【実施例】
【0036】
[実施例]
以下、
図5を参照し、具体的な実施例により、本実施形態に係る膜電極接合体の製造方法について説明する。なお、後述する実施例は本発明の一実施例であり、本発明はこの実施例のみに限定されるものでは無い。また、本実施例に係る触媒層付電解質膜は、固体高分子形燃料電池に用いられる。
[触媒層付電解質膜の製造方法の工程順]
図5は、本実施形態に係る触媒層付電解質膜の製造方法を工程順に説明するためのフローチャートである。
【0037】
図5(a)に示すように、触媒層付電解質膜の製造方法は、剥離基材上の工程と、転写基材上の工程と、共通の工程とに分けられる。
剥離基材上の工程は、剥離基材上へのシランカップリング剤形成工程(S110)と、剥離基材上のシランカップリング剤限定除去工程(S120)と、カソード触媒層形成工程(S125)と、剥離基材上の残存シランカップリング剤除去工程(S130)と、高分子電解質膜形成工程(S135)と、を有する。
【0038】
転写基材上の工程は、転写基材上へのシランカップリング剤形成工程(S210)と、転写基材上のシランカップリング剤限定除去工程(S220)と、アノード触媒層形成工程(S225)と、転写基材上の残存シランカップリング剤除去工程(S130)と、を有する。
共通の工程は、アノード触媒層の高分子電解質膜への転写工程(S305)、剥離基材及び転写基材の剥離除去工程(S315)と、を有する。
【0039】
図5(b)に示すように、本実施形態に係る触媒層付電解質膜の製造方法におけるパターン形成工程(S1000)のみに着目すると、第一工程としてのシランカップリング剤形成工程(S110)(S210)と、第二工程としてのシランカップリング剤限定除去工程(S120)(S220)と、第三工程としての残存シランカップリング剤除去工程(S130)(S230)との三段階に分けることができる。すなわち、パターン形成工程(S1000)は、剥離基材1a、転写基材1b上の全エリアにシランカップリング剤2を形成するシランカップリング剤形成工程(S110)(S210)と、親和性エリア5上に形成されたシランカップリング剤2のみを限定して除去するシランカップリング剤限定除去工程(S120)(S220)と、触媒層形成工程(S125)(S225)により触媒層7b、7cが形成された後に、非親和性エリア6の残存シランカップリング剤2を除去する残存シランカップリング剤除去工程(S130)(S230)とを有する。
【0040】
上述したパターン形成工程(S1000)において、親和性エリア5では親水性を活用し、非親和性エリア6では撥水性を活用してパターン形成する。
(1)シランカップリング剤形成工程(S110)(S210)
シランカップリング剤2を、剥離基材1a、転写基材1b上の全エリアに形成する。
ここでは、
図1(1a)(2a)に示すように、剥離基材1aとしてガラス基板(以下、ガラス基板1aという)を、転写基材1bとしてポリエチレンテレフタラートフィルム(以下、PETフィルム1bという)用いている。このガラス基板1a、PETフィルム1bの上に波長172nmの真空紫外光3を照射し、ガラス基板1a、PETフィルム1bの表面にヒドロキシル基を形成した。続いて、ガラス基板1a、PETフィルム1b上のヒドロキシル基と加水分解されたシランカップリング剤2とを反応させるようにする。ここで、フルオロアルキル系のシランカップリング剤2であるフルオロメトキシシラン(商品名:KBM―7103、信越化学工業製)と、上述したヒドロキシル基が形成されたガラス基板1とを160℃に加温する。それから、化学蒸着法(Chemical Vapor Deposition法:CVD法)によりガラス基板1上にシランカップリング剤2を形成した。
【0041】
(2)シランカップリング剤限定除去工程(S120)(S220)
フォトマスク4を介して親和性のある親和性エリア5上にのみ真空紫外光3を照射することにより、触媒インク7aと親和性エリア5上に形成されたシランカップリング剤2のみを除去する。
ここでは、
