特許第6307637号(P6307637)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6307637筋振動刺激装置及び筋振動刺激評価システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6307637
(24)【登録日】2018年3月16日
(45)【発行日】2018年4月4日
(54)【発明の名称】筋振動刺激装置及び筋振動刺激評価システム
(51)【国際特許分類】
   A61H 1/00 20060101AFI20180326BHJP
   A61B 5/0488 20060101ALI20180326BHJP
【FI】
   A61H1/00 311
   A61B5/04 330
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-12734(P2017-12734)
(22)【出願日】2017年1月27日
【審査請求日】2017年1月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】390003665
【氏名又は名称】株式会社日進製作所
(72)【発明者】
【氏名】山田 正良
(72)【発明者】
【氏名】溝手 宗昭
【審査官】 増山 慎也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−144504(JP,A)
【文献】 特開2011−083423(JP,A)
【文献】 特開平10−243985(JP,A)
【文献】 特開昭60−106455(JP,A)
【文献】 実開昭56−023106(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61H 1/00
A61H 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一定のFM信号発生休止期間をおいて一定の期間出力される信号のそれぞれがFM信号である間歇的なFM信号を発生して出力する信号発生器と、
該信号発生器から出力される前記間歇的なFM信号を電力増幅する電力増幅器と、
該電力増幅器から供給される出力電力によりFM振動する振動アクチュエータと、
該振動アクチュエータの先端に取り付けられた刺激パッドと、
を備えることを特徴とする、筋振動刺激装置
【請求項2】
請求項1において、前記振動アクチュエータは、
振動軸と、
該振動軸に対して不動に設けられ該振動軸の軸方向に沿って磁化された円環状磁石と、
該円環状磁石および振動軸を内包する円筒状ハウジングと、
該円筒状ハウジング内に不動にして設けられ周方向に沿って巻かれた円環状コイルと、
前記円筒状ハウジングと前記振動軸との間に設けられ前記振動軸を軸方向に沿って振動可能に支持する軸受と、
を備え、
前記円環状磁石が放つ放射状磁界と前記電力増幅器から供給され前記円環状コイルに流れる電流とによって生じるローレンツ力により、前記振動軸が該軸方向に沿って振動することを特徴とする筋振動刺激装置
【請求項3】
前記振動アクチュエータの前記FM振動を検出し、筋刺激信号として出力する筋刺激信号検出手段を備えた請求項1または請求項2に記載の筋振動刺激装置と、
1対以上の皿電極と、
該皿電極に接続される筋電位増幅器と、
該筋電位増幅器から出力される筋電位信号と前記筋振動刺激装置から出力される筋刺激信号とを同期させて電子的に記録する電子的記録計と、
を備えた筋振動刺激評価システム
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、脳梗塞などの脳障害による筋緊張症状を持つ患者に対するリハビリテーションを行うための筋振動刺激装置及びその有効性を評価するための筋振動刺激評価システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、筋力が低下した四肢の運動機能の回復を図るために、関節を中心にして外部から機械的に四肢を動かしたり、関節の動きに負荷をかけたりするリハビリテーション支援装置、トレーニング装置などが知られている(例えば、特許文献1及び2を参照)。
【0003】
