(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記金属が、タングステン、モリブデン、チタン、クロム、マンガン、コバルト、銅、ニオブ、銀、タンタル、金、スズ、鉛、及びビスマスのうち少なくともいずれか一種を含むことを特徴とする請求項1記載の金属細線基板。
前記金属の酸化物の表面積の50%以上に前記金属を析出させる方法が、前記金属の酸化物を還元する方法であることを特徴とする請求項7又は請求項8に記載の金属細線基板の製造方法。
前記金属の酸化物の表面積の50%以上に前記金属を析出させる方法が、前記金属の酸化物上にスパッタリング法により、前記金属と同一の前記金属を供給する方法であることを特徴とする請求項7又は請求項8に記載の金属細線基板の製造方法。
芯部と、前記芯部の表面積の50%以上を覆う表層と、を有し、金属をM、前記金属と同一の金属の酸化物をM−Oとしたとき、M/M−Oの比率は、前記表層のほうが前記芯部よりも大きい金属細線の製造方法であって、
金属の酸化物を線状に形成する工程と、
前記金属の酸化物の表面積の50%以上に前記金属と同一の金属を析出させる工程と、を有し、
前記金属の酸化物を線状に形成する工程が、前記金属の酸化物の膜を基材上に形成する工程と、前記金属の酸化物の膜の一部を変質させる工程と、変質した前記金属の酸化物の領域と変質しなかった前記金属の酸化物の領域とのいずれか一方を除去する工程と、を有することを特徴とする金属細線の製造方法。
前記金属の酸化物の表面積の50%以上に前記金属を析出させる方法が、前記金属の酸化物を還元する方法であることを特徴とする請求項12から請求項14のいずれかに記載の金属細線の製造方法。
前記金属の酸化物の表面積の50%以上に前記金属を析出させる方法が、前記金属の酸化物上にスパッタリング法により、前記金属と同一の前記金属を供給する方法であることを特徴とする請求項12から請求項14のいずれかに記載の金属細線の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1は、本実施の形態に係る各金属細線の断面模式図である。
【0027】
図1Aに示すように金属細線1は、芯部2と、芯部2の表面を覆う表層3とを有して構成される。
図1Aに示す金属細線1では、芯部2の表面全体が表層3で覆われている。
【0028】
図1Aに示す芯部2は、断面形状が円形状となっている。芯部2は金属の酸化物を有して形成されている。以下、「金属の酸化物」を「金属酸化物」と表記する。芯部2の全体(100%)が金属酸化物にて形成されていなくても、体積比率で芯部2の少なくとも50%以上が金属酸化物で形成されていることが好ましい。芯部2は、金属細線1を線状に形成する前段階としての加工性に係る部分である。このため芯部2を構成する金属酸化物は、芯部2内でその比率が高いほうが好ましく、芯部2内に占める金属酸化物の比率は、体積比率で60%以上であることが好ましく、70%以上がより好ましく、80%以上が特に好ましい。芯部2には金属酸化物の他に、加工性や形状安定性、耐候性等を向上させるための各種添加材や、金属酸化物の一部が金属へと還元された金属粒等が含められていてもよい。なお芯部2内には、不純物が含まれていてもよい。不純物は体積比率で5%以下であることが好適である。不純物としては、上記の還元された金属粒や前記金属粒の混入物等である。
【0029】
表層3は、金属を有して形成される。表層3に含まれる金属は、芯部2に含まれる金属酸化物を構成する金属と同一である。したがって例えば、芯部2が酸化銅で形成される場合、表層3は銅で形成される。
【0030】
表層3の全体(100%)が金属で形成されていなくても、体積比率で表層3の少なくとも50%以上が金属で形成されることが好ましい。表層3は、金属細線1の導電性に係り、その割合が大きいほど高い導電性を確保しやすい。このような観点から、表層3に含まれる金属は体積比率で60%以上が好ましく、70%以上がより好ましく、80%以上が特に好ましい。
【0031】
表層3に含まれる成分は、金属以外に、芯部2に含まれている各種添加材や、金属へ還元されたのちに再び空気酸化された金属酸化物等が考えられる。なお表層3には不純物が含まれていてもよい。不純物は体積比率で5%以下であることが好適である。
【0032】
