特許第6307351号(P6307351)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6307351ヘテロ接合電界効果トランジスタ現象を観察する方法及び装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6307351
(24)【登録日】2018年3月16日
(45)【発行日】2018年4月4日
(54)【発明の名称】ヘテロ接合電界効果トランジスタ現象を観察する方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/338 20060101AFI20180326BHJP
   H01L 29/778 20060101ALI20180326BHJP
   H01L 29/812 20060101ALI20180326BHJP
   H01L 21/66 20060101ALI20180326BHJP
【FI】
   H01L29/80 H
   H01L21/66 V
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-109220(P2014-109220)
(22)【出願日】2014年5月27日
(65)【公開番号】特開2015-8284(P2015-8284A)
(43)【公開日】2015年1月15日
【審査請求日】2015年9月18日
【審判番号】不服2017-4779(P2017-4779/J1)
【審判請求日】2017年4月5日
(31)【優先権主張番号】特願2013-112992(P2013-112992)
(32)【優先日】2013年5月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】特許業務法人快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】勝野 高志
(72)【発明者】
【氏名】石川 剛
(72)【発明者】
【氏名】上田 博之
(72)【発明者】
【氏名】上杉 勉
(72)【発明者】
【氏名】間中 孝彰
(72)【発明者】
【氏名】岩本 光正
【合議体】
【審判長】 鈴木 匡明
【審判官】 深沢 正志
【審判官】 大嶋 洋一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−218957(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/021628(WO,A1)
【文献】 特開2009−117712(JP,A)
【文献】 特開平08−035934(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L21/338
H01L21/66
H01L29/778
H01L29/812
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体層を有するヘテロ接合電界効果トランジスタで生じる電流コラプス現象を観察する方法であって、
前記ヘテロ接合電界効果トランジスタがオフのときに、ドレイン電極とソース電極の間に電圧を印加する電圧印加工程と、
前記電圧印加工程の後に、前記ヘテロ接合電界効果トランジスタに光を照射し、前記光が照射された領域に発生する高次高調波の強度を検出する検出工程と、を備えており、
前記検出工程は、前記ヘテロ接合電界効果トランジスタがオンのときに行われ、少なくとも前記半導体層の深さ方向に分布する前記高次高調波の強度を検出する方法。
【請求項2】
前記電圧印加工程と前記検出工程を含むサイクルを繰り返し、サイクル毎に検出される前記高次高調波の強度に応じた検出信号を積算する積算工程をさらに備える請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記検出工程は、前記半導体層の面内方向に分布する前記高次高調波の強度を検出する請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
半導体層を有するヘテロ接合電界効果トランジスタで生じる電流コラプス現象を観察する装置であって、
前記ヘテロ接合電界効果トランジスタに光を照射する光照射装置と、
前記光が照射された領域に発生する高次高調波の強度を検出する検出装置と、
前記ヘテロ接合電界効果トランジスタに印加する電圧を生成する電圧生成装置と、
前記電圧生成装置及び前記光照射装置に接続されている制御装置と、を備えており、
