(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
円筒状をなすケーシングパイプと、このケーシングパイプの先端に同軸かつ該ケーシングパイプの中心軸線回りに回転自在に配設される円環状のリングビットと、上記ケーシングパイプ内に後端側から挿通されて先端部が上記リングビットの内周部に配設されるパイロットビットとを備え、
上記パイロットビットの先端部外周には上記中心軸線方向に延びる突条部が形成されるとともに、上記リングビットの内周部には、上記中心軸線方向に該リングビットを貫通して上記突条部が通り抜け可能な貫通溝と、この貫通溝に連通して上記パイロットビットの掘削時の回転方向に延びる上記突条部を収容可能な凹溝部とが形成され、この凹溝部に上記突条部が収容されることにより上記パイロットビットと上記リングビットとが上記掘削時の回転方向に係合して、上記リングビットは上記パイロットビットに対して上記掘削時の回転方向に上記中心軸線回りに一体に回転可能かつ該中心軸線方向先端側に係止され、
上記突条部の先端部は上記パイロットビットの先端面に連続するとともに、上記凹溝部は上記リングビットの先端面に開口しており、
上記パイロットビットとリングビットの先端部には掘削チップが突設されていて、上記パイロットビットの最外周の掘削チップは上記突条部の先端部に突設されるとともに、上記リングビットの最内周の掘削チップは、このリングビットの上記先端面の周方向における上記凹溝部の開口部の間に突設されており、上記パイロットビットの最外周の掘削チップと上記リングビットの最内周の掘削チップとが、掘削時における上記中心軸線回りの回転軌跡において重なり合うことを特徴とする掘削工具。
上記リングビットの内周部にはn(nは1以上の整数)ずつの上記凹溝部が形成されており、それぞれの上記凹溝部の周方向の両端が上記中心軸線に対してなす中心角が180/n±10(°)の範囲内となるように形成されていることを特徴とする請求項1に記載の掘削工具。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような掘削工具では、削孔後にケーシングパイプおよびリングビットを掘削孔内に残して、パイロットビットのみを引き抜いて回収することが可能である。また、リングビットがケーシングパイプに対して先端側に抜脱可能とされているので、リングビットだけを掘削孔内に残してパイロットビットとケーシングパイプを回収することも可能である。勿論、パイロットビットとケーシングパイプ、およびリングビットのすべてを掘削孔から回収することも可能であるが、いずれの場合もパイロットビットは回収され、次の削孔に再利用されることになる。従って、パイロットビットにはリングビットやケーシングパイプよりも長い寿命が求められることになる。
【0005】
ここで、このようなパイロットビットの寿命は通常、リングビットの先端内周部から掘削工具の先端に臨むパイロットビットの先端面に突設された掘削チップのうち、軸線からの距離が大きいために最も掘削量が大きくなる最外周のゲージチップの摩滅によって決定される。すなわち、このゲージチップの摩滅によって削孔速度が低下したりパイロットビットによって所定の内径の掘削孔を形成することができなくなることで一般的には寿命と判断されることが多いが、例えば上記特許文献1に記載された掘削工具などでは、パイロットビットの先端面がリングビットよりも先端側に突出していてパイロットビットだけが先行して削孔を行うため、このようなゲージチップの摩滅や損傷を抑制することは困難である。
【0006】
本発明は、このような背景の下になされたもので、パイロットビット最外周のゲージチップの摩滅を抑制することにより、パイロットビットの寿命の延長を図って再利用可能な回数を増やし、これに伴い施工コストの低減に寄与するとともに効率的な削孔を行うことが可能な掘削工具を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決して、このような目的を達成するために、本発明は、円筒状をなすケーシングパイプと、このケーシングパイプの先端に同軸かつ該ケーシングパイプの中心軸線回りに回転自在に配設される円環状のリングビットと、上記ケーシングパイプ内に後端側から挿通されて先端部が上記リングビットの内周部に配設されるパイロットビットとを備え、
