(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態を図面を参照して説明する。
【0017】
図1は本発明の蓄熱システムの実施の一形態を示すものである。
【0018】
本発明の蓄熱システム1で用いる蓄熱槽2は、槽内の外周寄り位置に、周方向に延びる隔壁3を備えて、該隔壁3によって仕切られた内側の領域を内槽4とし、外側の領域を外槽5とした構成としてある。
【0019】
前記内槽4には、予め設定される蓄熱温度範囲(T
min<T<T
max)において固相と液相との間で相変化を生じ、且つ固相の密度が液相の密度よりも大となる相変化用蓄熱材6が充填されている。
図1では、前記相変化用蓄熱材6の固相には、ハッチングを付して示してある。なお、この相変化用蓄熱材6の詳細については後述する。
【0020】
前記外槽5には、前記蓄熱温度範囲(T
min<T<T
max)で常時固相となる固体蓄熱材7が、小片の状態で充填されている。前記固体蓄熱材7としては、たとえば、マグネシアを用いるようにすればよい。これにより、前記外槽5には、前記固体蓄熱材7の顕熱を利用した蓄熱を行うと共に、該固体蓄熱材7の比熱の大きさを利用して前記内槽4の保温を行うための蓄熱兼保温層8を形成させる。
【0021】
前記隔壁3には、内外方向に貫通して前記内槽4と外槽5とを連通させる複数の連通孔9が、上下方向及び周方向に配列して設けられている。この連通孔9のサイズは、前記固体蓄熱材7の小片のサイズよりも小さく設定して、前記相変化用蓄熱材6の液相の通過は許容する一方、前記固体蓄熱材7の通過は阻止するようにしてある。
【0022】
これにより、前記蓄熱槽2では、前記内槽4に充填された相変化用蓄熱材6の液相の一部が、前記隔壁3の連通孔9を通過して外槽5に移動する。このため、前記外槽5では、充填されている前記固体蓄熱材7の小片同士の隙間に、前記相変化用蓄熱材6の液相が満たされる。この状態の固体蓄熱材7では、小片同士の隙間に前記相変化用蓄熱材6の液相が存在することにより、該小片同士の間の熱抵抗が低減される。
【0023】
更に、前記蓄熱槽2では、前記相変化用蓄熱材6の一部が、前記外槽5内の固体蓄熱材7に直接接しているため、前記相変化用蓄熱材6と固体蓄熱材7との相互の熱伝達の効率は高いものとなる。
【0024】
前記蓄熱槽2の下端部には、蓄熱のための加熱を行うための板状の加熱手段として、ホットプレート10が、内槽4及び外槽5の下方に一連に設けられている。
【0025】
このホットプレート10は、前記内槽4の内底面、及び、外槽5の内底面をフラットな面として形成するためのプレート部材11と、該プレート部材11の下側に設けた加熱手段とから構成されている。
【0026】
前記プレート部材11を備える構成とするのは、蓄熱槽2の温度低下時に前記内槽4内で生じて沈降する相変化用蓄熱材6の固相を、前記プレート部材11の上側に分散させて堆積させ、この堆積物の荷重を、前記プレート部材11の面で分散して受けることが好ましいためである。
【0027】
前記ホットプレート10の加熱手段は、たとえば、前記プレート部材11の下側に、加熱用熱媒13を流通させる熱媒流路12を設けた構成としてある。この熱媒流路12は、前記加熱用熱媒13の有する熱により前記プレート部材11の全面をできるだけ均等に加熱できるように、該プレート部材11の面内での加熱用熱媒13の流通経路の配置、形状、流路断面積等を適宜設定してよいことは勿論である。なお、
図1では、図示する便宜上、前記熱媒流路12における加熱用熱媒13の流通経路は簡略化した記載としてある。
【0028】