前記制御装置は、
前記ヘテロ接合電界効果トランジスタがオフのときに、ドレイン電極とソース電極の間に電圧を印加する電圧印加工程と、
前記電圧印加工程の後に、前記ヘテロ接合電界効果トランジスタがオンのときに、前記ヘテロ接合電界効果トランジスタに前記光を照射し、前記光が照射された領域に発生する高次高調波の強度を検出する検出工程と、を実行するように前記電圧生成装置及び前記光照射装置を制御するように構成されており、
前記検出装置は、少なくとも前記半導体層の深さ方向に分布する前記高次高調波の強度を検出するように構成されている装置。
【請求項5】
前記検出装置は、前記電圧印加工程と前記検出工程を含むサイクルが繰り返されたときに、サイクル毎に検出される前記高次高調波の強度に応じた検出信号を積算する積算手段を有する請求項4に記載の装置。
【請求項6】
前記検出装置は、前記半導体層の面内方向に分布する前記高次高調波の強度を検出するように構成されている請求項4又は5に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書で開示される技術は、ヘテロ接合電界効果トランジスタで生じる電流コラプス現象を観察する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
化合物半導体を材料とするヘテロ接合電界効果トランジスタの開発が進められている。この種のヘテロ接合電界効果トランジスタでは、オン状態においてドレイン電流が減少する電流コラプス現象の発生が問題となっている。電流コラプス現象が生じる原因については不明な点も多いが、ゲート電極のドレイン側端部で電荷が蓄積することが1つの原因だと考えられている。この電荷によって形成される電界領域を検出することができれば、電流コラプス現象の発生位置を可視化させることができ、電流コラプス現象を観察できると考えられる。このため、電流コラプス現象の原因を解明するために、電流コラプス現象によって発現する電界領域の位置を特定する技術の開発が望まれている。また、電流コラプス現象が強く発現する不良品を判別するためにも、電流コラプス現象によって発現する電界領域の位置を特定する技術の開発が望まれている。
【0003】
非特許文献1には、ケルビンフォース顕微鏡(KFM)を利用してヘテロ接合電界効果トランジスタの表面電位を測定し、測定された表面電位の時間変化から電流コラプス現象によって発現する電界領域の位置を特定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】“Surface potential measurements of AlGaN/GaN high-electron-mobility transistor by Kelvin probe force microscopy” Kohei Nakagami, Yutaka Ohno, Shigeru Kishimoto, Koichi Maezawa, and Takashi Mizutani, Appl. Phys. Lett., Vol. 85, No. 24, 13 December 2004
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ケルビンフォース顕微鏡(KFM)を利用する技術では、探針を利用して表面電位が測定されるので、測定に長い時間を要する。ヘテロ接合電界効果トランジスタは、高周波数で動作されることが多い。このため、そのような高周波動作で生じる電流コラプス現象によって発現する電界領域の位置を特定する場合、ケルビンフォース顕微鏡を利用する技術は適さない。短時間で電流コラプス現象によって発現する電界領域の位置を特定可能な技術の開発が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書では、ヘテロ接合電界効果トランジスタで生じる電流コラプス現象によって発現する電界領域の位置を特定して電流コラプス現象を観察するために、高次高調波を利用する技術が提案される。電界が形成されている電界領域に光が照射されると、その電界領域に高次高調波が発生することが知られている。このため、ヘテロ接合電界効果トランジスタに発生する高次高調波の強度を検出することで、電界領域、即ち、電荷が蓄積されている領域を特定することができる。高次高調波は光であり、短時間で検出可能である。このように、高次高調波を利用する技術によれば、電流コラプス現象によって発現する電界領域の位置を短時間で特定することができるので、電流コラプス現象を観察可能な方法及び装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、評価対象のヘテロ接合電界効果トランジスタの要部断面図を模式的に示す。
