(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記反応後研磨液を得る工程は、前記使用後研磨液中にMg、Ca、Sr、Baから選ばれた少なくとも1つの元素の塩を添加する工程であることを特徴とする請求項1に記載されたガラス研磨方法。
前記ガラスのAlの含有率と、前記ガラスの研磨レートと、前記ガラスの累積研磨枚数と、研磨に用いたのべ研磨液量から、前記使用後研磨液中のAl濃度を算出する工程を含むAl濃度算出工程を有し、
前記塩は前記Al濃度比でモル当量以下の量を添加することを特徴とする請求項2乃至4の何れか1の請求項に記載されたガラス研磨方法。
前記固液分離部は、凝集剤添加部が接続され前記反応後研磨液が移される沈殿槽と、前記沈殿槽の上澄み液をろ過するフィルタで構成されたことを特徴とする請求項8または9の何れかの請求項に記載されたガラス研磨装置。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下本発明に係るガラスの研磨方法および研磨装置について説明する。なお、以下の説明は本発明の一実施形態を示すものであり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、以下の実施形態および実施例は改変されてもよい。
【0022】
(実施の形態1)
本発明のガラス研磨方法および装置が研磨対象とするのは、アルミノホウケイ酸塩ガラスである。より具体的には、SiO
2を主体として、Al
2O
3、B
2O
3、BaO、CaO、MgO、Na
2O、SrOを含み、高い引張強度と高い軟化点を有する強度ガラスである。アルミニウムを含むガラスであるといってよい。以下「Al含有ガラス」ともいう。研磨液は、フッ化水素酸を主として、塩酸、硝酸、硫酸といった無機酸が含まれる。加えて、界面活性剤、消泡剤、キレート剤等の添加剤が含まれる場合もある。
【0023】
アルミノホウケイ酸塩ガラスを研磨した際に発生するスラッジは、アルミノホウケイ酸塩ガラス中の元素と、研磨液中のフッ化水素酸由来のフッ素が結合した錯体のうち、研磨液中から析出した物質である。本願の発明者は、アルミノホウケイ酸塩ガラスを研磨した際に発生するスラッジは、SrとAlとFの化合物(Sr−Al−F析出物)と、CaとAlとFの化合物(Ca−Al−F析出物)と、MgとAlとFの化合物(Mg−Al−F析出物)およびBaとAlとFの化合物(Ba−Al−F析出物)であることを確認した。
【0024】
そして研磨液の循環中において、使用後研磨液からこれらの化合物の発生原因であるAl−F錯イオンを除去することで、被研磨物であるガラスの表面や、研磨装置の各部においてスラッジの発生を抑制できることを見出し、本発明を想到するに到った。以下検討の流れを示しながら、本発明の原理を説明する。その後、本発明に係るガラス研磨方法とガラス研磨装置の構成について説明する。
【0025】
<スラッジ組成の確認>
スラッジの成分は、アルミノホウケイ酸塩ガラスを循環使用する研磨液で研磨し、研磨液中に析出したスラッジを分析することで確認した。
図1には、アルミノホウケイ酸塩ガラスの研磨装置の構成を示す。これは従来のガラス研磨装置といってもよい。研磨装置100は、ガラスを移送させる移送手段124と、研磨液を貯留する貯留部112と、貯留部112から研磨液を吸引し、ガラスに吹き付け、研磨を行うシャワー部114を有する。
【0026】
シャワー部114は、貯留部112から移送手段124まで研磨液を送液するための配管114bと、ポンプ114pを含む。シャワー部114のノズル116は、貯留部112の上方に設けられ、ガラスに吹き付けられた研磨液はそのまま貯留部112に落下する。このように構成することで、研磨液は循環的に使用される。
【0027】
ガラスを研磨することで、貯留部112の研磨液にはスラッジが発生する。そのスラッジはフィルタ114fでろ過され、大部分は研磨液から除去される。このフィルタ114fで回収したスラッジは、乾燥させると白い粉末状を呈した。この粉末状のスラッジの組成を、ICP発光分析法、イオンクロマトグラフィーによって、定量測定を行った。
【0028】
その結果、質量%換算でF(フッ素)とSr(ストロンチウム)で60質量%以上を占め、Al(アルミニウム)が約13質量%、Ca(カルシウム)とMg(マグネシウム)がそれぞれ約6質量%であった。一方、アルミノホウケイ酸塩ガラスの組成と比較すると、Ba(バリウム)とSi(シリコン)はごく微量であり、B(ホウ素)およびNa(ナトリウム)は全く検出できなかった。
【0029】
通常、スラッジの成分としてはフッ化物(AlF
3、SrF
2、CaF
2、MgF
2等)を疑うが、研磨液はフッ化水素酸に加えて無機酸を含有しており、極めて酸性度が高い(=pHが低い)ため、フッ化水素酸の、下記錯体以外の存在形態は、HF、H
2F
2、HF
2−が主であると考えられる。つまり、フッ化物生成の原因である、F
−の存在量は極めて低い環境であるゆえ、フッ化物の析出は起こりにくいと結論付けられる。
【0030】
Siは、アルミノホウケイ酸塩ガラスの主成分であるにも関わらず、スラッジ中にはほとんど見いだせなかった。また、アルミノホウケイ酸塩ガラスの主要な添加物の1つであるBは全くスラッジ中に検出できなかった。これらのことから、SiおよびBは、Si−F錯体(ケイフッ化物イオン、SiF
62−)およびB−F錯体(ホウフッ化物イオン、BF
4−)として研磨液中に液相で存在すると考えられた。Alは、Al−F錯体(フルオロアルミネートイオン、AlF
63−、AlF
52−、AlF
4−など)として液相で存在することが知られている。
【0031】
しかし、スラッジ中にAl成分が高濃度で検出された。このことから、スラッジは、Al−F錯体が、Sr、Ca、Mg、Baといった2価元素と結合し、固化したものと結論される。なお、Baはスラッジ中に微量が検出されたが、元々アルミノホウケイ酸塩ガラス中の組成比も微量であったので、ほぼ全量が固化したと言える。