前記熱媒流路12の上流側端部には、外部の図示しない加熱用熱媒供給手段より加熱用熱媒13を導くための加熱用熱媒供給ライン14が接続されている。又、前記熱媒流路12の下流側端部には、該熱媒流路12を流通した後の加熱用熱媒13を、前記加熱用熱媒供給手段へ戻すための加熱用熱媒戻しライン15が接続されている。更に、前記加熱用熱媒供給手段は、太陽熱発電の集熱部のような熱源(図示せず)の熱を前記加熱用熱媒13に与えて加熱するための熱交換部を備えているものとする。
【0029】
前記加熱用熱媒13は、前記蓄熱温度範囲(T
min<T<T
max)の全域、更には、それよりもやや高い温度域まで液相となる熱媒を選定して用いるか、あるいは、スチームを用いるようにすればよい。
【0030】
これにより、前記ホットプレート10の熱媒流路12には、前記加熱用熱媒供給手段より、加熱された加熱用熱媒13を循環供給することができる。したがって、前記ホットプレート10では、加熱された状態で前記熱媒流路12に順次供給される前記加熱用熱媒13の有する熱により前記プレート部材11を介して、前記内槽4内の相変化用蓄熱材6と、前記外槽5内の固体蓄熱材7及び相変化用蓄熱材6とを、下方から加熱することができるようにしてある。
【0031】
前記内槽4内の上部位置には、熱取出用の伝熱管16が、前記相変化用蓄熱材6に没入する配置で設けられている。前記伝熱管16は、図示しない支持部材を介して、前記内槽4の壁面や蓄熱槽2の天井部より支持されているものとする。
【0032】
前記伝熱管16における前記相変化用蓄熱材6に接する表面(外面)は、ガラスにより構成されていることが望ましい。かかる構成としてある伝熱管16によれば、後述するように該伝熱管16の周囲で凝固して生じる前記相変化用蓄熱材6の固相が、該伝熱管16の表面に付着することを抑制できる。
【0033】
前記伝熱管16の上流側端部には、外部の図示しない熱取出用熱媒供給手段より熱取出用熱媒17を導くための熱取出用熱媒供給ライン18が接続されている。又、前記伝熱管16の下流側端部には、該伝熱管16を流通した後の熱取出用熱媒17を、前記熱取出用熱媒供給手段へ戻すための熱取出用熱媒戻しライン19が接続されている。更に、前記熱取出用熱媒供給手段は、前記熱取出用熱媒17の有する熱を、所望の熱負荷(図示せず)へ与えるための熱交換部を備えているものとする。
【0034】
これにより、前記伝熱管16には、前記熱取出用熱媒供給手段より熱取出用熱媒17を循環供給することができる。したがって、前記伝熱管16内を流通する熱取出用熱媒17は、該伝熱管16の周囲に存在している前記相変化用蓄熱材6との熱交換により順次加熱されるようになり、この加熱状態で前記熱取出用熱媒供給手段に回収される前記熱取出用熱媒17の保有する熱が、前記熱負荷へ与えられるようにしてある。
【0035】
前記のように、伝熱管16内を流通する熱取出用熱媒17が、該伝熱管16の周囲に存在している相変化用蓄熱材6との熱交換により加熱されるときには、前記伝熱管16の周囲に存在している相変化用蓄熱材6は、相対的に温度低下する。この相変化用蓄熱材6の温度低下が、液相と固相との相変化温度で生じると、
図1に示すように、前記伝熱管16の周囲では、前記相変化用蓄熱材6が液相より凝固して固相が生じる。この相変化用蓄熱材6の固相は、液相よりも密度が大きいために、該液相中を沈降するようになる。
【0036】
前記内槽4内では、その上部位置にのみ前記伝熱管16を設けた構成としてあるので、該伝熱管16の周囲に温度低下した前記相変化用蓄熱材6の固相が生じても、該固相は沈降して、前記内槽4の底部に設けてある前記ホットプレート10の上側に堆積される。
【0037】
