(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
クロロゲン酸類又はその塩を有効成分とする睡眠改善剤であって、睡眠改善が中途覚醒時間の短縮、睡眠効率の改善及び起床時の熟眠感の改善から選ばれる1以上の現象であり、クロロゲン酸類が3−カフェオイルキナ酸、4−カフェオイルキナ酸、5−カフェオイルキナ酸、3−フェルロイルキナ酸、4−フェルロイルキナ酸、5−フェルロイルキナ酸、3,4−ジカフェオイルキナ酸、3,5−ジカフェオイルキナ酸及び4,5−ジカフェオイルキナ酸である睡眠改善剤。
クロロゲン酸類又はその塩を有効成分とする睡眠改善用食品であって、睡眠改善が中途覚醒時間の短縮、睡眠効率の改善及び起床時の熟眠感の改善から選ばれる1以上の現象であり、クロロゲン酸類が3−カフェオイルキナ酸、4−カフェオイルキナ酸、5−カフェオイルキナ酸、3−フェルロイルキナ酸、4−フェルロイルキナ酸、5−フェルロイルキナ酸、3,4−ジカフェオイルキナ酸、3,5−ジカフェオイルキナ酸及び4,5−ジカフェオイルキナ酸である睡眠改善用食品。
【背景技術】
【0002】
良質な睡眠は、心身の健康を維持するための基盤である。近年、厚生労働省が実施した「最近1ヶ月の睡眠に関しての問題に関する調査(平成12年保健福祉動向調査の概況)」及び「平成23年度国民・健康栄養調査」では、「就床してもなかなか寝付けない」(入眠困難)、「朝起きても熟睡感がない」(熟眠感の欠如)、「朝早く目が覚めてしまう」(早朝覚醒)、「夜中に何度も目が覚める」(中途覚醒)といった諸症状を有する国民が多いことが示され、睡眠の質の改善が日本国民において取り組むべき重要な課題として掲げられている。
【0003】
一方、クロロゲン酸類は、植物においてはコーヒー豆やじゃがいも等に見出され、これまでに抗酸化作用、血圧降下作用等が報告されている(特許文献1)。
睡眠に関しては、ラットに、カフェイン、クロロゲン酸又はカフェ酸を単回投与したところ、カフェイン、クロロゲン酸及びカフェ酸は用量依存的に睡眠に入るまでの時間(睡眠潜時)が延長したこと、クロロゲン酸及びカフェ酸は覚醒時間、ノンレム睡眠時間に影響しなかったことが報告されている(非特許文献1)。
しかしながら、クロロゲン酸類の反復・連続投与が睡眠の質へ与える影響については知られていない。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明における「クロロゲン酸類」とは、3−カフェオイルキナ酸、4−カフェオイルキナ酸及び5−カフェオイルキナ酸のモノカフェオイルキナ酸と、3−フェルロイルキナ酸、4−フェルロイルキナ酸及び5−フェルロイルキナ酸のモノフェルロイルキナ酸と、3,4−ジカフェオイルキナ酸、3,5−ジカフェオイルキナ酸及び4,5−ジカフェオイルキナ酸のジカフェオイルキナ酸を併せての総称である。クロロゲン酸類の含有量は上記9種の合計量に基づいて定義される。
【0012】
クロロゲン酸類は、塩の形態でもよく、塩としては、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属塩、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の有機アミン塩、アルギニン、リジン、ヒスチジン、オルニチン等の塩基性アミノ酸塩等が挙げられる。
【0013】
