(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6307550
(24)【登録日】2018年3月16日
(45)【発行日】2018年4月4日
(54)【発明の名称】摩擦体及び熱変色性筆記具
(51)【国際特許分類】
B43K 29/02 20060101AFI20180326BHJP
B43L 19/00 20060101ALI20180326BHJP
【FI】
B43K29/02 Z
B43K29/02 F
B43L19/00 Z
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-90475(P2016-90475)
(22)【出願日】2016年4月28日
(62)【分割の表示】特願2011-238463(P2011-238463)の分割
【原出願日】2011年10月31日
(65)【公開番号】特開2016-155389(P2016-155389A)
(43)【公開日】2016年9月1日
【審査請求日】2016年5月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(72)【発明者】
【氏名】栗田 哲宏
【審査官】
金田 理香
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−095013(JP,A)
【文献】
特開2007−223302(JP,A)
【文献】
特開2006−256045(JP,A)
【文献】
特開2006−103011(JP,A)
【文献】
特開昭61−029597(JP,A)
【文献】
特開昭60−242098(JP,A)
【文献】
米国特許第05695834(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B43K 1/00− 8/03
29/00−31/00
B43L 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱変色性インキを用いて被筆記面上に形成した熱変色性の像または筆跡を摩擦し、その際に生じる摩擦熱で前記熱変色性の像または筆跡を熱変色可能な摩擦体であって、平板状の透視部を備えた内部材と、該内部材の透視部の頂部外面に固着される、弾性材料からなる外部材とを備え、前記外部材により摩擦部が構成されてなることを特徴とする摩擦体。
【請求項2】
前記外部材が、前記内部材の透視部の外周面を枠状に包囲するよう固着されてなる請求項1記載の摩擦体。
【請求項3】
内部に熱変色性インキを収容し、一端に前記熱変色性インキが吐出可能なペン先を備え、外面に前記熱変色性インキを用いて被筆記面上に形成した熱変色性の筆跡を摩擦し、その際に生じる摩擦熱で該筆跡を熱変色可能な摩擦体を備えた熱変色性筆記具であって、前記摩擦体が前記請求項1または2の何れかであり、前記摩擦体が取付部を備え、前記取付部が前記筆記具に形成された取付孔に取り付けられることを特徴とする熱変色性筆記具。
【請求項4】
前記取付部の外面に外向突起が形成され、前記取付孔の内面に内向突起が形成され、前記取付部が前記取付孔に取り付けられた状態において、前記外向突起と前記内向突起とが乗り越え係合されてなる請求項3記載の熱変色性筆記具。
【請求項5】
前記内部材が、円柱状の芯部を備え、前記外部材が、前記芯部を同心状に覆う円筒状の前記取付部を備える請求項4記載の熱変色性筆記具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦体及び熱変色性筆記具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1には、熱変色性インキを用いて紙面上に形成した熱変色性の筆跡または像を摩擦し、その際に生じる摩擦熱で前記熱変色性の筆跡または像を熱変色させる摩擦体が記載されている。また、特許文献1には、内部に熱変色性インキを収容し且つ外面に前記摩擦体を備えた熱変色性筆記具が記載されている。
【0003】
前記特許文献1の摩擦体は、摩擦体を用いて熱変色性の筆跡または像を熱変色させる際、摩擦体の視認側から反対側を視認できず、必要以上に熱変色性の筆跡または像を熱変色させがちである。即ち、前記特許文献1の摩擦体は、熱変色性の筆跡または像の熱変色させたい部分だけ、確実に熱変色させることが困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−66780号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記従来の問題点を解決するものであって、熱変色性の筆跡または像の熱変色させたい部分だけ確実に熱変色させることができる摩擦体、及びそれを備えた熱変色性筆記具を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願の第1の発明は、熱変色性インキを用いて被筆記面上に形成した熱変色性の像または筆跡を摩擦し、その際に生じる摩擦熱で前記熱変色性の像または筆跡を熱変色可能な摩擦体であって、被筆記面上の熱変色性の像または筆跡を摩擦する際、側面に、該側面から該側面の反対側を透視可能な透視部22を備えたことを要件とする。