図2図2は、ヘテロ接合電界効果トランジスタの半導体層の面内方向において、電流コラプス現象によって発現する電界領域の位置を特定する装置の構成の概略を示す。
図3図3は、図2の装置の検出作業中におけるドレイン電極、ゲート電極及びレーザ光のタイミングチャートを示す。
図4図4は、本実施例の装置の検出作業のフローチャートを示す。
図5図5は、ヘテロ接合電界効果トランジスタの半導体層の面内方向におけるSHGイメージング像を示す。
図6図6は、オン抵抗とSHG強度の関係を示す。
図7図7は、ヘテロ接合電界効果トランジスタの半導体層の深さ方向において、電流コラプス現象によって発現する電界領域の位置を特定する装置の構成の概略を示す。
図8図8は、図7の装置の検出作業中におけるドレイン電極、ゲート電極及びレーザ光のタイミングチャートを示す。
図9図9は、ヘテロ接合電界効果トランジスタの半導体層の深さ方向におけるSHG強度の分布を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本明細書で開示される技術の特徴を整理する。なお、以下に記す事項は、各々単独で技術的な有用性を有している。
【0009】
本明細書で開示される方法は、ヘテロ接合電界効果トランジスタで生じる電流コラプス現象を観察する方法である。この方法は、ヘテロ接合電界効果トランジスタに光を照射し、光が照射された領域に発生する高次高調波の強度を検出する検出工程を備えていてもよい。ここで、ヘテロ接合電界効果トランジスタの材料は、特に限定されるものではない。例えば、ヘテロ接合電界効果トランジスタの材料は、シリコン系半導体又は化合物半導体であってもよい。化合物半導体には、窒化物半導体、炭化珪素又はガリウムヒ素が含まれる。ヘテロ接合電界効果トランジスタに照射される光は、所定の波長域のレーザ光であり、所定幅のパルス光であってもよい。ヘテロ接合電界効果トランジスタのうちの光が照射される領域は、電流コラプス現象によって電界が形成されている電界領域が存在すると予測される位置を含んでいればよく、ドレイン電極とソース電極の間の少なくとも一部を含むのが好ましく、ドレイン電極とゲート電極の間の少なくとも一部を含むのが好ましい。
【0010】
上記方法は、検出工程に先立って、ヘテロ接合電界効果トランジスタがオフのときに、ドレイン電極とソース電極の間に電圧を印加する電圧印加工程をさらに備えていてもよい。検出工程は、ヘテロ接合電界効果トランジスタがオンのときに行われてもよい。検出工程では、ドレイン電極とソース電極の間に電圧を印加してもよいし、印加しなくてもよい。トラップされた電荷で発生する電界を良好に検出するために、検出工程では、ドレイン電極とソース電極の間に電圧を印加しないのが望ましい。電流コラプス現象は、ゲートがオフからオンに切替わってから所定期間内に強く発現する。このため、上記方法によれば、オフストレス状態からオン状態に切り換えた直後の電流コラプス現象によって発現する電界領域の位置を良好に特定することができる。
【0011】
上記方法は、電圧印加工程と検出工程を含むサイクルを繰り返し、サイクル毎に検出される高次高調波の強度に応じた検出信号を積算する積算工程をさらに備えていてもよい。これにより、サイクル毎の検出信号が微弱であっても、電流コラプス現象によって発現する電界領域の位置を高感度に検出することができる。
【0012】
ヘテロ接合電界効果トランジスタは、半導体層を有していてもよい。この場合、検出工程は、半導体層の面内方向に分布する高次高調波の強度を検出してもよい。あるいは、検出工程は、半導体層の深さ方向に分布する高次高調波の強度を検出してもよい。あるいは、検出工程は、半導体層の面内方向に分布する高次高調波の強度及び半導体層の深さ方向に分布する高次高調波の強度の双方を検出してもよい。
【0013】
本明細書で開示される装置は、ヘテロ接合電界効果トランジスタで生じる電流コラプス現象を観察する。装置は、ヘテロ接合電界効果トランジスタに光を照射する光照射装置及び光が照射された領域に発生する高次高調波の強度を検出する検出装置を備えていてもよい。
【0014】
