(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6308427
(24)【登録日】2018年3月23日
(45)【発行日】2018年4月11日
(54)【発明の名称】車体構造
(51)【国際特許分類】
B62D 21/00 20060101AFI20180402BHJP
B62D 29/04 20060101ALI20180402BHJP
B62D 21/08 20060101ALI20180402BHJP
【FI】
B62D21/00 Z
B62D29/04 B
B62D21/08
【請求項の数】16
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-72974(P2014-72974)
(22)【出願日】2014年3月31日
(65)【公開番号】特開2015-193341(P2015-193341A)
(43)【公開日】2015年11月5日
【審査請求日】2017年3月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091384
【弁理士】
【氏名又は名称】伴 俊光
(74)【代理人】
【識別番号】100125760
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】松本 賢
(72)【発明者】
【氏名】若林 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】松島 彰吾
(72)【発明者】
【氏名】高橋 潤平
(72)【発明者】
【氏名】西崎 昭彦
(72)【発明者】
【氏名】小松 隆
(72)【発明者】
【氏名】竹浪 英俊
【審査官】
林 政道
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−338421(JP,A)
【文献】
特開2012−224224(JP,A)
【文献】
特開2011−037313(JP,A)
【文献】
特開2009−034885(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 17/00−25/08
B62D 25/14−29/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の主要な骨格がFRP製チューブを成形してなるFRP製チューブ骨格部材により構成されており、かつ、前記FRP製チューブ骨格部材のうち、少なくとも、フロントピラーロア、フロントピラーアッパーおよびルーフサイドレールを構成するFRP製チューブ骨格部材が、1本のFRP製チューブから一体的に成形された連続して延びる部材として形成されており、かつ、前記FRP製チューブ骨格部材としてのサイドシルが、2本のFRP製チューブを車体高さ方向に接合した一体構造により形成されており、前記FRP製チューブ骨格部材としてのサイドシルの前端部が、フロントピラーロアの端面に突き当てるように接合されていることを特徴とする車体構造。
【請求項2】
車体の主要な骨格がFRP製チューブを成形してなるFRP製チューブ骨格部材により構成されており、かつ、前記FRP製チューブ骨格部材のうち、少なくとも、フロントピラーロア、フロントピラーアッパーおよびルーフサイドレールを構成するFRP製チューブ骨格部材が、1本のFRP製チューブから一体的に成形された連続して延びる部材として形成されており、かつ、前記FRP製チューブ骨格部材としてのサイドシルが、2本のFRP製チューブを車体高さ方向に接合した一体構造により形成されており、前記FRP製チューブ骨格部材としてのサイドシルおよびフロントピラーロアが、両者の端部中空部に嵌入する接合ジョイントを介して接合されていることを特徴とする車体構造。
【請求項3】
前記FRP製チューブ骨格部材として、ダッシュボード面に沿い、サイドシル前端部からフロアパネルのセンタートンネル前端部にわたって延びるフロントフロアクロスメンバーが設けられている、請求項1または2に記載の車体構造。
【請求項4】
前記フロントフロアクロスメンバーは、サイドシルとの接合端部でサイドシルの延在方向に沿うように略L形に曲げられ、かつ該接合端部におけるチューブ断面形状を略C形または略L形断面に押し潰して成形されてサイドシル側面部に接合され、かつセンタートンネルとの接合端部はセンタートンネル面に突き当てるように接合されている、請求項3に記載の車体構造。
【請求項5】
前記FRP製チューブ骨格部材としての車体左右に配置されるセンターピラーおよびリヤピラーが、それぞれ、車体幅方向に延在する前記FRP製チューブ骨格部材としてのルーフクロスメンバーと、1本のFRP製チューブから一体的に成形された連続して延びる部材として形成されている、請求項1〜4のいずれかに記載の車体構造。
【請求項6】
前記ルーフクロスメンバーは車体幅方向中央部で接合するように2本の部材からなる、請求項5に記載の車体構造。
【請求項7】
前記FRP製チューブ骨格部材として、車体幅方向中央部で接合するように2本の部材からなり、車体幅方向外側の端部形状がチューブ断面形状を押し潰して略C形に形成され、該端部で前記ルーフサイドレールに接合されているフロントルーフクロスメンバーが設けられている、請求項1〜6のいずれかに記載の車体構造。
【請求項8】
前記FRP製チューブ骨格部材として、車体フロア下面後方部に車体幅方向に配置され、車体前後方向に延在する2本のリヤサイドメンバーが設けられている、請求項1〜7のいずれかに記載の車体構造。
