(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、特許文献1などに記載された、ブタジエンゴムを配合した従来公知のタイヤ用ゴム組成物について検討したところ、ブタジエンゴムを配合することにより耐摩耗性は改善するものの、ブタジエンゴムの配合量によっては、破断伸びが低下する場合があり、その結果、作製されるタイヤにクラックなどの不具合が発生する場合があることを明らかとした。
【0006】
そこで、本発明は、耐摩耗性および破断伸びのいずれにも優れたタイヤ用ゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、ブタジエンゴムを所定量含有するジエン系ゴムに対してコバルトまたはコバルト化合物を特定量配合させたゴム組成物が、耐摩耗性および破断伸びがいずれも良好となることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明者は、以下の構成により上記課題が解決できることを見出した。
【0008】
[1] ジエン系ゴムと、コバルトまたはコバルト化合物と、を含有し、
上記ジエン系ゴムが、ブタジエンゴムを5〜70質量%含み、
上記コバルトまたは上記コバルト化合物の含有量が、上記ジエン系ゴム100質量部に対してコバルト量として0.01〜5質量部である、タイヤ用ゴム組成物。
[2] 上記コバルト化合物を含有し、上記コバルト化合物がコバルト塩またはコバルト錯体である、[1]に記載のタイヤ用ゴム組成物。
[3] 上記コバルト塩を含有し、上記コバルト塩が有機酸コバルト塩である、[2]に記載のタイヤ用ゴム組成物。
[4] [1]〜[3]のいずれかに記載のゴム組成物を、トレッドおよびサイドウォールからなる群から選択される少なくとも1つの構成部材に用いた空気入りタイヤ。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、耐摩耗性および破断伸びのいずれにも優れたタイヤ用ゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[タイヤ用ゴム組成物]
本発明のタイヤ用ゴム組成物(以下、単に「本発明のゴム組成物」とも略す。)は、ジエン系ゴムと、コバルトまたはコバルト化合物とを含有し、上記ジエン系ゴムがブタジエンゴムを5〜70質量%含み、上記コバルトまたは上記コバルト化合物の含有量が上記ジエン系ゴム100質量部に対してコバルト量として0.01〜5質量部である、タイヤ用のゴム組成物である。
【0012】
本発明においては、ブタジエンゴムを所定量含有するジエン系ゴムに対してコバルトまたはコバルト化合物を特定量配合させることにより、優れた耐摩耗性および破断伸びを達成することができる。
これは、ブタジエンゴムを所定量含有するゴム組成物において、コバルトまたはコバルト化合物を添加すると、その他のジエン系ゴムの劣化が抑えられるという新たな知見に基づくものである。すなわち、コバルトまたはコバルト化合物を配合していない系と比較して相対的にブタジエンゴムの配合量を減らしても耐摩耗性を向上させる効果を同等以上に発現させることができる。
以下に、本発明のゴム組成物が含有する各成分について詳細に説明する。
【0013】
〔ジエン系ゴム〕
本発明のゴム組成物が含有するジエン系ゴムは、少なくともブタジエンゴムを5〜70質量%含むものであれば特に限定されない。
ここで、上記ブタジエンゴムは、アルキル基、アリル基、アミノ基、イソシアネート基、ヒドロキシル基、チオール基、ビニル基、エポキシ基、チイラン基、カルボキシ基、カルボニル基含有基、アミド基、エステル基、イミド基、ニトリル基、チオシアン基、アルコキシ基、シリル基、アルコキシシリル基、ニトロ基等の中から選択される少なくとも1種の官能基で、側鎖や片末端または両末端が変成(変性)された誘導体であってもよい。
【0014】
また、上記ブタジエンゴムの重量平均分子量は、50000〜1000000であることが好ましく、200000〜800000であることがより好ましい。重量平均分子量をこのような範囲にすることにより、耐摩耗性をより向上させることができる。
