【実施例】
【0038】
次に、本発明に係るサーミスタ用金属窒化物材料及びその製造方法並びにフィルム型サーミスタセンサについて、上記実施形態に基づいて作製した実施例により評価した結果を、
図6から
図31を参照して具体的に説明する。
【0039】
<膜評価用素子の作製>
本発明の実施例及び比較例として、
図6に示す膜評価用素子121を次のように作製した。
まず、反応性スパッタ法にて、様々な組成比のTi−V−Al合金ターゲット、Cr−V−Al合金ターゲットおよびTi−Cr−V−Al合金ターゲットを用いて、Si基板Sとなる熱酸化膜付きSiウエハ上に、厚さ500nmの表1から表3に示す様々な組成比で形成されたサーミスタ用金属窒化物材料の薄膜サーミスタ部3を形成した。
【0040】
次に、上記薄膜サーミスタ部3の上に、スパッタ法でCr膜を20nm形成し、さらにAu膜を200nm形成した。さらに、その上にレジスト液をスピンコーターで塗布した後、110℃で1分30秒のプリベークを行い、露光装置で感光後、現像液で不要部分を除去し、150℃で5分のポストベークにてパターニングを行った。その後、不要な電極部分を市販のAuエッチャント及びCrエッチャントによりウェットエッチングを行い、レジスト剥離にて所望の櫛形電極部124aを有するパターン電極124を形成した。そして、これをチップ状にダイシングして、B定数評価及び耐熱性試験用の膜評価用素子121とした。
なお、比較として(M1−wVw)xAlyNz(Mが、Ti,Crの内の1種又は2種)の組成比が本発明の範囲外であって結晶系が異なる比較例についても同様に作製して評価を行った。
【0041】
<膜の評価>
(1)組成分析
反応性スパッタ法にて得られた薄膜サーミスタ部3について、X線光電子分光法(XPS)にて元素分析を行った。このXPSでは、Arスパッタにより、最表面から深さ20nmのスパッタ面において、定量分析を実施した。その結果を表1から表3に示す。なお、以下の表中の組成比は「原子%」で示している。一部のサンプルに対して、最表面から深さ100nmのスパッタ面における定量分析を実施し、深さ20nmのスパッタ面と定量精度の範囲内で同じ組成であることを確認している。
【0042】
なお、上記X線光電子分光法(XPS)は、X線源をMgKα(350W)とし、パスエネルギー:58.5eV、測定間隔:0.125eV、試料面に対する光電子取り出し角:45deg、分析エリアを約800μmφの条件下で定量分析を実施した。なお、定量精度について、N/(M+V+Al+N)の定量精度は±2%、Al/(M+V+Al)の定量精度は±1%である(Mは、Ti,Crの内の1種又は2種)。
【0043】
(2)比抵抗測定
反応性スパッタ法にて得られた薄膜サーミスタ部3について、4端子法にて25℃での比抵抗を測定した。その結果を表1から表3に示す。
(3)B定数測定
膜評価用素子121の25℃及び50℃の抵抗値を恒温槽内で測定し、25℃と50℃との抵抗値よりB定数を算出した。その結果を表1から表3に示す。また、25℃と50℃との抵抗値より負の温度特性をもつサーミスタであることを確認している。
【0044】
なお、本発明におけるB定数算出方法は、上述したように25℃と50℃とのそれぞれの抵抗値から以下の式によって求めている。
B定数(K)=ln(R25/R50)/(1/T25−1/T50)
R25(Ω):25℃における抵抗値
R50(Ω):50℃における抵抗値
T25(K):298.15K 25℃を絶対温度表示
T50(K):323.15K 50℃を絶対温度表示
【0045】
これらの結果からわかるように、(M1−wVw)xAlyNz(Mが、Ti,Crの内の1種又は2種)の組成比が
図1から
図3に示す3元系の三角図において、点A,B,C,Dで囲まれる領域内、すなわち、「0.0<w<1.0、0.70≦y/(x+y)≦0.98、0.4≦z≦0.5、x+y+z=1」となる領域内の実施例全てで、抵抗率:100Ωcm以上、B定数:1500K以上のサーミスタ特性が達成されている。
【0046】
上記結果から25℃での抵抗率とB定数との関係を示したグラフを、
図7から
図9に示す。また、Al/(Ti+V+Al)比とB定数との関係を示したグラフを、
図10に示すと共に、Al/(Cr+V+Al)比とB定数との関係を示したグラフを、
