特許第6307345号(P6307345)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6307345マルチパルスロケットモータとその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6307345
(24)【登録日】2018年3月16日
(45)【発行日】2018年4月4日
(54)【発明の名称】マルチパルスロケットモータとその製造方法
(51)【国際特許分類】
   F02K 9/36 20060101AFI20180326BHJP
   F02K 9/24 20060101ALI20180326BHJP
   F02K 9/28 20060101ALI20180326BHJP
   F02K 9/38 20060101ALI20180326BHJP
   B29C 65/70 20060101ALI20180326BHJP
   D03D 15/04 20060101ALI20180326BHJP
   D03D 15/12 20060101ALI20180326BHJP
【FI】
   F02K9/36
   F02K9/24
   F02K9/28
   F02K9/38
   B29C65/70
   D03D15/04 A
   D03D15/12 A
   D03D15/12 Z
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-100860(P2014-100860)
(22)【出願日】2014年5月14日
(65)【公開番号】特開2015-218596(P2015-218596A)
(43)【公開日】2015年12月7日
【審査請求日】2017年3月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】500302552
【氏名又は名称】株式会社IHIエアロスペース
(74)【代理人】
【識別番号】100097515
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 実
(74)【代理人】
【識別番号】100136700
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 俊博
(72)【発明者】
【氏名】高橋 和也
(72)【発明者】
【氏名】小田島 広明
(72)【発明者】
【氏名】木村 竜朗
【審査官】 瀬戸 康平
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−007327(JP,A)
【文献】 特開2013−024034(JP,A)
【文献】 特開2008−280967(JP,A)
【文献】 特表平11−503802(JP,A)
【文献】 特開2005−171970(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 65/70
B64G 1/00
D03D 15/04,15/12
F02K 9/24, 9/28, 9/34, 9/36, 9/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面が第1断熱材で覆われ圧力容器内の後段に設けられた中空筒形状の第1推進薬と、
前面と外周面が第2断熱材で覆われ前記圧力容器内の前段に設けられた中空筒形状の第2推進薬と、
前記第2推進薬の内面と後端面を覆い第1推進薬及び第2推進薬の燃焼火炎に耐える耐熱性と気密性及び可撓性を有する隔膜部材と、を備え、
前記隔膜部材は、前端部が圧力容器に固定され第2推進薬の内面に沿って後方に延びる中空円筒形の円筒膜部と、円筒膜部の後端に一体的に連結され第2推進薬の後端面に沿って半径方向外方に延びる中空円板状のリング膜部とを有し、
前記リング膜部は、その外方端に第1断熱材と第2断熱材の間に挟持された後端保持部を有し、
