【実施例】
【0059】
以下に実施例を示して本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0060】
[3,5−ジペンタデシロキシベンズアミジン塩酸塩の合成]
3,5−ジヒドロキシベンゾニトリル0.50g、1−ブロモペンタデカン2.70g、炭酸カリウム2.56gおよびアセトン30mlを混合し、一夜加熱還流した後、水を加え、塩化メチレンで抽出し、水洗した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。溶媒を留去して、無色の結晶として3,5−ジペンタデシロキシベンゾニトリル0.33gを得た。これをメタノール20mlとベンゼン35mlの混合溶媒に溶解し、氷冷下1時間塩化水素ガスを導入した。減圧下溶媒を留去し得られた結晶をクロロホルムとヘキサンで再結晶して3,5−ジペンタデシロキシ−α−メトキシ−α−イミノトルエン塩酸塩0.28gを得た。これをクロロホルム10m1に溶解し、氷冷下40分間アンモニアガスを導入した後、4.5時間加熱還流した。減圧下溶媒を留去し得られた固体からクロロホルム不溶物を除去して、無色の結晶0.20gを得た。このものの機器分析データは下記式の構造を支持する。
1H−NMR(CDCl
3) δ(ppm):6.92(s,2H)、6.65(s,1H)、3.99(t,4H,J=6.4Hz)、1.77−1.22(m,52H)、0.88(t,6H,J=6.8Hz)
融点149〜150℃
【0061】
【化14】
【0062】
[薬剤溶出バルーンの作製]
〈実施例1〉
(1)コーティング溶液1の調製
1.1)合成した3,5−ジペンタデシロキシベンズアミジン塩酸塩(以下「TRX−20」という。)(60mg)を量りとり、テトラヒドロフラン(以下「THF」という。)(1mL)に加えて溶解し、60mg/mL TRX−20/THF溶液を調製した。
1.2)パクリタキセル(以下「PTX」という。CAS No.33069−62−4)(80mg)を量りとり、THF(2mL)を加えて溶解し、40mg/mL PTX/THF溶液を調製した。
1.3)60mg/mL TRX−20/THF溶液(24μL)と、40mg/mL PTX/THF溶液(200μL)とを混合し、コーティング溶液1を調製した。調製したコーティング溶液中のPTXに対するTRX−20の質量比は、TRX−20/PTX=0.18/1であった。
(2)バルーンへの薬剤コーティング
拡張時サイズが直径3.0×長さ20mm(拡張部)のバルーンカテーテル(テルモ社製、バルーン部分(拡張部)の素材はナイロン、以下同じ。)を準備した。拡張したバルーンをパクリタキセル量が約3μg/mm
2となるように、コーティング溶液1をピペットでコートし、バルーンを乾燥させ、薬剤溶出バルーンを作製した。
【0063】
〈実施例2〉
(1)コーティング溶液2の調製
1.1)合成したTRX−20(60mg)を量りとり、THF(1mL)に加えて溶解し、60mg/mL TRX−20/THF溶液を調製した。
1.2)PTX(80mg)を量りとり、THF(2mL)を加えて溶解し、40mg/mL PTX/THF溶液を調製した。
1.3)60mg/mL TRX−20/THF溶液(48μL)と、40mg/mL PTX/THF溶液(200μL)とを混合し、コーティング溶液2を調製した。調製したコーティング溶液中のPTXに対するTRX−20の質量比は、TRX−20/PTX=0.36/1であった。
(2)バルーンへの薬剤コーティング
拡張時サイズが直径3.0×長さ20mm(拡張部)のバルーンカテーテル(テルモ社製、バルーン部分(拡張部)の素材はナイロン)を準備し、調製したコーティング溶液2を用いて、パクリタキセル量が約3μg/mm
2となるように、実施例1と同様にして、薬剤溶出バルーンを作製した。
【0064】
〈実施例3〉
(1)コーティング溶液3の調製
