特許第6307276号(P6307276)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6307276セレン含有水の処理装置およびセレン含有水の処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6307276
(24)【登録日】2018年3月16日
(45)【発行日】2018年4月4日
(54)【発明の名称】セレン含有水の処理装置およびセレン含有水の処理方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/58 20060101AFI20180326BHJP
   C02F 1/72 20060101ALI20180326BHJP
   B01D 21/01 20060101ALI20180326BHJP
   C02F 1/56 20060101ALI20180326BHJP
   C02F 9/02 20060101ALI20180326BHJP
   C02F 9/04 20060101ALI20180326BHJP
   C02F 1/70 20060101ALI20180326BHJP
   C02F 1/52 20060101ALI20180326BHJP
   B01D 21/08 20060101ALI20180326BHJP
【FI】
   C02F1/58 H
   C02F1/72 A
   C02F1/72 B
   B01D21/01 102
   C02F1/56 K
   C02F9/02
   C02F9/04
   C02F1/70 Z
   C02F1/52 K
   B01D21/08 C
   B01D21/01 H
   B01D21/01 105
【請求項の数】14
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2014-960(P2014-960)
(22)【出願日】2014年1月7日
(65)【公開番号】特開2015-128746(P2015-128746A)
(43)【公開日】2015年7月16日
【審査請求日】2016年9月12日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】今村 英二
(72)【発明者】
【氏名】鳥羽 裕一郎
【審査官】 片山 真紀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−102559(JP,A)
【文献】 特開平09−150164(JP,A)
【文献】 特開2013−202521(JP,A)
【文献】 特開2013−075261(JP,A)
【文献】 特開2012−035221(JP,A)
【文献】 特開平09−047790(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/110143(WO,A1)
【文献】 特開2003−190974(JP,A)
【文献】 特開2009−240930(JP,A)
【文献】 特開昭49−128540(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/52−64、70−78
B01D 21/00−34、53/34−96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度50℃以上95℃以下の範囲、pH7.0以上8.0未満の範囲でセレン含有水中のセレンを第一鉄塩により還元および凝集させる還元手段と、
前記還元手段により還元した還元処理水にアルカリを添加してpHを8.0以上10.0未満の範囲に調整し、再凝集させる再凝集手段と、
前記再凝集させた再凝集処理水から凝集物を分離してセレン含有量が0.1mg/L以下である処理水を得る固液分離手段と、
を備えることを特徴とするセレン含有水の処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載のセレン含有水の処理装置であって、
前記セレン含有水を50℃以上95℃以下に加熱する加熱手段を備えること特徴とするセレン含有水の処理装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のセレン含有水の処理装置であって、
前記固液分離手段で分離した凝集物の少なくとも一部を、前記再凝集手段に移送する移送手段を備えることを特徴とするセレン含有水の処理装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のセレン含有水の処理装置であって、
前記再凝集手段の後段かつ前記固液分離手段の前段において、高分子凝集剤を添加する高分子凝集剤添加手段と、前記添加した高分子凝集剤を混合し凝集物を粗大化させる凝集物粗大化手段とを備えることを特徴とするセレン含有水の処理装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のセレン含有水の処理装置であって、
前記固液分離手段が、槽内に凝集物を密集層として滞留させるスラッジブランケット型の沈殿槽であることを特徴とするセレン含有水の処理装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のセレン含有水の処理装置であって、
被処理水であるセレン含有水が、石炭火力発電所の排ガス脱硫排水もしくはその処理水、または石炭ガス化発電設備から生ずる石炭ガス化排水またはその処理水であることを特徴とするセレン含有水の処理装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のセレン含有水の処理装置であって、
前記還元手段の前段に、セレン含有水に酸化剤を加えて加温下で反応させる高温アルカリ塩素処理手段を備えることを特徴とするセレン含有水の処理装置。
【請求項8】
温度50℃以上95℃以下の範囲、pH7.0以上8.0未満の範囲でセレン含有水中のセレンを第一鉄塩により還元および凝集させる還元工程と、
前記還元工程により還元した還元処理水にアルカリを添加してpHを8.0以上10.0未満の範囲に調整し、再凝集させる再凝集工程と、