本実施の形態に係る金属細線1では、金属をM、前記金属と同一の金属の酸化物をM−Oとしたとき、M/M−Oの比率は、表層3のほうが芯部2よりも大きくなっている。ここで「M/M−Oの比率」は、体積比率にて求めることができる。「M/M−Oの比率」を求める方法の一つとして、金属細線1の断面に対して走査型電子顕微鏡や透過型電子顕微鏡を用いた元素分析を行うことが挙げられる。本実施の形態においては芯部2の酸素原子濃度が表層3に比べて高いため、酸素原子の分布をマッピングすることで表層3と芯部2の面積比率を知ることができる。面積比率は同一金属細線内ではどの断面でも実質的に同じなので、表層3と芯部2の面積比率をそのまま体積比率とみなすことができる。金属細線1においては表層3のほうが芯部2よりも金属の比率が大きくなっており、導電性は主に表層3で確保されている。表層3でのM/M−Oの比率は、体積比率にて換算すると1以上であることが好適であり、1.5以上であることがより好ましく、4以上であることが特に好ましい。また表層3中に占めるMの体積比率は、[M/{(M−O)+M}]×100(%)で50%〜100%である。なお表層3は、芯部2を構成する金属酸化物を実質的に含まない領域とすれば、表層3でのM/M−Oの比率は、1/0となり、無限大となる。一方、金属酸化物の比率は芯部2のほうが表層3よりも大きくなっており、このように金属細線1の中心に位置する芯部2を主に金属酸化物にて形成することで良好な加工性を維持することができる。以上により本実施の形態では、線径のばらつきが小さく、微細な線径を有する導電性に優れた金属細線1にできる。またアスペクト比の設計自由度を高めることができる。ここでアスペクト比とは、金属細線1の線径と、金属細線1の長さの比で示すことができる。なおアスペクト比を定義する金属細線1の線径とは、断面が円形状以外の場合、断面中で最も長い部分を指す。芯部2上に表層3を形成する工程においては、先に形成した芯部2上に、表層3を形成してもよいし、芯部2の表面を還元して表層3としてもよい。この際、芯部2の表面を還元して表層3とするなど、芯部2と表層3とを一体化して形成できる方法の方が芯部2と表層3の密着性が増し、機械的特性に優れるため好ましい。本実施の形態において、例えば還元を用いた場合、芯部2と表層3との境界(界面)は曖昧になる場合があるが、芯部2と表層3とが境界(界面)を介してはっきりと分かれていなくてもよい。
図1の各図では、境界がはっきりと分かれていないことを示すため、境界を点線で示した。例えば、酸素の存在量を、金属細線1の中心から表面方向に向けて測定したときに、酸素の存在量が急激に変化するラインを芯部2と表層3との境界と定めることができ、また酸素の存在量が金属細線1の中心から表面方向に向けて漸次的に減少していく形態である場合には、酸素の存在量が実質的に減少し始めたラインを芯部2と表層3との境界とみなすことができる。ただし表層3の最表面は酸化の影響等で酸素の存在量が急増する場合があるが、この部分は境界とはみなさない。
【0033】
図1Bに示す金属細線1は、
図1Aと異なって芯部2の表面全体が表層3で覆われていない。本実施の形態では、芯部2の表面積の50%以上が表層3に覆われていることが好ましい。
図1Bに示す金属細線1の断面は、
図1Aに示す円形状の断面の一部が欠けた形状となっている。
【0034】
また
図1Cに示す金属細線1の断面は台形状となっている。
図1Cに示す金属細線1では、
図1Bと同様に、芯部2の表面の一部が表層3に覆われており、芯部2の一部が露出した状態とされている。
【0035】
図1B及び
図1Cに示す各金属細線1は、
図1Aと同様に、芯部2と表層3との境界(界面)が明確でなくてもよい。
【0036】
金属細線1の断面形状は、
図1A、
図1B及び
図1C以外の形状であってもよい。例えば、断面形状としては円形状の他に、楕円状や半円状、水滴形状、多角形状等を例示できる。多角形状には、正方形、長方形、台形状等を例示できる。
【0037】
本実施の形態に係る金属細線1を透明導電材料として用いることができる。かかる場合、金属細線1は導電性と透明性を両立できるサイズであることが好ましい。このような観点から、金属細線1の線径は1nm以上1000nm以下であることが好ましく、10nm以上500nm以下がさらに好ましく、20nm以上200nm以下が特に好ましい。また、金属細線1が凝集すると透明性が低下するので透明導電膜用途としては好ましくない。したがって透明導電膜用途に用いる場合は金属細線1が凝集しないように制御することが好ましい。凝集を避ける一つの方法として、金属細線1の線径の分布を抑えることが有効である。