上記装置はさらに、ヘテロ接合電界効果トランジスタに印加する電圧を生成する電圧生成装置を備えていてもよい。上記装置はさらに、光照射装置及び電圧生成装置に接続されている制御装置を備えていてもよい。ここで、制御装置は、電圧印加工程及び検出工程を実行するように電圧生成装置と光照射装置を制御してもよい。電圧印加工程は、ヘテロ接合電界効果トランジスタがオフのときに、ドレイン電極とソース電極の間に電圧を印加してもよい。検出工程は、電圧印加工程の後に、ヘテロ接合電界効果トランジスタがオンのときに、ヘテロ接合電界効果トランジスタに光を照射し、光が照射された領域に発生する高次高調波の強度を検出してもよい。この装置によれば、オフストレス状態からオン状態に切り換えた直後の電流コラプス現象によって発現する電界領域の位置を良好に特定することができる。
【0015】
上記装置では、検出装置が、電圧印加工程と検出工程を含むサイクルが繰り返されたときに、サイクル毎に検出される高次高調波の強度に応じた検出信号を積算する積算手段を有していてもよい。
【0016】
ヘテロ接合電界効果トランジスタは、半導体層を有していてもよい。この場合、検出装置は、半導体層の面内方向に分布する高次高調波の強度を検出してもよい。あるいは、検出装置は、半導体層の深さ方向に分布する高次高調波の強度を検出してもよい。あるいは、検出装置は、半導体層の面内方向に分布する高次高調波の強度及び半導体層の深さ方向に分布する高次高調波の強度の双方を検出してもよい。
【0017】
高次高調波は、2次高調波(SHG:Second Harmonic Generation)であってもよい。2次高調波は、他の高次高調波よりも強度が強いので、高感度な測定が可能になる。ここで、2次高調波の強度は、電界強度に比例し、以下の式で表すことができる。
【0018】
【数1】

【0019】
I(2ω)は2次高調波の強度を示しており、χ(3)は物質固有の線形感受テンソル(物質の光りやすさ)を示しており、E(0)はトラップされた電荷で発生する電界を示しており、E(ω)はレーザ光の強度を示している。
【実施例1】
【0020】
以下、図面を参照して、ヘテロ接合電界効果トランジスタで生じる電流コラプス現象によって発現する電界領域の位置を特定して電流コラプス現象を観察する方法及び装置を説明する。まず、観察評価対象のヘテロ接合電界効果トランジスタの一例を説明する。
【0021】
図1に示されるように、ヘテロ接合電界効果トランジスタ1は、半導体層2を備える。半導体層2は、シリコン(Si)のSi基板3、超格子(AlN/GaN)又は窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)のバッファ層4、窒化ガリウム(GaN)の電子走行層5及び窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)の電子供給層6を備える。電子走行層5と電子供給層6は、ヘテロ接合を構成しており、そのヘテロ接合面に2次元電子ガス層(2DEG)が形成される。ヘテロ接合電界効果トランジスタ1はさらに、電子供給層6上に設けられているドレイン電極7、ゲート電極8及びソース電極9を備える。ドレイン電極7及びソース電極9は、電子供給層6にオーミック接触する。ゲート電極8は、ドレイン電極7とソース電極9の間に配置されており、電子供給層6にショットキー接触する。
【0022】
ヘテロ接合電界効果トランジスタ1をスイッチング動作させるとき、ドレイン電極7に正の高電圧が印加され、ソース電極9に接地電圧が印加され、ゲート電極8にオン電圧又はオフ電圧が印加される。本実施例のヘテロ接合電界効果トランジスタ1は、ノーマリオン型である。このため、ゲート電極8にオン電圧(この例では接地電圧)が印加されているとき、ドレイン電極7とソース電極9の間の2次元電子ガス層(2DEG)を介して電流が流れ、ヘテロ接合電界効果トランジスタ1はオンとなる。一方、ノーマリオンデバイスでは、ゲート電極8にオフ電圧(この例では負電圧)が印加されているとき、2次元電子ガス層(2DEG)が空乏化されて電流の流れが遮断され、ヘテロ接合電界効果トランジスタ1はオフとなる。
【0023】
ヘテロ接合電界効果トランジスタ1では、オフ状態において、ドレイン電極7とゲート電極8の間に高電圧が印加される。このため、オフ状態において、ゲート電極8からドレイン側に向けて電子が注入され、その電子の一部がゲート電極8のドレイン側端部の電子供給層6の表面又はバルクにトラップされる。これにより、ゲート電極8のドレイン側端部に負帯電領域が形成される。この負帯電領域の影響によって、ヘテロ接合電界効果トランジスタ1のオン状態における抵抗が増加し、ドレイン電流が減少する。このような負帯電領域の形成が、電流コラプス現象の原因であると考えられている。以下では、負帯電領域に形成される電界を2次高調波(SHG:Second Harmonic Generation)を利用して検出することで、電流コラプス現象によって発現する電界領域の位置を特定して電流コラプス現象を観察する方法及び装置を説明する。