前記再凝集させた再凝集処理水から凝集物を分離してセレン含有量が0.1mg/L以下である処理水を得る固液分離工程と、
を含むことを特徴とするセレン含有水の処理方法。
【請求項9】
請求項8に記載のセレン含有水の処理方法であって、
前記セレン含有水を50℃以上95℃以下に加熱する加熱工程を含むことを特徴とするセレン含有水の処理方法。
【請求項10】
請求項8または9に記載のセレン含有水の処理方法であって、
前記固液分離工程で分離した凝集物の少なくとも一部を、前記再凝集工程に移送する移送工程を含むことを特徴とするセレン含有水の処理方法。
【請求項11】
請求項8〜10のいずれか1項に記載のセレン含有水の処理方法であって、
前記再凝集工程の後段かつ前記固液分離工程の前段において、高分子凝集剤を添加、混合し凝集物を粗大化させる凝集物粗大化工程を含むことを特徴とするセレン含有水の処理方法。
【請求項12】
請求項8〜11のいずれか1項に記載のセレン含有水の処理方法であって、
前記固液分離工程において、槽内に凝集物を密集層として滞留させるスラッジブランケット型の沈殿槽を用いることを特徴とするセレン含有水の処理方法。
【請求項13】
請求項8〜12のいずれかに記載のセレン含有水の処理方法であって、
被処理水であるセレン含有水が、石炭火力発電所の排ガス脱硫排水もしくはその処理水、または石炭ガス化発電設備から生ずる石炭ガス化排水またはその処理水であることを特徴とするセレン含有水の処理方法。
【請求項14】
請求項8〜13のいずれかに記載のセレン含有水の処理方法であって、
前記還元工程の前段に、セレン含有水に酸化剤を加えて加温下で反応させる高温アルカリ塩素処理工程を含むことを特徴とするセレン含有水の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セレン含有水の処理装置およびセレン含有水の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石炭火力発電では、石炭を燃焼して発生する排ガスを浄化するための脱硫設備が設置され、水酸化カルシウムや水酸化マグネシウムを溶解させた水により、ガス中の硫黄分や集塵機で除去しきれなかったばい塵を除去している。硫黄分やばい塵を吸収した水は適宜脱硫設備から脱硫排水として排出され、排水基準以下にまで処理されて海洋等に放流される。この脱硫排水にはセレンが含有されることも多く、発電に使用される石炭の産地、種類等によっては排水基準0.1mg/Lを大きく超える値でセレンが存在することがある。また、石炭ガス化発電においても、発電設備に付随するガス浄化設備等から排出される排水(以下、石炭ガス化排水)にも、セレンが排水基準値を超える高濃度で存在することがある。その他発電設備排水以外でも、例えば、ガラス製造排水にもセレンが排水基準値以上に含有されることがある。
【0003】
これらのセレン含有水からセレンを排水基準値以下にまで除去するための処理装置または処理方法が考えられ、実用化されている。セレン含有水には、セレンは6価セレンとして含まれることがあり、6価セレンはそのままの形態では凝集等で除去することが難しいため、4価セレンや0価セレンに還元してから鉄塩等で凝集し、凝集物を固液分離することで、除去されている。
【0004】
例えば、特許文献1〜3には、セレン含有水を酸性にして、鉄を主成分とする充填材、またはアルミニウム、酸化チタンを主成分とする充填材を充填した水槽に通水し、酸による充填材の溶出過程、または溶出した鉄イオンにより水中に溶解している6価セレンや4価セレンを還元し、pH調整により析出させた水酸化鉄や水酸化アルミニウムで4価セレンや0価セレンを凝集、固液分離により除去する方法が開示されている。
【0005】
しかし、これらの方法は、鉄やアルミニウム、酸化チタンを多量に溶出させるために、通常中性付近でセレン処理工程に流入してくる水のpHを1〜3といった強酸性にし、また凝集時にはpH7〜10に戻す必要があり、酸およびアルカリの使用量が多大であるという問題がある。さらに、特許文献1,2では充填塔に密に充填材を充填するため、閉塞が起きないようセレン処理の前段で砂ろ過や膜ろ過等を行い、被処理水から懸濁物を完全に除去しておく必要がある。特許文献3では、閉塞の生じにくい間隙の多い充填材を使用している。しかし、充填密度が低いため特許文献1の方法に比べると頻繁に充填材の補充をすることになるが、その頻度を減らすためには充填槽を大きな容量にし、かつその充填材に被処理水を十分接触させるため槽内水循環を行うための曝気等の大きな動力も必要となるという問題がある。
【0006】
一方、特許文献4,5には、セレン含有水を嫌気性条件下で生物汚泥と接触させ微生物により6価セレンを4価セレンや0価セレンに還元し、比較的少量の鉄塩で凝集除去する方法が開示されている。これらの方法は特許文献1〜3の方法に比べれば薬品使用量は少なくランニングコストが安価という利点があるが、微生物が増殖し微生物がセレン含有水に馴致してセレン還元が十分機能するまでの期間は還元力を有する第一鉄塩を多量に投入して還元および凝集、固液分離を行う必要がある。
【0007】
従来より第一鉄塩を用いてセレンを還元、凝集固液分離する方法が知られており、特許文献6には第一鉄塩によるセレンの凝集沈殿除去の改良発明が開示されている。第一鉄塩でセレン含有水からセレンを除去する方法では、セレンを例えば排水基準値0.1mg/L未満といった低濃度にまで低減するには、第一鉄塩の必要添加量が多いという問題があった。特にセレン処理が必要となることが多い脱硫排水や石炭ガス化排水では、カルシウム塩、マグネシウム塩等の塩濃度が高い影響で第一鉄塩の必要添加量が一層多くなる。また、第一鉄塩の添加量が多いことで、水酸化鉄の凝集物が多量に発生し、その凝集物の沈降濃縮性が悪く、汚泥の発生量もが多いため、設備容量を大きくしなければならない等、処理効率が低下してしまう問題があった。
【0008】