しかし、外傷を受けた四肢がギブスなどの拘束具により拘束され、物理的に動かすことができない段階では、上述のリハビリテーション支援装置、トレーニング装置などは適用できない。特に、脳損傷又は外傷などにより四肢、首、腰などの運動効果器の運動制御が困難な状況が長期にわたる場合、運動効果器を動かす感覚そのものが消失したり、これを制御する脳中枢神経系が麻痺したりして、運動効果器の制御がさらに難しくなるというジレンマを有している。
【0004】
このような四肢がギブスなどの拘束具により拘束されて動かすことができない段階でのリハビリテーションを支援するために、運動機能が低下した運動効果器の骨格筋を構成する腱に対して振動刺激を付与するリハビリテーション支援装置が考案されている。この場合、人間の手首伸筋の腱に対して付与する振動刺激は連続的で、その振動周波数は、60〜120Hzが好適とされている(特許文献3を参照)。
【0005】
四肢、首、腰などの運動効果器の骨格筋を構成する腱に振動刺激が付与された場合、骨格筋内の筋紡錘(筋の感覚器)が活動する。この筋紡錘は通常その筋肉が伸ばされた場合に活動するため、脳は振動刺激で活動する筋紡錘からの感覚情報を受けとる。
【0006】
さらに詳しくは、筋紡錘は三種類の錘内筋線維(動的核袋線維と静的核袋線維、静的核鎖線維)で構成され、筋内部の神経線維に沿って分布し、筋緊張の度合いを感覚する感覚器官である。筋の張力は過度の負荷がかからないように脳からの抑制系制御下にあるが、中枢神経障害時は、抑制が解除されてγ運動神経が亢進し、(感覚器である)錘内筋線維が過剰感度状態となるため、反射性に筋緊張が生じる。
【0007】
この筋に周波数変調(以下、「FM」という。)した振動を加えて筋紡錘を伸張すると、動的核袋線維を中心とした反射で、筋緊張を和らげることが期待される。ネコの場合、下腿三頭筋を周波数変調した振動刺激で伸張すると、核袋線維の一次終末による動的応答を選択的に誘発できることが明らかにされている。この場合付与するFM振動刺激は、繰返し間隔が2秒で振動付与時間が0.5秒の間歇的な刺激であり、その振動付与時間中に振動刺激周波数を10Hzから100Hzまで掃引するものである。(非特許文献1及び2を参照)。
【0008】
本発明者は、上記のFM振動刺激が、ヒトの四肢筋、特に、中枢神経障害によってγ運動神経亢進が生じ、抹消の筋張力が高まっている筋に対しても有効であることを最近見出した。しかしながら、斯様なFM振動刺激が付与できる、小型で使用勝手の良い筋振動刺激装置は開示されていない。また、斯様なFM振動刺激の有効性を評価する筋振動刺激評価システムも開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平07−323048号公報
【特許文献2】特開平10−258101号公報
【特許文献3】特開2009−82209号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Progress in Brain Research Vol.44, pp.133-140, 1977
【非特許文献2】Brain Research 248, pp.245-255, 1982
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
この発明は、上述の状況に鑑み、脳梗塞などの脳障害による筋緊張症状を持つ患者に対するリハビリテーションのための、耐久性が高く、かつ小型で安価な、使用勝手の良い筋振動刺激装置及びその有効性を評価する筋振動刺激評価システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決し、かつ目的を達成するために、この発明は、以下のように構成した。
【0013】
請求項1に記載の筋振動刺激装置は、一定のFM信号発生休止期間をおいて一定の期間出力される信号のそれぞれがFM信号である間歇的なFM信号を発生して出力する信号発生器と、該信号発生器から出力される前記間歇的なFM信号を電力増幅する電力増幅器と、該電力増幅器から供給される出力電力によりFM振動する振動アクチュエータと、該振動アクチュエータの先端に取り付けられた刺激パッドと、を備えることを特徴とする。
【0014】