図1(1b)(2b)に示すように、50mm四方の開口部を有するフォトマスク4を介して、波長172nmの真空紫外光3をシランカップリング剤2が形成されたガラス基板、PETフィルム上に照射する。そして、シランカップリング剤2が分解された触媒インク7aと親和性がある親和性エリア5とシランカップリング剤2が残存している触媒インク7aと親和性が無い非親和性エリア6をパターン形成した。
【0042】
なお、本実施形態に係る触媒層付電解質膜の製造方法によれば、触媒層を高精度で所望の形状に形成できる。その理由は、シランカップリング剤限定除去工程(S120)(S220)において用いるフォトマスク4の精度が、カソード触媒層7b、アノード触媒層7cの形状に反映されるからである。したがって、所望の精度・形状のフォトマスク4を用いることにより、高精度で所望の形状の触媒層を形成することができる。
【0043】
(3)触媒層の形成工程(S125)(S225)
剥離基材1a、転写基材1b上の親和性エリア5に触媒インク7aを塗布して塗膜を形成し、形成された塗膜中の溶媒を除去し、カソード触媒層7b、アノード触媒層7cを形成する。
ここでは、
図1(1c)(2c)に示すように、白金担持量が50%である白金担持カーボン触媒(商品名:TEC10E50E、田中貴金属工業製)と、20質量%高分子電解質溶液であるNafion(登録商標、デュポン社製)を、溶媒である水と混合した。続いて、遊星ボールミルで分散処理を行い、触媒インク7aを調整した。そして、パターン形成したガラス基板、PETフィルム上に、触媒インク7aと親和性がある親和性エリア5に、調整した触媒インク7aを、白金担持量がそれぞれ、0.30mg/cm
2、0.10mg/cm
2となるように滴下した。このように滴下された触媒インク7aによって形成された塗膜を乾燥させて、カソード触媒層7b、アノード触媒層7cを形成した。
【0044】
(4)残存シランカップリング剤除去工程(S130)(S230)
カソード触媒層71b、アノード触媒層7c形成後に触媒インク7aと親和性の無い非親和性エリア6の残存シランカップリング剤2を除去する。
ここでは、
図1(1d)(2d)に示すように、カソード触媒層7bが形成されたガラス基板、アノード触媒層7cが形成されたPETフィルム上に波長が172nmの真空紫外光3を照射し、カソード触媒層7a、アノード触媒層7b周縁部の触媒インク7a親和性が無い非親和性エリア6のシランカップリング剤2を分解・除去した。
【0045】
(5)高分子電解質膜形成工程(S135)
カソード触媒層7b上に、少なくとも高分子電解質と溶媒を含む電解質インクを塗布して塗膜を形成し、形成された塗膜中の溶媒を除去し、高分子電解質膜8を形成する。
ここでは、
図1(1e)に示すように、20質量%高分子電解質溶液であるNafion(登録商標、デュポン社製)を、カソード触媒層7a上に膜厚が20μmとなるように、ドクターブレード法により塗布し、塗膜を乾燥させて、高分子電解質膜8を形成した。
【0046】
(6)アノード触媒層の高分子電解質膜への転写工程(S305)
アノード触媒層が形成された転写基材上にカソード触媒層付電解質膜のカソード触媒層形成裏面側がアノード触媒層に接するように積層し、ホットプレス工程を実行し、アノード触媒層7cを高分子電解質膜8に転写する。
ここでは、
図1(3f)に示すように、アノード触媒層7cが形成された転写基材上にカソード触媒層付電解質膜のカソード触媒層形成裏面側がアノード触媒層に接するように積層し、130℃、6.0×10
6Paの条件でホットプレスを行い、アノード触媒層7cを高分子電解質膜8に転写した。
【0047】
(7)剥離基材、転写基材の剥離除去工程(S315)
カソード触媒層7bと、高分子電解質層8と、アノード触媒層7cからなる触媒層付電解質膜から、剥離基材1a、転写基材1bを剥離する。
ここでは、カソード触媒層7b、高分子電解質膜8、アノード触媒層7cをガラス基板1a、PETフィルム1bから剥離し、触媒層付電解質膜とした。
【0048】
[比較例]
(A)カソード触媒層形成工程(S125)