1.1)合成したTRX−20(40mg)を量りとり、THF(1mL)に加えて溶解し、40mg/mL TRX−20/THF溶液を調製した。
1.2)PTX(80mg)を量りとり、THF(2mL)を加えて溶解し、40mg/mL PTX/THF溶液を調製した。
1.3)40mg/mL TRX−20/THF溶液(120μL)と、40mg/mL PTX/THF溶液(200μL)とを混合し、コーティング溶液3を調製した。調製したコーティング溶液中のPTXに対するTRX−20の質量比は、TRX−20/PTX=0.6/1であった。
(2)バルーンへの薬剤コーティング
拡張時サイズが直径3.0×長さ20mm(拡張部)のバルーンカテーテル(テルモ社製、バルーン部分(拡張部)の素材はナイロン)を準備し、調製したコーティング溶液3を用いて、パクリタキセル量が約3μg/mm
2となるように、実施例1と同様にして、薬剤溶出バルーンを作製した。
【0065】
〈実施例4〉
(1)コーティング溶液4の調製
1.1)合成したTRX−20(40mg)を量りとり、THF(1mL)に加えて溶解し、40mg/mL TRX−20/THF溶液を調製した。
1.2)PTX(80mg)を量りとり、THF(2mL)を加えて溶解し、40mg/mL PTX/THF溶液を調製した。
1.3)40mg/mL TRX−20/THF溶液(120μL)と、40mg/mL PTX/THF溶液(100μL)とを混合し、コーティング溶液4を調製した。調製したコーティング溶液中のPTXに対するTRX−20の質量比は、TRX−20/PTX=1.2/1であった。
(2)バルーンへの薬剤コーティング
拡張時サイズが直径3.0×長さ20mm(拡張部)のバルーンカテーテル(テルモ社製、バルーン部分(拡張部)の素材はナイロン)を準備し、調製したコーティング溶液4を用いて、パクリタキセル量が約3μg/mm
2となるように、実施例1と同様にして、薬剤溶出バルーンを作製した。
【0066】
〈実施例5〉
(1)コーティング溶液5の調製
1.1)合成したTRX−20(60mg)を量りとり、THF(1mL)に加えて溶解し、60mg/mL TRX−20/THF溶液を調製した。
1.2)PTX(40mg)を量りとり、無水エタノール(1mL)およびアセトン(1mL)からなる無水エタノール/アセトン混合溶液に加えて溶解し、40mg/mL PTX/EtOH溶液を調製した。
1.3)60mg/mL TRX−20/THF溶液(24μL)と、40mg/mL PTX/EtOH溶液(200μL)とを混合し、コーティング溶液5を調製した。調製したコーティング溶液中のPTXに対するTRX−20の質量比は、TRX−20/PTX=0.18/1であった。
(2)バルーンへの薬剤コーティング
拡張時サイズが直径3.0×長さ20mm(拡張部)のバルーンカテーテル(テルモ社製、バルーン部分(拡張部)の素材はナイロン)を準備し、調製したコーティング溶液5を用いて、パクリタキセル量が約3μg/mm
2となるように、実施例1と同様にして、薬剤溶出バルーンを作製した。
【0067】
〈実施例6〉
(1)コーティング溶液6の調製
1.1)合成したTRX−20(60mg)を量りとり、THF(1mL)に加えて溶解し、60mg/mL TRX−20/THF溶液を調製した。
1.2)PTX(40mg)を量りとり、無水エタノール(1mL)およびアセトン(1mL)からなる無水エタノール/アセトン混合溶液に加えて溶解し、40mg/mL PTX/EtOH溶液を調製した。
1.3)60mg/mL TRX−20/THF溶液(48μL)と、40mg/mL PTX/EtOH溶液(200μL)とを混合し、コーティング溶液6を調製した。調製したコーティング溶液中のPTXに対するTRX−20の質量比は、TRX−20/PTX=0.36/1であった。
(2)バルーンへの薬剤コーティング
拡張時サイズが直径3.0×長さ20mm(拡張部)のバルーンカテーテル(テルモ社製、バルーン部分(拡張部)の素材はナイロン)を準備し、調製したコーティング溶液6を用いて、パクリタキセル量が約3μg/mm