【請求項9】
前記FRP製チューブ骨格部材が、少なくとも部分的に略矩形、略円形、略三角形、略C形、略L形のいずれかの横断面形状を有する、請求項1〜8のいずれかに記載の車体構造。
【請求項10】
前記FRP製チューブが熱可塑性FRP製チューブからなる、請求項1〜9のいずれかに記載の車体構造。
【請求項11】
前記FRP製チューブ骨格部材は、前記熱可塑性FRP製チューブを少なくとも内圧成形してなる、請求項10に記載の車体構造。
【請求項12】
前記FRP製チューブ骨格部材と相手部材との接合に、該相手部材との間にFRP製チューブ骨格部材を挟み込んで一体的に接合するためのシェル状の接合スチフナが用いられている、請求項1〜11のいずれかに記載の車体構造。
【請求項13】
前記接合スチフナがFRPで形成されている、請求項12に記載の車体構造。
【請求項14】
前記FRP製チューブが、少なくとも長手方向に配向された強化繊維を有する、請求項1〜13のいずれかに記載の車体構造。
【請求項15】
前記強化繊維として炭素繊維を有する、請求項14に記載の車体構造。
【請求項16】
全ての前記FRP製チューブ骨格部材の成形前の前記FRP製チューブの少なくとも内径が同一径である、請求項1〜15のいずれかに記載の車体構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽量なFRP(繊維強化プラスチック)製チューブ骨格部材を用いて構成された車体構造に関し、とくに、FRPを用いても低コストかつ高生産性で作製可能な車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
中空閉断面の骨格部材を主要な骨格部材とするスペースフレーム構造と呼ばれる車体構造には、通常、高張力鋼板やアルミニウム等の金属製部材が使用されている。金属製車体構造においては、高張力鋼板などを用いて薄肉化が図られており、例えば特許文献1、2には、高張力鋼の素管からチューブハイドロフォーミング法により中空閉断面形状の骨格部材を形成した車体構造が開示されている。しかし、このような高張力鋼板等の金属製部材を使用した車体構造では、薄肉の素管そのものに成形性の難があり、軽量化には限界がある。とくにチューブハイドロフォーミング法では金属製チューブ材の体積が一定であるため、拡径部では金属製チューブ材の厚みが薄くなり、拡径部の強度低下が問題となるおそれがある。また、チューブハイドロフォーミング法により成形された金属製チューブ骨格材は、溶接用のフランジ部を設けるために、プレス成形された小部材を別途溶接する必要が生じる場合もあり、部品点数の増加や工数の増加などの煩雑さも生じる。
【0003】
一方で、軽量化を主目的として、金属の代わりにFRPを用いることが考えられる。しかしFRPを用いる場合にあっても、例えばオートクレーブ法やRTM法(Resin Transfer Molding)を用いた製造方法では、軽量化は実現可能でも大量生産には限界があり、超高級車など少量生産車に適用が限定され、一般的に通常大量に生産される車体の製造には向いていない。
【0004】
特許文献3には、多数のFRPパイプを使用してスペースフレーム構造の車体を構成することが提案されているが、この車体構造では、FRPパイプの締結部に金属製の締結部材を用いるので、必ずしも軽量化には適しておらず、また、部品点数、組立工数が多く、低コスト化、生産性の向上が難しい。また、この提案では、各FRPパイプの形状については言及されておらず、単に直線状に延びるFRPパイプを複数連結して立体的な車体構造とする構成では、デザインが重視される車両の車体構造には、現実的には適用し難い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3500626号公報
【特許文献2】特許第3830401号公報
【特許文献3】特開2011−37313号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明の課題は、金属材料で構成したよりも軽量かつ高剛性で、部品点数、組立工数が削減でき、FRPを用いても低コストかつ高い生産性で所望の骨格構造を実現できる車体構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る車体構造は、車体の主要な骨格がFRP製チューブを成形してなるFRP製チューブ骨格部材により構成されており、かつ、前記FRP製チューブ骨格部材のうち、少なくとも、フロントピラーロア、フロントピラーアッパーおよびルーフサイドレールを構成するFRP製チューブ骨格部材が、1本のFRP製チューブから一体的に成形された連続して延びる部材として形成されて
おり、かつ、前記FRP製チューブ骨格部材としてのサイドシルが、2本のFRP製チューブを車体高さ方向に接合した一体構造により形成されていることを特徴とするものからなる。
【0008】
このような本発明に係る車体構造においては、車体を構成する主要骨格がFRP製チューブ骨格部材で形成されているので、軽量かつ高剛性の車体構造を構成することが可能になる。このFRP製チューブ骨格部材はFRP製チューブによって形成されているので、オートクレーブ法やRTM法を用いて成形する場合に比べ、容易に大量生産を行うことが可能になる。また、FRP製チューブ骨格部材のうち、少なくとも、フロントピラーロア、フロントピラーアッパーおよびルーフサイドレールを構成するFRP製チューブ骨格部材が、1本のFRP製チューブから一体的に成形された連続して延びる部材(連続部材)として形成されているので、部品点数、組立工数の低減が可能になるだけでなく、これら3部材間の接合部を無くすことができる。また、この連続部材は車体骨格の剛性、とくにねじり剛性に大きく寄与するため、3部材間に接合部を設けない一本の連続部材であることで、3部材を別体で成形・接合した場合に接合部(例えば溶接部など)に発生する応力集中を回避でき、応力伝達がスムーズとなり、車体骨格全体の剛性を効果的に高めることができる。