特許文献6の方法は、こうした問題、特に凝集物の沈降性濃縮の改善、汚泥量の低減を図るものであり、水温は10〜30℃程度といった常温で加温はせずに、固液分離工程で分離した水酸化鉄の凝集物にアルカリを添加して再溶解し、被処理水に混合することで水酸化第一鉄の一部を鉄フェライトやグリーンラストの形態に変化させて凝集物の圧密性、沈降濃縮性を高める方法である。しかし、それらの効果が認められるには固液分離した凝集物を被処理水に混合するにあたり凝集物を含む水のpHを11〜13にする必要があり、その分アルカリ使用量が多大になるという問題がある。また、鉄フェライトやグリーンラストを効果的に作るには反応槽を密閉し窒素パージする等して非酸化性雰囲気にする必要があり、設備が煩雑になるという問題があった。
【0009】
一方、非特許文献1には、被処理水を高温にした状態で第一鉄塩を添加することで、金属の凝集を行うとともに、水酸化鉄の一部を、沈降濃縮性の高いフェライト等に変えることで凝集物の沈降濃縮性の改善、汚泥発生量の低減を図る方法が開示されている。しかし、非特許文献1には、セレン含有水からセレンを排水基準値未満にまで低減しつつ凝集物を鉄フェライト化し沈降濃縮性の改善、汚泥発生量の低減する反応条件等は明示されていない。また、鉄フェライトを作るために60〜70℃でブロワ等により空気曝気しなければならず、その分電力費が多大となるという問題がある。
【0010】
特許文献7には、弱酸性下で2価鉄イオン(第一鉄塩)添加後のセレン含有水を30℃以上に加温しつつ、アルカリ剤を添加してpHを8〜10に調整することによりセレンを除去する方法が開示されている。空気を遮断した条件下で第一鉄イオンとセレンを反応させることで、比較的少ない2価鉄イオン添加量で6価セレンを0.1mg/L以下にすることが可能とされる。しかし、この方法は空気を遮断した条件下で第一鉄塩の反応を行う必要があり、窒素等の被酸化性ガスで反応槽をシールする等、設備が煩雑になるという問題がある。また、脱硫排水や石炭ガス化排水等のセレンだけでなくナトリウム塩やカルシウム塩等共存塩類も高濃度で含む排水に対し、セレン除去性能を確保しつつ、凝集物の沈降濃縮性の改善や汚泥発生量の低減が図れる適正な反応条件や方法については何ら考慮されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許3981843号公報
【特許文献2】特開2008−030020号公報
【特許文献3】特許3385137号公報
【特許文献4】特許3445901号公報
【特許文献5】特許3799634号公報
【特許文献6】特許3956978号公報
【特許文献7】特許3596631号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】「新体系土木工学90 水処理−単位操作と産業用水・廃水−」、1982年3月20日、金子光美、藤田賢二著、技報堂出版株式会社発行、62頁−63頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、少ない第一鉄塩添加量で高いセレン除去率を達成すると共に、汚泥の発生量を抑制するセレン含有水の処理装置および処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、温度50℃以上95℃以下の範囲、pH7.0以上8.0未満の範囲でセレン含有水中のセレンを第一鉄塩により還元および凝集させる還元手段と、前記還元手段により還元した還元処理水にアルカリを添加してpHを8.0以上10.0未満の範囲に調整し、再凝集させる再凝集手段と、前記再凝集させた再凝集処理水から凝集物を分離してセレン含有量が0.1mg/L以下である処理水を得る固液分離手段と、を備えるセレン含有水の処理装置である。
【0015】
また、前記セレン含有水の処理装置において、前記セレン含有水を50℃以上95℃以下に加熱する加熱手段を備えることが好ましい。
【0016】
また、前記セレン含有水の処理装置において、前記固液分離手段で分離した凝集物の少なくとも一部を、前記再凝集手段に移送する移送手段を備えることが好ましい。
【0017】
また、前記セレン含有水の処理装置において、前記再凝集手段の後段かつ前記固液分離手段の前段において、高分子凝集剤を添加する高分子凝集剤添加手段と、前記添加した高分子凝集剤を混合し凝集物を粗大化させる凝集物粗大化手段とを備えることが好ましい。
【0018】
また、前記セレン含有水の処理装置において、前記固液分離手段が、槽内に凝集物を密集層として滞留させるスラッジブランケット型の沈殿槽であることが好ましい。
【0019】
また、前記セレン含有水の処理装置において、被処理水であるセレン含有水が、石炭火力発電所の排ガス脱硫排水もしくはその処理水、または石炭ガス化発電設備から生ずる石炭ガス化排水またはその処理水であることが好ましい。
【0020】
また、前記セレン含有水の処理装置において、前記還元手段の前段に、セレン含有水に酸化剤を加えて加温下で反応させる高温アルカリ塩素処理手段を備えることが好ましい。
【0021】
また、本発明は、温度50℃以上95℃以下の範囲、pH7.0以上8.0未満の範囲でセレン含有水中のセレンを第一鉄塩により還元および凝集させる還元工程と、前記還元工程により還元した還元処理水にアルカリを添加してpHを8.0以上10.0未満の範囲に調整し、再凝集させる再凝集工程と、前記再凝集させた再凝集処理水から凝集物を分離してセレン含有量が0.1mg/L以下である処理水を得る固液分離工程と、を含むセレン含有水の処理方法である。
【0022】
また、前記セレン含有水の処理方法において、前記セレン含有水を50℃以上95℃以下に加熱する加熱工程を含むことが好ましい。
【0023】
また、前記セレン含有水の処理方法において、前記固液分離工程で分離した凝集物の少なくとも一部を、前記再凝集工程に移送する移送工程を含むことが好ましい。
【0024】
また、前記セレン含有水の処理方法において、前記再凝集工程の後段かつ前記固液分離工程の前段において、高分子凝集剤を添加、混合し凝集物を粗大化させる凝集物粗大化工程を含むことが好ましい。
【0025】
また、前記セレン含有水の処理方法において、前記固液分離工程において、槽内に凝集物を密集層として滞留させるスラッジブランケット型の沈殿槽を用いることが好ましい。
【0026】
また、前記セレン含有水の処理方法において、被処理水であるセレン含有水が、石炭火力発電所の排ガス脱硫排水もしくはその処理水、または石炭ガス化発電設備から生ずる石炭ガス化排水またはその処理水であることが好ましい。
【0027】
