)には含まれる界面活性剤である。
【0115】
表中、「D―11」とは、EMULSOGEN TS200(クラリアント社製トリスチレン化フェニルエーテル、式中、A=3、R1=「−CH(CH
3)−」、R2=「−H」、R3=「−H」、X=エチレンオキサイド、HLB値=14、n=20)であり、式(1)には含まれる界面活性剤である。
【0116】
表中、「D―12」とは、EMULSOGEN TS290(クラリアント社製トリスチレン化フェニルエーテル、式中、A=3、R1=「−CH(CH
3)−」、R2=「−H」、R3=「−H」、X=エチレンオキサイド、HLB値=15、n=29)であり、式(1)には含まれる界面活性剤である。
【0117】
表中、「D―13」とは、ニューコール2616(日本乳化剤社製トリスチレン化フェニルエーテル、式中、A=3、R1=「−CH(CH
3)−」、R2=「−H」、R3=「−H」、X=エチレンオキサイド又はプロピレンオキサイド、HLB値=15.5)であり、式(1)には含まれる界面活性剤である。
【0118】
表中、「D―14」とは、ブラウノン TSP−50(青木油脂工業社製、式中、A=3、R1=「−CH(CH
3)−」、R2=「−H」、R3=「−H」、X=エチレンオキサイド、HLB値=16.9、n=50)であり、式(1)には含まれる界面活性剤である。
【0119】
表中、「D―15」とは、EMULSOGEN TS540(クラリアント社製トリスチレン化フェニルエーテル、式中、A=3、R1=「−CH(CH
3)−」、R2=「−H」、R3=「−H」、X=エチレンオキサイド、HLB値=17、n=54)であり、式(1)には含まれる界面活性剤である。
【0120】
表中、「D―16」とは、ユニトックス480 東洋アドレ社製ポリオキシエチレンアルキルエーテル、化学式R−O−(CH
2CH
2O)
n−Hの化合物でRが炭素数n=31〜32、HLB値16、EO変性数40(n=40)の直鎖状アルキルエーテルであり、式(1)には含まれない界面活性剤である。
【0121】
表中、「D―17」とは、ユニトックス490 東洋アドレ社製ポリオキシエチレンアルキルエーテル、化学式R−O−(CH
2CH
2O)
n−Hの化合物でRは炭素数30、HLB値18、EO変性数90(n=90)の直鎖状アルキルエーテルであり、式(1)には含まれない界面活性剤である。
【0122】
表中、「D―18」とは、ニッコール BPS20 日光ケミカルズ社製ポリオキシエチレンフィトステロール、HLB値15.5、EO変性数20(n=20)のフィトステロールであり、式(1)には含まれない界面活性剤である。
【0123】
表中、「D―19」とは、ニッコール BPS30 日光ケミカルズ社製ポリオキシエチレンフィトステロール、HLB値18EO変性数30であり、式(1)には含まれない界面活性剤である。
【0124】
表中、「D―20」とは、Sapogenat T040 クラリアント社製、HLB値8、EO変性数4(n=4)のトリブチルフェノールエトキシアセテートであり、式(1)には含まれない界面活性剤である。
【0125】
表中、「D―21」とは、Sapogenat T060 クラリアント社製、HLB値10、EO変性数6(n=6)のトリブチルフェノールエトキシアセテートであり、式(1)には含まれない界面活性剤である。
【0126】
表中、「D―22」とは、Sapogenat T080 クラリアント社製、HLB値11、EO変性数8(n=8)のトリブチルフェノールエトキシアセテートであり、式(1)には含まれない界面活性剤である。
【0127】
表中、「D―23」とは、Sapogenat T110 クラリアント社製、HLB値13、EO変性数11(n=11)のトリブチルフェノールエトキシアセテートであり、式(1)には含まれない界面活性剤である。
【0128】
表中、「D―24」とは、Sapogenat T130 クラリアント社製、HLB値14、EO変性数13(n=13)のトリブチルフェノールエトキシアセテートであり、式(1)には含まれない界面活性剤である。
【0129】
表中、「E―1」とは、アクリットAKW107(大成ファインケミカル社製ノニオン性アクリルエマルジョン)である。
【0130】