ここで、ブタジエンゴムの重量平均分子量(Mw)は、テトラヒドロフランを溶媒とするゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により標準ポリスチレン換算により測定するものとする。
【0015】
更に、上記ブタジエンゴムは、耐摩耗性がより良好となり、破断伸びとのバランスも向上する理由から、ジエン系ゴムに5〜50質量%含まれていることが好ましく、5〜40質量%含まれていることがより好ましい。
【0016】
本発明においては、上記ブタジエンゴム以外のジエン系ゴムは、主鎖に二重結合を有するものであれば特に限定されず、その具体例としては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、芳香族ビニル−共役ジエン共重合ゴム〔例えば、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、スチレン−イソプレンゴム、スチレン−ブタジエン−イソプレンゴム(SBIR)〕、スチレン−イソプレンゴム(SIR)、スチレン−イソプレン−ブタジエンゴム(SIBR)等が挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
また、これらのジエン系ゴムは、アルキル基、アリル基、アミノ基、イソシアネート基、ヒドロキシル基、チオール基、ビニル基、エポキシ基、チイラン基、カルボキシ基、カルボニル基含有基、アミド基、エステル基、イミド基、ニトリル基、チオシアン基、アルコキシ基、シリル基、アルコキシシリル基、ニトロ基等の中から選択される少なくとも1種の官能基で、側鎖や片末端または両末端が変成(変性)された誘導体であってもよい。
これらのうち、耐摩耗性がより良好となり、加工性に優れるという観点から、NR、SBRを用いるのが好ましい。
【0017】
〔コバルトまたはコバルト化合物〕
本発明のゴム組成物は、上述したように、コバルトまたはコバルト化合物を上記ジエン系ゴム100質量部に対してコバルト量として0.01〜5質量部含有する。
ここで、「コバルト」とは金属コバルトを意味し、また、「コバルト化合物」とは金属コバルトを含有する化合物を意味する。
【0018】
本発明においては、ジエン系ゴムとの親和性の観点から、コバルトおよびコバルト化合物のうち、コバルト化合物を用いるのが好ましく、具体的には、後述するコバルト塩やコバルト錯体などを用いるのがより好ましい。
【0019】
<コバルト塩>
上記コバルト塩としては、具体的には、例えば、塩化コバルト、臭化コバルトなどのハロゲン化コバルト;水酸化コバルト、硝酸コバルト、硫酸コバルトなどの無機コバルト塩;酢酸コバルト、オクチル酸コバルト、ナフテン酸コバルト、マロン酸コバルト、ネオデカン酸コバルト、ステアリン酸コバルト、プロピオン酸コバルト、安息香酸コバルト、p−ヒドロキシ安息香酸コバルト、脂肪酸コバルト・ホウ素化合物〔例えば、マノボンド C CP420(マンケム社製)、マノボンド C C680(マンケム社製)の市販品など〕、ロジン酸コバルト、バーサチック酸コバルト、トール油酸コバルトなどの有機酸コバルト塩;が挙げられる。
これらうち、耐摩耗性と破断伸びとのバランスが向上する理由から、有機酸コバルト塩であるのが好ましい。
【0020】
<コバルト錯体>
上記コバルト錯体としては、具体的には、例えば、コバルト(II)ビスアセチルアセトネート;コバルト(III)トリスアセチルアセトネート;アセト酢酸エチルエステルコバルト;ハロゲン化コバルトの有機塩基錯体(例えば、トリアリールフォスフィン錯体、トリアルキルフォスフィン錯体、ピリジン錯体、ピコリン錯体、エチルアルコール錯体など);が挙げられる。
【0021】
本発明においては、上記コバルトまたは上記コバルト化合物の含有量は、上記ジエン系ゴム100質量部に対して、コバルト量として0.01〜5質量部であり、0.01〜1質量部であるのが好ましく、0.01〜0.5質量部であるのがより好ましい。