白金担持量が50%である白金担持カーボン触媒(商品名:TEC10E50E、田中貴金属工業製)と、20質量%高分子電解質溶液であるNafion(登録商標、デュポン社製)を、溶媒である水と混合した。続いて、遊星ボールミルで分散処理を行い、触媒インク70を調整した。そして、PETフィルム上に50mm四方の開口部を有するマスク材が貼合された転写基材上に、調整した触媒インク7aを塗布した。この触媒インク7aは、白金担持量が0.30mg/cm
2となるようにドクターブレード法により塗布される。塗布された後に、塗膜を乾燥させ、カソード触媒層7bが形成される。
【0049】
(B)アノード触媒層形成工程(S225)
PETフィルム上に50mm四方の開口部を有するマスク材が貼合された転写基材上に、触媒インク70を、白金担持量が0.10mg/cm
2となるように、ドクターブレード法により塗布し、塗膜を乾燥させ、アノード触媒層72を形成した。
(C)高分子電解質膜形成工程(S135)
20質量%高分子電解質溶液であるNafion(登録商標、デュポン社製)を、ガラス基板上に、膜厚が20μmとなるようドクターブレード法により塗布し、塗膜を乾燥させ、高分子電解質膜8を形成した。高分子電解質膜8を形成した後にガラス基板を剥離した。
【0050】
(D)ホットプレス工程(S305)
PETシート上に製造された両電極触媒層を、高分子電解質溶液から製造した高分子電解質膜8の両面に正対するように配置し、130℃、6.0×10
6Paの条件でホットプレスを行い、触媒層付電解質膜を製造した。
【0051】
[評価結果]
実施例と比較例とそれぞれの製造方法において使用した触媒インク7aの体積を調べた結果、実施例の製造方法によれば、触媒インク7aの使用量を40%削減できていることを確認した。
また、実施例と比較例とそれぞれの製造方法により製造した触媒層付電解質膜について、それぞれ低加湿での発電特性を調べた結果、実施例の方が、発電性能が高いことを確認した。
【0052】
[まとめ]
本実施形態では、以下の触媒層付電解質膜の製造方法を採用した。
本実施形態に係る触媒層付電解質膜の製造方法は、高分子電解質膜(8)と、当該高分子電解質膜(8)の一方の面に設けたアノード触媒層(7c)と、当該高分子電解質膜(8)の他方の面に設けたカソード触媒層(7b)とを備える触媒層付電解質膜の製造方法に関するものである。この製造方法は、パターン形成工程(S1000)と、カソード触媒層形成工程(S125)と、高分子電解質膜形成工程(S135)と、パターン形成工程(S1000)と、アノード触媒層形成工程(S225)と、ホットプレス工程(S305)と、剥離工程(S315)とを有する。
【0053】
パターン形成工程(S1000)において、触媒担持粒子と高分子電解質と溶媒とを含む触媒インク(7a)に親和性のある親和性エリア(5)と触媒インク(7a)に親和性が無い非親和性エリア(6)とを、剥離基材(1a)上にパターン形成する。カソード触媒層形成工程(S125)において、親和性エリア(5)に触媒インク(7a)を塗布して塗膜を形成し、形成された塗膜中の溶媒を除去し、カソード触媒層(7b)を形成する。高分子電解質膜形成工程(S135)において、カソード触媒層(7b)上に、高分子電解質と溶媒とを含む電解質インクを塗布して塗膜を形成し、形成された塗膜中の溶媒を除去し、高分子電解質膜(8)を形成する。パターン形成工程(S1000)において、触媒担持粒子と高分子電解質と溶媒とを含む触媒インク(7a)に親和性のある親和性エリア(5)と触媒インク(7a)に親和性が無い非親和性エリア(6)とを、転写基材(1b)上にパターン形成する。アノード触媒層形成工程(S225)において、親和性エリア(5)に触媒インク(7a)を塗布して塗膜を形成し、形成された塗膜中の溶媒を除去し、アノード触媒層(7c)を形成する。ホットプレス工程(S305)において、転写基材(1b)上に作製されたアノード触媒層(7c)をカソード触媒層(7b)が形成された裏面の高分子電解質膜(8)に積層し、ホットプレスによりアノード触媒層を高分子電解質膜に転写する。剥離工程(S315)において、剥離基材(1a)と転写基材(1b)とを剥離除去する。
