特許第6307872号(P6307872)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6307872
(24)【登録日】2018年3月23日
(45)【発行日】2018年4月11日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 15/06 20060101AFI20180402BHJP
   B60C 11/00 20060101ALI20180402BHJP
   B60C 19/08 20060101ALI20180402BHJP
【FI】
   B60C15/06 C
   B60C11/00 B
   B60C11/00 D
   B60C19/08
【請求項の数】12
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-265911(P2013-265911)
(22)【出願日】2013年12月24日
(65)【公開番号】特開2015-120445(P2015-120445A)
(43)【公開日】2015年7月2日
【審査請求日】2016年12月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 宏明
(74)【代理人】
【識別番号】100118762
【弁理士】
【氏名又は名称】高村 順
(72)【発明者】
【氏名】石井 秀和
【審査官】 増田 亮子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−001223(JP,A)
【文献】 特開2009−113597(JP,A)
【文献】 特開2009−040332(JP,A)
【文献】 特開2008−013879(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0234448(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00−19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のビードコアと、前記ビードコアに架け渡されるカーカス層と、前記カーカス層のタイヤ径方向外側に配置されるベルト層と、前記ベルト層のタイヤ径方向外側に配置されるトレッドゴムと、前記カーカス層のタイヤ幅方向外側にそれぞれ配置される一対のサイドウォールゴムと、前記カーカス層の内周面に配置されるインナーライナと、リム嵌合部に配置されるチェーファとを備える空気入りタイヤであって、
前記チェーファが、1×10^8[Ω・cm]未満の電気抵抗率をもつ導電線状体を有し、且つ、
前記チェーファに含まれる前記導電線状体の重量が、前記チェーファの総重量の1[%]以上20[%]以下であることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記チェーファが、少なくとも一部に前記導電線状体を織り込んで成る織物である請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記チェーファが、前記織物をコートゴムで被覆して成る請求項2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記導電線状体が、1×10^8[Ω/cm]未満の電気抵抗率をもつ導電物質から成るモノフィラメントである請求項1〜のいずれか一つに記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記導電線状体が、1×10^8[Ω/cm]未満の電気抵抗率をもつ導電繊維を含む紡績糸である請求項1〜のいずれか一つに記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記導電線状体が、ビード部のタイヤ幅方向内側からタイヤ幅方向外側に渡って延在する請求項1〜のいずれか一つに記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
前記導電線状体のタイヤ幅方向外側の端部が、前記ビードコアのタイヤ径方向外側の端部よりもタイヤ径方向外側にある請求項1〜のいずれか一つに記載の空気入りタイヤ。
【請求項8】
前記導電線状体のタイヤ幅方向内側の端部が、前記ビードコアのタイヤ径方向内側の端部よりもタイヤ径方向外側にある請求項1〜のいずれか一つに記載の空気入りタイヤ。
【請求項9】
前記インナーライナが、熱可塑性樹脂もしくは熱可塑性樹脂中にエラストマー成分をブレンドした熱可塑性エラストマー組成物から成る請求項1〜のいずれか一つに記載の空気入りタイヤ。
【請求項10】
前記トレッドゴムが、タイヤ接地面を構成するキャップトレッドと、前記キャップトレッドのタイヤ径方向内側に積層されるアンダートレッドとを有し、且つ、
前記キャップトレッドの電気抵抗率が、1×10^8[Ω・cm]以上の範囲にある請求項1〜のいずれか一つに記載の空気入りタイヤ。
【請求項11】
前記トレッドゴムが、タイヤ接地面を構成するキャップトレッドと、前記キャップトレッドのタイヤ径方向内側に積層されるアンダートレッドとを有し、且つ、
1×10^8[Ω・cm]未満の電気抵抗率を有すると共に、少なくとも前記キャップトレッドを貫通してタイヤ接地面に露出するアーストレッドを備える請求項1〜10のいずれか一つに記載の空気入りタイヤ。
【請求項12】
一対のビードコアと、前記ビードコアに架け渡されるカーカス層と、前記カーカス層のタイヤ径方向外側に配置されるベルト層と、前記ベルト層のタイヤ径方向外側に配置されるトレッドゴムと、前記カーカス層のタイヤ幅方向外側にそれぞれ配置される一対のサイドウォールゴムと、前記カーカス層の内周面に配置されるインナーライナと、リム嵌合部に配置されるチェーファとを備える空気入りタイヤであって、
