特許第6307781号(P6307781)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6307781
(24)【登録日】2018年3月23日
(45)【発行日】2018年4月11日
(54)【発明の名称】焼き菓子
(51)【国際特許分類】
   A21D 13/80 20170101AFI20180402BHJP
   A21D 13/02 20060101ALI20180402BHJP
   A21D 13/068 20170101ALI20180402BHJP
   A21D 2/36 20060101ALI20180402BHJP
【FI】
   A21D13/80
   A21D13/02
   A21D13/068
   A21D2/36
【請求項の数】11
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2013-270356(P2013-270356)
(22)【出願日】2013年12月26日
(65)【公開番号】特開2014-140365(P2014-140365A)
(43)【公開日】2014年8月7日
【審査請求日】2016年9月9日
(31)【優先権主張番号】特願2012-288635(P2012-288635)
(32)【優先日】2012年12月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100131288
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 尚祐
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 美音
(72)【発明者】
【氏名】石田 悠記
【審査官】 小倉 梢
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−075746(JP,A)
【文献】 特開2006−166909(JP,A)
【文献】 特開2008−125492(JP,A)
【文献】 ライ麦全粒粉のサクホロクッキー, クックパッド, [online],2009年10月29日,[平成29年7月6日検索], インターネット<URL : http://cookpad.com/recipe/950262>
【文献】 さくさくおからくっきー, クックパッド, [online],2009年 2月10日,[平成29年7月6日検索], インターネット<URL : http://cookpad.com/recipe/679038>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21D 2/00 − 17/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
WPIDS/WPIX(STN)
FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
小麦粉及び不溶性食物繊維含有粉の総量100質量部に対して、融点20℃以下の油脂及び融点25〜50℃の油脂を総量で20〜65質量部含有し、不溶性食物繊維含有粉中の麦類のふすまの含有量が80〜100質量%であり、かつ、下記(a)〜(c)を満たす焼き菓子:
(a)不溶性食物繊維含有粉の含有量Aに対する小麦粉の含有量Bの比率が、質量比で、B/A=50/50〜80/20であり、
(b)融点25〜50℃の油脂の含有量Cに対する融点20℃以下の油脂の含有量Dの比率が、質量比で、D/C=1/7〜7/1であり、
(c)グリアジンの含有量が3.0質量%以上である。
【請求項2】
不溶性食物繊維含有粉中の不溶性食物繊維の含有量が40質量%以上である、請求項1に記載の焼き菓子。
【請求項3】
麦類のふすま中に占める小麦ふすまの割合が80〜100質量%である、請求項1又は2のいずれか1項に記載の焼き菓子。
【請求項4】
不溶性食物繊維の含有量が2.5〜30質量%である、請求項1〜のいずれか1項に記載の焼き菓子。
【請求項5】
融点20℃以下の油脂の含有量が1.5〜35質量%である、請求項1〜のいずれか1項に記載の焼き菓子。
【請求項6】
焼き菓子の含水率が5〜20質量%である、請求項1〜のいずれか1項に記載の焼き菓子。
【請求項7】
クッキー、ビスケット、ショートブレッド及びクラッカーからなる群より選択される、請求項1〜のいずれか1項に記載の焼き菓子。
【請求項8】
少なくとも、小麦粉、不溶性食物繊維含有粉、融点20℃以下の油脂、及び融点25〜50℃の油脂を、下記(d)〜(g)を満たすように配合して生地を調製し、該生地を焼成することを含む焼き菓子の製造方法であって、不溶性食物繊維含有粉中の麦類のふすまの含有量が80〜100質量%である、焼き菓子の製造方法
(d)不溶性食物繊維含有粉の配合量A’に対する小麦粉の配合量B’の比率が、質量比で、B’/A’=50/50〜80/20であり、
(e)融点25〜50℃の油脂の配合量C’に対する融点20℃以下の油脂の配合量D’の比率が、質量比で、D’/C’=1/7〜7/1であり、
(f)小麦粉及び不溶性食物繊維含有粉の総配合量100質量部に対して、融点20℃以下の油脂及び融点25〜50℃の油脂の総配合量が20〜65質量部であり、
(g)生地中のグリアジンの含有量が2.7質量%以上である。
【請求項9】
生地中の不溶性食物繊維の含有量が2.2〜25質量%である、請求項に記載の製造方法。
【請求項10】
生地中の融点20℃以下の油脂の含有量が1.3〜30質量%である、請求項8又は9に記載の製造方法。
【請求項11】
焼き菓子が、クッキー、ビスケット、ショートブレッド及びクラッカーからなる群より選択される、請求項10のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不溶性食物繊維を豊富に含有する焼き菓子に関する。
【背景技術】
【0002】
麦類の外皮はふすまとも呼ばれ、不溶性食物繊維、ビタミン、ミネラル等を豊富に含むことから、健康食品素材として注目されている。小麦の種子を、外皮も含めて丸ごと粉砕した全粒粉は、血圧降下作用や腹部脂肪低減作用を有する他、糖尿病患者の死亡リスクを低減させることも報告されている。
【0003】
クッキー、ビスケット、カロリーバーといった小麦粉を主原料とする焼き菓子では、一般的に、ソフトで滑らかな食感が好まれる。一方、健康に対する機能性を高めるべく、小麦粉を用いた生地中にふすまのような不溶性食物繊維が豊富な粉を配合すると、これを焼成して得られる焼き菓子の食感が硬くなると同時にざらつき感や異味が増大し、好ましい食味の焼き菓子が得られなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、小麦粉を主原料とする焼き菓子であって、不溶性食物繊維を豊富に含有しながらも、よりソフトでなめらかな食感を有し、風味と甘味のいずれにも優れる焼き菓子の提供に関する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討を重ねた。そして、小麦粉と共に不溶性食物繊維を豊富に含有せしめた生地から焼き菓子を調製する場合であっても、当該生地に特定の油脂を特定量含有せしめると、この生地を焼成して得られる焼き菓子は、よりソフトな食感に仕上がり、不溶性食物繊維原料等に由来するざらつきと異味とが抑えられ、さらに甘味が引き立つことを見い出した。
【0006】
本発明は、小麦粉及び不溶性食物繊維含有粉の総量100質量部に対して、融点20℃以下の油脂及び融点25〜50℃の油脂を総量で20〜65質量部含有し、かつ、下記(a)〜(c)を満たす焼き菓子を提供するものである:
(a)不溶性食物繊維含有粉の含有量Aに対する小麦粉の含有量Bの比率が、質量比で、B/A=50/50〜80/20であり、
(b)融点25〜50℃の油脂の含有量Cに対する融点20℃以下の油脂の含有量Dの比率が、質量比で、D/C=1/7〜7/1であり、
(c)グリアジンの含有量が2.4質量%以上である。
【0007】
また、本発明は、少なくとも、小麦粉、不溶性食物繊維含有粉、融点20℃以下の油脂、及び融点25〜50℃の油脂を、下記(d)〜(g)を満たすように配合して生地を調製し、該生地を焼成することを含む、焼き菓子の製造方法を提供するものである:
(d)不溶性食物繊維含有粉の配合量A’に対する小麦粉の配合量B’の比率が、質量比で、B’/A’=50/50〜80/20であり、