表中、「E―2」とは、スーパーフレックスE−2000(第一工業製薬社製ノニオン性ウレタンエマルジョン)である。
【0131】
表中、「E―3」とは、以下のように製造されたカチオン性アクリルエマルジョンである。フラスコに窒素置換したイオン交換水65質量部を加え、次いで非反応性界面活性剤〔花王社製;商品名「エマルゲン 1135S−70」を3.5質量部添加して溶解した。次に、この界面活性剤溶液を75℃に保って、カチオン性モノマーとして、ジメルチアミノエチルメタクリレートを添加した後、36%塩酸をイオン交換水で塩酸濃度18%に希釈したものを2.0質量部加えて、十分に混合して、カチオン性モノマーを中和した。その後、2、2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)の14%水溶液を0.7質量部添加した。次いで、メチルメタアクリレートと2−エチル−ヘキシル−アクリレートの69.5/27.8(質量比)混合液98質量部の連続滴下をガラス転移温度が50℃〜60℃となるように開始した。フラスコ内部はウォーターバスによって78℃±2℃に保ち、モノマー混合液の滴下は、4時間で終了した。モノマー混合液滴下終了後、2、2’−アゾビス(2−アミノプロパン)の14%水溶液を0.7質量部添加して、2時間放置した後、冷却してカチオン性アクリルエマルジョンを得た。
【0132】
表中、「B―1」とは、水酸化カルシウム(多価金属イオンを生成し得る化合物)である。
【0133】
表中、「B―2」とは、水酸化マグネシウム(多価金属イオンを生成し得る化合物)である。
【0134】
表中、「A―1」とは、メチルマロン酸(有機物の陰イオンを生成し得る化合物であって、有機物の陰イオンのOV/IV値が0.27)である。
【0135】
表中、「A―2」とは、サリチル酸(有機物の陰イオンを生成し得る化合物であって、有機物の陰イオンのOV/IV値が0.53)である。
【0136】
表中、「A―3」とは、2,4−ジヒドロキシ安息香酸(有機物の陰イオンを生成し得る化合物であって、有機物の陰イオンのOV/IV値が0.38)である。
【0137】
表中、「A―4」とは、2,5−ジヒドロキシ安息香酸(有機物の陰イオンを生成し得る化合物であって、有機物の陰イオンのOV/IV値が0.38)である。
【0138】
表中、「A―5」とは、パントテン酸(有機物の陰イオンを生成し得る化合物であって、有機物の陰イオンのOV/IV値が0.29)である。
【0139】
表中、「A―6」とは、安息香酸(有機物の陰イオンを生成し得る化合物であって、有機物の陰イオンのOV/IV値が0.85)である。
【0140】
表中、「A―7」とは、コハク酸(有機物の陰イオンを生成し得る化合物であって、有機物の陰イオンのOV/IV値が0.27)である。
【0141】
表中、「A―8」とは、マレイン酸(有機物の陰イオンを生成し得る化合物であって、有機物の陰イオンのOV/IV値が0.26)である。
【0142】
表中、「A―9」とは、グルタル酸(有機物の陰イオンを生成し得る化合物であって、有機物の陰イオンのOV/IV値が0.33)である。
【0143】
表中、「A―10」とは、スベリン酸(有機物の陰イオンを生成し得る化合物であって、有機物の陰イオンのOV/IV値が0.53)である。
【0144】
表中、「A―11」とは、トリメリット酸(有機物の陰イオンを生成し得る化合物であって、有機物の陰イオンのOV/IV値が0.39)である。
【0145】
表中、「A―12」とは、カプリル酸(有機物の陰イオンを生成し得る化合物であって、有機物の陰イオンのOV/IV値が1.10)である。
【0146】
表中、「A―13」とは、アスパラギン酸(有機物の陰イオンを生成し得る化合物であって、有機物の陰イオンのOV/IV値が0.22)である。
【0147】
表中、「A―14」とは、酒石酸(有機物の陰イオンを生成し得る化合物であって、有機物の陰イオンのOV/IV値が0.16)である。
【0148】
表中、「A―15」とは、りんご酸(有機物の陰イオンを生成し得る化合物であって、有機物の陰イオンのOV/IV値が0.20)である。
【0149】
表中、「A―16」とは、クエン酸(有機物の陰イオンを生成し得る化合物であって、有機物の陰イオンのOV/IV値が0.22)である。