【0038】
一方、本実施の形態の金属細線1をメタマテリアルに用いる場合は何を目的にデザインするかで好ましい線径の範囲は異なる。しかしながら、物性を効果的に発現させるためには線径の分布が抑えられていることが望ましい。本実施の形態の金属細線1は、線径ばらつきを適切に抑えることができるため、メタマテリアルに本実施の形態の金属細線1を有効に用いることが可能である。
【0039】
本実施の形態では、金属細線1の線径のばらつきを、平均線径に対して20%以下に抑えることができる。ここで「線径のばらつき」とは、{(金属細線1の最大線径−金属細線1の最小線径)/金属細線1の平均線径}×100(%)で示すことができる。また本実施の形態では、線径のばらつきを15%以下に抑えることがより好ましく、10%以下に抑えることが特に好ましい。
【0040】
また、金属細線1の長さは、凝集が避けられれば長いほど好ましい。このような観点から金属細線1の長さは5μm以上が好ましく、100μm以上がより好ましく、200μm以上が特に好ましい。なお本実施の形態の金属細線1を、金属細線1の形成時の基材と併せて透明導電材料としてあるいはメタマテリアルとして用いる場合、金属細線1の凝集は考慮する必要がないので、金属細線1の長さは長いほど好ましい。しかし、金属細線1を基材と分離して用いる場合は、金属細線1が長すぎると、金属細線1同士が凝集して透明性低下あるいはメタマテリアルの物性発現の妨げの原因となる。このような観点から金属細線1の長さは500μm以下が好ましく、300μm以下がより好ましい。
【0041】
本実施の形態に係る金属細線1に用いられる金属は、タングステン、モリブデン、チタン、クロム、マンガン、コバルト、銅、ニオブ、銀、タンタル、金、スズ、鉛、ビスマスのうち少なくともいずれか一種を含むことが好ましい。また透明導電材料として用いる金属細線1としては、抵抗値の低いものが好ましく、このような観点から銅あるいは銀を選択することが好適である。また後述する実験結果に示すように、金属として銅、銀あるいはタングステンを用いた場合、効果的に線径のばらつきを小さく抑えることが可能である。
【0042】
一方、本実施の形態に係る金属細線1をメタマテリアルとして用いる場合、金属細線1に用いられる金属には自由電子の多い貴金属が好ましく、このような観点から、銅、銀、金を選択することが好ましく、加工性を考慮すると銅、銀を選択することがさらに好ましい。
【0043】
例えば、金属細線1に用いられる金属を銅とすると、酸化銅の密度は6.31g/cm
3であり、銅の密度である8.94g/cm
3より小さい。したがって、本願発明の金属細線1は、従来の方法で作成した金属細線に比して、酸化銅を含む分だけ重量が軽くなり、特にモバイル用途の透明導電膜などに好適に用いることができる。
【0044】
本実施の形態に係る金属細線1の製造方法について説明する。
【0045】
本実施の形態に係る金属細線1を形成するには、金属酸化物を線状に形成する工程、及び金属酸化物の少なくとも一部を、金属酸化物に含まれる金属と同一の金属で覆う工程を順に実施する。
【0046】
本実施の形態では金属酸化物を線状に形成する工程が、金属酸化物の膜を基材上に形成する工程、金属酸化物の膜の一部を変質させる工程、変質した金属酸化物の領域と変質しなかった金属酸化物の領域とのどちらか一方を除去する工程、を有することが好ましい。
図2を用いて、金属酸化物を線状に形成する工程を詳細に説明する。
図2は、本実施の形態に係る金属細線の製造工程を説明するための平面模式図である。
【0047】
図2Aでは、基材上に金属酸化物の膜5を形成する。膜5の形成方法を特に限定するものでないが、例えばスパッタリング法を用いて膜5を形成することが好ましい。なお
図2Aは平面図であるため、基材上に金属酸化物の膜5を形成することで基材の表面は見えないが、
図2Cでは膜5のうち不要部分をエッチングしたことで基材4の一部の表面が現れている。以下では基材が見えていなくても
図2においては基材4として説明する。
【0048】
金属酸化物は一定温度以上に加熱すると酸素を放出して還元される。この性質を利用してレーザー加熱によるパターニングを行うことができる。レーザーを用いたパターニングではレーザーの光エネルギーを用いて光反応型有機レジストを反応させるのが一般的であるが、