【0032】
スラッジは、Sr、Ca、Mg、BaとAl−F錯イオンが結合して発生する。したがって、Al−F錯イオンが研磨液中に存在する限り、研磨されるガラスの表面でもスラッジは発生する。アルミノホウケイ酸塩ガラス中のこれらの元素と反応するからである。すなわち、発生したスラッジを除去するだけでは、研磨装置や配管の中でのスラッジの生成を抑制できない。また、研磨されるガラスの表面上でのスラッジの発生も抑制できない。したがって、アルミノホウケイ酸塩ガラスの研磨において、ガラス表面に発生するスラッジを抑制するためには、研磨液中からAl−F錯イオン自体を除去しなければならない。
【0033】
スラッジは、Al−F錯イオンとSr、Ca、Mg、Baといった2価の元素が結合して生じる。そこで本発明の発明者は、研磨に使用された後の研磨液(以後「使用後研磨液」と呼ぶ)に、2価の金属イオンを積極的に添加しスラッジを発生させ、そのスラッジを除去することでこれらの元素を除去することができると考えた。この手法を、研磨装置外に導入すれば、スラッジの発生場所を、従来の研磨装置内から研磨装置の外に出すことができ、結果的に、研磨装置内のスラッジ濃度を大幅に低減することが可能となる。
【0034】
つまり、本発明のポイントは、使用後研磨液中で積極的にスラッジを発生させ、発生したスラッジを除去することで、研磨液中のAl−F錯イオン自体を除去する点にある。なお、ここで「除去」とは、Al−F錯イオンを固化し、分離することを含む。
【0035】
使用後研磨液中に積極的にスラッジを発生させることができることを、以下のようにして確認した。
図1で示した研磨装置100で得た使用後研磨液に、MgCl
2水溶液、CaCl
2水溶液、SrCl
2水溶液、BaCl
2水溶液を濃度を変えながら添加した。そして23℃の温度状態で、1時間攪拌反応を行った。反応後の研磨液を反応後研磨液と呼ぶ。得られた反応後研磨液を遠心分離し、固形分(スラッジ)を分離させ、上澄み中のAl濃度をICP発光分光分析(Inductively Coupled Plasma
Atomic Emission Spectrometry:以下「ICP−AES」)によって調べた。
【0036】
そして、各水溶液を添加しなかった時のAl濃度をモルベースで100%として、Al除去率を求めた。結果を
図2に示す。なお、Alの除去率は、Al−F錯イオンが除去されたものであると言える。また、反応後研磨液からスラッジを除去した研磨液を再生研磨液と呼ぶ。
【0037】
図2を参照して、横軸は2価元素添加濃度(mmol−Metal/L)であり、縦軸はAl除去率(mol%)を示す。Mg、Ca、Sr、Baのいずれの2価元素でも使用後研磨液中のAlを除去できることがわかった。また、これら4つの元素中、Mgの除去率が最も高いことがわかった。つまり、使用後研磨液にMgCl
2を入れた時に最も多くのスラッジを発生させることができる。
【0038】
なお、使用後研磨液にMgCl
2を添加して生成させたスラッジを蒸留水で遠心洗浄し、23℃で乾燥させ、XRD(X‐Ray Diffraction)で調べたところ、MgAlF
5・1.5〜2H
2Oであった。XRDのプロファイルを
図3に示す。なお、
図3を参照して、横軸は2θ(°)であり、縦軸はカウント数である。
【0039】
また、他の元素についても同様にXRDで調べたところ、AlおよびFとの化合物であることが分かった。このことから、スラッジは、SrとAlとFの化合物(Sr−Al−F析出物)と、CaとAlとFの化合物(Ca−Al−F析出物)と、MgとAlとFの化合物(Mg−Al−F析出物)およびBaとAlとFの化合物(Ba−Al−F析出物)であると確認できた。
【0040】
<スラッジを除去した研磨液>
次に使用後研磨液中に、強制的にスラッジを生成させ、Al−F錯イオンを除去した研磨液(再生研磨液)を研磨に使用した時の、スラッジ発生量を検証した。使用後研磨液(アルミノホウケイ酸塩ガラスが約180g/L溶解したもの)にMgCl
2水溶液を添加し、23℃で1時間攪拌反応させ反応後研磨液を得た。反応後研磨液を遠心分離し、上澄み液(再生研磨液)のAl濃度をICP−AESで測定した。次に再生研磨液50mLに対して、アルミノホウケイ酸塩ガラス(2.5cm×5cm)を含浸し、40℃10分の条件で研磨を行った。
【0041】
研磨後のガラスの重量を測定し、ガラスの溶解度を測定した。そして、研磨に用いた使用後研磨液を1μmフィルタ(PTFE:ポリテトラフルオロエチレン)でろ過し、スラッジを捕捉し、スラッジ発生量を測定した。
【0042】
結果を表1に示す。表1を参照して、1行目には、Al除去処理工程とガラス研磨工程の2つのカテゴリを示した。Al除去処理工程で、処理条件とは、使用後研磨液に添加したMgCl
2の量(mg−Mg/L)と反応温度を示す。また、処理液の組成とは、再生研磨液中のAl量と添加したMg量および研磨液中の全フッ素量を測定したものである。
【0043】
一方、ガラス研磨工程で、研磨条件とは、再生研磨液を用いた40℃10分の条件の研磨によって、研磨されたガラス量(ガラス研磨量)と、研磨温度(℃)を示す。また、スラッジ発生量とは、発生したスラッジの総重量(g)と、スラッジ重量をガラスの単位重量あたりに換算したものである。
【0045】
表1のAl除去処理工程を参照して、MgCl
2を増やすと、Alの残量はそれに従って減少していくことがわかった(「処理液の組成」でAlおよびMgの欄参照)。一方、スラッジの発生量(ガラス研磨工程参照)はMgCl
2を添加すると、添加していない状態(総重量0.291g)から、一度減少する(総重量0.09g)。しかし、その後スラッジ量は増加する(総重量0.133g、0.225g、0.388g)。すなわち、MgCl
2を増やせばAl−F錯イオンを除去することができるが、入れすぎると却ってスラッジの発生を助長させることになることがわかった。
【0046】
