特許第6308097号(P6308097)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6308097繊維強化樹脂組成物、およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6308097
(24)【登録日】2018年3月23日
(45)【発行日】2018年4月11日
(54)【発明の名称】繊維強化樹脂組成物、およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/06 20060101AFI20180402BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20180402BHJP
   C08L 81/02 20060101ALI20180402BHJP
   D06M 13/11 20060101ALI20180402BHJP
   D06M 13/325 20060101ALI20180402BHJP
   D06M 13/463 20060101ALI20180402BHJP
   D06M 13/285 20060101ALI20180402BHJP
   D06M 13/402 20060101ALI20180402BHJP
   D06M 15/63 20060101ALI20180402BHJP
   D06M 15/513 20060101ALI20180402BHJP
   D06M 101/40 20060101ALN20180402BHJP
【FI】
   C08J5/06CER
   C08J5/06CEZ
   C08L101/00
   C08L81/02
   D06M13/11
   D06M13/325
   D06M13/463
   D06M13/285
   D06M13/402
   D06M15/63
   D06M15/513
   D06M101:40
【請求項の数】15
【全頁数】55
(21)【出願番号】特願2014-217069(P2014-217069)
(22)【出願日】2014年10月24日
(65)【公開番号】特開2016-84396(P2016-84396A)
(43)【公開日】2016年5月19日
【審査請求日】2017年4月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】吉弘 一貴
(72)【発明者】
【氏名】中山 義文
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 真
【審査官】 飛彈 浩一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−079321(JP,A)
【文献】 特開2013−117002(JP,A)
【文献】 特開平05−156081(JP,A)
【文献】 特開2009−173804(JP,A)
【文献】 特開2013−166921(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/04−5/10
5/24
B29B 11/16
B29B 15/08−15/14
C08L 81/02
C08L 101/00
D06M 13/11
D06M 13/285
D06M 13/325
D06M 13/402
D06M 13/463
D06M 15/513
D06M 15/63
D06M 101/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネートまたはポリアリーレンスルフィドのいずれかの熱可塑性樹脂(A)とカルボジイミド化合物(B)とサイジング剤(D)で表面処理された炭素繊維(C)を含有する繊維強化樹脂組成物であって、前記サイジング剤(D)が少なくとも化合物(E)および化合物(F)を含む混合物であり、熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して、カルボジイミド化合物(B)を0.1〜10質量部、炭素繊維(C)を10〜300質量部含有し、炭素繊維(C)100質量部に対して、サイジング剤(D)を0.01〜10質量部含有し、化合物(E)100質量部に対して、化合物(F)を0.1〜25質量部含有する繊維強化樹脂組成物。
化合物(E):2官能以上のエポキシ化合物(E1)、および/または、1官能以上のエポキシ基を有し、水酸基、アミド基、イミド基、ウレタン基、ウレア基、スルホニル基、およびスルホ基から選ばれる、一つ以上の官能基を有するエポキシ化合物(E2)
化合物(F):下記[a]、[b]および[c]からなる群から選択される少なくとも1種の反応促進剤
[a]分子量が100g/mol以上の3級アミン化合物および/または3級アミン塩(F1)
[b]次の一般式(I)または(II)
【化1】
【化2】
(上記式中、R〜Rは、それぞれ炭素数1〜22の炭化水素基、炭素数1〜22の炭化水素とエーテル構造を含む基、炭素数1〜22の炭化水素とエステル構造を含む基、または炭素数1〜22の炭化水素と水酸基を含む基のいずれかを表し、RとRは、それぞれ水素、炭素数1〜8の炭化水素基、炭素数1〜8の炭化水素とエーテル構造を含む基、または炭素数1〜8の炭化水素とエステル構造を含む基のいずれかを表す。)のいずれかで示されるカチオン部位を有する4級アンモニウム塩(F2)
[c]4級ホスホニウム塩および/またはホスフィン化合物(F3)
【請求項2】
前記[a]の分子量が100g/mol以上の3級アミン化合物および/または3級アミン塩(F1)が、次の一般式(III)
【化3】
(式中、Rは炭素数1〜22の炭化水素基、炭素数1〜22の炭化水素とエーテル構造を含む基、炭素数1〜22の炭化水素とエステル構造を含む基、または炭素数1〜22の炭化水素と水酸基を含む基のいずれかを表す。式中、Rは炭素数3〜22のアルキレン基であり、不飽和基を含んでもよい。R10は水素または炭素数1〜22の炭化水素基、炭素数1〜22の炭化水素とエーテル構造を含む基、炭素数1〜22の炭化水素とエステル構造を含む基、または炭素数1〜22の炭化水素と水酸基を含む基のいずれかを表す。または、RとR10は結合して炭素数2〜11のアルキレン基を形成する。)、次の一般式(IV)
【化4】
(式中、R11〜R14は、それぞれ炭素数1〜22の炭化水素基、炭素数1〜22の炭化水素とエーテル構造を含む基、炭素数1〜22の炭化水素とエステル構造を含む基、または炭素数1〜22の炭化水素と水酸基を含む基のいずれかを表す。)、次の一般式(V)
【化5】
(式中、R15〜R20は、それぞれ炭素数1〜22の炭化水素基、炭素数1〜22の炭化水素とエーテル構造を含む基、炭素数1〜22の炭化水素とエステル構造を含む基、または炭素数1〜22の炭化水素と水酸基を含む基のいずれかを表す。R21は、炭素数1〜22の炭化水素基、炭素数1〜22の炭化水素とエーテル構造を含む基、炭素数1〜22の炭化水素とエステル構造を含む基、または炭素数1〜22の炭化水素と水酸基を含む基、水酸基のいずれかを表す。)、または、次の一般式(VI)で示される1以上の分岐構造を有する化合物であり、かつ、1以上の水酸基を含む、請求項1に記載の繊維強化樹脂組成物。
【化6】
(式中、R22〜R24は、炭素数1〜22の炭化水素基、炭素数1〜22の炭化水素とエーテル構造を含む基、炭素数1〜22の炭化水素とエステル構造を含む基、または炭素数1〜22の炭化水素と水酸基を含む基のいずれかを表し、R22〜R24のいずれかに、一般式(VII)または(VIII)で示される分岐構造を含む。)
【化7】
(式中、R25、R26は、炭素数1〜22の炭化水素基、炭素数1〜22の炭化水素とエーテル構造を含む基、炭素数1〜22の炭化水素とエステル構造を含む基、または炭素数1〜22の炭化水素と水酸基を含む基、水酸基のいずれかを表す。)
【化8】
(式中、R27〜R29は、炭素数1〜22の炭化水素基、炭素数1〜22の炭化水素とエーテル構造を含む基、炭素数1〜22の炭化水素とエステル構造を含む基、または炭素数1〜22の炭化水素と水酸基を含む基、水酸基のいずれかを表す。)
【請求項3】
一般式(III)で示される化合物が、1,5−ジアザビシクロ[4,3,0]−5−ノネンもしくはその塩、または、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセンもしくはその塩である、請求項2に記載の繊維強化樹脂組成物。
【請求項4】
一般式(VI)で示される化合物が、少なくとも2以上の分岐構造を有する、請求項2に記載の繊維強化樹脂組成物。
【請求項5】
一般式(VI)で示される化合物が、トリイソプロパノールアミンもしくはその塩である、請求項4に記載の繊維強化樹脂組成物。
【請求項6】
前記[b]の一般式(I)のRとRが、炭素数1〜22の炭化水素基、炭素数1〜22の炭化水素とエーテル構造を含む基、炭素数1〜22の炭化水素とエステル構造を含む基、または炭素数1〜22の炭化水素と水酸基を含む基のいずれかを表し、RとRが炭素数2〜22の炭化水素基、炭素数2〜22の炭化水素とエーテル構造を含む基、炭素数2〜22の炭化水素とエステル構造を含む基または炭素数2〜22の炭化水素と水酸基を含む基を表し、一般式(II)のRが、炭素数1〜22の炭化水素基、炭素数1〜22の炭化水素とエーテル構造を含む基、炭素数1〜22の炭化水素とエステル構造を含む基、または炭素数1〜22の炭化水素と水酸基を含む基のいずれかを表し、RとRが、それぞれ水素、炭素数1〜8の炭化水素基、炭素数1〜8の炭化水素とエーテル構造を含む基または炭素数1〜8の炭化水素とエステル構造を含む基のいずれかを表す、請求項1〜5のいずれかに記載の繊維強化樹脂組成物。
【請求項7】
前記[b]のカチオン部位を有する4級アンモニウム塩(F2)のアニオン部位がハロゲンイオンである、請求項1〜6のいずれかに記載の繊維強化樹脂組成物。
【請求項8】
前記[c]の4級ホスホニウム塩および/またはホスフィン化合物(F3)が、次の一般式(IX),(X)で示されるいずれかの4級ホスホニウム塩またはホスフィン化合物である、請求項1〜7のいずれかに記載の繊維強化樹脂組成物。
【化9】
【化10】
(上記化学式中、R30〜R36はそれぞれ炭素数1〜22の炭化水素基、炭素数1〜22の炭化水素とエーテル構造を含む基、炭素数1〜22の炭化水素とエステル構造を含む基、または炭素数1〜22の炭化水素と水酸基を含む基のいずれかを表す。)
【請求項9】
前記化合物(E)がエポキシ当量が360g/mol以下のエポキシ化合物である、請求項1〜8のいずれかに記載の繊維強化樹脂組成物。
【請求項10】
前記化合物(E)が1g中に5.5mmol以上の芳香環を含有するエポキシ化合物である、請求項1〜9のいずれかに記載の繊維強化樹脂組成物。
【請求項11】
前記カルボジイミド化合物(B)が脂肪族カルボジイミド化合物である、請求項1〜10のいずれかに記載の繊維強化樹脂組成物。
【請求項12】
前記カルボジイミド化合物(B)の質量平均分子量が500〜10,000である、請求項1〜11のいずれかに記載の繊維強化樹脂組成物。
【請求項13】
エネルギー分散型X線分光法(EDX)で測定される硫黄濃度比S/Cが下記式を満たす、請求項1〜12のいずれかに記載の繊維強化樹脂組成物。
10(%) ≦ ΔS = (S2−S1)/S2 × 100 ≦ 70(%)
(ここで、ΔSは前記炭素繊維(C)の軸心方向に直交する断面で見た硫黄元素濃度の勾配であり、S1は前記炭素繊維(C)の断面円の外側に法線方向に500nmの距離で引いた円の内側から前記炭素繊維(C)を除いた領域(T1)の硫黄濃度比S/Cであり、S2は前記領域(T1)の外側に法線方向に500nmの距離で引いた円の内側から前記炭素繊維(C)と前記領域(T1)を除いた領域(T2)の硫黄濃度比S/Cである。)
【請求項14】
前記領域(T2)におけるエネルギー分散型X線分光法(EDX)で測定される硫黄濃度比S/Cが0.05〜0.45である、請求項13に記載の繊維強化樹脂組成物。
【請求項15】
押出機を用い、250〜400℃のシリンダー温度で前記熱可塑性樹脂(A)、前記カルボジイミド化合物(B)と前記サイジング剤(D)で表面処理された前記炭素繊維(C)を溶融混練することを特徴とする、請求項1〜14のいずれかに記載の繊維強化樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機部材、宇宙機部材、自動車部材および船舶部材などに好適に用いられる繊維強化樹脂組成物、およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
強化繊維複合材料は、軽量でありながら、強度および弾性率に優れるため、航空機部材、宇宙機部材、自動車部材、船舶部材、土木建築材およびスポーツ用品等の多くの分野に用いられている。
【0003】
熱可塑性樹脂と強化繊維からなる繊維強化樹脂組成物は、熱可塑性樹脂の特性を生かして成形加工が容易であったり、熱硬化性樹脂のような貯蔵の負荷を必要とせず、リサイクル性に優れるといった特徴がある。このような繊維強化樹脂組成物としては、強化繊維をシート状に配列させた熱可塑性プリプレグや、強化繊維をランダム分散させたペレットなど多種多様な形態が公知である。
【0004】
特許文献1には、ポリアリーレンスルフィドプレポリマーと連続した炭素繊維からなる複合体に高分子量の熱可塑性樹脂が接するように配置されてなる成形材料が開示されている。この成形材料では、連続した炭素繊維への含浸には低分子量体、マトリックス樹脂には高分子量体を使い分けることで力学特性と生産性の両立を図っている。
【0005】
炭素繊維を用いた複合材料において、炭素繊維の優れた特性を活かすには、炭素繊維とマトリックス樹脂との接着性が優れることが重要である。
【0006】
炭素繊維と熱可塑性樹脂との界面接着性を向上させるため、通常、炭素繊維に気相酸化や液相酸化等の酸化処理を施し、炭素繊維表面に酸素含有官能基を導入する方法が行われている。例えば、特許文献2には、炭素繊維に電解処理を施すことにより、界面接着性の指標である層間剪断強度を向上させる方法が提案されている。
【0007】
また、炭素繊維は脆く、集束性および耐摩擦性に乏しいため、高次加工工程において毛羽や糸切れが発生しやすい。このため、通常、炭素繊維にサイジング剤を塗布する方法が行われている。
【0008】
例えば、特許文献3および4には、サイジング剤としてビスフェノールAのジグリシジルエーテルを炭素繊維に塗布する方法が提案されている。また、特許文献5および6には、サイジング剤としてビスフェノールAのポリアルキレンオキサイド付加物を炭素繊維に塗布する方法が提案されている。特許文献7および8には、サイジング剤としてビスフェノールAのポリアルキレンオキサイド付加物にエポキシ基を付加させたものを炭素繊維に塗布する方法が提案されている。さらに、特許文献9、10および11ではサイジング剤としてポリアルキレングリコールのエポキシ付加物を炭素繊維に塗布する方法が提案されている。
【0009】
また別に、特許文献12ではサイジング剤としてエポキシ基と4級アンモニウム塩とを有するウレタン化合物を炭素繊維に塗布する方法が提案されている。
【0010】
特許文献13には、界面接着性の向上のために、サイジング剤として特定のエポキシ化合物と特定の塩基性化合物の混合物を炭素繊維に塗布する方法が提案されている。
【0011】
一方で、熱可塑性樹脂の改質による物性向上を目的として様々な添加剤が検討されている。特許文献14には、剛性付与の目的のためポリアリーレンスルフィドと環状ポリオレフィン樹脂とカルボジイミド化合物を組み合わせることで、金属材料や有機材料との密着性を向上させた組成物が開示されている。
【0012】
さらに特許文献15には、熱可塑性樹脂と芳香族カルボジイミド化合物系樹脂と無機充填剤からなる組成物が開示されている。この組成物は力学特性の大きな低下なく耐湿性と耐薬品性を向上させることを目的としたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許第5,691,055号明細書
【特許文献2】特開平4−361619号公報
【特許文献3】米国特許第3,957,716号明細書
【特許文献4】特開昭57−171767号公報
【特許文献5】特開平7−9444号公報
【特許文献6】特開2000−336577号公報
【特許文献7】特開昭61−28074号公報
【特許文献8】特開平1−272867号公報
【特許文献9】特開昭57−128266号公報
【特許文献10】米国特許第4,555,446号明細書
【特許文献11】特開昭62−33872号公報
【特許文献12】米国特許第4,496,671号明細書
【特許文献13】特開2013−79321公報
【特許文献14】特開平10−168290号公報
【特許文献15】特開2004−91504号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、近年、複合材料への要求特性のレベルが向上するにしたがって、酸化処理のみ(例えば、特許文献2)で達成できる界面接着性では不十分になりつつある。また特許文献3〜12に提案される方法により、集束性と耐摩擦性は向上するものの、炭素繊維と熱可塑性樹脂との界面接着性を向上させることはできなかった。特許文献13では炭素繊維とサイジング剤との相互作用の向上により界面接着性の向上が見られたが、高度な物性が求められる材料ではさらなる界面接着力の向上が望まれていた。
【0015】
特許文献14、および15には熱可塑性樹脂の改質が行われているが、その曲げ強度、引張強度や伸度が飛躍的に向上する現象に着想するには至らなかった。
【0016】
以上のように、従来の技術では特に高い接着性を目的とした場合に、炭素繊維と熱可塑性樹脂との界面接着性は十分とはいえない。特に、熱可塑性樹脂を用いた場合、炭素繊維との界面接着性は乏しく、さらなる界面接着性向上技術が必要となっている。
【0017】