請求項2に記載の筋振動刺激装置は、請求項1において、前記振動アクチュエータは、振動軸と、該振動軸に対して不動に設けられ該振動軸の軸方向に沿って磁化された円環状磁石と、該円環状磁石および振動軸を内包する円筒状ハウジングと、該円筒状ハウジング内に不動にして設けられ周方向に沿って巻かれた円環状コイルと、前記円筒状ハウジングと前記振動軸との間に設けられ前記振動軸を軸方向に沿って振動可能に支持する軸受と、を備え、前記円環状磁石が放つ放射状磁界と前記電力増幅器から供給され前記円環状コイルに流れる電流とによって生じるローレンツ力により、前記振動軸が該軸方向に沿って振動することを特徴とする。
【0015】
請求項3に記載の筋振動刺激評価システムは、前記振動アクチュエータの前記FM振動を検出し、筋刺激信号として出力する筋刺激信号検出手段を備えた請求項1または請求項2に記載の筋振動刺激装置と、1対以上の皿電極と、該電極に接続される筋電位増幅器と、該筋電位増幅器から出力される筋電位信号と前記筋振動刺激装置から出力される筋刺激信号とを同期させて電子的に記録する電子的記録計と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に記載の発明では、信号発生器から出力される間歇的なFM信号を電力増幅器により電力増幅した後、振動アクチュエータに供給することで、間歇的なFM振動刺激を付与する筋振動刺激装置が提供できる。
【0017】
筋紡錘はその両端がそれぞれ異なった筋線維に付着しており、筋線維が伸張されると筋紡錘も伸張され、その伸張される度合を速度と長さ変化の量に比例した感覚神経インパルスの発射頻度として中枢に伝える機能を持っている。したがって、この筋振動刺激装置を用いれば、筋紡錘が伸張される度合に適合する任意の振動刺激を筋線維に付与することができるので、脳梗塞などの脳障害による筋緊張症状を持つ患者に対するリハビリテーションに有用である。
【0018】
請求項2に記載の発明によれば、振動アクチュエータの可動部分が振動パッドと振動軸、および円環状磁石のみで構成されているので、可動ボイスコイルなどのように可動部への給電も必要なく、耐久性が高く、かつ小型で安価な筋振動刺激装置が提供できる。
【0019】
請求項3に記載の発明によれば、請求項1または請求項2に記載の筋振動刺激装置の筋刺激信号と筋電位増幅器から出力される筋電位信号とを同期させて電子的に記録できるので、脳梗塞などの脳障害よる筋緊張症状を持つ患者に対するリハビリテーションのための振動刺激の有効性を簡単に評価する筋振動刺激評価システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】筋振動刺激装置10の実施例を示す概略構成図
図2】間歇的なFM信号の例
図3】振動アクチュエータ40の第1の実施形態を示す概略断面図
図4】振動アクチュエータ40の第2の実施形態を示す概略断面図
図5】筋振動刺激評価システム1の実施例を示す概略構成図
図6】連続振動刺激を与えた場合の初期の屈筋筋電図と伸筋筋電図
図7】FM振動刺激を与えた場合の初期の屈筋筋電図と伸筋筋電図
図8】連続振動刺激を与えた場合の屈筋筋電図と伸筋筋電図の拡大図
図9】FM振動刺激を与えた場合の屈筋筋電図と伸筋筋電図の拡大図
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、この発明の筋振動刺激装置および筋振動刺激評価システムの実施形態について説明するが、この発明はこの実施形態に限定されない。また、この発明の実施形態は、発明の最も好ましい形態を示すものであり、この発明の用語はこれに限定されない。まず、この発明の筋振動刺激装置について説明する。
【0022】
<筋振動刺激装置>
図1は、本発明に係る筋振動刺激装置10を示す概略構成図である。本実施例に係る筋振動刺激装置10は、間歇的なFM振動刺激を筋に付与する装置であり、信号発生器20と、電力増幅器30と、振動アクチュエータ40と、刺激パッド50と、を備える。
【0023】
刺激パッド50は、後述する振動アクチュエータ40の振動軸41の先端に備えられている。刺激パッド50の軸方向に沿った形状は円柱形であり、筋刺激を行う面は半球面形状であり、他面は平面である。刺激パッド50は患者の皮膚に直接接し、衝撃を与えるため、例えばウレタン樹脂のような皮膚に悪影響を及ぼさない材料であることが好ましい。
【0024】