【0022】
〔カーボンブラック〕
本発明のゴム組成物は、カーボンブラックを含有しているのが好ましい。
上記カーボンブラックとしては、具体的には、例えば、SAF、ISAF、HAF、FEF、GPE、SRF等のファーネスカーボンブラックが挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
また、上記カーボンブラックは、ゴム組成物の混合時の作業性等の観点から、窒素吸着比表面積(N
2SA)が10〜300m
2/gであるのが好ましく、20〜200m
2/gであるのがより好ましい。
ここで、N
2SAは、カーボンブラック表面への窒素吸着量をJIS K 6217−2:2001「第2部:比表面積の求め方−窒素吸着法−単点法」にしたがって測定した値である。
【0023】
上記カーボンブラックを含有する場合の含有量は、上記ジエン系ゴム100質量部に対して、1〜100質量部であるのが好ましく、5〜80質量部であるのがより好ましい。
【0024】
〔その他の成分〕
本発明のゴム組成物は、上述した成分以外に、シリカ、炭酸カルシウムなどのフィラー;シランカップリング剤;硫黄等の加硫剤;スルフェンアミド系、グアニジン系、チアゾール系、チオウレア系、チウラム系などの加硫促進剤;酸化亜鉛、ステアリン酸などの加硫促進助剤;ワックス;アロマオイル;パラフェニレンジアミン類(例えば、N,N′−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミン、N−1,3−ジメチルブチル−N′−フェニル−p−フェニレンジアミン等)、ケトン−アミン縮合物(例えば、2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン等)などのアミン系老化防止剤;可塑剤;中空ポリマーなどの化学発泡剤;等のタイヤ用のゴム組成物に一般的に用いられている各種のその他添加剤を配合することができる。
【0025】
〔ゴム組成物の製造方法〕
本発明のゴム組成物の製造方法は、特に限定されず、例えば、上述した各成分を、公知の方法、装置(例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール等)を用いて、混練する方法等が挙げられる。
また、本発明のゴム組成物は、従来公知の加硫または架橋条件で加硫または架橋することができる。
【0026】
[空気入りタイヤ]
本発明の空気入りタイヤ(以下、単に「本発明のタイヤ」ともいう。)は、上述した本発明のゴム組成物を構成(ゴム)部材に用いた空気入りタイヤである。
ここで、本発明のゴム組成物を用いる構成部材は、トレッド部および/またはサイドウォール部であり、トレッド部であるのが好ましい。
図1に、本発明のタイヤの実施態様の一例を表すタイヤの模式的な部分断面図を示すが、本発明のタイヤは
図1に示す態様に限定されるものではない。
【0027】
図1において、符号1はビード部を表し、符号2はサイドウォール部を表し、符号3は本発明のゴム組成物から構成されるトレッド部を表す。
また、左右一対のビード部1間においては、繊維コードが埋設されたカーカス層4が装架されており、このカーカス層4の端部はビードコア5およびビードフィラー6の廻りにタイヤ内側から外側に折り返されて巻き上げられている。
また、タイヤトレッド3においては、カーカス層4の外側に、ベルト層7がタイヤ1周に亘って配置されている。
また、ビード部1においては、リムに接する部分にリムクッション8が配置されている。
また、タイヤの内面には、タイヤ内部に充填された空気がタイヤ外部に漏れるのを防止するために、インナーライナー9が配置されている。
【0028】
本発明のタイヤは、例えば、本発明のゴム組成物をタイヤトレッド部に用いた場合、優れた加硫物性と低発熱化の両立を図ることができる。
