(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記焼成するステップが、第1の温度で加熱して一定時間の間保持するステップと、その後、前記第1の温度よりも高い第2の温度で加熱するステップとを含むものであることを特徴とする請求項1から3いずれか1項記載の方法。
【背景技術】
【0003】
牽引ローラは板ガラスの製造において、板ガラス成形の元となるガラスリボンに張力を加えるために使用される。すなわち、牽引ローラは板ガラスの呼び厚さを制御する。例えば、オーバーフローダウンドローフュージョンプロセスにおいて(Dockertyの特許文献1および特許文献2参照)、牽引ローラはフュージョンパイプ先端すなわち底部の下流に置かれ、この牽引ローラを使用して、形成されたガラスリボンがパイプを離れる際の速度を調節し、こうすることで完成後の板ガラスの呼び厚さを決定する。
【0004】
牽引ローラは、ガラスリボンの外側エッジで、具体的にはリボンのちょうどエッジの位置に存在している肉厚のビードのすぐ内側の領域で、ガラスリボンと接触するように設計することが好ましい。このローラの好適な構成においては、ミルボードなどの耐熱材料から成るディスクが採用され、これが被駆動シャフト上に取り付けられる。この構成の例は、Mooreの特許文献3、Asaumi他の特許文献4、およびHart他の特許文献5の中で見つけることができる。これらの文献は、その全体を参照することによって、そして牽引ローラの構成の例を説明するという特定の目的のために、本書に組み込まれる。
【0005】
好結果の牽引ローラは、いくつかの競合する基準を満たすことができるものである。新たに成形されたガラスは高温であるため、ローラはこの高温に相当長時間の間、耐え得るものであるべきである。ローラの交換は、所与の機械で製造し得る完成ガラスの量を減少させ、ガラスの最終的なコストを増加させることになる。このため、ローラがこういった環境の中で耐え得る期間は長ければ長いほど良い。
【0006】
ローラは、ガラスの厚さを制御するのに十分な牽引力を生み出すことができるものであるべきである。使用可能な完成ガラスとなるのはリボンの中心部分であるが、この部分を損傷しないよう、ローラはリボンのエッジの限定エリアのみでリボンと接触し得る。すなわち、必要とされる牽引力を、このエリアのみを用いて生み出さなければならない。しかしながら、ガラスに加える力を過剰に大きくすることはできず、というのも大きくし過ぎると、使用可能なリボン中心部分へと伝播し得る表面損傷を生成してしまう可能性があるためである。したがって、ガラスのエッジ領域に加える力が少なすぎたり多すぎたりといったことに関し、ローラはバランスを取るべきである。
【0007】
牽引ローラ材料の摩耗特性に起因して、またローラ表面にガラス粒子が埋め込まれたことによって牽引ローラが損傷しているかどうかに起因して、ガラスシート表面にさらに損傷が生じることがある。すなわち、牽引ローラの構成に使用されるミルボード材料は、長期に亘る製造期間中、破損したガラスによるプロセス損傷にも十分耐え得る硬度であるべきである。
【0008】
さらに、牽引ローラは過剰な量の粒子を放つものであるべきではない。この粒子はガラスに付着して、付着物(onclusion)として知られる表面欠陥を形成し得る。フラットパネルディスプレイ用基板などの要求が厳しい用途で使用されるガラスでは、各付着物が典型的には完成品の欠陥領域(例えば、1以上の欠陥画素)を呈することになるため、付着物は極低いレベルで維持されなければならない。牽引ローラの動作環境は高温であるため、ガラスリボンに十分な牽引力を与えることが可能でありかつ高温時に粒子を放つことのないような材料の提供は、困難な課題である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
既存の牽引ローラでは、高温での長寿命、制御された力の適用、硬度、および低汚染といった、競合する基準を完全に満足できたことがない。すなわち当技術では、既存の牽引ローラよりも高いレベルでこういった性能を実現する牽引ローラを手に入れる必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示は、ガラス製造用の牽引ローラに関し、より具体的には、牽引ローラの製造に用いられるミルボード材料を作製する手法に関する。本明細書および図面において開示される本発明の種々の特徴は、任意の組合せで、また全て組み合わせて、使用し得ることを理解されたい。非限定的な例として、本発明の種々の特徴を以下のように互いに組み合わせてもよい。
【0012】
第1の態様によれば、複数のミルボード片を備えた牽引ローラが提供され、この複数のミルボード片が既定の温度および時間で焼成されたものであり、その結果牽引ローラが、動作温度に露出されたときに、5%を超える熱的摂動による重量損失を受けないことを特徴とする。
【0013】
第2の態様によれば、態様1の牽引ローラが提供され、複数のミルボード片が、牽引ローラの組立て前に焼成されたものであることを特徴とする。
【0014】
第3の態様によれば、態様1の牽引ローラが提供され、この既定の温度および時間は、牽引ローラが動作温度に露出されたときに、3%を超える熱的摂動による重量損失をこの牽引ローラが受けないような温度および時間であることを特徴とする。
【0015】
第4の態様によれば、態様1の牽引ローラが提供され、この既定の温度および時間は、牽引ローラが動作温度に露出されたときに、1%を超える熱的摂動による重量損失をこの牽引ローラが受けないような温度および時間であることを特徴とする。
【0016】
第5の態様によれば、態様1から4いずれか1つに記載の牽引ローラが提供され、この温度および時間が、複数のミルボード片の少なくとも一部の熱プロファイルから決定されることを特徴とする。
【0017】
第6の態様によれば、態様1から5いずれか1つに記載の牽引ローラが提供され、複数のミルボード片が、少なくとも約750℃の温度で少なくとも約4時間の間、焼成されたものであることを特徴とする。
【0018】
第7の態様によれば、態様1から5いずれか1つに記載の牽引ローラが提供され、複数のミルボード片が、少なくとも約900℃の温度で、焼成されたものであることを特徴とする。