図11に示す。また、Al/(Ti+Cr+V+Al)比とB定数との関係を示したグラフを、
図12に示す。
さらに、V/(Ti+V)比とB定数との関係を示したグラフを、
図13に示す。また、V/(Cr+V)比とB定数との関係を示したグラフを、
図14に示す。
【0047】
これらのグラフから、Al/(Ti+V+Al)=0.7〜0.98、かつ、N/(Ti+V+Al+N)=0.4〜0.5の領域で、結晶系が六方晶のウルツ鉱型の単一相であるものは、25℃における比抵抗値が100Ωcm以上、B定数が1500K以上の高抵抗かつ高B定数の領域が実現できている。
また、Al/(Cr+V+Al)=0.7〜0.98、かつ、N/(Cr+V+Al+N)=0.4〜0.5の領域で、結晶系が六方晶のウルツ鉱型の単一相であるものは、25℃における比抵抗値が100Ωcm以上、B定数が1500K以上の高抵抗かつ高B定数の領域が実現できている。さらに、Al/(Ti+Cr+V+Al)=0.7〜0.98、かつ、N/(Ti+Cr+V+Al+N)=0.4〜0.5の領域で、結晶系が六方晶のウルツ鉱型の単一相であるものは、25℃における比抵抗値が100Ωcm以上、B定数が1500K以上の高抵抗かつ高B定数の領域が実現できている。
なお、
図7及び
図14のデータにおいて、同じAl/(Ti+V+Al)比又はV/(Ti+V)比、同じAl/(Cr+V+Al)比又はV/(Cr+V)比、または同じAl/(Ti+Cr+V+Al)比に対して、B定数がばらついているのは、結晶中の窒素量が異なる、もしくは窒素欠陥等の格子欠陥量が異なるためである。
【0048】
MがTiの場合である表1に示す比較例2,3は、Al/(Ti+V+Al)<0.7の領域であり、結晶系は立方晶のNaCl型となっている。
このように、Al/(Ti+V+Al)<0.7の領域では、25℃における比抵抗値が100Ωcm未満、B定数が1500K未満であり、低抵抗かつ低B定数の領域であった。
表1に示す比較例1は、N/(Ti+V+Al+N)が40%に満たない領域であり、金属が窒化不足の結晶状態になっている。この比較例1は、NaCl型でも、ウルツ鉱型でもない、非常に結晶性の劣る状態であった。また、これら比較例では、B定数及び抵抗値が共に非常に小さく、金属的振舞いに近いことがわかった。
【0049】
MがCrの場合である表2に示す比較例2は、Al/(Cr+V+Al)<0.7の領域であり、結晶系は立方晶のNaCl型となっている。
このように、Al/(Cr+V+Al)<0.7の領域では、25℃における比抵抗値が100Ωcm未満、B定数が1500K未満であり、低抵抗かつ低B定数の領域であった。
表2に示す比較例1は、N/(Cr+V+Al+N)が40%に満たない領域であり、金属が窒化不足の結晶状態になっている。この比較例1は、NaCl型でも、ウルツ鉱型でもない、非常に結晶性の劣る状態であった。また、これら比較例では、B定数及び抵抗値が共に非常に小さく、金属的振舞いに近いことがわかった。
【0050】
MがTi,Crの場合である表3に示す比較例2は、Al/(Ti+Cr+V+Al)<0.7の領域であり、結晶系は立方晶のNaCl型となっている。
このように、Al/(Ti+Cr+V+Al)<0.7の領域では、25℃における比抵抗値が100Ωcm未満、B定数が1500K未満であり、低抵抗かつ低B定数の領域であった。
表3に示す比較例1は、N/(Ti+Cr+V+Al+N)が40%に満たない領域であり、金属が窒化不足の結晶状態になっている。この比較例1は、NaCl型でも、ウルツ鉱型でもない、非常に結晶性の劣る状態であった。また、これら比較例では、B定数及び抵抗値が共に非常に小さく、金属的振舞いに近いことがわかった。
【0051】
(4)薄膜X線回折(結晶相の同定)
反応性スパッタ法にて得られた薄膜サーミスタ部3を、視斜角入射X線回折(Grazing Incidence X-ray Diffraction)により、結晶相を同定した。この薄膜X線回折は、微小角X線回折実験であり、管球をCuとし、入射角を1度とすると共に2θ=20〜130度の範囲で測定した。一部のサンプルについては、入射角を0度とし、2θ=20〜100度の範囲で測定した。
【0052】