(e)融点25〜50℃の油脂の配合量C’に対する融点20℃以下の油脂の配合量D’の比率が、質量比で、D’/C’=1/7〜7/1であり、
(f)小麦粉及び不溶性食物繊維含有粉の総配合量100質量部に対して、融点20℃以下の油脂及び融点25〜50℃の油脂の総配合量が20〜65質量部であり、
(g)生地中のグリアジンの含有量が2.0質量%以上である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の焼き菓子は、小麦粉を主成分とする焼き菓子であって、不溶性食物繊維を豊富に含有しながらも、よりソフトでなめらかな食感を有し、風味にも優れ、甘味もより引き立っている。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の焼き菓子について以下に詳細に説明する。
【0010】
本発明において「焼き菓子」とは、「製菓辞典」、初版、1981年10月30日、第204頁に記載のビスケット、クッキー、クラッカー、乾パン、プレッツェル、パイ、カットパン、ショートブレッド等を意味し、例えば、昭和46年の公正競争規約に定められたビスケット、クッキー、クラッカー、乾パン、プレッツェル、パイ、カットパン等が挙げられる。本発明の焼き菓子は、好ましくはクッキー、ビスケット、ショートブレッドまたはクラッカーである。
すなわち、本発明において「焼き菓子」とは、穀粉と油脂を含む生地を焼成して得られるものであるが、生地を酵母で発酵させることにより生地中に多くの気泡を含ませた後に焼成するパンや、生地に膨らし粉やメレンゲなどを添加することにより、生地中に多くの気泡を含ませた後に焼成するケーキとは異なる。本発明の「焼き菓子」は、気泡を殆ど含まず、パンやケーキよりも弾性が低く、貫通強度が高く、含水率が低く、さらに水分活性も低い。
【0011】
本発明の焼き菓子は特定量の小麦粉を含有する。本発明に用いる小麦粉は小麦の胚乳を製粉したものであれば特に制限はなく、例えば、強力粉、中力粉及び薄力粉から選ばれる1種又は2種以上を用いることができる。なかでも、中力粉、薄力粉、又は中力粉及び薄力粉を用いることが好ましく、薄力粉を用いることがより好ましい。前記小麦粉として市販品を用いることができる。また、本発明に用いる小麦粉は軟質小麦から製造されるものが好ましく、原料として用いられる小麦としてはウエスタン・ホワイト小麦、ホワイトクラブ小麦が好ましい。
【0012】
また、本発明の焼き菓子は、特定量の不溶性食物繊維含有粉を含む。不溶性食物繊維含有粉とは、不溶性食物繊維を高含有する粉末製剤であり、不溶性食物繊維を好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上、特に好ましくは40質量%以上含有する粉末製剤である。当該不溶性食物繊維含有粉に特に制限はなく、例えば、セルロース製剤、結晶セルロース製剤、メチルセルロース製剤、ヘミセルロース製剤、穀物種子の外皮を粉末化した製剤、大豆から豆乳を絞った後に残るおから、甲殻類の殻を粉末化した製剤、及び、菌類の細胞壁を粉末化した製剤から選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。甲殻類の殻を粉末化した製剤としては、キチン又はキトサンを含む製剤が挙げられる。上記不溶性食物繊維含有粉は、穀物種子の外皮を粉末化した製剤を含むことが好ましい。なかでも、麦類のふすまを含むことがより好ましく、小麦ふすまを含むことがさらに好ましい。
なお、本明細書において、「ふすま」とは、小麦の外皮の他、小麦以外の麦類の外皮をも含む広義の意味で用いる。
上記麦類としては、例えば、小麦、大麦、ライ麦、エンバクなどが挙げられる。
【0013】
上記不溶性食物繊維含有粉が麦類のふすまを含む場合において、当該不溶性食物繊維含有粉中に占める麦類のふすまの割合は、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80〜100質量%であることがさらに好ましく、90〜100質量%であることが特に好ましく、100質量%であることがとりわけ好ましい。すなわち、上記不溶性食物繊維含有粉は麦類のふすまからなることが好ましい。
また、上記不溶性食物繊維含有粉中の上記麦類のふすまは、小麦ふすまを含むことが好ましく、当該麦類のふすま中に占める小麦ふすまの割合は、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80〜100質量%であることがさらに好ましく、90〜100質量%であることが特に好ましく、100質量%であることがとりわけ好ましい。すなわち、上記不溶性食物繊維含有粉はより好ましくは小麦ふすまからなる。
【0014】
本発明における「不溶性食物繊維含有粉」中に小麦粉は含まれない。
【0015】
本発明の焼き菓子において、不溶性食物繊維含有粉の含有量に対する小麦粉の含有量の比率([小麦粉の含有量]/[不溶性食物繊維含有粉の含有量])は、質量比で、50/50〜80/20であり、食感と生理効果の両立の観点から、55/45〜80/20であることがより好ましく、60/40〜70/30であることがさらに好ましい。
【0016】
本発明の焼き菓子は、小麦粉及び不溶性食物繊維含有粉を総量で、30〜80質量%含有することが好ましく、40〜75質量%含有することがより好ましく、50〜70質量%含有することがさらに好ましい。
また、本発明の焼き菓子は、生理効果の観点から不溶性食物繊維を2.5質量%以上含有することが好ましく、3質量%以上含有することがより好ましく、5質量%以上含有することがさらに好ましい。また、食感の観点から、不溶性食物繊維の含有量は30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、15質量%以下であることがさらに好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましい。食感と生理効果の両立の観点から、本発明の焼き菓子は不溶性食物繊維を2.5〜30質量%含有することが好ましく、3〜20質量%含有することがより好ましく、5〜15質量%含有することがさらに好ましく、5〜10質量%含有することがさらに好ましい。
【0017】
本発明の焼き菓子は油脂を含有する。以下、本発明の焼き菓子に含有される油脂について説明する。
【0018】
本発明の焼き菓子は、融点20℃以下の油脂を1種又は2種以上含有する。当該油脂は、融点が20℃以下であれば特に制限はなく、例えば、大豆油、キャノーラ油、ナタネ油、米油、コーン油、綿実油、ゴマ油、サフラワー油、ひまわり油、オリーブ油、マカデミアナッツ油、ヘーゼルナッツ油、カボチャ種子油、クルミ油、椿油、茶実油、エゴマ油、カラシ油、米糠油、小麦麦芽油、ひまわり油、魚油等もしくはこれらの分別油、エステル交換油、又はこれらの混合油脂が挙げられる。風味の観点から、大豆油、キャノーラ油、菜種油、米油、コーン油、綿実油、ゴマ油、サフラワー油、ひまわり油及びオリーブ油からなる群から選択される1種又は2種以上が好ましく、菜種油及び米油からなる群から選択される1種又は2種がより好ましい。また、精製又は部分精製されたモノアシルグリセロール(モノグリセリド)、ジアシルグリセロール(ジグリセリド)又はトリアシルグリセロール(トリグリセリド)等が含まれていてもよい。
上記融点20℃以下の油脂は、融点が10℃以下であることが好ましく、4℃以下であることがより好ましい。
【0019】
また、本発明の焼き菓子は、融点25〜50℃の油脂を1種又は2種以上含有する。当該油脂は、融点が25〜50℃であれば特に制限はないが、可塑性を持った油脂が好ましく、例えば、バター、マーガリン、ファットスプレッド等の乳化油脂、ショートニング、ラード等を好適に用いることができる。風味の観点から、乳化油脂が好ましく、バター、マーガリン及びファットスプレッドからなる群から選択される1種又は2種以上がより好ましく、バター及びマーガリンからなる群から選択される1種又は2種以上がさらに好ましい。
上記融点25〜50℃の油脂は、融点が25〜45℃であることが好ましく、25〜40℃であることがより好ましい。
【0020】