【0019】
第8の態様によれば、板ガラスを製造する方法が提供され、この方法は、態様1から7いずれか1つに記載の牽引ローラでガラスリボンの少なくとも一部に接触する工程を含むフュージョンプロセスを用いて、ガラスリボンを成形するステップと、その後このガラスリボンからガラスシートを分離させるステップとを含むことを特徴とする。
【0020】
第9の態様によれば、牽引ローラを作製する方法が提供され、この方法は、
a.複数のミルボードディスクを既定の温度および時間で焼成するステップ、および、
b.複数のミルボードディスクを牽引ローラシャフト上に組み立てて、牽引ローラを形成するステップ、
を含み、既定の温度および時間は、牽引ローラが動作温度に露出されたときに、5%を超える熱的摂動による重量損失をこの牽引ローラが受けないような温度および時間であることを特徴とする。
【0021】
第10の態様によれば、態様9の方法が提供され、複数のミルボードディスクが、牽引ローラシャフト上への組立ての前に焼成されることを特徴とする。
【0022】
第11の態様によれば、態様9または態様10の方法が提供され、この既定の温度および時間は、牽引ローラが動作温度に露出されたときに、3%を超える熱的摂動による重量損失をこの牽引ローラが受けないような温度および時間であることを特徴とする。
【0023】
第12の態様によれば、態様9または態様10の方法が提供され、この既定の温度および時間は、牽引ローラが動作温度に露出されたときに、1%を超える熱的摂動による重量損失をこの牽引ローラが受けないような温度および時間であることを特徴とする。
【0024】
第13の態様によれば、態様9から12いずれか1つに記載の方法が提供され、少なくとも約750℃の温度で加熱するステップを含むことを特徴とする。
【0025】
第14の態様によれば、態様9から13いずれか1つに記載の方法が提供され、焼成するステップが、第1の温度で加熱して一定時間の間保持するステップと、その後、第1の温度よりも高い第2の温度で加熱するステップとを含むものであることを特徴とする。
【0026】
第15の態様によれば、態様9から14いずれか1つに記載の方法が提供され、ステップaの前に、ミルボードディスクの熱プロファイルを、少なくとも牽引ローラの意図されている動作温度範囲に亘って決定するステップを含むことを特徴とする。
【0027】
第16の態様によれば、態様9から15いずれか1つに記載の方法が提供され、ここで前記既定の温度は、複数のミルボードディスクが牽引ローラの動作温度範囲に露出されたときに、熱的摂動によってこれ以上重量を損失することのないような温度である。
【0028】
第17の態様によれば、ミルボード材料用の加熱プログラムを決定する方法が提供され、この方法は、
a.ミルボード材料の一部の重量を、略周囲温度から少なくとも略牽引ローラ動作温度までの炉温で加熱している間に、監視するステップと、その後、
b.このミルボード材料から形成される牽引ローラが動作温度に露出されたときに5%を超える熱的摂動による重量損失を受けないような、ミルボード材料を焼成するべき温度および時間を決定するステップと、
を含むことを特徴とする。
【0029】
第18の態様によれば、態様17の方法が提供され、ステップbが、ミルボード材料から形成される牽引ローラが動作温度に露出されたときに3%を超える熱的摂動による重量損失を受けないような、ミルボード材料を焼成するべき温度および時間を決定するステップを含むことを特徴とする。
【0030】
第19の態様によれば、態様17の方法が提供され、ステップbが、ミルボード材料から形成される牽引ローラが動作温度に露出されたときに1%を超える熱的摂動による重量損失を受けないような、ミルボード材料を焼成するべき温度および時間を決定するステップを含むことを特徴とする。
【0031】
第20の態様によれば、態様17から19いずれか1つに記載の方法が提供され、複数のミルボード片をこの決定された温度および時間で焼成するステップをさらに含む。
【0032】
第21の態様によれば、態様17から20いずれか1つに記載の方法が提供され、複数のミルボード片を焼成した後に組み立てて、牽引ローラを形成するステップをさらに含む。
【0033】
第22の態様によれば、態様17から20いずれか1つに記載の方法が提供され、複数のミルボード片を焼成前に組み立てて牽引ローラを形成し、さらにその後、この牽引ローラを前記温度でかつ前記時間の間、焼成するステップをさらに含む。
【0034】
さらに別の態様において、本開示はミルボード材料用の加熱プログラムを決定する方法を提供し、この方法は、ミルボード材料の一部の重量を、略周囲温度から予想される牽引ローラ動作温度を超える温度(例えば、ニチアスSD−115材料では、この温度は1000℃以上になり得る)まで加熱している間に、監視するステップと、その後、このミルボード材料から形成される牽引ローラが動作温度に露出されたときに5%を超える熱的摂動による重量損失を受けないような、ミルボード材料を焼成するべき温度および時間を決定するステップとを含む。
【0035】
本開示のさらなる態様は、一部は以下の詳細な説明、図面、および任意の請求項の中に明記され、そして一部は詳細な説明から導かれるであろうし、あるいは開示される例示的な実施形態を実施することにより理解できるであろう。以下に記載する利点は、添付の請求項において特に指摘される要素および組合せによって実現かつ達成される。前述の一般的な説明および以下の詳細な説明は、単なる例示かつ説明のためのものであり、本開示を限定するものではないことを理解されたい。
【0036】
添付の図面は、本明細書に組み込まれかつその一部を構成し、本発明の特定の態様を示し、さらにその説明とともに、限定することなく、本発明の原理の説明に役立つ。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本開示は、以下の詳細な説明、図面、実施例、および請求項、さらにその前後の記述を参照することで、より容易に理解することができる。ただし、本物品および/または方法を開示および説明する前に、本開示は、他に明確に述べられていなければ、開示される特定の物品および/または方法に限定されるものではなく、したがって当然のことながら変化し得ることを理解されたい。さらに、本書において使用される専門用語は、特定の態様を単に説明するためのものであり、限定することを意図したものではないことも理解されたい。