また、前記セレン含有水の処理方法において、前記還元工程の前段に、セレン含有水に酸化剤を加えて加温下で反応させる高温アルカリ塩素処理工程を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、少ない第一鉄塩添加量で高いセレン除去率を達成すると共に、汚泥の発生量を抑制するセレン含有水の処理装置および処理方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の実施形態に係るセレン含有水の処理装置の一例を示す概略構成図である。
図2】本発明の実施形態に係るセレン含有水の処理装置の他の例を示す概略構成図である。
図3】本発明の実施形態に係るセレン含有水の処理装置の他の例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の実施の形態について以下説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0031】
図1は、本発明の実施形態に係るセレン含有水の処理装置の構成の一例を示す模式図である。セレン含有水処理装置1は、還元手段の一例としての鉄反応槽12と、再凝集手段としての再凝集槽14と、固液分離手段の一例としてのスラッジブランケット型の沈殿槽18と、を備える。セレン含有水処理装置1は、凝集物粗大化手段の一例としての高分子反応槽16とを備えてもよい。
【0032】
セレン含有水処理装置1において、必要に応じてセレン含有水を貯留するための原水槽10の出口がポンプ20を介して原水ライン36により鉄反応槽12の入口に接続され、鉄反応槽12の出口が還元処理水ライン38により再凝集槽14の入口に接続され、再凝集槽14の出口が再凝集処理水ライン40により高分子反応槽16の入口に接続され、高分子反応槽16の出口が粗大化処理水ライン42により沈殿槽18の入口に接続され、沈殿槽18の上部出口には処理水ライン44が接続され、沈殿槽18の底部出口には汚泥ライン46が接続され、また移送手段の一例としてのポンプ22を介して移送ライン48により再凝集槽14と接続されている。鉄反応槽12には、pH調整手段の一例としてのアルカリ添加ライン50および酸添加ライン52と、第一鉄塩添加手段の一例としての第一鉄塩添加ライン54とが接続され、撹拌手段の一例としての撹拌羽根、モータ等を備えた撹拌装置26、pH測定手段の一例としてのpH測定装置32、加熱手段の一例としてのヒータ24が設置されている。再凝集槽14には、pH調整手段の一例としてのアルカリ添加ライン56が接続され、撹拌手段の一例としての撹拌羽根、モータ等を備えた撹拌装置28、pH測定手段の一例としてのpH測定装置34が設置されている。高分子反応槽16には、高分子凝集剤添加手段の一例としての高分子凝集剤添加ライン58が接続され、撹拌手段の一例としての撹拌羽根、モータ等を備えた撹拌装置30が設置されている。セレン含有水処理装置1では、鉄反応槽12内にヒータ24が設置されている。
【0033】
本実施形態に係るセレン含有水の処理装置の動作について説明する。
【0034】
まず、セレン含有水が原水槽10からポンプ20により原水ライン36を通して鉄反応槽12に供給された後、ヒータ24等によりセレン含有水が50℃以上95℃以下の温度まで加熱される(加熱工程)。そこに、第一鉄塩添加ライン54を通して鉄反応槽12に第一鉄塩が添加され(第一鉄塩添加工程)、アルカリ添加ライン50または酸添加ライン52を通してpH調整のためのアルカリ剤または酸が添加され、pH7.0以上8.0未満の範囲にpHが調整される。鉄反応槽12中で第一鉄は6価セレンを4価セレンへ、4価セレンを0価セレンへと還元する(還元工程)とともに、水酸化第一鉄および水酸化第二鉄等の水酸化鉄へと変化する。第一鉄の一部は2価の溶存鉄イオンとして存在する場合もある。還元された4価セレンや0価セレンは、生成した水酸化鉄に吸着、凝集される。
【0035】
次に、還元されたセレンおよび水酸化鉄に吸着されたセレンを含む還元処理水は、還元処理水ライン38を通して再凝集槽14に供給される。そして、後段の沈殿槽18から引き抜かれた凝集物を含む水(汚泥)およびアルカリ添加ライン56を通してアルカリ剤が添加され、pH8.0以上10.0未満の範囲にpHが調整される。この再凝集槽14で溶存鉄は水酸化鉄に、水酸化鉄は鉄フェライトへと変化する。水酸化鉄に吸着していた還元セレンは鉄フェライトと水酸化鉄を含む凝集物の中に取り込まれる(再凝集工程)。鉄フェライトと水酸化鉄を含む凝集物は水酸化鉄のみを含む凝集物より沈降性、濃縮性の高いものである。
【0036】
そして、セレンおよび凝集物に取り込まれた還元セレンを含む再凝集処理水は、再凝集処理水ライン40を通して高分子反応槽16に供給される。そして、高分子凝集剤添加ライン58を通して高分子反応槽16に高分子凝集剤が添加される。高分子反応槽16では、高分子凝集剤によって、凝集物を粗大化し、さらに沈降性、濃縮性の高い凝集物へと変化する(凝集物粗大化工程)。
【0037】
次に、粗大化処理水は、粗大化処理水ライン42を通して固液分離手段であるスラッジブランケット型の沈殿槽18に供給される。沈殿槽18では、粗大化処理水から、セレンを含む凝集物が、凝集物が滞留するブランケット層を通過する際に捕捉されて分離される(固液分離工程)。凝集物が分離された水は、セレンが十分に低減された処理水として処理水ライン44を通して沈殿槽18の上部から排出される。またこのブランケット層で凝集物が高温で長時間滞留することにより凝集物中の水酸化物が鉄フェライトに変化し、凝集物の沈降性、濃縮性が一層高いものとなる。凝集物は沈殿槽18の底部から汚泥ライン46を通して汚泥として沈殿槽18の外へ排出され、その少なくとも一部が移送ライン48を通してポンプ22により再凝集槽14へと返送される(移送工程)。なお、一連の鉄反応槽12、再凝集槽14、高分子反応槽16や沈殿槽18は大気開放とすればよく、非酸性ガス等による水面の被覆は行わなくてもよい。
【0038】
本実施形態に係るセレン含有水の処理装置および処理方法では、高温のセレン含有水について還元工程と再凝集工程をそれぞれ最適なpHで行うことにより、高いセレン除去率を達成すると共に、装置の反応槽を非酸化性ガスで大気から遮断しなくても凝集物の沈降濃縮性を高め、凝集物汚泥の発生量を抑えることが可能となる。また、鉄塩の添加量およびpH調整に必要な薬品量が少なくなる。
