(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6307761
(24)【登録日】2018年3月23日
(45)【発行日】2018年4月11日
(54)【発明の名称】防振地中壁および防振地中壁用土嚢袋
(51)【国際特許分類】
E02D 31/08 20060101AFI20180402BHJP
E02B 3/04 20060101ALI20180402BHJP
【FI】
E02D31/08
E02B3/04 301
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-217859(P2013-217859)
(22)【出願日】2013年10月18日
(65)【公開番号】特開2015-78577(P2015-78577A)
(43)【公開日】2015年4月23日
【審査請求日】2016年6月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122954
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷部 善太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100114100
【弁理士】
【氏名又は名称】米田 昭
(72)【発明者】
【氏名】田口 典生
(72)【発明者】
【氏名】長島 一郎
(72)【発明者】
【氏名】日比野 浩
【審査官】
西田 光宏
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−196212(JP,A)
【文献】
特開2013−119702(JP,A)
【文献】
特開昭48−033642(JP,A)
【文献】
特開2007−146495(JP,A)
【文献】
米国特許第04484423(US,A)
【文献】
実開平02−049421(JP,U)
【文献】
特開平09−291557(JP,A)
【文献】
特開2001−226999(JP,A)
【文献】
特開2012−031663(JP,A)
【文献】
特開昭49−032435(JP,A)
【文献】
実開昭55−131342(JP,U)
【文献】
実開昭51−061371(JP,U)
【文献】
特開2009−024365(JP,A)
【文献】
特開昭58−131234(JP,A)
【文献】
特開2000−064328(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B42B 5/00
E02B 3/04
E02D 3/00
E02D 31/08
E04D 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動発生源から地盤を伝播してくる振動を遮断する防振地中壁において、
地盤を掘削することにより形成された縦溝と、
軽量かつインピーダンスの小さい材料である発泡樹脂製板が二重袋の外袋と内袋の間に収納され、前記発泡樹脂製板は、外表面に切り込みが入れられており、裏面には裏当て材が貼付されており、前記内袋の内部に土が充填された土嚢と、から構成され、
前記縦溝は、多数の前記土嚢にて充填されていることを特徴とする防振地中壁。
【請求項2】
振動発生源から地盤を伝播してくる振動を遮断する防振地中壁において、
鋼矢板、ソイルセメントまたはコンクリートからなる連続地中壁が間隔を置いて2重に打設され、その間に空間が形成された2重山留壁と、
軽量かつインピーダンスの小さい材料である発泡樹脂製板が二重袋の外袋と内袋の間に収納され、前記発泡樹脂製板は、外表面に切り込みが入れられており、裏面には裏当て材が貼付されており、前記内袋の内部に土が充填された土嚢と、から構成され、
2重山留壁の空間は、多数の前記土嚢にて充填されていることを特徴とする防振地中壁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建設工事現場、工場、鉄道、道路等の振動発生源から地盤を伝播してくる振動を遮断する防振地中壁および防振地中壁用土嚢袋に関する。
【背景技術】
【0002】
地中に連続壁もしくは空溝を設けて地盤を伝播してくる振動を遮断する方法は公知の事実であり、実際に鋼矢板やコンクリートを構造材とした振動遮断工法が実施されている。
【0003】
具体的には、地盤の剛性より十分に固い材料を用いて、振動の波長、すなわち地盤振動伝播速度を問題となっている振動の周波数で除した値、の1/4程度より深い壁を地中に構築するもので、これを1枚の連続地中壁とする、もしくはこれを2重に構築してその間を掘削して空溝とした構造となっている。