そこで本発明の目的は、上記の従来技術における問題点に鑑み、炭素繊維と熱可塑性樹脂との界面接着性に優れ、力学特性に優れる繊維強化樹脂組成物、およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、特定の熱可塑性樹脂(A)、カルボジイミド化合物(B)と特定のサイジング剤(D)で表面処理されている炭素繊維(C)を特定比率で配合することにより、炭素繊維と熱可塑性樹脂の界面接着性が高くなり、力学特性に優れる繊維強化樹脂組成物が得られることを見出し、本発明に想到した。
【0019】
すなわち、本発明は、ポリカーボネートまたはポリアリーレンスルフィドのいずれかの熱可塑性樹脂(A)とカルボジイミド化合物(B)とサイジング剤(D)で表面処理された炭素繊維(C)を含有する繊維強化樹脂組成物であって、前記サイジング剤(D)が少なくとも化合物(E)および化合物(F)を含む混合物であり、熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して、カルボジイミド化合物(B)を0.1〜10質量部、炭素繊維(C)を10〜300質量部含有し、炭素繊維(C)100質量部に対して、サイジング剤(D)を0.01〜10質量部含有し、化合物(E)100質量部に対して、化合物(F)を0.1〜25質量部含有する繊維強化樹脂組成物であることを特徴とする。
化合物(E):2官能以上のエポキシ化合物(E1)、および/または、1官能以上のエポキシ基を有し、水酸基、アミド基、イミド基、ウレタン基、ウレア基、スルホニル基、およびスルホ基から選ばれる、一つ以上の官能基を有するエポキシ化合物(E2)
化合物(F):下記[a]、[b]および[c]からなる群から選択される少なくとも1種の反応促進剤
[a]分子量が100g/mol以上の3級アミン化合物および/または3級アミン塩(F1)
[b]次の一般式(I)または(II)
【0020】
【化1】
【0021】
【化2】
【0022】
(上記式中、R〜Rは、それぞれ炭素数1〜22の炭化水素基、炭素数1〜22の炭化水素とエーテル構造を含む基、炭素数1〜22の炭化水素とエステル構造を含む基、または炭素数1〜22の炭化水素と水酸基を含む基のいずれかを表し、RとRは、それぞれ水素、炭素数1〜8の炭化水素基、炭素数1〜8の炭化水素とエーテル構造を含む基、または炭素数1〜8の炭化水素とエステル構造を含む基のいずれかを表す。)のいずれかで示されるカチオン部位を有する4級アンモニウム塩(F2)
[c]4級ホスホニウム塩および/またはホスフィン化合物(F3)。
【0023】
また、本発明の繊維強化樹脂組成物の製造方法の好ましい態様によれば、上記の繊維強化樹脂組成物の製造方法であって、押出機を用い、250〜400℃のシリンダー温度で前記熱可塑性樹脂(A)、前記カルボジイミド化合物(B)と前記サイジング剤(D)で表面処理された前記炭素繊維(C)を溶融混練することを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、熱可塑性樹脂(A)、カルボジイミド化合物(B)、前記(E)成分、および前記(F)成分の相乗効果により、炭素繊維とエポキシ化合物、エポキシ化合物と熱可塑性樹脂の相互作用が向上し、炭素繊維と熱可塑性樹脂との界面接着性が高まる。その結果、力学特性に優れた繊維強化樹脂組成物が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の繊維強化樹脂組成物を炭素繊維(C)の単糸の軸心方向に直交する断面で観察した例を模式的に表した概略図である。
図2図1において、炭素繊維(C)の断面円の外側に法線方向に500nmの距離で引いた円の内側から炭素繊維(C)を除いた領域(T1)および前記領域(T1)の外側に法線方向に500nmの距離で引いた円の内側から炭素繊維(C)と前記領域(T1)を除いた領域(T2)を示した概略図である。
図3図2において、炭素繊維(C)の外周近傍を拡大した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、更に詳しく、本発明の繊維強化樹脂組成物について説明する。
【0027】
本発明の繊維強化樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(A)とカルボジイミド化合物(B)と炭素繊維(C)を含有し、かつ、前記炭素繊維(C)がサイジング剤(D)で表面処理されている繊維強化樹脂組成物であって、前記サイジング剤(D)が少なくとも化合物(E)および化合物(F)を含む混合物であり、成分(A)100質量部に対して、成分(B)を0.1〜10質量部、成分(C)を10〜300質量部含有し、成分(C)100質量部に対して、成分(D)を0.01〜10質量部含有し、成分(E)100質量部に対して、成分(F)を0.1〜25質量部含有する繊維強化樹脂組成物である。
(E)成分:2官能以上のエポキシ化合物(E1)、および/または、1官能以上のエポキシ基を有し、水酸基、アミド基、イミド基、ウレタン基、ウレア基、スルホニル基、およびスルホ基から選ばれる、一つ以上の官能基を有するエポキシ化合物(E2)
(F)成分:下記[a]、[b]および[c]からなる群から選択される少なくとも1種の反応促進剤
[a]分子量が100g/mol以上の3級アミン化合物および/または3級アミン塩
[b]次の一般式(I)または(II)
【0028】
【化3】
【0029】
【化4】
【0030】
(上記式中、R〜Rは、それぞれ炭素数1〜22の炭化水素基、炭素数1〜22の炭化水素とエーテル構造を含む基、炭素数1〜22の炭化水素とエステル構造を含む基、または炭素数1〜22の炭化水素と水酸基を含む基のいずれかを表し、RとRは、それぞれ水素、炭素数1〜8の炭化水素基、炭素数1〜8の炭化水素とエーテル構造を含む基、または炭素数1〜8の炭化水素とエステル構造を含む基のいずれかを表す。)のいずれかで示されるカチオン部位を有する4級アンモニウム塩
[c]4級ホスホニウム塩および/またはホスフィン化合物。
【0031】
まず、本発明で用いられる各成分について説明する。
【0032】
本発明で用いられる熱可塑性樹脂(A)としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、液晶ポリエステル等のポリエステル系樹脂、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリブチレン、酸変性ポリエチレン(m−PE)、酸変性ポリプロピレン(m−PP)、酸変性ポリブチレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリオキシメチレン(POM)、ポリアミド(PA)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)等のポリアリーレンスルフィド樹脂、ポリケトン(PK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂、液晶ポリマー(LCP)等の結晶性樹脂、ポリスチレン(PS)、アクリロニトリルスチレン(AS)、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)等のスチレン系樹脂、ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、未変性または変性されたポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリサルホン(PSU)、ポリエーテルサルホン、ポリアリレート(PAR)等の非晶性樹脂、フェノール系樹脂、フェノキシ樹脂、さらにポリスチレン系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリブタジエン系エラストマー、ポリイソプレン系エラストマー、フッ素系樹脂およびアクリロニトリル系エラストマー等の各種熱可塑エラストマー等、これらの共重合体および変性体等から選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂が好ましく用いられる。中でも、熱可塑性樹脂(A)は、極性を高めてカルボジイミド化合物(B)や炭素繊維(C)との親和性を大きくする観点から、主鎖の繰り返し単位構造中に炭素以外の元素を含むことが好ましく、炭素繊維との界面接着性や繊維強化樹脂組成物の成形性の観点から、より具体的にはポリカーボネート、ポリエステル、ポリアリーレンスルフィド、ポリアミド、ポリオキシメチレン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトンおよびポリエーテルエーテルケトンからなる群より選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂であることが好ましく、これらの中から、本発明では、熱可塑性樹脂(A)をポリカーボネートまたはポリアリーレンスルフィドのいずれか、とすることを必須とする。なお、熱可塑性樹脂としては、本発明の目的を損なわない範囲で、これらの熱可塑性樹脂を複数種含む熱可塑性樹脂組成物を用いても良い。また、本発明で用いられる熱可塑性樹脂(A)は、カルボジイミド化合物(B)や炭素繊維(C)との接着性の観点からカルボキシル基、水酸基およびアミノ基からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基を分子中に少なくとも1個有することが好ましい。
【0033】
サイジング剤(D)に含有される(E)成分が芳香環を有する場合、本発明で用いられる熱可塑性樹脂(A)は、繰り返し単位の主鎖に芳香環を有する熱可塑性樹脂であることが好ましい。サイジング剤(D)に含有される(E)成分が芳香環を有する場合、主鎖の繰り返し単位構造中に芳香環を含む熱可塑性樹脂(A)はサイジング剤(D)との相溶性が高くなるためと考えている。具体的にはポリカーボネートまたはポリアリーレンスルフィドが好ましい。
【0034】
本発明で用いられるカルボジイミド化合物(B)は、カルボジイミド構造−N=C=N−を1分子内に1個以上有する化合物である。
【0035】
カルボジイミド化合物としては、脂肪族カルボジイミド化合物、芳香族カルボジイミド化合物が挙げられる。熱可塑性樹脂との反応性の観点から脂肪族カルボジイミド化合物が好ましく用いられる。
【0036】
脂肪族カルボジイミド化合物とは、一般式 −N=C=N−で表される繰り返し単位を主要構成単位とする、好ましくは当該繰り返し単位を70モル%以上、より好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上含有するホモポリマーまたはコポリマーである。
【0037】
本発明で用いるカルボジイミド化合物(B)は、その重量平均分子量が、好ましくは500〜10,000であり、より好ましくは1,000〜5,000である。カルボジイミド化合物(B)の重量平均分子量がこの範囲にあると、カルボジイミド化合物が成形などの加熱溶融時に比較的流動しやすく、かつ流動しすぎて接着を損なうほどに拡散してしまわないため、炭素繊維周辺に局在化しやすくなり、本発明の効果である、曲げ強度、引張強度等の力学特性の向上が高レベルで達成できていると推定する。なお、カルボジイミド化合物(B)の重量平均分子量はSEC(サイズ排除クロマトグラフィー)などの分析方法によって求めることができる。
【0038】
本発明の繊維強化樹脂組成物において、カルボジイミド化合物(B)は、熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して0.1〜10質量部含有していることが必要であり、0.1〜5質量部含有していることが好ましい。カルボジイミド化合物(B)の含有量が、この範囲にあると、炭素繊維(C)と熱可塑性樹脂(A)との親和性を高めるのに十分な量であり、かつ熱可塑性樹脂(A)への配合により、繊維強化樹脂組成物の力学特性を効率的に向上させることができるため好ましい。カルボジイミド化合物(B)の含有量が、0.1質量部以上では、カルボジイミド化合物(B)の量が十分であり、得られる繊維強化樹脂組成物の曲げ強度、引張強度などの力学特性の向上効果が大きくなる。また、カルボジイミド化合物(B)の含有量が、10質量部以下では、カルボジイミド化合物(B)と相互作用する熱可塑性樹脂(A)の量が十分であり、得られる繊維強化樹脂組成物の曲げ強度、引張強度などの力学特性の向上効果が大きくなる。
【0039】
本発明の繊維強化樹脂組成物において、炭素繊維(C)は、熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して10〜300質量部含有していることが必要であり、10〜200質量部含有していることが好ましく、20〜100質量部含有していることがより好ましく、20〜50質量部含有していることがさらに好ましい。炭素繊維(C)の含有量が、10質量部以上では、得られる繊維強化樹脂組成物の曲げ強度、引張強度等の力学特性の向上効果が十分になる。炭素繊維(C)の含有量が、300質量部以下では、炭素繊維(C)を熱可塑性樹脂(A)とカルボジイミド化合物(B)を含む熱可塑性樹脂内に均一に分散させることができるため得られる繊維強化樹脂組成物の力学特性が高くなる。
【0040】
本発明において、炭素繊維(C)としては、例えば、ポリアクリロニトリル(PAN)系、レーヨン系およびピッチ系の炭素繊維が挙げられる。中でも、強度と弾性率のバランスに優れたPAN系炭素繊維が好ましく用いられる。
【0041】
本発明において、炭素繊維(C)のストランド引張強度は3.5GPa以上であることが好ましく、より好ましくは4GPa以上であり、さらに好ましくは5GPaである。また、炭素繊維のストランド弾性率が、220GPa以上であることが好ましく、より好ましくは240GPa以上である。
【0042】
本発明において、上記の炭素繊維のストランド引張強度と弾性率は、JIS−R−7608(2004)の樹脂含浸ストランド試験法に準拠し、次の手順に従い求めることができる。樹脂処方としては、“セロキサイド(登録商標)”2021P(ダイセル化学工業社製)/3フッ化ホウ素モノエチルアミン(東京化成工業(株)製)/アセトン=100/3/4(質量部)を用い、硬化条件としては、常圧、130℃、30分を用いる。
【0043】
本発明において、炭素繊維としては、X線光電子分光法により測定されるその繊維表面の酸素(O)と炭素(C)の原子数の比である表面酸素濃度(O/C)が、0.05〜0.5の範囲内であるものが好ましく、より好ましくは0.06〜0.3の範囲内のものであり、さらに好ましくは0.07〜0.2の範囲内のものである。表面酸素濃度(O/C)が0.05以上であることにより、炭素繊維表面の酸素含有官能基を確保し、熱可塑性樹脂との強固な接着を得ることができる。また、表面酸素濃度(O/C)が0.5以下であることにより、酸化による炭素繊維自体の強度の低下を抑えることができる。
【0044】
炭素繊維の表面酸素濃度は、X線光電子分光法により、次の手順に従って求めたものである。まず、溶剤で炭素繊維表面に付着しているサイジング剤などを除去した炭素繊維を20mmにカットして、銅製の試料支持台に拡げて並べた後、X線源としてAlKα1、2を用い、試料チャンバー中を1×10−8Torrに保つ。測定時の帯電に伴うピークの補正値としてC1sの主ピークの結合エネルギー値を、285eVに合わせる。C1sピーク面積を、結合エネルギー値として275〜290eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求める。O1sピーク面積を、結合エネルギーとして525〜540eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求める。
【0045】
ここで、表面酸素濃度とは、上記のO1sピーク面積とC1sピーク面積の比から装置固有の感度補正値を用いて原子数比として算出したものである。X線光電子分光法装置として、アルバック・ファイ(株)製ESCA−1600を用いる。
【0046】
本発明で用いられるサイジング剤(D)は、少なくとも化合物(E)および化合物(F)を含む混合物である。
【0047】
サイジング剤(D)が少なくとも(E)成分と(F)成分を配合することにより炭素繊維と熱可塑性樹脂の界面接着性が向上し、繊維強化樹脂組成物の力学特性が向上するメカニズムは確かではないが、(F)成分が炭素繊維のカルボキシル基および水酸基等の酸素含有官能基に作用し、これらの官能基に含まれる水素イオンを引き抜きアニオン化した後、このアニオン化した官能基と(E)成分に含まれるエポキシ基が求核反応するものと考えられる。これにより、炭素繊維とエポキシの強固な結合が形成される。一方、(F)成分は熱可塑性樹脂(A)のカルボキシル基、水酸基およびアミノ基等の官能基と、カルボジイミド化合物(B)のカルボジイミド基、(E)成分に含まれるエポキシ基等の相互作用を強化するものと考えられる。
【0048】
本発明の繊維強化樹脂組成物において、サイジング剤(D)は、炭素繊維(C)100質量部に対して0.01〜10質量部塗布していることが必要であり、0.1〜8質量部含有していることがさらに好ましく、0.1〜5質量部塗布していることがより好ましい。サイジング剤(D)が0.01質量部以上であると、サイジング剤塗布炭素繊維が工程を通過する際に、通過する金属ガイド等による摩擦に耐えることができ、毛羽発生が抑えられ品位が優れる。また、サイジング剤の付着量が10質量部以下であると、炭素繊維周囲のサイジング剤膜に阻害されることなく熱可塑性樹脂が炭素繊維内部に含浸され、得られる複合材料においてボイド生成が抑えられ、複合材料の品位が優れ、同時に力学特性が優れる。
【0049】
本発明において用いられる(E)成分とは、2官能以上のエポキシ化合物(E1)、および/または、1官能以上のエポキシ基を有し、水酸基、アミド基、イミド基、ウレタン基、ウレア基、スルホニル基、およびスルホ基から選ばれる、少なくとも一つ以上の官能基を有するエポキシ化合物(E2)をさす。
【0050】