図3(レーザー光の強度分布を示した説明図である)で示すような分布を持つレーザー光を物体に照射すると、物体の温度もレーザー光の強度分布と同じガウス分布を示す。このときある温度以上で反応するレジスト、すなわち、熱反応型レジストを使うと、
図4(レーザー光が照射された部分の温度分布を示した説明図である)に示すように所定温度以上になった部分のみ反応が進む。したがって金属酸化物を熱反応型レジストとして用いることで金属酸化物を線状に形成することが可能となる。
【0049】
金属酸化物は、熱分解時の酸素放出が急峻なものが望ましい。このような観点から、金属の種類としてはタングステン、モリブデン、チタン、クロム、マンガン、コバルト、銅、ニオブ、銀、タンタル、金、スズ、鉛、ビスマスが好ましい。金属酸化物には、還元後に極端に物性へ悪影響を及ぼさない範囲で添加材を加えることができる。例えば、酸化銅の線形状の乱れや線幅のばらつきを抑えるためにケイ素等を加える方法がある。
【0050】
基材4の材質を特に限定するものではない。ただし、金属細線の形成後に金属細線を基材4と分離せずにそのまま透明導電材料として用いる場合、基材4は、透明で耐熱性の高い材料、例えば石英のような透明ガラスを用いることが好ましい。
【0051】
図2Bでは、金属酸化物の膜5に対して、レーザーを照射して線状に金属酸化物を変質させパターニングを行う。
図2Bに示す符号6がレーザー照射によって変質した金属酸化物の領域(以下、変質層6という)であり、変質層6の間に変質しなかった金属酸化物の膜5の領域(以下、非変質層5aという)が残されている。ここで変質層6とは、化学的性質がレーザー照射前(露光前)とレーザー照射後(露光後)とで変化した領域を指す。本実施の形態では、変質層6は熱による金属酸化物の還元に起因する。変質層6が、どのような変化を示すかは、使用する金属の種類に依存する。変質層6の具体例は後述する。
【0052】
パターニングに用いるレーザーは特に限定されないが、装置の導入の容易さと解像度より半導体レーザーが好適に用いられる。光反応型有機レジストにおいては、半導体レーザーで描画可能な解像度は500nm程度までであるが、熱反応型レジストの場合はレーザー強度を調整することで
図3に示すように、より反応点を絞ることが可能なので、線幅が100nm以下の微細なパターン描画が可能となる。
【0053】
パターンを描画する際、金属細線を透明導電材料あるいはメタマテリアルとして用いる場合、一般的には直線状に描画することになるが、必要に応じて曲線等の他のパターンに変えることも可能である。
【0054】
続いて
図2Cでは、非変質層5aと変質層6のうち、変質層6を除去している。これにより非変質層5aの間に基材4が現れている。
図2Cでは変質層6を除去したが、非変質層5aを除去することも可能である。すなわち非変質層5aと変質層6のいずれか一方を選択的に除去することができる。
【0055】
例えば金属酸化物として酸化銅を用いた場合、金属酸化物の膜5を形成した状態では酸化銅(II)の状態になっているが、これにレーザー等で熱を加えることによって、熱を加えた部分のみが酸化銅(I)に還元される。すなわち酸化銅(I)の領域は変質層6である。このとき酸化銅(I)からなる変質層6を実質的に除去せずに、変質しなかった酸化銅(II)からなる非変質層5aを選択的に除去することもできるし、逆に変質しなかった酸化銅(II)からなる非変質層5aを実質的に除去せずに酸化銅(I)からなる変質層6を選択的に除去することもできる。
【0056】
除去には種々の方法を用いることができる。例えば、均一な除去を進行させるためには液体を用いた溶解、いわゆるウェットエッチングが好ましい。用いるエッチング液は、非変質層5aと、変質層6との選択性が確保できればよいが、一般的には酸、アルカリ、キレート剤、酸化剤の中から選択される1種又は2種以上を混合して用い、必要に応じて界面活性剤等の添加剤を加える。また、加熱により昇華する金属化合物の場合はレーザーで加熱した時点で変質層6を除去することができる。
【0057】
上記のウェットエッチング等の処理が終了した後、残された非変質層5aあるいは残された変質層6を洗浄することが好ましい。洗浄は処理した媒体が除去でき、かつ残された非変質層5aあるいは残された変質層6と基材4にダメージを与えないものならよく、例えば水、機能水、有機溶媒、弱酸、弱アルカリ等を用い、必要に応じて界面活性剤等を加えてもよい。また、洗浄の際には基材を揺動させたり超音波等を併用したりしてもよい。