クロロゲン酸類又はその塩は、これを含む植物の抽出物、その濃縮物又はそれらの精製物等を使用することができる。このような植物抽出物としては、例えば、ヒマワリ種子、リンゴ未熟果、生コーヒー豆、シモン葉、マツ科植物の球果、マツ科植物の種子殻、ジャガイモ、カンショ、サトウキビ、小麦、南天の葉、ゴボウ、ニンジン、キャベツ、レタス、アーチチョーク、トマト、モロヘイヤ、ナスの皮、ナシ、プラム、モモ、アプリコット、チェリー、ウメの果実、フキタンポポ、ブドウ科植物等から抽出されたものが挙げられる。なかでも、クロロゲン酸類含量等の点から、生コーヒー豆抽出物が好ましい。コーヒーの木の種類としては、アラビカ種、ロブスタ種、リベリカ種及びアラブスタ種のいずれでもよい。
生コーヒー豆抽出物は、カフェインを除去したものが好ましく、カフェインとクロロゲン酸類との質量比(カフェイン/クロロゲン酸類)が、風味の観点から0.05以下が好ましく、0.03以下がより好ましく、0.02以下が更に好ましい。なお、カフェイン/クロロゲン酸類の比の下限は特に限定されず、0であってもよい。
クロロゲン酸類又はその塩の抽出、濃縮、精製の方法・条件は特に限定されず、公知の方法及び条件を採用することができる。なかでも、アスコルビン酸水溶液、クエン酸水溶液又は熱水による抽出が好ましい。
また、クロロゲン酸類又はその塩の原料として市販のクロロゲン酸類含有製剤を使用してもよく、例えば、フレーバーホルダーRC(長谷川香料(株))、生コーヒー豆エキスP(オリザ油化社製)、スベトール(Nurex Inc.製)、OXCH100(東洋発酵社製)等が挙げられる。
【0014】
後記実施例に示すように、クロロゲン酸類は、中途覚醒時間の短縮、睡眠効率の改善及び起床時の熟眠感の改善作用を有する。従って、クロロゲン酸類は、睡眠の質を改善する睡眠改善剤となり得、睡眠改善剤として使用することができ、またかかる剤を製造するために使用することができる。
ここで、使用は、ヒト若しくは非ヒト動物への投与又は摂取であり得、また治療的使用であっても非治療的使用であってもよい。尚、「非治療的」とは、医療行為を含まない概念、すなわち人間を手術、治療又は診断する方法を含まない概念、より具体的には医師又は医師の指示を受けた者が人間に対して手術、治療又は診断を実施する方法を含まない概念である。
【0015】
本発明において、「睡眠改善」とは睡眠を質的に改善することを意味し、好ましくは中途覚醒時間の短縮、早朝覚醒の改善、睡眠効率の改善及び起床時の熟眠感の改善のうち1以上、好ましくは2以上の現象が観察されることを指す。
「中途覚醒」は入眠から起床に至るまでの間に目が覚める状態を指し、目が覚めた時間の積算時間を中途覚醒時間とする。
また、「早朝覚醒」は朝早く目覚めてしまい、まだ眠気があるにもかかわらず眠れない状態を指す。
また、「睡眠効率」は睡眠中における実質的な睡眠を意味し、睡眠中の中途覚醒を除いた睡眠時間(総睡眠時間)を、入眠から起床までの時間(総就床時間)で除した値である。従って、中途覚醒が多いと睡眠効率は低下する。
また、「熟眠感」は熟眠したという満足感を指し、熟眠感の欠如は、睡眠時間は十分なのに熟眠したという満足感がない状態で、目覚め時に睡眠不足を感じる状態を指す。
なお、本明細書において、「改善」とは、症状又は状態の好転、症状又は状態の悪化の防止又は遅延、あるいは症状の進行の逆転、防止又は遅延をいう。
【0016】
本発明の睡眠改善剤は、それ自体睡眠の質を改善するための医薬品、医薬部外品、食品又は飼料であってもよく、或いは当該医薬品、医薬部外品、食品又は飼料に配合して使用される素材又は製剤であってもよい。
当該食品には、睡眠の質的な改善をコンセプトとし、必要に応じてその旨を表示した食品、機能性食品、病者用食品、特定保健用食品、サプリメントが包含される。これらの食品は機能表示が許可された食品であるため、一般の食品と区別することができる。
【0017】