前記チェーファが、1×10^8[Ω・cm]未満の電気抵抗率をもつ導電線状体を有し、且つ、
前記導電線状体が、1×10^8[Ω/cm]未満の電気抵抗率をもつ導電繊維を含む紡績糸であることを特徴とする空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、空気入りタイヤに関し、さらに詳しくは、帯電抑制性能を向上できる空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の空気入りタイヤでは、車両走行時にて車両に発生する静電気を路面に放出するために、アーストレッドを用いた帯電抑制構造が採用されている。アーストレッドは、キャップトレッドを貫通してタイヤ接地面に露出する導電ゴムである。この帯電抑制構造では、車両からの静電気がベルト層からアーストレッドを介して路面に放出されて、車両の帯電が抑制される。
【0003】
一方で、近年では、上記のように、タイヤの転がり抵抗を低減して低燃費性能を向上させるために、キャップトレッド、アンダートレッド、サイドウォールゴムなどを構成するゴムコンパウンドのシリカ含有量を増加させる傾向にある。シリカは絶縁特性が高いため、キャップトレッドのシリカ含有量が増加すると、キャップトレッドの抵抗値が増加してタイヤの帯電抑制性能が低下する。
【0004】
このため、従来の空気入りタイヤは、タイヤの帯電抑制性能をさらに向上させるべき課題を有する。かかる課題に関する従来の空気入りタイヤとして、特許文献1に記載される技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開平5−41903号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この発明は、帯電抑制性能を向上できる空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、この発明にかかる空気入りタイヤは、一対のビードコアと、前記ビードコアに架け渡されるカーカス層と、前記カーカス層のタイヤ径方向外側に配置されるベルト層と、前記ベルト層のタイヤ径方向外側に配置されるトレッドゴムと、前記カーカス層のタイヤ幅方向外側にそれぞれ配置される一対のサイドウォールゴムと、前記カーカス層の内周面に配置されるインナーライナと、リム嵌合部に配置されるチェーファとを備える空気入りタイヤであって、前記チェーファが、1×10^8[Ω・cm]未満の電気抵抗率をもつ導電線状体を有し、且つ、前記チェーファに含まれる前記導電線状体の重量が、前記チェーファの総重量の1[%]以上20[%]以下であることを特徴とする。
また、この発明にかかる空気入りタイヤは、一対のビードコアと、前記ビードコアに架け渡されるカーカス層と、前記カーカス層のタイヤ径方向外側に配置されるベルト層と、前記ベルト層のタイヤ径方向外側に配置されるトレッドゴムと、前記カーカス層のタイヤ幅方向外側にそれぞれ配置される一対のサイドウォールゴムと、前記カーカス層の内周面に配置されるインナーライナと、リム嵌合部に配置されるチェーファとを備える空気入りタイヤであって、前記チェーファが、1×10^8[Ω・cm]未満の電気抵抗率をもつ導電線状体を有し、且つ、前記導電線状体が、1×10^8[Ω/cm]未満の電気抵抗率をもつ導電繊維を含む紡績糸であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
この発明にかかる空気入りタイヤでは、チェーファの導電線状体により、ビード部の導電性が向上する。これにより、タイヤの帯電抑制性能が効果的に向上する利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、この発明の実施の形態にかかる空気入りタイヤを示すタイヤ子午線方向の断面図である。
図2図2は、図1に記載した空気入りタイヤの帯電抑制構造を示す説明図である。
図3図3は、図1に記載した空気入りタイヤの帯電抑制構造を示す説明図である。
図4図4は、図1に記載した空気入りタイヤの帯電抑制構造を示す説明図である。
図5図5は、この発明の実施の形態にかかる空気入りタイヤの性能試験の結果を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、この実施の形態の構成要素には、発明の同一性を維持しつつ置換可能かつ置換自明なものが含まれる。また、この実施の形態に記載された複数の変形例は、当業者自明の範囲内にて任意に組み合わせが可能である。
【0011】
[空気入りタイヤ]
図1は、この発明の実施の形態にかかる空気入りタイヤを示すタイヤ子午線方向の断面図である。同図は、タイヤ径方向の片側領域を示している。また、同図は、空気入りタイヤの一例として、乗用車用ラジアルタイヤを示している。
【0012】
なお、同図において、タイヤ子午線方向の断面とは、タイヤ回転軸(図示省略)を含む平面でタイヤを切断したときの断面をいう。また、符号CLは、タイヤ赤道面であり、タイヤ回転軸方向にかかるタイヤの中心点を通りタイヤ回転軸に垂直な平面をいう。また、タイヤ幅方向とは、タイヤ回転軸に平行な方向をいい、タイヤ径方向とは、タイヤ回転軸に垂直な方向をいう。
【0013】
この空気入りタイヤ1は、タイヤ回転軸を中心とする環状構造を有し、一対のビードコア11、11と、一対のビードフィラー12、12と、カーカス層13と、ベルト層14と、トレッドゴム15と、一対のサイドウォールゴム16、16と、一対のリムクッションゴム17、17と、インナーライナ18と、チェーファ20とを備える(図1参照)。
【0014】
一対のビードコア11、11は、複数のビードワイヤを束ねて成る環状部材であり、左右のビード部のコアを構成する。一対のビードフィラー12、12は、一対のビードコア11、11のタイヤ径方向外周にそれぞれ配置されてビード部を補強する。
【0015】