2となるように、実施例1と同様にして、薬剤溶出バルーンを作製した。
【0068】
〈実施例7〉
(1)コーティング溶液7の調製
1.1)合成したTRX−20(140mg)を量りとり、THF(2mL)に加えて溶解し、70mg/mL TRX−20/THF溶液を調製した。
1.2)PTX(168mg)を量りとり、無水エタノール(1.5mL)およびアセトン(1.5mL)からなる無水エタノール/アセトン混合溶液に加え、溶解して、56mg/mL PTX/EtOH溶液を調製した。
1.3)70mg/mL TRX−20/THF溶液(30μL)と、56mg/mL PTX/EtOH溶液(200μL)とを混合し、コーティング溶液7を調製した。調製したコーティング溶液中のPTXに対するTRX−20の質量比は、TRX−20/PTX=0.19/1であった。
(2)バルーンへの薬剤コーティング
拡張時サイズが直径3.0×長さ20mm(拡張部)のバルーンカテーテル(テルモ社製、バルーン部分(拡張部)の素材はナイロン)を準備し、調製したコーティング溶液7を用いて、パクリタキセル量が約3μg/mm
2となるように、実施例1と同様にして、薬剤溶出バルーンを作製した。
【0069】
〈実施例8〉
(1)コーティング溶液8の調製
1.1)合成したTRX−20(140mg)を量りとり、THF(2mL)に加えて溶解し、70mg/mL TRX−20/THF溶液を調製した。
1.2)PTX(112mg)を量りとり、THF(2mL)に加えて溶解し、56mg/mL PTX/THF溶液を調製した。
1.3)グリセリン(CAS No.56−81−5)(500μL)と、無水エタノール(500μL)とを混合し、50% グリセリン溶液を調製した。
1.4)70mg/mL TRX−20/THF溶液(60μL)と、56mg/mL PTX/THF溶液(200μL)と、50% グリセリン溶液(17μL)とを混合し、コーティング溶液8を調製した。調製したコーティング溶液中のPTXに対するTRX−20の質量比は、TRX−20/PTX=0.38/1であった。
(2)バルーンへの薬剤コーティング
拡張時サイズが直径3.0×長さ20mm(拡張部)のバルーンカテーテル(テルモ社製、バルーン部分(拡張部)の素材はナイロン)を準備し、調製したコーティング溶液8を用いて、パクリタキセル量が約3μg/mm
2となるように、実施例1と同様にして、薬剤溶出バルーンを作製した。
【0070】
〈実施例9〉
(1)コーティング溶液9の調製
1.1)合成したTRX−20(140mg)を量りとり、THF(2mL)に加えて溶解し、70mg/mL TRX−20/THF溶液を調製した。
1.2)PTX(112mg)を量りとり、無水エタノール/アセトン(1/1)混合溶液に加えて溶解し、56mg/mL PTX/EtOH溶液を調製した。
1.3)グリセリン(500μL)と、無水エタノール(500μL)とを混合し、50% グリセリン溶液を調製した。
1.4)70mg/mL TRX−20/THF溶液(11μL)と、56mg/mL PTX/THF溶液(200μL)と、50% グリセリン溶液(6μL)とを混合し、コーティング溶液9を調製した。調製したコーティング溶液中のPTXに対するTRX−20の質量比は、TRX−20/PTX=0.07/1であった。
(2)バルーンへの薬剤コーティング
拡張時サイズが直径3.0×長さ20mm(拡張部)のバルーンカテーテル(テルモ社製、バルーン部分(拡張部)の素材はナイロン)を準備し、調製したコーティング溶液9を用いて、パクリタキセル量が約3μg/mm
2となるように、実施例1と同様にして、薬剤溶出バルーンを作製した。
【0071】
〈実施例10〉
(1)コーティング溶液10の調製
1.1)合成したTRX−20(140mg)を量りとり、THF(2mL)に加えて溶解し、70mg/mL TRX−20/THF溶液を調製した。