【0039】
開示される方法および組成物のために使用し得る、これらと併せて使用し得る、これらの準備に使用し得る、またはこれらの生成物である、材料、化合物、組成、および成分が開示される。これらおよび他の材料が本書において開示されるが、これらの材料の混合物、サブセット、相互作用、群などが開示されるとき、こういった化合物の種々の個々のおよび集合的な組合せおよび置換の夫々に関して具体的な言及は明確には開示されないかもしれないが、これらの夫々は明確に意図され、かつ本書に記載されていると理解されたい。
【0040】
以下の説明は、本開示の実現可能な教示として、現在知られている実施形態を使って提供される。このため関連技術の当業者は、本書で説明する本開示の種々の態様に、本開示の有益な結果を手に入れたまま多くの変更を加え得ることを認識および理解するであろう。本開示の望ましい利点の中には、本開示のいくつかの特徴を選択することで、他の特徴を利用することなく得られるものもあることも明らかであろう。したがって当業者は、本開示の多くの改変および改作が、可能なものでありかつ特定の状況では望ましくさえあり得、さらに本開示の一部であることを認識するであろう。すなわち、以下の説明は本開示の原理を示すものとして提供され、これを限定するものではない。
【0041】
本書では、文脈が明らかに他に指示していなければ、単数形は複数の指示対象を含むものとする。すなわち、例えば、ある「ディスク」に言及したときには、文脈が明らかに他に指示していなければ、2以上のこのディスクを有する態様を含む。
【0042】
本書では、範囲を、「約」ある特定の値から、および/または「約」別の特定の値までと表現することがある。範囲がこのように表現されるとき、そのある特定の値から、および/または他方の特定の値までというのは、別の実施形態が含む。同様に、値が先行詞「約」を用いて近似値で表されるとき、その特定の値は別の態様を形成することを理解されたい。各範囲の端点は、他方の端点との関連でも重要であるし、また他方の端点と無関係に重要でもあることをさらに理解されたい。
【0043】
本書において、成分の「wt%」または「重量パーセント」または「重量によるパーセント」は、明確にその反対を述べている場合を除き、その成分が含まれている組成物の総重量に基づいたものである。
【0044】
本書で用いられる「重量損失」という用語は、ミルボード材料のおよび/またはミルボード材料を含んだ牽引ローラの、重量における損失を称するよう意図されたものであり、その重量損失は、ミルボード材料および/または牽引ローラの熱的摂動の結果として、例えば使用中に生じたものである。この重量損失は、限定するものではないが、例えば動作温度に露出されたときに、ミルボード材料および/または牽引ローラ内の成分(例えば、機能成分および/または不純物)が燃焼および/または揮発することによる重量損失を含むと意図されている。明確にその反対を述べている場合を除き、「重量損失」という用語は、例えば物理的摩耗などの、純粋に機械的摂動から生じる重量損失を称することは意図されていない。
【0045】
本書で用いられる「熱プロファイル」という用語は、指定された時間の間固定温度に露出されたときの、あるいは一定速度または変動速度での温度勾配に露出されたときの、材料の重量特性を称するよう意図されている。例えば、熱プロファイルは、材料が例えば燃焼および/または揮発によって重量を損失することになる温度、所与の温度での重量損失の速度、および/または所与の温度で安定した重量に到達するのに必要な時間を示すことができる。熱プロファイルを取得する温度または温度範囲は、例えば意図されている材料の用途に応じて変えてもよい。
【0046】
上で簡潔に示したように、本開示は、板ガラス製造プロセスにおいて例えば付着物を著しく低減させ得る、牽引ローラを提供する。本開示はさらに、牽引ローラを作製および使用する方法を提供する。一態様において、本開示の牽引ローラは、従来の牽引ローラと比較するとより長い寿命を呈し、すなわち故障までの運転時間を延長し得る。別の態様において、本発明の牽引ローラは、従来の牽引ローラよりも著しく付着物または欠陥が少ないガラスの製造を可能にすることができる。種々の態様において、本開示の方法は、熱的摂動による重量損失が使用中におよび/または動作温度への露出中に生じないように、ミルボード材料を既定温度で既定時間の間、焼成するステップを含む。
【0047】
僅かな付着物のレベルの変化であっても、例えばLCDディスプレイなどに使用される板ガラスの製造では重大なことになり得ることに留意されたい。
【0048】
板ガラスの製造において使用される牽引ローラは、上述したようにミルボード材料から生成することができる。一態様においては、ミルボードを小片に切断して焼成し、さらにその後これらの小片をシャフト上に面と面とを接触させて取り付けてもよい。夫々の外側表面は、牽引ローラの外部表面の一部を形成し得る。牽引ローラの外部表面の少なくとも一部は、ガラスシートに接触するよう適合され得る。別の態様において、ガラスシートに接触するよう適合された牽引ローラの部分は、典型的には、室温で30から60の間のショアD硬度を有し、好適には40から55の間のショアD硬度を有する。
【0049】
当然のことながら、様々な牽引ローラ構造が文献に存在し、かつこれらは板ガラスの製造において使用するのに適している。米国特許第6,896,646号明細書にはガラスシート製造用の牽引ローラが記載されており、この明細書は、その全体を参照することにより、そしてミルボード材料から牽引ローラを生成する方法を説明するという特定の目的のために組み込まれる。本開示は、特定の牽引ローラ構造または配置に限定されるものではなく、当業者は適切な牽引ローラ構造を容易に選択できるであろう。
【0050】