【0024】
図2に示されるように、電流コラプス現象の評価装置100は、ヘテロ接合電界効果トランジスタ1に向けてレーザ光を照射する光照射装置10、ヘテロ接合電界効果トランジスタ1に発生する2次高調波を検出する検出装置20、ヘテロ接合電界効果トランジスタ1の各電極に印加する電圧を生成する電圧生成装置30及び制御装置40を備える。
【0025】
光照射装置10は、レーザ発振器11、第1IRパスフィルタ12、NDフィルタ13、ミラー14、偏光板15、第2IRパスフィルタ16、レンズ17及びローパスフィルタ18を有する。
【0026】
レーザ発振器11は、固体レーザ装置であり、所定波長のレーザ光を出射する。この例では、レーザ発振器11はTi-Sapphireレーザ発振器であり、レーザ光の波長は1000nmである。第1IRパスフィルタ12は、レーザ発振器11から出射された赤外線の波長域のレーザ光を選択的に透過させる。NDフィルタ13は、第1IRパスフィルタ12を透過したレーザ光の強度を減衰させる。ミラー14は、NDフィルタ13を透過したレーザ光を反射させ、偏光板15に入射させる。偏光板15は、所定の振動方向のレーザ光のみを透過させ、レーザ光の偏光成分の品質を高めている。第2IRパスフィルタ16は、迷い光などの光をカットする。レンズ17は、第2IRパスフィルタ16を透過したレーザ光を集光する。ローパスフィルタ18は、所定波長よりも長い波長(所定周波数よりも低い周波数)のレーザ光のみを透過させる。この例では、ローパスフィルタ18は、レーザ発振器11から出射されるレーザ光の半分の波長よりも長い波長の光のみを透過させる。ローパスフィルタ18を透過したレーザ光の一部がハーフミラー22及び対物レンズ21に入射する。対物レンズ21で集光されたレーザ光は、ヘテロ接合電界効果トランジスタ1に照射される。
【0027】
ヘテロ接合電界効果トランジスタ1に照射されるレーザ光のスポット径は、約φ100μmである。このため、レーザ光は、ドレイン電極7とソース電極9の間の全域を照射する。ヘテロ接合電界効果トランジスタ1に電界が形成されている電界領域が存在すると、その電界領域にレーザ光の半分の波長の2次高調波が発生する。この例では、ヘテロ接合電界効果トランジスタ1に1000nmのレーザ光を照射させているので、500nmの2次高調波が発生する。
【0028】
検出装置20は、対物レンズ21、ハーフミラー22、IRカットフィルタ23、バンドパスフィルタ24、光電変換装置25及び処理部26を有する。
【0029】
対物レンズ21は、ヘテロ接合電界効果トランジスタ1に発生した2次高調波を採光し、ハーフミラー22に入射させる。対物レンズ21の倍率は、20倍である。ハーフミラー22は、2次高調波の一部を反射させ、IRカットフィルタ23に入射させる。IRカットフィルタ23は、赤外線の波長域のレーザ光をカットする。このため、IRカットフィルタ23は、レーザ発振器11から出射されるレーザ光の反射光をカットし、2次高調波を選択的に透過させる。バンドパスフィルタ24は、2次高調波付近の所定の波長域を選択的に透過させる。このため、バンドパスフィルタ24は、ヘテロ接合電界効果トランジスタ1に発生した2次高調波を選択的に透過させる。光電変換装置25は、CCDカメラを有しており、2次高調波の光の強度に応じた平面情報を取得する。処理部26は、積算回路を有する。後述するように、処理部26は、検出サイクル毎に検出された検出信号を積算するように構成されている。これにより、取得される平面情報は、検出サイクル毎に検出された検出信号の総和となっている。検出サイクル毎の2次高調波の強度が微弱であっても、検出装置20は、高感度に平面情報を取得することができる。
【0030】
電圧生成装置30は、直流電源を有する。電圧生成装置30は、ヘテロ接合電界効果トランジスタ1のドレイン電極7、ゲート電極8及びソース電極9に接続されており、これらの電極に印加する所定電圧を生成可能に構成されている。
【0031】
制御装置40は、光照射装置10のレーザ発振器11と電圧生成装置30に接続されている。制御装置40は、レーザ発振器11からレーザ光を出射させるタイミングを制御可能に構成されている。さらに、制御装置40は、電圧生成装置30からヘテロ接合電界効果トランジスタ1の各電極に所定電圧を印加するタイミングを制御可能に構成されている。