これは、残存するAl−F錯イオンよりMgイオンが過剰になったためであると考えられた。これを確認するため、以下の手順で実験を行った。使用後研磨液にMgCl
2を添加し、40℃で1時間攪拌反応を行った。次に反応液(これを「反応後研磨液」と呼ぶ。)を遠心分離し、上澄み液(再生研磨液)中の、Mgイオン濃度を測定した。この結果、を
図4に示す。
図4では横軸がMgCl
2添加量(mol−Mg/mol−Al)を表し、縦軸は再生研磨液中のMg残留濃度(mg/L)を表す。
【0047】
図4を参照して、MgCl
2添加量が増加し、使用後研磨液中のAlの濃度とモル当量以上(横軸の点線で示した1.0より紙面で右側)になると、再生研磨液中のMg残留濃度が直線的に高くなることが分かった。すなわち、Al−F錯イオンを除去するためには、使用後研磨液中のAl濃度と当量のMgイオンを添加しなければならない。Al−F錯イオンよりも過剰のMgイオンの存在は、却ってスラッジの発生を増やすことになるからである。
【0048】
再生研磨液中のMgイオンを残留させないようにした場合の効果について確認をおこなった。使用後研磨液にMgCl
2水溶液の濃度が異なるものを添加し、40℃で1時間攪拌反応させる。反応後の溶液を遠心分離して得られたろ液(再生研磨液)のAl濃度、Mg濃度、およびフッ素濃度を測定した。
【0049】
この再生研磨液にそれぞれ、研磨液1Lに対してガラス、55g、117g、190g相当のガラス成分(Sr、Ca,Mg、Baをアルミノホウケイ酸塩ガラスの組成比にほぼ合わせた割合、全て塩化物を用いて調合)を投入し、40℃で1時間静置した。これは、Alの残量の異なる再生研磨液で、アルミノホウケイ酸塩ガラスを研磨することをシミュレートした実験である。
【0050】
ガラス成分を投入した再生研磨液中にはスラッジが生じているので、1μmのフィルタ(PTFE)で捕集し、スラッジ発生量を測定した。結果を表2に示す。表2では、Al除去処理工程とガラス成分添加工程の2つに大きく分けて示した。Al除去処理工程で、処理条件には、使用後研磨液に添加したMgCl
2の量(mg−Mg/L)と反応温度を示す。また、処理液の組成とは、使用後研磨液にMgCl
2を添加して得た再生研磨液中のAl量とMg量および研磨液中の全フッ素量を測定したものである。
【0051】
一方、ガラス成分添加工程で、スラッジ発生量(mg/L)とは、55(g−Glass/L)、117(g−Glass/L)、190(g−Glass/L)相当のガラス成分を投入し、得ることのできたスラッジ発生量である。
【0052】
Al除去処理工程を見ると、処理条件の欄のMgの添加濃度が高くなるに従って、処理液の組成の欄の再生研磨液中のAlの濃度は減少していく。一方処理液の欄のMgの濃度は殆ど変化がなく、処理条件の欄のMgCl
2の添加量が2441(mg−Mg/L)の時に40(mg/L)に増加している。これは、
図4で横軸のMgCl
2添加量が1.0付近の状態にあると考えられる。
【0053】
次にガラス成分添加工程の欄を見る。ここでは、表を横方向に見るとガラス成分の添加量が増える。例えば、数値が記載されている最上行は、Al除去処理工程でMg添加量が0(ゼロ)の再生研磨液に、55g、117g、190g相当のガラス成分を入れた時のスラッジ発生量が記載されている。同様に数値が記載されている再上行の直下の行は、Mg添加量が412(mg−Mg/L)であった時の再生研磨液に、55g、117g、190g相当のガラス成分を入れた時のスラッジ発生量が記載されている。
【0054】
Mgの添加量がゼロの場合と比較すると、Mgを412(mg−Mg/L)添加し、スラッジを強制的に発生させてそれを除去しているので、再生研磨液中のAl−F錯イオン濃度が減少している。そのため、スラッジ発生量は、Mgの添加量がゼロの場合と比較し、少なくなっている。表2のMgの添加量毎に、再生研磨液中に発生するスラッジ発生量(濃度)と添加したガラス成分添加量との関係を
図5に示す。
【0055】
図5を参照して、横軸はガラス成分添加量(g−Glass/L)を示し、縦軸は、スラッジ発生濃度(mg/L)を示す。複数の折れ線は、MgCl
2添加量が、0(なし):A、412(mg−Mg/L):B、948(mg−Mg/L):C、1724(mg−Mg/L):D、2441(mg−Mg/L):Eの場合を示す。
【0056】
明らかに、MgCl
2の添加量が多くなる(
図5で「折れ線A」から「折れ線E」)に従ってスラッジの発生量は減少している。そして、MgCl
2の添加量が多くなるに従ってスラッジ発生量が増加する領域はない。これは
図4でMgCl
2添加量が1.0付近の状態でMgCl
2量を制御しているからである。つまり、使用後研磨液中のAlの濃度とモル当量以下のMgCl
2を添加することで、再生研磨液中に余分なMgが残ることがない。したがって、スラッジの発生は抑制されることになる。
【0058】
さて、Al−F錯イオンを除去した再生研磨液は、スラッジが発生しにくい研磨液である。しかし、このように処理を行った研磨液が実際の使用に耐えるのかどうかを確認する必要がある。そこで以下の実験を行った。使用後研磨液にMgCl
2水溶液を添加し、40℃で1時間攪拌反応を行う。遠心分離して得られたろ過液(再生研磨液)のAl濃度を測定した。そして、再生研磨液50mLに対してガラス(2.5×5cm)を含浸し、研磨レートを測定した。なお、MgCl
2の代わりに、超純水を入れたもの(コントロール)も作成した。結果を表3に示す。
【0060】
MgCl
2の添加量が増えるに従い(「Mg濃度」欄参照)、再生研磨液中のAl濃度は下がる(「Al」欄参照)。一方、研磨レートもMgCl
2水溶液の添加量に従って下がった。しかし、超純水を添加したものも同じように研磨レートは下がった。つまり、この研磨レートの減少は、MgCl
2の添加が原因ではなく、研磨液自体が希釈されたと判断できた。
【0061】