上記融点25〜50℃の油脂は、通常、焼き菓子の製造方法に用いられるシュガーバッター法等において起泡性を有する必要性がある。したがって、上記融点25〜50℃の油脂の全構成脂肪酸中に占める飽和脂肪酸の割合が25質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましい。また、生地中への油脂の分散性の観点から、融点25〜50℃の油脂の全構成脂肪酸中に占める飽和脂肪酸の割合は45質量%以下であることが好ましく、35質量%以下であることがより好ましい。上記飽和脂肪酸として、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸及びベヘン酸から選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。風味及び食感の観点から、上記融点25〜50℃の油脂は、その全構成脂肪酸中に占めるパルミチン酸の割合が10〜20質量%であり、且つ、ステアリン酸の割合が5〜20質量%であることが好ましい。
【0021】
本発明の焼き菓子において、上記融点25〜50℃の油脂の含有量に対する上記融点20℃以下の油脂の含有量の比率([融点20℃以下の油脂の含有量]/[融点25〜50℃の油脂の含有量])は、質量比で、1/7〜7/1であり、食感の観点から、1/5〜7/1であることが好ましく、1/3〜5/1であることがより好ましい。当該質量比が7/1を超えると、焼き菓子原料に卵を用いた場合に均質な生地が得られにくくなる。
【0022】
本発明の焼き菓子中、上記融点20℃以下の油脂及び上記融点25〜50℃の油脂の総含有量は、上記小麦粉及び上記不溶性食物繊維含有粉の総含有量を100質量部としたときに20〜65質量部であり、食感の観点から、20〜60質量部であることが好ましく、30〜60質量部であることがより好ましい。
上記融点20℃以下の油脂及び上記融点25〜50℃の油脂をあわせた総油脂を構成する全脂肪酸中の不飽和脂肪酸の比率は、食感の観点から42質量%以上が好ましく、44質量%以上がより好ましく、49質量%以上がさらに好ましい。また、同様の観点から、上記融点20℃以下の油脂及び上記融点25〜50℃の油脂をあわせた総油脂を構成する全脂肪酸中の不飽和脂肪酸の比率は、86質量%以下が好ましく、84質量%以下がより好ましく、82質量%以下がさらに好ましい。ここで不飽和脂肪酸としては、ミリステレイン酸、ペンタデセン酸、パルミトレイン酸、マルガロレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレイン酸、ガドレイン酸、エイコサジエン酸、アラキドン酸、エルカ酸、ドコサジエン酸等が挙げられる。
【0023】
本発明において、油脂の融点は、すべての固体脂が融解する境界温度点である。油脂の固体脂含量は、日本油化学協会制定の規準油脂分析試験法の2.2.9固体脂含量(NMR法)に記載の方法に従い測定することができる。
【0024】
本発明の焼き菓子中、上記融点20℃以下の油脂と上記融点25〜50℃の油脂の総含有量は、12〜40質量%であることが好ましく、15〜37質量%であることがより好ましく、18〜35質量%であることがさらに好ましい。また、本発明の焼き菓子中、上記融点20℃以下の油脂の含有量は食感の観点から、1.5質量%以上であることが好ましく、2質量%以上であることがより好ましく、3質量%以上であることがより好ましく、5質量%以上であることがより好ましく、7.5質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることがより好ましい。また、風味の観点から上記融点20℃以下の油脂の含有量は、35質量%以下であることが好ましく、33質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、28質量%以下であることがより好ましく、25質量%以下であることがより好ましい。食感と風味の両立の観点から上記融点20℃以下の油脂の含有量は、1.5〜35質量%であることが好ましく、3〜33質量%であることがより好ましく、5〜30質量%であることがより好ましく、7.5〜28質量%であることがより好ましく、10〜25質量%であることがより好ましい。
本発明の焼き菓子中には、本発明の作用効果を損なわない範囲で、融点50℃を超える油脂が含まれてもよいが、通常には、本発明の焼き菓子中の油脂は、上記融点20℃以下の油脂と上記融点25〜50℃の油脂よりなる。
【0025】
本発明の焼き菓子中、グリアジンの含有量は、2.4質量%以上である。食感のザラつきや、不溶性食物繊維含有粉等に由来する異味を抑える観点から、本発明の焼き菓子中のグリアジンの含有量は2.7質量%以上であることがより好ましく、3.0質量%以上であることがさらに好ましく、3.2質量%以上であることがさらに好ましい。また、食感と食味の観点から、本発明の焼き菓子中のグリアジンの含有量は4.3質量%以下であることが好ましく、4.1質量%以下であることがより好ましい。食感のザラつきや、不溶性食物繊維含有粉等に由来する異味の抑制と食味の両立の観点から、本発明の焼き菓子中のグリアジンの含有量は2.4〜4.3質量%であることがより好ましく、2.7〜4.3質量%であることがさらに好ましく、3.0〜4.3質量%であることがさらに好ましく、3.2〜4.3質量%であることがさらに好ましく、3.2〜4.1質量%であることがさらに好ましい。
【0026】
本発明の焼き菓子は、上記の小麦粉、不溶性食物繊維含有粉、油脂等の他に、生地の調製において配合しうる原料由来の他の成分や、生地の焼成後に添加する種々の調味料由来の他の成分を含んでもよい。当該他の成分の由来として、例えば、糖類、シロップ、粉乳、牛乳、ココナッツミルク、卵、澱粉、食塩、パウダー、調味料、甘味料、膨張剤、pH調整剤、酸化防止剤、香料及び水から選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。
【0027】
本発明の焼き菓子の含水率は、保存性の観点から、20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましい。また、食感の観点から、本発明の焼き菓子の含水率は5質量%以上であることが好ましく、6質量%以上であることがより好ましい。より具体的には、本発明の焼き菓子の含水率は、5〜20質量%であることが好ましく、5〜15質量%であることがより好ましく、6〜10質量%であることがさらに好ましい。
本発明の焼き菓子の水分活性は、保存性の観点から、0.8以下であることが好ましく、0.7以下であることがより好ましく、0.6以下であることがさらに好ましい。
【0028】
以下に本発明の焼き菓子の製造方法(以下、本発明の製造方法という。)について説明する。
本発明の焼き菓子は、特定量の小麦粉、不溶性食物繊維含有粉、融点20℃以下の油脂、及び融点25〜50℃の油脂を主原料とし、必要により、特定量の糖類、卵等を配合して調製した生地を焼成して得られうる。
当該小麦粉、不溶性食物繊維含有粉、融点20℃以下の油脂、及び融点25〜50℃の油脂は、上述の本発明の焼き菓子において説明したものと同義である。
【0029】
本発明の製造方法における生地の調製において、不溶性食物繊維含有粉の配合量に対する小麦粉の配合量の比率([小麦粉の配合量]/[不溶性食物繊維含有粉の配合量])は、質量比で、50/50〜80/20であり、食感と生理効果の両立の観点から、55/45〜80/20であることがより好ましく、60/40〜70/30であることがさらに好ましい。
また、本発明の製造方法における生地の調製において、融点25〜50℃の油脂の配合量に対する融点20℃以下の油脂の配合量の比率([融点20℃以下の油脂の配合量]/[融点25〜50℃の油脂の配合量])は、質量比で、1/7〜7/1であり、食感の観点から、1/5〜7/1であることがより好ましく、1/3〜5/1であることがさらに好ましい。当該質量比が7/1を超えると、生地中に卵を配合した場合に均質な生地が得られにくくなる。
【0030】
また、本発明の製造方法における生地の調製においては、小麦粉及び不溶性食物繊維含有粉の総配合量100質量部に対して、融点20℃以下の油脂及び融点25〜50℃の油脂の総配合量は20〜65質量部であり、食感の観点から、20〜60質量部であることが好ましく、30〜60質量部であることがより好ましい。
本発明の製造方法における生地の調製において、本発明の作用効果を損なわない範囲で、融点50℃を超える油脂を配合してもよいが、通常にはこれらの油脂は配合しない。
【0031】