その結果、Al/(M+V+Al)≧0.7の領域(Mは、Ti,Crの内の1種又は2種)においては、ウルツ鉱型相(六方晶、AlNと同じ相)であり、Al/(M+V+Al)<0.66の領域においては、NaCl型相(立方晶、TiN、CrN、VNと同じ相)であった。また、0.66<Al/(M+V+Al)<0.7においては、ウルツ鉱型相とNaCl型相との共存する結晶相であると考えられる。
【0053】
このようにMVAlN(Mは、Ti,Crの内の1種又は2種)系においては、高抵抗かつ高B定数の領域は、Al/(M+V+Al)≧0.7のウルツ鉱型相に存在している。なお、本発明の実施例では、不純物相は確認されておらず、ウルツ鉱型の単一相である。
なお、表1から表3に示す比較例1は、上述したように結晶相がウルツ鉱型相でもNaCl型相でもなく、本試験においては同定できなかった。また、これらの比較例は、XRDのピーク幅が非常に広いことから、非常に結晶性の劣る材料であった。これは、電気特性により金属的振舞いに近いことから、窒化不足の金属相になっていると考えられる。
【0054】
【表1】
【表2】
【表3】
【0055】
次に、本発明の実施例は全てウルツ鉱型相の膜であり、配向性が強いことから、Si基板S上に垂直な方向(膜厚方向)の結晶軸においてa軸配向性とc軸配向性のどちらが強いか、XRDを用いて調査した。この際、結晶軸の配向性を調べるために、(100)(a軸配向を示すhkl指数)と(002)(c軸配向を示すhkl指数)とのピーク強度比を測定した。
【0056】
その結果、スパッタガス圧が0.7Pa未満で成膜された実施例は、(100)よりも(002)の強度が非常に強く、a軸配向性よりc軸配向性が強い膜であった。一方、スパッタガス圧が0.7Pa以上で成膜された実施例は、(002)よりも(100)の強度が非常に強く、c軸配向よりa軸配向が強い材料であった。
なお、同じ成膜条件でポリイミドフィルムに成膜しても、同様にウルツ鉱型の単一相が形成されていることを確認している。また、同じ成膜条件でポリイミドフィルムに成膜しても、配向性は変わらないことを確認している。
【0057】
c軸配向が強い実施例のXRDプロファイルの一例を、
図15から
図17に示す。
図15の実施例は、Al/(Ti+V+Al)=0.88(ウルツ鉱型、六方晶)であり、入射角を1度として測定した。また、
図16の実施例は、Al/(Cr+V+Al)=0.95(ウルツ鉱型、六方晶)であり、入射角を1度として測定した。さらに、
図17の実施例は、Al/(Ti+Cr+V+Al)=0.85(ウルツ鉱型、六方晶)であり、入射角を1度として測定した。
これらの結果からわかるように、これらの実施例では、(100)よりも(002)の強度が非常に強くなっている。
【0058】
また、a軸配向が強い実施例のXRDプロファイルの一例を、
図18から
図20に示す。
図18の実施例は、Al/(Ti+V+Al)=0.86(ウルツ鉱型、六方晶)であり、入射角を1度として測定した。また、
図19の実施例は、Al/(Cr+V+Al)=0.89(ウルツ鉱型、六方晶)であり、入射角を1度として測定した。さらに、
図20の実施例は、Al/(Ti+Cr+V+Al)=0.83(ウルツ鉱型、六方晶)であり、入射角を1度として測定した。
これらの結果からわかるように、これらの実施例では、(002)よりも(100)の強度が非常に強くなっている。
【0059】
なお、グラフ中(*)は装置由来および熱酸化膜付きSi基板由来のピークであり、サンプル本体のピーク、もしくは、不純物相のピークではないことを確認している。また、入射角を0度として、対称測定を実施し、そのピークが消失していることを確認し、装置由来および熱酸化膜付きSi基板由来のピークであることを確認した。
【0060】
次に、ウルツ鉱型材料である本発明の実施例に関して、さらに結晶構造と電気特性との相関を詳細に比較した。
図21から
図23に示すように、Al/(M+V+Al)比、すなわちAl/(Ti+V+Al)比、Al/(Cr+V+Al)比又はAl/(Ti+Cr+V+Al)比が近い比率のものに対し、基板面に垂直方向の配向度の強い結晶軸がc軸である実施例の材料とa軸である実施例の材料とがある。なお、
図23には、Al/(Ti+Cr+V+Al)比が0.75〜0.85の材料が、プロットされている。