したがって、前記内槽4内では、前記伝熱管16の周囲に前記相変化用蓄熱材6の固相が留まることはなく、該伝熱管16の周囲には、前記相変化温度よりも高い温度を有する相変化用蓄熱材6の液相が継続的に供給されるようになる。このため、前記相変化用蓄熱材6と、前記伝熱管16内を流通させる熱取出用熱媒17との間の熱伝達の効率が低下することを抑制することができる。
【0038】
前記隔壁3には、該隔壁3の温度を上昇させるための隔壁用ヒータ20が設けられている。
【0039】
前記隔壁用ヒータ20は、前記隔壁3における連通孔9と干渉しない個所の外周面、又は、内周面に、該隔壁3の上下方向の全長に亘り延びるよう取り付けられている。なお、
図1では、前記隔壁3の外周面に、前記隔壁用ヒータ20を設けた構成が示してある。
【0040】
又、前記隔壁用ヒータ20は、たとえば、電気ヒータを用いるようにすればよい。あるいは、前記隔壁用ヒータ20は、前記ホットプレート10と同様に、スチームやその他の液相の熱媒を流通させる熱媒流路を備えた構成のヒータとしてもよい。
【0041】
更に、前記隔壁用ヒータ20は、前記ホットプレート10による内槽4及び外槽5の加熱時、すなわち、蓄熱槽2への蓄熱時に、該隔壁用ヒータ20による隔壁3の加熱も同期して行われるように制御されるものとしてある。
【0042】
前記隔壁用ヒータ20による前記隔壁3の加熱温度は、前記相変化用蓄熱材6が液相になる温度に設定してあるものとする。
【0043】
これにより、前記ホットプレート10による内槽4の加熱時には、該内槽4内にて前記ホットプレート10の上側に堆積している前記相変化用蓄熱材6の固相が、下方から加熱されて、先ず、該ホットプレート10の上面に接している部分から溶融して液相となる。
【0044】
このとき、前記隔壁用ヒータ20を同時に運転することにより、前記内槽4内では、隔壁3の内周面近傍に存在している相変化用蓄熱材6の固相を溶融させて、液相にさせることができる。このため、前記ホットプレート10上の相変化用蓄熱材6の固相の堆積物は、前記隔壁3の内周面への固着が解消される。更に、前記ホットプレート10の上面に接している部分で生じる前記相変化用蓄熱材6の液相は、該隔壁3の内周面に沿う位置で流動させて、前記相変化用蓄熱材6の固相の堆積物の上方へ移動させることができる。
【0045】
その結果、前記内槽4内では、相変化用蓄熱材6の固相の堆積物を、自重により前記ホットプレート10の上面に押し付けることができ、その際、該ホットプレート10の上面と前記堆積物との間に形成される相変化用蓄熱材6の液相の層を薄くすることができる。これにより、前記ホットプレート10から前記相変化用蓄熱材6の固相への熱伝達の効率を高めることができるようにしてある。
【0046】
又、前記ホットプレート10による外槽5の加熱時には、該外槽5内の固体蓄熱材7及び相変化用蓄熱材6は、前記ホットプレート10に近い下端寄りに存在するものから温度が上昇するようになり、外槽5内に相変化用蓄熱材6の固相が存在していた場合は、その溶融が下方側から生じるようになる。
【0047】
このとき、前記隔壁用ヒータ20を同時に運転することにより、前記内槽4内と同様に、外槽5内では、隔壁3の外周面近傍に存在している相変化用蓄熱材6の固相を溶融させて、液相にさせることができる。このため、前記外槽5内の下方側での相変化用蓄熱材6の固相の溶融によって生じる液相は、前記隔壁3の外周面に沿う位置で流動させて、上方へ移動させることができ、更には、前記隔壁3の連通孔9を通して内槽4内へ移動させることもできる。
【0048】