1.2)PTX(112mg)を量りとり、無水エタノール/アセトン(1/1)混合溶液に加え、溶解して、56mg/mL PTX/EtOH溶液を調製した。
1.3)グリセリン(1000μL)と、無水エタノール(1000μL)とを混合し、50% グリセリン溶液を調製した。
1.4)70mg/mL TRX−20/THF溶液(30μL)と、56mg/mL PTX/EtOH溶液(200μL)と、50% グリセリン溶液(15μL)と、無水エタノール(100μL)とを混合し、コーティング溶液10を調製した。調製したコーティング溶液中のPTXに対するTRX−20の質量比は、TRX−20/PTX=0.19/1であった。
(2)バルーンへの薬剤コーティング
拡張時サイズが直径2.0×長さ20mm(拡張部)のバルーンカテーテル(テルモ社製、バルーン部分(拡張部)の素材はナイロン)を準備し、調製したコーティング溶液10を用いて、パクリタキセル量が約3μg/mm
2となるように、実施例1と同様にして、薬剤溶出バルーンを作製した。
【0072】
〈実施例11〉
(1)コーティング溶液11の調製
1.1)合成したTRX−20(140mg)を量りとり、THF(2mL)に加えて溶解し、70mg/mL TRX−20/THF溶液を調製した。
1.2)PTX(112mg)を量りとり、無水エタノール/アセトン(1/1)混合溶液に加えて溶解し、56mg/mL PTX/EtOH溶液を調製した。
1.3)グリセリン(1000μL)と、無水エタノール(1000μL)とを混合し、50% グリセリン溶液を調製した。
1.4)70mg/mL TRX−20/THF溶液(11μL)と、56mg/mL PTX/EtOH溶液(200μL)と、50% グリセリン溶液(6μL)とを混合し、コーティング溶液11を調製した。調製したコーティング溶液中のPTXに対するTRX−20の質量比は、TRX−20/PTX=0.07であった。
(2)バルーンへの薬剤コーティング
拡張時サイズが直径2.0×長さ20mm(拡張部)のバルーンカテーテル(テルモ社製、バルーン部分(拡張部)の素材はナイロン)を準備し、調製したコーティング溶液11を用いて、パクリタキセル量が約3μg/mm
2となるように、実施例1と同様にして、薬剤溶出バルーンを作製した。
【0073】
〈比較例C1〉
(1)コーティング溶液12の調製
1.1)水素添加大豆リン脂質(ホスファチジルコリン、HSPC)(SPC−3、Lipoid社製、分子量:790)(100mg)を量りとり、無水エタノール(2mL)に溶解して、50mg/mL 水素添加大豆リン脂質溶液を調製した。
1.2)アセチル化ヒアルロン酸ナトリウム(AcHA,平均分子量=100,000、アセチル基置換度=2.6〜3.8個/ユニット、CAS No.287390−12−9)(5mg)を量りとり、無水エタノール(0.8mL)およびRO水(0.2mL)からなる無水エタノール/水混合液に加えて混合し、0.5% アセチル化ヒアルロン酸溶液を調製した。
1.3)PTX(80mg)を量りとり、無水エタノール(1mL)およびアセトン(1mL)からなる無水エタノール/アセトン混合溶液に加えて溶解し、40mg/mL パクリタキセル溶液を調製した。
1.4)50mg/mL 水素添加大豆リン脂質溶液40μLと、0.5% アセチル化ヒアルロン酸溶液40μLと、無水エタノール120μLと、40mg/mL パクリタキセル溶液200μLとを混合し、コーティング溶液13を調製した。
(2)バルーンへの薬剤コーティング
拡張時サイズが直径3.0×長さ20mm(拡張部)のバルーンカテーテル(テルモ社製、バルーン部分(拡張部)の素材はナイロン)を準備し、調製したコーティング溶液12を用いて、パクリタキセル量が約3μg/mm
2となるように、実施例1と同様にして、薬剤溶出バルーンを作製した。
【0074】
〈比較例C2〉
(1)コーティング溶液13の調製