【0032】
図3及び図4に示されるように、制御装置40は、ヘテロ接合電界効果トランジスタ1のオフ期間(t1−t2)において、ヘテロ接合電界効果トランジスタ1のドレイン電極7にストレス電圧(正の高電圧)を印加すると同時に、ゲート電極8にオフ電圧(負の電圧)を印加する(図4のステップS1参照)。一例では、ストレス電圧が100V、200V又は300Vのいずれかに設定されており、ソース電極9には接地電圧が印加されており、ゲート電極8には−5Vが印加されている。一例では、オフ期間(t1−t2)は、130μsに設定される。これにより、ヘテロ接合電界効果トランジスタ1のドレイン電極7とゲート電極8の間には高電圧が印加され、ゲート電極8からドレイン側に向けて電子が注入される。注入された電子の一部は、ゲート電極8のドレイン側端部において、電子供給層6及びバルクにトラップされ、負帯電領域を形成する。
【0033】
次に、制御装置40は、ヘテロ接合電界効果トランジスタ1のドレイン電極7に接地電圧を印加すると同時に、ゲート電極8にオン電圧(接地電圧)を印加し、オン期間(t2以降)に移行する(図4のステップS2)。なお、ソース電極9にも、接地電圧が印加されている。
【0034】
次に、制御装置40は、所定のタイミングt3において、レーザ発振器11からレーザ光を出射させ、ヘテロ接合電界効果トランジスタ1にレーザ光を照射させ、ヘテロ接合電界効果トランジスタ1に2次高調波を発生させる(図4のステップS3参照)。一例では、タイミングt3については、タイミングt2からの経過時間が10μs、100μs又は800μsのいずれかに設定される。制御装置40は、図3に示される過程を1サイクルとし、これを複数回繰り返し、所定回数に達したときに検出作業を終了する(図4のステップS4参照)。その結果、所定のタイミングt3で測定された検出信号は積算され、ヘテロ接合電界効果トランジスタ1の半導体層2の面内方向に分布する2次高調波の強度(以下、SHG強度という)を含む平面情報が取得される。
【0035】
図5に、検出されたSHG強度を含む平面情報を示す。なお、図中の「D」がドレイン電極7であり、「G」がゲート電極8であり、「S」がソース電極9を示す。図5に示されるように、ゲート電極8のドレイン側端部に、電界領域を示す白い像(2次高調波の像であり、以下、SHG像という)が観察された。ストレス電圧が100V及び200Vでは、ゲート電極8の長手方向に沿って、ゲート電極8のドレイン側端部にSHG像が一定幅で観察されている。このように、本実施例の評価装置100では、SHG強度を含む平面情報を取得することができるので、電界領域の位置を特定することができる。SHG強度は、ストレス電圧が大きいほど大きく、時間が経過すると減少することが確認された。一方、ストレス電圧が300Vでは、SHG像の幅の均一性が悪くなっている。これは、ヘテロ接合電界効果トランジスタ1の劣化が原因と考えられる。このように、本実施例の評価装置100では、局所的な電界領域の位置も特定することができるので、不良解析にも有用であることが示唆された。
【0036】
図6に、各検出タイミングにおけるヘテロ接合電界効果トランジスタ1のオン抵抗及びSHG強度をプロットした結果を示す。図6に示されるように、ヘテロ接合電界効果トランジスタ1のオン抵抗とSHG強度の間に比例関係が存在することが確認された。このことは、SHG強度が、電流コラプス現象の評価指標として有用であることを示唆している。
【0037】
このように、本実施例の技術を利用すると、SHG像から電流コラプス現象の発生位置を特定することができ、また、SHG強度から電流コラプス現象の強さを評価することができる。SHG強度から電流コラプス現象の強さを評価することができるので、不良品の選別にも有用である。
【0038】
本実施例の技術では、2次高調波を利用するので、オフストレス状態からオン状態に切り換えた直後の情報を得ることができる。ヘテロ接合電界効果トランジスタ1は、高周波でスイッチング動作する。例えば、ヘテロ接合電界効果トランジスタ1は、100KHzでスイッチング動作して用いられることが想定される。このような場合、ストレス電圧をオフしてから短時間(例えば、10μs)で電流コラプス現象を評価することが必要とされるが、本実施例の技術はこの要求に応えることができる。例えば、ケルビンフォース顕微鏡(KFM)を利用した評価技術では、触針式によって表面ポテンシャルを計測するので、短時間の現象を捉えることは不可能である。