このため、前記外槽5に充填された固体蓄熱材7の小片同士の隙間に存在している前記相変化用蓄熱材6に、固相から液相への相変化に伴って体積膨張が生じるとしても、その体積変化分は、前記相変化用蓄熱材6の液相の流動(移動)によって容易に吸収させることができる。したがって、前記外槽5内の固体蓄熱材7及び相変化用蓄熱材6の加熱時に、前記蓄熱槽2や隔壁3に対して局所的に過大な圧力が作用する虞は、防止できるようにしてある。
【0049】
更に、不測の事態により、万一、蓄熱槽2全体が、前記蓄熱温度範囲(T
min<T<T
max)よりも温度低下して、前記内槽4内、及び、外槽5内に充填されている相変化用蓄熱材6がすべて固相になった場合には、前記隔壁用ヒータ20を運転することにより、前記相変化用蓄熱材6を上下方向の全体的に溶融させながら、前記蓄熱槽2内を昇温させて、前記蓄熱温度範囲まで復帰させることができるようにしてある。
【0050】
ここで、前記相変化用蓄熱材6について説明する。
【0051】
前記内槽4内の相変化用蓄熱材6の保有する熱を、前記伝熱管16を流通させる熱取出用熱媒17を用いて取り出す際、前記伝熱管16の周囲で凝固する相変化用蓄熱材6の固相が、前記伝熱管16の表面に付着すると、前記相変化用蓄熱材6の固相が沈降せず、伝熱効率の低下につながる。
【0052】
本発明者等が実施した研究の結果、前記伝熱管16の表面へ相変化用蓄熱材6の固相が付着しにくくなるようにするためには、相変化用蓄熱材6としては、前記蓄熱温度範囲(T
min<T<T
max)の蓄熱最低温度T
minにおいて固液共存状態となる非共晶組成の2成分混合塩からなるものを用いることが有利であるという知見が得られている。
【0053】
たとえば、太陽熱発電等の高温のシステムに適用することを想定する場合、蓄熱システムに所望される蓄熱温度範囲(T
min<T<T
max)の蓄熱最低温度T
minは150℃以上、好ましくは200℃以上となる。
【0054】
そこで、一例として、本発明の蓄熱システム1における蓄熱温度範囲(T
min<T<T
max)は、蓄熱最高温度T
maxが400℃、蓄熱最低温度T
minが250℃に設定されるものとする。
【0055】
この条件に好適な相変化用蓄熱材6としては、前記特許文献1に示されている2成分系の混合塩の組み合わせのうち、たとえば、硝酸カリウム(KNO
3)と硝酸ナトリウム(NaNO
3)とを、非共晶となる組成で混合した2成分混合塩がある。
【0056】
前記硝酸カリウムと硝酸ナトリウムの混合物では、硝酸ナトリウムのモル分率が0.49となる組成で共晶となるので、この共晶となる組成以外の組成とし、且つ、前記蓄熱最低温度T
minである250℃において固液共存状態となるようにする。具体的な組成例としては、硝酸ナトリウムのモル分率が0.786(質量分率が0.755)となる組成のものを、前記相変化用蓄熱材6として用いることができる。
【0057】
又、前記相変化用蓄熱材6としては、前記特許文献1に示されている2成分系の混合塩の組み合わせのうち、CsNO
3とNaNO
3の混合物、LiNO
3とNaNO
3の混合物、NaNO
3とRbNO
3の混合物を用いることも可能である。
【0058】
前記CsNO
3とNaNO
3の混合物を用いる場合は、NaNO
3のモル分率を0.902(質量分率を0.801)とし、前記LiNO
3とNaNO
3の混合物を用いる場合は、NaNO
3のモル分率を0.877(質量分率を0.898)とし、NaNO
3とRbNO
3の混合物を用いる場合は、RbNO
3のモル分率を0.105(質量分率を0.169)とすることにより、前記蓄熱最低温度T
minである250℃において固液共存状態とすることができる。
【0059】
更に、前記蓄熱温度範囲(T
min<T<T
max)の蓄熱最低温度T