典型的な構造では、一対の牽引ローラがオーバーフローダウンドロープロセスにより成形されたガラスシートと係合し、このとき牽引ローラの外側表面の少なくとも一部がガラスシートに接触する。牽引ローラはさらにシャフトを含み得、このシャフトによって複数のミルボード片が支持され得るが、複数のミルボード片は、シャフトに取り付けられるときにミルボード片に軸方向の圧縮力を加えることができるカラーによって、所定位置に保持される。組み立てられた牽引ローラは、シャフトの少なくとも一端部上に位置付けられた軸受面を含んでもよい。牽引ローラは、ガラスシートとの接触に特に適合された部分をさらに含んでもよく、牽引ローラのその部分の外部表面がシャフトから延びている距離は、牽引ローラの周囲の部分がシャフトから延びている距離よりもさらに遠い。このような構造によれば、牽引ローラからの粒子がガラスシート上に付着物として堆積する可能性を減少させることができる。
【0051】
本開示の牽引ローラは、牽引ローラの形成に使用するのに適した任意のミルボード材料を含み得る。ミルボード材料は、ガラス製造を含む種々の産業で断熱材料としてしばしば使用される。ミルボード物品は典型的には、所望の成分のスラリーを生成し、回転するスクリーンシリンダを使用して成分を取込みかつ脱水し、脱水された成分を合成フェルトに、次いでアキュムレータローラに移し、そこでスラリーの層を所望の厚さになるまで互いの上に堆積させて生成される。これらの堆積された層を、細く切り、移動させ、さらに続く用途のために所望の寸法の平坦なシートに成形することができる。成形後および成形中に、ミルボードシートをローラで圧縮して均一な厚さにしてもよい。得られたミルボードシートを続いて加熱して、残留水分を取り除いてもよい。この技術に従っている一例のミルボード作製プロセスは、ハチェックマシン(Hatschek machine)である。米国特許第1,594,417号明細書、同第1,678,345号明細書、同第3,334,010号明細書、同第4,487,631号明細書、および同第5,989,170号明細書には、ミルボード製造のための種々の組成および方法が記載されており、これらの明細書は、その全体を参照することにより、そしてミルボード物品の製造方法を説明するという特定の目的のために組み込まれる。当業者は、ミルボード物品の製造のための適切なプロセス条件を容易に決定することができるであろう。
【0052】
一態様において、牽引ローラは、例えばニチアス社(Nichias)のSD−115などの市販のミルボード材料を含んでもよい。別の態様において、牽引ローラは、アルミノケイ酸塩耐火性繊維、ケイ酸塩、雲母、カオリン粘土、および他の随意的な機能成分から成る、ミルボードを含んでもよい。他の随意的な機能成分としては、セルロース、でんぷん、またはシリカなどが挙げられる。さらに他の態様において、牽引ローラはここで具体的に挙げたものとは異なる組成を有するミルボード材料を含むものでもよく、さらに本発明は、任意の特定のミルボード組成物に限定されるものではない。
【0053】
一態様において、ミルボード組成物の温度耐性は約800℃超であり、好適には約1,000℃超である。
【0054】
牽引ローラの圧縮性は、牽引ローラを形成しているミルボード片の密度に依存する。牽引ローラ、すなわちミルボード材料は、低圧縮性、例えば25℃で約15から約30パーセントの間、および/または約110℃で約5パーセント未満など、低圧縮性を呈することが望ましい。さらにミルボード材料は、高回復、例えば約30パーセント超、好適には約50パーセント超、そしてさらに好適には約60パーセント超など、高回復を呈することが望ましい。一態様においてミルボード材料の回復性は、牽引ローラが運転中に露出されるであろう温度、例えば約750℃などの高温で、少なくとも約30パーセント、好適には少なくとも約50パーセント、またはさらに好適には少なくとも約60パーセントである。特定の態様において、ミルボード材料の回復性は、少なくとも約750℃の温度で少なくとも約50パーセントである。このような回復率を有しているミルボード材料は、牽引ローラにかけた軸方向の圧縮力が取り除かれたときに、または牽引ローラのシャフトが熱膨張により伸長したときに、拡大することができ、こうして牽引ローラを形成しているミルボード片が分離しないようにすることができる。
【0055】
牽引ローラの重量損失は、運転中に、例えば牽引ローラを構成しているミルボード材料の成分が燃焼および/または揮発することで生じ得、このことにより、燃焼および/または揮発が生じたときに、その牽引ローラで製造されたガラスに付着物が形成される可能性がある。一態様において、これらの可燃性および/または揮発性成分は、焼成ステップにおいて容易に燃焼し得る、例えばセルロースなどの機能性材料を含み得る。重量損失は、組成または寸法の変化とは異なるものとすることができる。例えば、材料の重量損失は存在している全ての水分が追い出される100℃まで加熱されたときに、その組成および/または寸法を変化させることなく生じ得る。しかし、材料が焼成された後に湿気が存在していれば材料は水分を取戻し得るし、さらに平衡に達するまでこの吸収を続け得るため、注意しなければならない。このような重量損失はさらに、特に牽引ローラシャフトの熱膨張と合わさったときに、ミルボード材料のディスクの分離をもたらす可能性がある。比較的小さい重量損失であっても、牽引ローラの性能および寿命において重大なものとなり得る。例えば、運転中の約1.5%の重量損失は、65インチ(約165.1cm)の牽引ローラを完全に覆っているミルボード材料では約4つのディスクと同等となり得、98インチ(約248.9cm)の牽引ローラのミルボード材料では約7のディスク、さらに143インチ(約363.2cm)の牽引ローラでは約11のディスクと同等となり得る。例えば特定の温度で相変化が起きた場合、材料の重量は変化せずに、組成および/または寸法が変化する可能性もある。例えば結晶相の変化は、必ずしも重量の変化をもたらすものではない。さらに、温度が上昇して材料の収縮が増すと、重量が変化することなく組成および/または寸法の変化が生じることがあり、同じ重量が占める容積が減少して、これには、密度を増加させるという効果もある。
焼成パラメータの決定