前記後端保持部から半径方向内方までのリング膜部の内部に高張力クロス材が一体加硫成型されており、
該高張力クロス材は、第2推進薬の燃焼圧によるリング膜部の変形に追従可能な可撓性を有し、かつ前記燃焼圧により発生する引張力に耐える引張強さを有する、ことを特徴とするマルチパルスロケットモータ。
【請求項2】
前記第1断熱材及び第2断熱材は、その境界面にそれぞれ軸方向内方に延びる円筒形の第1凹部と第2凹部を有し、
前記後端保持部は、前記第1凹部と第2凹部にそれぞれ嵌合し接着された円筒形の第1凸部と第2凸部を有する、ことを特徴とする請求項1に記載のマルチパルスロケットモータ。
【請求項3】
前記高張力クロス材は、繊維が同一方向に並ぶ複数の単一方向クロス材であり、
各単一方向クロス材は、後端保持部から半径方向内方までのリング膜部の内部に周方向に均等配置され、かつ繊維方向が半径方向に配向されている、ことを特徴とする請求項1に記載のマルチパルスロケットモータ。
【請求項4】
前記隔膜部材は、その一部に他の部分よりも脆弱な脆弱部を有する、ことを特徴とする請求項1に記載のマルチパルスロケットモータ。
【請求項5】
前記隔膜部材は、EPDMゴムからなり、
前記高張力クロス材は、炭素繊維又はガラス繊維である、ことを特徴とする請求項1に記載のマルチパルスロケットモータ。
【請求項6】
外周面が第1断熱材で覆われ圧力容器内の後段に設けられた中空筒形状の第1推進薬と、
前面と外周面が第2断熱材で覆われ前記圧力容器内の前段に設けられた中空筒形状の第2推進薬と、
前記第2推進薬の内面と後端面を覆い第1推進薬及び第2推進薬の燃焼火炎に耐える耐熱性と気密性及び可撓性を有する隔膜部材と、を準備し、
前記隔膜部材は、第2推進薬の内面に沿って後方に延びる中空円筒形の円筒膜部と、円筒膜部の後端に一体的に連結され第2推進薬の後端面に沿って半径方向外方に延びる中空円板状のリング膜部とを有し、
前記リング膜部の外方端に高張力クロス材を一体加硫成型して後端保持部を設け、
該高張力クロス材は、第2推進薬の燃焼圧によるリング膜部の変形に追従可能な可撓性を有し、かつ前記燃焼圧により発生する引張力に耐える引張強さを有しており、
前記円筒膜部の前端部を圧力容器に固定し、前記後端保持部を第1断熱材と第2断熱材の間に挟持する、ことを特徴とするマルチパルスロケットモータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2以上の推進薬を有し、共通の噴射ノズルから推進ガスを噴射するマルチパルスロケットモータとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マルチパルスロケットモータとは、複数の固体推進薬を内蔵し、各固体推進薬を異なるタイミングで燃焼させて推力を発生させるロケットモータである。かかるマルチパルスロケットモータは、例えば、特許文献1〜6に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表平11−503802号公報
【特許文献2】特開2008−280967号公報
【特許文献3】特開2012−255362号公報
【特許文献4】特開2013−7327号公報
【特許文献5】特開2013−29100号公報
【特許文献6】特開2013−24034号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
マルチパルスロケットモータは、複数の固体推進薬、複数の着火装置、単一の圧力容器、及び噴射ノズルを備える。
複数の固体推進薬は、耐熱性を有する隔膜部材により互いに仕切られ、同一の圧力容器内に隣接して内蔵されている。各固体推進薬は、それぞれに設けられた着火装置により、異なるタイミングで着火し燃焼する。
【0005】
先に着火された固体推進薬(以下、第1推進薬)が燃焼中に、後で着火される固体推進薬(以下、第2推進薬)が着火しないことが必要である。
そのため、未着火の第2推進薬は、耐熱性の高い隔膜部材により第1推進薬の燃焼火炎から仕切られ、着火しないようになっている。