カーカス層13は、左右のビードコア11、11間にトロイダル状に架け渡されてタイヤの骨格を構成する。また、カーカス層13の両端部は、ビードコア11およびビードフィラー12を包み込むようにタイヤ幅方向外側に巻き返されて係止される。また、カーカス層13は、有機繊維材(例えば、アラミド、ナイロン、ポリエステル、レーヨンなど)から成る複数のカーカスコードをコートゴムで被覆して圧延加工して構成され、絶対値で80[deg]以上95[deg]以下のカーカス角度(タイヤ周方向に対するカーカスコードの繊維方向の傾斜角)を有する。
【0016】
カーカスコードのコートゴムの60[℃]のtanδ値は、0.20以下であることが好ましい。また、カーカスコードのコートゴムの電気抵抗率は、1×10^8[Ω・cm]以上であることが好ましい。かかる電気抵抗率を有するコートゴムは、カーボン配合量が少ない低発熱コンパウンドを使用し、また、シリカ含有量を増加させて補強することにより生成される。かかる構成では、60[℃]のtanδ値が低減して、タイヤの転がり抵抗が低下するため好ましい。
【0017】
60[℃]のtanδ値は、粘弾性スペクトロメーターを用いて、温度60[℃]、剪断歪み10[%]、周波数20[Hz]の条件で測定される。
【0018】
電気抵抗率は、JIS-K6271規定の「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム−体積抵抗率及び表面抵抗率の求め方」に基づいて測定される。一般に、電気抵抗率が1×10^8[Ω・cm]未満の範囲にあれば、部材が静電気の帯電を抑制可能な導電性を有するといえる。
【0019】
なお、図1の構成では、カーカス層13が、タイヤ左右のビードコア11、11間に連続的に延在する構造を有している。
【0020】
しかし、これに限らず、カーカス層13が、左右一対のカーカスプライから成ることによりタイヤ幅方向に分離した構造、いわゆるカーカス分割構造を有しても良い(図示省略)。具体的には、左右一対のカーカスプライのタイヤ径方向内側の端部が、タイヤ左右のビードコア11およびビードフィラー12を包み込むようにタイヤ幅方向外側にそれぞれ巻き返されて係止される。また、左右一対のカーカスプライのタイヤ径方向外側の端部が、トレッド部センター領域にてタイヤ幅方向に相互に分離して配置される。
【0021】
かかるカーカス分割構造では、トレッド部センター領域に中抜き部(カーカスプライを有さない領域)が形成される。このとき、この中抜き部におけるタイヤの張力がベルト層14により担持され、左右のサイドウォール部における剛性が左右のカーカス層13、13によりそれぞれ確保される。これにより、タイヤの内圧保持能力およびサイドウォール部の剛性が維持されつつ、タイヤの軽量化が図られる。
【0022】
ベルト層14は、一対の交差ベルト141、142と、ベルトカバー143とを積層して成り、カーカス層13の外周に掛け廻されて配置される。一対の交差ベルト141、142は、スチールあるいは有機繊維材から成る複数のベルトコードをコートゴムで被覆して圧延加工して構成され、絶対値で20[deg]以上55[deg]以下のベルト角度を有する。また、一対の交差ベルト141、142は、相互に異符号のベルト角度(タイヤ周方向に対するベルトコードの繊維方向の傾斜角)を有し、ベルトコードの繊維方向を相互に交差させて積層される(クロスプライ構造)。ベルトカバー143は、コートゴムで被覆されたスチールあるいは有機繊維材から成る複数のコードを圧延加工して構成され、絶対値で0[deg]以上10[deg]以下のベルト角度を有する。また、ベルトカバー143は、交差ベルト141、142のタイヤ径方向外側に積層されて配置される。
【0023】
トレッドゴム15は、カーカス層13およびベルト層14のタイヤ径方向外周に配置されてタイヤのトレッド部を構成する。また、トレッドゴム15は、キャップトレッド151と、アンダートレッド152とを有する。
【0024】
キャップトレッド151は、タイヤ接地面を構成するゴム部材であり、単層構造を有しても良いし(図1参照)、多層構造を有しても良い(図示省略)。キャップトレッド151の60[℃]のtanδ値は、0.25以下であることが好ましい。また、キャップトレッド151の電気抵抗率は、1×10^8[Ω・cm]以上の範囲にあることが好ましく、1×10^10[Ω・cm]以上の範囲にあることがより好ましく、1×10^12[Ω・cm]以上の範囲にあることがより好ましい。かかる電気抵抗率を有するキャップトレッド151は、カーボン配合量が少ない低発熱コンパウンドを使用し、また、シリカ含有量を増加させて補強することにより生成される。かかる構成では、60[℃]のtanδ値が低減して、タイヤの転がり抵抗が低下するため好ましい。
【0025】
アンダートレッド152は、キャップトレッド151のタイヤ径方向内側に積層される部材であり、キャップトレッド151よりも低い電気抵抗率を有することが好ましい。
【0026】
一対のサイドウォールゴム16、16は、カーカス層13のタイヤ幅方向外側にそれぞれ配置されて左右のサイドウォール部を構成する。サイドウォールゴム16の60[℃]のtanδ値は、0.20以下であることが好ましい。また、サイドウォールゴム16の抵抗率は、1×10^8[Ω・cm]以上の範囲にあることが好ましく、1×10^10[Ω・cm]以上の範囲にあることがより好ましく、1×10^12[Ω・cm]以上の範囲にあることがより好ましい。かかる電気抵抗率を有するサイドウォールゴム16は、カーボン配合量が少ない低発熱コンパウンドを使用し、また、シリカ含有量を増加させて補強することにより生成される。かかる構成では、60[℃]のtanδ値が低減して、タイヤの転がり抵抗が低下するため好ましい。
【0027】
一対のリムクッションゴム17、17は、左右のビードコア11、11およびカーカス層13の巻き返し部のタイヤ径方向内側にそれぞれ配置されて、リムRのリムフランジ部に対する左右のビード部の接触面を構成する。リムクッションゴム17の電気抵抗率は、1×10^7[Ω・cm]以下であることが好ましい。