種々の態様において、本開示の方法は、熱的摂動による重量損失が使用中におよび/または動作温度への露出中に生じないように、ミルボード材料を既定温度で既定時間の間、焼成するステップを含む。
【0056】
一態様において、この既定温度および既定時間はミルボード材料の熱プロファイルから得られる。別の態様において、この既定温度および既定時間は、使用中または動作温度への露出中の熱的摂動による重量損失を防ぐのに十分なものである。さらに別の態様において、この既定温度および既定時間は、ミルボード材料、および/またはミルボード材料から作製された牽引ローラが、動作温度への露出時に熱的摂動の結果として、5%を超える重量損失を受けることのないような温度および時間である。さらに他の態様において、この既定温度および既定時間は、ミルボード材料、および/またはミルボード材料から作製された牽引ローラが、動作温度への露出時に熱的摂動の結果として、4%を超える重量損失、3%を超える重量損失、2%を超える重量損失、1.5%を超える重量損失、1%を超える重量損失、または0.5%を超える重量損失を、受けることのないような温度および時間である。さらに他の態様において、ミルボード材料のおよび/またはミルボード材料から作製された牽引ローラの重量損失率は変化してもよいが、この場合、この牽引ローラで製造されたガラスに含まれる付着物の割合が、従来の牽引ローラで製造されたものと比較して著しく減少していることを条件とする。
【0057】
一態様においてミルボード材料は、ミルボード材料がローラ(このミルボード片から生成される)の動作温度に露出されたときに実質上重量損失を呈さないよう、牽引ローラの組立て前に焼成される。
【0058】
一態様においてミルボード材料を焼成するための望ましい温度および時間は、例えば、時間および/または温度に対する材料の重量損失を示す、ミルボード材料の熱プロファイルを用いて決定することができる。例えば、熱プロファイルを確認し得る1つの手法は熱重量分析を用いたものであり、ここでは温度勾配を受けているときにミルボード材料の質量を監視する。熱重量分析は、材料の重量損失(または重量増加)を温度の関数として計測する分析技術である。材料が加熱されると、乾燥や、あるいは例えばガスを遊離させる化学反応により、重量を失うことがある。材料の中には、例えば窯などのテスト環境内の雰囲気と反応することによって重量が増加するものもある。重量の損失や増加は材料にとって破壊的なプロセスとなり得るため、この反応の大きさや温度範囲を知っていることは、反応期間中の加熱時の熱傾斜や保持温度を適切に設計するために有用となり得る。その後この熱プロファイルを使用して、ミルボード材料がそれ以上重量を失うことのない温度であって、例えばミルボード材料のまたはミルボード材料から作製された牽引ローラの、意図されている動作温度以下の、この動作温度を含む、またこの動作温度を超える、温度を決定することができる。予想される動作温度を超えたときに材料が重量を失うかどうかを知っておくことは有用であり、そうすれば温度が予想される動作温度を上回る事象に対しては、焼成時間および焼成温度で補うことができる。材料を温度の関数として特徴付けるために使用し得る別の分析技術は示差熱分析である。示差熱分析は、系に熱が加えられたときに、試料と基準物質との間の温度差を計測するものである。この方法は、相転移、脱水、および分解、酸化還元、または固相反応などの、吸熱および発熱プロセスに対して高感度である。示差熱分析においてミルボード材料を加熱すると、生じる任意の相変化を、その生じる温度で識別することができる。例えば熱プロファイル完成前の進行中の反応や、動作温度以上で望ましい反応(より低い温度で、これ以上の重量損失が見られない場合でも)などの、任意のこの相変化を理解することは重要となり得る。
【0059】
一態様において、図は示差熱分析を微分曲線で示したものである。相変化をもたらす反応は、その反応が生じた温度で、曲線中に急降下として現れている。例えば100℃では、水分が追い出されたことで急降下が生じている。300℃での急降下は、でんぷんやセルロースなどの有機成分が燃焼して生じたものである。520℃では、ミルボード内の粘土が他の成分と反応したことで急降下が生じている。
【0060】
一態様において熱プロファイルは、牽引ローラの運転中に予想され得るものと同じあるいは類似の環境条件で、例えば空気または不活性雰囲気の下で得られたものでもよい。
【0061】
一態様において熱プロファイルは、例えばミルボード材料内の成分の燃焼および/または揮発に起因してミルボード材料が重量を失う温度を示すことができる。別の態様において熱プロファイルは、ある温度でのまたはある温度範囲に亘る重量損失の割合、あるいはミルボード材料内のいくつかの成分を完全にまたは実質上燃焼および/または揮発させるのに必要な時間、を示すことができる。
【0062】
ニチアスSD−115ミルボード材料の例示的な熱プロファイルが図に描かれている。図に示されているように、ミルボード材料は約100℃、300℃、および520℃前後のいくつかの明確な範囲に亘って重量を損失し、さらにその後、約550℃から約850℃の範囲に亘って徐々に重量を失っている。約900℃を超えるとさらなる重量損失は見られず、平坦な直線で示されている。
【0063】
一態様において熱プロファイルは、周囲温度から最大で牽引ローラの動作温度付近までの(およびこれを超える)温度範囲に亘って得ることができる。動作温度は、例えば、製造されるガラスの具体的な種類や寸法に応じて変化し得ることに留意されたい。別の態様において熱プロファイルは、動作温度が予想外に増加した場合に補うことができるよう、牽引ローラの動作温度を超える温度範囲に亘って得てもよい。例えば、牽引ローラの意図されている動作温度が約750℃である場合には、ミルボード材料が750℃を超える温度に露出されたときにどのように挙動するかを理解していると有利であろう。この例では、ミルボード材料は最大約800℃まで重量を損失し続け得る。すなわち、ミルボード材料を単に750℃で焼成した場合には、種々の態様において、ミルボード材料内に可燃性および/または揮発性の材料が残されている可能性があり、このため運転中に意図していない温度変動(急上昇など)があったときに問題が生じることがある。
【0064】