上記パイロットビットの先端部外周には上記中心軸線方向に延びる突条部が形成されるとともに、上記リングビットの内周部には、上記中心軸線方向に該リングビットを貫通して上記突条部が通り抜け可能な貫通溝と、この貫通溝に連通して上記パイロットビットの掘削時の回転方向に延びる上記突条部を収容可能な凹溝部とが形成され、この凹溝部に上記突条部が収容されることにより上記パイロットビットと上記リングビットとが上記掘削時の回転方向に係合して、上記リングビットは上記パイロットビットに対して上記掘削時の回転方向に上記中心軸線回りに一体に回転可能かつ該中心軸線方向先端側に係止され、上記突条部の先端部は上記パイロットビットの先端面に連続するとともに、上記凹溝部は上記リングビットの先端面に開口しており、上記パイロットビットとリングビットの先端部には掘削チップが突設されていて、
上記パイロットビットの最外周の掘削チップは上記突条部の先端部に突設されるとともに、上記リングビットの最内周の掘削チップは、このリングビットの上記先端面の周方向における上記凹溝部の開口部の間に突設されており、上記パイロットビットの最外周の掘削チップと上記リングビットの最内周の掘削チップとが、掘削時における上記中心軸線回りの回転軌跡において重なり合うことを特徴とする。
【0008】
このような掘削工具においては、パイロットビットの最外周の掘削チップすなわち上記ゲージチップが、リングビットの最内周の掘削チップと掘削時における上記中心軸線回りの回転軌跡において重なり合っているので、掘削時にゲージチップに作用する負荷の一部をリングビットの最内周の掘削チップに分散させることができ、ゲージチップの摩滅を抑制することができる。従って、このようなゲージチップの摩滅によるパイロットビットの寿命を延長することが可能となって、回収したパイロットビットをできるだけ多く再利用することができる。
【0009】
ここで、上述のようにリングビットをパイロットビットに対して掘削時の回転方向に係合させて上記中心軸線回りに一体に回転可能とする
のに、本発明では、パイロットビットの先端部外周に上記中心軸線方向に延びる突条部を形成するとともに、リングビットの内周部には上記突条部を収容可能な凹溝部を形成し、この凹溝部に突条部を収容することによりパイロットビットとリングビットとを掘削時の回転方向に係合させ
ている。
【0010】
そして、
さらに本発明では、上記突条部の先端部を上記パイロットビットの先端面に連続させるとともに、上記凹溝部は上記リングビットの先端面に開口させて、パイロットビットの最外周の掘削チップを上記突条部の先端部に突設するとともに、上記リングビットの最内周の掘削チップは、このリングビットの上記先端面の周方向における上記凹溝部の開口部の間に突設
させていて、これにより、上述のようにパイロットビットの最外周の掘削チップとリングビットの最内周の掘削チップとを、掘削時における上記中心軸線回りの回転軌跡において重なり合わせ
ている。
【0011】
なお、このようにパイロットビットの先端部外周に突条部を形成するとともに、リングビットの内周部にはこの突条部を収容可能な凹溝部を形成して、パイロットビットとリングビットとを掘削時の回転方向に係合させた場合には、上記リングビットの内周部にn(nは1以上の整数)の上記凹溝部を形成したときに、それぞれの上記凹溝部の周方向の両端が上記中心軸線に対してなす中心角が180/n±10(°)の範囲内となるように形成することにより、掘削中に突条部が凹溝部から抜け出て係合が解かれるような事態を防ぐことができる。
【0012】
特に、このような場合には、リングビットがケーシングパイプに対して上記中心軸線方向先端側に抜脱自在とされていても、掘削時にはパイロットビットとリングビットによって確実に掘削孔を形成可能であり、また所定の深さまで掘削孔が形成された後にリングビットを残したままパイロットビットおよびケーシングパイプを回収する場合には、特許文献1に記載されたような複雑な抜脱機構を要することなく、そのままパイロットビットとケーシングパイプを掘削孔から引き抜いて回収することができる。ただし、これらパイロットビットおよびケーシングパイプとともにリングビットも回収する場合には、リングビットがケーシングパイプに対して上記中心軸線方向先端側に係止されていても勿論構わない。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明によれば、パイロットビット最外周のゲージチップに作用する負荷の軽減を図ってその摩滅を抑制することよりパイロットビットの寿命を延長することができ、より多くパイロットビットの再利用を可能として、施工コストの低減を促すとともに効率的な削孔を行うことが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1ないし