【0028】
なお、キャップトレッド151の電気抵抗率の上限値、アンダートレッド152の電気抵抗率の下限値、サイドウォールゴム16の電気抵抗率の上限値およびリムクッションゴム17の電気抵抗率の下限値は、特に限定がないが、これらがゴム部材であることから物理的な制約を受ける。
【0029】
インナーライナ18は、タイヤ内表面に配置されてカーカス層13を覆う空気透過防止層であり、カーカス層13の露出による酸化を抑制し、また、タイヤに充填された空気の洩れを防止する。また、インナーライナ18は、例えば、ブチルゴムを主成分とするゴム組成物、熱可塑性樹脂、熱可塑性樹脂中にエラストマー成分をブレンドした熱可塑性エラストマー組成物などから構成される。特に、インナーライナ18が熱可塑性樹脂あるいは熱可塑性エラストマー組成物から成る構成では、インナーライナ18がブチルゴムから成る構成と比較して、インナーライナ18を薄型化できるので、タイヤ重量を大幅に軽減できる。なお、インナーライナ18には、一般に、温度30[℃]でJIS K7126−1に準拠して測定した場合に100×10^−12[cc・cm/cm^2・sec・cmHg]以下の空気透過係数が要求される。また、インナーライナ18の電気抵抗率は、1×10^8[Ω・cm]以上の範囲にあることが好ましく、一般に1×10^9[Ω・cm]以上である。
【0030】
ブチルゴムを主成分とするゴム組成物としては、例えば、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(Br−IIR、Cl−IIR)などが採用され得る。ブチル系ゴムは、例えば、塩素化ブチルゴム、臭素化ブチルゴムなどのハロゲン化ブチルゴムであることが好ましい。
【0031】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリアミド系樹脂〔例えばナイロン6(N6)、ナイロン66(N66)、ナイロン46(N46)、ナイロン11(N11)、ナイロン12(N12)、ナイロン610(N610)、ナイロン612(N612)、ナイロン6/66共重合体(N6/66)、ナイロン6/66/610共重合体(N6/66/610)、ナイロンMXD6、ナイロン6T、ナイロン9T、ナイロン6/6T共重合体、ナイロン66/PP共重合体、ナイロン66/PPS共重合体〕、ポリエステル系樹脂〔例えばポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンイソフタレート(PEI)、ポリブチレンテレフタレート/テトラメチレングリコール共重合体、PET/PEI共重合体、ポリアリレート(PAR)、ポリブチレンナフタレート(PBN)、液晶ポリエステル、ポリオキシアルキレンジイミドジ酸/ポリブチレンテレフタレート共重合体などの芳香族ポリエステル〕、ポリニトリル系樹脂〔例えばポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメタクリロニトリル、アクリロニトリル/スチレン共重合体(AS)、メタクリロニトリル/スチレン共重合体、メタクリロニトリル/スチレン/ブタジエン共重合体〕、ポリ(メタ)アクリレート系樹脂〔例えばポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリメタクリル酸エチル、エチレンエチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレンアクリル酸共重合体(EAA)、エチレンメチルアクリレート樹脂(EMA)〕、ポリビニル系樹脂〔例えば酢酸ビニル(EVA)、ポリビニルアルコール(PVA)、ビニルアルコール/エチレン共重合体(EVOH)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、塩化ビニル/塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニリデン/メチルアクリレート共重合体〕、セルロース系樹脂〔例えば酢酸セルロース、酢酸酪酸セルロース〕、フッ素系樹脂〔例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)、ポリクロルフルオロエチレン(PCTFE)、テトラフロロエチレン/エチレン共重合体(ETFE)〕、イミド系樹脂〔例えば芳香族ポリイミド(PI)〕などが採用され得る。
【0032】
エラストマーとしては、例えば、ジエン系ゴムおよびその水素添加物〔例えばNR、IR、エポキシ化天然ゴム、SBR、BR(高シスBRおよび低シスBR)、NBR、水素化NBR、水素化SBR〕、オレフィン系ゴム〔例えばエチレンプロピレンゴム(EPDM、EPM)、マレイン酸変性エチレンプロピレンゴム(M−EPM)〕、ブチルゴム(IIR)、イソブチレンと芳香族ビニルまたはジエン系モノマー共重合体、アクリルゴム(ACM)、アイオノマー、含ハロゲンゴム〔例えばBr−IIR、Cl−IIR、イソブチレンパラメチルスチレン共重合体の臭素化物(Br−IPMS)、クロロプレンゴム(CR)、ヒドリンゴム(CHC、CHR)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、塩素化ポリエチレン(CM)、マレイン酸変性塩素化ポリエチレン(M−CM)〕、シリコーンゴム〔例えばメチルビニルシリコーンゴム、ジメチルシリコーンゴム、メチルフェニルビニルシリコーンゴム〕、含イオウゴム〔例えばポリスルフィドゴム〕、フッ素ゴム〔例えばビニリデンフルオライド系ゴム、含フッ素ビニルエーテル系ゴム、テトラフルオロエチレン−プロピレン系ゴム、含フッ素シリコン系ゴム、含フッ素ホスファゼン系ゴム〕、熱可塑性エラストマー〔例えばスチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー〕などが採用され得る。
