(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6308010
(24)【登録日】2018年3月23日
(45)【発行日】2018年4月11日
(54)【発明の名称】周期分極反転用電極、周期分極反転構造の形成方法及び周期分極反転素子
(51)【国際特許分類】
G02F 1/37 20060101AFI20180402BHJP
【FI】
G02F1/37
【請求項の数】11
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-101994(P2014-101994)
(22)【出願日】2014年5月16日
(65)【公開番号】特開2015-219335(P2015-219335A)
(43)【公開日】2015年12月7日
【審査請求日】2016年8月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(72)【発明者】
【氏名】井上 和哉
(72)【発明者】
【氏名】徳田 勝彦
(72)【発明者】
【氏名】久光 守
(72)【発明者】
【氏名】門倉 一智
(72)【発明者】
【氏名】西 亮祐
【審査官】
林 祥恵
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−268547(JP,A)
【文献】
特開平09−269517(JP,A)
【文献】
特開2003−307758(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2003/0179439(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2006/0018599(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/29−1/39
G02B 6/12−6/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
強誘電体結晶基板の内部に分極方向が周期的に反転する周期分極反転構造を形成するための周期分極反転用電極であって、
前記強誘電体結晶基板の分極方向と垂直な+Z面上に配置され、電気的に相互に接続され且つ周期的に互いに平行に延伸するストライプ状の複数の反転用電極を有する表面電極と、
前記+Z面と対向する前記強誘電体結晶基板の−Z面上に配置され、前記+Z面から見て前記反転用電極の延伸する延伸方向に対して斜めに延伸する分割領域によって複数の領域に分割された裏面電極と
を備え、
前記分割領域によって分割された領域間の前記延伸方向に沿った距離が、前記周期分極反転構造を形成する電圧を前記表面電極と前記裏面電極との間に印加した時に前記裏面電極が配置されていない領域において前記強誘電体結晶基板の内部で抗電界以上の電界が生じる距離よりも短く設定され、
前記表面電極との間で前記裏面電極の分割された前記複数の領域それぞれに独立して前記電圧が印加されて、前記周期分極反転構造が形成されることを特徴とする周期分極反転用電極。
【請求項2】
前記反転用電極が前記強誘電体結晶基板のY軸方向に延伸していることを特徴とする請求項1に記載の周期分極反転用電極。
【請求項3】
前記延伸方向と前記分割領域の延伸する方向とのなす角度が30度以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の周期分極反転用電極。
【請求項4】
強誘電体結晶基板の内部に分極方向が周期的に反転する周期分極反転構造を形成する方法であって、
電気的に相互に接続され且つ周期的に互いに平行に延伸するストライプ状の複数の反転用電極を有する表面電極を、前記強誘電体結晶基板の分極方向と垂直な+Z面上に配置するステップと、
前記+Z面から見て前記反転用電極の延伸する延伸方向に対して斜めに延伸する分割領域によって複数の領域に分割された裏面電極を、前記+Z面と対向する前記強誘電体結晶基板の−Z面上に配置するステップと、
前記表面電極との間で前記裏面電極の分割された前記複数の領域それぞれに独立して電圧を印加して、前記複数の反転用電極の下方の前記強誘電体結晶基板の内部に分極反転構造を形成するステップと
を含み、
前記分割領域によって分割された領域間の前記延伸方向に沿った距離が、前記電圧を印加した時に前記裏面電極が配置されていない領域において前記強誘電体結晶基板の内部で抗電界以上の電界が生じる距離よりも短く設定されていることを特徴とする周期分極反転構造の形成方法。