【0058】
図2に示す製造工程を用いることで、好適に金属酸化物を線状に形成できる。
【0059】
本実施の形態では、金属酸化物を線状に形成した後、金属酸化物の少なくとも一部の表面を、金属酸化物に含まれる金属と同一の金属で覆う。なおこの工程でいう「金属酸化物」とは、非変質層5aあるいは変質層6のどちらかを指す。すなわち
図2Cの工程において、残されたほうが、金属で覆われる「金属酸化物」を構成している。
【0060】
金属酸化物上を金属で覆う方法としては、例えば金属酸化物の表面を還元することで金属を析出させるなど、金属酸化物の一部を変質して金属とする方法、あるいは、金属酸化物の表面にスパッタリング法などで金属を供給するなど、金属酸化物上に別途金属を供給する方法などが考えられる。以下、それぞれの方法について述べる。
【0061】
還元に用いる方法は特に限定されず、一般的に金属酸化物を還元できる方法が適用できる。このような方法としては、例えば、水素や一酸化炭素のような還元性ガスを作用させる方法や黒鉛を作用させる方法等が適用できる。また、例えば酸化銀のように、加熱するのみで還元が進行するものもある。
【0062】
金属酸化物の表面に対して、上記した還元性ガス等を作用させながら加熱して金属酸化物を還元する際の温度は、使用される金属酸化物の種類によって異なるが、数百℃程度に加熱するのが一般的である。なお、金属酸化物の膜5を変質させる際に加えられる熱は瞬間的なものであり、還元反応に至らない。
【0063】
還元の条件を調整することで、金属細線1に占める表層3の厚さを変えることができる。また表層3内に占める金属の比率や芯部2内に占める金属酸化物の比率等を変えることが可能であるが、金属と金属酸化物の比率は、金属細線1の導電性が確保できる範囲において任意に設定することができる。表層3の金属と芯部2の金属酸化物の比率を知る方法の一つとして、金属細線1の断面に対して走査型電子顕微鏡や透過型電子顕微鏡を用いた元素分析を行うことが挙げられる。本実施の形態においては芯部2の酸素原子濃度が表層3に比べて高いため、酸素原子の分布をマッピングすることで表層3と芯部2の比率を知ることができる。
【0064】
また、金属酸化物の表面に、金属酸化物に含まれる金属と同一の金属を供給する方法は特に限定されないが、スパッタリング法を好適に用いることができる。この際、基材上に金属酸化物が存在する状態でスパッタリングを行うと基材全体が均質の金属膜で覆われてしまうので、透明性の観点から基材を透明導電膜として用いることが困難となり、また、基材上の金属細線を分離することも困難となる。これを避けるため、
図5D〜
図5Eに示すように金属酸化物を基材から外した状態でスパッタリングを行うのが好ましい。
【0065】
またスパッタリング法において、金属酸化物の表面に、金属酸化物に含まれる金属と同一の金属を供給することで、金属酸化物を含む芯部と、金属を含む表層との間の結合力(密着性)を高めることができる。
【0066】
なお、金属酸化物の少なくとも一部の表面に金属を析出させる方法としては、金属をスパッタリングするより、金属酸化物を還元するほうが、芯部と表層を一体成型でき、密着性をより効果的に向上させることができるため好適である。
【0067】
本実施の形態において、金属に覆われた部分が表層3であり、それ以外の部分が芯部2を構成している。本実施の形態では金属酸化物の表面を還元して金属を析出させた場合、
図1で説明した通り、芯部2と表層3との境界(界面)がはっきりとしないことがあるが、少なくとも表層3は芯部2よりもM/M−Oの比率が高い領域として定義される。
【0068】
図5は、本実施の形態の金属細線により透明導電材料を形成する際の各工程を示す断面模式図である。
図5Aの工程では、基材4上に線状の金属酸化物7を形成している。線状の金属酸化物7の形成方法には
図2で説明した方法を用いることが可能である。
【0069】
図5Aでは、基材4上に形成された線状の金属酸化物7の断面が
図1Bと同様の形状となっている。金属酸化物7(最終的には金属細線1)の形状は、レジストの種類やパターンの作成方法によって作り分けることが可能である。例えば、曲面形状になるレジストや露光条件を選択すると、
図1Aや