【0006】
その後、未着火であった第2推進薬を異なるタイミングで着火させる。この際、第2推進薬を第1推進薬から仕切っていた隔膜部材を燃焼圧で破断し、燃焼ガスが噴射ノズルから噴射する。
また隔膜部材が燃焼圧で破断する際には、予め設定した脆弱部で破断し、かつその破片が飛散しない必要がある。
【0007】
そのため、隔膜部材は、特に応力が高くなる圧力容器への固定部分(前端部と後端部)の強度を高めていた。
【0008】
例えば、特許文献4のパルスロケットモータでは、第2推進薬は、圧力容器の先端部内面に固定された中空筒形状である。中空筒形状の第2推進薬の内面と後端面が一体に形成された隔膜部材により覆われ、隔膜部材の前端部と後端部が金属製の隔膜保持金具に加硫接着されている。
後端部の隔膜保持金具は、第2推進薬の後端面を覆う中空円板状の隔膜部材(以下、「後端隔膜」と呼ぶ)の外周面内へ半径方向内方に延びる凸部を有しており、この凸部が後端隔膜に加硫接着され、隔膜保持金具の外周部が、圧力容器にボルト等で結合される。
【0009】
隔膜部材が燃焼圧で破断する際に、後端隔膜は燃焼圧により後方に膨らみ、その外周部は後方に曲がる。
この際、隔膜保持金具は可撓性がない金属製であることから、燃焼圧を受けた後端隔膜の外周部が隔膜保持金具の凸部先端部で折れ曲がり、その部分から破断するおそれがあった。その場合、後端隔膜が根元から脱落し、燃焼形態が不安定となりロケットモータの性能が低下すると共に、噴射ノズルが詰まる可能性もあった。
【0010】
また、隔膜保持金具が金属製であるため、これを取り付ける圧力容器も金属製となり、隔膜保持金具、圧力容器、及びこれらを結合するボルト等の重量が大きくなり、パルスロケットモータの全体重量が大きく、かつ結合構造が複雑となる問題点があった。
【0011】
本発明は上述した問題点を解決するために創案されたものである。すなわち本発明の目的は、圧力容器の先端部内面に固定された推進薬を着火させ隔膜部材が燃焼圧で破断する際に、推進薬の後端面を覆う隔膜部材の外周部の強度を高め外周部からの破断を防止することができ、かつ全体重量を低減することができるマルチパルスロケットモータとその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、外周面が第1断熱材で覆われ圧力容器内の後段に設けられた中空筒形状の第1推進薬と、
前面と外周面が第2断熱材で覆われ前記圧力容器内の前段に設けられた中空筒形状の第2推進薬と、
前記第2推進薬の内面と後端面を覆い第1推進薬及び第2推進薬の燃焼火炎に耐える耐熱性と気密性及び可撓性を有する隔膜部材と、を備え、
前記隔膜部材は、前端部が圧力容器に固定され第2推進薬の内面に沿って後方に延びる中空円筒形の円筒膜部と、円筒膜部の後端に一体的に連結され第2推進薬の後端面に沿って半径方向外方に延びる中空円板状のリング膜部とを有し、
前記リング膜部は、その外方端に第1断熱材と第2断熱材の間に挟持された後端保持部を有し、
前記後端保持部から半径方向内方までのリング膜部の内部に高張力クロス材が一体加硫成型されており、
該高張力クロス材は、第2推進薬の燃焼圧によるリング膜部の変形に追従可能な可撓性を有し、かつ前記燃焼圧により発生する引張力に耐える引張強さを有する、ことを特徴とするマルチパルスロケットモータが提供される。
【0013】
前記第1断熱材及び第2断熱材は、その境界面にそれぞれ軸方向内方に延びる円筒形の第1凹部と第2凹部を有し、
前記後端保持部は、前記第1凹部と第2凹部にそれぞれ嵌合し接着された円筒形の第1凸部と第2凸部を有する。
【0014】
前記高張力クロス材は、繊維が同一方向に並ぶ複数の単一方向クロス材であり、
各単一方向クロス材は、後端保持部から半径方向内方までのリング膜部の内部に周方向に均等配置され、かつ繊維方向が半径方向に配向されている。
【0015】
前記隔膜部材は、その一部に他の部分よりも脆弱な脆弱部を有する。
【0016】
前記隔膜部材は、EPDMゴムからなり、