信号発生器20は、図2に示すような間歇的なFM信号を発生し、該信号を電力増幅器30に出力する。信号発生器20は、周期T(=T+T)で、期間TにおいてFM信号を発生し、期間TにおいてFM信号の発生を休止する(このFM信号の発生を休止する期間Tを「FM信号発生休止期間」という。)。期間Tにおいて発生するFM信号は、周波数は低端周波数Fから高端周波数Fまで、あるいは、高端周波数Fから低端周波数Fまで、その振幅が略一定にして掃引されるものであって、その各サイクルの信号波形は、正弦波、または、その正弦波が歪んだ擬正弦波、あるいは、矩形波、または、その矩形波が歪んだ擬矩形波である。図2(a)は正弦波FM信号の例で、図2(b)は矩形波FM信号の例で、いずれも所定の間隔で周波数が増大していく波形を示しているが、所定の間隔で周波数が減少していくものであってもよい。図2(a)と図2(b)に示すFM信号は、直流成分を含まず、交流成分のみからなっているが、FM信号は図2(c)に示すように直流成分を含むものであっても良い。
【0025】
信号発生器20は、MPU、ROM、RAM、デジタルアナログ変換器などの個別ICを組み合せて構成できる。また、信号発生の機能を集積したワンチップマイコンで構成することもできる。
【0026】
電力増幅器30は、信号発生器20から入力した間歇的なFM信号を電力増幅して、以下の実施例に示す振動アクチュエータ40に供給する。電力増幅器30は、A級やB級のアナログ電力増幅器であっても良いし、D級デジタル電力増幅器であっても良い。D級デジタル電力増幅器の場合、信号発生器20から出力する間歇的なFM信号は、アナログ信号でなくても、周波数変調波形に相応するPWMなどのデジタル信号であってもよい。また、電力増幅器30は、図2(c)に示すような直流成分を含むFM信号を、直流成分も含めて電力増幅するものが好ましい。さらに、所定の周期で増幅率が変化するような機能を備えてもよい。
【0027】
[第1の実施形態に係る振動アクチュエータ40]
図3は、振動アクチュエータ40の第1の実施形態を示す概略断面図である。第1の実施形態における振動アクチュエータ40は、振動軸41と、円筒状ハウジング42と、1つの円環状磁石43と、2つの円環状コイル48a,48bと、を備える。
【0028】
振動軸41には、円環状磁石43と磁気ヨーク44a,44bとが挿入され、不動にして装着されている。振動軸41は非磁性体材料から、磁気ヨーク44a,44bは強磁性体材料から造られている。円環状磁石43は、磁力線が放射状に放たれるように組み付けられている。磁気ヨーク44a,44bは、円環状磁石43から放射される磁力線を後述する円環状コイル48a,48bへと効率よく導くために使用しているが、使用しなくてもよい。
【0029】
円筒状ハウジング42は、上板42aと、筒体42bと、底板42cと、で構成され、上板42aと底板42cのそれぞれの中心部にはボールガイド45a,45bが備えられている。振動軸41はハウジング42に内包され、刺激パッド50を備える先端側は底板42cより突き出しており、ボールガイド45a,45bによって、軸方向に沿って自在に移動可能にして支持されている。上板42aと磁気ヨーク44aとの間、底板42cと磁気ヨーク44bとの間には、ウレタン樹脂などの弾性材で円環状に形成したクッション部材46a,46bが振動軸41に挿入され装荷され、振動軸41が所定の移動量になるように、上板42aとクッション部材46aとの間に、また、底板42bとクッション部材46bとの間に、それぞれ隙間を設けている。したがって、この隙間寸法が、振動軸41の最大移動距離となる。振動軸41の最大移動距離は、0.5mmないし2mm程度に設定することが好ましい。本実施形態では、振動軸41にクッション部材46a,46bを挿入したが、上板42a側と底板42c側にそれぞれクッション部材46a,46bを備える構造としてもよい。また、クッション部材46a,46bの代わりに、圧縮ばねを使用してもよい。圧縮ばねを使用する場合、上板42aと磁気ヨーク46aとの間に隙間が生じないように第1の圧縮ばねを、また、底板42cと磁気ヨーク46bとの間に隙間が生じないように第2の圧縮ばねを、それぞれ設けることが好ましい。
【0030】
筒体42bは、巻枠47を不動にして内包している。筒体42bおよび巻枠47は非磁性体材料から造られている。巻枠47は、周方向に沿って巻かれた円環状コイル48a,48bを備えている。巻枠47の中心部には、磁気ヨーク44a,44bおよび円環状磁石43を軸線方向に沿って移動可能にする貫通穴が設けられている。