図1Bの断面模式図のような、断面が略円形状の金属細線1が得られやすくなる。また矩形状になるレジストや露光条件を選択すると、
図1Cの断面模式図のように、断面が台形状等の矩形状の金属細線1が得られやすくなる。レジストとしては、比較的、矩形状になりやすいものとして酸化銅を、比較的、円形状になりやすいものとしては酸化銀をそれぞれ挙げることができる。また、露光条件としては、送りピッチを大きくすると矩形状に、送りピッチを小さくすると円形状になりやすい。金属細線1の断面を所望の形状に形成するには、上記の要素を勘案して製造条件を決定するとよい。
【0070】
続いて金属酸化物7の表面を還元などにより金属に変えるか、あるいは金属酸化物7上に金属を供給する。これにより
図5Bに示すように、芯部2と、芯部2の表面の一部を覆いM/M−Oの比率が芯部2よりも大きい表層3と、を有する金属細線1を形成できる。芯部2は表層3よりも金属酸化物7の比率が高い領域である。
【0071】
図5Bの状態では、金属細線1が基材4に固定された状態であるため、基材4を除去しない限り、金属細線1同士が凝集することはない。なお
図5の各図では一つの金属細線1のみが図示されているが、実際には基材4上に複数の金属細線1が形成されている。
【0072】
本実施の形態では
図5Bに示す基材4上の金属細線1を透明導電材料として使用することができる。この場合、基材4には、石英ガラス等の透明な基材を用いることが好ましい。
図5Aに得られた線状の金属酸化物7は、レーザーでパターニングされた領域内では連続しているので、これを還元等して表面に金属を析出させるか、あるいは表面に金属を供給することで
図5Bに示す金属細線1とし、
図5Fに示すように基材4と一体のまま透明導電材料8として使用することができる。
【0073】
あるいは
図5Cに示すように基材4を分離し、
図5Gに示すように金属細線1を基材4とは別の基材9上に配置して透明導電材料として使用することができる。
【0074】
あるいは
図5Aの工程から
図5Dに示すように基材4を分離し、続いて、
図5Eに示すように、金属酸化物7の表面に還元等で金属を析出させ、あるいは表面に金属を供給することで、芯部2と芯部2の表面全体を覆う表層3とを有する金属細線1を形成することもできる。そして得られた金属細線1を、
図5Hに示すように、他の基材10上に配置して透明導電材料8として使用することができる。
【0075】
図5D及び
図5Eの製造工程では、金属酸化物7の表面に還元等で金属を析出させる、あるいは表面に金属を供給する前に基材4を分離しているが、基材4から分離後の金属酸化物7の強度等を考慮すると、基材4がある状態で金属酸化物7を還元等して、あるいは表面に金属を供給して金属細線1を形成した後、基材4を分離することが好ましい。
【0076】
図5C及び
図5Eの後、
図5G、
図5Hに示すように、金属細線1を他の基材9、10上に配置して透明導電材料8として使用する場合、金属細線1を任意の透明材料、例えば透明な樹脂フィルム上等へ配置することができる。基材4を除去する場合は金属細線1が任意の長さになるよう金属細線1をカットしてもよいし、そのまま使用してもよい。
【0077】
一方、金属細線1をメタマテリアルとして用いる場合、金属細線同士の位置関係は平行又は平行に近い状態で配列されていることが好ましい。このような観点から、分離工程を伴わない
図5A、
図5B、
図5Fの順で金属細線1を形成することが好ましい。図示していないが、基材4上には、複数の金属細線1が平行又は平行に近い状態で配列されている。
【0078】
本実施の形態の金属細線1の製造方法によれば、まず基材4上に線状の金属酸化物7を形成し、続いて金属酸化物7の表面を還元等して、あるいは表面に金属を供給して、芯部2と表層3とを有する金属細線1を形成している。このように本実施の形態では、金属細線を成長させて形成するものではなく、ベースとなる芯部2を予め金属酸化物で形成した後に、その表面を還元やスパッタリング法等の方法により金属で覆う。
図2Aに示す金属酸化物の膜5は、線状の金属酸化物7を得るための加工性に係る部分であり、本実施の形態のように金属酸化物の膜5を例えば熱反応型レジストとして用いることで、微細な線径を備える金属細線1を精度よく製造でき、また線径のばらつきを抑えることが可能である。用いる金属酸化物の種類にもよるが、線径のばらつきは、平均線径に対して概ね15%以下に抑えることができ、金属酸化物の選択と目標とする線径のサイズによっては5%以下も実現可能である。この数値は、線径のサイズ制御を効果に挙げる特許文献1と比較しても優れている。なお、「線径のばらつき」は、{(金属細線1の最大線径−金属細線1の最小線径)/金属細線1の平均線径}×100(%)で示すことができる。