しかも、再生研磨液中のAl濃度が15mg/Lまで低下させても、研磨レートは13.80μm/min以上あった。一般に量産に使用するには、12μm/min以上が目安と言われているので、量産の現場でも十分使用できる研磨レートであると言える。
【0062】
以上の実験より、MgCl
2の添加によってスラッジを強制的に生成させ、Al−F錯イオンを減少させた研磨液は十分に再度研磨液として使用できることが確認できた。
【0063】
<凝集剤>
Al−F錯イオンを減少させた研磨液中からスラッジを除去することで、再生研磨液を得ることができる。しかし、反応後研磨液中のスラッジは、微粒子のものが多い。従って、フィルタだけでこれを除去すると、フィルタが短時間で目詰まりを起こす。微細なスラッジを凝集させ大きな塊とすることができれば、フィルタの交換時期を延ばすことができる。また、短時間で沈殿させることも可能になる。沈殿によって、固液分離ができれば、フィルタへの負荷も軽くなり、経済的である。そこで、以下のようにして、反応後研磨液中のスラッジの凝集剤の効果について確認を行った。
【0064】
まず、使用後研磨液にMgCl
2水溶液を、Al−F錯イオンと等モル相当の量を添加し、40℃に保って1時間攪拌反応を行った。この反応後研磨液には、これまで通りスラッジが発生した。この反応後研磨液に、アニオン系凝集剤としてポリアクリル酸ナトリウム系重合体(MTアクアポリマー株式会社製のアコフロック A−190)、ノニオン系凝集剤としてポリアクリルアミド(MTアクアポリマー株式会社製のアコフロック N−100S)、カチオン系凝集剤としてポリアクリル酸エステル系重合体(MTアクアポリマー株式会社製のアロンフロック C−508)をそれぞれ5ppmの濃度になるように添加し、1分間攪拌した後静置した。
【0065】
10分後に目視で観測したところ、アニオン系凝集剤と、カチオン系凝集剤は、大きな変化はなかった。しかし、ノニオン系凝集剤であるポリアクリルアミドでは、スラッジが沈殿し、透明な上澄みが得られた。これより、ノニオン系の凝集剤を反応後研磨剤に添加すれば、固液分離の際に沈殿で大量のスラッジを除去できることがわかった。
【0066】
<ガラス研磨装置>
以上の検討に基づき、本発明に係るガラス研磨装置の構成を
図6に示す。本発明のガラス研磨装置1は、被研磨物90を移送する移送手段24を有する研磨槽10と、被研磨物90を研磨する研磨部13と、研磨液を貯留する貯留部12と、Al−F錯体除去装置21と、固液分離部25と、再生研磨液タンク32を含む。また、新液供給部35を有していてもよい。
【0067】
被研磨物90の構造を
図7(a)に示す。被研磨物90は、2枚のアルミノホウケイ酸塩ガラス等のアルミニウムを含有するガラス部91a、91bで液晶94を挟持した液晶表示デバイスである。また、液晶表示デバイスに限定されることなく、少なくとも1面にアルミニウム含有ガラスが用いられていればよい。
【0068】
被研磨物90の端部はシールド93によって、液密に封止されている。
図7(b)には、被研磨物90のガラス部91a、91bを研磨した状態を示す。ガラス部91a、91bは、研磨により薄くなっている。このようにガラス部91a、91bを薄くすることで、被研磨物90の重量は軽くなる。
【0069】
図6を再度参照して、被研磨物90は移送手段24によって研磨槽10中を通過する。移送手段24は、被研磨物90を移送することができれば、特に限定されるものではない。被研磨物90の縁を支持するローラーコンベアや、被研磨物90を吊り下げるフックを有するチェーンコンベア等が好適に利用される。特に、被研磨物90のガラス部の両面を曝した状態で移送できれば、好ましい。研磨液を両側から噴射することで、両面を一度に研磨することができるからである。
【0070】
研磨槽10は、耐腐食性を有する素材で形成された箱型容器で、移送手段24のための入口10iと出口10oが設けられている。研磨槽10はできるだけ密閉されるのが望ましい。研磨液には、フッ化水素酸等の腐蝕性の高い溶液が使われているからである。
【0071】
研磨槽10中には、研磨液を貯留する貯留部12と、研磨液を被研磨物90に噴射するためのシャワー部14が設けられる。シャワー部14は、貯留部12中の研磨液を汲み上げて、被研磨物90に噴射する。そこで、シャワー部14は、貯留部12の底に吸入口14biを有する配管14bと、配管14bが連通する研磨液ポンプ14pと、研磨液ポンプ14pの送液口に連結された配管14aと、配管14aから分岐する枝管14aaおよび14abと、ぞれぞれの枝管14aa、14abに設けられたノズル16a、16bを含む。
【0072】
少なくとも吸入口14biと、枝管14aa、14abおよびノズル16a、16bは、研磨槽10の内部に設けられる。研磨液を被研磨物90に噴射することで、被研磨物90は研磨され、Al含有ガラスの厚みが薄くなる。つまり、シャワー部14は、研磨部13であると言える。
【0073】
貯留部12は、シャワー部14のノズル16a、16bから被研磨物90に噴射された後に、落下する研磨液(使用後研磨液)を受ける容器である。落下する使用後研磨液を受けるので、上方に開口部を有し、シャワー部14の下方に配置される。なお、一般に研磨は加温された研磨液を用いて実施されることが多く、貯留部12に加温装置を設置し、所定の温度に調整される。
【0074】
貯留部12は、吸入口14bi以外に排水口18aを有する排水管18が配置されている。なお、排水管18にはバルブ18bが配置されている。排水管18には、Al−F錯体除去装置21が接続される。Al−F錯体除去装置21は、貯留部12に溜まった使用後研磨液中のAl−F錯体にMg、Ca、Sr、Baの少なくとも1つの元素を有する塩を添加して、強制的にスラッジを生成させ、使用後研磨液からAl−F錯体を除去する装置である。
【0075】
Al−F錯体除去装置21は、反応槽20と、Al除去金属塩添加部22を含む。また、Al除去金属塩添加部22は、金属塩タンク22aと、反応槽20まで連通する配管22bと、配管22bの途中に設けられたバルブ22cを含む。