図4は、本発明の第1の実施形態を示すものである。本実施形態において、ケーシングパイプ1は鋼材等により中心軸線Oを中心とする円筒状に形成されているとともに、その先端部(
図2において左側部分)には、ケーシングパイプ1と等しい外径と僅かに小さな内径を有するケーシングトップ1Aが溶接等により接合されて一体に取り付けられている。このようなケーシングトップ1Aが取り付けられることにより、ケーシングパイプ1の先端部内周には、先端側に向けて内径が一段小さくなるように段差部1Bが形成される。
【0016】
このケーシングパイプ1の先端には、ケーシングパイプ1と同軸かつ中心軸線O回りに回転自在に円環状のリングビット2が配設される。ただし、本実施形態では、このリングビット2は
図2に示すように上記ケーシングトップ1Aに対して中心軸線O方向に間隔をあけて配設されていて、ケーシングパイプ1と連結されてはおらず、ケーシングパイプ1に対して中心軸線O方向先端側に抜脱自在とされている。
【0017】
このリングビット2も鋼材等により形成されていて、ケーシングパイプ1よりも僅かに大きな外径とケーシングトップ1Aよりも僅かに小さな内径とを有している。また、このリングビット2の内周部には、中心軸線O方向にリングビット2を貫通する貫通溝2Aが周方向に等間隔に複数条(本実施形態では4条)形成されているとともに、これらの貫通溝2Aにそれぞれ連通するように凹溝部2Bが形成されている。
【0018】
これらの凹溝部2Bは、リングビット2の後端面との間に中心軸線O方向に間隔をあけるとともに、連通した貫通溝2Aからリングビット2の内周部に沿って後述する掘削時の回転方向Tに向けて延び、この回転方向Tに隣接する貫通溝2Aとも周方向に間隔をあけるように形成されている。また、これらの凹溝部2Bもリングビット2の先端面に開口している。
【0019】
ここで、それぞれの凹溝部2Bの周方向の幅は、
図1に示すように凹溝部2Bの周方向の両端が上記中心軸線Oに対してなす中心角θが凹溝部2Bの数をnとしたときに180/n±10(°)の範囲内となるように形成されており、4条の凹溝部2Bが形成される本実施形態ではθ=45±10(°)の範囲内とされる。なお、貫通溝2Aの周方向の幅は、この凹溝部2Bの幅よりも小さくされている。
【0020】
また、リングビット2の先端部は、その外周部が外周側に向かうに従い中心軸線O方向後端側に傾斜する傾斜面とされるとともに、この外周部よりも内周側には中心軸線Oに垂直な平坦面が形成されている。上記貫通溝2Aと凹溝部2Bの先端は、この平坦面の内周側に開口している。
【0021】
そして、これらリングビット2先端部の傾斜面と平坦面、およびこれら傾斜面と平坦面の交差稜線部には、超硬合金等の硬質材料よりなる掘削チップ3が複数ずつ埋め込まれて突設されている。さらに、これらの掘削チップ3のうち平坦面に突設された掘削チップ3Aは、その中心線が該平坦面に垂直とされ、凹溝部2Bの内周側を向く溝底面よりも部分的に内周側に位置するように配設されて、このリングビット2の先端面の周方向における上記凹溝部2Bの開口部の間に突設されている。
【0022】
一方、上記ケーシングパイプ1内には、パイロットビット4が後端側から挿通されて、その先端部が上記リングビットの内周部に配設される。ここで、ケーシングパイプ1内には、図示されない掘削ロッド等の伝達部材が必要に応じて継ぎ足されて後端側から挿入されるとともに、この伝達部材の先端部にはハンマーHが取り付けられ、このハンマーHにパイロットビット4が取り付けられる。伝達部材は掘削時にパイロットビット4に中心軸線O方向先端側への推力と
図1に示す回転方向Tへの中心軸線O回りの回転力とを伝達するとともに、ハンマーHはパイロットビット4に中心軸線O方向先端側への打撃力を与える。
【0023】
パイロットビット4は、後端部が上記ハンマーHに取り付けられるシャンク部4Aとされるとともに、先端部はシャンク部4Aよりも一段大径とされた円盤状をなしている。この先端部の外周は、後述する突条部を除いて先端側に向かうに従い2段に縮径する多段状に形成されており、このうち最も大きな後段部の外径は、ケーシングパイプ1の内径よりも僅かに小さく、ケーシングトップ1Aの内径よりは大きくされていて、この後段部に、ケーシングトップ1Aによってケーシングパイプ1の先端部内周に形成された上記段差部1Bに後端側から当接可能な段差部4Bが形成される。