(E)成分に(E1)を用いた場合、本発明で用いられる炭素繊維との共有結合に関与しない残りのエポキシ基が熱可塑性樹脂含有官能基と反応し共有結合を形成するか、もしくは、水素結合を形成することができる。また、(E1)の構造中に1個以上の不飽和基を含むことが好ましい。熱可塑性樹脂中に不飽和基を含む場合、(E1)の不飽和基と熱可塑性樹脂との不飽和基がラジカル反応し強固な界面を形成することが可能である。
【0051】
(E)成分に(E2)を用いた場合、(E2)のエポキシ基は炭素繊維のカルボキシル基および水酸基等の酸素含有官能基と共有結合を形成するが、残りの水酸基、アミド基、イミド基、ウレタン基、ウレア基、スルホニル基、またはスルホ基は熱可塑性樹脂の種類に応じて、共有結合や水素結合などの相互作用を形成するものと考えられる。
【0052】
本発明において、(E1)2官能以上のエポキシ化合物の具体例としては、例えば、ポリオールから誘導されるグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、複数活性水素を有するアミンから誘導されるグリシジルアミン型エポキシ樹脂、ポリカルボン酸から誘導されるグリシジルエステル型エポキシ樹脂、および分子内に複数の2重結合を有する化合物を酸化して得られるエポキシ樹脂が挙げられる。
【0053】
グリシジルエーテル型エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAD、ビスフェノールS、テトラブロモビスフェノールA、フェノールノボラック、クレゾールノボラック、ヒドロキノン、レゾルシノール、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’,5,5’−テトラメチルビフェニル、1,6−ジヒドロキシナフタレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、トリス(p−ヒドロキシフェニル)メタン、およびテトラキス(p−ヒドロキシフェニル)エタンとエピクロロヒドリンとの反応により得られるグリシジルエーテル型エポキシ樹脂が挙げられる。また、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、ポリブチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、水添ビスフェノールA、水添ビスフェノールF、グリセロール、ジグリセロール、ポリグリセロール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、およびアラビトールと、エピクロロヒドリンとの反応により得られるグリシジルエーテル型エポキシ樹脂が挙げられる。また、このエポキシ樹脂としては、ジシクロペンタジエン骨格を有するグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、およびビフェニルアラルキル骨格を有するグリシジルエーテル型エポキシ樹脂が挙げられる。
【0054】
グリシジルアミン型エポキシ樹脂としては、例えば、N,N−ジグリシジルアニリン、N,N−ジグリシジル−o−トルイジン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、m−キシリレンジアミン、m−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタンおよび9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレンが挙げられる。
【0055】
さらに、例えば、m−アミノフェノール、p−アミノフェノール、および4−アミノ−3−メチルフェノールのアミノフェノール類の水酸基とアミノ基の両方を、エピクロロヒドリンと反応させて得られるエポキシ樹脂が挙げられる。
【0056】
グリシジルエステル型エポキシ樹脂としては、例えば、フタル酸、テレフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、およびダイマー酸を、エピクロロヒドリンと反応させて得られるグリシジルエステル型エポキシ樹脂が挙げられる。
【0057】
分子内に複数の2重結合を有する化合物を酸化させて得られるエポキシ樹脂としては、例えば、分子内にエポキシシクロヘキサン環を有するエポキシ樹脂が挙げられる。さらに、このエポキシ樹脂としては、エポキシ化大豆油が挙げられる。
【0058】
これらのエポキシ樹脂以外にも、トリグリシジルイソシアヌレートのようなエポキシ樹脂が挙げられる。さらには、上に挙げたエポキシ樹脂を原料として合成されるエポキシ樹脂、例えば、ビスフェノールAジグリシジルエーテルとトリレンジイソシアネートからオキサゾリドン環生成反応により合成されるエポキシ樹脂が挙げられる。
【0059】
本発明において、(E1)エポキシ化合物は、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、またはテトラグリシジルジアミノジフェニルメタンのいずれかであることが好ましい。これらのエポキシ樹脂は、エポキシ基数が多く、エポキシ当量が小さく、かつ、2個以上の芳香環を有しており、炭素繊維と熱可塑性樹脂との界面接着性を向上させることに加え、複合材料の0°曲げ強度、引張強度等の力学特性を向上させる。2官能以上のエポキシ樹脂は、より好ましくは、フェノールノボラック型エポキシ樹脂およびクレゾールノボラック型エポキシ樹脂である。
【0060】
本発明において、(E2)1官能以上のエポキシ基を有し、水酸基、アミド基、イミド基、ウレタン基、ウレア基、スルホニル基、およびスルホ基から選ばれる、少なくとも一つ以上の官能基を有するエポキシ化合物として、例えば、エポキシ基と水酸基を有する化合物、エポキシ基とアミド基を有する化合物、エポキシ基とイミド基、エポキシ基とウレタン基を有する化合物、エポキシ基とウレア基を有する化合物、エポキシ基とスルホニル基を有する化合物、エポキシ基とスルホ基を有する化合物が挙げられる。
【0061】
エポキシ基と水酸基を有する化合物としては、例えば、ソルビトール型ポリグリシジルエーテルおよびグリセロール型ポリグリシジルエーテル等が挙げられ、具体的には“デナコール(商標登録)”EX−611、EX−612、EX−614、EX−614B、EX−622、EX−512、EX−521、EX−421、EX−313、EX−314およびEX−321(ナガセケムテックス株式会社製)等が挙げられる。
【0062】
エポキシ基とアミド基を有する化合物としては、例えば、グリシアミド、アミド変性エポキシ樹脂等が挙げられる。アミド変性エポキシはジカルボン酸アミドのカルボキシル基に2官能以上のエポキシ樹脂のエポキシ基を反応させることによって得ることができる。
【0063】
エポキシ基とイミド基を有する化合物としては、例えば、グリシジルフタルイミド等が挙げられる。具体的には“デナコール(商標登録)”EX−731(ナガセケムテックス株式会社製)等が挙げられる。
【0064】
エポキシ基とウレタン基を有する化合物としては、例えば、ウレタン変性エポキシ樹脂が挙げられ、具体的には“アデカレジン(商標登録)”EPU−78−13S、EPU−6、EPU−11、EPU−15、EPU−16A、EPU−16N、EPU−16A、EPU−17T−6、EPU−1348およびEPU−1395(株式会社ADEKA製)等が挙げられる。または、ポリエチレンオキサイドモノアルキルエーテルの末端水酸基に、その水酸基量に対する反応当量の多価イソシアネートを反応させ、次いで得られた反応生成物のイソシアネート残基に多価エポキシ樹脂内の水酸基と反応させることによって得ることができる。ここで、用いられる多価イソシアネートとしては、2,4−トリレンジイソシアネート、メタフェニレンジイソシアネート、パラフェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネートおよびビフェニル−2,4,4’−トリイソシアネートなどが挙げられる。
【0065】
エポキシ基とウレア基を有する化合物としては、例えば、ウレア変性エポキシ樹脂等が挙げられる。アミド変性エポキシはジカルボン酸ウレアのカルボキシル基に2官能以上のエポキシ樹脂のエポキシ基を反応させることによって得ることができる。
【0066】
エポキシ基とスルホニル基を有する化合物としては、例えば、ビスフェノールS型エポキシ等が挙げられる。
【0067】
エポキシ基とスルホ基を有する化合物としては、例えば、p−トルエンスルホン酸グリシジルおよび3−ニトロベンゼンスルホン酸グリシジル等が挙げられる。
【0068】
本発明において、化合物(E)のエポキシ当量は、360g/mol以下であることが好ましく、より好ましくは270g/mol以下であり、さらに好ましくは180g/mol以下である。エポキシ当量が360g/mol以下であると、高密度で共有結合が形成され、炭素繊維と熱可塑性樹脂との界面接着性がさらに向上する。エポキシ当量の下限は特にないが、90g/mol以上で界面接着性の向上効果が十分である。
【0069】
本発明において、化合物(E)が、3官能以上のエポキシ樹脂であることが好ましく、4官能以上のエポキシ樹脂であることがより好ましい。(E)エポキシ化合物が、分子内に3個以上のエポキシ基を有する3官能以上のエポキシ樹脂であると、1個のエポキシ基が炭素繊維表面の酸素含有官能基と共有結合を形成した場合でも、残りの2個以上のエポキシ基が熱可塑性樹脂含有官能基と共有結合または水素結合を形成することができ、界面接着性がさらに向上する。エポキシ基の数の上限は特にないが、10個以上では界面接着性が飽和する場合がある。
【0070】
本発明において、化合物(E)は分子内に芳香環を含有することが好ましい。エポキシ化合物1g中に5.5mmol以上の芳香環を含有することが好ましく、より好ましくはエポキシ化合物1g当たりに芳香環は6.4mmol以上である。エポキシ化合物1g当たりに含有される芳香環が5.5mmol以上であると炭素繊維表面との相互作用が大きくなる。
【0071】
また、芳香環を有するエポキシ化合物は耐熱性が高いため、ポリアリーレンスルフィド樹脂に代表されるような成形温度の高い熱可塑性樹脂の場合でも熱分解により消失することはなく、本来の炭素繊維表面の酸素含有官能基との反応および熱可塑性樹脂との相互作用の機能を保つことが可能である。
【0072】
本発明で用いられる(F)成分とは、(F1)分子量が100g/mol以上である3級アミン化合物および/または3級アミン塩、(F2)一般式(I)または(II)のいずれかで示されるカチオン部位を有する4級アンモニウム塩、(F3)4級ホスホニウム塩および/またはホスフィン化合物から選択される少なくとも1種の化合物をさす。
【0073】
本発明で用いられる(F)成分は、(E)成分100質量部に対して、0.1〜25質量部配合することが必要であり、0.5〜20質量部配合することが好ましく、1〜15質量部配合することがより好ましい。配合量が0.1質量部以上であると、化合物(E)と炭素繊維表面の酸素含有官能基との間の共有結合形成の促進効果が十分働き、炭素繊維と熱可塑性樹脂との界面接着性が向上する。一方、配合量が25質量部以下では、(F)が炭素繊維表面を覆うことによる、共有結合形成が阻害されることなく、炭素繊維と熱可塑性樹脂との界面接着性が向上する。
【0074】
本発明において用いられる、(F1)分子量が100g/mol以上である3級アミン化合物および/または3級アミン塩は、その分子量が100g/mol以上であることが必要であり、分子量は100〜400g/molの範囲内であることが好ましく、より好ましくは100〜300g/molの範囲内であり、さらに好ましくは100〜200g/molの範囲内である。分子量が100g/mol以上であると、揮発が抑えられ、少量でも大きな界面接着性向上効果が得られる。一方、分子量が400g/mol以下であると、分子中における活性部位の比率が高く、やはり少量でも大きな界面接着性向上効果が得られる。
【0075】
本発明において用いられる3級アミン化合物とは、分子内に3級アミノ基を有する化合物を示す。また、本発明で用いられる3級アミン塩とは、3級アミノ基を有する化合物をプロトン供与体で中和した塩のことを示す。ここで、プロトン供与体とは、3級アミノ基を有する化合物にプロトンとして供与できる活性水素を有する化合物のことをさす。なお、活性水素とは、塩基性の化合物にプロトンとして供与される水素原子のことをさす。
【0076】
プロトン供与体としては、無機酸、カルボン酸、スルホン酸およびフェノール類などの有機酸、アルコール類、メルカプタン類および1,3−ジカルボニル化合物などが挙げられる。
【0077】
本発明において用いられる、(F1)分子量が100g/mol以上の3級アミン化合物および/または3級アミン塩は、次の一般式(III)
【0078】
【化5】
【0079】
(式中、Rは炭素数1〜22の炭化水素基、炭素数1〜22の炭化水素とエーテル構造を含む基、炭素数1〜22の炭化水素とエステル構造を含む基、または炭素数1〜22の炭化水素と水酸基を含む基のいずれかを表す。式中、Rは炭素数3〜22のアルキレン基であり、不飽和基を含んでもよい。R10は水素または炭素数1〜22の炭化水素基、炭素数1〜22の炭化水素とエーテル構造を含む基、炭素数1〜22の炭化水素とエステル構造を含む基、または炭素数1〜22の炭化水素と水酸基を含む基のいずれかを表す。または、RとR10は結合して炭素数2〜11のアルキレン基を形成する。)、次の一般式(IV)
【0080】
【化6】
【0081】
(式中、R11〜R14は、それぞれ炭素数1〜22の炭化水素基、炭素数1〜22の炭化水素とエーテル構造を含む基、炭素数1〜22の炭化水素とエステル構造を含む基、または炭素数1〜22の炭化水素と水酸基を含む基のいずれかを表す。)、次の一般式(V)
【0082】
【化7】
【0083】
(式中、R15〜R20は、それぞれ炭素数1〜22の炭化水素基、炭素数1〜22の炭化水素とエーテル構造を含む基、炭素数1〜22の炭化水素とエステル構造を含む基、または炭素数1〜22の炭化水素と水酸基を含む基のいずれかを表す。R21は、炭素数1〜22の炭化水素基、炭素数1〜22の炭化水素とエーテル構造を含む基、炭素数1〜22の炭化水素とエステル構造を含む基、または炭素数1〜22の炭化水素と水酸基を含む基、水酸基のいずれかを表す。)、または、次の一般式(VI)で示される、1以上の分岐構造を有する化合物であり、かつ、1以上の水酸基を含む。
【0084】
【化8】
【0085】
(式中、R22〜R24は、炭素数1〜22の炭化水素基、炭素数1〜22の炭化水素とエーテル構造を含む基、炭素数1〜22の炭化水素とエステル構造を含む基、または炭素数1〜22の炭化水素と水酸基を含む基のいずれかを表し、R22〜R24のいずれかに、一般式(VII)または(VIII)で示される分岐構造を含む。)
【0086】
【化9】
【0087】
(式中、R25、R26は、炭素数1〜22の炭化水素基、炭素数1〜22の炭化水素とエーテル構造を含む基、炭素数1〜22の炭化水素とエステル構造を含む基、または炭素数1〜22の炭化水素と水酸基を含む基、水酸基のいずれかを表す。)
【0088】
【化10】
【0089】
(式中、R27〜R29は、炭素数1〜22の炭化水素基、炭素数1〜22の炭化水素とエーテル構造を含む基、炭素数1〜22の炭化水素とエステル構造を含む基、または炭素数1〜22の炭化水素と水酸基を含む基、水酸基のいずれかを表す。)。
【0090】
本発明において、一般式(VI)で示される化合物が、少なくとも1以上の分岐構造を有し、かつ、少なくとも1以上の水酸基を含むことが必要である。また、少なくとも2以上の分岐構造を有することが好ましく、3以上の分岐構造を有することがさらに好ましい。分岐構造を有することで立体障害性が高まり、エポキシ環同士の反応を抑え、炭素素繊維表面官能基とエポキシとの反応促進効果を高めることができる。また、少なくとも1以上の水酸基を有することで、炭素繊維表面の酸素含有官能基への相互作用が高まり、効率的に炭素繊維表面の酸素含有官能基の水素イオンを引き抜き、エポキシとの反応性を高めることができる。
【0091】
本発明において、上記一般式(III)〜(V)のR、R11〜R20は、それぞれ炭素数1〜22の炭化水素基、炭素数1〜22の炭化水素とエーテル構造を含む基、炭素数1〜22のエステル構造を含む基、または炭素数1〜22の炭化水素と水酸基を含む基のいずれかである。炭素数を1〜22の間にすることで、分子構造の立体障害が適度に小さく反応促進効果が高くなり、界面接着性が向上する。より好ましくは1〜14の範囲内であり、さらに好ましくは1〜8の範囲内である。一方、炭素数が22を超える場合、分子構造の立体障害がやや大きく反応促進効果が低くなる場合がある。
【0092】
本発明において、上記一般式(V)のR21は、それぞれ炭素数1〜22の炭化水素基、炭素数1〜22の炭化水素とエーテル構造を含む基、炭素数1〜22のエステル構造を含む基、または炭素数1〜22の炭化水素と水酸基を含む基、水酸基のいずれかである。炭素数を1〜22の間にすることで、分子構造の立体障害が適度に小さく反応促進効果が高くなり、界面接着性が向上する。より好ましくは1〜14の範囲内であり、さらに好ましくは1〜8の範囲内である。一方、炭素数が22を超える場合、分子構造の立体障害がやや大きく反応促進効果が低くなる場合がある。
【0093】
本発明において、上記一般式(III)のRは、炭素数3〜22のアルキレン基であり、不飽和基を含んでもよい。炭素数を3〜22の間にすることで、分子構造の立体障害が適度に小さく反応促進効果が高くなり、界面接着性が向上する。より好ましくは3〜14の範囲内であり、さらに好ましくは3〜8の範囲内である。一方、炭素数が22を超える場合、分子構造の立体障害がやや大きく反応促進効果が低くなる場合がある。
【0094】