【0039】
以下に、各処理における条件および変形例等について説明する。
【0040】
<加熱工程>
セレン含有水の加熱時期は、第一鉄塩によるセレン還元の際に50℃以上95℃以下となっていればよく、これは第一鉄塩が添加される前だけでなく、添加中、添加後も含まれる。そして、セレン含有水の温度は、50℃以上95℃以下の範囲であればよく、55℃以上75℃以下の範囲が好ましい。セレン含有水の温度が50℃未満では、第一鉄塩によるセレンの還元速度が遅いため第一鉄塩の添加量が多大になるとともに、一連の反応を通しても鉄フェライト等の生成が少なく水酸化鉄の多い固形物が生成し、沈降濃縮性の悪い大量の汚泥が生成することになる。また、セレン含有水の温度を95℃超としても、第一鉄塩の必要添加量や発生汚泥の低減の点で、95℃以下の場合とほとんど変わらず、加熱に必要なエネルギーコストだけが高くなる場合がある。
【0041】
セレン含有水を加熱する装置としては、セレン含有水を所定温度に加熱することができるものであれば特に制限はなく、例えばヒータ、熱交換器、スチーム注入設備等が挙げられる。図2,3は、セレン含有水の処理装置の他の構成の一例を示す模式図である。
【0042】
図1に示すセレン含有水の処理装置1では、前述の通り、鉄反応槽12に電気ヒータ等のヒータ24が設置されている。また、鉄反応槽12の前段に加温槽を設置し、その加温槽内にヒータ等を設置して加熱してもよい。加温槽の後段の鉄反応槽で50〜95℃の範囲内の所定値に水温が制御されるように、加温槽でのヒータ等により水温が調節されればよい。
【0043】
図2に示すセレン含有水の処理装置3では、鉄反応槽12の前段の原水ライン36の途中に熱交換器60が設置され、熱交換器60には処理水ライン44が接続され、鉄反応槽12の下部にスチーム供給ライン62が接続されている。比較的低温のセレン含有水と比較的高温の処理水が流入し、セレン含有水には熱交換器60内の伝熱材をとおして高温の処理水から熱が供給され加温される。熱交換器60を出たセレン含有水は、鉄反応槽12においてさらにスチーム供給ライン62から高温のスチームが供給され、鉄反応槽12内で所定の水温になるよう加熱される。
【0044】
図3に示すセレン含有水の処理装置5は、セレンの他にシアン類、アンモニア性窒素およびギ酸等を含む石炭ガス化排水の処理において、セレン処理の前段で、高温アルカリ塩素処理によりシアン類、アンモニア性窒素およびギ酸等を分解した後の高温アルカリ塩素処理水からセレンを処理する場合の処理装置である。前段の高温アルカリ塩素処理装置64において高温アルカリ塩素処理が行われ(高温アルカリ塩素処理工程)、高温アルカリ塩素処理装置64から高温アルカリ塩素処理された80〜90℃の温度のセレン含有水(高温アルカリ塩素処理水)が排出される。このセレン含有水は、ポンプ20により原水ライン36を通して鉄反応槽12に供給され、以後図1と同様の処理が行われる。このセレン含有水は一旦貯槽等で貯留されてから鉄反応槽12へと移送されてもよいが、この貯留において水温が所定温度(50℃以上95℃以下)より下がらない場合はヒータや高温スチーム供給ライン等の加熱手段は設けなくてもよく、セレン含有水は貯槽より直接鉄反応槽12に供給されればよい。
【0045】
ここでいう「高温アルカリ塩素処理」は、シアン含有排液にアルカリ剤を添加してpH値を例えば8〜13.5、好ましくは9〜13.5の範囲に調整すると共に、酸化剤を添加して例えば70〜95℃の範囲の液温で反応させるシアン含有排液の分解処理法である。例えば、石炭ガス化排水を、室温から70℃〜沸点の範囲内に昇温し、かつその範囲内で温度を維持し、室温から石炭ガス化排水の酸化還元電位を測定し、石炭ガス化排水の酸化還元電位が酸化剤の酸化還元電位に達するまで、酸化剤を室温から70℃以上まで連続的または断続的に添加すればよい。
【0046】
高温アルカリ塩素処理によればシアン化合物だけでなく石炭ガス化排水中のアンモニア性窒素やCOD成分もともに分解除去できる。このため、アンモニア除去設備、COD除去設備を設けなくてもよいことから、設備の簡素化による設備のコンパクト化、設備コストの低減等が期待できる。
【0047】
<還元工程>
図1〜3に示す鉄反応槽12には第一鉄塩とpH調整のための酸またはアルカリが添加される。鉄反応槽12内のセレン含有水のpHは通常、第一鉄塩が水酸化鉄に変化することよって酸性側にシフトする。そして、酸性条件下では、水酸化鉄によるセレンの還元率、吸着率が低下するため、図1〜3に示すように、アルカリ添加ライン50を通して水酸化ナトリウム等のpH調整剤を添加して、鉄反応槽12のセレン含有水のpHを7.0以上8.0未満に調整する。鉄反応槽12のセレン含有水のpHは7.0以上8.0未満であり、7.0〜7.8の範囲が好ましい。セレン含有水のpHが7.0未満あるいは8.0以上では、前述したように水酸化鉄によるセレンの還元率、吸着率が低下する。
【0048】
第一鉄塩の添加量は、セレン含有水に含まれる共存イオンの存在量等によって大きく異なるが、概ねセレン濃度が1mg/L未満であれば鉄濃度で50〜300mg/L程度、セレン濃度が1〜10mg/Lであれば鉄濃度で300〜4000mg/L程度が目安である。ここで、セレン含有水中のセレン濃度は、例えば、定期的にサンプリングを行い、JIS K0102に規定される水素化物発生ICP発光法やICP質量分析法等により測定するのがよい。
【0049】
第一鉄塩は、例えば、塩化第一鉄(FeCl)、硫酸第一鉄(FeSO)等が挙げられ、あらかじめ酸で溶解し第一鉄イオンの状態で添加するのがよい。
【0050】
pH調整剤は、アルカリ剤であれば水酸化ナトリウムまたは水酸化カルシウム等、酸であれば硫酸または塩酸等を使用するのがよい。
【0051】
セレン含有水と第一鉄塩との反応時間は、5分〜60分の範囲であることが好ましい。すなわち、鉄反応槽12内のセレン含有水の滞留時間が5分〜60分の範囲であることが好ましい。上記反応時間が5分未満では、十分な反応が行われず、セレンの除去率が低下する場合がある。なお、上記反応時間を60分超としても、セレンの除去率はほとんど変化しない。
【0052】