上記医薬品(医薬部外品も含む)の投与形態としては、例えば錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤等による経口投与、又は注射剤、坐剤、吸入薬等による非経口投与が挙げられる。また、このような種々の剤型の製剤は、本発明のクロロゲン酸類を単独で、又は他の薬学的に許容される賦形剤、結合剤、増量剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、嬌味剤、香料、被膜剤、担体、希釈剤、本発明のクロロゲン酸類以外の薬効成分等を適宜組み合わせて調製することができる。
これらの投与形態のうち、好ましい形態は経口投与である。
【0018】
上記食品の形態としては、清涼飲料水、茶系飲料、コーヒー飲料、果汁飲料、炭酸飲料、ゼリー、ウエハース、ビスケット、パン、麺、ソーセージ等の飲食品や栄養食等の各種食品の他、さらには、上述した経口投与製剤と同様の形態(錠剤、カプセル剤、シロップ等)の栄養補給用組成物が挙げられる。
【0019】
種々の形態の食品は、本発明のクロロゲン酸類又はその塩を単独で、又は他の食品材料や、溶剤、軟化剤、油、乳化剤、防腐剤、酸味料、甘味料、苦味料、香科、安定剤、着色剤、酸化防止剤、保湿剤、増粘剤、クロロゲン酸類以外の有効成分等を適宜組み合わせて調製することができる。
【0020】
また、飼料としては、ウサギ、ラット、マウス等に用いる小動物用飼料、犬、猫等に用いるペットフード等の飼料等が挙げられ、上記食品と同様の形態に調製できる。
【0021】
本発明の睡眠改善剤の投与量又は摂取量は、適宜決定され得るが、通常、成人(60kg)に対して1日あたり、本発明のクロロゲン酸類として、好ましくは50mg以上、より好ましくは200mg以上であり、また、好ましくは1000mg以下、より好ましくは700mg以下である。本発明では斯かる量を1回で投与又は摂取するのが好ましい。
【0022】
上記製剤は、任意の計画に従って投与又は摂取され得るが、就寝前に投与又は摂取するのが好ましく、就寝前60分以内に投与又は摂取するのがより好ましく、就寝前30分以内に投与又は摂取するのが更に好ましい。
投与又は摂取期間は特に限定されないが、反復・連続して投与又は摂取することが好ましく、3日間以上連続して投与又は摂取することがより好ましく、5日間以上連続して投与又は摂取することが更に好ましい。
【0023】
投与又は摂取対象としては、睡眠改善を必要とする若しくは希望するヒト又は非ヒト動物であれば特に限定されないが、専門的治療が必要ではないヒトにおける投与又は摂取が有効である。
【実施例】
【0024】
試験例1
(1)クロロゲン酸類として生コーヒー豆抽出物を使用し、下記表1に示す飲料(100mL/本)を調製した。
生コーヒー豆の粉砕物を熱水で抽出後、スプレードライ乾燥することにより調製したパウダーをエタノール水溶液に溶解させ、ろ過して得られたろ過液を活性炭およびイオン交換樹脂を用いたカラムで処理することで生コーヒー豆抽出物を得た。
このようにして得られた生コーヒー豆抽出物中のクロロゲン酸類(3−カフェオイルキナ酸、4−カフェオイルキナ酸、5−カフェオイルキナ酸、3−フェルロイルキナ酸、4−フェルロイルキナ酸、5−フェルロイルキナ酸、3,4−ジカフェオイルキナ酸、3,5−ジカフェオイルキナ酸及び4,5−ジカフェオイルキナ酸)の含量は20質量%であった。また、カフェイン/クロロゲン酸類の比は0.009であった。
なお、クロロゲン酸類とカフェインの定量にはHPLC(日立製作所(株)製)を使用した。HPLCでは、試料1gを精秤後、溶離液にて10mLにメスアップし、メンブレンフィルター(GLクロマトディスク25A,孔径0.45μm,ジーエルサイエンス(株))にて濾過後、分析に供した。
クロロゲン酸類の定量は、上述の9種のクロロゲン酸類の面積値から5−カフェオイルキナ酸を標準物質とし、質量%を求めた。また、カフェインの定量は、カフェインを標準物質とした以外はクロロゲン酸類と同様に実施した。