【請求項5】
前記反転用電極が前記強誘電体結晶基板のY軸方向に延伸していることを特徴とする請求項4に記載の周期分極反転構造の形成方法。
【請求項6】
前記延伸方向と前記分割領域の延伸する方向とのなす角度が30度以上であることを特徴とする請求項4又は5に記載の周期分極反転構造の形成方法。
【請求項7】
前記裏面電極の分割された前記複数の領域に前記電圧を順次印加することを特徴とする請求項4乃至6のいずれか1項に記載の周期分極反転構造の形成方法。
【請求項8】
強誘電体結晶基板を備え、
前記強誘電体結晶基板の内部に、前記強誘電体結晶基板の分極方向と垂直な+Z面から見て周期的に互いに平行に延伸するストライプ状の複数の分極反転領域が形成され、
前記+Z面の近傍において、前記複数の分極反転領域のそれぞれが延伸方向に連続して形成され、
前記+Z面と対向する前記強誘電体結晶基板の−Z面の近傍において、前記複数の分極反転領域のうちの少なくともいくつかが、前記+Z面の近傍において前記延伸方向に連続して形成された領域と対向する領域において、分極反転されていない領域によって分割されていることを特徴とする周期分極反転素子。
【請求項9】
前記分極反転領域が前記強誘電体結晶基板のY軸方向に延伸していることを特徴とする請求項8に記載の周期分極反転素子。
【請求項10】
前記+Z面から見て、隣接する前記分極反転領域それぞれの前記分極反転されていない領域により分割された位置をつなぐ仮想線の延伸する方向と前記分極反転領域の延伸する方向とのなす角度が30度以上であることを特徴とする請求項8又は9に記載の周期分極反転素子。
【請求項11】
前記強誘電体結晶基板の前記分極反転されていない領域の幅が前記−Z面から前記+Z面に向かって次第に狭くなり、前記+Z面の近傍において前記分極反転領域が前記延伸方向に連続していることを特徴とする請求項8乃至10のいずれか1項に記載の周期分極反転素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強誘電体結晶基板を用いた周期分極反転用電極、周期分極反転構造の形成方法及び周期分極反転素子に関する。
【背景技術】
【0002】
所望の波長のレーザ光を得るための波長変換や空間光変調などの用途に、強誘電体結晶基板の内部に分極方向が周期的に反転する周期分極反転構造を形成した周期分極反転素子が用いられている。例えば、入射するレーザ光と擬似位相整合することによって、周期分極反転素子は2次高調波である波長のレーザ光を出力することができる。このため、周期分極反転素子は、例えば擬似位相整合(QPM)型の波長変換素子などとして使用される。
【0003】
周期分極反転構造の形成には、強誘電体結晶基板の表面に一定の間隔で配置した周期分極反転用電極に電圧を印加する電圧印加方法などが用いられる。例えば、強誘電体結晶基板の分極方向に垂直な+Z面に周期的に配置したストライプ状電極と、強誘電体結晶基板の−Z面に一様に配置した平面電極との間に所定の電圧を印加する。これにより、ストライプ状電極の直下に分極反転が生じ、強誘電体結晶基板の内部に周期分極反転構造が形成される(例えば特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−147584号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、強誘電体結晶基板が大型化して平面電極の面積が増大した場合には、平面電極への電圧印加時に強誘電体結晶基板内に生じる電界の面内分布にバラツキが発生する。その結果、周期分極反転構造が面内で不均一になるという問題があった。
【0006】
上記問題点に鑑み、本発明は、強誘電体結晶基板の内部に均一な周期の分極反転構造を形成できる周期分極反転用電極、周期分極反転構造の形成方法及び周期分極反転素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様によれば、強誘電体結晶基板の内部に分極方向が周期的に反転する周期分極反転構造を形成するための周期分極反転用電極であって、(ア)強誘電体結晶基板の分極方向と垂直な+Z面上に配置され、電気的に相互に接続され且つ周期的に互いに平行に延伸するストライプ状の複数の反転用電極を有する表面電極と、(イ)+Z面と対向する強誘電体結晶基板の−Z面上に配置され、+Z面から見て反転用電極の延伸する延伸方向に対して斜めに延伸する分割領域によって複数の領域に分割された裏面電極とを備え、