【0039】
加えて、本実施例の技術では、電圧生成装置30が検出系から独立しているので、ヘテロ接合電界効果トランジスタに大きな電圧(600V以上)を印加可能である。例えば、ケルビンフォース顕微鏡(KFM)を利用した評価技術では、ヘテロ接合電界効果トランジスタに印加可能な電圧に制限(最大で100V程度)があり、高電圧を印加できない。このため、本実施例の技術は、パワーデバイス用途のヘテロ接合電界効果トランジスタの電流コラプス現象を評価するのに特に有用である。
【0040】
上記実施例の電流コラプス現象の評価装置100は、ヘテロ接合電界効果トランジスタ1の半導体層2の面内方向(半導体層2の深さ方向に対して直交する方向)に分布するSHG強度を検出することを特徴とする。これに代えて又はこれに加えて、電流コラプス現象の評価装置は、ヘテロ接合電界効果トランジスタ1の半導体層2の深さ方向に分布するSHG強度を検出するように構成されることができる。
【0041】
図7に、ヘテロ接合電界効果トランジスタ1の半導体層2の深さ方向に分布するSHG強度を検出する電流コラプス現象の評価装置101の構成を例示する。なお、図1に示す評価装置100と相違する点のみを説明し、一致する構成については説明を省略する。
【0042】
評価装置101の検出装置20は、zスキャン21a及びピンホール27を備える。zスキャン21aは、対物レンズ21をz軸方向(ヘテロ接合電界効果トランジスタ1の半導体層2の深さ方向)に移動させるように構成されている。zスキャン21aは、ピエゾ素子を利用しており、0.1μmステップで対物レンズ21をz軸方向に移動させることができる。ピンホール27は、ヘテロ接合電界効果トランジスタ1の半導体層2の深さ方向において、焦点の合った位置に発生する2次高調波のみを通過させ、それ以外の位置に発生する2次高調波をカットする。
【0043】
評価装置101の検出装置20では、対物レンズ21の倍率が100倍に向上されている。また、評価装置101の検出装置20では、光電変換装置25が、CCDカメラに代えて、光電子倍増管を利用してSHG強度に応じた電気信号を取得するように構成されている。
【0044】
このように、評価装置101では、対物レンズ21の倍率向上及びピンホール27の追加によって深さ方向の分解能が向上する。さらに、評価装置101は、zスキャン21aによって対物レンズ21を深さ方向に沿って移動させることができるので、ヘテロ接合電界効果トランジスタ1の半導体層2の深さ方向に分布するSHG強度を検出することができる。
【0045】
図8に示されるように、評価装置101の検出作業中におけるドレイン電極、ゲート電極及びレーザ光のタイミングチャートは、評価装置100のそれと概ね一致する。後述するように、評価装置101の検出作業では、深さ方向のSHG強度の分布が電界強度に依存することを検証するために、オフ期間(t1−t2)のタイミングt4においても、ヘテロ接合電界効果トランジスタ1にレーザ光を照射させる。
【0046】
図8に示されるように、評価装置101の制御装置40は、ヘテロ接合電界効果トランジスタ1のオフ期間(t1−t2)において、ノーマリオンのデバイスでは、ヘテロ接合電界効果トランジスタ1のドレイン電極7にストレス電圧(正の高電圧)を印加すると同時に、ゲート電極8にオフ電圧(負の電圧)を印加する。一例では、ストレス電圧が100Vに設定されており、ソース電極9には接地電圧が印加されており、ゲート電極8に−5Vが印加されている。一例では、オフ期間(t1−t2)は、200μsに設定される。これにより、ヘテロ接合電界効果トランジスタ1のドレイン電極7とゲート電極8の間には高電圧が印加され、ゲート電極8からドレイン側に向けて電子が注入される。注入された電子の一部は、ゲート電極8のドレイン側端部において、電子供給層6及びバルクにトラップされ、負帯電領域を形成する。
【0047】
このオフ期間(t1−t2)において、制御装置40は、所定のタイミングt4において、レーザ発振器11からレーザ光を出射させ、ヘテロ接合電界効果トランジスタ1にレーザ光を照射させ、ヘテロ接合電界効果トランジスタ1に2次高調波を発生させる。一例では、タイミングt4については、タイミングt1からの経過時間が100μsに設定される。
【0048】
次に、制御装置40は、ヘテロ接合電界効果トランジスタ1のドレイン電極7に接地電圧を印加すると同時に、ゲート電極8にオン電圧(接地電圧)を印加し、オン期間(t2以降)に移行する。なお、ソース電極9にも、接地電圧が印加されている。
【0049】