本発明において、上記一般式(III)のR10は、水素または炭素数1〜22の炭化水素基、炭素数1〜22の炭化水素とエーテル構造を含む基、炭素数1〜22のエステル構造を含む基、または炭素数1〜22の炭化水素と水酸基を含む基のいずれかである。炭素数を1〜22の間にすることで、分子構造の立体障害が適度に小さく反応促進効果が高くなり、界面接着性が向上する。より好ましくは1〜14の範囲内であり、さらに好ましくは1〜8の範囲内である。一方、炭素数が22を超える場合、分子構造の立体障害がやや大きく反応促進効果が低くなる場合がある。
【0095】
本発明において、上記一般式(VI)のR22〜R24は、それぞれ炭素数1〜22の炭化水素基、炭素数1〜22の炭化水素とエーテル構造を含む基、炭素数1〜22のエステル構造を含む基、または炭素数1〜22の炭化水素と水酸基を含む基のいずれかであり、R22〜R24のいずれかに、一般式(VII)または(VIII)で示される分岐構造を含む。炭素数を1〜22の間にすることで、分子構造の立体障害が適度に小さく反応促進効果が高くなり、界面接着性が向上する。より好ましくは1〜14の範囲内であり、さらに好ましくは1〜8の範囲内である。一方、炭素数が22を超える場合、分子構造の立体障害がやや大きく反応促進効果が低くなる場合がある。
【0096】
ここで、炭素数1〜22の炭化水素基とは、炭素原子と水素原子のみからなる基であり、飽和炭化水素基および不飽和炭化水素基のいずれでも良く、環構造を含んでも含まなくても良い。炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、オレイル基、ドコシル基、ベンジル基およびフェニル基等が挙げられる。
【0097】
また、炭素数1〜22の炭化水素とエーテル構造を含む基としては、直鎖状のものとして、例えば、メトキシメチル基、エトキシメチル基、プロポキシメチル基、ブトキシメチル基、フェノキシメチル基、メトキシエチル基、エトキシエチル基、プロポキシエチル基、ブトキシエチル基、フェノキシエチル基、メトキシエトキシメチル基、メトキシエトキシエチル基、ポリエチレングリコール基およびポリプロピレングリコール基等のポリエーテル基が挙げられる。環状のものとして、例えば、エチレンオキシド、テトラヒドロフラン、オキセパン、1,3−ジオキソランなどが挙げられる。
【0098】
また、炭素数1〜22の炭化水素とエステル構造を含む基としては、例えば、アセトキシメチル基、アセトキシエチル基、アセトキシプロピル基、アセトキシブチル基、メタクリロイルオキシエチル基およびベンゾイルオキシエチル基等が挙げられる。
【0099】
また、炭素数1〜22の炭化水素と水酸基を含む基としては、例えば、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、ヒドロキシブチル基、ヒドロキシペンチル基、ヒドロキシヘキシル基、ヒドロキシシクロヘキシル基、ヒドロキシオクチル基、ヒドロキシデシル基、ヒドロキシドデシル基、ヒドロキシテトラデシル基、ヒドロキシヘキサデシル基、ヒドロキシオクタデシル基、ヒドロキシオレイル基およびヒドロキシドコシル基等が挙げられる。
【0100】
本発明において、上記一般式(III)で示される化合物の具体例として、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセン(DBU)、1,5−ジアザビシクロ[4,3,0]−5−ノネン(DBN)、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、および5、6−ジブチルアミノ−1,8−ジアザ−ビシクロ[5,4,0]ウンデセン−7(DBA)もしくは、これらの塩を挙げることができる。DBU塩としては、具体的には、DBUのフェノール塩(U−CAT SA1、サンアプロ株式会社製)、DBUのオクチル酸塩(U−CAT SA102、サンアプロ株式会社製)、DBUのp−トルエンスルホン酸塩(U−CAT SA506、サンアプロ株式会社製)、DBUのギ酸塩(U−CAT SA603、サンアプロ株式会社製)、DBUのオルソフタル酸塩(U−CAT SA810)、およびDBUのフェノールノボラック樹脂塩(U−CAT SA810、SA831、SA841、SA851、881、サンアプロ株式会社製)などが挙げられる。
【0101】
本発明において、上記一般式(III)で示される化合物が、炭素繊維のカルボキシル基および水酸基等の酸素含有官能基の水素イオンを引き抜き、熱可塑性樹脂との求核反応を促進させるという観点から、1,5−ジアザビシクロ[4,3,0]−5−ノネンもしくはその塩、または、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセンもしくはその塩であることが好ましい。前記一般式(III)で示される化合物は、環状構造を有しているため、同じく環状の炭素網面を有する炭素繊維との親和性が高くなると考えられ、このことが、炭素繊維表面の酸素含有官能基の水素イオンの引き抜きを効率的かつ効果的におこなうことを可能にしていると考えられる。
【0102】
本発明において、上記一般式(IV)で示される化合物の具体例として、例えば、1,8−ビス(ジメチルアミノ)ナフタレン、1,8−ビス(ジエチルアミノ)ナフタレン、1,8−ビス(ジプロピルアミノ)ナフタレン、1,8−ビス(ジブチルアミノ)ナフタレン、1,8−ビス(ジペンチルアミノ)ナフタレン、1,8−ビス(ジヘキシルアミノ)ナフタレン、1−ジメチルアミノ−8−メチルアミノ−キノリジン、1−ジメチルアミノ−7−メチル−8−メチルアミノ−キノリジン、1−ジメチルアミノ−7−メチル−8−メチルアミノ−イソキノリン、7−メチル−1,8−メチルアミノ−2,7−ナフチリジン、および2,7−ジメチル−1,8−メチルアミノ−2,7−ナフチリジンなどが挙げられる。中でも、1,8−ビス(ジメチルアミノ)ナフタレンであることが好ましい。
【0103】
本発明において、上記一般式(V)で示される化合物の具体例として、例えば、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、2,4,6−トリス(ジエチルアミノメチル)フェノール、2,4,6−トリス(ジプロピルアミノメチル)フェノール、2,4,6−トリス(ジブチルアミノメチル)フェノール、2,4,6−トリス(ジペンチルアミノメチル)フェノール、および2,4,6−トリス(ジヘキシルアミノメチル)フェノールなどが挙げられる。
【0104】
本発明において、上記一般式(VI)で示される化合物の具体例として、ジイソブチルメタノールアミン、ジターシャリブチルメタノールアミン、ジ(2−エチルヘキシル)メタノールアミン、ジイソプロピルエタノールアミン、ジイソブチルエタノールアミン、ジターシャリブチルエタノールアミン、ジ(2−エチルヘキシル)エタノールアミン、ジイソプロピルプロパノールアミン、ジイソブチルプロパノールアミン、ジターシャリブチルプロパノールアミン、ジ(2−エチルヘキシル)プロパノールアミン、イソプロピルジメタノールアミン、イソブチルジメタノールアミン、ターシャリブチルジメタノールアミン、(2−エチルヘキシル)ジメタノールアミン、イソプロピルジエタノールアミン、イソブチルジエタノールアミン、ターシャリブチルジエタノールアミン、(2−エチルヘキシル)ジエタノールアミン、ジメチルイソプロパノールアミン、ジエチルイソプロパノールアミン、メチルジイソプロパノールアミン、エチルジイソプロパノールアミン、プロピルジイソプロパノールアミン、ブチルジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミンが挙げられる。
【0105】
本発明において、上記一般式(VI)で示される化合物が、トリイソプロパノールアミンもしくはその塩であることが好ましい。トリイソプロパノールアミンは3つの水酸基を有しているため、炭素繊維表面の酸素含有官能基への相互作用が高まり、効率的に炭素繊維表面の酸素含有官能基のプロトンを引き抜き、エポキシとの反応性を高めることができる。また、3つの分岐構造を有しているため、立体障害性が高まり、エポキシ環同士の反応を抑え、炭素繊維表面の酸素含有官能基とエポキシとの反応性を高めることができる。
【0106】
本発明において、(F1)の3級アミン化合物は、その共役酸の酸解離定数pKaが9以上のものが好ましく、より好ましくは11以上のものである。酸解離定数pKaが9以上の場合、炭素繊維表面の官能基とエポキシとの反応が促進され、接着向上効果が大きくなる。このような3級アミン化合物としては、具体的には、DBU(pKa12.5)、DBN(pKa12.7)や1,8−ビス(ジメチルアミノ)ナフタレン(pKa12.3)等が該当する。
【0107】
本発明において、(F1)の3級アミン化合物および/または3級アミン塩は、沸点が160℃以上のものが好ましく、より好ましくは160〜350℃の範囲内であり、さらに好ましくは160〜260℃の範囲内である。沸点が160℃未満の場合、繊維強化樹脂組成物を製造する過程で揮発が激しくなり反応促進効果が低下する場合がある。
【0108】
本発明において用いられる、(F1)の3級アミン化合物および/または3級アミン塩としては、脂肪族3級アミン類、芳香族含有脂肪族3級アミン類、芳香族3級アミン類および複素環式3級アミン類と、それらの塩が挙げられる。次に、具体例を挙げる。
【0109】
脂肪族3級アミン類の具体例としては、例えば、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリイソプロピルアミン、トリブチルアミン、トリペンチルアミン、トリヘキシルアミン、トリシクロヘキシルアミン、トリオクチルアミン、ジメチルプロピルアミン、ジメチルブチルアミン、ジメチルペンチルアミン、ジメチルヘキシルアミン、ジメチルシクロヘキシルアミン、ジメチルオクチルアミン、ジメチルデシルアミン、ジメチルドデシルアミン、ジメチルテトラデシルアミン、ジメチルヘキサデシルアミン、ジメチルオクタデシルアミン、ジメチルオレイルアミン、ジメチルドコシルアミン、ジエチルプロピルアミン、ジエチルブチルアミン、ジエチルペンチルアミン、ジエチルヘキシルアミン、ジエチルシクロヘキシルアミン、ジエチルオクチルアミン、ジエチルデシルアミン、ジエチルドデシルアミン、ジエチルテトラデシルアミン、ジエチルヘキサデシルアミン、ジエチルオクタデシルアミン、ジエチルオレイルアミン、ジエチルドコシルアミン、ジプロピルメチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、ジプロピルエチルアミン、ジプロピルブチルアミン、ジブチルメチルアミン、ジブチルエチルアミン、ジブチルプロピルアミン、ジヘキシルメチルアミン、ジヘキシルメチルアミン、ジヘキシルプロピルアミン、ジヘキシルブチルアミン、ジシクロヘキシルメチルアミン、ジシクロヘキシルエチルアミン、ジシクロヘキシルプロピルアミン、ジシクロヘキシルブチルアミン、ジオクチルメチルアミン、ジオクチルエチルアミン、ジオクチルプロピルアミン、ジデシルメチルアミン、ジデシルエチルアミン、ジデシルプロピルアミン、ジデシルブチルアミン、ジドデシルメチルアミン、ジドデシルエチルアミン、ジドデシルプロピルアミン、ジドデシルブチルアミン、ジテトラデシルメチルアミン、ジテトラデシルエチルアミン、ジテトラデシルプロピルアミン、ジテトラデシルブチルアミン、ジヘキサデシルメチルアミン、ジヘキサデシルエチルアミン、ジヘキサデシルプロピルアミン、ジヘキサデシルブチルアミン、トリメタノールアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、トリブタノールアミン、トリヘキサノールアミン、ジエチルメタノールアミン、ジプロピルメタノールアミン、ジイソプロピルメタノールアミン、ジブチルメタノールアミン、ジイソブチルメタノールアミン、ジターシャリブチルメタノールアミン、ジ(2−エチルヘキシル)メタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、ジプロピルエタノールアミン、ジイソプロピルエタノールアミン、ジブチルエタノールアミン、ジイソブチルエタノールアミン、ジターシャリブチルエタノールアミン、ジ(2−エチルヘキシル)エタノールアミン、ジメチルプロパノールアミン、ジエチルプロパノールアミン、ジプロピルプロパノールアミン、ジイソプロピルプロパノールアミン、ジブチルプロパノールアミン、ジイソブチルプロパノールアミン、ジターシャリブチルプロパノールアミン、ジ(2−エチルヘキシル)プロパノールアミン、メチルジメタノールアミン、エチルジメタノールアミン、プロピルジメタノールアミン、イソプロピルジメタノールアミン、ブチルジメタノールアミン、イソブチルジメタノールアミン、ターシャリブチルジメタノールアミン、(2−エチルヘキシル)ジメタノールアミン、メチルジエタノールアミン、エチルジエタノールアミン、プロピルジエタノールアミン、イソプロピルジエタノールアミン、ブチルジエタノールアミン、イソブチルジエタノールアミン、ターシャリブチルジエタノールアミン、(2−エチルヘキシル)ジエタノールアミン、ジメチルアミノエトキシエタノール、3級アミンを分子内に2個以上もつ化合物として、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,3−プロパンジアミン、N,N,N’,N’−テトラエチル−1,3−プロパンジアミン、N,N−ジエチル−N’,N’−ジメチル−1,3−プロパンジアミン、テトラメチル−1,6−ヘキサジアミン、ペンタメチルジエチレントリアミン、ビス(2−ジメチルアミノエチル)エーテル、およびトリメチルアミノエチルエタノールアミンなどが挙げられる。
【0110】
芳香族含有脂肪族3級アミン類の具体例としては、例えば、N,N’−ジメチルベンジルアミン、N,N’−ジエチルベンジルアミン、N,N’−ジプロピルベンジルアミン、N,N’−ジブチルベンジルアミン、N,N’−ジヘキシルベンジルアミン、N,N’−ジシクロヘキシルベンジルアミン、N,N’−ジオクチルベンジルアミン、N,N’−ジドデシルベンジルアミン、N,N’−ジオレイルベンジルアミン、N,N’−ジベンジルメチルアミン、N,N’−ジベンジルエチルアミン、N,N’−ジベンジルプロピルアミン、N,N’−ジベンジルブチルアミン、N,N’−ジベンジルヘキシルアミン、N,N’−ジベンジルシクロヘキシルアミン、N,N’−ジベンジルオクチルアミン、N,N’−ジベンジルドデシルアミン、N,N’−ジベンジルオレイルアミン、トリベンジルアミン、N,N’−メチルエチルベンジルアミン、N,N’−メチルプロピルベンジルアミン、N,N’−メチルブチルベンジルアミン、N,N’−メチルヘキシルベンジルアミン、N,N’−メチルシクロヘキシルベンジルアミン、N,N’−メチルオクチルベンジルアミン、N,N’−メチルドデシルベンジルアミン、N,N’−メチルオレイルベンジルアミン、N,N’−メチルヘキサデシルベンジルアミン、N,N’−メチルオクタデシルベンジルアミン、2−(ジメチルアミノメチル)フェノール、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、2,4,6−トリス(ジエチルアミノメチル)フェノール、2,4,6−トリス(ジプロピルアミノメチル)フェノール、2,4,6−トリス(ジブチルアミノメチル)フェノール、2,4,6−トリス(ジペンチルアミノメチル)フェノール、および2,4,6−トリス(ジヘキシルアミノメチル)フェノールなどが挙げられる。
【0111】
芳香族3級アミン類の具体例としては、例えば、トリフェニルアミン、トリ(メチルフェニル)アミン、トリ(エチルフェニル)アミン、トリ(プロピルフェニル)アミン、トリ(ブチルフェニル)アミン、トリ(フェノキシフェニル)アミン、トリ(ベンジルフェニル)アミン、ジフェニルメチルアミン、ジフェニルエチルアミン、ジフェニルプロピルアミン、ジフェニルブチルアミン、ジフェニルヘキシルアミン、ジフェニルシクロヘキシルアミン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、N,N−ジプロピルアニリン、N,N−ジブチルアニリン、N,N−ジヘキシルアニリン、N,N−ジシクロヘキシルアニリン、(メチルフェニル)ジメチルアミン、(エチルフェニル)ジメチルアミン、(プロピルフェニル)ジメチルアミン、(ブチルフェニル)ジメチルアミン、ビス(メチルフェニル)メチルアミン、ビス(エチルフェニル)メチルアミン、ビス(プロピルフェニル)メチルアミン、ビス(ブチルフェニル)メチルアミン、N,N−ジ(ヒドロキシエチル)アニリン、N,N−ジ(ヒドロキシプロピル)アニリン、N,N−ジ(ヒドロキシブチル)アニリン、およびジイソプロパノール−p−トルイジンなどが挙げられる。
【0112】
複素環式3級アミン類の具体例としては、例えば、ピコリン、イソキノリン、キノリン等のピリジン系化合物、イミダゾール系化合物、ピラゾール系化合物、モルホリン系化合物、ピペラジン系化合物、ピペリジン系化合物、ピロリジン系化合物、シクロアミジン系化合物、およびプロトンスポンジ誘導体が挙げられる。
【0113】