【0004】
防振性能は、振動の波長に対して壁や溝が深いほど高く、また比重と剛性を乗じて求める壁材のインピーダンスと地盤のインピーダンスの比が大きいほど防振性能が高い、という性質がある。これは、壁の構築深さを深くするほど壁の下部から回折するための距離が長くなるので振動が低減する一方、壁材と地盤のインピーダンス比が高いほど境界面での反射が増えて透過する振動が低減することに起因しているためである。
【0005】
また、振動遮断の手法を空溝にすることにより、対向する溝壁面を透過する振動をゼロにして、溝下部からの回折による振動の伝播のみに限定することができる。
ただし、振動の波長は周波数が低いほど長くなる。これに対応するべく壁等の深さを深くするほどコストが増大するため、防振性能を高くすることには限界がある。
【0006】
また、壁材と地盤のインピーダンス比を大きくするといっても、土の比重や剛性に対してコンクリートや鋼材のそれを大きくすることには限界があり、また比重が小さくて剛性の小さい発泡材のようなものを地中に設置する場合、地下水位が高いと発泡材が浮き上がるため安定した設置が困難という欠点がある。
【0007】
一般的に空溝を構築するには、2枚の山留壁を打設した後それらの間を掘削等して土を撤去するが、山留壁は土圧に抵抗して自立させる必要があるため、山留壁は空溝の深さよりさらに深く打設する必要があるためコストが増大する。
【0008】
そこで、通常の地下部の建設現場のように、2枚の山留壁の間に切梁を渡して壁を保持させる構造とした場合、切梁を介して振動が伝播してしまう。このため、上記した対向する溝壁面を透過する振動をゼロにした防振効果が減殺されてしまう欠点がある。
また、空溝の完成後に人や物が溝に転落する事故を防止するために蓋を設けると、同様に蓋が振動伝播経路となってしまう問題も有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000-64328号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上述した種々の問題を解決するために創作されたもので、地球環境を保全しつつコストダウン可能かつ安全性と安定性があり、しかも高性能の防振地中壁を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に係る発明は、振動発生源から地盤を伝播してくる振動を遮断する防振地中壁において、地盤を掘削することにより形成された縦溝と、
軽量かつインピーダンスの小さい材料である発泡樹脂製板が二重袋の外袋
と内袋の間に収納され、前記発泡樹脂製板は、外表面に切り込みが
入れられており、裏面には裏当て材が貼付されており、前記内袋の内部に土が充填された土嚢と、から構成され、前記縦溝は、多数の前記土嚢にて充填
されていることを特徴とする防振地中壁
である。
【0012】
請求項2に係る発明は、振動発生源から地盤を伝播してくる振動を遮断する防振地中壁において、鋼矢板、ソイルセメントまたはコンクリートからなる連続地中壁が間隔を置いて2重に打設され、その間に空間が形成された2重山留壁と、
軽量かつインピーダンスの小さい材料である発泡樹脂製板が二重袋の外袋
と内袋の間に収納され、前記発泡樹脂製板は、外表面に切り込みが
入れられており、裏面には裏当て材が貼付されており、前記内袋の内部に土が充填された土嚢と、から構成され、2重山留壁の空間は、多数の前記土嚢にて充填され
ていることを特徴とする防振地中壁
である。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に係る発明によれば、発泡樹脂等の軽量かつインピーダンスの小さい材料と地盤のインピーダンス比が高いほどその境界面での反射が増えて透過する振動が低減するので防振性能を高くすることができる。
特に地盤、連続地中壁、反復して出現する発泡樹脂等の層と土の層の境界面、連続地中壁、地盤の如きインピーダンスが異なる境界面を幾重にも設けることによって、各境界面を透過する振動がその都度低減して、防振地中壁部分を透過する振動が大きく低減する効果と、発泡樹脂材自体の減衰性能による効果の、2つを兼ね備えたものとなっているので防振性能を大きく高くすることができる。
【0017】
また、地下水位が高い場合であっても、発泡樹脂等の軽量かつインピーダンスの小さい材料で覆われた袋の内部に土が充填されているので、土嚢が錘となって発泡樹脂等が浮き上がることがないため、発泡樹脂等を安定して所定の位置に保つことができる。