minが280℃に設定される場合には、前記相変化用蓄熱材6として、前記特許文献1に示されている2成分系の混合塩の組み合わせのうち、LiBrとNaNO
3の混合物を用いることが可能である。この場合は、NaNO
3のモル分率を0.964(質量分率を0.963)とすることにより、前記蓄熱最低温度T
minである280℃において固液共存状態とすることができる。
【0060】
前記のような非共晶組成の2成分混合塩を相変化用蓄熱材6として用いると、前記伝熱管16の周囲で凝固して生じた該相変化用蓄熱材6の固相は、冷却面である前記伝熱管16の表面に強く付着せず、容易にはがれ落ちるようになる。
【0061】
これは、凝固しはじめる際に冷却面付近の固相率が局所的に大きくなるため、融点が比較的低い液相を形成している溶融塩が、冷却面と固相との間に入り込みながら凝固が進行するためであると考えられ、非共晶の溶融塩の固液共存領域が温度幅をもって存在することに起因すると考えられる。
【0062】
したがって、本発明の蓄熱システム1は、前記内槽4内にて、前記相変化用蓄熱材6が液相の状態から徐々に固相が増加するように、すなわち、徐々に温度を低下させるように制御を行うことで、固相となった相変化用蓄熱材6が前記伝熱管16の表面に密着してしまうことを、抑制することが可能になる。
【0063】
以上の構成としてある本発明の蓄熱システム1を使用して蓄熱を行う場合は、前記加熱用熱媒供給手段より加熱用熱媒供給ライン14を通して加熱状態で供給される加熱用熱媒13を、前記ホットプレート10の熱媒流路12に連続供給する。これにより、前記ホットプレート10が加熱されるため、この加熱されたホットプレート10により、前記内槽4内の相変化用蓄熱材6と、外槽5内の固体蓄熱材7及び相変化用蓄熱材6の下方からの加熱を行わせる。
【0064】
この際、前述したように、本発明の蓄熱システム1では、前記ホットプレート10から前記相変化用蓄熱材6の固相への熱伝達の効率が高いことから、該相変化用蓄熱材6の加熱を効率よく行うことができる。この相変化用蓄熱材6に加えられた熱は、該相変化用蓄熱材6が固相から液相へ相変化する際の潜熱として、又、該相変化用蓄熱材6の温度が上昇するときの顕熱として吸収させることができる。
【0065】
更に、外槽5内の固体蓄熱材7は、該外槽5の下方に設けてある前記ホットプレート10により直接加熱することができるため、該固体蓄熱材7の加熱も効率よく行うことができる。この固体蓄熱材7に加えられた熱は、該固体蓄熱材7が温度上昇するときの顕熱として吸収させることができる。
【0066】
したがって、本発明の蓄熱システム1は、相変化用蓄熱材6のみを用いる形式の従来の蓄熱システムに比して、蓄熱密度を増加させることができると共に、蓄熱槽2における単位体積当たりの蓄熱量を高いものとすることができる。
【0067】
本発明の蓄熱システム1は、前記内槽4内の相変化用蓄熱材6と、外槽5内の固体蓄熱材7及び相変化用蓄熱材6に対して前記ホットプレート10より与えられる熱が、予め設定されている或る目標蓄熱量に達すると、前記加熱用熱媒供給手段より前記ホットプレート10への加熱用熱媒13の供給を停止させる。
【0068】
この状態で、本発明の蓄熱システム1では、前記内槽4内の相変化用蓄熱材6と、外槽5内の固体蓄熱材7及び相変化用蓄熱材6の熱が保持される。
【0069】
この際、本発明の蓄熱システム1では、前記相変化用蓄熱材6が充填された内槽4の外側に、周方向の全体を取り巻く外槽5を設けて、大きな比熱を有する固体蓄熱材7を充填した構成としてあるため、前記固体蓄熱材7の充填された外槽5は、前記した蓄熱を行う機能に加えて、前記内槽4内の相変化用蓄熱材6から外部への熱の放出を抑える蓄熱兼保温層8としての機能を果たすようになる。