【0033】
チェーファ20は、タイヤのリム嵌合部に配置される補強層である。具体的には、チェーファ20が、カーカス層13とリム嵌合面との間に配置され、ビード部のタイヤ幅方向内側から外側に渡って延在する。このチェーファ20は、タイヤのリム組み時におけるビード部のリムずれを防止するために設置される。また、チェーファ20は、一般に、リム嵌合面に露出しない。また、チェーファ20により、カーカス層13が保護される場合がある。
【0034】
ビード部とは、リム径の測定点からタイヤ断面高さSHの1/3までの領域をいう。
【0035】
タイヤ断面高さSHとは、タイヤ外径とリム径との差の1/2をいい、タイヤを規定リムに装着して規定内圧を付与すると共に無負荷状態として測定される。
【0036】
ここで、規定リムとは、JATMAに規定される「適用リム」、TRAに規定される「Design Rim」、あるいはETRTOに規定される「Measuring Rim」をいう。また、規定内圧とは、JATMAに規定される「最高空気圧」、TRAに規定される「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」の最大値、あるいはETRTOに規定される「INFLATION PRESSURES」をいう。また、規定荷重とは、JATMAに規定される「最大負荷能力」、TRAに規定される「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」の最大値、あるいはETRTOに規定される「LOAD CAPACITY」をいう。ただし、JATMAにおいて、乗用車用タイヤの場合には、規定内圧が空気圧180[kPa]であり、規定荷重が最大負荷能力の88[%]である。
【0037】
[帯電抑制構造]
空気入りタイヤでは、車両走行時にて車両に発生する静電気を路面に放出するために、アーストレッドを用いた帯電抑制構造が採用されている。アーストレッドは、キャップトレッドを貫通してタイヤ接地面に露出する導電ゴムである。この帯電抑制構造では、車両からの静電気がベルト層からアーストレッドを介して路面に放出されて、車両の帯電が抑制される。
【0038】
一方で、近年では、上記のように、タイヤの転がり抵抗を低減して低燃費性能を向上させるために、キャップトレッド、アンダートレッド、サイドウォールゴムなどを構成するゴムコンパウンドのシリカ含有量を増加させる傾向にある。シリカは絶縁特性が高いため、キャップトレッドのシリカ含有量が増加すると、キャップトレッドの電気抵抗値が増加してタイヤの帯電抑制性能が低下する。
【0039】
そこで、この空気入りタイヤ1は、帯電抑制性能を向上させるために、以下の構成を採用している。
【0040】
図2図4は、図1に記載した空気入りタイヤの帯電抑制構造を示す説明図である。これらの図において、図2は、タイヤ赤道面CLを境界とする片側領域のタイヤ子午線方向の断面図を示している。図3は、アーストレッド51の拡大断面図を示している。図4は、チェーファ20の平面図を示している。
【0041】
この空気入りタイヤ1では、帯電抑制構造5として、アーストレッド51と、導電性の経糸201あるいは緯糸202を有するチェーファ20とを備える。
【0042】
アーストレッド51は、図2および図3に示すように、トレッドゴム15の踏面に露出し、キャップトレッド151およびアンダートレッド152を貫通してベルト層14(ベルトカバー143)に導電可能に接触する。これにより、ベルト層14から路面への導電経路が確保される。また、アーストレッド51は、タイヤ全周に渡って延在する環状構造を有し、その一部をトレッド踏面に露出させつつタイヤ周方向に連続的に延在する。したがって、タイヤ転動時にて、アーストレッド51が常に路面に接触することにより、ベルト層14から路面への導電経路が常に確保される。
【0043】
また、アーストレッド51は、トレッドゴム15よりも低い電気抵抗率を有する導電性ゴム材料から成る。具体的には、アーストレッド51の電気抵抗率が、1×10^8[Ω・cm]未満であることが好ましく、1×10^6[Ω・cm]以下であることがより好ましい。
【0044】
チェーファ20は、1×10^8[Ω・cm]未満の電気抵抗率をもつ導電線状体を織り込んで成る織物である(図4参照)。これにより、チェーファ20の導電性が確保されて、チェーファ20が導電経路として機能する。なお、チェーファ20は、導電線状体のみから成る織物であっても良いし、導電線状体と、1×10^8[Ω・cm]以上の電気抵抗率を有する非導電線状体(例えば、ナイロン繊維、ポリエステル繊維、レーヨン繊維、ポリエチレンナフタレート繊維、アラミド繊維などの有機繊維材)とから成る織物であっても良い。
【0045】
導電線状体は、金属繊維、炭素繊維などの導電繊維を含む糸である。また、導電線状体は、導電繊維のみから成る紡績糸であっても良いし、導電繊維と非導電繊維(例えば、ポリエステル、ナイロンなどの有機繊維)との混紡糸であっても良い。また、導電線状体は、導電材料から成るモノフィラメントであることが好ましく、特に、ステンレススチールから成るモノフィラメントであることが好ましい。かかるモノフィラメントは、紡績糸と比較して空気透過性が低く、空気漏れを抑制できる点で好ましい。
【0046】
織物は、例えば、平織り、綾織り、朱子織り、絡み織りなどの任意の織り構造を有し得る。特に、平織物は、生産性に優れる点で好ましい。
【0047】
例えば、図4の構成では、チェーファ20が、経糸201および緯糸202から成る平織物から構成されている。具体的には、経糸201および緯糸202が1×10^8[Ω・cm]未満の電気抵抗率をもつ導電線状体であり、経糸201と緯糸202とが相互に交差しつつ網目状に織り上げられている。また、経糸201および緯糸202から成る織物がコートゴム203により被覆されている。