【0031】
円環状コイル48a,48bの巻線方向を交互に替えた場合、例えば、円環状コイル48aは右巻き、円環状コイル48bは左巻きにした場合には、円環状コイル48aの巻き終わり端部を円環状コイル48bの巻き始め端部に結線して、円環状コイル48aの巻き始め端部と円環状コイル48bの巻き終わり端部とを電力増幅器30の出力端子に直列接続する。または、円環状コイル48aの巻き始め端部と円環状コイル48bの巻き始め端部、円環状コイル48aの巻き終わり端部と円環状コイル48bの巻き終わり端部、それぞれを結線して、電力増幅器30の出力端子に並列接続する。
【0032】
円環状コイル48a,48bの巻線方向を同じにした場合、円環状コイル48aの巻き始め端部を円環状コイル48bの巻き始め端部に結線して、円環状コイル48aの巻き終わり端部と円環状コイル48bの巻き終わり端部とを電力増幅器30の出力端子に直列接続する。または、円環状コイル48aの巻き始め端部と円環状コイル48bの巻き終わり端部、円環状コイル48aの巻き終わり端部と円環状コイル48bの巻き始め端部、それぞれを結線して、電力増幅器30の出力端子に並列接続する。
【0033】
上述の如く円環状コイル48a,48bを電力増幅器30の出力端子に接続して電流を流せば、各円環状コイル48a,48bに流れる電流成分と、磁気ヨーク44a,44bを介して円環状磁石43のN極から放たれS極で終端する放射状磁界の径方向成分とで、軸方向に沿って同じ方向のローレンツ力を生じる。
【0034】
[第2の実施形態に係る振動アクチュエータ40]
図4は、振動アクチュエータ40の第2の実施形態を示す概略断面図である。第2の実施形態に係る振動アクチュエータ40は、2つの円環状磁石43a,43bと、3つの円環状コイル48a,48b,48cと、を備える。円環状コイル48a,48b,48cの端部は、円環状コイル48a,48b,48cを流れる電流成分と、磁気ヨーク44a,44b,44cを介して円環状磁石43a,43bの各N極から放たれ各S極で終端する放射状磁界の径方向成分とで、軸方向に沿って同じ方向のローレンツ力を生じるように、結線している。この変形例では、2つの円環状磁石43a,43bと3つの円環状コイル48a,48b,48cとを備えるので、上述の振動アクチュエータ40に比べて、より大きなローレンツ力を得ることができる。
【0035】
本実施形態に係る振動アクチュエータ40においては、磁気ヨーク44a,44cと、円環状コイル48a,48cとを取り外して、2つの円環状磁石43a,43bと、1つの磁気ヨーク44bと、1つの円環状コイル48bと、から構成してもよい。
【0036】
[その他の実施形態に係る振動アクチュエータ40]
振動アクチュエータ40の他の実施形態は、第2の実施形態に同数の円環状コイルと円環状磁石および磁気ヨークとを増やして4つ以上の円環状コイルと3つ以上の円環状磁石及び4つ以上の磁気ヨークとを備えたものである。このように、円環状コイルと円環状磁石および磁気ヨークを増やせば増やすほど、振動軸41が受けるローレンツ力はより大きくなる。なお、[第2の実施形態に係る振動アクチュエータ40]の場合と同様に、最も蓋板42aに近い側及び最も底板42cに近い側の磁気ヨーク及び円環状コイルは、それぞれ取り外して使用してもよい。
【0037】
<筋振動刺激評価システム>
図5は、本発明に係る筋振動刺激評価システム1の実施例である。本発明に係る筋振動刺激評価システム1は、筋振動刺激装置10と、筋刺激信号検出手段11と、皿電極61a,61bと、筋電位増幅器70と、電子的記録計80と、を備える。
【0038】
皿電極61a,61bは、筋電位増幅器70(例えばオペアンプ)に接続される。筋電位増幅器70が出力する筋電位信号は電子的記録計80に出力され、筋電位信号の時間変化が電子的記録計80に記録される。なお、皿電極は2対以上を備えてもよい。電極は皿電極でなくともよい。
【0039】
筋刺激信号検出手段11は、振動アクチュエータ10が付与するFM振動刺激を検出して電子的記録計80に出力する。筋刺激信号検出手段11が検出する筋刺激信号は、例えば、信号発生器20が出力するFM信号や、振動アクチュエータ10の振動軸41の動きから生成した信号などが考えられる。
【0040】