【0079】
また本実施の形態では、
図2に示す製造工程にて、レーザー光の照射条件を適宜選択することで、線径(線幅)を必要とされる値に高精度に調整することができる。また基材4の大きさにより、金属細線1の長さを適宜調整することができる。したがって本実施の形態では、金属細線1の線径と金属細線1の長さとの比で示されるアスペクト比の設計自由度を高めることができる。
【0080】
また
図2で説明したように、非変質層5aと、変質層6とのいずれか一方を選択して除去するため、変質層6を残すことも可能であり、その場合、
図4で説明したように、変質層6を形成するための露光領域を狭めることができるため、より微細な線径を備える金属細線1を製造することが可能になる。
【0081】
以下、本発明の効果を明確にするために行った実施例について説明するが、本発明はこの実施例により制限されるものではない。
【0082】
(実施例1)
1辺が50mmのガラス平板を基材として、その上にスパッタリング法を用いて、下記の条件にてSiを添加した酸化銅の膜を成膜した。
ターゲット:Si添加した酸化銅(II)
(3インチφ、酸化銅:Siの割合=90原子%:10原子%)
電力(W):RF100
ガス種類:アルゴン(Ar)と酸素(O)の混合ガス(比率 Ar:O=90:10)
圧力(Pa):0.5
膜厚(nm):20
【0083】
次に、下記条件にて酸化銅の膜の一部を露光し、熱で変質させた。
露光用半導体レーザー波長:405nm
レンズ開口数:0.85
露光レーザーパワー:7.0mW
送りピッチ:250nm
【0084】
次に、下記条件にて調製したエッチング液によって、露光で変質した領域(変質層)を溶解させた。
グリシン 1.2g
シュウ酸アンモニウム 1.2g
水 400g
【0085】
エッチングは23℃において6分間、エッチング液に上記酸化銅の膜を浸漬させることで行った。エッチング後の状態をSEMで確認したところ、変質しなかった酸化銅(II)の領域(非変質層)が線状のパターンにて得られた。そして平均線径が80nm、線径のばらつき(絶対値)が10nmの線状の酸化銅(II)の領域が確認できた。
【0086】
次に、上記で得られた線状の酸化銅(II)の領域を一酸化炭素雰囲気下で260℃に加熱し、酸化銅の表層側を銅に還元して目的の金属細線を得た。
【0087】
(実施例2)
1辺が50mmのガラス平板を基材として、その上にスパッタリング法を用いて、下記の条件にてSiを添加した酸化銅の膜を成膜した。
ターゲット:Si添加した酸化銅(II)
(3インチφ、 酸化銅とSiの割合=90原子%:10原子%)
電力(W):RF100
ガス種類:アルゴンと酸素の混合ガス(比率 Ar:O=90:10)
圧力(Pa):0.5
膜厚(nm):20
【0088】
次に、下記条件にて酸化銅の膜の一部を露光し、熱で変質させた。
露光用半導体レーザー波長:405nm
レンズ開口数:0.85
露光レーザーパワー:7.0mW
送りピッチ:500nm
【0089】
次に、下記条件にて調製したエッチング液によって、露光で変質した領域(変質層)を溶解させた。
グリシン 1.2g
シュウ酸アンモニウム 1.2g
水 400g
【0090】
エッチングは23℃において6分間、エッチング液に上記酸化銅の膜を浸漬させることで行った。エッチング後の状態をSEMで確認したところ、変質しなかった酸化銅(II)の領域(非変質層)が線状のパターンにて得られた。そして、平均線径が180nm、線径のばらつき(絶対値)が9nmの線状の酸化銅(II)の領域が確認できた。
【0091】
次に、上記で得られた線状の酸化銅の領域を水素雰囲気下で260℃に加熱し、酸化銅の表層側を銅に還元して目的の金属細線を得た。
【0092】
(実施例3)
1辺が50mmのガラス平板を基材として、その上にスパッタリング法を用いて、下記の条件にて酸化銀の膜を成膜した。なお、ターゲットの銀はスパッタリングの過程で酸化されて、酸化銀となる。
ターゲット:銀(3インチφ)
電力(W):RF100
ガス種類:アルゴンと酸素の混合ガス(比率 Ar:O=50:50)
圧力(Pa):0.1