前記高張力クロス材は、炭素繊維又はガラス繊維である。
【0017】
また本発明によれば、外周面が第1断熱材で覆われ圧力容器内の後段に設けられた中空筒形状の第1推進薬と、
前面と外周面が第2断熱材で覆われ前記圧力容器内の前段に設けられた中空筒形状の第2推進薬と、
前記第2推進薬の内面と後端面を覆い第1推進薬及び第2推進薬の燃焼火炎に耐える耐熱性と気密性及び可撓性を有する隔膜部材と、を準備し、
前記隔膜部材は、第2推進薬の内面に沿って後方に延びる中空円筒形の円筒膜部と、円筒膜部の後端に一体的に連結され第2推進薬の後端面に沿って半径方向外方に延びる中空円板状のリング膜部とを有し、
前記リング膜部の外方端に高張力クロス材を一体加硫成型して後端保持部を設け、
該高張力クロス材は、第2推進薬の燃焼圧によるリング膜部の変形に追従可能な可撓性を有し、かつ前記燃焼圧により発生する引張力に耐える引張強さを有しており、
前記円筒膜部の前端部を圧力容器に固定し、前記後端保持部を第1断熱材と第2断熱材の間に挟持する、ことを特徴とするマルチパルスロケットモータの製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0018】
上記本発明の装置と方法によれば、第2推進薬の内面と後端面を覆う隔膜部材を備えているので、複数の固体推進薬(第1推進薬と第2推進薬)を異なるタイミングで燃焼させて推力を発生させることができる。
【0019】
また、隔膜部材が円筒膜部とリング膜部とからなり、リング膜部の後端保持部が一体加硫成型された高張力クロス材を内蔵する。高張力クロス材は、第2推進薬の燃焼圧によるリング膜部の変形に追従可能な可撓性を有し、かつ前記燃焼圧により発生する引張力に耐える引張強さを有する。従って、圧力容器の先端部内面に固定された第2推進薬を着火させ隔膜部材の一部(例えば脆弱部)が燃焼圧で破断するまでに、第2推進薬の後端面を覆う後端保持部の外周部の強度を高め外周部からの破断を防止することができる。
【0020】
さらに、本発明の構成によれば、後端保持部を耐熱性の高いゴム(例えばEPDMゴム)と高張力クロス材で構成するので、金属製と比較して後端保持部を軽量化できる。また、後端保持部は圧力容器に固定されないので、圧力容器を軽量な繊維強化プラスチック(例えばCFRP)で構成することができる。従って、ロケットモータの全体重量を低減することができる。
【0021】
以上より、従来の金属製の隔膜保持金具が不要になり構造重量が低減するうえ、構造が単純となり部品点数を減少することができる。
また、リング膜部の後端保持部が一体加硫成型された高張力クロス材を内蔵するので、第2推進薬の燃焼中にリング膜部が脱落する懸念がなくなる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明によるマルチパルスロケットモータの全体構成図である。
図2図1の部分拡大図である。
図3】隔膜部材の単体側面図である。
図4図2の部分拡大図である。
図5】本発明によるマルチパルスロケットモータの作動説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の好ましい実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0024】
図1は、本発明によるマルチパルスロケットモータMの全体構成図である。
この図において、本発明のマルチパルスロケットモータMは、圧力容器10、第1推進薬20、第2推進薬22、及び隔膜部材30(サーマルバリア)を備える。
この図において、Z−ZはマルチパルスロケットモータMの中心軸である。
【0025】
圧力容器10は、第1推進薬20及び第2推進薬22を内蔵する中空円筒形のモータケース12と、モータケース12の前部(図で左側)を閉鎖する頭部閉鎖体14と、モータケース12の後部(図で右側)に取り付けられた噴射ノズル18とを有する。
【0026】
