(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0013】
図1は、本実施形態にかかる培養容器100を説明するための説明図であり、
図1(a)は培養容器100の斜視図、
図1(b)は多段化した培養容器100の斜視図、
図1(c)は多段化した培養容器100の上面図である。なお、本実施形態の
図1では、垂直に交わるX軸(水平方向)、Y軸(水平方向)、Z軸(鉛直方向)を図示の通り定義している。
【0014】
図1(a)に示すように、培養容器100は、培養部110と、採取部120とを備えている。培養部110は、上部が開口した円筒形の皿部110aと、皿部110aの上部を覆う円形の固定蓋110bとを含んで構成される。固定蓋110bは皿部110aの側壁上方に設けられている。固定蓋110bの開口による収容物の汚染を防ぐため、本実施形態において、固定蓋110bは皿部110aに開閉不能に一体形成されている。皿部110aの側壁は一部が開口しており、この開口を介して、培養部110の内部空間と、後述する採取部120の内部空間とが連通している。培養部110には、採取部120を通じて、培地(培養液)や細胞等が収容される。
【0015】
採取部120は、箱型の箱部122と、開口した箱部122の上部(上部開口)を覆う略方形の可動蓋124とを含んで構成される。箱部122は4個の側面のうち3面に側壁が設けられ、1面が開口している(側部開口)。箱部122の側部開口と培養部110の側壁の開口とは一致し、箱部122は培養部110の側壁から水平方向に突出して培養部110に設けられている。
【0016】
箱部122の上部開口の面積は、培養部110の上部(固定蓋110b)の面積より小さいとよい。例えば、箱部122の上部開口の奥行(X軸方向の長さ)および箱部122の上部開口の幅(Y軸方向の長さ)は、10mm〜20mmであることが好ましい。これにより、市販のシャーレと比較して開口部分を小さくすることができる。したがって、本実施形態の培養容器100では、市販のシャーレと比較して、収容物の汚染の可能性を低減することができる。
【0017】
また、
図1(a)に示すように、箱部122の底面122aと培養部110の底面110cとの間には段差があり、箱部122の底面122aは、培養部110の底面110cよりも鉛直方向上方に位置している。このため、採取部120の上部から埃等の流動不能な汚染物質が混入した場合は、摩擦により汚染物質を採取部120に留め、培養部110への混入を防ぐことができ、収容物の汚染の可能性を低減することができる。
【0018】
さらに、箱部122の底面122aは培養部110に近づくに連れ鉛直方向下方に位置するように傾斜が設けられている。このため、流動体である培養液を注入する際、培養液の自重により培養液を培養部110へ流入させることができる。
【0019】
可動蓋124は、蓋部124aと、蓋可動用治具124bと、ヒンジ部124cと、を含んで構成される。蓋部124aは、箱部122の上部を覆う蓋である。蓋可動用治具124bは、一端が蓋部124aおよびヒンジ部124cと連結し、蓋可動用治具124bの他端は、一端に対して培養部110の外方かつ鉛直上方に延在した棒状部材である。また、蓋可動用治具124bの他端側は、一端側よりも幅(Y軸方向の長さ)が広く設けられている。このことから、後述する蓋可動用棒220a(
図2参照)が接触できる範囲が広くなり、蓋可動用棒220aが蓋可動用治具124bを押圧しやすくなる。ヒンジ部124cは、箱部122の側部開口と対向した側の側壁の上部で、蓋部124aおよび蓋可動用治具124bと箱部122とを連結する。ヒンジ部124cには、可動蓋124を箱部122に付勢する、トーションばね等の弾性体が設けられており、外力が作用していない間、ばねの力により蓋部124aを確実に閉じることができる。以上の構成により、蓋部124aは、蓋可動用治具124bによって押圧されることで、ヒンジ部124cを中心に回転し、開閉されることとなる。
【0020】
上記のように、培養容器100は、培養部110の外周から水平方向に採取部120が突出して設けられている。このため、
図1(b)、
図1(c)に示すように、培養容器100を培養部110の周方向に互いに位相をずらして重ねることで、培養容器100を多段化させた状態で培地(培養液)や細胞等の供給および採取(培養操作)を行うことが可能となる。なお、
図1(b)、
図1(c)では、理解を容易にするため、蓋可動用治具124bを省略している。
図1(c)に示すように、採取部120は、多段化した培養容器100の側面部分にらせん状に配置され、他の採取部120の可動蓋124の可動範囲に干渉されることがない。本実施形態では、30度ずつ位相をずらし、培養容器100を12段重ねている。培養装置200(
図2参照)によって培養容器100を多段化させる方法は後述する。
【0021】