【0070】
よって、本発明の蓄熱システム1は、前記相変化用蓄熱材6の保温性能が高いものとなる。
【0071】
本発明の蓄熱システム1より、蓄熱されている熱を取り出す場合は、前記熱取出用熱媒供給手段より熱取出用熱媒供給ライン18を通して供給される熱取出用熱媒17を、前記伝熱管16に連続供給して、該伝熱管16内を流通させる。これにより、前記熱取出用熱媒17は、前記伝熱管16を流通する間に、該伝熱管16の周囲に存在する相変化用蓄熱材6との熱交換により加熱されるので、この加熱された状態で外部に取り出される熱取出用熱媒17より熱を回収し、その回収した熱を、所望の熱負荷へ与えるようにする。
【0072】
この際、前記したように、前記伝熱管16の周囲で凝固して生じる前記相変化用蓄熱材6の固相は、前記内槽4内で底部へ向けて沈降させて前記伝熱管16の周囲から除去できるため、本発明の蓄熱システム1では、該相変化用蓄熱材6から前記熱取出用熱媒17への熱伝達の効率を高めて、蓄熱された熱の散り出しを効率よく行うことができる。
【0073】
更に、前記構成としてある本実施の蓄熱システム1では、前記隔壁3に備えた連通孔9を通過する前記相変化用蓄熱材6の液相と、外槽5に充填してある固体蓄熱材7との間で直接熱伝達が行われる。このため、前記外槽5内の固体蓄熱材7の有する熱は、前記内槽4内の相変化用蓄熱材6に効率よく伝えられて、前記熱取出用熱媒17の加熱に効率よく利用される。
【0074】
このように、本発明の蓄熱システム1によれば、予め設定された蓄熱温度範囲で固液の相変化を生じる相変化用蓄熱材6と、固体蓄熱材7の双方を利用して蓄熱を行うことができて、蓄熱槽2の単位体積当たりの蓄熱量の向上化を図ることができる。
【0075】
更に、前記蓄熱槽2にて各蓄熱材6,7の蓄熱のための加熱を行う加熱手段となるホットプレート10は、該蓄熱槽2の下端部のみに設ければよく、一方、前記相変化用蓄熱材6との熱交換により熱を取り出す放熱用の伝熱管16は、内槽4の上部位置にのみ設ければよいので、これらのホットプレート10や伝熱管16の構成を小さくし、構造の簡略化を図ることができる。よって、製造コストの低減化も図ることができる。
【0076】
次に、
図2は本発明の実施の他の形態を示すものである。
【0077】
本実施の形態の蓄熱システム1Aは、
図2に示す如く、
図1に示したと同様の構成において、連通孔9を備えた隔壁3を用いる構成に代えて、連通孔のない隔壁3aにより、内槽4と外槽5を仕切る構成としたものである。
【0078】
前記連通孔のない形式の隔壁3aを用いていることにより、本実施の形態では、前記外槽5内は、前記内槽4内とは隔離される。
【0079】
前記外槽5内には、
図1に示したと同様の固体蓄熱材7の小片と、該固体蓄熱材7の小片同士の隙間に満たすための溶融塩蓄熱材21を充填した構成としてある。
【0080】
前記外槽5内の溶融塩蓄熱材21は、
図1の実施の形態の構成における相変化用蓄熱材6と同様に、蓄熱温度範囲で固液の相変化するものを用いるようにしてもよい。この場合、前記溶融塩蓄熱材21は、たとえば、前記内槽4内に充填される相変化用蓄熱材6と同じものを用いてもよい。この構成によれば、外槽5に形成される蓄熱兼保温層8は、前記溶融塩蓄熱材21が固液の相変化するときの潜熱を利用した蓄熱が可能になるため、蓄熱密度を高めることができる。
【0081】
あるいは、前記外槽5内の溶融塩蓄熱材21は、前記固体蓄熱材7の小片同士の隙間を満たして該小片同士の間の熱抵抗を低減させることを主目的とする場合は、蓄熱温度範囲の全域で液相となるものを用いるようにしてもよい。