モータケース12は、この例では、フィラメント・ワインディング法(Filament Winding)によるCFRP(炭素繊維で強化したエポキシ樹脂)からなる。
【0027】
頭部閉鎖体14は、この例ではチタン、マルエージング鋼、D6AC鋼、クロムモリブデン鋼等の金属製である。
頭部閉鎖体14の中心軸上には、第1イグナイタ15が取り付けられており、第1推進薬20を任意のタイミングで着火し、燃焼させる。第1推進薬20の燃焼ガスG1(図5参照)は、第1推進薬20の中央開口を介して噴射ノズル18から後方(図で右方)へ噴出され、推力を発生させる。
【0028】
隔膜部材30は、第2推進薬22の内面と後端面を覆い、第1推進薬20の燃焼ガスG1による第2推進薬22の着火を防止する。隔膜部材30は、好ましくは、第1推進薬20及び第2推進薬22の燃焼火炎に耐える耐熱性と気密性及び可撓性を有するEPDMゴム(エチレン・プロピレン・ジエン系ゴム:Rubber、Ethylene−Propylene−Diene)からなる。
【0029】
第1推進薬20は中空筒形状であり、その外周面が第1断熱材21で覆われ、圧力容器10内の後段に設けられている。第1推進薬20は、先に燃焼するコンポジット推進薬である。第1推進薬20の内孔は全域を断面円形としてもよいし、星形等の光芒断面を前後方向中央部から後方等、任意の位置に形成してもよい。
また、第1推進薬20は、Z軸に沿って直列に連結された複数の推進薬で構成してもよい。
【0030】
第2推進薬22は中空筒形状であり、その前面と外周面が第2断熱材23で覆われ、圧力容器10内の前段に設けられている。第2推進薬22は、第1推進薬20より後に燃焼するコンポジット推進薬である。第2推進薬22の内孔断面は円形であり、第1推進薬20の内孔と隔膜部材30を介して連通している。
第1推進薬20と第2推進薬22は、同じ種類のコンポジット推進薬であっても、異なってもよい。
【0031】
第1断熱材21と第2断熱材23は、好ましくは、第1推進薬20及び第2推進薬22の燃焼火炎に耐える耐熱性と気密性を有するEPDMゴムからなる。
【0032】
圧力容器10の前端部(頭部閉鎖体14)には、第2イグナイタ16が内蔵されており、第2推進薬22を任意のタイミングで着火し、燃焼させる。隔膜部材30は、第2推進薬22の燃焼ガスG2の燃焼圧により後述する脆弱部33が他の部分より先に破断するようになっている。
第2推進薬22の燃焼ガスG2は、隔膜部材30の破断部を通して噴射ノズル18から後方(図で右方)へ噴出され、推力を発生させる。
【0033】
図2は、図1の部分拡大図である。
この図において、モータケース12は、第1断熱材21と第2断熱材23のまわりに直接巻き付けられたCFRP製の内管12aと、内管12aの外側に巻き付けられたCFRP製の外管12bとからなる。
この構成により、第1推進薬20と第2推進薬22の燃焼圧に耐える圧力容器10を金属製よりも軽量化することができる。
【0034】
図2において、頭部閉鎖体14は、モータケース12の前端に固定されたリング状の口金14a(ボス)と、口金14aの内側に固定されたリング状のクロージャ14bと、クロージャ14bの中心孔に挿入された第1イグナイタ15とを有する。
また、クロージャ14bは、口金14aとの間に構成されたリング状空間である着火室B内に第2イグナイタ16を内蔵している。
【0035】
着火室Bと第2推進薬22とを仕切るクロージャ14bのリング状部分Cには、軸方向に貫通する点火孔17aが周方向に間隔を隔てて複数設けられている。点火孔17aは、第2イグナイタ16で発生する着火火炎を第2推進薬22側に連通させる機能を有する。
【0036】
また、口金14aは、フランジ部Dを有する。フランジ部Dは、第2推進薬22の前面に位置する第2断熱材23と点火孔17aとの間に半径方向内方へ延びる。またこのフランジ部Dの内方端は、テーパ内面又は円筒内面となっており、隔膜部材30の外面との間に環状隙間17bを形成する。
さらに、隔膜部材30の外面と第2推進薬22の内面との間には、筒状隙間19が形成されている。