別の例示的な態様において、ミルボード材料は意図されている動作温度未満の温度範囲のみに亘って重量を損失することもある。例えば、牽引ローラの意図されている動作温度は約1000℃となることもあるが、牽引ローラを構成しているミルボード材料が、約650℃から約800℃までの範囲のみに亘って重量を損失するものであることもある。この例では、意図されている動作温度である約1000℃でミルボード材料を焼成することは不要であろうし、さらにエネルギーの浪費、コスト増、および製造時間の増加に繋がり得る。
【0065】
一態様において、ミルボード材料を焼成するべき既定の温度および時間は、熱的摂動に起因する使用中のさらなる重量損失を防ぐのに十分なものである。別の態様において、ミルボード材料を焼成するべき既定の温度および時間は、安定した重量に達するのに必要な最小の温度および時間であり、略動作温度以下である。一態様において、ミルボード材料を焼成するべき温度および時間は、動作温度に露出した際に最小限の許容できる重量損失のみが生じるであろう温度を特定して決定してもよい。例えば、図を参照すると、予想される動作温度が約760℃以下であり、かつ約0.5%の重量損失が許容できる場合には、ミルボード材料を約700℃で焼成して、さらなる重量損失が生じなくなるまで保持してもよい。すなわち、直線1(700℃での重量)と2(760℃での重量)との間の重量損失は約0.5%である。さらに図を参照すると、付着物を防ぐために0.5%未満の重量損失が要求され、かつ動作温度がここでも約760℃以下である場合には、ミルボード材料は少なくとも約760℃で焼成するべきであり、好適には約760℃よりも高い温度で(760℃超でさらなる重量損失が存在し、また予想外の温度変動を補うため)、さらに好適には約900℃で(直線2から3までに約1%の重量損失が存在しているため)、そしてさらに好適には約1000℃で焼成するべきであり、かつ約4〜5時間の間保持するべきであって、すなわち900℃から少なくとも1000℃まで、明白なそれ以上の重量損失はない。この例においてミルボード材料を焼成する時間は、加熱速度を変化させておよび/または固定温度で加熱して、時間に対する重量損失を監視することにより、熱プロファイルから決定してもよい。一態様において、ミルボード材料を焼成するべき時間の長さ、またはミルボード材料を既定温度で保持するべき時間の長さは、ミルボード材料の熱質量に依存し得る。
【0066】
すなわち一態様において、本開示の種々の方法は、望ましい焼成時間および焼成温度を決定する機構を提供するものである。種々の態様においてこれらの方法は、重量の損失によって使用中に生じる問題を排除することで、牽引ローラの性能を向上させることができるとともに、時間とエネルギーの無駄を低減させることができる。
【0067】
一態様では、ミルボードを分析してもよいし、および/または、ガラス製造中に直面し得る例えば約600℃から約1000℃またはそれ以上までなどの温度にミルボードを曝してもよい。
【0068】
すなわち一態様において、熱重量分析により示されるような、温度の関数としての材料の重量損失の挙動は、牽引ローラの加工前に理解することができる。
【0069】
熱プロファイルと、すなわちミルボード材料を焼成するための望ましい温度および時間は、例えば、ミルボードの組成、不純物、具体的な製造ロット、および他の環境要因に基づいて変わり得ることを理解されたい。所与のミルボード材料の熱プロファイルは、時間とともに変化する可能性があることも理解されたい。すなわち一態様においては、各ロットまたは各種類のミルボード材料の熱プロファイルを牽引ローラの加工前に確認することができるため有利である。
ミルボード材料の焼成
一態様において、ミルボード材料のディスクは、牽引ローラへの組立ての前に焼成される。一態様において、ミルボード材料は、牽引ローラの予想される動作温度での任意のさらなる重量損失を排除するあるいは最小とするのに十分な温度および時間で(牽引ローラへの組立ての前に)焼成してもよい。この温度および時間で焼成することで、牽引ローラが製造時に置かれたときに、重量または嵩密度を失わないようにすることができる。
【0070】
例示的な態様において、ニチアスSD−115では、ミルボード材料を少なくとも約900℃で焼成して、さらなる重量損失が生じないような時間の間これを保持してもよい。一態様において、この時間は、少なくとも約2時間、少なくとも約3時間、少なくとも約4時間、または少なくとも約5時間を含み得る。特定の態様では、この時間は少なくとも約4時間を含む。
【0071】
別の態様においては、ミルボード材料を第1の温度で焼成して一定の時間保持し、実質上全ての重量損失が生じるようにしてもよい。ある例示的な態様においては、ミルボード材料を約700℃から約760℃までの温度で焼成し、一定の時間保持してもよい。この態様では、その後ミルボード材料をより高温の第2の温度で加熱して、一定の時間保持してもよい。ある例示的な態様において、第2の温度は少なくとも約800℃でもよく、少なくとも約900℃でもよく、あるいは少なくとも約1,000℃でもよい。さらに他の態様において、焼成は単一ステップ(例えば、炉温をランピングさせて直接単一の温度で加熱すること)で行ってもよいし、あるいは複数ステップ(例えば、材料を第1の温度で焼成して一定時間の間保持し、その後第2の温度で焼成して第2の一定時間の間保持するなどの2以上のステップ)で行ってもよい。
【0072】