1.1)アクリル酸エチル(EA)・メタクリル酸メチル(MMA)コポリマー分散液(オイドラギットNE30D,樋口商会)(200μL)を量りとり、無水エタノール(1800μL)を加えて混合し、10%アクリル酸エチル・メタクリル酸メチルコポリマー溶液を調製した。
1.2)PTX(80mg)を量りとり、無水エタノール/アセトン(1/1)混合溶液に加えて溶解し、40mg/mL PTX/EtOH溶液を調製した。
1.3)10%アクリル酸エチル・メタクリル酸メチルコポリマー溶液(20μL)と、40mg/mL PTX/EtOH溶液(200μL)とを混合し、コーティング溶液10を調製した。
(2)バルーンへの薬剤コーティング
拡張時サイズが直径3.0×長さ20mm(拡張部)のバルーンカテーテル(テルモ社製、バルーン部分(拡張部)の素材はナイロン)を準備し、調製したコーティング溶液13を用いて、パクリタキセル量が約3μg/mm
2となるように、実施例1と同様にして、薬剤溶出バルーンを作製した。
【0075】
〈比較例C3〉
市販品の薬剤溶出バルーンであるIn.Pact(Invatec社、直径3.0×長さ20mm(拡張部))を準備した。
【0076】
[模倣血管を用いた薬剤コート層耐性評価]
実施例1〜6および比較例C1〜C2の薬剤放出バルーンについて、病変患部に送達する過程でどれだけ薬剤コート層が脱落するかを評価するために、模倣血管を用いてデリバリー操作を行い、デリバリー後のバルーン上に残存するパクリタキセルを定量することで薬剤コート層耐性試験を行った。なお、薬剤コート層耐性試験は、以下の手順に従って行った。
(1)90度の角度がついている中空の模倣血管1を準備し、その中にガイディングカテーテル2(外径:5Fr)を通した(
図1を参照)。
(2)ガイディングカテーテル2の内部を37℃で加温したPBSで満たした。
(3)作製した薬剤放出バルーン(拡張時サイズ(拡張部) 直径3.0×長さ20mm)を、ラッピング機で折りたたんだ。
(4)ラッピング後のバルーン4を、PBSで満たしたガイディングカテーテル内に挿入し、ガイディングカテーテルの出口に向かって1分間にわたりデリバリー操作を行った。
(5)ガイディングカテーテル内をデリバリー後のバルーンを回収し、液体クロマトグラフによってバルーンに残存したパクリタキセル量を定量した。さらに、パクリタキセルの残存率を算出した。
【0077】
デリバリー前のバルーン1個当たりのパクリタキセル量に対する、デリバリー操作後のバルーン1個あたりのバルーン上に残存したパクリタキセルの質量割合を表1の「デリバリー操作後バルーン上PTX残存率[質量%]」に示す。なお、表1中、「TRX−20/PTX」はパクリタキセル(PTX)に対するTRX−20(3,5−ジペンタデシロキシベンズアミジン塩酸塩)の質量比を、「HSPC/AcHA」はアセチル化ヒアルロン酸(AcHA)に対する水素添加大豆リン脂質(ホスファチジルコリン、HSPC)の質量比を、「EA/MMA」はアクリル酸エチル・メタクリル酸メチルコポリマー中のメタクリル酸メチル(MMA)成分に対するアクリル酸エチル(EA)成分の質量比を、それぞれ意味する。
【0078】
また、
図2に、模倣血管を用いた薬剤コート層耐性評価における、実施例1〜6および比較例C1〜C2のデリバリー操作後のバルーン上パクリタキセル残存率を表すグラフを示す。
図2において、横軸は実施例または比較例を表し、数字1〜6は、それぞれ、実施例1〜6を意味し、アルファベット付き数字C1およびC2は、それぞれ、比較例C1および比較例C2を意味する。また、縦軸はデリバリー操作後のバルーン上パクリタキセル残存率(質量%)を表す。“mass %”は「質量%」の意味である。
【0079】
さらに、
図3に、模倣血管を用いた薬剤コート層耐性評価における、実施例1〜6の、パクリタキセルに対するTRX−20の質量比と、バルーン上のパクリタキセル残存率との関係を表すグラフを示す。