ピリジン系化合物としては、N,N−ジメチル−4アミノピリジン、ビピリジンおよび2,6−ルチジンなどが挙げられる。イミダゾール系化合物としては、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−エチル−4−イミダゾール、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾリウムトリメリテート、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾリウムトリメリテート、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール、1−(2−ヒドロキシエチル)イミダゾール、1−ベンジル−2−フォルミルイミダゾール、1−ベンジル−イミダゾールおよび1−アリルイミダゾールなどが挙げられる。ピラゾール系化合物としては、ピラゾールや1,4−ジメチルピラゾールなどが挙げられる。モルホリン系化合物としては、4−(2−ヒドロキシエチル)モルホリン、N−エチルモルホリン、N−メチルモルホリンおよび2,2‘−ジモルホリンジエチルエーテルなどが挙げられる。ピペラジン系化合物としては、1−(2−ヒドロキシエチル)ピペラジンやN,N−ジメチルピペラジンなどが挙げられる。ピペリジン系化合物としては、N−(2−ヒドロキシエチル)ピペリジン、N−エチルピペリジン、N−プロピルピペリジン、N−ブチルピペリジン、N−ヘキシルピペリジン、N−シクロヘキシルピペリジンおよびN−オクチルピペリジンなどが挙げられる。ピロリジン系化合物としては、N−ブチルピロリジンおよびN−オクチルピロリジンなどが挙げられる。シクロアミジン系化合物としては、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセン(DBU)、1,5−ジアザビシクロ[4,3,0]−5−ノネン(DBN)、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、および5、6−ジブチルアミノ−1,8−ジアザ−ビシクロ[5,4,0]ウンデセン−7(DBA)を挙げることができる。その他の複素環指揮アミン類として、ヘキサメチレンテトラミン、ヘキサエチレンテトラミンおよびヘキサプロピルテトラミンを挙げることができる。
【0114】
上記のDBU塩としては、具体的には、DBUのフェノール塩(U−CAT SA1、サンアプロ株式会社製)、DBUのオクチル酸塩(U−CAT SA102、サンアプロ株式会社製)、DBUのp−トルエンスルホン酸塩(U−CAT SA506、サンアプロ株式会社製)、DBUのギ酸塩(U−CAT SA603、サンアプロ株式会社製)、DBUのオルソフタル酸塩(U−CAT SA810)、およびDBUのフェノールノボラック樹脂塩(U−CAT SA810、SA831、SA841、SA851、881、サンアプロ株式会社製)などが挙げられる。
【0115】
前記のプロトンスポンジ誘導体の具体例としては、例えば、1,8−ビス(ジメチルアミノ)ナフタレン、1,8−ビス(ジエチルアミノ)ナフタレン、1,8−ビス(ジプロピルアミノ)ナフタレン、1,8−ビス(ジブチルアミノ)ナフタレン、1,8−ビス(ジペンチルアミノ)ナフタレン、1,8−ビス(ジヘキシルアミノ)ナフタレン、1−ジメチルアミノ−8−メチルアミノ−キノリジン、1−ジメチルアミノ−7−メチル−8−メチルアミノ−キノリジン、1−ジメチルアミノ−7−メチル−8−メチルアミノ−イソキノリン、7−メチル−1,8−メチルアミノ−2,7−ナフチリジン、および2,7−ジメチル−1,8−メチルアミノ−2,7−ナフチリジンなどが挙げられる。
【0116】
これらの3級アミン化合物および3級アミン塩の中でも、炭素繊維表面の酸素含有官能基とエポキシ樹脂との反応促進効果が高く、かつ、エポキシ環同士の反応を抑制できるという観点から、トリイソプロピルアミン、ジブチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、ジイソプロピルエチルアミン、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、2,6−ルチジン、DBU、DBU塩、DBN、DBN塩および1,8−ビス(ジメチルアミノ)ナフタレンが好ましく用いられる。
【0117】
また、ヒンダードアミン系化合物としては、ブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸テトラキス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)(例えば、LA−52(ADEKA社製))、セバシン酸ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)(例えば、LA−72(ADEKA社製)、TINUVIN765(BASF社製))、炭酸=ビス(2,2,6,6−テトラメチル−1−ウンデシルオキシピペリジン−4−イル)(例えば、LA−81(ADEKA社製))、メタクリル酸1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル(例えば、LA−82(ADEKA社製))、マロン酸−2−((4−メトキシフェニル)メチレン)、1,3−ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)エステル、Chimassorb119、2−ドデシル−N−(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)スクシン−イミド、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸1−ヘキサデシル2,3,4−トリス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸1,2,3−トリス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)4−トリデシル、デカン二酸1−メチル10−(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)、4−(エテニルオキシ)−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン、2−((3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル)メチル)−2−ブチルプロパン二酸ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)、4−ヒドロキシ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン、1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン、LA−63P(ADEKA社製)、LA−68(ADEKA社製)、TINUVIN622LD(BASF社製)、TINUVIN144(BASF社製)などが挙げられる。
【0118】
これらの3級アミン化合物と3級アミン塩は、単独で用いても良いし、複数種を併用しても良い。
【0119】
次に、(F2)について説明する。
【0120】
本発明で用いられる(F2)上記の一般式(I)または(II)のいずれかで示される、カチオン部位を有する4級アンモニウム塩の配合により共有結合形成が促進されるメカニズムは明確ではないが、特定の構造を有する4級アンモニウム塩のみでかかる効果が得られる。したがって、上記一般式(I)または(II)のR〜Rが、それぞれ炭素数1〜22の炭化水素基、炭素数1〜22の炭化水素とエーテル構造を含む基、炭素数1〜22のエステル構造を含む基、または炭素数1〜22の炭化水素と水酸基を含む基のいずれかであることが必要である。炭素数が23以上では、理由は明確ではないが、界面接着性が不十分となる。
【0121】
ここで、炭素数1〜22の炭化水素基とは、炭素原子と水素原子のみからなる基であり、飽和炭化水素基および不飽和炭化水素基のいずれでも良く、環構造を含んでも含まなくても良い。炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、オレイル基、ドコシル基、ベンジル基およびフェニル基等が挙げられる。
【0122】
また、炭素数1〜22の炭化水素とエーテル構造を含む基としては、例えば、メトキシメチル基、エトキシメチル基、プロポキシメチル基、ブトキシメチル基、フェノキシメチル基、メトキシエチル基、エトキシエチル基、プロポキシエチル基、ブトキシエチル基、フェノキシエチル基、メトキシエトキシメチル基、メトキシエトキシエチル基、ポリエチレングリコール基およびポリプロピレングリコール基等のポリエーテル基が挙げられる。
【0123】
また、炭素数1〜22の炭化水素とエステル構造を含む基としては、例えば、アセトキシメチル基、アセトキシエチル基、アセトキシプロピル基、アセトキシブチル基、メタクリロイルオキシエチル基およびベンゾイルオキシエチル基等が挙げられる。
【0124】
また、炭素数1〜22の炭化水素と水酸基を含む基としては、例えば、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、ヒドロキシブチル基、ヒドロキシペンチル基、ヒドロキシヘキシル基、ヒドロキシシクロヘキシル基、ヒドロキシオクチル基、ヒドロキシデシル基、ヒドロキシドデシル基、ヒドロキシテトラデシル基、ヒドロキシヘキサデシル基、ヒドロキシオクタデシル基、ヒドロキシオレイル基、ヒドロキシドコシル基等が挙げられる。
【0125】
中でも、(F2)カチオン部位を有する4級アンモニウム塩のR〜Rの炭素数は、1〜14の範囲内であることが好ましく、より好ましくは1〜8の範囲内である。炭素数が14未満であると、4級アンモニウム塩が反応促進剤として働く際に、立体障害が適度に小さく反応促進効果が高くなり、界面接着性がさらに向上する。
【0126】
また、本発明において、上記一般式(I)で示される(F2)カチオン部位を有する4級アンモニウム塩のRとRの炭素数は、2以上であることが好ましく、より好ましくは3以上であり、さらに好ましくは4以上である。炭素数が2以上であると、4級アンモニウム塩が開始剤としてはたらくことによるエポキシ樹脂の単独重合が抑えられ、界面接着性がさらに向上する。
【0127】
また、本発明において、上記一般式(II)で示される(F2)カチオン部位を有する4級アンモニウム塩のRとRは、それぞれ水素、炭素数1〜8の炭化水素基、炭素数1〜8の炭化水素とエーテル構造を含む基、または炭素数1〜8の炭化水素とエステル構造を含む基のいずれかであることが好ましい。水素または炭素数が8未満であると、分子中における活性部位の比率が高く、少量でも大きな界面接着性向上効果が得られる。
【0128】
本発明において、(F2)カチオン部位を有する4級アンモニウム塩のカチオン部位の分子量は、100〜400g/molの範囲内であることが好ましく、より好ましくは100〜300g/molの範囲内であり、さらに好ましくは100〜200g/molの範囲内である。カチオン部位の分子量が100g/mol以上であると、熱処理中にも揮発が抑えられ、少量でも大きな界面接着性向上効果が得られる。一方、カチオン部位の分子量が400g/mol以下であると、分子中における活性部位の比率が高く、やはり少量でも大きな界面接着性向上効果が得られる。
【0129】
本発明において、(F2)カチオン部位を有する4級アンモニウム塩のアニオン部位としては、例えば、フッ化物アニオン、塩化物アニオン、臭化物アニオンおよびヨウ化物アニオンのハロゲンイオンが挙げられる。また、例えば、水酸化物アニオン、酢酸アニオン、シュウ酸アニオン、硫酸アニオン、ベンゼンスルホン酸アニオン、およびトルエンスルホン酸アニオンが挙げられる。
【0130】
中でも、対イオンとしては、サイズが小さく、4級アンモニウム塩の反応促進効果を阻害しないという観点から、ハロゲンイオンであることが好ましい。
【0131】
本発明において、これらの4級アンモニウム塩は、単独で用いても良いし複数種を併用しても良い。
【0132】
本発明において、(F2)カチオン部位を有する4級アンモニウム塩としては、例えば、トリメチルオクタデシルアンモニウムクロリド、トリメチルオクタデシルアンモニウムブロミド、トリメチルオクタデシルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルオクタデシルアンモニウムアセタート、トリメチルオクタデシルアンモニウム安息香酸塩、トリメチルオクタデシルアンモニウム−p−トルエンスルホナート、トリメチルオクタデシルアンモニウム塩酸塩、トリメチルオクタデシルアンモニウムテトラクロロヨウ素酸塩、トリメチルオクタデシルアンモニウム硫酸水素塩、トリメチルオクタデシルアンモニウムメチルスルファート、ベンジルトリメチルアンモニウムクロリド、ベンジルトリメチルアンモニウムブロミド、ベンジルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリメチルアンモニウムアセタート、ベンジルトリメチルアンモニウム安息香酸塩、ベンジルトリメチルアンモニウム−p−トルエンスルホナート、テトラブチルアンモニウムクロリド、テトラブチルアンモニウムブロミド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムアセタート、テトラブチルアンモニウム安息香酸塩、テトラブチルアンモニウム−p−トルエンスルホナート、(2−メトキシエトキシメチル)トリエチルアンモニウムクロリド、(2−メトキシエトキシメチル)トリエチルアンモニウムブロミド、(2−メトキシエトキシメチル)トリエチルアンモニウムヒドロキシド、(2−メトキシエトキシメチル)トリエチルアンモニウム−p−トルエンスルホナート、(2−アセトキシエチル)トリメチルアンモニウムクロリド、(2−アセトキシエチル)トリメチルアンモニウムブロミド、(2−アセトキシエチル)トリメチルアンモニウムヒドロキシド、(2−アセトキシエチル)トリメチルアンモニウム−p−トルエンスルホナート、(2−ヒドロキシエチル)トリメチルアンモニウムクロリド、(2−ヒドロキシエチル)トリメチルアンモニウムブロミド、(2−ヒドロキシエチル)トリメチルアンモニウムヒドロキシド、(2−ヒドロキシエチル)トリメチルアンモニウム−p−トルエンスルホナート、ビス(ポリオキシエチレン)ジメチルアンモニウムクロリド、ビス(ポリオキシエチレン)ジメチルアンモニウムブロミド、ビス(ポリオキシエチレン)ジメチルアンモニウムヒドロキシド、ビス(ポリオキシエチレン)ジメチルアンモニウム−p−トルエンスルホナート、1−ヘキサデシルピリジニウムクロリド、1−ヘキサデシルピリジニウムブロミド、1−ヘキサデシルピリジニウムヒドロキシド、および1−ヘキサデシルピリジニウム−p−トルエンスルホナート等が挙げられる。
【0133】
次に、(F3)について説明する。
【0134】
本発明で用いられる(F3)4級ホスホニウム塩またはホスフィン化合物は、好ましくは、次の一般式(IX)、(X)で示されるいずれかの4級ホスホニウム塩またはホスフィン化合物である。
【0135】
【化11】
【0136】
【化12】
【0137】
(上記化学式中、R30〜R36はそれぞれ炭素数1〜22の炭化水素基、炭素数1〜22の炭化水素とエーテル構造を含む基、炭素数1〜22の炭化水素とエステル構造を含む基、または炭素数1〜22の炭化水素と水酸基を含む基のいずれかを表す)
上記一般式(IX)または(X)のR30〜R36が、それぞれ炭素数1〜22の炭化水素基、炭素数1〜22の炭化水素とエーテル構造を含む基、炭素数1〜22のエステル構造を含む基、または炭素数1〜22の炭化水素と水酸基を含む基のいずれかであることが好ましい。炭素数が23以上になると、理由は明確ではないが、界面接着性が不十分となる場合がある。
【0138】
ここで、炭素数1〜22の炭化水素基とは、炭素原子と水素原子のみからなる基であり、飽和炭化水素基および不飽和炭化水素基のいずれでも良く、環構造を含んでも含まなくても良い。炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、オレイル基、ドコシル基、ビニル基、2−プロピニル基、ベンジル基、フェニル基、シンナミル基、およびナフチルメチル基等が挙げられる。
【0139】
また、炭素数1〜22の炭化水素とエーテル構造を含む基としては、直鎖状のものとして、例えば、メトキシメチル基、エトキシメチル基、プロポキシメチル基、ブトキシメチル基、フェノキシメチル基、メトキシエチル基、エトキシエチル基、プロポキシエチル基、ブトキシエチル基、フェノキシエチル基、メトキシエトキシメチル基、メトキシエトキシエチル基、ポリエチレングリコール基、およびポリプロピレングリコール基等のポリエーテル基が挙げられる。また、環状のものとして、例えば、エチレンオキシド、テトラヒドロフラン、オキセパン、および1,3−ジオキソラン等が挙げられる。
【0140】
また、炭素数1〜22の炭化水素とエステル構造を含む基としては、例えば、アセトキシメチル基、アセトキシエチル基、アセトキシプロピル基、アセトキシブチル基、メタクリロイルオキシエチル基、およびベンゾイルオキシエチル基等が挙げられる。
【0141】
また、炭素数1〜22の炭化水素と水酸基を含む基としては、例えば、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、ヒドロキシブチル基、ヒドロキシペンチル基、ヒドロキシヘキシル基、ヒドロキシシクロヘキシル基、ヒドロキシオクチル基、ヒドロキシデシル基、ヒドロキシドデシル基、ヒドロキシテトラデシル基、ヒドロキシヘキサデシル基、ヒドロキシオクタデシル基、ヒドロキシオレイル基、およびヒドロキシドコシル基等が挙げられる。
【0142】
中でも、(F3)4級ホスホニウム塩またはホスフィン化合物のR30〜R36の炭素数は、1〜14の範囲内であることが好ましい。炭素数が14未満であると、4級アンモニウム塩が反応促進剤として働く際に、立体障害が適度に小さく反応促進効果が高くなり、界面接着性がさらに向上する。
【0143】
また、本発明において、上記一般式(IX)で示される(F3)4級ホスホニウム塩のR30〜R33の炭素数は、2以上であることが好ましく、より好ましくは3以上であり、さらに好ましくは4以上である。炭素数が2以上であると、4級ホスホニウム塩が開始剤として働くことによるエポキシ樹脂の単独重合が抑えられ、界面接着性がさらに向上する。
【0144】
また、本発明において、上記一般式(X)で示される(F3)ホスフィン化合物のR34とR35は、それぞれ、炭素数1〜8の炭化水素基、炭素数1〜8の炭化水素とエーテル構造を含む基、または炭素数1〜8の炭化水素とエステル構造を含む基のいずれかであることが好ましい。炭素数が8以下であると、分子中における活性部位の比率が高く、少量でも大きな界面接着性向上効果が得られる。
【0145】