本発明の製造方法では、生地中に糖類を配合することが好ましい。当該糖類に特に制限はなく、単糖類、二糖類、三糖類、四糖類、五糖類、六糖類や澱粉加水分解物、及びこれらを還元した糖アルコールから選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。より具体的には、例えば、グルコース、マルトース、フルクトース、シュークロース、ラクトース、トレハロース、マルトトリオース、マルトテトラオース、ソルビトール、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、水飴、異性化糖、転化糖、シクロデキストリン、デキストリン、及び分岐シクロデキストリンから選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。
生地に配合する糖類の配合量は、小麦粉及び不溶性食物繊維含有粉の総配合量100質量部に対して1〜50質量部であり、1〜30質量部であることがより好ましく、1〜20質量部であることがさらに好ましい。
【0032】
本発明の製造方法では、生地中に卵を配合することが好ましい。当該卵に特に制限はないが、鶏卵、ダチョウ卵、アヒル卵等を用いることができ、中でも鶏卵が好適に用いられる。上記卵は、卵白、卵黄、又は卵白及び卵黄を意味する。
使用する卵の加工形態に特に制限はなく、生卵、凍結卵、粉末卵、加糖卵、及び殺菌卵から選ばれる1種又は2種以上を用いることができるが、中でも殺菌卵が好適に用いられる。
生地に配合する卵の配合量は、小麦粉及び不溶性食物繊維含有粉の総配合量100質量部に対して5〜50質量部であることが好ましく、5〜30質量部であることがより好ましく、5〜20質量部であることがさらに好ましい。
【0033】
また、本発明の製造方法では、生地中に、粉乳、脱脂粉乳、牛乳、ココナッツミルク、メープルシロップ、アーモンドパウダー、食塩、各種調味料、各種甘味料、膨張剤、pH調整剤、酸化防止剤、香料、水等を配合してもよい。これらの配合量は通常の焼き菓子の調製における配合量の範囲内であることが好ましい。
【0034】
上記の生地の調製には、シュガーバッター法、フラワーバッター法等の通常の方法を採用することができる。また、カッチングハードビスケット、カッチングソフトビスケット(エンボス)、ロータリービスケット、ワイヤーカットビスケット、ルートプレスビスケット、デポジットビスケット(ドロップ)、ハンドメイドビスケット等の方法を採用することもできる。
【0035】
本発明の製造方法において、調製した生地中の不溶性食物繊維の含有量は生理効果の観点から2.2質量%以上であることが好ましく、2.5質量%以上であることがより好ましく、4.5質量%以上であることがさらに好ましい。調製した生地中の不溶性食物繊維の含有量は食感の観点から、25質量%以下であることが好ましく17質量%以下であることがより好ましく、13質量%以下であることがさらに好ましく、9質量%以下であることがさらに好ましい。食感と生理効果の両立の観点から、調製した生地中の不溶性食物繊維の含有量は2.2〜25質量%であることが好ましく、2.5〜17質量%であることがより好ましく、4.5〜13質量%であることがさらに好ましく、4.5〜9質量%であることがさらに好ましい。
【0036】
本発明の製造方法において、調製した生地中の油脂の総含有量は、11〜35質量%であることが好ましく、12〜32質量%であることがより好ましく、13〜30質量%であることがさらに好ましい。
また、本発明の製造方法において、調製した生地中の融点20℃以下の油脂の含有量は食感の観点から、1.3質量%以上であることが好ましく、1.5質量%以上であることがより好ましく、2.5質量%以上であることがより好ましく、4質量%以上であることがより好ましく、6.5質量%以上であることがより好ましく、9質量%以上であることがより好ましい。また、風味の観点から上記融点20℃以下の油脂の含有量は、30質量%以下であることが好ましく、27質量%以下であることがより好ましく、25質量%以下であることがより好ましく、23質量%以下であることがより好ましく、21質量%以下であることがより好ましい。食感と風味の両立の観点から、調製した生地中の上記融点20℃以下の油脂の含有量は、1.3〜30質量%であることが好ましく、2.5〜27質量%であることがより好ましく、4〜25質量%であることがより好ましく、6.5〜23質量%であることがより好ましく、9〜21質量%であることがより好ましい。
本発明の製造方法において、調製した生地中の総油脂を構成する全脂肪酸中の不飽和脂肪酸の比率は、食感の観点から42質量%以上が好ましく、44質量%以上がより好ましく、49質量%以上がさらに好ましい。また、同様の観点から、調製した生地中の総油脂を構成する全脂肪酸中の不飽和脂肪酸の比率は、86質量%以下が好ましく、84質量%以下がより好ましく、82質量%以下がさらに好ましい。ここで不飽和脂肪酸としては、ミリステレイン酸、ペンタデセン酸、パルミトレイン酸、マルガロレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレイン酸、ガドレイン酸、エイコサジエン酸、アラキドン酸、エルカ酸、ドコサジエン酸等が挙げられる。
【0037】
本発明の製造方法で得られる焼き菓子は、グリアジンを一定量以上含有している。グリアジンは、グルテニンとともに、グルテン前駆体である。小麦粉のようにグリアジン及びグルテニンを含む穀物粉に水を加えると、グリアジンとグルテニンが絡み合ってグルテンができる。
本発明の製造方法において、調製した生地中のグリアジンの含有量は2.0質量%以上である。製造される焼き菓子において、不溶性食物繊維含有粉等に由来する食感のザラつきや異味を抑える観点から、調製した生地中のグリアジンの含有量は2.3質量%以上であることが好ましく、2.7質量%以上であることがより好ましく、2.9質量%以上であることがさらに好ましい。また、製造される焼き菓子の食感や食味の観点から、調製した生地中のグリアジンの含有量は4.0質量%以下であることが好ましく、3.7質量%以下であることがより好ましい。不溶性食物繊維含有粉等に由来する食感のザラつきや異味の抑制と食味の両立の観点から、調製した生地中のグリアジンの含有量は、2.3〜4.0質量%であることがより好ましく、2.7〜3.7質量%であることがさらに好ましく、2.9〜3.7質量%であることがさらに好ましい。本発明において、グリアジンの含有量は後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
【0038】
本発明の製造方法は、上記で調製した生地を焼成することを含む。当該生地を焼成することにより、本発明の焼き菓子が得られうる。焼成条件に特に制限はなく、焼き菓子の種類に応じて適宜決定することができる。
通常の焼成条件において、生地に含まれていた水分の50〜90質量%が失われる。したがって、生地に配合した上記の原料に含まれる不揮発成分の含有量は、焼成後の焼き菓子中において、失われた水分量に応じて増加する。
【0039】
上述した実施形態に関し、本発明はさらに以下の焼き菓子及び焼き菓子の製造方法を提供する。
【0040】
<1>
小麦粉及び不溶性食物繊維含有粉の総量100質量部に対して、融点20℃以下の油脂及び融点25〜50℃の油脂を総量で20〜65質量部含有し、かつ、下記(a)〜(c)を満たす焼き菓子:
(a)不溶性食物繊維含有粉の含有量Aに対する小麦粉の含有量Bの比率が、質量比で、B/A=50/50〜80/20であり、
(b)融点25〜50℃の油脂の含有量Cに対する融点20℃以下の油脂の含有量Dの比率が、質量比で、D/C=1/7〜7/1であり、
(c)グリアジンの含有量が2.4質量%以上である。
【0041】
<2>
不溶性食物繊維含有粉が、不溶性食物繊維を好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上、よりさらに好ましくは40質量%以上含有するものである、前記<1>記載の焼き菓子。
<3>
不溶性食物繊維含有粉が、好ましくはセルロース製剤、結晶セルロース製剤、メチルセルロース製剤、ヘミセルロース製剤、穀物種子の外皮を粉末化した製剤、大豆から豆乳を絞った後に残るおから、甲殻類の殻を粉末化した製剤、及び、菌類の細胞壁を粉末化した製剤から選ばれる1種又は2種以上からなり、さらに好ましくは穀物種子の外皮を粉末化した製剤を含んでなり、さらに好ましく麦類のふすまを含んでなり、さらに好ましくは小麦ふすまを含んでなる、前記<1>又は<2>に記載の焼き菓子。