また、本発明のタイヤは、例えば、本発明のゴム組成物に用いられたジエン系ゴム、加硫または架橋剤、加硫または架橋促進剤の種類およびその配合割合に応じた温度で加硫または架橋し、タイヤトレッド部を形成することにより製造することができる。
【実施例】
【0029】
以下、実施例を示して、本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0030】
<実施例
3および比較例1〜6>
下記第1表および第2表に示す成分を、下記第1表および第2表に示す割合(質量部)で配合した。
具体的には、まず、下記第1表および第2表に示す成分のうち硫黄および加硫促進剤を除く成分を、1.7リットルの密閉型ミキサーで5分間混練し、135℃に達したときに放出して室温で冷却し、マスターバッチを得た。
次に、得られたマスターバッチに硫黄および加硫促進剤をオープンロールで混練し、ゴム組成物を調製した。
次に、得られたゴム組成物をランボーン摩耗用金型(直径63.5mm、厚さ5mmの円板状)中で、148℃で30分間加硫して加硫ゴムシートを作製した。
【0031】
<切断時伸び(E
B):(破断伸びの指標)>
作製した加硫ゴムシートからJIS3号ダンベル状の試験片を打ち抜き、引張速度500mm/分での引張試験をJIS K6251:2010に準拠して行い、切断時伸び(E
B)を室温(23℃)にて測定した。
測定結果は、下記第1表については比較例1の値を100とする指数で表し、下記第2表については比較例4の値を100とする指数で表し、それぞれ下記第1表〜第2表に示した。この指数が大きいほど破断伸びに優れることを意味する。
【0032】
<耐摩耗性>
作製した加硫ゴムシートについて、ランボーン摩耗試験機(岩本製作所社製)を用いて、JIS K 6264−2:2005に準拠し、付加力1.5kg/cm
3(=15N)、スリップ率50%、摩耗試験時間10分、試験温度を室温の条件で摩耗試験を行い、摩耗質量を測定した。
試験結果は、下記第1表については下記式(A)に示すように比較例1の測定値を基準とする指数(インデックス)で表し、下記第2表については下記式(B)に示すように比較例4の測定値を基準とする指数(インデックス)で表し、それぞれ下記第1表〜第2表に示した。この指数(インデックス)が大きいほど摩耗量が少なく、耐摩耗性が良好である。
指数=(比較例1の試験片の摩耗質量/測定値)×100 ・・・ (A)
指数=(比較例4の試験片の摩耗質量/測定値)×100 ・・・ (B)
【0033】
【表1】
【0034】
【表2】
【0035】
第1表および第2表に示す各成分は下記のとおりである。
・天然ゴム:RSS#3
・ブタジエンゴム:NIPOL BR 1220(日本ゼオン社製)
・カーボンブラック:ショウブラックN234(昭和キャボット社製)
・酸化亜鉛:亜鉛華3号(正同化学工業社製)
・ステリアン酸:ビーズステアリン酸(日本油脂社製)
・老化防止剤1:アミン系老化防止剤(サントフレックス 6PPD、フレクシス社製)
・老化防止剤2:アミン−ケトン系老化防止剤(ノクラック224、大内新興化学工業株式会社)
・ワックス:サンノック(大内新興化学工業株式会社)
・ナフテン酸コバルト:コバルト量10質量%(DIC社製)
・水酸化コバルト:コバルト量62.5質量%(和光純薬社製)
・硫黄:油処理硫黄(軽井沢精錬所社製)
・加硫促進剤:ノクセラーNS−P(大内新興化学工業社製)
【0036】
上記第1表に示す結果から、ブタジエンゴムを配合せずに調製した比較例1〜3のゴム組成物は、コバルト化合物の有無に問わず、耐摩耗性および破断伸びに変化がないことが分かった。
また、第2表に示す結果から、ブタジエンゴムを配合し、コバルト化合物を配合せずに調製した比較例4〜6のゴム組成物は、ブタジエゴムの配合量の増加とともに耐摩耗性が向上することが分かったが、ブタジエゴムの配合量の増加とともに破断伸びが劣ることも分かった。
これに対し、ブタジエンゴムとともに
水酸化コバル
トを配合して調製した実施
例3のゴム組成物は、比較例4よりも耐摩耗性が良好となり、また、破断伸びの低下も少なく、良好な破断伸びも維持できることが分かった
。