【0082】
その他の構成は
図1に示したものと同様であり、同一のものには同一の符号が付してある。
【0083】
以上の構成としてある本実施の形態の蓄熱システム1Aは、
図1の実施の形態の蓄熱システム1と同様に使用して、同様の効果を得ることができる。
【0084】
次いで、
図3は本発明の実施の更に他の形態を示すものである。
【0085】
本実施の形態の蓄熱システム1Bは、
図3に示す如く、
図2に示したと同様の構成において、外槽5に、固体蓄熱材7の小片と、溶融塩蓄熱材21を充填した構成に代えて、外槽5に、固体蓄熱材22のみを収納した構成としたものである。
【0086】
この場合、前記固体蓄熱材22と内槽4内の相変化用蓄熱材6との間で隔壁3aを介して行われる熱伝達の効率を高めるためには、前記固体蓄熱材22と隔壁3aの外周面との間の隙間をなくして熱抵抗を低減させることが望ましい。又、前記固体蓄熱材22の上下方向には、熱抵抗を生じる隙間が存在しないことが望ましい。
【0087】
よって、前記固体蓄熱材22は、前記隔壁3aの外径に対応する内径を備えた円筒形状の一体物か、あるいは、前記円筒形状を周方向にのみ複数分割したセグメントに成形して、前記隔壁3aの外周面に密着させて配置するようにしてある。
【0088】
その他の構成は
図1に示したものと同様であり、同一のものには同一の符号が付してある。
【0089】
以上の構成としてある本実施の形態の蓄熱システム1Bによっても、
図1の実施の形態の蓄熱システム1と同様に使用して、同様の効果を得ることができる。
【0090】
なお、本発明は、前記実施の形態にのみ限定されるものではなく、各図に示した蓄熱槽2の上下寸法や径寸法、隔壁3,3aの径寸法や厚み寸法、隔壁3に設けた連通孔9の大きさや配置、伝熱管16の太さ、その他の各部の寸法は、図示するための便宜上のものであり、実際の寸法を反映したものではない。
【0091】
ホットプレート10の熱媒流路12に接続する加熱用熱媒供給ライン14と加熱用熱媒戻しライン15は、いずれか一方、又は、双方を、蓄熱槽2の内側を通す配置とせずに、ホットプレート10に、側方や下方から直接接続する構成としてもよい。
【0092】
蓄熱槽2の下端部に設けるホットプレート10は、プレート部材11の下面側に熱媒流路とするための伝熱管を直接取り付けて、この伝熱管に加熱用熱媒13を流通させる構成としてもよい。
【0093】
更に、本発明の蓄熱システム1,1A,1Bを、自然エネルギー利用の発電装置で発電された電力や、その他の電力の熱貯蔵を目的として用いる場合は、前記ホットプレート10として、電気ヒータを用いる構成としてもよい。
【0094】
内槽4の上部位置における伝熱管16の配置は、蓄熱槽2内に設ける内槽4のサイズや形状等に応じて、図示した以外の任意の配置としてよい。
【0095】
相変化用蓄熱材6としては、例示した非共晶組成の2成分混合塩からなるものを用いることが好ましいが、所定の蓄熱温度範囲で固液の相変化を生じるものであり、且つ固相の密度が液相の密度よりも大きいものであれば、単成分の塩(溶融塩)、非共晶組成の3成分以上の混合塩、共晶組成の複数成分の混合塩、その他、塩以外の任意の蓄熱材を用いるようにしてもよい。
【0096】
蓄熱温度範囲は、熱源及び熱負荷の種類等に応じて自在に変更してよい。
【0097】
内槽4内には、伝熱管16の表面に付着する相変化用蓄熱材6の固相を強制的に剥落させるための固相剥落手段を備えた構成としてもよい。
【0098】
その他本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々変更を加え得ることは勿論である。