分割領域によって分割された領域間の延伸方向に沿った距離が、周期分極反転構造を形成する電圧を表面電極と裏面電極との間に印加した時に裏面電極が配置されていない領域において強誘電体結晶基板の内部で抗電界以上の電界が生じる距離よりも短く設定され、表面電極との間で裏面電極の分割された複数の領域それぞれに独立して電圧が印加されて、周期分極反転構造が形成される周期分極反転用電極が提供される。
【0008】
本発明の他の態様によれば、強誘電体結晶基板の内部に分極方向が周期的に反転する周期分極反転構造を形成する方法であって、(ア)電気的に相互に接続され且つ周期的に互いに平行に延伸するストライプ状の複数の反転用電極を有する表面電極を、強誘電体結晶基板の分極方向と垂直な+Z面上に配置するステップと、(イ)+Z面から見て反転用電極の延伸する延伸方向に対して斜めに延伸する分割領域によって複数の領域に分割された
裏面電極を、+Z面と対向する強誘電体結晶基板の−Z面上に配置するステップと、(ウ)表面電極との間で裏面電極の分割された複数の領域それぞれに独立して電圧を印加して、複数の反転用電極の下方の強誘電体結晶基板の内部に分極反転構造を形成するステップとを含
み、分割領域によって分割された領域間の延伸方向に沿った距離が、電圧を印加した時に裏面電極が配置されていない領域において強誘電体結晶基板の内部で抗電界以上の電界が生じる距離よりも短く設定されている周期分極反転構造の形成方法が提供される。
【0009】
本発明の更に他の態様によれば、強誘電体結晶基板を備え、強誘電体結晶基板の内部に、強誘電体結晶基板の分極方向と垂直な+Z面から見て周期的に互いに平行に延伸するストライプ状の複数の分極反転領域が形成され、+Z面の近傍において複数の分極反転領域のそれぞれが
延伸方向に連続して形成され、+Z面と対向する強誘電体結晶基板の−Z面の近傍において
、複数の分極反転領域のうちの少なくともいくつかが
、+Z面の近傍において延伸方向に連続して形成された領域と対向する領域において、分極反転されていない領域によって分割されている周期分極反転素子が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、強誘電体結晶基板の内部に均一な周期の分極反転構造を形成できる周期分極反転用電極、周期分極反転構造の形成方法及び周期分極反転素子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態に係る周期分極反転用電極の構成を示す模式的な斜視図であり、
図1(a)は全体を示し、
図1(b)は裏面電極を示す。
【
図2】本発明の実施形態に係る周期分極反転用電極の構成を示す模式図であり、
図2(a)は平面図、
図2(b)は
図2(a)のII−II方向に沿った断面図である。
【
図3】分極反転構造が形成される領域を示す模式図であり、
図3(a)は平面図、
図3(b)は
図3(a)のIII−III方向に沿った断面図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る周期分極反転用電極を用いた分極反転後の状態を示す写真である。
【
図5】本発明のその他の実施形態に係る周期分極反転用電極の構成を示す模式的な平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判断すべきものである。又、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることはもちろんである。
【0013】
又、以下に示す実施形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明の実施形態は、構成部品の材質、形状、構造、配置などを下記のものに特定するものでない。この発明の実施形態は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
【0014】
本発明の実施形態に係る周期分極反転用電極10は、強誘電体結晶基板20の内部に分極方向が周期的に反転する周期分極反転構造を形成するための周期分極反転用電極である。周期分極反転用電極10は、
図1(a)に示すように、強誘電体結晶基板20の分極方向と垂直な+Z面21上に配置された表面電極11と、+Z面21と対向する強誘電体結晶基板20の−Z面22上に配置された裏面電極12とを備える。
【0015】
表面電極11は、電気的に相互に接続され且つ周期的に互いに平行に延伸するストライプ状の複数の反転用電極111を有する。反転用電極111の延伸する方向を、以下において「延伸方向」という。