【0076】
排水管18は、Al−F錯体除去装置21の反応槽20に連通されている。また、反応槽20には、金属塩タンク22aからの配管22bも連通している。また、反応槽20には、攪拌機20aが備えられる。また、反応槽20には温度調節手段20cが備えられてもよい。
【0077】
温度調節手段20cは、反応槽20の周囲に設けられたウォータージャケットと、図示しないウォータージャケット内に設けられた加熱器と温度調節装置で構成される。つまり、ウォータージャケットで反応槽20全体を所定の温度に維持する。反応槽20中には、腐食性の強いフッ化水素酸を多量に含有する研磨液が注入される。したがって、温度計は設置しにくいからである。
【0078】
Al−F錯体除去装置21の下流には、固液分離部25が設けられている。固液分離部25は、簡単にはフィルタ28でよい。しかし、凝集剤添加部26とフィルタ28にすれば、よりフィルタ28が目詰まりを起こし難く好ましい。
【0079】
凝集剤添加部26は、反応槽20からの送液管20bと連通する凝集槽26dと、凝集剤タンク26aと、凝集剤タンク26aと凝集槽26dを連通する送液管26bと、送液管26b中に設けられたバルブ26cを含む。凝集槽26dには、攪拌機26mが備えられてもよい。また、凝集剤添加部26には、沈殿槽27が備えられてもよい。沈殿槽27の一例は、底部で貫通する仕切り27aが設けられた容器若しくはタンクである。
【0080】
一方の区画に凝集槽26dからの送液管26eが連通され、他の区画から下流方向への送液管27bが連通される。沈殿槽27にてスラッジが自然沈降した上澄みは、下流方向への送液管27bを介して、フィルタ28に連通する。このフィルタ28は、フィルタプレス、バッグフィルタ等が用いられ、ろ材は、PTFE、PPといった、耐腐食性の高い材質でできたものが用いられる。
【0081】
なお、Al−F錯体除去装置21の下流に、直接フィルタ28が配設されてもよい。つまり固液分離部25をフィルタ28だけで構成してもよい。この場合は、Al−F錯体除去装置21の反応槽20の下流側送液管20bは、フィルタ28と直接連通する。
【0082】
フィルタ28の下流には、送液管28aを解して再生研磨液タンク32が設けられる。再生研磨液タンク32は、Al−F錯体が除去された研磨液(再生研磨液)を貯留するタンクである。再生研磨液タンク32からは、貯留部12まで、戻り配管32aが接続される。戻り配管32aには、循環ポンプ34が備えられている。
【0083】
また、貯留部12には、フッ化水素酸溶液の新液を供給する新液供給部35が備えられている。新液供給部35は、フッ化水素酸供給部36と、無機酸供給部38が別々に備えられていてもよい。フッ化水素酸供給部36は、研磨液にフッ化水素酸を供給する。フッ化水素酸タンク36aと配管36bと、バルブ36cを含む。また無機酸供給部38は、塩酸、硝酸、硫酸といった酸性の無機酸を研磨液に供給する。なお、フッ化水素酸若しくは無機酸を別々に供給しても、どちらか一方だけを供給しても、新液を供給すると言って良い。
【0084】
ガラス研磨装置1には、制御部50が備えられていても良い。制御部50は、ガラス研磨装置1の運転を制御するために備え付けられる。制御部50は、研磨液ポンプ14pと、循環ポンプ34と、各種バルブの開閉を制御する。また、被研磨物90の処理枚数、ノズル16a、16bから噴出される研磨液の量等から、貯留部12中の使用後研磨液中のAl−F錯体の量を算出できるようにするのが望ましい。
【0085】
研磨液は腐食性の強い溶液であるので、使用後研磨液中のAl−F錯体を直接測定することは極めて困難となる場合が多い。したがって、予め調べておいた研磨レートに基づいて、使用後研磨液中のAl−F錯体の濃度を算出するのが好ましい。
【0086】
なお、
図6では、制御部50は、制御対象のポンプおよびバルブ等に対する信号送信線を代表して一点鎖線で表し、処理枚数等のデータの入力を代表して二点鎖線で示した。処理枚数は、実際に処理した枚数をカウントしてもよいし、移送手段24の移送時間若しくは移送距離を参照してもよい。
【0087】
以上のような構成を有するガラス研磨装置1の動作について説明する。初め研磨液(新液)は、貯留部12に注入される。ガラス研磨装置1が稼動を始めると、被研磨物90が、移送手段24によって、研磨槽10内に移送されてくる。研磨槽10内に移送されてきた被研磨物90には、ノズル16aおよび16bから研磨液が噴射される。噴射された研磨液は、被研磨物90のガラス部91a、91bにあたり、ガラス部91a、91bを研磨(エッチング)する。
【0088】
ガラス部を研磨した研磨液は、そのまま貯留部12に落下する。ガラス部を研磨した研磨液には、ガラス成分が溶解している。これはガラス成分が溶解した研磨液は、使用後研磨液である。使用後研磨液には、既述したように、Al−F錯イオンを初め、ガラスの各成分元素が含まれている。
【0089】
貯留部12に落下した使用後研磨液は、吸入口14biから配管14bを流れ、研磨液ポンプ14pで加圧される。その後配管14aを流れ、枝管14aa、14abを通り、再びノズル16a、16bから被研磨物90に噴射される。このように使用後研磨液は循環して使用される。なお、貯留部12中の研磨液は、使用後研磨液が混入した後は、使用後研磨液と呼んでよい。
【0090】
使用後研磨液は循環して使用される間に、Al−F錯イオンの量が増加する。すでに述べたようにAl−F錯イオンの存在は、スラッジの生成の原因となる。したがって、一定の枚数の被研磨物90を研磨したら、バルブ18bを開き、貯留部12中の使用後研磨液を貯留部12中の排水口18aから排水管18を通じて、Al−F錯体除去装置21の反応槽20に送液する。一方、貯留部12には、循環ポンプ34によって、再生研磨液タンク32中の再生研磨液が注入されてもよい。また、新液が供給されても良い。
【0091】