【0048】
このとき、複数の経糸201の一部あるいは複数の緯糸202の一部が、導電線状体であれば足りる。また、経糸201および緯糸202のうちの少なくとも一方が、導電線状体を含んでいれば良い。すなわち、経糸201および緯糸202の一部のみが、1×10^8[Ω・cm]以上の電気抵抗率を有する非導電線状体であれば良い。
【0049】
また、チェーファ20に含まれる導電線状体の重量が、チェーファ20の総重量の1[%]以上20[%]以下であることが好ましい。これにより、チェーファ20の導電性が確保され、また、チェーファ20と周辺部材(カーカス層13、リムクッションゴム17、インナーライナ18など。図2参照。)との接着性が確保される。
【0050】
チェーファ20の総重量は、織物を構成する糸の総重量として測定される。したがって、図4の構成では、経糸201および緯糸202の総重量がチェーファ20の総重量となり、コートゴム203の重量は除外される。
【0051】
また、チェーファ20は、図2に示すように、リム嵌合面に露出して配置される。これにより、リムフランジRからチェーファ20への導電性が向上する。
【0052】
例えば、図2の構成では、チェーファ20が、リムクッションゴム17の外表面に露出して、ビード部のリム嵌合面の一部を構成している。また、チェーファ20が、ビードコア11およびカーカス層13の巻き返し部を囲むように、リム嵌合面からビード部のタイヤ幅方向内側および外側に延在している。また、チェーファ20が、ビードトゥの外表面を包み込んでいる。
【0053】
また、チェーファ20のタイヤ幅方向外側の端部は、ビードコア11のタイヤ径方向外側の面よりもタイヤ径方向外側にある。これにより、タイヤのリム組み時におけるビード部のリムずれが適正に防止される。また、チェーファ20のタイヤ幅方向外側の端部は、タイヤ最大幅位置Pよりもタイヤ径方向内側にあることが好ましく、カーカス層13の巻き上げ端部よりもタイヤ径方向内側にあることが好ましい。これにより、チェーファ20が必要十分な範囲に配置されて、タイヤ重量の増加に起因するタイヤの転がり抵抗の悪化が抑制される。
【0054】
タイヤ最大幅位置Pは、JATMA規定のタイヤ断面幅の最大幅位置をいう。なお、タイヤ断面幅は、タイヤを規定リムに装着して規定内圧を付与すると共に無負荷状態として測定される。
【0055】
また、チェーファ20のタイヤ幅方向内側の端部は、ビードコア11のタイヤ径方向内側の面よりもタイヤ径方向外側にある。これにより、タイヤのリム組み時におけるビード部のリムずれが適正に防止される。また、チェーファ20のタイヤ幅方向内側の端部は、タイヤ最大幅位置Pよりもタイヤ径方向内側にあることが好ましく、ビードフィラー12のタイヤ径方向外側の端部よりもタイヤ径方向内側にあることが好ましい。これにより、チェーファ20が必要十分な範囲に配置されて、タイヤ重量の増加に起因するタイヤの転がり抵抗の悪化が抑制される。
【0056】
また、図4に示すように、チェーファ20が、経糸201および緯糸202から成る平織物であり、経糸201および緯糸202の長手方向をタイヤ周方向に対して傾斜させて配置されている。また、経糸201および緯糸202の少なくとも一部が、1×10^8[Ω・cm]未満の電気抵抗率をもつ導電線状体から成る。このため、導電線状体のタイヤ幅方向外側の端部が、ビードコア11の径方向外側の面よりもタイヤ径方向外側にあり、また、チェーファ20のタイヤ幅方向内側の端部が、ビードコア11の径方向内側の面よりもタイヤ径方向外側にある。これにより、チェーファ20の導電線状体と、ビード部からベルト層14への導電経路となる導電部材(例えば、カーカス層13、サイドウォールゴム16、インナーライナ18など)との導通が確保される。
【0057】
なお、経糸201および緯糸202とタイヤ周方向とのなす角θ1、θ2は、20[deg]以上70[deg]以下の範囲内にあることが好ましい。これにより、チェーファ20の剛性が向上する。
【0058】
また、経糸201および緯糸202の総繊度が、200[dtex]以上500[dtex]以下であることが好ましい。総繊度の下限を上記の範囲とすることにより、タイヤ製造時における経糸201および緯糸202の断線が抑制される。また、総繊度の上限を上記の範囲とすることにより、タイヤ重量増加を抑えることができる。
【0059】
総繊度は、JIS L1017化学繊維タイヤコード試験方法8.3 正量繊度に準拠して測定される。
【0060】
上記の構成では、車両に発生した静電気が、リムフランジ部Rからチェーファ20を介してカーカス層13、リムクッションゴム17、インナーライナ18あるいはサイドウォールゴム16を通り、ベルト層14を通ってアーストレッド51から路面に放出される(図1および図2参照)。これにより、静電気による車両の帯電が抑制される。
【0061】
なお、上記のように、カーカス層13、サイドウォールゴム16あるいはインナーライナ18は、ビード部からベルト層14への導電経路となる。このため、これらの部材の電気抵抗率が低く設定されることが好ましい。例えば、サイドウォールゴム16、カーカス層13のコートゴム、インナーライナ18を構成するゴムコンパウンドのカーボン含有量を増加させることにより、これらのゴムの電気抵抗率が低下する。また、サイドウォールゴム16、カーカス層13のコートゴム、インナーライナ18の一部あるいは全部が、1×10^8[Ω・cm]未満の電気抵抗率をもつ導電ゴムから構成されても良い。また、
例えば、カーカス層13のカーカスコードの一部あるいは全部が、1×10^8[Ω・cm]未満の電気抵抗率をもつ導電線状体から構成されても良い。また、例えば、ビード部からベルト層142に至る領域に、1×10^8[Ω・cm]未満の電気抵抗率をもつ導電層あるいは導電糸(図示省略)が別途設置されても良い。これらにより、リムRからアーストレッド51に至る導電効率が向上する。
【0062】