【0024】
また、この段差部4Bよりも先端側のパイロットビット4の中段部は、その外径が、ケーシングトップ1Aの内径よりも僅かに小さくされるとともに、リングビット2の貫通溝2Aと凹溝部2Bを除いた部分の内径よりも僅かに大きくされていて、この中段部の先端面が後端側からリングビット2の後端面に当接可能とされている。なお、こうして中段部の先端面をリングビット2の後端面に当接させるとともに、上記段差部1B、4Bを当接させた状態で、リングビット2とケーシングトップ1Aとの間には上述のように中心軸線O方向に間隔があけられる。
【0025】
さらに、この中段部よりも先端側のパイロットビット4の先段部の外周には、上記貫通溝2Aおよび凹溝部2Bと同数の突条部4Cが周方向に等間隔に形成されており、この突条部4Cを除いた先段部の外径はリングビット2の内径よりも小さくされている。突条部4Cは、中段部から中心軸線O方向先端側に間隔をあけて先端部外周に突出するように形成され、この中段部との間隔は、リングビット2の後端面と凹溝部2Bとの間隔よりも僅かに大きくされている。
【0026】
また、突条部4Cの外周面は、中心軸線Oを中心とした円筒面上に位置していて、この円筒面の外径はリングビット2の内径よりも大きく、貫通溝2Aおよび凹溝部2Bの内周側を向く溝底面の内径よりは小さくされている。さらに、この突条部4Cの周方向の幅は貫通溝2Aの幅よりも小さくされていて、突条部4Cが貫通溝2Aを中心軸線O方向に通り抜け可能とされている。さらにまた、突条部4Cの先端面はパイロットビット4の先端面に連続している。
【0027】
従って、こうして突条部4Cを貫通溝2Aに通り抜けさせて、上述のように中段部の先端面をリングビット2の後端面に当接させた状態で、パイロットビット4をリングビット2に対して回転方向Tに回転させると、パイロットビット4の突条部4Cと中段部の先端面との間隙部分にリングビット2の後端面と凹溝部2Bとの間の部分が入り込むようにして凹溝部2Bに突条部4Cが収容され、リングビット2がパイロットビット4に対して中心軸線O方向先端側に係止される。さらにパイロットビット4を回転させることにより、突条部4Cが凹溝部2Bとその回転方向T側に隣接する貫通溝2Aとの間の部分に当接したところで、リングビット2はパイロットビット4と回転方向Tに係合して一体に回転可能とされる。
【0028】
また、このようにリングビット2がパイロットビット4に対して回転方向Tに係合することにより中心軸線O回りに一体に回転可能かつ中心軸線O方向先端側に係止された状態で、パイロットビット4の先端面はリングビット2の先端面から僅かに先端側に突出するように形成されている。このパイロットビット4の先端面は、上記中心軸線O上に位置する中央部が後端側に凹んだ中心軸線Oに垂直な平坦面とされるとともに、この平坦面から外周側に向かうに従い、緩やかに中心軸線O方向先端側に傾斜した後、再び中心軸線Oに垂直な円環状の平坦面をなし、さらに外周側に向けて上記突条部4Cの先端面も含めて中心軸線O方向後端側に向かうように傾斜させられている。
【0029】
さらにまた、このパイロットビット4の先端面には、リングビット2と同様に超硬合金等の硬質材料よりなる多数の掘削チップ5が埋め込まれて突設されており、このうち先端面最外周の外周側に向けて中心軸線O方向後端側に向かうように傾斜した部分に突設された掘削チップ5は、ゲージチップ5Aとされている。そして、このゲージチップ5Aは、その中心線が傾斜した最外周の先端面に垂直となるように突設され、
図4に示すようにリングビット2の先端面内周側の平坦面に突設された掘削チップ3Aと上記中心軸線O回りの回転軌跡において重なり合うように配設されている。
【0030】
なお、パイロットビット4の先端面には、上記中央部から外周側に向けて突条部4Cと同数の溝部4Dが、中心軸線Oに対する半径方向に放射状に延びるように周方向に等間隔に形成されている。また、これらの溝部4Dの外周端は、パイロットビット4の先端部外周を中心軸線O方向に貫通するように周方向に等間隔に形成された、やはり突条部4Cと同数の繰り粉溝4Eにそれぞれ連通している。これらの繰り粉溝4Eは、周方向に隣接する突条部4Cの中間部分に位置して、上述のようにリングビット2がパイロットビット4に対して回転方向Tに係合するとともに中心軸線O方向先端側に係止された状態で、
図1に示すようにリングビット2の貫通溝2Aと対向させられる。
【0031】