図1(a)に示した表面電極11は梯子形状であり、反転用電極111の両端に給電部112が配置されている。複数の反転用電極111は、給電部112によって電気的に接続されている。
【0016】
強誘電体結晶基板20の反転用電極111直下の領域が分極反転する。このため、反転用電極111の幅w、及び隣接する反転用電極111間の間隔dは、強誘電体結晶基板20の分極反転させる領域に応じて設定される。例えば、周期分極反転素子を擬似位相整合(QPM)型の波長変換素子として使用する場合は、波長変換素子に入射されるレーザ光の波長及び出力されるレーザ光の波長に応じて、強誘電体結晶基板20の分極反転させる領域の幅w及び間隔dが適宜設定される。
【0017】
裏面電極12は、+Z面21から見て反転用電極111の延伸方向に対して斜めに延伸する分割領域120によって、
図1(b)に示すように複数の領域121〜122に分割されている。
図2(a)に示すように、分割領域120の延伸する方向と垂直な分割領域120の幅を「幅A」とする。また、反転用電極111の延伸方向と分割領域120の延伸する方向とのなす角度を「角度θ」とする。
【0018】
ここで、分割領域120によって分割された領域121と領域122間の、反転用電極111の延伸方向に沿った間隔を「距離Dy」とする。距離Dyは、Dy=A/sinθで表される。
【0019】
強誘電体結晶基板20の内部に周期分極反転構造を形成するために表面電極11と裏面電極12間に電圧を印加した場合に、裏面電極12の面積が広いほど強誘電体結晶基板内に生じる電界の面内分布はバラツキが大きい。その結果、周期分極反転構造が面内で均一にならず、所望の特性の周期分極反転素子が得られない。
【0020】
しかし、
図1(a)、
図1(b)に示した周期分極反転用電極10では、裏面電極12が複数の領域121〜122に分割されている。そして、表面電極11との間で裏面電極12の分割された領域121〜122それぞれに独立して電圧が印加される。つまり、電圧が印加される面積が小さい。このため、電界の面内分布のバラツキが抑制される。したがって、強誘電体結晶基板20が大型である場合にも、周期分極反転構造を面内で均一にすることができる。
【0021】
上記効果を得るためには、分割領域120の幅Aは、領域121と領域122のいずれかと表面電極11との間に印加電圧Vが印加されたときに、領域121と領域122間を電気的に絶縁できる距離に設定される。つまり、分割領域120の幅Aは、印加電圧Vの大きさに依存する。本発明者らの検討によれば、例えば印加電圧Vが数kVである場合に、分割領域120の幅Aが80μm以上であればよい。
【0022】
一方、分極反転する領域が延伸方向に連続するように、以下のように距離Dyは一定の距離以下に設定される。即ち、印加電圧Vを印加した際に表面電極11と裏面電極12に挟まれた領域を越えて、裏面電極12が配置されていない領域にも分極反転構造が形成される現象を利用する。この現象は、
図3(a)、
図3(b)にグレーで示した領域Eのように、裏面電極12が配置されていない領域にも、分極の向きを反転させる抗電界以上の電界が発生するために生じる。以下において、延伸方向に反転用電極111の端部よりも外側に形成される分極反転構造の延伸方向に沿った距離を「距離Ly」とする。このとき、Dy≦2×Lyとなるよう距離Dyを設定することによって、分極反転構造が延伸方向に連続する。即ち、領域121と領域122間の距離Dyは、裏面電極12が配置されていない領域において強誘電体結晶基板20の内部で延伸方向に抗電界以上の電界が生じる距離よりも短く設定される。
【0023】
なお、
図3(a)に示したように、強誘電体結晶基板20の特にY軸方向において、距離Lyが長い。したがって、
図2(a)に示したように、反転用電極111の延伸方向をY軸方向にすることが好ましい。これにより、より確実に分極反転構造を延伸方向に連続させることができる。本発明者らの調査によれば、強誘電体結晶基板20の材料や印加電圧Vなどに依存するが、Y軸方向の距離Lyは数十μm〜数百μmである。
【0024】
ただし、−Z面21の近傍では、表面電極11と裏面電極12に挟まれていない領域での分極反転構造の延伸する距離が小さい。このため、
図3(b)に示すように、裏面電極12の直上にしか分極反転構造が形成されない。つまり、−Z面21の近傍には分極反転されていない領域Bが残り、この領域Bによって分極反転領域が分割される。しかし、分割領域120の上方に配置されていない分極反転領域では、−Z面21の近傍においても分極反転領域は連続する。