<4>
不溶性食物繊維含有粉が、麦類のふすまを、好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80〜100質量%、さらに好ましくは90〜100質量%、さらに好ましくは100質量%含有するものである、前記<3>に記載の焼き菓子。
<5>
麦類のふすま中に占める小麦ふすまの割合が、好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80〜100質量%、さらに好ましくは90〜100質量%、さらに好ましくは100質量%である、前記<3>又は<4>に記載の焼き菓子。
【0042】
<6>
B/Aが、好ましくは55/45〜80/20であり、より好ましくは60/40〜70/30である、前記<1>〜<5>のいずれか1つに記載の焼き菓子。
<7>
焼き菓子中の小麦粉及び不溶性食物繊維含有粉の総含有量が、好ましくは30〜80質量%であり、より好ましくは40〜75質量%であり、さらに好ましくは50〜70質量%である、前記<1>〜<6>のいずれか1つに記載の焼き菓子。
<8>
焼き菓子中の不溶性食物繊維の含有量が、好ましくは2.5質量%以上、より好ましくは3質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上である、前記<1>〜<7>のいずれか1つに記載の焼き菓子。
<9>
焼き菓子中の不溶性食物繊維の含有量が、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは15質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下である、前記<1>〜<8>のいずれか1つに記載の焼き菓子。
<10>
焼き菓子中の不溶性食物繊維の含有量が、好ましくは2.5〜30質量%、より好ましくは3〜20質量%、さらに好ましくは5〜15質量%、さらに好ましくは5〜10質量%である、前記<1>〜<7>のいずれか1つに記載の焼き菓子。
【0043】
<11>
融点20℃以下の油脂が、好ましくは大豆油、キャノーラ油、菜種油、米油、コーン油、綿実油、ゴマ油、サフラワー油、ひまわり油、オリーブ油、マカデミアナッツ油、ヘーゼルナッツ油、カボチャ種子油、クルミ油、椿油、茶実油、エゴマ油、カラシ油、米糠油、小麦麦芽油、ひまわり油及び魚油からなる群から選択される1種又は2種以上であり、より好ましくは、大豆油、キャノーラ油、菜種油、米油、コーン油、綿実油、ゴマ油、サフラワー油、ひまわり油及びオリーブ油からなる群から選択される1種又は2種以上であり、さらに好ましくは菜種油及び米油からなる群から選択される1種又は2種以上である、前記<1>〜<10>のいずれか1つに記載の焼き菓子。
<12>
融点20℃以下の油脂が、好ましくは融点が10℃以下のものであり、より好ましくは融点が4℃以下のものである、前記<1>〜<11>のいずれか1つに記載の焼き菓子。
<13>
融点25〜50℃の油脂が、好ましくは可塑性を持った油脂からなり、より好ましくはバター、マーガリン、ファットスプレッド等の乳化油脂、ショートニング、及びラードからなる群から選択される1種又は2種以上であり、さらに好ましくは乳化油脂からなり、よりさらに好ましくは油中水型乳化油脂からなり、よりさらに好ましくはバター、マーガリン及びファットスプレッドから選択される1種又は2種以上からなり、よりさらに好ましくはマーガリン及バターから選択される1種又は2種以上からなる、前記<1>〜<12>のいずれか1つに記載の焼き菓子。
<14>
融点25〜50℃の油脂の全構成脂肪酸中に占める飽和脂肪酸の割合が、好ましくは25質量%以上であり、より好ましくは30質量%以上である、前記<1>〜<13>のいずれか1つに記載の焼き菓子。
<15>
融点25〜50℃の油脂の全構成脂肪酸中に占める飽和脂肪酸の割合が、好ましくは45質量%以下であり、より好ましくは35質量%以下である、前記<1>〜<14>のいずれか1つに記載の焼き菓子。
<16>
融点25〜50℃の油脂の全構成脂肪酸中に占める飽和脂肪酸の割合が、好ましくは25〜45質量%であり、より好ましくは30〜35質量%である、前記<1>〜<13>のいずれか1つに記載の焼き菓子。
<17>
飽和脂肪酸が、好ましくはラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸及びベヘン酸から選ばれる1種又は2種以上である、前記<14>〜<16>のいずれか1つに記載の焼き菓子。
<18>
融点25〜50℃の油脂の全構成脂肪酸中に占めるパルミチン酸の割合が、好ましくは10〜20質量%であり、且つ、前記融点25〜50℃の油脂の全構成脂肪酸中に占めるステアリン酸の割合が、好ましくは5〜20質量%である、前記<1>〜<17>のいずれか1つに記載の焼き菓子。
<19>
融点25〜50℃の油脂が、好ましくは融点が25〜45℃であり、より好ましくは融点が25〜40℃である、前記<1>〜<18>のいずれか1つに記載の焼き菓子。
<20>
D/Cが、好ましくは1/5〜7/1であり、より好ましくは1/3〜5/1である、前記<1>〜<19>のいずれか1つに記載の焼き菓子。
【0044】
<21>
小麦粉及び不溶性食物繊維含有粉の総量100質量部に対して、融点20℃以下の油脂及び融点25〜50℃の油脂を総量で、好ましくは20〜60質量部含有するものであり、より好ましくは30〜60質量部含有するものである、前記<1>〜<20>のいずれか1つに記載の焼き菓子。
<22>
焼き菓子中、融点20℃以下の油脂及び融点25〜50℃の油脂をあわせた総油脂を構成する全脂肪酸中の不飽和脂肪酸の比率が、好ましくは42質量%以上であり、より好ましくは44質量%以上であり、さらに好ましくは49質量%以上である、前記<1>〜<21>のいずれか1つに記載の焼き菓子。
<23>
焼き菓子中、融点20℃以下の油脂及び融点25〜50℃の油脂をあわせた総油脂を構成する全脂肪酸中の不飽和脂肪酸の比率が、好ましくは86質量%以下であり、より好ましくは84質量%以下であり、さらに好ましくは82質量%以下である、前記<1>〜<22>のいずれか1つに記載の焼き菓子。
<24>
融点20℃以下の油脂及び融点25〜50℃の油脂をあわせた総油脂を構成する全脂肪酸中の不飽和脂肪酸の比率が、好ましくは42〜86質量%であり、より好ましくは44〜84質量%であり、さらに好ましくは49〜82質量%である、前記<1>〜<21>のいずれか1つに記載の焼き菓子。
<25>
不飽和脂肪酸が、ミリステレイン酸、ペンタデセン酸、パルミトレイン酸、マルガロレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレイン酸、ガドレイン酸、エイコサジエン酸、アラキドン酸、エルカ酸、及びドコサジエン酸から選ばれる1種又は2種以上である、前記<22>〜<24>のいずれか1つに記載の焼き菓子。
<26>
焼き菓子中、融点20℃以下の油脂と融点25〜50℃の油脂の総含有量が、好ましくは12〜40質量%であり、より好ましくは15〜37質量%であり、さらに好ましくは18〜35質量%である、前記<1>〜<25>のいずれか1つに記載の焼き菓子。
<27>
焼き菓子中、融点20℃以下の油脂の含有量が、好ましくは1.5質量%以上、より好ましくは2質量%以上、さらに好ましくは3質量%以上、よりさらに好ましくは5質量%以上、よりさらに好ましくは7.5質量%以上、よりさらに好ましくは10質量%以上である、前記<1>〜<26>のいずれか1つに記載の焼き菓子。
<28>
焼き菓子中、融点20℃以下の油脂の含有量が、好ましくは35質量%以下、より好ましくは33質量%以下、さらに好ましくは30質量%以下、よりさらに好ましくは28質量%以下、よりさらに好ましくは25質量%以下である前記<1>〜<27>のいずれか1つに記載の焼き菓子。
<29>
焼き菓子中、融点20℃以下の油脂の含有量が、好ましくは1.5〜35質量%、より好ましくは3〜33質量%、さらに好ましくは5〜30質量%、よりさらに好ましくは7.5〜28質量%、よりさらに好ましくは10〜25質量%である、前記<1>〜<26>のいずれか1つに記載の焼き菓子。
【0045】
<30>