さらにまた、空溝の完成後に人や物が溝に転落する事故を防止するための蓋を設ける必要がないから、蓋が振動伝播経路となることを防止することができる。
【0018】
土嚢を作るとき現地発生土を使用するため、現場外への排土量を低減することができ、また、この防振地中壁を仮設の振動対策構造物として使用した場合、袋を重機で取り出して内部の土を用いて埋め戻すことにより、廃棄物を最小限とすることができ、地球環境保全に貢献し得る。
【0019】
請求項2に係る発明によれば、土嚢を充填する空間を鋼矢板、ソイルセメントまたはコンクリートからなる連続地中壁を間隔を置いて2重に打設した2重山留壁にて形成したので、工事中に土壁が崩壊することなく防振地中壁構築工事を安定して施工することができる。
【0020】
さらに、空溝の山留壁は土圧に抵抗して自立させるため、山留壁は空溝の深さよりさらに深く打設する必要があるが、この発明によれば、袋部分は土で充填されているために、山留壁の土圧の一部を袋詰めされた土に負担させて打設深さを浅くして施工コストを削減することができ、その強度・剛性を高くすることができる。
【0021】
請求項3に係る発明によれば、発泡樹脂製板の表面に切り込みが入れられているので、想定外の発泡樹脂板の破断を防ぎ、また袋表面に貼付されあるいは二重袋の間隙に収納されているので、発泡樹脂板の散逸を防ぐことができる。
【0022】
請求項4に係る発明によれば、土嚢の構造が、発泡樹脂製ビーズが二重袋の間隙に充填されたものであるので、製作が容易であるばかりでなく土圧に対して柔軟に抵抗することができる。
【0023】
請求項5に係る発明によれば、二重袋の外袋と内袋の間には、発泡樹脂等の軽量かつインピーダンスの小さい材料が既に収納されているので、防振地中壁構築現場では、通常の土嚢を作成するときと同じようにこの防振地中壁用土嚢袋に土を充填するのみでよく、作業性を良くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図2】表面に切り込みが入れられた発泡樹脂製板が二重袋の間隙に収納された状態の土嚢の縦断面図である。
【
図3】表面に切り込みが入れられた発泡樹脂製板で覆われた二重袋の内部に土が充填された土嚢の縦断面図である。
【実施例1】
【0025】
本実施例の防振地中壁1の一部を示す横断面図である
図1を参照して、本実施例を説明する。
建設工事現場、工場、鉄道、道路等の振動発生源から地盤11を伝播してくる振動を遮断する防振地中壁1は、鋼矢板、ソイルセメントまたはコンクリートからなる連続地中壁21.21が間隔を置いて2重に打設され、その間の地盤を掘削して空間が形成された2重山留壁2と、外面が発泡樹脂で覆われた土嚢3とから構成されている。
【0026】
土嚢3は内土嚢袋31と外土嚢袋32からなる二重袋とされ、この二重袋の間に外表面に切り込み35が入れられ、裏面に裏あて材34が貼付された発泡樹脂製板33が収納されている。
この切り込み35は、発泡スチロール板33の破断を防止するものであり、裏あて材34は、発泡スチロール板33が破断したときでもそれらの移動を防いで発泡スチロール板33を全体として保形するものである。
【0027】
土嚢3は、上記した二重袋の内土嚢袋31内部に土36が充填されたものが多数製作される。防振地中壁1は、2重に打設された連続地中壁21.21間に形成された2重山留壁空間22にこれら土嚢3が設置された構造となっている。
【0028】
二重袋の構造は、土嚢3内の充填土36が外に漏れることのない布製もしくは樹脂製の袋の表面に、可撓性のあるクッション材を貼り付けた構造や袋の素材自体にクッション性を有する構造、あるいは小さな発泡樹脂ブロックが独立して鎧状に袋に張り付いている構造とする。また、クッションの材料は、発泡樹脂以外に、繊維を綿状にしたものでもよい。
【0029】
以上の実施の態様では、鋼矢板、ソイルセメントまたはコンクリートからなる連続地中壁を間隔を置いて2重に打設して2重山留壁2を構築しているが、この2重山留壁2は必ずしも必須のものではなく、地盤の安定性等の条件によってはこれを削減することも可能である。
【実施例2】
【0030】
この実施例は、土嚢3は内土嚢袋31と外土嚢袋32からなる二重袋とされ、この二重袋の間に発泡樹脂製ビーズが充填された形態である。
二重袋の構造は、実施例1と同様の構造とすることもできる。
【符号の説明】
【0031】
1 防振地中壁
2 2重山留壁
21 連続地中壁
22 2重山留壁空間
3 土嚢
31 内土嚢袋
32 外土嚢袋
33 発泡スチロール板
34 裏あて材
35 切り込み
36 充填土
37 緊締部