【0007】
前記第1の発明の摩擦体1は、被筆記面上の熱変色性の像または筆跡を摩擦する際、摩擦体1の側面に、該側面から該側面の反対側を透視可能な透視部22を備えたことにより、熱変色性の筆跡または像の熱変色させたい部分だけ確実に熱変色させることができる。尚、前記透視部22とは、摩擦体1の側面から該側面の反対側を透視可能であればよく、例えば、貫通孔からなる構成、または、透明もしくは半透明の材料からなる構成が挙げられる。
【0008】
本願の第2の発明は、前記第1の発明の摩擦体1において、前記透視部22が透明または半透明の材料からなることを要件とする。
【0009】
前記第2の発明の摩擦体1は、前記透視部22が透明または半透明の材料からなることにより、透視部22を貫通孔により構成する場合に比べ、摩擦時の摩擦体1のぐらつきを防止できる。前記透明または半透明の材料とは、透明または半透明の合成樹脂、透明または半透明のゴムまたはエラストマー等が挙げられる。
【0010】
本願の第3の発明は、前記第1の発明の摩擦体1において、前記透視部22(透明または半透明の材料からなる透視部22)の頂部外面に弾性材料からなる摩擦部32を設けたことを要件とする。
【0011】
前記第3の発明の摩擦体1は、前記透視部22(透明または半透明の材料からなる透視部22)の頂部外面に弾性材料からなる摩擦部32を設けたことにより、適正な透視機能を有する透視部22と、適正な摩擦機能を有する摩擦部32とを確実に得ることができる。
【0012】
本願の第4の発明は、前記第2または第3の発明の摩擦体1において、前記透視部22が両側面に平面部を備えた板形状であることを要件とする。
【0013】
前記第4の発明の摩擦体1は、前記透視部22が、両側面に平面部を備えた板形状であることにより、透視部22を通して、摩擦体1の反対側を容易に視認することができる。
【0014】
本願の第5の発明は、内部に熱変色性インキを収容し、一端に前記熱変色性インキが吐出可能なペン先6を備え、外面に前記熱変色性インキを用いて被筆記面上に形成した熱変色性の筆跡を摩擦し、その際に生じる摩擦熱で該筆跡を熱変色可能な摩擦体1を備えた熱変色性筆記具であって、前記摩擦体1が前記請求項1乃至4の何れかであることを要件とする。
【0015】
前記第5の発明の熱変色性筆記具4は、前記第1の発明乃至第4の発明の何れかの摩擦体1を備えたことにより、熱変色性の筆跡または像を、熱変色させたい部分だけ確実に熱変色させることができる。
【0016】
尚、本発明で、前記摩擦部32を構成する弾性材料は、弾性を有する合成樹脂(ゴム、エラストマー)が挙げられ、例えば、シリコーン樹脂、SBS樹脂(スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体)、SEBS樹脂(スチレン−エチレン−ブチレン−スチレン共重合体)、フッ素系樹脂、クロロプレン樹脂、ニトリル樹脂、ポリエステル系樹脂、オレフィン系樹脂、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)等が挙げられる。
【0017】
前記弾性材料は、高摩耗性の弾性材料(例えば、消しゴム等)からなるものよりも、摩擦時に摩耗屑が殆ど生じない低摩耗性の弾性材料からなることが好ましい。
【0018】
尚、本発明で、前記熱変色性インキは、可逆熱変色性インキが好ましい。前記可逆熱変色性インキは、発色状態から加熱により消色する加熱消色型、発色状態又は消色状態を互変的に特定温度域で記憶保持する色彩記憶保持型、又は、消色状態から加熱により発色し、発色状態からの冷却により消色状態に復する加熱発色型等、種々のタイプを単独又は併用して構成することができる。
【0019】
本発明では、
図8に示すように、温度変化による着色濃度の変化をプロットした曲線の形状が、温度を変色温度域より低温側から上昇させていく場合と逆に変色温度域より高温側から下降させていく場合とで異なる経路を辿って変色し、完全発色温度(t
1)以下の低温域での発色状態、又は完全消色温度(t
4)以上の高温域での消色状態が、特定温度域〔t
2〜t
3の間の温度域(実質的二相保持温度域)〕で記憶保持できる色彩記憶保持型の熱変色性インキが適用されることが好ましい。
図8において、ΔHは、ヒステリシスの程度を示す温度幅(即ちヒステリシス幅)を示す。ΔHの値が小さいと、変色前後の両状態のうち一方の状態しか存在しえない。ΔHの値が大きいと、変色前後の各状態の保持が容易となる。
【0020】
前記実質的二相保持温度域は、目的に応じて設定できるが、本発明では、前記高温側変色点〔完全消色温度(t