【0054】
また、パターン形成工程(S1000)は、シランカップリング剤形成工程(S110、S210)と、シランカップリング剤限定除去工程(S120、S220)と、残存シランカップリング剤除去工程(S130、S230)とを有していても良い。
シランカップリング剤形成工程(S110、S210)において、剥離基材(1a)上、又は転写基材(1b)上の全エリアにシランカップリング剤(2)を形成する。シランカップリング剤限定除去工程(S120、S220)において、親和性エリア(5)上に形成されたシランカップリング剤(2)のみを除去する。残存シランカップリング剤除去工程(S130、S230)において、触媒層形成工程(S125、S225)により触媒層(7b、7c)を形成された後に、非親和性エリア(6)の残存シランカップリング剤(2)を除去する。
【0055】
また、シランカップリング剤限定除去工程(S120、S220)において、フォトマスク(4)を介して親和性エリア(5)上にのみ真空紫外光(3)を照射することにより除去するようにしても良い。
また、パターン形成工程(S1000)において、親和性エリア(5)では親水性を活用し、非親和性エリア(6)では撥水性を活用してパターン形成するようにしても良い。
【0056】
また、親和性エリア(5)の水接触角を15度以下とし、非親和性エリア(6)の水接触角を100度以上としても良い。
本実施形態に係る触媒層付電解質膜は、高分子電解質膜(8)と、高分子電解質膜(8)の一方の面に設けたアノード触媒層(7c)と、高分子電解質膜(8)の他方の面に設けたカソード触媒層(7b)とを備える。触媒層付電解質膜は、カソード触媒層(7b)と高分子電解質膜(8)の間に触媒層と高分子電解質膜の混合層(7d)を有し、カソード触媒層(7b)の表面とカソード触媒層を設けた高分子電解質膜(8)の表面とが略同一平面上にある。
【0057】
[本実施形態の効果]
本実施形態は、以下のような効果を奏する。
本実施形態によれば、(1)触媒インクのロスが少なく、(2)所望の形状に高精度で触媒層を形成でき、(3)イオン抵抗が小さく、(4)低加湿条件下で高い発電性能を有するという効果を奏する触媒層付電解質膜の製造方法、及び触媒層付電解質膜を提供することができる。
【0058】
(1)触媒インクのロスが少なくできる理由は、カソード触媒層、アノード触媒層を形成する際に、触媒インクと親和性がある親和性エリアにのみ、触媒層を形成するからである。その結果、製造コストの低減を図ることができる。
(2)所望の形状に高精度で触媒層を形成できる理由は、シランカップリング剤を除去する工程において用いるフォトマスクの精度が、カソード触媒層とアノード触媒層の形状に反映されるからである。したがって、所望の精度・形状のフォトマスクを用いることにより、高精度で所望の形状の触媒層を形成することができる。
【0059】
(3)イオン抵抗を小さくできる理由は、高分子電解質層とカソード触媒層の接触が向上するからである。高分子電解質層をカソード触媒層上に塗工するため、高分子電解質層とカソード触媒層間に2層の混合層ができ、密着性が向上し、良好な発電性能結果が得られる。
(4)低加湿条件下で発電性能を高くできる理由は、カソード触媒層が、断面を含めた四方を高分子電解質層で覆われているため、低加湿条件下でも触媒層が保湿され、高いプロトン伝導性を有する膜電極接合体(MEA)を形成できるからである。
【0060】
このように、本実施形態によれば、高価な触媒インクのロス無く、所望の形状に触媒層を形成することができる。更に、高分子電解質層とカソード触媒層間に混合層ができることにより、高分子電解質膜とカソード触媒層間の接触が向上し、イオン抵抗が減少する効果を奏する触媒層付電解質膜を提供することができる。
また、本実施形態によれば、断面を含めた四方を高分子電解質膜で覆われているため、低加湿条件下でも触媒層が保湿され、高いプロトン伝導性を有する膜電極接合体となり、特に低加湿条件下で発電性能が高いという効果を奏する触媒層付電解質膜の製造方法、及び触媒層付電解質膜を提供することができる。