【0025】
【表1】
【0026】
(2)上記(1)で調製したクロロゲン酸類を配合した飲料と対照飲料を用いて、二重盲検のクロスオーバーデザインにより、睡眠状態の変化を比較検証する試験を行った。
エプワース眠気尺度のスコアが11〜15の健常男性16名を二つの群に分け(各群8名)、一方の群にはクロロゲン酸飲料を、もう一方の群には対照飲料をそれぞれ1本ずつ、13日間、毎日就寝前30分以内に摂取させた。1週間の休止期間の後、摂取させる飲料を交代し、各群には最初とは異なる飲料を同様に1本ずつ、13日間、毎日就寝前30分以内に摂取させた。飲料の摂取は日曜日の就寝前から翌々週の金曜日の就寝前の13日間とした。
エプワース眠気尺度は、日中の過度の眠気を主観的に評価するための8項目からなる質問票である(日本呼吸器学会雑誌, 2006; 44: 896-898)。
【0027】
(2)睡眠状態の評価
試験前半3日間及び試験後半3日間の就寝時に腕時計型の体動計(東芝体動計 NEM−T1)を装着し、付属の解析ソフトを用いて体動量の変化から中途覚醒時間及び睡眠効率を自動算出した。
【0028】
(4)熟眠感の評価
熟眠感は、視覚的アナログスケール(VAS)を用いた主観的手法により評価した。試験期間中毎日、起床後に用紙上に引かれた100mmの直線上で、左端の0mm(ぐっすり眠れた)から100mm(全く眠れなかった)の間で記入時の状態にもっとも当てはまると思える位置をマーキングさせた。直線上にマークされた位置を直線の左端を起点に測定した長さが短いほど熟眠感が良好であり、長いほど熟眠感が不良であることを示す。
【0029】
最終解析対象者15名の結果を
図1〜
図3に示した。統計は、paired t−testを用い、有意水準は*P<0.05、#P<0.1とした。
試験前半に対する試験後半の睡眠効率は、対照飲料群では有意に低下しているのに対し(
図1)、クロロゲン酸飲料群はその低下が抑制されていた。また試験前半に対する試験後半の中途覚醒時間においても、対照飲料群では有意に増加しているのに対し、クロロゲン酸飲料群ではその増加が抑制されていた(
図2)。
【0030】
VASによる試験期間中の熟眠感の変化より、飲料摂取開始後、最初の1週間までは起床時の熟眠感の変化はクロロゲン酸飲料群と対照飲料群の両群で大きな差は認められなかった(
図3)。しかし、飲料摂取開始2週目の週末にかけては、対照飲料群に対しクロロゲン酸飲料群では熟眠感の悪化が有意に抑えられており(2週目火曜日及び木曜日:p<0.1)、2週目水曜日及び金曜日では統計的に有意な差(p<0.05)が認められた(
図3)。
【0031】
試験例2
(1)クロロゲン酸類として上記試験例1と同じ生コーヒー豆抽出物を使用し、下記表2に示す飲料(100mL/本)を調製した。
【0032】
【表2】
【0033】
(2)上記(1)で調製したクロロゲン酸類を配合した飲料と対照飲料を用いて、漸増デザインにより、睡眠状態の変化を検証する試験を行った。
エプワース眠気尺度のスコアが8〜18の健常男性10名に対して、最初の7日間は対照飲料を、毎日1本ずつ、就寝前30分以内に摂取させ、次の7日間はクロロゲン酸飲料を同様に摂取させた。飲料の摂取は土曜日の就寝前から翌週の金曜日の就寝前の7日間とした。
【0034】
上記試験例1と同様に熟眠感の評価を行った。
結果を
図4に示した。統計は、paired t−testを用い、有意水準は**P<0.01とした。
クロロゲン酸飲料群では、飲料摂取開始5日から7日後(水曜日から金曜日)の起床時の熟眠感の悪化が、対照飲料群に対し有意に抑えられた(
図4)。
これらの結果より、クロロゲン酸類の就寝前摂取により睡眠の質が改善することが確認された。