本発明において、(F3)4級ホスホニウム塩のカチオン部位の分子量は、100〜400g/molの範囲内であることが好ましく、より好ましくは100〜300g/molの範囲内であり、さらに好ましくは100〜200g/molの範囲内である。カチオン部位の分子量が100g/mol以上であると、熱処理中にも揮発が抑えられ、少量でも大きな界面接着性向上効果が得られる。一方、カチオン部位の分子量が400g/mol以下であると、分子中における活性部位の比率が高く、やはり少量でも大きな界面接着性向上効果が得られる。
【0146】
本発明において、(F3)4級ホスホニウム塩のアニオン部位としては、例えば、フッ化物アニオン、塩化物アニオン、臭化物アニオンおよびヨウ化物アニオンのハロゲンイオンが挙げられる。また、例えば、水酸化物アニオン、酢酸アニオン、シュウ酸アニオン、硫酸アニオン、ベンゼンスルホン酸アニオン、テトラフェニルボレートイオン、テトラフルオロボレートイオン、ヘキサフルオロホスフェートイオン、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドイオン、およびトルエンスルホン酸アニオンが挙げられる。
【0147】
本発明において、これらの4級ホスホニウム塩は、単独で用いても良いし複数種を併用しても良い。
【0148】
本発明において、(F3)4級ホスホニウム塩としては、例えば、トリメチルオクタデシルホスホニウムクロリド、トリメチルオクタデシルホスホニウムブロミド、トリメチルオクタデシルホスホニウムヒドロキシド、トリメチルオクタデシルホスホニウムアセタート、トリメチルオクタデシルホスホニウム安息香酸塩、トリメチルオクタデシルホスホニウム−p−トルエンスルホナート、トリメチルオクタデシルホスホニウム塩酸塩、トリメチルオクタデシルホスホニウムテトラクロロヨウ素酸塩、トリメチルオクタデシルホスホニウム硫酸水素塩、トリメチルオクタデシルホスホニウムメチルスルファート、ベンジルトリメチルホスホニウムクロリド、ベンジルトリメチルホスホニウムブロミド、ベンジルトリメチルホスホニウムヒドロキシド、ベンジルトリメチルホスホニウムアセタート、ベンジルトリメチルホスホニウム安息香酸塩、ベンジルトリメチルホスホニウム−p−トルエンスルホナート、テトラブチルホスホニウムクロリド、テトラブチルホスホニウムブロミド、テトラブチルホスホニウムヒドロキシド、テトラブチルホスホニウムアセタート、テトラブチルホスホニウム安息香酸塩、テトラブチルホスホニウム−p−トルエンスルホナート、(2−メトキシエトキシメチル)トリエチルホスホニウムクロリド、(2−メトキシエトキシメチル)トリエチルホスホニウムブロミド、(2−メトキシエトキシメチル)トリエチルホスホニウムヒドロキシド、(2−メトキシエトキシメチル)トリエチルホスホニウム−p−トルエンスルホナート、(2−アセトキシエチル)トリメチルホスホニウムクロリド、(2−アセトキシエチル)トリメチルホスホニウムブロミド、(2−アセトキシエチル)トリメチルホスホニウムヒドロキシド、(2−アセトキシエチル)トリメチルホスホニウム−p−トルエンスルホナート、(2−ヒドロキシエチル)トリメチルホスホニウムクロリド、(2−ヒドロキシエチル)トリメチルホスホニウムブロミド、(2−ヒドロキシエチル)トリメチルホスホニウムヒドロキシド、(2−ヒドロキシエチル)トリメチルホスホニウム−p−トルエンスルホナート、ビス(ポリオキシエチレン)ジメチルホスホニウムクロリド、ビス(ポリオキシエチレン)ジメチルホスホニウムブロミド、ビス(ポリオキシエチレン)ジメチルホスホニウムヒドロキシド、ビス(ポリオキシエチレン)ジメチルホスホニウム−p−トルエンスルホナート、テトラフェニルホスホニウムブロミド、およびテトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート等が挙げられる。
【0149】
また、上記一般式(IX)以外の(F3)4級ホスホニウム塩として、アセトニルトリフェニルホスホニウムクロリド、1H−ベンゾトリアゾール−1−イルオキシトリピロリジノホスホニウムヘキサフルオロホスファート、1H−ベンゾトリアゾール−1−イルオキシトリス(ジメチルアミノ)ホスホニウムヘキサフルオロホスファート、トランス−2−ブテンー1,4−ビス(トリフェニルホスホニウムクロリド)、(4−カルボキシブチル)トリフェニルホスホニウムブロミド、(4−カルボキシプロピル)トリフェニルホスホニウムブロミド、(2,4−ジクロロベンジル)トリフェニルホスホニウムクロリド、2−ジメチルアミノエチルトリフェニルホスホニウムブロミド、エトキシカルボニルメチル(トリフェニル)ホスホニウムブロミド、(ホルミルメチル)トリフェニルホスホニウムクロリド、N−メチルアニリノトリフェニルホスホニウムヨージド、およびフェナシルトリフェニルホスホニウムブロミド等が挙げられる。
【0150】
上記サイジング剤は、(E)成分と、(F)成分以外の成分を1種類以上含んでも良い。例えば、ポリエチレンオキサイドやポリプロピレンオキサイド等のポリアルキレンオキサイド、高級アルコール、多価アルコール、アルキルフェノール、およびスチレン化フェノール等にポリエチレンオキサイドやポリプロピレンオキサイド等のポリアルキレンオキサイドが付加した化合物、およびエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとのブロック共重合体等のノニオン系界面活性剤が好ましく用いられる。また、本発明の効果に影響しない範囲で、適宜、ポリエステル樹脂、および不飽和ポリエステル化合物等を添加してもよい。
【0151】
本発明において、炭素繊維に塗布され乾燥されたサイジング剤層の厚さは、2〜20nmの範囲内で、かつ、厚さの最大値が最小値の2倍を超えないことが好ましい。このような厚さの均一なサイジング剤層により、安定して大きな界面接着性向上効果が得られ、さらには、安定して高次加工性が優れる。
【0152】
本発明の繊維強化樹脂組成物において、カルボジイミド化合物(B)は最終的に熱可塑性樹脂(A)中に分散、あるいは相溶していればよいが、より好ましくはカルボジイミド化合物(B)が、サイジング剤(D)で表面処理された炭素繊維(C)の表面上に一定以上凝集したモルフォロジーをとることが好ましい。かかるモルフォロジーを分析するための指標としては、熱可塑性樹脂(A)がポリアリーレンスルフィドの場合には前記ポリアリーレンスルフィドとカルボジイミド化合物(B)の硫黄元素の含有量の差を利用し、エネルギー分散型X線分光法(EDX)で測定される硫黄濃度比S/Cを用いる方法が例示できる。
【0153】
図1は、本発明の繊維強化樹脂組成物を炭素繊維(C)の単糸の軸心方向に直交する断面で観察した例を模式的に表したものである。炭素繊維(C)の断面の外周で硫黄元素濃度が低い領域は、熱可塑性樹脂(A)とカルボジイミド化合物(B)を含むマトリクス樹脂の内カルボジイミド化合物(B)の割合が多い領域と炭素繊維(C)の表面を覆ったサイジング剤(D)から構成される。
【0154】
本発明の繊維強化樹脂組成物は、エネルギー分散型X線分光法(EDX)で測定される硫黄濃度比S/Cが下記式を満たすことが好ましい。
【0155】
10(%) ≦ ΔS = (S2−S1)/S2 × 100 ≦ 70(%)
(ここで、ΔSは炭素繊維(C)の軸心方向に直交する断面で見た硫黄元素濃度の勾配であり、S1は炭素繊維(C)の断面円の外側に法線方向に500nmの距離で引いた円の内側から炭素繊維(C)を除いた領域(T1)の硫黄濃度比S/Cであり、S2は前記領域(T1)の外側に法線方向に500nmの距離で引いた円の内側から炭素繊維(C)と前記領域(T1)を除いた領域(T2)の硫黄濃度比S/Cである。)
前記ΔSは界面状態の指標である。本発明の繊維強化樹脂組成物において好ましいΔSの下限は10%であるが、20%がより好ましく、30%がさらに好ましい。ΔSが10%以上の場合、カルボジイミド化合物(B)の炭素繊維(C)への凝集が十分であり、得られる繊維強化樹脂組成物の曲げ強度、引張強度や伸度等の力学特性が向上する。本発明の繊維強化樹脂組成物において好ましいΔSの上限は70%であるが、60%がより好ましく、50%がさらに好ましい。ΔSが70%以下の場合、カルボジイミド化合物(B)の炭素繊維(C)への凝集を防ぎ、得られる繊維強化樹脂組成物の曲げ強度、引張強度や伸度等の力学特性の向上効果が十分にみられる。
【0156】
図2は、本発明の繊維強化樹脂組成物を炭素繊維(C)の単糸の軸心方向に直交する断面で観察した例を模式的に表したものである。領域(T1)は、炭素繊維(C)の外側に同心円状に存在し、さらに領域(T2)は、前記領域(T1)の外側に同心円状に存在する。
【0157】
図3は、本発明の繊維強化樹脂組成物を炭素繊維(C)の単糸の軸心方向に直交する断面を炭素繊維(C)の外周近傍で拡大し観察した例を模式的に表したものである。
【0158】
本発明の繊維強化樹脂組成物において、前記領域(T2)におけるエネルギー分散型X線分光法(EDX)で測定される硫黄濃度比S/Cは0.05〜0.45が好ましく、0.10〜0.40がより好ましく、0.10〜0.20がさらに好ましい。前記領域(T2)のS/Cがこの範囲にあることで熱可塑性樹脂(A)の高い弾性率が効率よく発揮でき、得られる繊維強化樹脂組成物が引張強度や伸度等の力学特性に、より優れるものとなる。
【0159】
次に本発明の繊維強化樹脂組成物の製造方法について説明する。
【0160】
本発明の繊維強化樹脂組成物の製造方法は、押出機を用い、250〜400℃のシリンダー温度で前記熱可塑性樹脂(A)、カルボジイミド化合物(B)と前記サイジング剤(D)で表面処理された炭素繊維(C)を溶融混練することが好ましい。
【0161】
押出機としては、単軸押出機や二軸押出機が例示でき、中でも混練性に優れる二軸押出機を好ましく用いることができる。二軸押出機としては、スクリュー長さLとスクリュー直径Dの比L/Dが20〜100であるものが例示できる。さらに、二軸押出機のスクリューは、フルフライトやニーディングディスクなどの長さや形状的特長が異なるスクリューセグメントが組み合わされて構成されるが、混練性と反応性の向上の点から、1個以上のニーディングディスクを含むことが好ましい。溶融混練の際のシリンダー温度としては、混練性と反応性の向上の点から250〜400℃が好ましく、280〜350℃がより好ましい。かかる構成の二軸押出機を用いることで、二軸押出機のシリンダー内で各成分の官能基同士の反応が進行し、得られる繊維強化樹脂組成物の曲げ強度、引張強度などの力学特性が向上する。
【0162】
前記押出機を用いて本発明の繊維強化樹脂組成物を得る為の第1の方法としては、特定のサイジング剤(D)で表面処理されている炭素繊維(C)とカルボジイミド化合物(B)と熱可塑性樹脂(A)とを溶融混練する方法が挙げられる。より好ましくは、特定のサイジング剤(D)で表面処理されている炭素繊維(C)の投入を出来るだけ早めに実施する。炭素繊維(C)の投入を早くすることで、炭素繊維(C)とカルボジイミド化合物(B)が反応あるいは、相互作用により接近し、カルボジイミド化合物(B)が炭素繊維(C)の周辺500nm以下に局在化することで繊維強化樹脂組成物において、特定のサイジング剤(D)で表面処理されている炭素繊維(C)とカルボジイミド化合物(B)の界面強度を高め、曲げ強度、引張強度などの力学特性を向上させることができるため好ましい。また、押出機のシリンダー温度を低くすることで、溶融時にカルボジイミド化合物(B)を流動しにくくして、繊維強化樹脂組成物のマトリックス樹脂中での拡散を制御し、強化繊維の周辺にカルボジイミド化合物(B)を局在化させることも可能である。この方法では、炭素繊維(C)がランダムに分散した溶融混練物が得られ、この溶融混練物をペレットとすることで射出成形などに好適に用いられる。射出成形によって成形する場合、複雑形状の成形品を生産性良く製造できる。また、射出成形の際にもシリンダー温度を低くすることで、溶融時にカルボジイミド化合物(B)を流動しにくくして、繊維強化樹脂組成物のマトリックス樹脂中での拡散を制御し、強化繊維の周辺にカルボジイミド化合物(B)を局在化させることも可能である。
【0163】
前記押出機を用いて本発明の繊維強化樹脂組成物を得る為の第2の方法としては、カルボジイミド化合物(B)と熱可塑性樹脂(A)を予め溶融混練した樹脂組成物を炭素繊維(C)を用いた繊維基材と複合化させる方法が挙げられる。この場合、カルボジイミド化合物(B)と熱可塑性樹脂(A)を予め混合した場合でも、該樹脂組成物を炭素繊維(C)と複合化させる際に、カルボジイミド化合物(B)が熱可塑性樹脂(A)と反応しないで単純に混合された状態である。そのため、炭素繊維(C)とカルボジイミド化合物(B)が反応あるいは、相互作用により接近し、カルボジイミド化合物(B)が炭素繊維(C)の周辺500nm以下に局在化することで、繊維強化樹脂組成物において、炭素繊維(C)とカルボジイミド化合物(B)の界面強度を高め、曲げ強度、引張強度などの力学特性を向上させることができるため好ましい。前記繊維基材の形状としては、例えば連続した強化繊維を一方向に配列させてシート状とした一方向配列基材、織物(クロス)、不織布、マット、編み物、組み紐、ヤーン、トウ、等が挙げられる。前記複合化の形態としては、含浸、被覆、積層などが挙げられるが、ボイドなどが少なく、曲げ強度、引張強度や伸度等の力学特性に優れる繊維強化樹脂組成物が得られる為に、前記樹脂組成物を前記繊維基材に含浸させたものが好ましい。このような繊維強化樹脂組成物は、プレス成形、スタンピング成形、オートクレーブ成形、フィラメントワインディング成形、トランスファー成形、細かくした基材であれば射出成形によって成形できる。中でも、成形品の生産性と力学特性のバランスからプレス成形とスタンピング成形および射出成形が好ましく用いられる。
【0164】
次に、炭素繊維(C)の製造方法について説明する。
【0165】
炭素繊維(C)にPAN系炭素繊維を用いる場合には、炭素繊維の前駆体繊維を得るための紡糸方法としては、湿式、乾式および乾湿式等の紡糸方法を用いることができる。中でも、高強度の炭素繊維が得られやすいという観点から、湿式あるいは乾湿式紡糸方法を用いることが好ましい。紡糸原液には、ポリアクリロニトリルのホモポリマーあるいは共重合体の溶液や懸濁液等を用いることができる。
【0166】
上記の紡糸原液を口金に通して紡糸、凝固、水洗、延伸して前駆体繊維とし、得られた前駆体繊維を耐炎化処理と炭化処理し、必要によってはさらに黒鉛化処理をすることにより炭素繊維を得る。炭化処理と黒鉛化処理の条件としては、最高熱処理温度が1100℃以上であることが好ましく、より好ましくは1400〜3000℃である。
【0167】
本発明において、強度と弾性率の高い炭素繊維を得られるという観点から、細繊度の炭素繊維が好ましく用いられる。具体的には、炭素繊維の単繊維径が、7.5μm以下であることが好ましい。単繊維径の下限は特にないが、4.5μm以下では工程における単繊維切断が起きやすく生産性が低下する場合がある。
【0168】
得られた炭素繊維は、熱可塑性樹脂との界面接着性を向上させるために、通常、酸化処理が施され、酸素含有官能基が導入される。酸化処理方法としては、気相酸化、液相酸化および液相電解酸化が用いられるが、生産性が高く、均一処理ができるという観点から、液相電解酸化が好ましく用いられる。
【0169】
本発明において、液相電解酸化で用いられる電解液としては、酸性電解液およびアルカリ性電解液が挙げられる。
【0170】
酸性電解液としては、例えば、硫酸、硝酸、塩酸、燐酸、ホウ酸、および炭酸等の無機酸、酢酸、酪酸、シュウ酸、アクリル酸、およびマレイン酸等の有機酸、または硫酸アンモニウムや硫酸水素アンモニウム等の塩が挙げられる。中でも、強酸性を示す硫酸と硝酸が好ましく用いられる。
【0171】
アルカリ性電解液としては、具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムおよび水酸化バリウム等の水酸化物の水溶液、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウムおよび炭酸アンモニウム等の炭酸塩の水溶液、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素バリウムおよび炭酸水素アンモニウム等の炭酸水素塩の水溶液、アンモニア、水酸化テトラアルキルアンモニウムおよびヒドラジンの水溶液等が挙げられる。中でも、アルカリ金属を含まないという観点から、炭酸アンモニウムおよび炭酸水素アンモニウムの水溶液、あるいは、強アルカリ性を示す水酸化テトラアルキルアンモニウムの水溶液が好ましく用いられる。
【0172】
本発明において、化合物(E)と、炭素繊維表面の酸素含有官能基との共有結合形成が促進され、界面接着性がさらに向上するという観点から、炭素繊維をアルカリ性電解液で電解処理した後、または酸性水溶液中で電解処理し続いてアルカリ性水溶液で洗浄した後、サイジング剤を塗布することが好ましい。電解処理した場合、炭素繊維表面において過剰に酸化された部分が脆弱層となって界面に存在し、複合材料にした場合の破壊の起点となる場合があるため、過剰に酸化された部分をアルカリ性水溶液で溶解除去することにより共有結合形成が促進されるものと考えられる。また、炭素繊維表面に酸性電解液の残渣が存在すると、残渣中のプロトンが(F)成分に補足され、本来果たすべき役割である(F)成分による炭素繊維表面の酸素含有官能基の水素イオンを引き抜く効果が低下する場合がある。このため、酸性水溶液中で電解処理し続いてアルカリ性水溶液で酸性電解液を中和洗浄することが好ましい。上記の理由から、特定の処理を施した炭素繊維とサイジング剤の組み合わせにより、さらなる接着向上を得ることができる。
【0173】
本発明において用いられる電解液の濃度は、0.01〜5モル/リットルの範囲内であることが好ましく、より好ましくは0.1〜1モル/リットルの範囲内である。電解液の濃度が0.01モル/リットル以上であると、電解処理電圧が下げられ、運転コスト的に有利になる。一方、電解液の濃度が5モル/リットル以下であると、安全性の観点から有利になる。