鉄反応槽12内には、第一鉄塩とpH調整剤を添加後直ちに混和し、セレンと第一鉄との接触機会を多く確保し、セレンの還元および水酸化鉄への吸着効率を向上させるために、撹拌手段を設置することが好ましい。
【0053】
<再凝集工程>
図1〜3に示す再凝集槽14には、固液分離工程からの凝集物汚泥が添加され、さらにpH調整のためのアルカリ剤が添加される。アルカリ添加ライン56から、水酸化ナトリウム等のpH調整剤を添加して、再凝集槽14のセレン含有水のpHを8.0以上10.0未満に調整する。アルカリ剤は水酸化ナトリウムまたは水酸化カルシウムを使用するのがよい。また、反応を促進するために再凝集槽14には撹拌手段を設置することが好ましい。
【0054】
再凝集槽14のセレン含有水のpHは8.0以上10.0未満であり、8.2〜9.5の範囲が好ましい。セレン含有水のpHを8.0以上10.0未満に調整することで、水酸化物から鉄フェライト化が促進され、第一鉄塩添加工程で溶存していた鉄イオンが水酸化物となり、固液分離工程で得られる処理水への鉄イオンの流出も抑制される。また、固液分離工程からの凝集物汚泥を戻すことで凝集物が装置内に長時間滞留し、高温下で水酸化物のフェライト化が一層促進される。
【0055】
セレン含有水のpHが8.0未満では溶存鉄が水中に多く残存するとともに、水酸化鉄の割合が大きく、凝集物の沈降性、濃縮性が比較的悪く、沈殿槽から装置外に排出される汚泥の量も多くなる傾向にある。一方、pH10.0を超えるpHでは、凝集物の沈降性、濃縮性向上の点で10.0以下の場合とほとんど変わらず、pH調整に必要なアルカリ量だけが多くなる。また、セレン含有水が脱硫排水の場合、マグネシウムが数百〜数万mg/L含まれることがあるが、pH9.5超では水酸化マグネシウムが多量に析出し、凝集物量の増大や凝集物の沈降性、濃縮性の低下にもつながることがある。
【0056】
再凝集工程の反応時間は、5分以上であることが好ましい。すなわち、再凝集槽14内の還元処理水の滞留時間が5分以上であることが好ましい。上記反応時間が5分未満では、十分なフェライト化が行われず、凝集物の沈降性、濃縮性が向上しない場合がある。なお、反応時間は長いほうがよいが、還元処理水の処理速度が低下し、装置容量が大きくなるので60分程度を上限とするのがよい。
【0057】
<凝集物粗大化工程>
図1〜3に示す高分子反応槽16に添加する高分子凝集剤の添加量は、1〜10mg/Lの範囲が好ましい。高分子凝集剤の添加量が1mg/L未満では凝集物に沈降速度の遅い小さな粒子が多数存在し、後段の固液分離工程において処理水への凝集物の流出が多くなる場合がある。また、10mg/L超では凝集物の沈降性は10mg/Lとあまり変わらず、凝集剤使用量だけが多くなるとともに、固液分離工程で汚泥となった際の汚泥の粘性が大きくなり、汚泥配管の閉塞といった問題が生じることもある。
【0058】
高分子凝集剤としては、例えば、アニオン性のポリアクリルアミド等が挙げられる。
【0059】
高分子反応槽16内には、粘性の高い高分子凝集剤を添加後直ちに水中に混和し、フロック形成を促進させるために、撹拌手段を設置することが好ましい。
【0060】
再凝集処理水と高分子凝集剤との反応時間は、3分〜15分の範囲であることが好ましい。すなわち、高分子反応槽16内の再凝集処理水の滞留時間が3分〜15分の範囲であることが好ましい。上記反応時間が3分未満では、十分な凝集反応が行われず、凝集物に沈降速度の遅い小さな粒子が多数存在し処理水に多数の凝集物が流出することがある。一方、15分超では大きく成長した凝集物が再び撹拌で壊れてしまい、壊れた小さな凝集物が処理水に多数流出することがある。
【0061】
<固液分離工程>
沈殿槽18は、粗大化処理水中の凝集物(水酸化鉄および鉄フェライト等に取り込まれたセレン)を粗大化処理水から固液分離することができるものであれば、如何なる形態の沈殿槽であってもよいが、槽内に凝集物を密集層として滞留させるスラッジブランケット型の沈殿槽がより好ましい。スラッジブランケット型の沈殿槽は槽内に凝集物を長時間滞留させるため、その分、凝集物が高温にさらされる。これによって水酸化鉄から鉄フェライトへの転換がより促進され、凝集物が一層沈降性、濃縮性の高いものとなると考えられる。
【0062】
<移送工程(汚泥返送工程)>
沈殿槽18から引き抜いた汚泥の一部を直接ポンプ22で再凝集工程に移送してもよいし、引き抜いた汚泥を一旦貯槽等に貯留し、そこから一部の汚泥を移送してもよい。移送する汚泥の量は、被処理水の量の10〜30vol%がよい。そして、返送されなかった残りの分が余剰汚泥として装置外に排出される。
【0063】
以上のように、セレン含有水に第一鉄塩を添加し、6価セレンの還元に適したpH(7.0以上8.0未満)でセレンを還元して水酸化鉄に凝集させたのち、水酸化鉄の鉄フェライト化に適したpH(8.0以上10.0未満)に調整することでセレンが効果的に除去され、かつ凝集物の沈降性、濃縮性が向上し、固液分離工程から排出される汚泥の量が減容する。さらに、鉄フェライト化した凝集物に高分子凝集剤を添加するとともに、固液分離工程で排出された汚泥を鉄フェライト化する再凝集槽に返送することにより、凝集物の滞留時間が長くなり高温下での鉄フェライト化を一層促進することができる。これらにより、セレン含有水を非酸化性ガスで大気を遮断しなくても、効果的にセレンを除去し、汚泥発生量を減らすことができる。
【0064】
本実施形態に係るセレン含有水の処理装置およびセレン含有水の処理方法に適用されるセレン含有水は、石炭火力発電所の排ガス脱硫排水もしくはその処理水、または石炭ガス化発電設備から生ずる石炭ガス化排水またはその処理水が好ましいが、特に制限されるものではなく、ガラス製造排水等でもよい。
【実施例】
【0065】
以下、実施例および比較例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0066】
(実施例1,2,3)