一方で、キャップトレッド151、アンダートレッド152、サイドウォールゴム16、カーカス層13のコートゴムなどを構成するゴムコンパウンドのカーボン含有量が増加すると、タイヤの転がり抵抗が増加する傾向にある。したがって、リムRからアーストレッド51に至る導電経路を確保しつつ、これらのゴムコンパウンドのカーボン含有量を減少させると共にシリカ含有量を増加させることが好ましい。これにより、タイヤの転がり抵抗を低下させ得る。
【0063】
[変形例]
図1の構成では、一対のチェーファ20、20がタイヤ左右のビード部にそれぞれ配置されている。また、各チェーファ20が、図4に示す平織物から成り、経糸201および緯糸202のうちの一部あるいは全部が1×10^8[Ω・cm]未満の電気抵抗率をもつ導電線状体から成る。かかる構成では、タイヤ左右のビード部からチェーファ20、20を介してトレッド部のアーストレッド51に至る導電経路が形成されるので、導電効率が向上する点で好ましい。
【0064】
しかし、これに限らず、一方のビード部のチェーファ20のみが、上記した導電線状体から成る織物であり、他方のチェーファ20が、既存の非導電線状体から成る織物であっても良い。
【0065】
また、図1の構成では、図2に示すように、チェーファ20がビード部のリム嵌合面に露出して配置されている。かかる構成は、リムフランジRからチェーファ20への導電性が向上する点で好ましい。
【0066】
しかし、これに限らず、チェーファ20が、ビード部の内部に埋設されても良い。例えば、チェーファ20がリムクッションゴム17とカーカス層13の巻き返し部との間に配置され、リムクッションゴム17がリム嵌合面に露出しても良い(図示省略)。また、例えば、インナーライナ18がタイヤ内腔面からカーカス層13に沿ってビードコア11を包み込むようにタイヤ幅方向外側に延在する構成(図示省略)では、チェーファ20が、インナーライナ18の内側および外側のいずれに配置されても良い。
【0067】
また、図1の構成では、図4に示すように、チェーファ20が、経糸201および緯糸202から成る2軸織物であり、経糸201および緯糸202の少なくとも一部が1×10^8[Ω・cm]未満の電気抵抗率をもつ導電線状体から成る。かかる構成は、チェーファ20が織物構造を有するのでチェーファ20の強度が大きい点、および、チェーファ20に導電線状体を織り込む工程が容易である点で好ましい。
【0068】
しかし、これに限らず、チェーファ20が、少なくとも一部に導電線状体を織り込んで成る3軸以上の織物であっても良い(図示省略)。また、チェーファ20が、少なくとも一部に導電線状体を含む複数の線状体を相互に平行に引き揃えてゴム被覆して成るシート状部材であっても良い(図示省略)。また、チェーファ20が、既存の非導電線状体から成る織物に、さらに導電線状体を追加して成る構成を有しても良い(図示省略)。
【0069】
[効果]
以上説明したように、この空気入りタイヤ1は、一対のビードコア11、11と、ビードコア11に架け渡されるカーカス層13と、カーカス層13のタイヤ径方向外側に配置されるベルト層14と、ベルト層14のタイヤ径方向外側に配置されるトレッドゴム15と、カーカス層13のタイヤ幅方向外側にそれぞれ配置される一対のサイドウォールゴム16、16と、カーカス層13の内周面に配置されるインナーライナ18と、リム嵌合部に配置されてカーカス層13を保護するチェーファ20とを備える(図1参照)。また、チェーファ20が、1×10^8[Ω・cm]未満の電気抵抗率をもつ導電線状体(例えば、図4における経糸201あるいは緯糸202)を有する。
【0070】
かかる構成では、チェーファ20の導電線状体により、ビード部の導電性が向上する。これにより、タイヤの帯電抑制性能が効果的に向上する利点がある。また、チェーファ20自体が導線部材として機能するので、導電層あるいは導電部材を別途追加した構成(図示省略)と比較して、故障の起点となりうる箇所が少ない為、リム嵌合部の故障が抑制されるという利点がある。
【0071】
また、この空気入りタイヤ1では、チェーファ20が、少なくとも一部に前記導電線状体(図4では、経糸201あるいは緯糸202)を織り込んで成る織物である(図4参照)。これにより、既存のチェーファに導電線状体を別途追加する構成(図示省略)と比較して、チェーファ20に導電線状体を織り込む工程を容易化できる利点がある。
【0072】
また、この空気入りタイヤ1では、チェーファ20が、織物をコートゴムで被覆して成る(図4参照)。
【0073】
また、この空気入りタイヤ1では、チェーファ20に含まれる前記導電線状体の重量が、チェーファ20の総重量の1[%]以上20[%]以下である。これにより、チェーファ20に含まれる前記導電線状体の重量が適正化される利点がある。すなわち、導電線状体の重量がチェーファ20の総重量の1[%]以上であることにより、チェーファ20の導電性が確保される。また、導電線状体の重量がチェーファ20の総重量の20[%]以下であることにより、導電線状体とチェーファ20のコートゴム203あるいは周辺ゴムとの接着性が適正に確保される。
【0074】
また、この空気入りタイヤ1では、前記導電線状体が、1×10^8[Ω/cm]未満の電気抵抗率をもつ導電物質から成るモノフィラメントである。かかる構成では、導電線状体が紡績糸である構成と比較して、チェーファ20の空気透過性が低下する。これにより、タイヤの耐空気漏れ性能が向上する利点がある。
【0075】
また、この空気入りタイヤ1では、前記導電線状体が、1×10^8[Ω/cm]未満の電気抵抗率をもつ導電繊維を含む紡績糸である。これにより、タイヤ製造工程やタイヤ使用状態における導電線状体の導電性の低下が抑制されて、タイヤの帯電抑制性能が適正に確保される利点がある。例えば、汎用品である非導電性の糸に導電物質をコーティングして成る構成では、タイヤ製造工程やタイヤ使用状態における熱や歪みにより、コーティングが剥離し易い。このため、導電線状体の導電性が低下するおそれがあり、好ましくない。