【0025】
なお、Dy=A/sinθの関係から、距離Dyを小さくするために角度θは大きいほど好ましい。しかし、θが90度であると領域121〜122の面積が大きくなり、電界の面内分布のバラツキを抑制する効果が得られない。一方、角度θが0度であると、分割領域120の幅Aが分極反転構造の周期よりも一般的に長いために、分割領域120が形成された領域で分極反転されない領域の幅が広くなる。つまり、周期分極反転構造が連続して形成されない。
【0026】
このため、角度θは例えば10度〜80度に設定される。より好ましくは、角度θは30度以上であり、例えば30度〜70度程度である。また、本発明者らの検討によれば、裏面電極12の分割された領域間を電気的に絶縁し、且つ、分極反転構造を連続させるためには、分割領域120の幅Aは80μm〜600μm程度であることが好ましい。
【0027】
ところで、強誘電体結晶基板20は、例えばタンタル酸リチウム(LT)単結晶やニオブ酸リチウム(LN)単結晶などからなる。強誘電体結晶基板20の厚みは、例えば0.4〜1mm程度である。強誘電体結晶基板20の材料及び厚さなどに応じて、印加電圧Vの大きさが設定される。したがって、分割領域120の幅A、角度θは、強誘電体結晶基板20の材料及び厚さに依存する。
【0028】
強誘電体結晶基板20に採用するタンタル酸リチウム(LiTaO
3)単結晶やニオブ酸リチウム(LiNbO
3)単結晶は、コングルエント組成(一致溶融組成)又はストイキオメトリ組成(化学量論的組成)のものが用いられる。例えば、タンタル酸リチウムの場合、ストイキオメトリ組成にすることによって、抗電界が10分の1程度になる。つまり、印加電圧Vを10分の1にすることができる。
【0029】
また、タンタル酸リチウム単結晶やニオブ酸リチウム単結晶からなる強誘電体結晶基板20に、マグネシウム(Mg)や亜鉛(Zn)、スカンジウム(Sc)、インジウム(In)などが添加されていてもよい。これにより、耐光損傷性を高めることができる。また、ニオブ酸リチウムの場合、Mgを5モル%程度添加することにより、抗電界を4分の1程度に減少することができる。これにより、印加電圧Vを4分の1程度にすることができる。
【0030】
周期分極反転用電極10には、例えばタンタル(Ta)膜やアルミニウム(Al)膜などが採用可能である。他にも、金(Au)膜、銀(Ag)膜、クロム(Cr)膜、銅(Cu)膜、ニッケル(Ni)膜、ニッケルクロム合金(Ni-Cr)膜、パラジウム(Pd)膜、モリブデン(Mo)膜、タングステン(W)膜なども使用可能である。
【0031】
表面電極11は、例えば、強誘電体結晶基板20の+Z面21上に形成されたTa膜をフォトリソグラフィ技術とエッチング技術などを用いてパターニングすることにより形成される。
【0032】
裏面電極12には、例えばTa膜やAl膜などの金属膜が採用可能である。例えば、強誘電体結晶基板20の−Z面22上に一様に金属膜を形成した後、フォトリソグラフィ技術とエッチング技術などを用いて分割領域120を形成する。また、リフトオフ法によって分割領域120を形成してもよい。或いは、ダイサーによって分割領域120を形成してもよいが、この場合には強誘電体結晶基板20の−Z面22にダイサーによって削られた溝が形成されやすい。
【0033】
以下に、周期分極反転用電極10を用いた分極反転構造の形成について説明する。ここでは、強誘電体結晶基板20としてMgOがドープされたニオブ酸リチウム基板を使用した。また、反転用電極111の延伸方向を、強誘電体結晶基板20のY軸方向とした。つまり、反転用電極111をX軸方向に周期的に配列した。更に、分割領域120の幅Aは80μmとし、Y軸方向と分割領域120の延伸する方向とのなす角度は45度に設定した。
【0034】
先ず、
図1(a)に示したような、反転用電極111と給電部112を有する梯子形状の表面電極11を、強誘電体結晶基板20の+Z面21上に配置する。更に、分割領域120によって複数の領域に分割された裏面電極12を、強誘電体結晶基板20の−Z面22上に配置する。
【0035】
その後、表面電極11との間で裏面電極12の分割された複数の領域それぞれに独立して印加電圧Vを印加して、強誘電体結晶基板20の内部に分極反転構造を形成する。例えば、裏面電極12の分割された複数の領域に印加電圧Vを順次印加する。
【0036】