セレン含有水500mLをビーカ3個に用意した。セレン含有水は、表1に示す水質を有する石炭ガス化排水の高温アルカリ塩素処理水(原水1)であり、総セレンを6.4mg/L含有し、このセレンはすべて6価セレンである。上記ビーカにヒータを挿入し加熱し、セレン含有水が50℃、70℃、95℃まで加熱されたことを確認した後、セレン含有水中の鉄濃度が2000mg/Lとなるように塩化第一鉄溶液を、pHが7.8となるよう水酸化ナトリウム溶液をビーカに添加し、撹拌しながら15分間反応させた(反応時のpH7.8に保持)。次に、pHが8.5となるよう水酸化ナトリウム溶液をビーカに添加し、撹拌しながら15分反応させた。なお、この反応時の温度もそれぞれ50℃、70℃、90℃であった。さらに、ポリアクリルアミドをセレン含有水中で10mg/Lとなるよう添加して、撹拌しながら5分間反応させた。その後、撹拌を停止して静置し、反応で生じた凝集物を沈殿させ、上澄み水を採取してpH、総セレン、溶存鉄を測定した。鉄およびセレンはJIS0102に規定されるICP−MS法により測定した。さらに、ビーカに沈殿した凝集物汚泥の体積割合(セレン含有水量に対する、静置開始から5分後の体積の割合)を測定した。それらの結果を表2にまとめた。
【0067】
(比較例1,2,3)
実施例1と同様のセレン含有水(原水1)500mLをビーカ3個に用意し、ヒータにて加熱し、比較例1は25℃、比較例2,3は40℃にまで加熱されたことを確認した後、比較例1,2はセレン含有水中の鉄濃度が2000mg/Lとなるように、比較例3はセレン含有水中の鉄濃度が4000mg/Lとなるように塩化第一鉄溶液を、pHが7.8となるよう水酸化ナトリウム溶液を各ビーカに添加し、撹拌しながら15分間反応させた(反応時のpH7.8に保持)。次に、pHが8.5となるよう水酸化ナトリウム溶液をビーカに添加し、撹拌しながら15分反応させた。なお、この反応時の温度もそれぞれ25℃、40℃であった。ポリアクリルアミド添加以後は実施例1,2,3と同様の操作を行った。それらの結果を表2にまとめた。
【0068】
【表1】
【0069】
【表2】
【0070】
比較例1,2は、塩化第一鉄を実施例1,2,3と同量添加しているが、塩化第一鉄添加反応工程の水温が50℃未満の条件である。表1の結果からわかるように、上澄み水のセレンは、水温50℃未満の比較例1,2では高い値を示したのに対し、水温50℃以上の実施例1,2,3では0.1mg/L以下であった。静置5分後の凝集物汚泥体積割合も水温50℃未満の比較例1,2より、水温50℃以上の実施例1,2,3が少なかった。溶存鉄はいずれも1mg/L未満であった。
【0071】
比較例3は、塩化第一鉄を実施例1,2,3の2倍量添加しているが、還元工程の水温が比較例2と同等(50℃未満)の条件である。上澄み水のセレンは、0.1mg/L以下であり実施例と同等であったが、凝集物汚泥体積割合が実施例より大幅に多かった。
【0072】
このように、セレン含有水において、少ない第一鉄塩添加量でセレンを効果的に低減し、かつ凝集物汚泥の発生量を低減するには、還元反応の際の反応温度が重要であり、50℃以上の加温状態で第一鉄塩を添加してセレンと第一鉄を反応させることが有効であることが確認された。
【0073】
(実施例4,5)
実施例1,2,3と同様のセレン含有水(原水1)500mLをビーカ2個に用意し、ヒータにて加熱し、それぞれ70℃にまで加熱されたことを確認した後、セレン含有水中の鉄濃度が2000mg/Lとなるように塩化第一鉄を添加し、実施例4はpHが7.0となるように、実施例5は7.4となるように水酸化ナトリウム溶液を各ビーカに添加し、撹拌しながら15分間反応させた(反応時のpHはそれぞれ7.0,7.4に保持)。次に、pHが8.5となるように水酸化ナトリウム溶液をビーカに添加し、撹拌しながら15分反応させた。なお、この反応時の温度もそれぞれ70℃であった。ポリアクリルアミド添加以後は実施例1,2,3と同様の操作を行った。それらの結果を、実施例2と合わせ表3にまとめた。
【0074】
(比較例4,5)
実施例4,5と同様のセレン含有水(原水1)500mLをビーカ2個に用意し、ヒータにて加熱し、それぞれ70℃にまで加熱されたことを確認した後、セレン含有水中の鉄濃度が2000mg/Lとなるように塩化第一鉄を添加し、比較例4はpHが6.5となるように、比較例5は8.5となるように水酸化ナトリウム溶液を各ビーカに添加し、撹拌しながら15分間反応させた(反応時のpHはそれぞれ6.5,8.5に保持)。次に、pHが8.5となるように水酸化ナトリウム溶液をビーカに添加し、撹拌しながら15分反応させた。なお、この反応時の温度もそれぞれ70℃であった。ポリアクリルアミド添加以後は実施例1,2,3と同様の操作を行った。それらの結果を表3にまとめた。
【0075】
【表3】
【0076】
表3の結果から分かるように、比較例4,5では、上澄み水のセレンは高い値を示したのに対し、pH7.0以上8.0未満の実施例4,5,2では、上澄み水のセレンは0.1mg/L以下であった。第一鉄塩添加後の反応pHは7.0以上8.0未満が適正であることが示された。凝集物汚泥体積割合は、pHが高くなるほど低下傾向にはあるものの、実施例2,4,5は比較例5よりわずかに多い程度であった。
【0077】
(実施例6,7,8)
実施例1,2,3と同様のセレン含有水(原水1)500mLをビーカ3個に用意し、ヒータにて加熱し、それぞれ70℃にまで加熱されたことを確認した後、セレン含有水中の鉄濃度が2000mg/Lとなるように塩化第一鉄を添加し、pHが7.4となるように水酸化ナトリウム溶液を各ビーカに添加し、撹拌しながら15分間反応させた(反応時のpHはそれぞれ7.4に保持)。次に、実施例6はpHが8.0となるように、実施例7はpHが8.2となるように、実際例8はpHが9.5となるように水酸化ナトリウム溶液をビーカに添加し、撹拌しながら15分反応させた(反応時のpHはそれぞれ8.0,8.2,9.5に保持)。なお、この反応時の温度もそれぞれ70℃であった。ポリアクリルアミド添加以後は実施例1,2,3と同様の操作を行った。それらの結果を、実施例5と合わせ表4にまとめた。
【0078】
(比較例6,7)
実施例1,2,3と同様のセレン含有水(原水1)500mLをビーカ2個に用意し、ヒータにて加熱し、それぞれ70℃にまで加熱されたことを確認した後、セレン含有水中の鉄濃度が2000mg/Lとなるように塩化第一鉄を添加し、pHが7.4となるよう水酸化ナトリウム溶液を各ビーカに添加し、撹拌しながら15分間反応させた(反応時のpHはそれぞれ7.4に保持)。次に、比較例6はpHが7.4となるように、比較例7はpHが10.0となるように水酸化ナトリウム溶液をビーカに添加し、撹拌しながら15分反応させた(反応時のpHはそれぞれ7.4,10.0に保持)。なお、この反応時の温度もそれぞれ70℃であった。ポリアクリルアミド添加以後は実施例1,2,3と同様の操作を行った。それらの結果を表4にまとめた。