図3において、横軸はパクリタキセル(PTX)に対するTRX−20の質量比(TRX−20/PTX)を表す。“mass ratio”は「質量比」の意味である。また、縦軸はデリバリー操作後のバルーン上のパクリタキセル残存率(質量%)を表す。“mass %”は「質量%」の意味である。なお、グラフ上のプロットに付されたラベルの“Ex.”は「実施例」の意味であり、Ex.1〜Ex.6は、それぞれ、実施例1〜実施例6を意味する。
【0080】
【表1】
【0081】
表1および
図2に示す結果から、いずれの実施例もデリバリー操作後のバルーン上のPTX残存率は50質量%以上であり、送達過程における薬剤コート層の耐性は良好であることがわかった。一方、比較例C1およびC2に関してもデリバリー操作における薬剤コート層の耐性は比較的良好であった。
また、
図3に示す結果から、TRX−20/PTX質量比によらず、PTX残存率は大きく変化せず、デリバリー操作での薬剤コート層の耐性はいずれにおいても良好であることがわかった。
【0082】
[送達過程における薬剤コート層耐性評価]
実施例7〜9の薬剤放出バルーンについて、病変患部に送達する過程でどれだけ薬剤コート層が脱落するかを評価するために、模倣血管を用いてデリバリー操作を行い、デリバリー後のバルーン上に残存するパクリタキセルを定量することで薬剤コート層耐性試験を行った。なお、薬剤コート層耐性試験は、以下の手順に従って行った。
(1)90度の角度がついている中空の模倣血管1を準備し、その中にガイディングカテーテル2(外径:5Fr)を通した(
図1を参照)。
(2)ガイディングカテーテル2の内部を37℃で加温したPBSで満たした。
(3)作製した薬剤放出バルーン(拡張時サイズ(拡張部) 直径3.0×長さ20mm)を、ラッピング機で折りたたんだ。
(4)ラッピング後のバルーン4を、PBSで満たしたガイディングカテーテル内に挿入し、ガイディングカテーテルの出口に向かって1分間にわたりデリバリー操作を行った。
(5)ガイディングカテーテル内をデリバリー後のバルーンを回収し、液体クロマトグラフによってバルーンに残存したパクリタキセル量を定量した。さらに、パクリタキセルの残存率を算出した。
【0083】
ラッピング前のバルーン1個当たりのパクリタキセル量に対する、ラッピング後のバルーン上に残存したパクリタキセルの質量割合を表2の「バルーン上PTX残存率−ラッピング後[質量%]」に、ラッピングおよびデリバリー操作後のバルーン上に残存したパクリタキセルの質量割合を表2の「バルーン上PTX残存率−デリバリー操作後[質量%]」に、それぞれ示す。なお、表2中、「TRX−20/PTX」はパクリタキセル(PTX)に対するTRX−20(3,5−ジペンタデシロキシベンズアミジン塩酸塩)の質量比を意味する。
【0084】
さらに、
図4に、送達過程における薬剤コート層耐性評価における、実施例7〜9のラッピング後およびデリバリー操作後のバルーン上パクリタキセル残存率を表すグラフを示す。
図4において、横軸は実施例を表し、数字7〜8は、それぞれ、実施例7〜8を意味する。また、縦軸はラッピング後またはデリバリー操作後のバルーン上パクリタキセル残存率(質量%)を表す。各実施例において、左側の棒グラフはラッピング直後におけるバルーン上のパクリタキセル残存率を表し、右側の棒グラフはラッピングおよびデリバリー操作後におけるバルーン上のパクリタキセル残存率を表す。“mass %”は「質量%」の意味である。
【0085】
【表2】
【0086】
表2および
図4に示す結果から、コーティング溶液にグリセリンを添加しない場合(実施例7)でも、添加した場合(実施例8、9)でも、いずれの場合も、送達過程における薬剤コート層の耐性は良好であることがわかった。
【0087】
[ウサギ腸骨動脈における薬剤組織移行性評価]
1.作製した薬剤溶出バルーン(実施例2、6および比較例C1、C2)および市販品のIn.Pact(Invatec社製)(比較例C3)を用いて、以下の手順に従って、ウサギ腸骨動脈におけるバルーン拡張1時間後の血管へのパクリタキセル組織移行性を評価した。