焼き菓子中のグリアジンの含有量が、好ましくは2.7質量%以上、より好ましくは3.0質量%以上、さらに好ましくは3.2質量%以上である、前記<1>〜<29>のいずれか1つに記載の焼き菓子。
<31>
焼き菓子中のグリアジンの含有量が、好ましくは4.3質量%以下、より好ましくは4.1質量%以下である前記<1>〜<30>のいずれか1つに記載の焼き菓子。
<32>
焼き菓子中のグリアジンの含有量が、好ましくは2.4〜4.3質量%、より好ましくは2.7〜4.3質量%、さらに好ましくは3.0〜4.3質量%、さらに好ましくは3.2〜4.3質量%、さらに好ましくは3.2〜4.1質量%である、前記<1>〜<29>のいずれか1つに記載の焼き菓子。
【0046】
<33>
焼き菓子の含水率が、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下である、前記<1>〜<32>のいずれか1つに記載の焼き菓子。
<34>
含水率が、好ましくは5質量%以上、より好ましくは6質量%以上である、前記<1>〜<33>のいずれか1つに記載の焼き菓子。
<35>
含水率が、好ましくは5〜20質量%、より好ましくは5〜15質量%、さらに好ましくは6〜10質量%である、前記<1>〜<32>のいずれか1つに記載の焼き菓子。
<36>
水分活性が、好ましくは0.8以下、より好ましくは0.7以下、さらに好ましくは0.6以下である、前記<1>〜<35>のいずれか1つに記載の焼き菓子。
<37>
焼き菓子が、好ましくはビスケット、クッキー、クラッカー、乾パン、プレッツェル、パイ、カットパン及びショートブレッドからなる群より選択される1種又は2種以上であり、より好ましくはクッキー、ビスケット、ショートブレッド及びクラッカーからなる群より選択される1種又は2種以上である、前記<1>〜<36>のいずれか1つに記載の焼き菓子。
【0047】
<38>
少なくとも、小麦粉、不溶性食物繊維含有粉、融点20℃以下の油脂、及び融点25〜50℃の油脂を、下記(d)〜(g)を満たすように配合して生地を調製し、該生地を焼成することを含む、焼き菓子の製造方法:
(d)不溶性食物繊維含有粉の配合量A’に対する小麦粉の配合量B’の比率が、質量比で、B’/A’=50/50〜80/20であり、
(e)融点25〜50℃の油脂の配合量C’に対する融点20℃以下の油脂の配合量D’の比率が、質量比で、D’/C’=1/7〜7/1であり、
(f)小麦粉及び不溶性食物繊維含有粉の総配合量100質量部に対して、融点20℃以下の油脂及び融点25〜50℃の油脂の総配合量が20〜65質量部であり、
(g)生地中のグリアジンの含有量が2.0質量%以上である。
<39>
不溶性食物繊維含有粉が、不溶性食物繊維を好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上、よりさらに好ましくは40質量%以上含有するものである、前記<38>に記載の焼き菓子の製造方法。
<40>
不溶性食物繊維含有粉が、好ましくはセルロース製剤、結晶セルロース製剤、メチルセルロース製剤、ヘミセルロース製剤、穀物種子の外皮を粉末化した製剤、大豆から豆乳を絞った後に残るおから、甲殻類の殻を粉末化した製剤、及び、菌類の細胞壁を粉末化した製剤から選ばれる1種又は2種以上からなり、さらに好ましくは穀物種子の外皮を粉末化した製剤を含んでなり、さらに好ましくは麦類のふすまを含んでなり、さらに好ましくは小麦ふすまを含んでなる、前記<38>又は<39>に記載の焼き菓子の製造方法。
<41>
不溶性食物繊維含有粉が、麦類のふすまを、好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80〜100質量%、さらに好ましくは90〜100質量%、さらに好ましくは100質量%含有するものである、前記<40>に記載の焼き菓子の製造方法。
<42>
麦類のふすま中に占める小麦ふすまの割合が、好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80〜100質量%、さらに好ましくは90〜100質量%、さらに好ましくは100質量%である、前記<40>又は<41>に記載の焼き菓子の製造方法。
<43>
B’/A’が、好ましくは55/45〜80/20であり、より好ましくは60/40〜70/30である、前記<40>〜<42>のいずれか1つに記載の焼き菓子の製造方法。
<44>
生地中の不溶性食物繊維の含有量が、好ましくは2.2質量%以上、より好ましくは2.5質量%以上、さらに好ましくは4.5質量%以上である、前記<38>〜<43>のいずれか1つに記載の焼き菓子の製造方法。
<45>
生地中の不溶性食物繊維の含有量が、好ましくは25質量%以下、より好ましくは17質量%以下、さらに好ましくは13質量%以下、さらに好ましくは9質量%以下である前記<38>〜<44>のいずれか1つに記載の焼き菓子の製造方法。
<46>
生地中の不溶性食物繊維の含有量が、好ましくは2.2〜25質量%、より好ましくは2.5〜17質量%、さらに好ましくは4.5〜13質量%、さらに好ましくは4.5〜9質量%である、前記<38>〜<43>のいずれか1つに記載の焼き菓子の製造方法。
【0048】
<47>
融点20℃以下の油脂が、好ましくは大豆油、キャノーラ油、菜種油、米油、コーン油、綿実油、ゴマ油、サフラワー油、ひまわり油、オリーブ油、マカデミアナッツ油、ヘーゼルナッツ油、カボチャ種子油、クルミ油、椿油、茶実油、エゴマ油、カラシ油、米糠油、小麦麦芽油、ひまわり油及び魚油からなる群から選択される1種又は2種以上を含有するものであり、より好ましくは、大豆油、キャノーラ油、菜種油、米油、コーン油、綿実油、ゴマ油、サフラワー油、ひまわり油及びオリーブ油からなる群から選択される1種又は2種以上を含有するものであり、さらに好ましくは菜種油及び米油からなる群から選択される1種又は2種以上を含有するものである、前記<38>〜<46>のいずれか1つに記載の焼き菓子の製造方法。
<48>
融点20℃以下の油脂が、好ましくは融点が10℃以下のものであり、より好ましくは融点が4℃以下のものである、前記<38>〜<47>のいずれか1つに記載の焼き菓子の製造方法。
<49>
融点25〜50℃の油脂が、好ましくは可塑性を持った油脂からなり、より好ましくはバター、マーガリン、ファットスプレッド等の乳化油脂、ショートニング及びラードからなる群から選択される1種又は2種以上であり、さらに好ましくは乳化油脂からなり、さらに好ましくは油中水型乳化油脂からなり、よりさらに好ましくはバター、マーガリン及びファットスプレッドから選択される1種又は2種以上からなり、よりさらに好ましくはマーガリン及バターから選択される1種又は2種以上からなる、前記<38>〜<48>のいずれか1つに記載の焼き菓子の製造方法。
<50>
融点25〜50℃の油脂の全構成脂肪酸中に占める飽和脂肪酸の割合が、好ましくは25質量%以上であり、より好ましくは30質量%以上である、前記<38>〜<49>のいずれか1つに記載の焼き菓子の製造方法。
<51>
融点25〜50℃の油脂の全構成脂肪酸中に占める飽和脂肪酸の割合が、好ましくは45質量%以下であり、より好ましくは35質量%以下である、前記<38>〜<50>のいずれか1つに記載の焼き菓子の製造方法。
<52>
融点25〜50℃の油脂の全構成脂肪酸中に占める飽和脂肪酸の割合が、好ましくは25〜45質量%であり、より好ましくは30〜35質量%である、前記<38>〜<49>のいずれか1つに記載の焼き菓子の製造方法。
<53>
飽和脂肪酸が、好ましくはラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸及びベヘン酸から選ばれる1種又は2種以上である、前記<50>〜<52>のいずれか1つに記載の焼き菓子の製造方法。
<54>
融点25〜50℃の油脂の全構成脂肪酸中に占めるパルミチン酸の割合が、好ましくは10〜20質量%であり、且つ、前記融点25〜50℃の油脂の全構成脂肪酸中に占めるステアリン酸の割合が、好ましくは5〜20質量%である、前記<38>〜<53>のいずれか1つに記載の焼き菓子。
<55>
融点25〜50℃の油脂が、好ましくは融点が25〜45℃であり、より好ましくは融点が25〜40℃である、前記<38>〜<54>のいずれか1つに記載の焼き菓子の製造方法。
<56>
D’/C’が、好ましくは1/5〜7/1であり、より好ましくは1/3〜5/1である、前記<38>〜<55>のいずれか1つに記載の焼き菓子の製造方法。