【0061】
これら両者を比較すると、Al/(M+V+Al)比がほぼ同じであると、a軸配向が強い材料よりもc軸配向が強い材料の方が、B定数が大きいことがわかる。また、N量(N/(M+V+Al+N))に着目すると、a軸配向が強い材料よりもc軸配向が強い材料の方が、窒素量がわずかに大きいことがわかる。窒素欠陥がない場合の化学量論比が0.5(すなわち、N/(M+V+Al+N)=0.5)であることから、c軸配向が強い材料のほうが、窒素欠陥量が少なく理想的な材料であることがわかる。
【0062】
なお、a軸配向の強い実施例とc軸配向の強い実施例とを比較したV/(Ti+V)比とB定数との関係を示すグラフを、
図24とに示す。なお、
図24には、Al/(Ti+V+Al)比がほとんど同じ材料が、プロットされている。Al/(Ti+V+Al)比が同じで、かつ、V/(Ti+V)比が同じであると、a軸配向が強い材料よりもc軸配向が強い材料の方が、B定数が大きくなることを見出している。
また、a軸配向の強い実施例とc軸配向の強い実施例とを比較したV/(Cr+V)比とB定数との関係を示すグラフを、
図25に示す。なお、
図25には、Al/(Cr+V+Al)比が0.95〜0.98の材料が、プロットされている。Al/(Cr+V+Al)比が同程度量で、かつ、V/(Cr+V)比が同程度量であると、a軸配向が強い材料よりもc軸配向が強い材料の方が、B定数が大きいことがわかる。
【0063】
<結晶形態の評価>
次に、薄膜サーミスタ部3の断面における結晶形態を示す一例として、MがTiの場合として、熱酸化膜付きSi基板S上に440nm程度成膜された実施例(Al/(Ti+V+Al)=0.88,ウルツ鉱型六方晶、c軸配向性が強い)の薄膜サーミスタ部3における断面SEM写真を、
図26に示す。
また、MがCrの場合として、熱酸化膜付きSi基板S上に450nm程度成膜された実施例(Al/(Cr+V+Al)=0.90,ウルツ鉱型六方晶、c軸配向性が強い)の薄膜サーミスタ部3における断面SEM写真を、
図27に示す。
さらに、MがTi,Crの場合として、熱酸化膜付きSi基板S上に450nm程度成膜された実施例(Al/(Ti+Cr+V+Al)=0.85,ウルツ鉱型六方晶、c軸配向性が強い)の薄膜サーミスタ部3における断面SEM写真を、
図28に示す。
【0064】
次に、MがTiの場合として、別の実施例(Al/(Ti+V+Al)=0.86,ウルツ鉱型六方晶、a軸配向性が強い)の薄膜サーミスタ部3における断面SEM写真を、
図29に示す。
また、MがCrの場合として、別の実施例(Al/(Cr+V+Al)=0.89,ウルツ鉱型六方晶、a軸配向性が強い)の薄膜サーミスタ部3における断面SEM写真を、
図30に示す。
さらに、MがTi,Crの場合として、別の実施例(Al/(Ti+Cr+V+Al)=0.83,ウルツ鉱型六方晶、a軸配向性が強い)の薄膜サーミスタ部3における断面SEM写真を、
図32に示す。
これら実施例のサンプルは、Si基板Sをへき開破断したものを用いている。また、45°の角度で傾斜観察した写真である。
【0065】
これらの写真からわかるように、いずれの実施例も緻密な柱状結晶で形成されている。すなわち、c軸配向が強い実施例及びa軸配向が強い実施例の共に基板面に垂直な方向に柱状の結晶が成長している様子が観測されている。なお、柱状結晶の破断は、Si基板Sをへき開破断した際に生じたものである。
【0066】
なお、図中の柱状結晶サイズについて、MがTiの場合である
図26のc軸配向が強い実施例は、粒径が10nmφ(±5nmφ)、長さ440nm程度であり、
図29のa軸配向が強い実施例は、粒径が15nmφ(±10nmφ)、長さ430nm程度であった。
また、MがCrの場合である
図27のc軸配向が強い実施例は、粒径が10nmφ(±5nmφ)、長さ450nm程度であり、
図30のa軸配向が強い実施例は、粒径が15nmφ(±10nmφ)、長さ425nm程度であった。
さらに、MがTi,Crの場合である
図28のc軸配向が強い実施例は、粒径が10nmφ(±5nmφ)、長さ450nm程度であり、
図31のa軸配向が強い実施例は、粒径が15nmφ(±10nmφ)、長さ470nm程度であった。
【0067】