(1)ウサギにガイドワイヤーをX線透視下で右腸骨動脈または左腸骨動脈まで挿入した。次いで、薬剤溶出バルーン(拡張時サイズ(拡張部) 直径3.0mm×長さ20mm)を、ガイドワイヤーに沿わせて、該腸骨動脈まで移行させた。
(2)7atmで1分間バルーンを拡張させた。その後、直ちに、バルーンを抜去した。
(3)バルーン拡張60分後に、血管(分枝より約3.5cmの範囲)を採取した。
(4)採取した血管にメタノールを添加し、ホモジネイトして、組織ホモジネイトとした。
(5)組織ホモジネイトを、高速液体クロマトグラフを用いて分析し、組織中パクリタキセル量(組織1gあたりのパクリタキセル量)を定量した。さらに、薬剤溶出バルーンにコートされたパクリタキセル量と、組織中パクリタキセル量とから、パクリタキセルの血管組織への移行率(質量割合)を算出し、バルーン上に残存したパクリタキセル量から残存率(質量割合)を算出した。
【0088】
組織中パクリタキセル量を表3の「組織中PTX量[μg/g 組織]」の欄に、パクリタキセルの血管組織への移行率を表3の「組織へのPTX移行率[質量%]」の欄に、バルーン上のパクリタキセル残存率を表3の「バルーン上PTX残存率[質量%]」の欄に、それぞれ示す。なお、表3中、「TRX−20/PTX」はパクリタキセル(PTX)に対するTRX−20(3,5−ジペンタデシロキシベンズアミジン塩酸塩)の質量比を、「HSPC/AcHA」はアセチル化ヒアルロン酸(AcHA)に対する水素添加大豆リン脂質(ホスファチジルコリン、HSPC)の質量比を、「EA/MMA」はアクリル酸エチル・メタクリル酸メチルコポリマー中のメタクリル酸メチル(MMA)成分に対するアクリル酸エチル(EA)成分の質量比を、それぞれ意味する。
【0089】
さらに、
図5に、ウサギ腸骨動脈における薬剤組織移行性評価における、実施例2、6および比較例C1〜C3の血管組織中パクリタキセル量を表すグラフを示す。
図5において、横軸は実施例または比較例を表し、数字2および6は、それぞれ、実施例2および実施例6を意味する。また、縦軸は血管組織中パクリタキセル量(μg/g 組織)を表す。“μg/g tissue”は「μg/g 組織」の意味である。
【0090】
【表3】
【0091】
表3および
図5に示す結果から、実施例2および実施例6で作製した薬剤溶出バルーンは、比較例C1〜3に比べて組織中パクリタキセル量が著しく向上し、良好な薬剤組織移行性を示した。また、実施例2および6において、PTXの溶媒として、THFを用いた場合(実施例2)でも、EtOH/アセトン混合液を用いた場合(実施例6)でも、いずれの場合も、溶媒に影響されることなく良好な組織移行性が得られることがわかった。
また、比較例C1および比較例C2は、模倣血管を用いた薬剤コート層耐性は良好であったにも関わらず、組織へ移行した薬剤量は少なかったことから、標的組織との親和性が乏しいと考えられる。
【0092】
さらに、血中に流出したパクリタキセルの割合を示すために、組織へ移行したパクリタキセルの割合およびバルーン上に残存したパクリタキセルの割合の合計を100から差し引くことで求めた。表4の「血中に流出したPTX率[質量%]」の欄に、血中に流出したパクリタキセルの割合を示す。なお、表4中、「TRX−20/PTX」はパクリタキセル(PTX)に対するTRX−20(3,5−ジペンタデシロキシベンズアミジン塩酸塩)の質量比を意味する。
【0093】
さらに、
図6に、ウサギ腸骨動脈における薬剤組織移行性評価において得られた結果に基いて求めた、パクリタキセルの血管組織移行率、バルーン上のパクリタキセル残存率、および血中へのパクリタキセルの流出率を表すグラフを示す。