【0076】
また、この空気入りタイヤ1では、前記導電線状体が、ビード部のタイヤ幅方向内側からタイヤ幅方向外側に渡って延在する(図2参照)。これにより、前記導電線状体の領域が適正化されて、チェーファ20の導電性が確保される利点がある。
【0077】
また、この空気入りタイヤ1では、前記導電線状体のタイヤ幅方向外側の端部が、ビードコア11のタイヤ径方向外側の端部よりもタイヤ径方向外側にある(図2参照)。これにより、前記導電線状体の領域が適正化されて、チェーファ20の導電性が確保される利点がある。
【0078】
また、この空気入りタイヤ1では、前記導電線状体のタイヤ幅方向内側の端部が、ビードコア11のタイヤ径方向内側の端部よりもタイヤ径方向外側にある(図2参照)。これにより、前記導電線状体の領域が適正化されて、チェーファ20の導電性が確保される利点がある。
【0079】
また、この空気入りタイヤ1では、インナーライナ18が、熱可塑性樹脂もしくは熱可塑性樹脂中にエラストマー成分をブレンドした熱可塑性エラストマー組成物から成る。かかる構成では、インナーライナ18がブチルゴムから成る構成と比較して、インナーライナ18の空気透過性を低減できる利点があり、また、タイヤ重量を軽減してタイヤの転がり抵抗を低減できる利点がある。
【0080】
また、この空気入りタイヤ1では、トレッドゴム15が、タイヤ接地面を構成するキャップトレッド151と、キャップトレッド151のタイヤ径方向内側に積層されるアンダートレッド152とを有し(図1参照)、且つ、キャップトレッド151の電気抵抗率が、1×10^8[Ω・cm]以上の範囲にある。かかる構成では、例えば、キャップトレッド151のシリカ含有量を増加させて上記の構成とすることにより、タイヤの転がり抵抗が低減する利点がある。
【0081】
また、この空気入りタイヤ1では、トレッドゴム15が、タイヤ接地面を構成するキャップトレッド151と、キャップトレッド151のタイヤ径方向内側に積層されるアンダートレッド152とを有し、且つ、1×10^8[Ω・cm]未満の電気抵抗率を有すると共に、少なくともキャップトレッド151を貫通してタイヤ接地面に露出するアーストレッド51を備える(図1図3参照)。これにより、ベルト層14(あるいはアンダートレッド152)からトレッドゴム15の接地面への導電経路が確保される利点がある。
【実施例】
【0082】
図5は、この発明の実施の形態にかかる空気入りタイヤの性能試験の結果を示す図表である。
【0083】
この性能試験では、相互に異なる複数の試験タイヤについて、(1)帯電抑制性能、(2)低転がり抵抗性能および(3)耐空気漏れ性能に関する評価が行われた。この性能試験では、タイヤサイズ195/65R15 91Hの試験タイヤが試作されて用いられる。
【0084】
(1)帯電抑制性能に関する評価では、JATMA規定の測定条件に基づき、ADVANTEST R8340A ウルトラ・ハイ・レジスタンスメータが使用されてタイヤの電気抵抗[Ω]が測定される。評価は、従来例のタイヤ新品時を基準(100)とした指数評価により行われ、その数値が大きいほどタイヤの電気抵抗が小さく、好ましい。
【0085】
(2)低転がり抵抗性能に関する評価では、ドラム径1707[mm]の室内ドラム式タイヤ転動抵抗試験機が用いられる。また、試験タイヤがJATMA規定の適用リムに組み付けられ、試験タイヤにJATMA規定の正規内圧および最大負荷が付与される。そして、JATMA Y/B 2012年版の測定方法に準拠して、タイヤの転がり抵抗が測定される。評価は、従来例を基準(100)とした指数評価により行われ、その数値が大きいほど転がり抵抗が小さく、好ましい。
【0086】
(3)耐空気漏れ性能に関する評価では、試験タイヤがJATMA規定の適用リムに組み付けられ、試験タイヤにJATMA規定の正規内圧の130[%]の空気圧が付与される。そして、室内にて常温で24時間放置し、試験タイヤを成長および安定させた後に、JATMA規定の正規内圧の130[%]の空気圧に調整する。その後、室内にて常温にてさらに24時間放置して、タイヤ空気圧が測定される。そして、測定結果に基づいて評価が行われる。この評価において、「◎」は、「○」よりも空気漏れが少ないことを意味し、好ましい。
【0087】
実施例1、2の試験タイヤは、図1図4の構成において、アーストレッド51を備えていない。また、チェーファ20が、図4に示す平織物であり、470[dtex]の総繊度を有する。また、平織物を構成する経糸201および緯糸202の一部が非導電線状体(ナイロン6)であり、残りが導電線状体(カーボン/ナイロン6フィラメント)である。また、キャップトレッド151が、カーボンブラックを補強剤として使用することにより、導電性(1×10^8[Ω・cm]未満の電気抵抗率)を有する。また、カーカス層13のカーカスコードが有機繊維から成り、コートゴムの電気抵抗率が2×10^9[Ω・cm]である。また、サイドウォールゴム16の電気抵抗率が、2×10^9[Ω・cm]である。
【0088】
実施例3〜5の試験タイヤは、実施例1の変形例である。
【0089】
従来例の試験タイヤは、実施例1の試験タイヤにおいて、チェーファ20が、非導電線状体(ナイロン6)のみから成る。
【0090】
試験結果が示すように、実施例1〜5の試験タイヤでは、タイヤの帯電抑制性能が向上することが分かる。
【符号の説明】
【0091】
1:空気入りタイヤ、5:帯電抑制構造、51:アーストレッド、11:ビードコア、12:ビードフィラー、13:カーカス層、14:ベルト層、141〜143:ベルト層、15:トレッドゴム、151:キャップトレッド、152:アンダートレッド、16:サイドウォールゴム、17:リムクッションゴム、18:インナーライナ、20:チェーファ、201:経糸、202:緯糸、203:コートゴム、R:リム
図1
図2
図3
図4
図5