4)〕を、25℃〜95℃(好ましくは、36℃〜90℃)の範囲に設定し、前記低温側変色点〔完全発色温度(t
1)〕を、−30℃〜+20℃(好ましくは、−30℃〜+10℃)の範囲に設定することが有効である。それにより、常態(日常の生活温度域)で呈する色彩の保持を有効に機能させることができると共に、可逆熱変色性インキによる筆跡を摩擦体1による摩擦熱で容易に変色することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の摩擦体は、熱変色性の筆跡または像の熱変色させたい部分だけ確実に熱変色させることができる。
【0022】
本発明の熱変色性筆記具は、熱変色性の筆跡または像の熱変色させたい部分だけ確実に熱変色させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の摩擦体を備えた熱変色性筆記具の実施の形態の一部切り欠き縦断面図である。
【
図2】
図1の要部拡大縦断面図である。但し、摩擦体は正面図である。
【
図5】本発明の摩擦体の実施の形態を示す正面図である。
【
図8】熱変色性インキの変色挙動を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の摩擦体1及び熱変色性筆記具4の実施の形態を
図1乃至
図7に示す。
【0025】
前記熱変色性筆記具4は、内部に熱変色性インキが収容された軸筒5と、該軸筒5の一端部に取り付けられ且つ該軸筒5内の熱変色性インキが吐出可能なペン先6(例えば、ボールペン、マーキングペン、サインペン等のペン先)と、前記軸筒5の他端部に取り付けられた摩擦体1とからなる。
【0026】
前記摩擦体1は、透明または半透明の合成樹脂(例えばポリカーボネイト樹脂)からなる内部材2と、該内部材2の外周面を覆うように固着される、弾性材料(例えばSEBS樹脂、SBS樹脂、シリコーン樹脂等)からなる外部材3とからなる。前記内部材2と前記外部材3とは、2色成形により一体に固着される。
【0027】
前記内部材2は、円柱状の芯部21と、平板状(両側面に平面部を備えた板形状)の透視部22とからなる。前記外部材3は、前記円柱状の芯部21を同心状に覆う円筒状の取付部31と、前記平板状の透視部22を枠状に包囲する摩擦部32とからなる。即ち、前記透視部22は、透明または半透明の合成樹脂(例えばポリカーボネイト樹脂)から構成され、前記摩擦部32は、弾性材料により構成される。
【0028】
前記摩擦体1の摩擦部32及び透視部22は、軸筒5の反ペン先側端部より外部に突出し、前記摩擦体1の取付部31は、軸筒5の反ペン先側端部の取付孔51に取り付けられる。
【0029】
前記取付部31の外面には、外向突起31aが形成される。前記軸筒5の反ペン先側端部には、取付孔51が形成される。取付孔51の内面に内向突起51aが設けられる。前記摩擦体1の取付部31を、前記軸筒5の取付孔51に挿入し、前記取付部31外面の外向突起31aと前記取付孔51の内面の内向突起51aとを乗り越え係合させる。それにより、摩擦体1が軸筒5の反ペン先側端部に取り付けられる。
【0030】
本実施の形態の摩擦体1及び本実施の熱変色性筆記具4は、被筆記面上の熱変色性の像または筆跡を摩擦する際、摩擦体1の側面に、該側面から該側面の反対側を透視可能な透視部22を備えたことにより、熱変色性の筆跡または像の熱変色させたい部分だけ確実に熱変色させることができる。
【0031】
本実施の形態の摩擦体1及び熱変色性筆記具4は、前記透視部22が透明または半透明の材料からなることにより、透視部22を貫通孔により構成する場合に比べ、摩擦時の摩擦体1のぐらつきを防止できる。
【0032】
本実施の形態の摩擦体1及び熱変色性筆記具4は、前記透視部22(透明または半透明の材料からなる透視部22)の頂部外面に弾性材料からなる摩擦部32を設けたことによって、適正な透視機能を有する透視部22と、適正な摩擦機能を有する摩擦部32とを確実に得ることができる。また、本実施の形態の摩擦体1及び熱変色性筆記具4は、平板状の透視部22を弾性材料よりなる摩擦部32が枠状に包囲する構成のため、摩擦部32と透視部22との固着を強固にでき、且つ、透視部22の周囲を保護することが可能である。
【0033】
本実施の形態の摩擦体1及び熱変色性筆記具4は、前記透視部22と前記摩擦部32とが2色成形により固着されることにより、透視部22と摩擦部32とが強固に固着される。
【0034】
本実施の形態の摩擦体1及び熱変色性筆記具4は、透視部22が、両側面に平面部を備えた板形状であることにより、透視部22を通して、摩擦体1の反対側を容易に視認することができる。
【符号の説明】
【0035】
1 摩擦体
2 内部材
21 芯部
22 透視部
3 外部材
31 取付部
31a 外向突起
32 摩擦部
4 熱変色性筆記具
5 軸筒
51 取付孔
51a 内向突起
6 ペン先