図6において、横軸は実施例または比較例を表し、数字2および6は、それぞれ、実施例2および実施例6を意味し、C1〜C3は、それぞれ、比較例C1〜C3を意味する。また、縦軸はパクリタキセルの血管組織移行率(質量%)、バルーン上のパクリタキセル残存率(質量%)、または血中へのパクリタキセルの流出率(質量%)を表す。各実施例および比較例において、左側の棒グラフはパクリタキセルの血管組織移行率を表し、中央の棒グラフはバルーン上のパクリタキセル残存率を表し、右側の棒グラフは血中へのパクリタキセルの流出率を表す。“mass %”は「質量%」の意味である。
【0094】
【表4】
【0095】
表4および
図6に示す結果から、実施例2および実施例6で作製した薬剤溶出バルーンは、比較例C1〜C3に比べて薬剤の組織移行率が2倍以上あるにも関わらず、バルーンに残存したパクリタキセル量も2倍以上あった。このことから、実施例2および6は、比較例C1〜C3と比べて血中に流出したパクリタキセル量が少ないことが明らかとなった。以上のことから、実施例2および実施例6は、標的組織において薬剤を効率良く放出し、組織に移行しなかったパクリタキセルの多くはバルーンに残存して回収され、血中に流出する量を抑えられるため、安全面においても非常に好ましいことが明らかとなった。一方、比較例C1〜3は、バルーンに搭載されたパクリタキセルの70%以上が血中に流出しており、安全面においても好ましくない。
【0096】
[異なるバルーンサイズでのウサギ腸骨動脈における組織中薬剤滞留性評価]
実施例10および11では、拡張時の直径が2.0mm、長さ20mmと、実施例2、6および比較例C1、2よりも拡張径が細いバルーンを用いて、ウサギ腸骨動脈における組織中薬剤滞留性評価を実施した。
【0097】
組織中パクリタキセル量を表5の「組織中PTX量[μg/g tissue]」の欄に、バルーン上のパクリタキセル残存率を表5の「バルーン上PTX残存率[mass %]」の欄に、それぞれ示す。なお、表5中、「TRX−20/PTX」はパクリタキセル(PTX)に対するTRX−20(3,5−ジペンタデシロキシベンズアミジン塩酸塩)の質量比を意味し、「1H」および「24H」は、それぞれ血管内拡張1時間後および24時間後を意味する。
【0098】
さらに、
図7に、異なるバルーンサイズでのウサギ腸骨動脈における組織中薬剤滞留性評価における実施例10および実施例11の、バルーン拡張1時間後および24時間後の血管組織中パクリタキセル量を表すグラフを示す。
図7において、横軸は実施例を表し、数字10および11は、それぞれ、実施例10および実施例11を意味する。また、縦軸は血管組織中パクリタキセル量(μg/g 組織)を表す。各実施例において、左側の棒グラフはバルーン拡張1時間後の血管組織中パクリタキセル量を表し、右側の棒グラフはバルーン拡張24時間後の血管組織中パクリタキセル量を表す。“μg/g tissue”は「μg/g 組織」の意味である。
【0099】
【表5】
【0100】
表5に示すとおり、実施例10および11の血管拡張1時間後に回収された組織中薬剤パクリタキセル量は、それぞれ、63μg/g 組織、91μg/g 組織であり、拡張径が3.0mmのバルーンのとき(実施例2および6)と比べると低かったものの、組織への薬剤の移行を確認できた。
また、実施例10および11とも血管拡張1時間後および24時間後の組織中パクリタキセル量を比較すると、これらはほぼ横ばいの値を示し、血管組織に移行したパクリタキセルの量は時間とともに大きく減衰しないことが示唆された。このことから、本発明の薬剤コート層は、薬剤が組織に移行した後も十分な薬剤が長時間にわたり組織内に滞留することが明らかとなった。
【0101】
本発明のコーティング組成物でコートした医療機器、例えば、バルーンカテーテルなど、を用いると、病変患部に送達する過程での薬剤コート層の脱落を抑えながら病変患部に効率よく薬剤を送達させることができ、しかも病変患部における医療機器からの迅速な薬剤放出および組織移行性を促し、薬剤の組織移行性を高めることができる。