一方、パイロットビット4内には、シャンク部4Aの後端から中心軸線Oに沿ってブロー孔4Fが先端部内に延びるように形成されており、このブロー孔4Fには掘削時に上記ハンマーHから圧縮空気等の繰り粉排出流体が供給される。さらに、このブロー孔4Fはパイロットビット4の先端部において先端外周側に向かうように複数(本実施形態では8つ)に分岐して、そのうち一部(4つ)は上記溝部4Dの内周側に開口するとともに、残り(4つ)はパイロットビット4外周の先段部において上記突条部4Cの回転方向T後方側に開口している。
【0032】
このような掘削工具は、上述のようにリングビット2がパイロットビット4に対して回転方向Tに係合するとともに中心軸線O方向先端側に係止された状態で、上記伝達部材およびハンマーHを介して回転方向Tへの回転力と中心軸線O方向先端側への推力が与えられるとともに、ハンマーHからは同じく中心軸線O方向先端側への打撃力が与えられることにより、これらリングビット2とパイロットビット4の先端面に突設された掘削チップ3、5によって岩盤等を破砕して掘削孔を形成する。
【0033】
また、ケーシングパイプ1は、その先端部内周の段差部1Bにパイロットビット4の段差部4Bが先端側に向けて当接しているので、こうして形成された掘削孔内にリングビット2およびパイロットビット4とともに挿入されてゆく。さらに、掘削中は上記ブロー孔4Fから噴出した繰り粉排出流体により、掘削屑(繰り粉)が繰り粉溝4Eおよび貫通溝2Aからケーシングパイプ1内を通って排出させられる。
【0034】
そして、上記構成の掘削工具においては、パイロットビット4の先端面最外周に突設されたゲージチップ5Aが、リングビット2の内周に突設された掘削チップ3Aと掘削時の軸線O回りの回転軌跡において重なり合っているので、ゲージチップ5Aによる掘削領域の一部を上記掘削チップ3Aによっても掘削することができ、パイロットビット4において最も大きくなるこのゲージチップ5Aへの負荷をリングビット2の上記掘削チップ3Aに分散させることができる。
【0035】
このため、ゲージチップ5Aの摩滅を抑制してパイロットビット4の寿命を延長することができ、所定の深さまで掘削孔が形成された後にパイロットビット4を上記伝達部材およびハンマーHごとケーシングパイプ1内から引き抜いて回収し、再び次の削孔を行うのに利用する場合に、より多くの回数使用することが可能となる。従って、パイロットビット4の本体やゲージチップ5Aを含めた掘削チップ5の有効利用を図ることができて効率的であるとともに、施工コストを削減することができる。
【0036】
また、本実施形態では、パイロットビット4の先端部外周に中心軸線O方向に延びる突条部4Cを形成するとともに、リングビット2の内周部にはこの突条部4Cを収容可能な凹溝部2Bを形成し、この凹溝部2Bに突条部4Cを収容することにより、リングビット2をパイロットビット4に対して掘削時の回転方向Tに係合させて中心軸線O回りに一体に回転可能としている。従って、掘削時のパイロットビット4とリングビット2の回転により、このように係合した状態を維持することができるので、掘削中に係合が解かれてリングビット2が脱落するような事態を防止することができる。
【0037】
そして、さらに本実施形態では、突条部4Cの先端部がパイロットビット4の先端面に連続しているとともに、凹溝部2Bはリングビット2の先端面に開口しており、パイロットビット4最外周のゲージチップ5Aはこの突条部4Cの先端部に突設されているとともに、リングビット2の最内周の掘削チップ3Aは周方向における凹溝部2Bの間のリングビット2先端部内周に突設され、すなわちリングビット2の上記先端面の周方向における凹溝部2Bの開口部の間に突設されている。このため、上述のような突条部4Cと凹溝部2Bによる掘削時のパイロットビット4とリングビット2の係合を損なうことなく、ゲージチップ5Aを掘削チップ3Aと上記回転軌跡で重なり合わせることができるので、一層効率的である。
【0038】
さらにまた、本実施形態では、リングビット2の内周部にn(nは1以上の整数で、本実施形態では4)条の凹溝部2Bを形成したときに、それぞれの凹溝部2Bの周方向の両端が上記中心軸線Oに対してなす中心角θが180/n±10(°)の範囲内(本実施形態では45±10(°)=35°〜55°)となるような周方向の幅に凹溝部2Bが形成されている。すなわち、リングビット2の内周部1周を凹溝部2Bの数で除した周方向の幅の略1/2が凹溝部2Bの幅となるので、一層確実に掘削時のパイロットビット4とリングビット2の係合を維持することが可能となる。
【0039】