培養容器100での培養操作は、培養装置200のロボットアーム220によって行われる。まず、培養装置200のロボットアーム220および載置台210について説明する。
【0022】
図2は、ロボットアーム220の初期位置における、ロボットアーム220および培養容器100の鉛直断面図である。なお、本実施形態の
図2では、垂直に交わるX軸(水平方向)、Y軸(水平方向)、Z軸(鉛直方向)を図示の通り定義している。
【0023】
図2に示すように、培養装置200は載置台210とロボットアーム220とを含んで構成される。載置台210には培養容器100が載置される。載置台210を、水平面上で回転させることで、載置台210上に載置された培養容器100を回転させたり、載置台210を傾けることで、載置台210上に載置された培養容器100を傾けたりすることができる。ロボットアーム220には、X軸方向に2個の孔が設けられ、孔には蓋可動用棒220aとピペット部220cが、その孔を移動可能に設けられている。蓋可動用棒220aは、ピペット部220cよりもX軸正方向側の孔に設けられる。
【0024】
載置台210上の培養容器100は、蓋可動用棒220aの鉛直方向下方に採取部120の蓋可動用治具124bが位置するように載置され、また、ピペット部220cの鉛直方向下方に採取部120の可動蓋124が位置するように載置される。
【0025】
蓋可動用棒220aは、棒状部材であり、一端がロボットアーム220に摺動可能に支持され、鉛直方向下方に延在している。また、蓋可動用棒220aの他端側には蓋可動用治具124bと接触する、球形の接触部220bが設けられている。かかる蓋可動用棒220aを孔内で摺動させることで、接触部220bを鉛直方向に移動させることができる。
【0026】
ピペット部220cは、一端がロボットアーム220に摺動可能に支持され、他端にピペットチップ220dが装着される。ピペットチップ220dは、市販の使い捨てピペットチップおよびマイクロピペットチップであり、2つの開口のうち、大きい方の開口が装着口、小さい方の開口が吸引口である。ピペット部220cは指定された量の液体を吸引および放出できる吸引放出機構を有し、ピペットチップ220dの装着口がピペット部220cに固定され、吸引口から培養液が吸引されたり、放出されたりする。ピペット部220cを孔内で摺動させることで、ピペット部220cに装着されたピペットチップ220dを鉛直方向に移動させることができる。
【0027】
以上のように、培養容器100には、従来の専用チューブに代わり、市販の使い捨てピペットチップおよびマイクロピペットチップを使用できるため、コストを削減することができる。さらに、従来の専用チューブでは内部に高価な培養液等を残留させる場合があったが、ピペットチップ220dを使用することで、培養液等の残留がなくなる。したがって、培養液等の不必要な損失を低減することができ、さらにコストを削減することができる。
【0028】
容量が異なり、高さ(装着口から吸引口までの長さ)が異なるピペットチップを使用する場合は、ロボットアーム220にピペット部220cを複数設ける。具体的には、複数のピペット部220cは、ロボットアーム220において、培養容器100の可動蓋124の鉛直方向上方の領域に設けられる。
図2で装着したピペットチップ220dより、高さが大きいピペットチップを使用する場合は、ピペット部220cを
図2のピペット部220cよりも鉛直方向上方に設け、大きいピペットチップの吸引口のZ軸方向の位置を、
図2のピペットチップ220dの吸引口のZ軸方向の位置と等しくする。高さが小さいピペットチップを使用する場合は、ピペット部220cを摺動させることで小さいピペットチップの吸引口のZ軸方向の位置を
図2のピペットチップ220dの吸引口のZ軸方向の位置と等しくする。
【0029】
図3は、ロボットアーム220によって培養液を培養容器100へ供給する際の、ロボットアーム220および可動蓋124の挙動を説明するための説明図であり、
図3(a)〜(c)は、蓋可動用棒220aの接触位置、動作状態、動作終了位置における、ロボットアーム220および培養容器100の鉛直断面図を示している。本実施形態の
図3では、垂直に交わるX軸(水平方向)、Y軸(水平方向)、Z軸(鉛直方向)を図示の通り定義している。
【0030】
図3(a)に示すように、蓋可動用棒220aの接触位置において、ロボットアーム220の蓋可動用棒220aは鉛直方向下方に移動し、接触部220bが蓋可動用治具124bに接する。このとき、ピペットチップ220dは、予め定められた量の培養液を吸引した状態で、可動蓋124の蓋部124aの鉛直方向上方に位置している。
【0031】
続いて、