【0174】
本発明において用いられる電解液の温度は、10〜100℃の範囲内であることが好ましく、より好ましくは10〜40℃の範囲内である。電解液の温度が10℃以上であると、電解処理の効率が向上し、運転コスト的に有利になる。一方、電解液の温度が100℃以下であると、安全性の観点から有利になる。
【0175】
本発明において、液相電解酸化における電気量は、炭素繊維の炭化度に合わせて最適化することが好ましく、高弾性率の炭素繊維に処理を施す場合、より大きな電気量が必要である。
【0176】
本発明において、液相電解酸化における電流密度は、電解処理液中の炭素繊維の表面積1m当たり1.5〜1000アンペア/mの範囲内であることが好ましく、より好ましくは3〜500アンペア/mの範囲内である。電流密度が1.5アンペア/m以上であると、電解処理の効率が向上し、運転コスト的に有利になる。一方、電流密度が1000アンペア/m以下であると、安全性の観点から有利になる。
【0177】
本発明において、(A)エポキシ化合物と、炭素繊維表面の酸素含有官能基との共有結合形成が促進され、界面接着性がさらに向上するという観点から、酸化処理の後、炭素繊維をアルカリ性水溶液で洗浄することが好ましい。中でも、酸性電解液で液相電解処理し続いてアルカリ性水溶液で洗浄することが好ましい。
【0178】
本発明において、洗浄に用いられるアルカリ性水溶液のpHは、7〜14の範囲内であることが好ましく、より好ましくは10〜14の範囲内である。アルカリ性水溶液としては、具体的には水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムおよび水酸化バリウム等の水酸化物の水溶液、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウムおよび炭酸アンモニウム等の炭酸塩の水溶液、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素バリウムおよび炭酸水素アンモニウム等の炭酸水素塩の水溶液、アンモニア、水酸化テトラアルキルアンモニウムおよびヒドラジンの水溶液等が挙げられる。中でも、アルカリ金属を含まないという観点から、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウムの水溶液、あるいは、強アルカリ性を示す水酸化テトラアルキルアンモニウムの水溶液が好ましく用いられる。
【0179】
本発明において、炭素繊維をアルカリ性水溶液で洗浄する方法としては、例えば、ディップ法とスプレー法を用いることができる。中でも、洗浄が容易であるという観点から、ディップ法を用いることが好ましく、さらには、炭素繊維を超音波で加振させながらディップ法を用いることが好ましい態様である。
【0180】
本発明において、炭素繊維を電解処理またはアルカリ性水溶液で洗浄した後、水洗および乾燥することが好ましい。この場合、乾燥温度が高すぎると炭素繊維の最表面に存在する官能基は熱分解により消失し易いため、できる限り低い温度で乾燥することが望ましく、具体的には乾燥温度が好ましくは250℃以下、さらに好ましくは210℃以下で乾燥することが好ましい。
【0181】
サイジング剤の炭素繊維への付与(塗布)手段としては、例えば、ローラを介してサイジング液に炭素繊維を浸漬する方法、サイジング液の付着したローラに炭素繊維を接する方法、サイジング液を霧状にして炭素繊維に吹き付ける方法などがある。また、サイジング剤の付与手段は、バッチ式と連続式いずれでもよいが、生産性がよくバラツキが小さくできる連続式が好ましく用いられる。この際、炭素繊維に対するサイジング剤有効成分の付着量が適正範囲内で均一に付着するように、サイジング液濃度、温度および糸条張力などをコントロールすることが好ましい。また、サイジング剤付与時に、炭素繊維を超音波で加振させることも好ましい態様である。
【0182】
本発明において、サイジング剤を溶媒で希釈して用いることができる。このような溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、およびジメチルアセトアミドが挙げられるが、中でも、取扱いが容易であり、安全性の観点から有利であることから、水が好ましく用いられる。
【0183】
本発明においては、炭素繊維にサイジング剤を塗布した後、サイジング剤のエポキシ化合物と炭素繊維表面の酸素含有官能基との間の共有結合形成を促進させる観点から、160〜260℃の温度範囲で30〜600秒間熱処理することが好ましく、より好ましくは170〜250℃の温度範囲で30〜500秒間、さらに好ましくは180〜240℃の温度範囲で30〜300秒間である。
【0184】
本発明の繊維強化樹脂組成物には、力学特性を阻害しない範囲で、用途等に応じて、上記以外の他の成分が含まれていてもよく、また、充填剤や添加剤等が含まれていてもよい。充填剤あるいは添加剤としては、無機充填剤、難燃剤、結晶核剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、制振剤、抗菌剤、防虫剤、防臭剤、着色防止剤、熱安定剤、離型剤、帯電防止剤、可塑剤、滑剤、着色剤、顔料、発泡剤およびカップリング剤などが挙げられる。
【0185】
添加剤として、特に、難燃性が要求される用途向けには難燃剤の添加が好ましく採用される。難燃剤としては、例えば、ハロゲン化合物、アンチモン化合物、リン化合物、窒素化合物、シリコーン化合物、フッ素化合物、フェノール化合物および金属水酸化物などの難燃剤を使用することができる。中でも、環境負荷を抑えるという観点から、ポリリン酸アンモニウム、ポリホスファゼン、ホスフェート、ホスホネート、ホスフィネート、ホスフィンオキシドおよび赤リンなどのリン化合物を好ましく使用することができる。
【0186】
本発明の繊維強化樹脂組成物は、ペレット、スタンパブルシートおよびプリプレグ等の成形材料の形態で使用することができる。最も好ましい成形材料はペレットである。ペレットは、一般的には、熱可塑性樹脂ペレットと連続状炭素繊維もしくは特定の長さに切断した不連続炭素繊維(チョップド炭素繊維)を押出機中で溶融混練し、押出、ペレタイズすることによって得られたものをさす。
【0187】
上記成形材料の成形方法としては、例えば、射出成形(射出圧縮成形、ガスアシスト射出成形およびインサート成形など)、ブロー成形、回転成形、押出成形、プレス成形、トランスファー成形およびフィラメントワインディング成形が挙げられる。中でも、生産性の観点から射出成形が好ましく用いられる。これらの成形方法により、成形品を得ることができる。
【0188】
本発明の繊維強化樹脂組成物を成形してなる成形品の用途としては、例えば、パソコン、ディスプレイ、OA機器、携帯電話、携帯情報端末、ファクシミリ、コンパクトディスク、ポータブルMD、携帯用ラジオカセット、PDA(電子手帳などの携帯情報端末)、ビデオカメラ、デジタルスチルカメラ、光学機器、オーディオ、エアコン、照明機器、娯楽用品、玩具用品、その他家電製品などの電気、電子機器の筐体およびトレイやシャーシなどの内部部材やそのケース、機構部品、パネルなどの建材用途、モーター部品、オルタネーターターミナル、オルタネーターコネクター、ICレギュレーター、ライトディヤー用ポテンショメーターベース、サスペンション部品、排気ガスバルブなどの各種バルブ、燃料関係、排気系または吸気系各種パイプ、エアーインテークノズルスノーケル、インテークマニホールド、各種アーム、各種フレーム、各種ヒンジ、各種軸受、燃料ポンプ、ガソリンタンク、CNGタンク、エンジン冷却水ジョイント、キャブレターメインボディー、キャブレタースペーサー、排気ガスセンサー、冷却水センサー、油温センサー、ブレーキパットウェアーセンサー、スロットルポジションセンサー、クランクシャフトポジションセンサー、エアーフローメーター、ブレーキバット磨耗センサー、エアコン用サーモスタットベース、暖房温風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダー、ウォーターポンプインペラー、タービンべイン、ワイパーモーター関係部品、ディストリビュター、スタータースィッチ、スターターリレー、トランスミッション用ワイヤーハーネス、ウィンドウオッシャーノズル、エアコンパネルスィッチ基板、燃料関係電磁気弁用コイル、ヒューズ用コネクター、バッテリートレイ、ATブラケット、ヘッドランプサポート、ペダルハウジング、ハンドル、ドアビーム、プロテクター、シャーシ、フレーム、アームレスト、ホーンターミナル、ステップモーターローター、ランプソケット、ランプリフレクター、ランプハウジング、ブレーキピストン、ノイズシールド、ラジエターサポート、スペアタイヤカバー、シートシェル、ソレノイドボビン、エンジンオイルフィルター、点火装置ケース、アンダーカバー、スカッフプレート、ピラートリム、プロペラシャフト、ホイール、フェンダー、フェイシャー、バンパー、バンパービーム、ボンネット、エアロパーツ、プラットフォーム、カウルルーバー、ルーフ、インストルメントパネル、スポイラーおよび各種モジュールなどの自動車、二輪車関連部品、部材および外板やランディングギアポッド、ウィングレット、スポイラー、エッジ、ラダー、エレベーター、フェアリング、リブなどの航空機関連部品、部材および外板、風車の羽根などが挙げられる。特に、航空機部材、風車の羽根、自動車外板および電子機器の筐体およびトレイやシャーシなどに好ましく用いられる。
【実施例】
【0189】
次に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により制限されるものではない。
【0190】
<炭素繊維の表面酸素濃度(O/C)>
炭素繊維の表面酸素濃度は、X線光電子分光法により、次の手順に従って求めたものである。まず、溶剤で炭素繊維表面に付着しているサイジング剤などを除去した炭素繊維を20mmにカットして、銅製の試料支持台に拡げて並べた後、X線源としてAlKα1、2を用い、試料チャンバー中を1×10−8Torrに保つ。測定時の帯電に伴うピークの補正値としてC1sの主ピークの結合エネルギー値を、285eVに合わせる。C1sピーク面積を、結合エネルギー値として275〜290eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求める。O1sピーク面積を、結合エネルギーとして525〜540eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求める。
【0191】
ここで、表面酸素濃度とは、上記のO1sピーク面積とC1sピーク面積の比から装置固有の感度補正値を用いて原子数比として算出したものである。X線光電子分光法装置として、アルバック・ファイ(株)製ESCA−1600を用いた。
【0192】
<サイジング剤付着量の測定方法>
約2gのサイジング剤付着炭素繊維を秤量(W1)(少数第4位まで読み取り)した後、50ミリリットル/分の窒素気流中、450℃の温度に設定した電気炉(容量120cm)に15分間放置し、サイジング剤を完全に熱分解させる。そして、20リットル/分の乾燥窒素気流中の容器に移し、15分間冷却した後の炭素繊維を秤量(W2)(少数第4位まで読み取り)して、W1−W2によりサイジング剤付着量を求める。このサイジング剤付着量を炭素繊維100質量部に対する量に換算した値(小数点第3位を四捨五入)を、付着したサイジング剤の質量部とした。測定は2回おこない、その平均値をサイジング剤の質量部とした。
【0193】
<射出成形品の曲げ特性評価方法>
得られた射出成形品から、長さ130±1mm、幅25±0.2mmの曲げ強度試験片を切り出した。ASTM D−790(2004)に規定する試験方法に従い、3点曲げ試験冶具(圧子10mm、支点10mm)を用いて支持スパンを100mmに設定し、クロスヘッド速度5.3mm/分で曲げ強度を測定した。なお、本実施例においては、試験機として“インストロン(登録商標)”万能試験機4201型(インストロン社製)を用いた。測定数はn=5とし、平均値を曲げ強度とした。
【0194】
各実施例および各比較例で用いた材料と成分は、下記のとおりである。
【0195】
・(A)成分:A−1〜A−4
(A−1)PPS−1、ポリフェニレンスルフィド、融点285℃、重量平均分子量30,000、酸末端品。
【0196】
(A−2)PPS−2、ポリフェニレンスルフィド、融点285℃、重量平均分子量45,000、酸末端品。
【0197】
(A−3)PPS−3、ポリフェニレンスルフィド、融点285℃、重量平均分子量55,000、酸末端品。
【0198】
(A−4)ポリカーボネート“ユーピロン(登録商標)”H−4000(三菱エンジニアリングプラスチックス社製)。
【0199】
・(B)成分:B−1〜B−3
(B−1)脂肪族ポリカルボジイミド“カルボジライト(登録商標)”HMV−8CA(日清紡ケミカル社製)」(カルボジイミド基当量278、重量平均分子量3,000)
(B−2)芳香族ポリカルボジイミド“スタバクゾール(登録商標)”P(ラインケミー社製)(重量平均分子量4,000)
(B−3)芳香族ポリカルボジイミド“スタバクゾール(登録商標)”P400(ラインケミー社製)(重量平均分子量20,000)。
【0200】
・(C)成分:炭素繊維
下記の第Iの工程により製造。
【0201】
・(E)成分:E−1〜E−5
(E−1):“EPICLON(登録商標)”N660(DIC(株)製)
クレゾールノボラックのグリシジルエーテル
1g当たりの芳香環含有量:6.1mmol、エポキシ当量:206g/mol、エポキシ基数:4.3
(E−2):“jER(登録商標)”152(三菱化学(株)製)
フェノールノボラックのグリシジルエーテル
1g当たりの芳香環含有量:6.4mmol、エポキシ当量:175g/mol、エポキシ基数:3
(E−3):“jER(登録商標)”1001(三菱化学(株)製)
ビスフェノールAのジグリシジルエーテル
1g当たりの芳香環含有量:6.4mmol、エポキシ当量:475g/mol、エポキシ基数:2
(E−4):“デナコール(登録商標)”EX−810(ナガセケムテックス(株)製)
エチレングリコールのジグリシジルエーテル
1g当たりの芳香環含有量:0mmol、エポキシ当量:113g/mol、エポキシ基数:2
(E−5):“デナコール(登録商標)”EX−731(ナガセケムテックス(株)製)
N−グリシジルフタルイミド
1g当たりの芳香環含有量:4.9mmol、エポキシ当量:216g/mol、エポキシ基数:1
イミド基数:1
(E−6)“デナコール(登録商標)”EM−160(ナガセケムテックス(株)製)
フェノールノボラックのグリシジルエーテル乳化物
1g当たりの芳香環含有量:6.4mmol、エポキシ当量:175g/mol、エポキシ基数:3。
【0202】
・(F1)成分:F−1〜F−7
(F−1):“DBU(登録商標)”(サンアプロ(株)製)、(式(III)に該当)
1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセン、分子量:152
(F−2):N,N−ジメチルベンジルアミン(東京化成工業(株)製)、分子量:135.21
(F−3):1,8−ビス(ジメチルアミノ)ナフタレン(アルドリッチ社製)
別名:プロトンスポンジ、分子量:214.31、(式(IV)に該当)
(F−4):2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール(東京化成工業(株)製)
別名:DMP−30、分子量:265.39、(式(V)に該当)
(F−5):DBN(サンアプロ(株)製)、分子量:124、(式(III)に該当)
1,5−ジアザビシクロ[4,3,0]−5−ノネン
(F−6):トリイソプロパノールアミン(東京化成工業(株)製)、分子量:191.27、(式(VI)に該当)
(F−7):U−CAT SA506(サンアプロ(株)製)(式(III)に該当)
DBU−p−トルエンスルホン酸塩、分子量:324.44。
【0203】
・(F2)成分:F−8〜F−14
(F−8):ベンジルトリメチルアンモニウムブロミド(Rの炭素数が7、R〜Rの炭素数がそれぞれ1、アニオン部位が臭化物アニオン、東京化成工業(株)製)
(F−9):テトラブチルアンモニウムブロミド(R〜Rの炭素数がそれぞれ4、アニオン部位が臭化物アニオン、東京化成工業(株)製)
(F−10):トリメチルオクタデシルアンモニウムブロミド(Rの炭素数が18、R〜Rの炭素数がそれぞれ1、アニオン部位が臭化物アニオン、東京化成工業(株)製)
(F−11):(2−メトキシエトキシメチル)トリエチルアンモニウムクロリド(Rの炭素数が4、R〜Rの炭素数がそれぞれ2、アニオン部位が塩化物アニオン、東京化成工業(株)製)
(F−12):(2−アセトキシエチル)トリメチルアンモニウムクロリド(Rの炭素数が4、R〜Rの炭素数がそれぞれ1、アニオン部位が塩化物アニオン、東京化成工業(株)製)
(F−13):(2−ヒドロキシエチル)トリメチルアンモニウムブロミド(Rの炭素数が2、R〜Rの炭素数がそれぞれ1、アニオン部位が臭化物アニオン、東京化成工業(株)製)
(F−14):1−ヘキサデシルピリジニウムクロリド(Rの炭素数が16、RとRがそれぞれ水素原子、アニオン部位が塩化物アニオン、東京化成工業(株)製)。
【0204】
・(F3)成分:F−15〜F−17
(F−15):テトラブチルホスホニウムブロミド(R25〜R28の炭素数がそれぞれ4、アニオン部位が臭化物アニオン、東京化成工業(株)製)分子量:339
(F−16):テトラフェニルホスホニウムブロミド(R25〜R28の炭素数がそれぞれ6、アニオン部位が臭化物アニオン、東京化成工業(株)製)、分子量:419
(F−17):トリフェニルホスフィン(R29〜R31の炭素数がそれぞれ6、東京化成工業(株)製)、分子量:262。
【0205】
(実施例1)
本実施例は、次の第I〜Vの工程からなる。
【0206】