即ち、先ず+Z面21上に配置された表面電極11の給電部112と−Z面22上に配置された裏面電極12の領域121間に、印加電圧Vを印加する。これにより、反転用電極111と領域121間に分極反転構造が形成される。このとき、反転用電極111の端部の外側下方に距離Dyの分極反転構造(以下において、「第1の延伸領域」という。)が形成される。
【0037】
次いで、表面電極11の給電部112と裏面電極12の領域122間に、印加電圧Vを印加する。これにより、反転用電極111と領域122間に分極反転構造が形成される。このとき、反転用電極111の端部の外側下方に距離Dyの分極反転構造(以下において、「第2の延伸領域」という。)が形成される。
【0038】
領域121と領域122を用いて分極反転構造を形成した結果、領域121に電圧印加した際に形成された第1の延伸領域と、領域122に電圧印加した際に形成された第2の延伸領域とが、分割領域120において連結する。その結果、強誘電体結晶基板20内部の少なくとも+Z面21の近傍において、分極反転領域のそれぞれが延伸方向に連続して形成される。
【0039】
一方、分割領域120の上方に形成された分極反転領域では、
図3(b)に示したように、−Z面22の近傍において分極反転されていない領域Bを含む。隣接する分極反転領域それぞれの分極反転されていない領域をつなぐ仮想線は、分割領域120に沿って延伸する。反転用電極111の延伸方向と分割領域120の延伸する方向とのなす角度を45度に設定したため、この仮想線の延伸する方向と分極反転領域の延伸する方向とのなす角度は、45度である。
【0040】
分極反転領域の形成後、強誘電体結晶基板20から表面電極11及び裏面電極12を剥離し、周期分極反転素子が完成する。なお、強誘電体結晶基板20の不要な部分を切断除去することによって、周期分極反転構造が形成された領域のみが残るように周期分極反転素子を成形してもよい。
【0041】
上記のように、本発明の実施形態に係る周期分極反転構造の形成方法では、−Z面22近傍に分極反転されていない領域が残る。このため、強誘電体結晶基板20の+Z面21近傍だけを用いる導波路型波長変換素子や導波路型空間光変調器として、上記方法により形成される周期分極反転素子は好適に使用される。
【0042】
図4に、上記の周期分極反転構造の形成方法により試作した周期分極反転素子の例を示す。分極反転構造が、X軸方向に一定の周期で形成されている。なお、
図4の中央付近の黒い部分は、分割領域120をダイサーにより形成したことによって強誘電体結晶基板20の−Z面22に溝が形成されていることによる。分割領域120の上方にも、分極反転構造が連続して形成されていることがわかる。
【0043】
以上に説明したように、本発明の実施形態に係る周期分極反転用電極10を用いた周期分極反転構造の形成方法では、−Z面22上に配置される裏面電極12を分割して小面積の領域とし、各領域のそれぞれにおいて順次分極反転構造を形成する。このため、電界の面内分布のバラツキが抑制され、大型の強誘電体結晶基板20内に均一な周期で分極反転構造を形成できる。例えば、多チャンネルの空間光変調器や、周期パターン数を多く必要とする大型の波長変換素子などに用いる分極反転構造の形成に、周期分極反転用電極10を好適に用いることができる。
【0044】
更に、裏面電極12を分割した各領域間の距離Dyが、表面電極11と裏面電極12に挟まれていない領域で反転用電極111の延伸方向に抗電界以上の電界が生じる距離よりも短く設定されている。このため、反転用電極111の一方の端部から他方の端部まで分極反転構造が連続して形成される。
【0045】
(その他の実施形態)
上記のように、本発明は実施形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【0046】
上記では、裏面電極12を2分割する場合を例示的に説明したが、裏面電極12の分割数は、形成する周期分極反転構造の大きさなどに応じて任意に設定可能であり、3分割以上に分割してもよいことはもちろんである。例えば、
図5に示すように、分割領域120によって裏面電極12を領域121〜124に4分割してもよい。
【0047】
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施形態等を含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【符号の説明】
【0048】
10…周期分極反転用電極
11…表面電極
12…裏面電極
20…強誘電体結晶基板
21…裏面電極
21…+Z面
22…−Z面
111…反転用電極
112…給電部
120…分割領域