【0150】
表中、「A―17」とは、カプリン酸(有機物の陰イオンを生成し得る化合物であって、有機物の陰イオンのOV/IV値が1.3)である。
【0151】
[評価1]
受理溶液の保存安定性(粘性変化)
実施例及び比較例の受理溶液について後述する保管試験前の粘度(初期粘度)(Va)を測定した。具体的には、DIN EN ISO 12058−1に基づいて、落球粘度計を用いて25℃で初期粘度(Va)を測定した。そして、実施例及び比較例の受理溶液について保管試験を行い、保管試験後の粘度(Vb)を測定した。具体的には、実施例及び比較例の受理溶液物について、およそ25mlを容量30mlの透明ガラスびんへ入れ密栓した試料を、温度を60℃、保管期間を7日とし、保管試験を行った。そして、保管試験後の実施例及び比較例の受理溶液について、上記の初期粘度(Va)測定試験と同様の方法で粘度を測定した。結果を表1、2に示す。
【0152】
(評価基準)
◎:|Vb−Va|/Va×100が5%未満である。
○:|Vb−Va|/Va×100が5%以上10%未満である。
△:|Vb−Va|/Va×100が10%以上30%未満である。
×:|Vb−Va|/Va×100が30%以上、又は保管試験の受理溶液がゲル化した。
尚、|Vb−Va|とは、VaとVbとの差の絶対値を意味する。
[評価2]
受理溶液の吐出安定性
実施例及び比較例の受理溶液について吐出安定性を評価した。具体的には、予めノズルクリーニングを行った後に600dpiのインクジェットヘッドに実施例及び比較例の受理溶液を充填し、吐出を行った。そして、15分間吐出を停止し、実施例及び比較例の受理溶液を再吐出し、以下の評価基準のもと曲がりや不吐出のノズル数を確認することにより受理溶液の吐出安定性を確認した。結果を表1、2に示す。
【0153】
(評価基準)
A:曲がりや不吐出のノズル数が全ノズル中1%未満である。
B:曲がりや不吐出のノズル数が全ノズル中1%以上3%未満である。
C:曲がりや不吐出のノズル数が全ノズル中3%以上である。
【0154】
実施例の受理溶液は、受理溶液に含有される有機物の陰イオンの有機性値/無機性値の比であるOV/IV値が0.25以上1.30未満であり、且つ、受理溶液に含有される界面活性剤が一般式(1)で示される界面活性剤である。実施例の受理溶液は、表中の評価1が◎〜△であることから、|Vb−Va|/Va×100が30%未満である。よって、本発明の受理溶液の保存安定性が良好であることが分かる。
【0155】
又、実施例の受理溶液は、表中の評価2がA又はBであることから、15分間吐出停止後の、曲がりや不吐出のノズル数が3%未満であり、受理溶液の吐出安定性も良好であることが分かる。更に、有機物の陰イオンのOV/IV値が0.35以上1.00以下の実施例2、3、4、6、10、11、14、15、16、17の受理溶液は、表中の評価2がAであることから、吐出安定性が更に良好であることが分かる。
【0156】
一方、表2に記載された比較例1〜9の受理溶液は、一般式(1)で示される界面活性剤が含有されておらず、そのため、受理溶液の保存安定性及び吐出安定性が劣る受理溶液であることが分かる。更に、表2に記載された比較例10〜15の受理溶液は、OV/IV値が0.25未満(比較例10〜14)又はOV/IV値が1.3(比較例15)の有機物の陰イオンを含有しており、そのため、受理溶液の保存安定性及び吐出安定性が劣る受理溶液であることが分かる。
【0157】
本試験結果の実施例から本発明の受理溶液は、保存安定性及び吐出安定性が向上した受理溶液であることが確認された。
【解決手段】多価金属塩と、水溶性溶媒と、樹脂と、界面活性剤と、を含有したインクジェット記録インク用の受理溶液であって、樹脂として樹脂エマルジョンを含有し、多価金属塩は、多価金属のイオンと、有機物の陰イオンと、を含み、有機物の陰イオンの有機性値/無機性値の比であるOV/IV値が0.25以上1.30未満であり、界面活性剤が芳香族環を有する疎水性基とエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイドを有する親水性基を有し、HLB値が9以上19以下である受理溶液。