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
アクリロニトリル共重合体を紡糸し、焼成し、総フィラメント数12、000本、総繊度800テックス、ストランド引張強度5.1GPa、ストランド引張弾性率240GPaの炭素繊維を得た。次いで、その炭素繊維を、濃度0.1モル/リットルの炭酸水素アンモニウム水溶液を電解液として、電気量を炭素繊維1g当たり100クーロンで電解表面処理した。この電解表面処理を施された炭素繊維を続いて水洗し、150℃の温度の加熱空気中で乾燥し、原料となる炭素繊維(C)を得た。このときの表面酸素濃度O/Cは、0.20であった。
【0207】
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
(E−1)と(F−1)を質量比100:5で混合し、さらにアセトンを混合し、サイジング剤が均一に溶解した約1質量%のアセトン溶液を得た。このサイジング剤のアセトン溶液を用い、浸漬法によりサイジング剤を表面処理された炭素繊維に塗布した後、230℃の温度で180秒間熱処理をして、サイジング剤塗布炭素繊維を得た。サイジング剤の付着量は、表面処理された炭素繊維100質量部に対して1.0質量部となるように調整した。
【0208】
・第IIIの工程:サイジング剤塗布炭素繊維のカット工程
第II工程で得られたサイジング剤塗布炭素繊維を、カートリッジカッターで1/4インチにカットし、チョップドストランドとした。
【0209】
・第IVの工程:押出工程
日本製鋼所(株)TEX−30α型2軸押出機(スクリュー直径30mm、L/D=32)を使用し、(A−1)および(B−1)をメインフィード、前記チョップドストランドをサイドフィードして各成分の溶融混練を行った。溶融混練はシリンダー温度290℃、スクリュー回転数150rpm、吐出量10kg/時で行い、吐出物を引き取りながら水冷バスで冷却することでガットとし、前記ガットを5mmの長さに切断することでペレットとした。
【0210】
・第Vの工程:射出成形工程:
押出工程で得られたペレット状の成形材料を、日本製鋼所(株)製J350EIII型射出成形機を用いて、シリンダー温度:330℃、金型温度:130℃で特性評価用試験片を成形した。得られた試験片は、150℃で2時間アニール処理した後に、空冷して特性評価試験に供した。次に、得られた特性評価用試験片を上記の射出成形品評価方法に従い評価した。結果を表1にまとめた。この結果、曲げ強度が350MPaであり、力学特性が十分に高いことがわかった。
【0211】
(実施例2〜5)
・第I〜IIIの工程:
実施例1と同様とした。
【0212】
・第IVの工程:押出工程
実施例1の第IVの工程で、(B)成分の質量比を表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維を得た。サイジング剤の付着量は、表面処理された炭素繊維100質量部に対していずれも1.0質量部であった。
【0213】
・第Vの工程:射出成形工程:
実施例1と同様の方法で特性評価用試験片を成形した。次に、得られた特性評価用試験片を上記の射出成形品評価方法に従い評価した。結果を表1にまとめた。この結果、曲げ強度が300〜350MPaであり、力学特性が十分に高いことがわかった。
【0214】
(比較例1)
・第I〜IIIの工程:
実施例1と同様とした。
【0215】
・第IVの工程:押出工程
日本製鋼所(株)TEX−30α型2軸押出機(スクリュー直径30mm、L/D=32)を使用し、熱可塑性樹脂(A−1)をメインフィード、前記チョップドストランドをサイドフィードして各成分の溶融混練を行った。溶融混練はシリンダー温度290℃、スクリュー回転数150rpm、吐出量10kg/時で行い、吐出物を引き取りながら水冷バスで冷却することでガットとし、前記ガットを5mmの長さに切断することでペレットとした。
【0216】
・第Vの工程:射出成形工程:
実施例1と同様の方法で特性評価用試験片を成形した。次に、得られた特性評価用試験片を上記の射出成形品評価方法に従い評価した。結果を表1にまとめた。この結果、曲げ強度が290MPaであり、力学特性が不十分であることがわかった。
【0217】
(比較例2)
・第I〜IIIの工程:
実施例1と同様とした。
【0218】
・第IVの工程:押出工程
実施例1の第IVの工程で、(B−1)成分の質量比を(A−1)成分100質量部に対して20質量部に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法でペレットを得た。
【0219】
・第Vの工程:射出成形工程:
実施例1と同様の方法で特性評価用試験片を成形したところ、射出圧が高く、成形不可能であった。
【0220】
【表1】
【0221】
(実施例6〜9)
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様とした。
【0222】
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
実施例1の第IIの工程で、(E−1)成分を表2に示すように(E−2)〜(E−5)に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維を得た。サイジング剤の付着量は、表面処理された炭素繊維100質量部に対していずれも1.0質量部であった。
【0223】
・第III〜Vの工程:
実施例1と同様の方法で特性評価用試験片を成形した。次に、得られた特性評価用試験片を上記の射出成形品評価方法に従い評価した。結果を表2にまとめた。この結果、曲げ強度が300〜360MPaであり、力学特性が十分に高いことがわかった。
【0224】
(実施例10)
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様とした。
【0225】
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
(E−6)と(F−1)を質量比100:5で混合し、さらに純水を混合し、サイジング剤が均一に溶解した約1質量%の水溶液を得た。このサイジング剤を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維を得た。
【0226】
・第III〜Vの工程:
実施例1と同様の方法で特性評価用試験片を成形した。次に、得られた特性評価用試験片を上記の射出成形品評価方法に従い評価した。結果を表2にまとめた。この結果、曲げ強度が360MPaであり、力学特性が十分に高いことがわかった。
【0227】
(実施例11)
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様とした。
【0228】
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
実施例1の第IIの工程で、サイジング剤の付着量を表2に示すように、表面処理された炭素繊維100質量部に対していずれも8.4質量部に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維を得た。
【0229】
・第III〜Vの工程:
実施例1と同様の方法で特性評価用試験片を成形した。次に、得られた特性評価用試験片を上記の射出成形品評価方法に従い評価した。結果を表2にまとめた。この結果、曲げ強度が340MPaであり、力学特性が十分に高いことがわかった。
【0230】
(比較例3、4)
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様とした。
【0231】
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
実施例1の第IIの工程で、(E−1)および(F−1)成分の質量比を表2に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維を得た。
【0232】
・第III〜Vの工程:
実施例1と同様の方法で特性評価用試験片を成形した。次に、得られた特性評価用試験片を上記の射出成形品評価方法に従い評価した。結果を表2にまとめた。この結果、曲げ強度が260〜280MPaであり、力学特性が不十分であることがわかった。
【0233】
【表2】
【0234】
(実施例12〜27)
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様とした。
【0235】
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
実施例1の第IIの工程で、(F)成分を表3に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維を得た。サイジング剤の付着量は、表面処理された炭素繊維100質量部に対していずれも1.0質量部であった。
【0236】
・第III〜Vの工程:
実施例1と同様の方法で特性評価用試験片を成形した。次に、得られた特性評価用試験片を上記の射出成形品評価方法に従い評価した。結果を表3にまとめた。この結果、曲げ強度が320〜360MPaであり、力学特性が十分に高いことがわかった。
【0237】
【表3】
【0238】
(実施例28〜31)
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様とした。
【0239】
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
実施例1の第IIの工程で、(F−1)成分の質量比を表4に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維を得た。サイジング剤の付着量は、表面処理された炭素繊維100質量部に対していずれも1.0質量部であった。
【0240】
・第III〜Vの工程:
実施例1と同様の方法で特性評価用試験片を成形した。次に、得られた特性評価用試験片を上記の射出成形品評価方法に従い評価した。結果を表4にまとめた。この結果、曲げ強度が340〜350MPaであり、力学特性が十分に高いことがわかった。
【0241】
(比較例5、6)
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様とした。
【0242】
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
実施例1の第IIの工程で、(F−1)成分の質量比を表4に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維を得た。サイジング剤の付着量は、表面処理された炭素繊維100質量部に対していずれも1.0質量部であった。
【0243】
・第III〜Vの工程:
実施例1と同様の方法で特性評価用試験片を成形した。次に、得られた特性評価用試験片を上記の射出成形品評価方法に従い評価した。結果を表4にまとめた。この結果、曲げ強度がいずれも290MPaであり、力学特性が不十分であることがわかった。
【0244】
(比較例7、8)
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様とした。
【0245】
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
比較例1の第IIの工程で、(F−1)成分を表4に示すように(F−6)または(F−17)に変更したこと以外は、比較例1と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維を得た。サイジング剤の付着量は、表面処理された炭素繊維100質量部に対していずれも1.0質量部であった。
【0246】
・第III〜Vの工程:
比較例1と同様の方法で特性評価用試験片を成形した。次に、得られた特性評価用試験片を上記の射出成形品評価方法に従い評価した。結果を表4にまとめた。この結果、曲げ強度がいずれも280〜290MPaであり、力学特性が不十分であることがわかった。
【0247】
【表4】
【0248】
(実施例32、33)
・第I〜IIIの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様とした。
【0249】
・第IVの工程:押出工程
実施例1の第IVの工程で、(C−1)成分を表1に示すように(A−1)100質量部に対して15〜45質量部の範囲で変更したこと以外は、実施例1と同様の方法でペレットを得た。
【0250】
・第Vの工程:射出成形工程
実施例1と同様の方法で特性評価用試験片を成形した。次に、得られた特性評価用試験片を上記の射出成形品評価方法に従い評価した。結果を表5にまとめた。
【0251】
(比較例9、10)
・第I〜IIIの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様とした。
【0252】
・第IVの工程:押出工程
比較例1の第IVの工程で、(C−1)成分を表1に示すように(A−1)100質量部に対して15〜45質量部の範囲で変更したこと以外は、比較例1と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維を得た。サイジング剤の付着量は、表面処理された炭素繊維100質量部に対していずれも1.0質量部であった。
【0253】
・第Vの工程:射出成形工程
実施例1と同様の方法で特性評価用試験片を成形した。次に、得られた特性評価用試験片を上記の射出成形品評価方法に従い評価した。この結果、実施例32は比較例9、実施例33は比較例10と比較して力学特性が十分に高いことがわかった。結果を表5にまとめた。
【0254】
(比較例11)
・第I〜IIIの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様とした。
【0255】
・第IVの工程:押出工程
実施例1の第IVの工程で、(C−1)成分を表5に示すように(A−1)100質量部に対して400質量部に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法でペレットを得た。
【0256】
・第Vの工程:射出成形工程
実施例1と同様の方法で特性評価用試験片を成形したところ、射出圧が高く、成形不可能であった。
【0257】
【表5】
【0258】
(実施例34〜36)
・第I〜IIIの工程:
実施例1と同様とした。
【0259】
・第IVの工程:押出工程
実施例1の第IVの工程で、(A−1)成分を(A−2)〜(A−4)に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法でペレットを得た。
【0260】
・第Vの工程:射出成形工程:
実施例1と同様の方法で特性評価用試験片を成形した。次に、得られた特性評価用試験片を上記の射出成形品評価方法に従い評価した。結果を表6にまとめた。
【0261】
(比較例12)
・第I〜IIIの工程:
実施例1と同様とした。
【0262】
・第IVの工程:押出工程
比較例1の第IVの工程で、(A−1)成分を(A−4)に変更したこと以外は、比較例1と同様の方法でペレットを得た。
【0263】
・第Vの工程:射出成形工程:
実施例1と同様の方法で特性評価用試験片を成形した。次に、得られた特性評価用試験片を上記の射出成形品評価方法に従い評価した。結果を表6にまとめた。この結果、曲げ強度がいずれも250MPaであり、実施例36と比較して力学特性が不十分であることがわかった。
【0264】
【表6】
【0265】
(実施例37)
実施例1で得られた特性評価用試験片の硫黄濃度比S/Cは、エネルギー分散型X線分光法(EDX)を用いて、次の手順に従って求めた。まず、集束イオンビーム(FIB)装置を用いて、FIBマイクロサンプリング法により、繊維強化樹脂組成物から観察用試験片を作製した。次に下記装置、条件によって所定の範囲の炭素原子数および硫黄原子数を検出し、得られた硫黄原子数を炭素繊維原子数で除することで、その範囲の硫黄濃度比S/Cとし、ΔSを算出した。
【0266】
ΔS = (S2−S1)/S2 × 100
ここで、ΔSは炭素繊維(C)の軸心方向に直交する断面で見た硫黄元素濃度の勾配であり、S1は炭素繊維(C)の断面円の外側に法線方向に500nmの距離で引いた円の内側から炭素繊維(C)を除いた領域(T1)の硫黄濃度比S/Cであり、S2は前記領域(T1)の外側に法線方向に500nmの距離で引いた円の内側から炭素繊維(C)と前記領域(T1)を除いた領域(T2)の硫黄濃度比S/Cである。
【0267】
S1は、領域(T1)内の任意の300nm×300nmの範囲を100箇所測定した値の平均値とした。
【0268】
S2は、領域(T2)内の任意の300nm×300nmの範囲を100箇所測定した値の平均値とした。
【0269】
装置:原子分解能分析電子顕微鏡(STEM); JEM−ARM200F(JEOL製)
エネルギー分散型X線分析装置; JED−2300(JEOL製)
測定条件:加速電圧; 200kV,beam spot size; 0.2nmφ (実施例38〜40)
実施例37と同様の方法で実施例4、実施例6、実施例12で得られた特性評価用試験片のS/Cを測定し、ΔSを算出した。
【0270】
【表7】
【符号の説明】
【0271】
1 熱可塑性樹脂(A)とカルボジイミド化合物(B)を含むマトリクス樹脂
2 炭素繊維(C)表面の硫黄元素濃度が低い領域
3 炭素繊維(C)の断面
4 炭素繊維(C)の断面
5 領域(T1)
6 領域(T2)
7 炭素繊維(C)の断面円;炭素繊維(C)と領域(T1)との境界線
8 炭素繊維(C)の断面円から外側に向かう法線の一例
9 炭素繊維(C)の断面円の外側に法線方向に500nmの距離で引いた円;領域(T1)と領域(T2)の境界線
10 領域(T1)から外側に向かう法線の一例
11 領域(T1)の外側に法線方向に500nmの距離で引いた円;領域(T2)の境界線
図1
図2
図3