【0037】
この構成により、第2イグナイタ16で発生する着火火炎を、点火孔17aと環状隙間17bを介して筒状隙間19に連通させ、第2推進薬22を内面から着火、燃焼させることができる。
【0038】
図3は、隔膜部材30の単体側面図である。
図2図3において、隔膜部材30は、中空円筒形の円筒膜部32と、中空円板状のリング膜部34とを有する。
【0039】
中空円筒形の円筒膜部32は、前端部が圧力容器10の頭部閉鎖体14に固定され、第2推進薬22の内面に沿って後方に延びる。円筒膜部32の前端部には中空円筒形の固定用リング31が一体加硫成型により取り付けられている。固定用リング31の前面には複数のねじ穴が設けられ、このねじ穴と螺合する複数のボルトにより頭部閉鎖体14のクロージャ14bに固定されている。
【0040】
中空円板状のリング膜部34は、円筒膜部32の後端に一体的に連結され第2推進薬22の後端面に沿って半径方向外方に延びる。この例において、リング膜部34は、Z軸に直交しているが斜めであってもよい。
【0041】
また隔膜部材30は、その一部に他の部分よりも脆弱な脆弱部33を有する。脆弱部33は、円筒膜部32又はリング膜部34の一部であり、その他の部分(円筒膜部32及びリング膜部34)より脆弱であり、第2推進薬22を着火させた際の燃焼圧により、他の部分より先に破断するようになっている。
【0042】
図4は、図2の部分拡大図である。
図4において、リング膜部34は、その外方端に第1断熱材21と第2断熱材23の間に挟持された後端保持部35を有する。
第1断熱材21及び第2断熱材23は、その境界面にそれぞれ軸方向内方に延びる円筒形の第1凹部21aと第2凹部23aを有する。また後端保持部35は、第1凹部21aと第2凹部23aにそれぞれ嵌合し接着された円筒形の第1凸部35aと第2凸部35bを有する。
第1凹部21aと第2凹部23aの深さ、及び第1凸部35aと第2凸部35bの長さは、後端保持部35に作用する燃焼圧力に耐える接着面積を有する。
【0043】
後端保持部35から半径方向内方までのリング膜部34の内部には、高張力クロス材36が一体加硫成型されている。高張力クロス材36は、第2推進薬22の燃焼圧によるリング膜部34の変形に追従可能な可撓性を有し、かつ第2推進薬22の燃焼圧により発生する引張力に耐える引張強さを有する。
高張力クロス材36の半径方向内方端の位置は、後端保持部35の外周部の強度を高められるように設定されている。
高張力クロス材36は、好ましくは、炭素繊維、ケブラー繊維(登録商標)、又はガラス繊維である。
【0044】
高張力クロス材36は、繊維が同一方向に並ぶ複数の単一方向クロス材である。
また各単一方向クロス材は、後端保持部35から半径方向内方までのリング膜部34の内部に周方向に均等配置され、かつ繊維方向が半径方向に配向されている。
【0045】
次に上述したマルチパルスロケットモータMの製造方法を説明する。
(1)初めに上述した第1推進薬20、第2推進薬22、及び隔膜部材30を準備する。
圧力容器10のモータケース12は、好ましくは、フィラメント・ワインディング法によるCFRPで構成する。
(2)リング膜部34の外方端に上述した高張力クロス材36を一体加硫成型して後端保持部35を設ける。
(3)円筒膜部32の前端部を圧力容器10の頭部閉鎖体14に固定し、リング膜部34の後端保持部35を第1断熱材21と第2断熱材23の間に挟持する。
上述した製造方法により、後端保持部35の強度を高め、かつ後端保持部35及び圧力容器10を軽量化できる。
【0046】
図5は、本発明によるマルチパルスロケットモータMの作動説明図である。
この図において、(A)(B)は第1推進薬20の燃焼中と燃焼後、(C)(D)は第2推進薬22の着火時と燃焼中を示している。
【0047】
図5(A)において、第1イグナイタ15が点火されることで、第1推進薬20の燃焼が開始される。燃焼は第1推進薬20の内孔内周面から生じていき、燃焼ガスG1は噴射ノズル18を通って大気中に噴射される。これによりマルチパルスロケットモータMは第1パルスによる推力を得る。