FM信号を筋刺激信号として検出する場合には、信号発生器20に筋刺激信号検出手段11を組み込んでもよい。振動アクチュエータ10の振動軸41の動きから信号を生成する場合には、例えば筒体42bに、LEDとフォトトランジスタとを内蔵したフォトリフレクタを不動にして装着し、振動軸41に光反射性が高い材料から造られている円板を装着して、反射光量の検出量から振動軸41の変位を連続的に測定し、筋刺激信号として検出する方法が考えられる。
【0041】
電子的記録計80(例えば、AD変換器を備えたパーソナルコンピュータ)は入力された筋電位信号と筋刺激信号とを同期させて記録する。
【0042】
本発明者は、健常者の腕の長掌筋(屈筋)に皿電極を、同じ腕の指伸筋(伸筋)にも皿電極を装着し、その手首の腱に100秒間振動刺激を付与して、筋電図を記録した。その際、疑似的に筋の緊張状態を作り出すために、皿電極を装着した腕の手の薬指で動力計を押圧し、10Nの押圧力を維持するようにした(随意運動)上で、正弦波振動刺激を付与した場合とFM振動刺激を付与した場合の筋緊張の緩和度合(筋電位減少)を測定する実験を行った。
【0043】
図6図7は、連続振動刺激を与えた場合とFM振動刺激を与えた場合、それぞれの初期の屈筋筋電図(EMG1,EMG2)と伸筋筋電図(EMG3,EMG4)である。図8図9は、図6図7の一部(刺激付与時)をそれぞれ拡大したものである。ここでの連続振動刺激の周波数は100Hzであり、一方、FM振動刺激は、振動付与時間が0.5秒で、刺激繰返し間隔が2秒であって、振動付与時間中に周波数を10Hzから100Hzまで掃引するものである。
【0044】
図6図7のEMG1,EMG2のように随意運動の初期には、筋収縮の張力(図6図7のTension)に応じて筋電位の発射は全くランダムであるが、振動が加わると、筋紡錘の中でも高い周波数に感度の高い動的核袋線維を中心に応答するようになる。しかし、図6のように周波数は高いが持続して筋が連続振動刺激されると感覚器は順応し、動的刺激の効果が十分発揮されない(図8)。これに対して間歇的FM振動(図9)の場合は筋内の多くの動的感覚器である動的核袋線維が同じ振動周期付近の位相で同期して応答するために、反射性筋収縮と弛緩を繰り返し誘発する。結果的に図9のEMG1とEMG2のように群化放電が観られ、次第に小振幅筋電位も抑制されるようになる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
この筋振動刺激装置および筋振動刺激評価システムは、主に脳梗塞などの脳障害による筋緊張症状を持つ患者に対するリハビリテーションを行うためのものであるが、他の疾患による筋緊張症状の緩和や、健常者に対する筋振動刺激によるリラクゼーションにも利用できる。
【符号の説明】
【0046】
1 :筋振動刺激評価システム
10 :筋振動刺激評価装置
11 :筋刺激信号検出出力手段
20 :信号発生器
30 :電力増幅器
40 :振動アクチュエータ
41 :振動軸
42 :円筒状ハウジング
42a :上板
42b :円筒体
42c :底板
43,43a,43b:円環状磁石
44a,44b,44c:磁気ヨーク
45a,45b:ボールガイド
46a,46b:クッション材
47 :巻枠
48a,48b,48c:円環状コイル
50 :刺激パッド
61a,61b:皿電極
70 :筋電位増幅器
80 :電子的記録計
【要約】      (修正有)
【課題】脳梗塞などの脳障害による筋緊張症状を持つ患者に対するリハビリテーションのための、耐久性が高く、かつ小型で安価な、使用勝手の良い筋振動刺激装置及びその有効性を評価する筋振動刺激評価システムを提供する。
【解決手段】筋振動刺激装置10は、間歇的なFM信号を発生して出力する信号発生器20と、信号発生器から出力される間歇的なFM信号を電力増幅する電力増幅器30と、電力増幅器から供給される出力電力により振動する振動アクチュエータ40と、振動アクチュエータの振動軸の先端に取り付けられた刺激パッド50と、を備えることを特徴とする。筋振動刺激評価システムは、筋振動刺激装置と、少なくとも1対以上の皿電極と、電極に接続される筋電位増幅器と、筋電位増幅器から出力される筋電位信号ならびに筋振動刺激装置から出力される筋刺激信号を電子的に記録する電子的記録計と、を備えることを特徴とする。
【選択図】図1
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図9