図3(b)に示すように、蓋可動用棒220aの動作状態となると、ロボットアーム220の蓋可動用棒220aは、さらに鉛直方向下方に移動する。その結果、蓋可動用治具124bは、接触部220bにより押圧され、ヒンジ部124cを回転軸として可動蓋124が回転する。蓋可動用治具124bの一端は、蓋部124aおよびヒンジ部124cに固定されている。このため、蓋可動用治具124bと蓋部124aとにより形成される角度は一定のまま、一体的に回転することとなる。このとき、蓋部124aの自由端側(ヒンジ部124cに連結された部分と対向する側)がヒンジ部124cを中心に弧を描きながら鉛直方向上方に移動することで、蓋部124aが開く。また、ピペットチップ220dは、接触位置(
図3(a))と同様に、培養液を吸引した状態で、蓋部124aの鉛直方向上方に位置している。
【0032】
そして、
図3(c)に示すように、蓋可動用棒220aの動作終了位置となると、蓋可動用治具124bは、動作状態(
図3(b))よりもさらに接触部220bによって押圧され、可動蓋124は、ヒンジ部124cを回転軸としてさらに回転し、蓋部124aの自由端側はさらに移動して採取部120の開口部分の鉛直方向の見通し面積が大きくなる。また、蓋可動用棒220aの動作終了位置において、ピペット部220cが鉛直方向下方に移動し、ピペットチップ220dの吸引口側が採取部120内の空間に位置する。そして、ピペットチップ220d内に収容された培養液を採取部120へ注入する。
【0033】
採取部120の底面122aは、培養部110の底面110cより鉛直方向上方に位置し、培養部110の底面110cに向かって傾斜が設けられている。このため、載置台210を傾ける等の操作をせずに、培養液の自重により培養液を培養部110へ流入させることができる。
【0034】
採取部120にピペットチップ220d内に収容された培養液が注入された後、ピペット部220cは鉛直方向上方へ移動する。続いて蓋可動用棒220aが鉛直方向上方へ移動し、蓋可動用棒220aによる蓋可動用治具124bへの圧力がなくなることで、蓋部124aは、ヒンジ部124cに設けられたばねの力によって、ヒンジ部124cを回転軸として回転して閉じる(接触位置に戻る)。
【0035】
また、培養容器100で培養した培養液を採取部120から採取する際は、載置台210を傾けることで、培養液を採取部120に移動させ、上記のようにロボットアーム220で可動蓋124の蓋部124aを開ける。
【0036】
また、上述したように、本実施形態の培養容器100は多段化することができる。多段化は、培養容器100の移動用のロボットアーム(以下、「移動アーム」と称する)によって自動的に行ってもよいし、手動で行ってもよい。培養容器100を自動的に多段化させる際は、例えば、培養装置200に設けられた移動アームが、培養容器100を、鉛直軸を中心に30度ずつ回転させ、回転した培養容器100を載置台210の上に載置させ、多段化させる。または、載置台210を30度ずつ回転させ、移動アームあるいは人の手によって培養容器100を載置台210の上に載置させ、多段化させる。なお、載置台210は1個であり、培養容器100は、まず、載置台210の上に載置され、次に、他の培養容器100が、載置台210の上に載置された培養容器100の上に重ねられる。ここで、位相のずれ(ここでは30度)を正確に維持するため、培養容器100同士が30度ずれた状態で嵌合する嵌合キーおよび嵌合溝をそれぞれ設けてもよい。
【0037】
以上説明したように、多段化した培養容器100の採取部120では、互いに干渉せずに可動蓋124の蓋部124aを開閉することができるため、培養容器100を多段化した状態で複数の培養容器100を一度に操作でき、シャーレを1枚ずつ操作していた従来の作業時間と比較して、作業時間を短くすることが可能となる。
【0038】
また、培養容器100にコネクタやチューブを接続させる必要もないので、培養容器100の取り扱いが容易となると同時に、培養装置200内の省スペース化を図ることができる。
【0039】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0040】
また、上述した本実施形態においては、ヒンジ部124cには、蓋部124aを箱部122に付勢する、トーションばね等の弾性体が設けられ、外力が作用していない間、蓋部124aを確実に閉じる構成としているが、ばね等を設けず、蓋部124aが自重により可動開始位置に戻る構成としてもよい。
【0041】
また、上述した本実施形態においては、採取部120における箱部122の底面122aに傾斜が設けられているが、傾斜を設けず、培養部110の底面110cに水平な底面122aとしてもよい。
【0042】
また、上述した本実施形態においては、複数のピペット部220cを設ける場合、ロボットアーム220に複数のピペット部220cを設ける構成としているが、複数のピペット部220cが円周上に配置された回転装置をロボットアーム220に設け、回転装置を回転させることで、ピペット部220cを可動蓋124の蓋部124aの鉛直方向上方に位置させるとしてもよい。