反応槽20に送液された使用後研磨液には、Al除去金属塩添加部22から所定量の金属塩水溶液が添加される。利用される金属塩は、Mg、Ca、Sr、Baから選ばれた少なくとも1種の元素の塩であり、塩化物、硝酸塩、硫酸塩などが利用できる。特に研磨液中に含まれた無機酸による塩が望ましい。例えば、研磨液中に含まれる無機酸が塩酸の場合は、塩化物(MgCl
2)、硫酸の場合は硫化物(MgSO
4)、硝酸の場合は硝化物(Mg(NO
3)
2)である。研磨液中に含まれる無機酸と同じ塩を使用することで、研磨に与える影響が少なくなるからである。また、研磨液に複数の無機酸が含まれる場合は、同じ無機酸による塩を用いてもよい。すなわち、金属塩水溶液には、複数の無機酸による塩が含まれていてもよい。
【0092】
反応槽20に添加される金属塩水溶液の量は、反応槽20に導入される使用後研磨液中のAl−F錯イオン濃度が分かれば算出することができる。制御部50は、この金属塩水溶液の量を算出し、Al除去金属塩添加部22を制御し、適量の金属塩水溶液を反応槽20中に添加する。
【0093】
使用後研磨液中のAl−F錯イオン濃度の算出は、ガラス研磨装置1およびAl−F錯体除去装置21の運転方法によって適宜決めてよい。基本的には、以下の原理に基づく。使用後研磨液のAl−F錯体濃度は、貯留部12中の研磨液濃度である。したがって、Al−F錯体除去装置21に導入する時点の貯留部12中の使用後研磨液のAl−F錯体濃度が算出できればよい。
【0094】
貯留部12中の使用後研磨液のAl−F錯体濃度は、使用する研磨液と被研磨物90の組成で決まる研磨レートと、被研磨物90のAl組成比と、被研磨物90の処理枚数と、新液供給部35(フッ化水素酸供給部36及び無機酸供給部38)により供給される研磨液の新液量と、再生研磨液タンク32から供給される再生研磨液の量から算出することができる。
【0095】
従って、制御部50は、反応槽20に移された研磨液量と、研磨レートと、被研磨物90(ガラス)のAl含有量と、処理枚数(研磨量)と、再生研磨液の供給量に基づいて反応槽20中に投入する金属塩溶液量(金属塩量)を算出すると言える。また、新液が投入されている場合は、新液供給量をパラメーターとして加えても良い。なお、処理枚数(研磨量)は累積研磨枚数であってもよい。また、Al−F錯体濃度の算出は、Al濃度を算出する工程と呼んでもよい。
【0096】
Al除去金属塩添加部22は、算出されたAl−F錯イオン濃度より、Alの等モル以下の金属塩を、金属塩タンク22aから配管22bを介して、反応槽20に添加する。これは、制御部50が、バルブ22cを制御することで行ってもよいし、ポンプ(図示せず)を制御することで行っても良い。その後、反応槽20を攪拌機20aで攪拌しながら反応させる。反応時間は約10分程度である。
【0097】
この反応で、使用後研磨液中のAl−F錯イオンのほとんどは、スラッジとなる。また、金属塩として添加された金属イオンは、研磨液中にほとんど残留しない。このように、使用後研磨液中のAl−F錯イオンを2価の金属イオンと反応させ、強制的にスラッジを生成させるのは、使用後研磨液中の溶存Alを固化若しくは分離若しくは除去すると言ってもよい。また、溶存Alが分離された研磨液は反応後研磨液である。
【0098】
反応後研磨液は、固液分離部25で、スラッジとAl−F錯イオンが除去された研磨液に分けられる。Al−F錯イオンが除去された研磨液を再生研磨液と呼ぶ。固液分離部25は、凝集剤添加部26とフィルタ28で構成してもよい。また、フィルタ28だけで構成してもよい。凝集剤添加部26を備えた方がフィルタ28への負担が少なく、目詰まりがし難くなるので、好ましい。
図6では凝集剤添加部26を備えた場合を示す。
【0099】
反応後研磨液は、凝集剤添加部26で凝集剤が添加される。反応後研磨液は、反応槽20から送液管20bを解して凝集槽26dに送液される。そして、凝集剤タンク26aから送液管26bを解して凝集槽26dに凝集剤が添加される。凝集剤が添加され、攪拌機26mで攪拌すると、反応後研磨液には、10分程度の短い時間でスラッジが凝集する。すでに示したように、この際の凝集剤は、ノニオン系の樹脂で、ポリアクリルアミドが好適に利用できる。凝集槽26dのスラッジが凝集した反応後研磨液は、送液管26eを介して、沈殿槽27に送り、スラッジの凝集体を沈降分離させる。
【0100】
そして、沈殿槽27の上澄みだけを送液管27bを介して、フィルタ28に送る。そしてフィルタ28でさらに、細かいスラッジを分離する。凝集剤添加部26による沈殿および/またはフィルタ28でスラッジを除去することを固液分離と呼ぶ。言い換えると、固液分離部25でスラッジを除去することを固液分離と言う。固液分離が終了した反応後研磨液が、再生研磨液である。再生研磨液は送液管28aで再生研磨液タンク32に送られ貯留される。
【0101】
この後、貯留部12中の使用後研磨液が、Al−F錯体除去装置21に送られる際には、再生研磨液タンク32中の再生研磨液が、戻り配管32aを介して貯留部12に送液される。つまり、貯留部12中の使用後研磨液と再生研磨液を入れ替える。そして、再生研磨液はシャワー部14でガラスを研磨するのに使用される。すなわち、研磨液は循環使用される。
【0102】
貯留部12中の使用後研磨液の全てを再生研磨液と入れ替えるのは望ましい方法である。しかし、貯留部12中の使用後研磨液の全てを入れ替えようとすると、一度研磨を中断しなくてはならない。一方、貯留部12中に使用後研磨液の一部を残したまま再生研磨液を注ぎ足すと、貯留部12の使用後研磨液中のAl−F錯イオン濃度は動的に変化する。したがって、貯留部12の研磨液中のAl−F錯イオン濃度の算出は微分方程式によって算出しなければならない。
【0103】
しかし、貯留部12中に研磨液が残ることで、研磨自体は停止することなく継続させることができる。これは、実際の生産装置にあっては、大きな利点となりうる。したがって、貯留部12からAl−F錯体除去装置21に送る使用後研磨液の量は、貯留部12の少なくとも一部であってよい。