焼成ステップでミルボード材料(牽引ローラの一部としての、あるいは牽引ローラに組み立てる前の)を加熱する速度は、ミルボード材料の準備で使用するのに適した任意の速度とすることができる。一態様においては、ミルボード材料を加熱する際の具体的な速度は重要ではなく、任意の速度を利用してもよい。別の態様において、ミルボード材料を加熱する速度は、ミルボード材料の焼成に使用される温度範囲に亘って相変化が生じないまたは実質上生じないことを条件に、任意の速度、または任意の速度の組合せを含んだものとすることができる。ミルボード材料の焼成に使用される温度範囲で生じる相変化がある場合には、材料を特定の温度でかつ特定の時間の間保持して、より高い温度で加熱する前に相変化を生じさせると有利であろう。別の態様において、ミルボード材料が加熱され得る速度は、ミルボード材料内の成分が燃焼および/または揮発するのに十分な時間を提供する、任意の速度を含んでもよい。この態様では、可燃性のおよび/または揮発性の成分は除去されるため、こういった成分がミルボード材料内に捕捉されて、続いて使用中に燃焼または揮発することはないであろう。種々の態様においてミルボードは、約50℃/hから約150℃/hまでの速度、例えば、約50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、105、110、115、120、125、130、135、140、145、または150℃/hなどで加熱してもよく、あるいは約80℃/hから約120℃/hまでの速度、例えば、約80、85、90、95、100、105、110、115、または120℃/hで加熱してもよい。さらに別の態様において、ミルボードを約100℃/hの速度で加熱してもよい。他の態様において、ミルボードを約50℃/h未満の速度で加熱してもよいし、あるいは約150℃/h超の速度で加熱してもよく、本開示は任意の特定の加熱速度に限定されることは意図していない。
【0073】
焼成後、安全に取り扱うことができるおよび/または牽引ローラシャフト上に置くことができる温度まで、ミルボード材料を冷却してもよいし、あるいはこの温度までミルボード材料を冷却可能なものとしてもよい。
牽引ローラの構成
適切な数の焼成されたミルボードディスクを牽引ローラのシャフト上に置いて押圧し、1組の止め輪を含むカラーなどのロック機構を適用して、ディスクを圧縮した状態で保持してもよい。その後この押圧されたシャフトを、設置および使用の前に、所望の寸法に切断してもよい。
【0074】
一態様において、ミルボード材料を牽引ローラまたは牽引ローラの一部に組み立てるのは、焼成前でもよいし、または焼成後でもよく、あるいは例えばいくらかの重量損失が動作温度での熱的摂動により未だ生じ得るような、部分的に焼成した後でもよい。別の態様では、運転中に熱的摂動による重量損失が生じないまたは実質上生じないように、ミルボード材料を組立ての前に焼成してもよい。牽引ローラを最初に、運転中の動作温度範囲内の温度で加熱した場合には、牽引ローラの予想される動作温度範囲に亘って重量変化がなくなるまで加熱したものとは対照的に、牽引ローラから材料が燃焼して、付着物の欠陥がガラスに生成される可能性がある。さらに、牽引ローラの加工前にミルボード材料を焼成すると、材料の収縮がなくなることになり、得られる牽引ローラの嵩密度と硬度が維持される。さらに、得られる牽引ローラの寿命が長くなり、また牽引ローラのガラス粒子による損傷に対する耐性が向上する。
牽引ローラの性能
一態様において、本書において説明した種々の方法に従って焼成されたミルボード材料は、すなわち牽引ローラの予想される動作範囲内の温度で加熱されたときに熱的な理由で重量が変化することがないが、このミルボード材料を用いて形成された牽引ローラは従来の牽引ローラよりも大幅に付着物のレベルを減少させることができる。種々の態様において、この減少は、最大で約30%、40%、50%、60%、70%、または70%超になり得る。特定の態様において、本書において説明したように焼成したミルボード材料を用いて作製された牽引ローラは、例えば、68%の付着物の削減を実現することができる。
【0075】
ある例示的な態様において、牽引ローラへの組立て前に―本書で説明したように―ミルボード材料を焼成し、このミルボード材料を用いて形成された牽引ローラを使用すると、従来の牽引ローラを使用したときに約6.5%であった付着物の割合を約3.9%まで減少させることができる。特定の牽引ローラの具体的な位置に応じて、このレベルをさらに約2.0%まで減少させることができる。
【0076】
最も高い位置、すなわちガラスが成形装置から離れて落ちてくる地点の最も近くでは、動作温度が最も高くなるが、本開示で説明したように形成されたローラをこの位置に設けて使用すると、種々の態様において、従来のローラに対し付着物を大幅に減少させることができる。この態様において、従来のローラのディスクは重量を損失し、それにより粒子および/または破片が生成されたのであろうが、これは加工中に経験した温度よりも動作温度が高くなり得るためである。ディスクをさらなる重量損失が生じることのない温度で焼成すると、製造時に最も高い位置にある牽引ローラにおいて、使用中にさらに重量損失が生じたり付着物が発生したりする可能性を、低減または排除することができる。この技術によれば、加工された牽引ローラの嵩密度を事実上不変のまま維持し、それによりローラの寿命を延長させることも可能になる。
【0077】
より低い位置に置かれたローラは、より高い位置のローラよりも動作温度は低いであろうが、従来のローラのディスクが加工中に経験した温度よりは依然として高い可能性がある。本開示の種々の方法により製造される牽引ローラの利点は、一態様において、ミルボード材料内の成分の燃焼および/または揮発による付着物が生成されないことである。この牽引ローラによれば、加工されたローラの嵩密度を事実上不変のまま維持し、ローラの寿命を延長させることも可能になる。
【0078】
本開示の原理をさらに説明するために、どのようにミルボードを準備し、またどのようにミルボードから牽引ローラを作製するかについて、以下の例を示すことで通常の当業者に完全な開示および説明を提供する。これらは本開示の単なる例示であって、本発明者が彼の開示であると考えている範囲を限定するものではない。数(例えば、量、温度など)に関する確度を確実にするための努力は行ってきたが、いくらかの誤差や偏差は生じる可能性がある。他に指示されていなければ、温度は摂氏(℃)または周囲温度であり、圧力は大気圧または略大気圧である。
【実施例1】
【0079】
熱的性質の決定
第1の例では、市販のミルボード材料(ニチアスSD−115)に熱重量分析を施して、牽引ローラの予測される動作温度範囲に亘って生じる重量損失の量を決定した。図に示されているように、ミルボード材料は約100℃、300℃、および520℃の温度で加熱されたときに重量を損失し、周囲温度から700℃までの炉の温度範囲に亘っておよそ15.2wt%を損失した。炉温が700℃から900℃まで上昇すると、ミルボード材料はさらに1.5wt%を損失した。900℃から1000℃までの炉の温度範囲では、ミルボード材料は感知できるような重量損失を呈さなかった。すなわち、この材料に対する望ましい最大焼成温度は、900℃と選択される。