ところで、本実施形態では、リングビット2がケーシングパイプ1(ケーシングトップ1A)とは間隔をあけてパイロットビット4と係合するようにされていて、ケーシングパイプ1に対しては中心軸線方向先端側に抜脱自在とされている。従って、所定の深さまで掘削孔が形成されて削孔が終了した後にパイロットビット4を掘削時の回転方向Tとは逆向きに回転させると突条部4Cが凹溝部2Bから貫通溝2Aの位置に移動し、この位置からパイロットビット4を伝達部材およびハンマーHごとケーシングパイプ1内から引き抜くと、リングビット2はパイロットビット4から外れるとともにケーシングパイプからも脱落して掘削孔内に残されることになる。
【0040】
このため、掘削孔からケーシングパイプ1も引き抜いて回収する場合には、ケーシングパイプ1よりも大径のリングビット2によって引き抜き時の抵抗が大きくなるのを防ぐことができる。また、特許文献1に記載された掘削工具のように、ケーシングパイプ1に対してリングビット2を中心軸線O回りに回転自在、かつ該中心軸線O方向には係止するとともに先端側には抜脱可能とする抜脱機構を備えた複雑な係止手段を要することもない。そして、このようにリングビット2がケーシングパイプ1に対しては抜脱自在とされていても、本実施形態では上述のような突条部4Cと凹溝部2Bの係合や、凹溝部2Bの中心角θによって、掘削中はリングビット2が脱落するのを確実に防ぐことができる。
【0041】
ただし、第1の実施形態では、こうしてリングビット2がケーシングパイプ1に対して抜脱自在とされているが、
図5ないし
図7に示す本発明の第2の実施形態のように、リングビット2がケーシングパイプ1に対して上記中心軸線O方向先端側に係止されていてもよい。なお、この第2の実施形態において、第1の実施形態と共通する部分には同一の符号を配してあり、特にケーシングトップ1Aを除いたケーシングパイプ1とパイロットビット4は第1の実施形態と共通である。
【0042】
すなわち、この第2の実施形態においては、ケーシングトップ1Aの先端部外周が第1の実施形態よりも先端側に延長されていて、この延長された先端部の内周には、中心軸線Oに沿った断面が該中心軸線O方向に延びる長方形状をなして中心軸線O回りに1周する環状溝1Cが形成されている。一方、リングビット2の後端部の外径は、この環状溝1Cを除いたケーシングトップ1Aの先端部内周に嵌挿可能な大きさに一段縮径させられ、この縮径した後端部の後端外周部には、上記環状溝1Cに収容可能な外径の係止凸部2Cが形成されている。
【0043】
なお、環状溝1Cは、その中心軸線O方向の長さが係止凸部2Cの中心軸線O方向の長さよりも長くなるように形成されている。また、係止凸部2Cはリングビット2の後端外周部を1周する突条であってもよく、周方向に点在する突起であってもよい。さらに、この第2の実施形態のリングビット2の先端部外周には、周方向に間隔をあけて複数の凹部2Dが形成されている。また、リングビット2の先端面のうち最内周部は外周側に向かうに従い中心軸線O方向先端側に向かうように緩やかに傾斜しており、この最内周部に垂直に突設されてパイロットビット4のゲージチップ5Aと回転軌跡が重なり合う掘削チップ3Aは、その中心線が中心軸線O方向先端側に向かうに従い僅かに内周側に傾斜することになる。
【0044】
このような第2の実施形態においては、
図6および
図7に示すように係止凸部2Cが環状溝1Cに収容されてリングビット2の後端部がケーシングトップ1Aの先端部内周に嵌挿されることにより、リングビット2はケーシングトップ1Aおよびケーシングパイプ1に対して中心軸線O回りに回転自在、かつ該中心軸線O方向先端側には係止されることになる。このため、第1の実施形態と同じく掘削孔が形成されてからパイロットビット4を引き抜いたときにリングビット2が掘削孔に脱落することがなく、ケーシングパイプ1を掘削孔から引き抜くことによってリングビット2も回収することができるので、このリングビット2の再利用を図ることも可能となって、さらに一層効率的である。
【0045】
ただし、これら第1、第2の実施形態では、上述のようにケーシングパイプ1を掘削孔から引き抜いて回収するようにしているが、リングビット2とともにケーシングパイプ1も掘削孔内に残したまま、パイロットビット4だけを回収するようにしてもよい。また、第2の実施形態においても、特許文献1に記載された掘削工具と同様の抜脱機構を備えることにより、ケーシングパイプ1に係止されたリングビット2を抜脱して掘削孔内に残すようにしてもよい。