膜厚(nm):20
【0093】
次に、下記条件にて酸化銀の膜の一部を露光し、熱で変質させた。
露光用半導体レーザー波長:405nm
レンズ開口数:0.85
露光レーザーパワー:4.4mW
送りピッチ:500nm
【0094】
次に、下記条件にて調製したエッチング液によって、露光で変質した領域(変質層)を溶解させた。アデカトール(登録商標、以下同じ)SO−135は、アデカ社製のノニオン性界面活性剤の製品名である。
35%塩酸 1.0g
アデカトールSO−135 0.05g
水 400g
【0095】
エッチングは23℃において2分間、エッチング液に上記酸化銀の膜を浸漬させることで行った。エッチング後の状態をSEMで確認したところ、平均線径が200nm、線径のばらつきが22nmの線状の酸化銀の領域が確認できた。
【0096】
次に、上記で得られた線状の酸化銀の領域を260℃に加熱し、酸化銀の表層側を銀に還元して目的の金属細線を得た。
【0097】
(実施例4)
1辺が50mmのガラス平板を基材として、その上にスパッタリング法を用いて、下記の条件にて酸化タングステンの膜を成膜した。
ターゲット:酸化タングステン(3インチφ)
電力(W):RF100
ガス種類:アルゴンと酸素の混合ガス(比率 Ar:O=90:10)
圧力(Pa):0.5
膜厚(nm):10
【0098】
次に、下記条件にて酸化タングステンの膜の一部を露光し、熱で変質させた。
露光用半導体レーザー波長:405nm
レンズ開口数:0.85
露光レーザーパワー:4.0mW
送りピッチ:300nm
【0099】
次に、下記条件にて調製したエッチング液によって、露光で変質した領域(変質層)を溶解させた。
2.5%水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液 400g
【0100】
エッチングは23℃において3分間、エッチング液に上記酸化タングステンの膜を浸漬させることで行った。エッチング後の状態をSEMで確認したところ、平均線径が120nm、線径のばらつきが12nmの線状の酸化タングステンの領域が確認できた。
【0101】
次に、上記で得られた線状の酸化タングステンの領域を水素雰囲気下で300℃に加熱し、酸化タングステンの表層側をタングステンに還元して目的の金属細線を得た。
【0102】
(実施例5)
1辺が50mmのガラス平板を基材として、その上にスパッタリング法を用いて、下記の条件にて酸化モリブデンの膜を成膜した。
ターゲット:酸化モリブデン(3インチφ)
電力(W):RF100
ガス種類:アルゴンと酸素の混合ガス(比率 Ar:O=90:10)
圧力(Pa):0.5
膜厚(nm):10
【0103】
次に、下記条件にて酸化モリブデンの膜の一部を露光し、熱で変質させた。
露光用半導体レーザー波長:405nm
レンズ開口数:0.85
露光レーザーパワー:4.4mW
送りピッチ:300nm
【0104】
次に、下記条件にて調製したエッチング液によって、露光で変質した領域(変質層)を溶解させた。
2.5%水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液 400g
【0105】
エッチングは23℃において2分間、エッチング液に上記酸化モリブデンの膜を浸漬させることで行った。エッチング後の状態をSEMで確認したところ、平均線径が120nm、線径のばらつきが30nmの線状の酸化モリブデンの領域が確認できた。
【0106】
次に、上記で得られた線状の酸化モリブデンの領域を水素雰囲気下で300℃に加熱し、酸化モリブデンの表層側をモリブデンに還元して目的の金属細線を得た。
【0107】
(実施例6)
実施例1と同じ条件で線状の酸化銅(II)を形成した。次に、線状の酸化銅(II)を基材から分離し、分離した酸化銅(II)上に以下の条件でスパッタリングを行い、表面を銅で覆った。
ターゲット:銅(3インチφ)
電力(W):RF100
ガス種類:アルゴン(Ar)
圧力(Pa):0.5
膜厚(nm):5
【0108】
なお実施例1、実施例2、実施例3、実施例4、実施例5、及び実施例6のいずれの金属細線においても、金属をM、前記金属と同一の金属の酸化物をM−Oとしたとき、M/M−Oの比率(体積比率)は、表層のほうが芯部(表層以外の領域であり、表層よりも金属細線の中心に近い部分)よりも大きくなったことを、断面の元素マッピングにより確認した。