【0104】
なお、貯留部12の使用後研磨液を含む研磨液には、定期的に新液供給部35から新液が供給されてもよい。この新液の供給は、フッ化水素酸供給部36と無機酸供給部38からフッ化水素酸と無機酸が別々に供給されてもよいし、どちらか一方だけが供給されてもよい。
【0105】
図8は、研磨部13が他の形態の場合を例示する。貯留部12の使用後研磨液が、Al−F錯体除去装置21に移され、再生研磨液となって貯留部12に戻されるのは、上記の説明と同じであるので説明は省略する。
図8では研磨槽10中に設けられる研磨部13が、浸漬部40によって構成されている。浸漬部40は、浸漬槽42と昇降器44から構成される。浸漬槽42は、貯留部12と連通されている。貯留部12と浸漬槽42との間に設けられた循環ポンプ42pは、貯留部12と浸漬槽42との間で研磨液を循環させる。なお、浸漬槽42と貯留部12は兼用にしてもよい。
【0106】
移送手段24によって、研磨槽10中に持ち込まれた被研磨物90は、昇降器44によって浸漬槽42中に浸漬させられる。被研磨物90は、浸漬させられることでエッチングされる。昇降器44は、研磨液に対して耐腐食性のある材質で構成され、被研磨物90を保持し、浸漬槽42中に被研磨物90を浸漬させ、引き上げることができる。所定時間浸漬された被研磨物90は、引き上げられ、移送手段24で次の工程に移送される。ここで他の工程とは、他の研磨装置であってもよい。
【0107】
また、
図9は、他の浸漬部40の場合の例示を示す。
図9では、浸漬槽42は、ある程度の長さを有する。貯留部12との間で研磨液が循環するのは、
図8の場合と同じである。
図9では、昇降器44が、移送手段41自体の移動高さを変化させる。被研磨物90は、浸漬槽42中に浸漬されたまま、移送手段41で移動する。被研磨物90は、研磨液中を、移動する間に研磨される。
【0108】
以上のように、本発明に係るガラス研磨方法および研磨装置は、使用後研磨液に存在するスラッジの原因物質であるAl−F錯体を2価の金属塩を添加することで、スラッジとして除去する。そのため、再生研磨液にはAl−F錯体がほとんど残留しない。よって、再生研磨液を再使用しても、被研磨物90のガラス部表面においてスラッジが発生することを抑制することができる。
【0109】
(実施の形態2)
実施の形態1で説明したガラス研磨装置1では、Al−F錯体除去装置21を反応槽20とAl除去金属塩添加部22で構成した。これは、研磨液が循環している貯留部12には、少しでもスラッジが残留していないことが、不良品低減には効果的と考えられるからである。つまり、研磨液中にスラッジが残留していると、研磨の際にスラッジがガラス表面に残り、それが、スラッジ跡として形成され、品質劣化を惹起すると考えられた。
【0110】
しかし、研磨液は研磨するガラス表面に均等に行きわたる様に噴射若しくは研磨液中にガラスが浸漬される。さらに、研磨後は水洗いもされる。したがって、研磨液中にスラッジが混入していても、ガラス表面に乗っただけでは、スラッジ跡として残留することは容易でないと考えられる。スラッジ跡として残留するにはガラス表面に固着する必要があるが、スラッジは研磨液に不溶な成分であるので、ガラス表面との間で溶着する機会が少ないからである。
【0111】
すなわち、ガラス表面のスラッジ跡として品質を低下させるのは液相中のスラッジではなく、ガラス表面にて生成するスラッジが原因と考えられる。したがって、研磨後の研磨液中の溶存Al濃度を低くしさえすれば、研磨液中に多少のスラッジがあっても、製品品質を劣化させないと考えられた。そこで、以下の装置で確認を行った。
図10には、ガラス研磨装置5の構成を示す。ガラス研磨装置5は、反応槽20、再生研磨液タンク32、および固液分離部25の中の凝集剤添加部26が取り外されている。
【0112】
Al除去金属塩添加部22は、貯留部12に直接連通されている。また貯留部12からの使用後研磨液は、排水管18を経て、フィルタ28に直接連結されている。フィルタ28を通過した研磨液は、戻り配管32aによって、再び貯留部12に戻る。
【0113】
このガラス研磨装置5で、Al除去金属塩添加部22を停止した状態で運転した。そして、一定時間毎に貯留部12内の研磨液をサンプリングし、ICP−AESで元素分析を行った。また、サンプリングした研磨液中のスラッジ濃度(重量)と、フィルタ28で捕捉したスラッジ重量を調べた。さらに、このサンプリング時のスラッジ跡に係る外観評価レベルを調べた。
【0114】
なお、スラッジ濃度は、実施の形態1と同様で、研磨後の使用後研磨液を1μmフィルタ(PTFE:ポリテトラフルオロエチレン)でろ過し、スラッジを捕捉し、スラッジ発生量を測定した。この単位体積の使用後研磨液中のスラッジ発生量(mg/L)をスラッジ濃度とした。
【0115】
また、ガラスを1枚研磨するごとにフィルタ28の重量を測定し、新品の乾燥状態のフィルタとの重量差をMF捕捉スラッジ重量とした。MF捕捉スラッジ重量は、使用後研磨液を含めた重量(「g−wet」と記載した。)となる。
【0116】
また、外観評価レベルとは、出願人自身が行っている研磨後のガラス表面状態の評価である。外観評価レベルは、目視可能なスラッジ跡の個数によって判定しており、外観評価レベル数が大きくなると、スラッジ跡の数は増える傾向になる。逆に外観評価レベルが下がれば、スラッジ跡の数は少なくなったと言ってよい。なお、この外観評価レベルにおいて、レベル2以下は、製品として問題のない表面状態(図中「OK」と表示した。)であり、レベル3以上は、製品として好ましくない(図中「NG」と表示した。)と判断できる程度をいう。
【0117】
図11(a)には、ガラス研磨装置5を連続運転した時の研磨液中の各元素の変化を示す。なお、連続運転したのは、研磨枚数が120枚の時点(点線で示した)からである。横軸は処理(研磨)枚数である。縦軸は各元素の液中濃度(mg/L)である。白丸印で示したAl(アルミニウム)は、Sr(黒三角印)、Ca(黒四角印)、Mg(黒丸印)と比較して含有量が多いことがわかる。