次に、制御装置40は、所定のタイミングt3において、レーザ発振器11からレーザ光を出射させ、ヘテロ接合電界効果トランジスタ1にレーザ光を照射させ、ヘテロ接合電界効果トランジスタ1に2次高調波を発生させる。一例では、タイミングt3については、タイミングt2からの経過時間が800nsに設定される。
【0050】
制御装置40は、図8に示される過程を1サイクルとし、これを複数回繰り返し、所定回数に達したときに、ヘテロ接合電界効果トランジスタ1の半導体層2の所定深さにおける検出作業を終了する。その結果、所定のタイミングt4及びt3で測定された検出信号の各々が積算される、ヘテロ接合電界効果トランジスタ1の半導体層2の所定深さにおけるSHG強度を含む情報が取得される。
【0051】
次に、評価装置101は、zスキャン21aを利用して対物レンズ21を移動させ、ヘテロ接合電界効果トランジスタ1の半導体層2の深さ方向の焦点位置を変更する。評価装置101は、変更された焦点位置において、上記と同様に、ヘテロ接合電界効果トランジスタ1の半導体層2の所定深さにおけるSHG強度を含む情報を取得する。このような検出作業を複数の焦点位置で実行することで、ヘテロ接合電界効果トランジスタ1の半導体層2の深さ方向に分布するSHG強度を含む深さ情報が取得される。
【0052】
図9に、検出されたSHG強度を含む深さ情報をヘテロ接合電界効果トランジスタ1の断面図に対応させて示す。なお、図9に示すSHG強度は、ゲート電極8からドレイン側に3μm離れた位置の結果である。また、ヘテロ接合電界効果トランジスタ1については、バッファ層4の厚みが約2.4μmであり、電子走行層5の厚みが約1.6μmであり、電子供給層6の厚みが約20nmである。
【0053】
オフ時に検出されたSHG強度は、半導体層2の表面側で強く、深部に向けて弱くなる。また、バッファ層4においては、SHG強度がほぼ検出されない。ヘテロ接合電界効果トランジスタ1がオフ時の電界は、半導体層2の表面側で強く、深部に向けて弱くなり、バッファ層4には生じない。このように、オフ時に検出されたSHG強度の分布は、電界分布と概ね一致する。このことから、検出されるSHG強度は、電界分布の観測に適用可能と考えられる。
【0054】
図9に示されるように、オン時に検出されたSHG強度は、半導体層2の表面側で強く、深部に向けて弱くなる。このことから、電流コラプス現象に影響する局所的な電界領域が、半導体層2の表面に強く存在することが確認された。また、オン時に検出されたSHG強度は、電子走行層5にも観察された。これは、電子走行層5の窒素空孔に電子がトラップされたからと考えられる。このように、本実施例の技術を利用すると、深さ方向のSHG強度から電流コラプス現象の発生位置を特定することができ、また、SHG強度から電流コラプス現象の強さを評価することができる。SHG強度から電流コラプス現象の強さを評価することができるので、不良品の選別にも有用である。
【0055】
上記実施例の評価装置101では、深さ方向の焦点位置を設定するために、対物レンズ21に接続するzスキャン21aを利用する。この例に代えて、ヘテロ接合電界効果トランジスタ1が載置されるステージがz方向に駆動するように構成されてもよい。
【0056】
評価装置101の深さ方向の分解能を向上させるために、レーザ発振器11が出射するレーザ光の品質を向上させるのが望ましい。特に、レーザ発振器11が出射するレーザ光の強度分布がガウシアン分布を示すのを利用するのが望ましく、そのガウシアン半径が1μm以下であるのが望ましい。
【0057】
半導体層2の面内方向のSHG強度を検出する技術と深さ方向のSHG強度を検出する技術を組み合わせるのが望ましい。これにより、ヘテロ接合電界効果トランジスタ1のSHG強度の分布を3次元で検出することができる。
【0058】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0059】
1:ヘテロ接合電界効果トランジスタ、 10:光照射装置、 11:レーザ発振器、 12:第1IRパスフィルタ、 13:NDフィルタ、 14:ミラー、 15:偏光板、 16:第2IRパスフィルタ、 17:レンズ、18:ローパスフィルタ、 20:検出装置、 21:対物レンズ、 22:ハーフミラー、 23:IRカットフィルタ、 24:バンドパスフィルタ、 25:光電変換装置、 26:処理部、 30:電圧生成装置、 40:制御装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9