なお、ここでの粒径は、基板面内における柱状結晶の直径であり、長さは、基板面に垂直な方向の柱状結晶の長さ(膜厚)である。
柱状結晶のアスペクト比を(長さ)÷(粒径)として定義すると、c軸配向が強い実施例およびa軸配向が強い実施例の両実施例とも10以上の大きいアスペクト比をもっている。柱状結晶の粒径が小さいことにより、膜が緻密となっていると考えられる。
なお、熱酸化膜付きSi基板S上に200nm、500nm、1000nmの厚さでそれぞれ成膜された場合にも、上記同様、緻密な柱状結晶で形成されていることを確認している。
【0068】
<耐熱試験評価>
表1から表3に示す実施例及び比較例の一部において、大気中,125℃,1000hの耐熱試験前後における抵抗値及びB定数を評価した。その結果を表4から表6に示す。なお、比較として従来のTa−Al−N系材料による比較例も同様に評価した。
これらの結果からわかるように、Al濃度及び窒素濃度は異なるものの、Ta−Al−N系である比較例と同程度量のB定数をもつ実施例で比較したとき、M−V−Al−N(Mは、Ti,Crの内の1種又は2種)系のほうが抵抗値上昇率、B定数上昇率がともに小さく、耐熱試験前後における電気特性変化でみたときの耐熱性は、M−V−Al−N(Mは、Ti,Crの内の1種又は2種)系のほうが優れている。
【0069】
なお、MがTiの場合、表1の実施例5,6はc軸配向が強い材料であり、実施例9,10はa軸配向が強い材料である。両者を比較すると、c軸配向が強い実施例の方がa軸配向が強い実施例に比べて、抵抗値上昇率が小さく、僅かに耐熱性が向上している。
また、MがCrの場合、表2の実施例6,7はc軸配向が強い材料であり、実施例9はa軸配向が強い材料である。両者を比較すると、c軸配向が強い実施例の方がa軸配向が強い実施例に比べて、抵抗値上昇率が小さく、僅かに耐熱性が向上している。
さらに、MがTi,Crの場合、表3の実施例6はc軸配向が強い材料であり、実施例10はa軸配向が強い材料である。両者を比較すると、c軸配向が強い実施例の方がa軸配向が強い実施例に比べて、抵抗値上昇率が小さく、僅かに耐熱性が向上している。
【0070】
なお、Ta−Al−N系材料では、Taのイオン半径がTi,Cr,VやAlに比べて非常に大きいため、高濃度Al領域でウルツ鉱型相を作製することができない。TaAlN系がウルツ鉱型相でないがゆえ、ウルツ鉱型のM−V−Al−N(Mは、Ti,Crの内の1種又は2種)系の方が耐熱性が良好であると考えられる。
【0071】
【表4】
【表5】
【表6】
【0072】
<窒素プラズマ照射による耐熱性評価>
MがTiの場合、表1に示す実施例5の薄膜サーミスタ部3を成膜後に、真空度:6.7Pa、出力:200WでN2ガス雰囲気下で、窒素プラズマを照射させた。また、MがCrの場合、表2に示す実施例6の薄膜サーミスタ部3を成膜後に、真空度:6.7Pa、出力:200WでN2ガス雰囲気下で、窒素プラズマを照射させた。さらに、MがTi,Crの場合、表3に示す実施例6の薄膜サーミスタ部3を成膜後に、真空度:6.7Pa、出力:200WでN2ガス雰囲気下で、窒素プラズマを照射させた。
【0073】
この窒素プラズマを実施した膜評価用素子121と実施しない膜評価用素子121とで耐熱試験を行った結果を、表7から表9に示す。この結果からわかるように、窒素プラズマを行った実施例では、比抵抗の上昇率が小さく、膜の耐熱性が向上している。これは、窒素プラズマによって膜の窒素欠陥が低減され、結晶性が向上したためである。なお、窒素プラズマはラジカル窒素を照射するとさらに良い。
【0074】
【表7】
【表8】
【表9】
【0075】
このように上記評価において、N/(M+V+Al+N):0.4〜0.5の範囲で作製すれば、良好なサーミスタ特性を示すことができることがわかる。しかしながら、窒素欠陥のない場合の化学量論比は0.5(すなわち、N/(M+V+Al+N)=0.5)であり、今回の試験においては、窒素量が0.5より小さく、材料中に窒素欠陥があることがわかる。このため、窒素欠陥を補うプロセスを加えることが望ましく、その一つとして上記窒素プラズマ照射などが好ましい。
【0076】
なお、本発明の技術範囲は上記実施形態及び実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。