【0080】
この例において、ミルボード材料が約700℃の温度でのみ焼成され、かつ牽引ローラが760℃の動作温度に露出されたとしたら、重量損失は図に示されているように、その重量の0.5%となったであろう。この材料から作製された別の牽引ローラが約700℃の温度で焼成され、かつ牽引ローラが900℃以上の動作温度に露出されたとしたら、重量損失は図に示されているように、その重量の1.5%となったであろう。この重量損失は牽引ローラに損傷をもたらし得、かつ製造されるガラスに付着物を生じさせ得る。後者の事例では、牽引ローラが前者の事例の3倍の付着物を生成すると予想される。
【0081】
一方、本開示の方法を使用すると、ミルボード材料を重量が失われる温度の最高温度で焼成してもよいし、意図される動作温度である例えば約900℃付近までの温度で、またこの温度を超えた温度で焼成してもよく、かつさらなる重量損失が見られなくなるまで保持することで、使用中の重量損失を防ぐことができる。
【実施例2】
【0082】
牽引ローラ用ミルボード材料の焼成
第2の例では、牽引ローラの形成に適した複数のニチアスSD−115ミルボード片に、実施例1で得られた結果に基づき既定の温度のプログラムを施してもよい。
【0083】
ミルボード材料を第1の温度である約760℃で加熱してもよく、このとき炉の温度を周囲温度から約100℃/hの加熱速度で上昇させ、その後一定の時間保持する。ミルボードを続いて第2の温度である約900℃で加熱して、さらに約4.75時間の間保持してもよく、ここでも炉の温度を約100℃/hの速度で上昇させる。加熱されたミルボード材料をその後ゆっくりと冷却してもよく、こうすることでミルボード材料を安全に取り扱いかつ移動させることができる。
【実施例3】
【0084】
牽引ローラ用ミルボード材料の焼成
第3の例では、重量損失が約700℃から850℃の温度範囲に亘って生じ得ることを示した前に得られた熱プロファイルに基づき、牽引ローラの形成に適した複数のミルボード片に既定の温度のプログラムを施してもよい。この例では、ミルボード材料を周囲温度から約900℃までの炉温で加熱し、動作温度に露出したときに1%を超える重量変化がさらに生じないようにするのに十分な時間これを保持してもよく、例えばこの十分な時間は約4から5時間となり得る。900℃で4から5時間保持した後、ミルボード材料を取扱いできるよう、冷却してもよいし、あるいは冷却可能にしてもよい。
【実施例4】
【0085】
付着物の低減
第4の例では、約900℃で約4時間加熱したニチアスSD−115ミルボード材料を用いて、牽引ローラを製造した。
【0086】
この牽引ローラを#1位置と#2位置とに設置したとき、付着物の割合は、従来の牽引ローラで平均約6.5%であったのに比べて、約3.9%であった。#1位置はフュージョンパイプ先端すなわち底部のすぐ下に定められ、製造工程の開始時点に、またはフュージョンパイプ先端すなわち底部に向かって上方にリボンを破壊させるようなプロセスのアプセット後に、ガラスリボンを成立させるために使用される。この位置で使用されるローラは最も高温の動作温度を経験し、材料の焼成温度がこの動作温度未満である場合には付着物が生じる可能性が最も高くなる。重量損失が生じなくなる温度でローラを焼成すれば、ローラの嵩密度は設置時には変化せず、またより低い温度で焼成されたローラほどは急速に摩耗しないため、ガラスリボンを成立させるためのローラの摩耗によって付着物が生じる可能性は大幅に低くなる。#2位置は#1位置のすぐ下に定められる。ガラスリボンが#1位置のローラで成立すると、#2位置のローラがリボン上に置かれるが、これはリボンの使用可能な中心部分より外側でガラスと接触し、そしてプロセスを通じてリボンを牽引するために使用される。この位置で使用されるローラは#1位置で使用されるものよりも低い動作温度を経験するが、材料の焼成温度がこの動作温度未満である場合には依然として付着物の可能性がある。さらにこれらのローラは、使用可能なガラスシートの製造中にガラスと接触するので、ローラの摩耗から生じるいかなる付着物も製造されたガラスシートを不合格にさせる可能性がある。重量損失が生じなくなる温度でローラを焼成すれば、ローラの嵩密度は設置時には変化せず、またより低い温度で焼成されたローラほどは急速に摩耗しないため、ローラの摩耗によって付着物が生じる可能性は大幅に低くなる。
【0087】
この牽引ローラを#4の位置に設置したとき、この性能が向上し付着物レベルは約2.0%に減少した。#4位置(および、さらに低い位置)は#2位置のローラの十分下方に定められ、概してガラスリボンの牽引ではなく誘導に使用される。この位置(および、さらに低い位置)のローラは大幅に低い動作温度を経験し、この動作温度は一般に焼成温度よりも低い。しかしながら、ローラの摩耗による付着物という懸念材料が残り得る。重量損失が生じなくなる温度でローラを焼成すると、ローラの嵩密度は設置時には変化しないはずであり、またより低い温度で焼成されたローラほどは急速に摩耗しない。すなわち、ローラの摩耗によるオンクルージョの可能性が大幅に低くなる。
【0088】
本書において論じた概念にしたがって作製された牽引ローラによれば、牽引ローラの寿命を約30〜60日改善させることができる。
【0089】
本出願全体を通して種々の刊行物が参照されている。これらの刊行物の開示は、本書に記載される化合物、組成、および方法をより十分に説明するために、その全体が参照することにより本書に組み込まれる。
【0090】
本書に記載された概念、化合物、組成、および方法に対し、種々の改変および変形が作製可能である。本書に記載された概念、化合物、組成、および方法の他の態様は、本明細書を検討することにより、また本書において開示された概念、化合物、組成、および方法を実施することにより明らかになるであろう。本明細書および実施例は、例示と見なされるよう意図されている。