【0049】
<57>
小麦粉及び不溶性食物繊維含有粉の総配合量100質量部に対して、融点20℃以下の油脂及び融点25〜50℃の油脂を総配合量で、好ましくは20〜60質量部、より好ましくは30〜60質量部配合するものである、前記<38>〜<56>のいずれか1つに記載の焼き菓子の製造方法。
<58>
生地中、融点20℃以下の油脂及び融点25〜50℃の油脂をあわせた総油脂を構成する全脂肪酸中の不飽和脂肪酸の比率が、好ましくは42質量%以上であり、より好ましくは44質量%以上であり、さらに好ましくは49質量%以上である、前記<38>〜<57>のいずれか1つに記載の焼き菓子の製造方法。
<59>
生地中、融点20℃以下の油脂及び融点25〜50℃の油脂をあわせた総油脂を構成する全脂肪酸中の不飽和脂肪酸の比率が、好ましくは86質量%以下であり、より好ましくは84質量%以下であり、さらに好ましくは82質量%以下である、前記<38>〜<58>のいずれか1つに記載の焼き菓子の製造方法。
<60>
生地中、融点20℃以下の油脂及び融点25〜50℃の油脂をあわせた総油脂を構成する全脂肪酸中の不飽和脂肪酸の比率が、好ましくは42〜86質量%であり、より好ましくは44〜84質量%であり、さらに好ましくは49〜82質量%である、前記<38>〜<59>のいずれか1つに記載の焼き菓子の製造方法。
<61>
不飽和脂肪酸が、ミリステレイン酸、ペンタデセン酸、パルミトレイン酸、マルガロレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレイン酸、ガドレイン酸、エイコサジエン酸、アラキドン酸、エルカ酸、及びドコサジエン酸から選ばれる1種又は2種以上である、前記<58>〜<60>のいずれか1つに記載の焼き菓子の製造方法。
<62>
生地中の融点20℃以下の油脂と融点25〜50℃の油脂の総含有量が、好ましくは11〜35質量%であり、より好ましくは12〜32質量%であり、さらに好ましくは13〜30質量%である、前記<38>〜<61>のいずれか1つに記載の焼き菓子の製造方法。
<63>
生地中、融点20℃以下の油脂の含有量が、好ましくは1.3質量%以上、より好ましくは1.5質量%以上、さらに好ましくは2.5質量%以上、よりさらに好ましくは4質量%以上、よりさらに好ましくは6.5質量%以上、よりさらに好ましくは9質量%以上である、前記<38>〜<62>のいずれか1つに記載の焼き菓子の製造方法。
<64>
生地中、融点20℃以下の油脂の含有量が、好ましくは30質量%以下、より好ましくは27質量%以下、さらに好ましくは25質量%以下、よりさらに好ましくは23質量%以下、よりさらに好ましくは21質量%以下である前記<38>〜<63>のいずれか1つに記載の焼き菓子の製造方法。
<65>
生地中、融点20℃以下の油脂の含有量が、好ましくは1.3〜30質量%、より好ましくは2.5〜27質量%、さらに好ましくは4〜25質量%、よりさらに好ましくは6.5〜23質量%、よりさらに好ましくは9〜21質量%である、前記<38>〜<62>のいずれか1つに記載の焼き菓子の製造方法。
【0050】
<66>
生地中のグリアジンの含有量が、好ましくは2.3質量%以上、より好ましくは2.7質量%以上、さらに好ましくは2.9質量%以上である、前記<38>〜<65>のいずれか1つに記載の焼き菓子の製造方法。
<67>
生地中のグリアジンの含有量が、好ましくは4.0質量%以下、より好ましくは3.7質量%以下である、前記<38>〜<66>のいずれか1つに記載の焼き菓子の製造方法。
<68>
生地中のグリアジンの含有量が、好ましくは2.3〜4.0質量%、より好ましくは2.7〜3.7質量%、さらに好ましくは2.9〜3.7質量%である、前記<38>〜<65>のいずれか1つに記載の焼き菓子の製造方法。
【0051】
<69>
生地中への糖類の配合量が、小麦粉及び不溶性食物繊維含有粉の総配合量100質量部に対して好ましくは1〜50質量部であり、より好ましくは1〜30質量部であり、さらに好ましくは1〜20質量部である、前記<38>〜<68>のいずれか1つに記載の焼き菓子の製造方法。
<70>
生地中への卵の配合量が、小麦粉及び不溶性食物繊維含有粉の総配合量100質量部に対して好ましくは5〜50質量部であり、より好ましくは5〜30質量部であり、さらに好ましくは5〜20質量部である、前記<38>〜<69>のいずれか1つに記載の焼き菓子の製造方法。
<71>
焼き菓子が、好ましくはビスケット、クッキー、クラッカー、乾パン、プレッツェル、パイ、カットパン及びショートブレッドからなる群より選択される1種又は2種以上であり、より好ましくはクッキー、ビスケット、ショートブレッド及びクラッカーからなる群より選択される1種又は2種以上である、前記<38>〜<70>のいずれか1つに記載の焼き菓子の製造方法。
【実施例】
【0052】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0053】
[不溶性食物繊維の測定]
不溶性食物繊維量は、AOAC Method 991.42に記載のProsky変法によって測定した。具体的には以下の方法で測定した。
試料を、ホモジナイザーで処理した後、10メッシュの篩にかけ、粒度2mm以下とした。粉末試料5gに125mLの石油エーテルを加え、時々攪拌しながら15分間放置した後、2150×Gで10分間遠心分離し、上澄み液をガラスろ過器G−3に流し込んだ。さらに、同様の操作を2回繰り返し、最後は全量をガラスろ過器に流し込み、残渣を風乾後、得られた脱脂試料を秤量した。500mL容トールビーカーに脱脂試料1gを採取し、pH6.0の0.08Mリン酸緩衝液50mL、NovoZymes社から商品名:ターマシル120Lとして販売されている耐熱性α―アミラーゼ0.1mLを添加した。これを5分間隔で振り混ぜながら95℃のウォーターバス中に30分間放置し、室温で10分間放冷した後、0.275M 水酸化ナトリウム溶液を加えてpH7.5にした。pH6.0に調整した0.08M リン酸緩衝液に溶解したシグマ社製のプロテアーゼ50mg/mLを0.1mL添加した。なお、添加したプロテアーゼの活性は500U/mLである。その後、60℃で30分間振とうし、室温で10分間放冷した後、0.325M 塩酸を用いてpH4.3に調整した。シグマ社から商品名:Amyloglucosidase solution from Aspergillus nigerとして販売されているアミログルコシダーゼ0.1mLを添加し、60℃で30分間振とうした。るつぼ型ガラスろ過器2G2でろ過し、残渣を105℃で一晩乾燥したものを秤量し、不溶性食物繊維量とした。この不溶性食物繊維量に基づき、焼き菓子中の不溶性食物繊維の含有量を算出した。
【0054】
[グリアジンの測定]
グリアジン量は、モリナガFASPEK牛乳測定キット(グリアジン)を用いて、以下の方法で測定した。
試料をミキサーで粉砕し、均質化した。均質化された試料1gをポリプロピレン製50ml容遠心管に取り、測定キットに付属の検体抽出液19mLを加えてよく振り混ぜて混合し、90〜110往復ストローク/分、室温、振とう幅3cm程度で12時間以上振とうした。抽出液をpH6.0〜8.0の中性付近になるように調整し、3000rpmで20分間、室温で遠心し、上清を分取した。この上清を、測定キットに付属の検体希釈液Iを用いて20倍希釈し、更に、検体希釈液IIを用いて20倍に希釈したものを用いて160000倍〜3200000倍希釈し、グリアジン濃度が検量線の範囲内となったものを測定溶液とした。なお、検量線はgliadin, from wheat(SIGMA)を用いて、グリアジン濃度が0.23ng/mL〜15.0ng/mLの範囲で作成した。
測定キットに付属の抗体固相化プレートを室温に戻し、各ウェルに測定溶液を100μLずつ添加してからふたをして室温で1時間静置した。ウェル内の溶液を完全に除去し、各ウェルあたり300μLずつの洗浄液で6回洗浄した。測定キットの付属の酵素標識抗グリアジン抗体溶液を各ウェルに100μLずつ分注した。ふたをして室温で30分間静置してからウェル内の溶液を完全に除去し、各ウェルあたり300μLずつの洗浄液で6回洗浄し、測定キットに付属の酵素基質溶液を各ウェルに100μLずつ分注した。ふたをして室温遮光下で10分間静置し、測定キットに付属の反応停止液を各ウェルに100μLずつ分注した。プレートリーダーを用いて主波長450nm、副波長595nmの条件で吸光度を測定し、同時に測定した標準溶液の吸光度より作成した標準曲線に基づき検体中のグリアジン濃度を求めた。