【0079】
【表4】
【0080】
表4の結果から分かるように、比較例7では、上澄み水のセレンは高い値を示したのに対し、pH8.0以上10.0未満の実施例6,7,8,5では、上澄み水のセレンは0.1mg/L以下であった。比較例6では、上澄み水のセレンは0.1mg/L以下であったものの、凝集物汚泥体積割合は、実施例6,7,8,5と比べて多かった。再凝集工程での反応pHは8.0以上10.0未満が適正であることが示された。
【0081】
(実施例9)
実施例1,2,3と同様のセレン含有水(原水1)500mLをビーカに用意し、ヒータにて加熱し、それぞれ70℃にまで加熱されたことを確認した後、セレン含有水中の鉄濃度が2000mg/Lとなるように塩化第一鉄を添加し、pHが7.4となるように水酸化ナトリウム溶液を各ビーカに添加し、撹拌しながら15分間反応させた(反応時のpHは7.4に保持)。次に、pHが8.5となるように水酸化ナトリウム溶液をビーカに添加し、撹拌しながら15分反応させた。なお、この反応時の温度もそれぞれ70℃であった。次に、ポリアクリルアミドをセレン含有水中で1mg/Lとなるよう添加して、撹拌しながら5分間反応させた。その後の操作は実施例1,2,3と同様の操作を行った。なお、凝集物汚泥体積割合測定は静置2.5分後と5分後に行った。それらの結果を、実施例5と合わせ表5にまとめた。
【0082】
(実施例10)
実施例1,2,3と同様のセレン含有水(原水1)500mLをビーカに用意し、ヒータにて加熱し、それぞれ70℃にまで加熱されたことを確認した後、セレン含有水中の鉄濃度が2000mg/Lとなるように塩化第一鉄を添加し、pHが7.4となるように水酸化ナトリウム溶液を各ビーカに添加し、撹拌しながら15分間反応させた(反応時のpHは7.4に保持)。次に、pHが8.5となるように水酸化ナトリウム溶液をビーカに添加し、撹拌しながら20分反応させた。なお、この反応時の温度もそれぞれ70℃であった。次に、ポリアクリルアミドを添加せずに、撹拌を停止、静置し、反応で生じた凝集物を沈殿させた。その後の、上澄み水の測定の操作等は実施例9と同様の操作を行った。それらの結果を、表5にまとめた。
【0083】
【表5】
【0084】
表5の結果から分かるように、実施例10では、上澄み水のセレンは0.1mg/L以下であったものの、凝集物汚泥の沈降がやや遅く、静置2.5分後の汚泥体積割合は、実施例5,9と比べて高かった。静置5分後では実施例5,9よりやや高かった。この結果から高分子凝集剤の添加が好ましいことが示された。
【0085】
(実施例11)
表1に示す水質を有する石炭火力発電所脱硫排水の凝集沈殿処理水(原水2)を用意した。総セレンを0.82mg/L含有し、このセレンはすべて6価セレンである。このセレン含有水を図2に示す装置に通水した。原水2は4L/hの流量で原水槽から熱交換器に通って、鉄反応槽に流入し槽内に送入されたスチームで55℃に加温された。なお、熱交換器を出た時点での原水2の温度は35℃であった。加温された原水に塩化第一鉄溶液が鉄濃度で300mg/L添加され、pH7.8に調整され、15分滞留した。次いで、再凝集槽に通水され、ここに水酸化ナトリウム溶液がpH8.5になるよう添加されて、15分滞留して反応した。次いで、高分子反応槽に通水され、ここでポリアクリルアミド溶液がポリアクリルアミド濃度で3mg/Lになるよう添加され、7.5分滞留して反応した。その後、スラッジブランケット型の沈殿槽(5L)に槽下部から上向流で通水され、ここで原水から凝集物が分離され、槽上部から越流した水が処理水となった。沈殿槽内では凝集物が滞留し、原水の流入と共に凝集物が増えてくると、槽中部にある汚泥引抜管に凝集物が落ちて溜まり、管内の凝集物が沈殿槽内凝集物と同等の高さまで溜まったら汚泥引抜管下部にあるバルブを開き、凝集物を汚泥として引き抜き、その体積を測定した。8時間連続で通水し、処理が定常に達した通水開始後7時間目の処理水質および、通水開始後7時間から1時間のうちに排出された汚泥体積を測定した。その汚泥体積を原水の流量に対する割合として表示し、それらの結果を表6にまとめた。
【0086】
【表6】
表6の結果から分かるように、上澄み水のセレンは上澄み水のセレンは0.1mg/L以下であり、鉄の残存もなかった。凝集物汚泥体積割合は2.1%であった。
【0087】
(実施例12)
実施例11と同じ装置で、沈殿槽の底部から凝集物を含む水をポンプで再凝集槽に移送するラインが設けられている。実施例11と同じ原水を4L/hの流量で通水し、沈殿槽の底部から凝集物を含む水を1L/hの流量で移送した。その他は実施例11と同じ反応条件で通水した。8時間連続で通水し、処理が定常に達した通水開始後7時間目の処理水質および、通水開始後7時間から1時間のうちに排出された汚泥体積を測定した。その汚泥体積を原水の流量に対する割合として表示し、それらの結果を表6にまとめた。
【0088】
表6の結果から分かるように、上澄み水のセレンは0.1mg/L以下であり、鉄の残存もほとんどなかった。凝集物汚泥体積割合は1.3%であり、実施例11より凝集物汚泥の体積が低減していた。すなわち、実施例12と実施例11との比較から、沈殿槽から凝集物を含む水を再凝集工程に返送することで、装置から排出される凝集物汚泥の体積が低減されることが確認された。
【符号の説明】
【0089】
1,3,5 セレン含有水処理装置、10 原水槽、12 鉄反応槽、14 再凝集槽、16 高分子反応槽、18 沈殿槽、20,22 ポンプ、24 ヒータ、26,28,30 撹拌装置、32,34 pH測定装置、36 原水ライン、38 還元処理水ライン、40 再凝集処理水ライン、42 粗大化処理水ライン、44 処理水ライン、46 汚泥ライン、48 移送ライン、50,56 アルカリ添加ライン、52 酸添加ライン、54 第一鉄塩添加ライン、58 高分子凝集剤添加ライン、60 熱交換器、62 スチーム供給ライン、64 高温アルカリ塩素処理装置。
図1
図2
図3