図11(b)には、縦軸を拡大し、Sr、Ca、Mgの部分だけを示した図を示す。Alはレンジ外になり、表示されていない。Sr、Ca、Mgについては、処理(研磨)枚数が進むに従い、濃度が振動していた。
【0118】
図12には、研磨液中のSr、Ca,Mgの濃度(mg/L)とスラッジ濃度(mg/L)の関係を示す。横軸は処理(研磨)枚数である。
図12(a)は、
図11(b)と同じグラフであり、縦軸は各成分の研磨液中の存在濃度(mg/L)である。
図12(b)の左縦軸は、スラッジ濃度(mg/L:黒丸印)であり、右縦軸はMF捕捉スラッジ重量(g−wet:白三角印)を示す。
【0119】
研磨液中のSr、Ca、Mgの濃度が下がった時(
図12(a)で下向き矢印で示した。)にスラッジが増えていた(
図12(b)で上向き矢印で示した。)。
図11(a)が示すようにAlはSr、Ca、Mgより高い濃度で存在していた。したがって、研磨液中ではSr、Ca、Mgが一定の濃度になったら、一気にスラッジ化し、その時に研磨液中の濃度は減少すると考えられる。
【0120】
図13には、Sr、Ca、Mgの濃度変化と外観評価レベルとの関係を示す。横軸は同じく処理(研磨)枚数に相当する量である。
図13(a)は、
図11(b)および
図12(a)と同じSr、Ca、Mgの濃度変化である。つまり、縦軸は各成分の濃度(mg/L)である。
図13(b)は、縦軸が外観評価レベルである。
図13(a)、(b)を比較すると、外観評価レベルは、各成分濃度が高くなった時に増加する傾向にあることがわかる。
【0121】
また、各成分濃度が増えた時の外観評価レベルは、製品として好ましくない(NG領域になる)ほどであった。各成分の濃度の増加は周期的に起こるので、周期的にNGとなる製品が出てくる事になる。
【0122】
図14(a)、(b)には、
図10のガラス研磨装置5でAl除去金属塩添加部22を稼働させ連続運転した場合の研磨剤中の各元素の変化を示す。
図14は、研磨枚数ゼロの時点から連続運転を行った。Al除去金属塩としては、MgCl
2を使った。この時、処理(研磨)枚数およびエッチングレートから想定したAl生成レートより高い量の塩化マグネシウムを添加した。
図14(a)、(b)共に、横軸は処理(研磨)枚数である。
【0123】
図14(a)には研磨液中のAlの濃度の変化を示す。
図11(a)では連続運転した場合のAl濃度は3000〜3500mg/Lであったのに対して、
図14(a)では、200mg/L以下であった。つまり、溶存Alの量が著しく減少していた。また
図14(b)に示すSr、Ca、Mgは、800mg/L以上あるのに対して、
図11(a)では400mg/L以下であった。つまり、これらの元素については、Al除去金属塩を投入した場合は、逆に多くなっていた。また、これらの元素濃度は振動していなかった。
【0124】
図15(a)には、スラッジ濃度およびMF捕捉スラッジ重量の変化を示し、また
図15(b)には、外観評価レベルの変化を示す。
図15(a)のスラッジ濃度およびMF捕捉スラッジ重量を
図12(b)と比較しても発生している濃度は極めて低かった。
図15(b)に示した外観評価レベルはほぼ半分に減少していた。つまり、研磨後のガラス表面状態は継続的に製品として問題のないレベルで維持されていた。
【0125】
図15(a)と
図12(b)は、貯留部12中にAl除去金属塩を投入した場合と、しなかった場合のスラッジ濃度を比較するものである。縦軸の範囲は同じである。Al除去金属塩を投入すると、スラッジ濃度自体が低下する。しかし、Al除去金属塩を投入したとしても、スラッジはまだ発生している。それにもかかわらず、外観評価レベル(
図15(b)と
図13(b)の比較)では、はるかにAl除去金属塩を投入した方が少なくなっている。
【0126】
以上のことから、少なくとも、反応槽20中にAl除去金属塩を投入して、スラッジが発生したとしても、製品の品質が劣化することはなく、量産に十分可能な品質にすることが確認できた。もちろん、反応槽20を設け、強制的にスラッジを生成させ、固液分離部25でスラッジを除去すれば、より好ましくなる。しかし、
図10のように反応槽20がなく、直接貯留部12にAl除去金属塩投入しても、好適な品質を維持することができると結論できる。
【0127】
上記のように、Al除去金属塩によるAl−F錯体除去は、反応槽20を設けてその中だけで行わなくてもよい。使用後研磨液が貯留される貯留部12中にAl除去金属塩を投入しても、製品品質を高い状態で維持することができる。しかも、Al除去金属塩を、研磨で発生するAlと当量に投入しなくても、過剰に投入しておけば製品品質を確保できることがわかった。したがって、
図10のように、
図6で示したガラス研磨装置1から、研磨で生成するAlと当量分のAl除去金属塩を算出するために必要な反応槽20、再生研磨液タンク32および制御部50を省略することができる。
【0128】
なお、
図10では、固液分離部25中から凝集剤添加部26をも除去した構成を示したが、凝集剤添加部26があってもよい。この構成を
図16に示す。貯留部12の使用後研磨液は、排水管18を介して固液分離部25に送液される。そして、固液分離部25で、凝集剤を加えられ、沈殿槽で凝集塊を沈殿させ、上澄みをフィルタ28でろ過し、再び貯留部12に戻る。
【0129】
ガラス研磨装置5は、貯留部12中である程度のスラッジの発生は許容するものである。しかし、スラッジが除去されることは好適であり、凝集剤によって貯留部12中のスラッジは捕捉しやすくなる。したがって、固液分離部25に凝集剤添加部26を有するのは、好ましい構成といえる。
【0130】
以上のように、本発明に係るガラス研磨装置5は、Al除去金属塩を研磨液が貯留する貯留部12に直接投入することで、スラッジの発生および研磨するガラス上に発生するスラッジ跡を低減することができる。