【0055】
[製造例] 焼き菓子の製造
下記表1に記載の配合量で各原料を混合して生地を調製し、この生地を焼成して、本発明品1〜15及び比較品1〜12の焼き菓子を製造した。具体的な製造方法を以下に詳述する。
【0056】
ホバート社製のホバートミキサー N50 MIXERに、花王社製マーガリン1(商品名:チェリカゴールドE、融点40℃)、花王社製マーガリン2(商品名:ネーションPV、融点28℃)、よつ葉乳業社から商品名:よつ葉バター(食塩不使用)として販売されているバター(融点30℃)、日清オイリオグループ社製の菜種油(融点4℃以下)、筑野食品工業社製の米油(融点4℃以下)、大日本明治製糖社製の砂糖(商品名:精製上白糖 ST)を秤量して入れ、低速30秒間ミキシングした後、中速にて6分間ミキシングを行った。
【0057】
さらに低速30秒間攪拌しながら、鶏卵の全卵を溶いたものを3分割して加えた。最初の卵の添加後、低速30秒間攪拌を行い、次いで2回目の卵を添加し、低速30秒間攪拌を行った。ミキサーの壁に付着した油をかき落とした後、卵を加え、低速30秒間攪拌後、更に均一なクリーム状になるまで中速にて1分間攪拌した。
【0058】
続いて、千葉製粉社製の小麦粉(バイオレット)、日清ファルマ社製の小麦ふすま(商品名:ウィートブランDF、不溶性食物繊維含量:43.4質量%)、ヘルシーカンパニー社製の乾燥おから粉末(不溶性食物繊維含量:11.5質量%)、小麦澱粉(商品名:HS−425、千葉製粉社製)を配合し、低速にて60秒間攪拌をした。
【0059】
上記で得られた生地18gを、長方形の焼型に詰め、剥離紙を敷いた天板にならべ、表面に竹串を用いて6個の穴をあけた。なお、焼型は金属製で、縦×横×高さ:70mm×20mm×15mmのものを用いた。
【0060】
続いて、下記の焼成条件において焼成を行った。
焼成温度:上火 150℃ / 下火 150℃
焼成時間:50分間
焼成後の焼き菓子の含水率はいずれも5〜20質量%の範囲内であった。
焼成後室温で1日経過後の焼き菓子を用いて以下の試験を行った。
【0061】
[試験例1]
上記製造例で製造した焼き菓子について、食したときの硬さと舌上に感じるザラつき感、風味(異味の程度)及び甘味を、比較品1の焼き菓子を基準にして下記に示す評価基準を用いた相対評価により評価した。評価数値は3人の専門パネルによる協議の上で決定した。
結果を下記表1に示す。
【0062】
−硬さの評価基準−
10:比較品1に比べて最も柔らかく、食感が非常にソフトである。
9 :比較品1に比べてかなり柔らかく、食感がかなりソフトである。
8 :比較品1に比べて比較的柔らかく、食感がさらにソフトである。
7 :比較品1に比べて少し柔らかく、食感がよりソフトである。
6 :比較品1に比べてやや柔らかく、食感がややソフトである。
5 :比較品1と同等の硬さである。
4 :比較品1に比べてやや硬い食感である。
3 :比較品1に比べて少し硬い食感である。
2 :比較品1に比べてかなり硬い食感である。
1 :比較品1に比べて非常に硬い食感である。
【0063】
−ザラつき感の評価基準−
10:比較品1に比べて、最もザラつきが少ない。
9 :比較品1に比べて、かなりザラつきが少ない。
8 :比較品1に比べて、ザラつきがより少ない。
7 :比較品1に比べて、比較的ザラつきが少ない。
6 :比較品1に比べて、若干ザラつきが少ない。
5 :比較品1と同等のザラつき感である。
4 :比較品1に比べて、若干ザラつきが多い。
3 :比較品1に比べて、比較的ザラつきが多い。
2 :比較品1に比べて、ザラつきがより多い。
1 :比較品1に比べて、かなりザラつきが多い。
【0064】
−風味の評価基準−
10:比較品1に比べて、異味を感じない。
9 :比較品1に比べて、異味をほとんど感じない。
8 :比較品1に比べて、異味がより抑えられている。
7 :比較品1に比べて、比較的異味が少ない。
6 :比較品1に比べて、若干異味が少ない。
5 :比較品1と同等の異味を感じる。
4 :比較品1に比べて、若干異味が強い。
3 :比較品1に比べて、比較的異味が強い。
2 :比較品1に比べて、異味をより強く感じる。
1 :比較品1に比べて、かなり異味が強い。
ここで、「異味」とは、ふすまやおから等に由来する、標準的な焼き菓子には通常配合しない成分に由来する風味である。言い換えれば「異味が少ない」とは、標準的な焼き菓子の味により近いことを意味する。
【0065】
−甘味の評価基準−
10:比較品1に比べて、甘味がさらに強く引き出されている。
9 :比較品1に比べて、甘味がより強く引き出されている。
8 :比較品1に比べて、甘味がより引き出されている。
7 :比較品1に比べて、比較的甘味が強い。
6 :比較品1に比べて、若干甘味が強い。
5 :比較品1と同等の甘味を感じる。
4 :比較品1に比べて、若干甘味がマスキングされている。
3 :比較品1に比べて、比較的甘味がマスキングされている。
2 :比較品1に比べて、甘味がよりマスキングされている。
1 :比較品1に比べて、甘味をあまり感じない。
【0066】
[試験例2]
上記製造例で製造した焼き菓子について、貫通強度を下記に示す測定方法により測定した。
【0067】
焼き菓子の貫通強度を島津製作所社製のEZ−testを用いて測定した。測定条件を下記に示す。
試験モード:テクスチャー
試験種類:圧縮
ロードセル容量:100N
制御動作:ダウン
コントロール:ストローク
試験速度:300mm/min
試験片形状:平板
データ処理項目:切断強さH
上部圧縮治具は、P/N346−51813−02を用いた。
焼き菓子を直径6cmの穴があいた台の中央に両端が均等になるようにのせ、上部圧縮治具を焼き菓子の上面にセットし、上記の条件によって切断強さH、すなわち、貫通強度を測定した。なお、貫通強度の単位はN、定量下限値は0.4Nである。
結果を下記表1に示す。
【0068】
【表1】
【0069】
上記表1に示されるように、比較品1は、不溶性食物繊維含有粉として小麦ふすまを用いているが、油脂として融点25〜50℃のマーガリンのみを用い、融点20℃以下の油脂を含有しない例である。上記各種官能試験においては、この比較品1を標準品として相対評価を行った。
【0070】
比較品2は、融点25〜50℃の油脂を配合しない例であるが、この場合には、卵と油脂とが均質に混じり合わず、生地を調製することができなかった。さらに、比較品4は、融点25〜50℃の油脂を配合しているが、油脂融点20℃以下の油脂の割合が本発明で規定するよりも高く、比較品2と同様、生地を調製することができなかった。
比較品3及び8は、油脂中の融点25〜50℃の油脂の割合が本発明の規定よりも高い例であるが、いずれも風味、食感、甘味において比較品1と同等かそれ以下の評価となった。
比較品5は、不溶性食物繊維含有粉である小麦ふすまの配合量が本発明で規定するよりも多い例であるが、異味とザラつき感が強く、甘さもマスキングされていた。
比較品6は、融点20℃以下の油脂と融点25〜50℃の油脂の配合比率が本発明で規定する範囲内であるが、油脂の総配合量が本発明の規定より少なく、この場合には、卵と油脂とが均質に混じり合わず、生地を調製することができなかった。
比較品7は、融点20℃以下の油脂と融点25〜50℃の油脂の配合比率が本発明で規定する範囲内であるが、油脂の総配合量が本発明の規定より多く、この場合には、ザラつき感と甘味に劣る結果となった。
比較品9は、小麦粉に代えて小麦澱粉を用いた例、比較品10は、小麦粉の配合量を減らして小麦澱粉を配合した例であるが、いずれも食感、風味、甘味のいずれにおいても劣る結果となった。
比較品11は、融点25〜50℃の油脂として、比較品1において比較品1とは異なる融点のマーガリンを用いた例であり、比較品12は、比較品1においてマーガリンに代えてバターを用いた例である。いずれも融点20℃以下の油脂を含有しないため、比較品1に比べて食感と風味のいずれも改善されなかった。
【0071】
これに対し、本発明品1〜15の焼き菓子は、比較品1に比べて官能評価項目において優位な項目がある一方、比較品1に比べて劣る評価項目がなかった。また、貫通強度も比較品1に比べて低く、装置を用いた測定値からも柔らかな焼き菓子に仕上がっていることが実証された。