【0048】
このとき、第2推進薬22の内面と後端面は隔膜部材30により覆われていることで、第1イグナイタ15の点火時の着火火炎や第1推進薬20の燃焼ガスG1が侵入することはない。
【0049】
図5(B)に示すように、第1推進薬20の全てが燃焼し終えることで、第1パルスは終了する。
【0050】
図5(C)において、任意のタイミングで第2イグナイタ16が点火されると、第2イグナイタ16で発生した着火火炎が、点火孔17aと環状隙間17bを介して隔膜部材30の外面と第2推進薬22の内面との間の筒状隙間19に流入する。筒状隙間19に流入した着火火炎は、第2推進薬22を内面から着火・燃焼させ、燃焼ガスG2を発生させる。この燃焼ガスG2の燃焼圧により、隔膜部材30の円筒膜部32は内側に変形し、リング膜部34は後方に変形する。
【0051】
図5(D)において、脆弱部33(図4参照)は、第2推進薬22を着火させた際の燃焼圧により、他の部分より先に破断する。この破断後、燃焼ガスG2により円筒膜部32は軸心側に座屈し、リング膜部34は後方側に湾曲して、燃焼ガスG2が噴射ノズル18を通って大気中に噴射される。
この際、隔膜部材30は燃焼ガスG2によりその表面を焼失するが、脱落を防止するため燃焼しない層を一定量以上残すように厚さが設定されている。そのため、隔膜部材30が脱落すること無く、第2推進薬22が燃焼を継続し、第2推進薬22の全てが燃焼して、第2パルスは終了する。
【0052】
上述した本発明の装置と方法によれば、第2推進薬22の内面と後端面を覆う隔膜部材30を備えているので、第1推進薬20と第2推進薬22を異なるタイミングで燃焼させて推力を発生させることができる。
【0053】
また、隔膜部材30が円筒膜部32とリング膜部34とからなり、リング膜部34の後端保持部35が一体加硫成型された高張力クロス材36を内蔵する。高張力クロス材36は、第2推進薬22の燃焼圧によるリング膜部34の変形に追従可能な可撓性を有し、かつその燃焼圧により発生する引張力に耐える引張強さを有する。従って、第2推進薬22を着火させ脆弱部33が燃焼圧で破断するまでに、後端保持部35の外周部の強度を高め外周部からの破断を防止することができる。
【0054】
さらに、本発明によれば、後端保持部35を耐熱性の高いゴム(例えばEPDMゴム)と高張力クロス材36で構成するので、金属製と比較して後端保持部35を軽量化できる。また、後端保持部35は圧力容器10に固定されないので、圧力容器10を軽量な繊維強化プラスチック(例えばCFRP)で構成することができる。従って、ロケットモータの全体重量を低減することができる。
【0055】
以上より、従来の金属製の隔膜保持金具が不要になり構造重量が低減するうえ、構造が単純となり部品点数を減少することができる。
また、リング膜部34の後端保持部35が一体加硫成型された高張力クロス材36を内蔵するので、第2推進薬22の燃焼中にリング膜部34が脱落する懸念を無くすことができる。
【0056】
なお本発明は上述した実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0057】
M マルチパルスロケットモータ、B 着火室、C リング状部分、
D フランジ部、G1、G2 燃焼ガス、10 圧力容器、12 モータケース、
12a 内管、12b 外管、14 頭部閉鎖体、14a 口金(ボス)、
14b クロージャ、15 第1イグナイタ、16 第2イグナイタ、
17a 点火孔、17b 環状隙間、18 噴射ノズル、19 筒状隙間、
20 第1推進薬、21 第1断熱材、21a 第1凹部、22 第2推進薬、
23 第2断熱材、23a 第2凹部、30 隔膜部材、31 固定用リング、
32 円筒膜部、33 脆弱部、34 リング膜部、35 後端保持部、
35a 第1凸部、35b 第2凸部、36 高張力クロス材
図1
図2
図3
図4
図5