【0009】
そして、本発明に係る車体構造においては、上記FRP製チューブ骨格部材は
、上記FRP製チューブ骨格部材としてのサイドシルは、2本のFRP製チューブを車体高さ方向に接合した一体構造により形成され
ている。このような構造により、車両の前面衝突時の荷重を広い断面積で受けることが可能になり前面衝突時の車両性能を高めることができる上、車両剛性を高めたことで側面衝突時の強度も適切に確保される。
【0010】
また、
本発明に係る車体構造においては、上記FRP製チューブ骨格部材は、その配設部位に応じて各種の形態を採り得る。例えば、上記FRP製チューブ骨格部材としてのサイドシルの前端部が、フロントピラーロアの端面に突き当てるように接合されている構造とすることができる。サイドシルが、2本のFRP製チューブを車体高さ方向に配列された構造の場合には、上部側のサイドシルの前端部がフロントピラーロアの端面に突き当てるように接合された構造や、あるいは上下両方のサイドシルの前端部がフロントピラーロアの端面に突き当てるように接合された構造とすることも可能である。前面衝突のうちSOL(Small OverLap)衝突呼ばれるオフセット衝突時に、衝突により後方に移動したホイールからの荷重がフロントピラーに作用するが、フロントピラーロアの下端部がサイドシルの前端部に強固に接合することで、フロントピラーロアの下端部の剛性が高まり、フロントピラーの後方への倒れこみを防ぐことが可能になり、乗員保護性能を十分に確保することができる。
【0011】
このようなサイドシルの前端部とフロントピラーロアの接合方法として、あるいは、上記FRP製骨格部材としてのサイドシルの前端部およびフロントピラーロアが、両者の端部中空部に嵌入する接合ジョイント、とくにソリッドな接合ジョイントを介して接合されている構造とすることもできる。この接合ジョイントには、金属製あるいは好ましくはより軽量な強化繊維等を含んだ樹脂製のものを用いることができ、樹脂製の場合、例えばBMC(Bulk Molding Compound)等により成形することができる。
【0012】
また、上記FRP製チューブ骨格部材として、ダッシュボード面に沿い、サイドシル前端部からフロアパネルのセンタートンネル前端部にわたって延びるフロントフロアクロスメンバーが設けられている構造とすることができる。この場合、フロントフロアクロスメンバーは、センタートンネルに対して車体幅方向の左右両側にそれぞれ設けられることになる。また、平面視でフロントフロアクロスメンバーの略中央部に、ダッシュボードを介して、車両前部下側に設けられるフロントサイドメンバーが配置されることになる。このような構造により、車体の前部両側に設けられるフロントサイドメンバーからの荷重をフロントフロアクロスメンバーの延在方向に、即ちサイドシルおよびフロアパネルのセンタートンネルの両方に効果的に分散させることができるため、前面衝突時の入力荷重の車体後方への伝達を軽減しつつ効果的に分散させて伝達するロードパスを形成することが可能になる。
【0013】
また、このフロントフロアクロスメンバーは、サイドシルとの接合端部では、サイドシルの延在方向に沿うように略L形に曲げられ、かつその接合端部のチューブ断面形状を略C形または略L形断面に押し潰して成形された上でサイドシル側面部に接合され、他方センタートンネル側ではセンタートンネル面に突き当てるように接合されている構造を採用することができる。このようにすれば、フロントフロアクロスメンバーを、サイドシル側とフロアパネルのセンタートンネル側とにより確実に接合することができる。略C形や略L形の横断面形状は、FRP製チューブの中空断面を押し潰すように、換言すれば、中空断面を形成していた中空部両側のチューブ壁を互いに当接させるように成形することにより形成可能である。この場合、中空断面を押し潰す場合にあっても、チューブ形態は残される。また、センタートンネル部は、フロアパネル形成部材自体で形成されてもよいが、フロアパネルのセンタートンネル形成部に間隔をもって横断面ハット形の部材を接合し、実質的に2部品からなる中空断面構造に構成されてもよい。後者の場合の方が、センタートンネル部の断面積が増えるため、センタートンネル部に入力される荷重をより効果的に受けることができ、また、ハット形部材でフロントフロアクロスメンバーを覆うように接合することでフロントフロアクロスメンバーとセンタートンネル部の接合部の強度向上をより図ることが可能である。
【0014】
また、上記FRP製チューブ骨格部材としての車体左右に配置されるセンターピラーおよびリヤピラーが、それぞれ、車体幅方向に延在するFRP製骨格部材としてのルーフクロスメンバーと、1本のFRPチューブから一体的に成形された連続して延びる部材(連続部材)として形成されている構造とすることができる。このような構造においては、フロントピラーロア、フロントピラーアッパーおよびルーフサイドレールが連続部材に形成されるのに加えて、センターピラーおよびリヤピラーがそれぞれ車体幅方向に延在するルーフクロスメンバーと共にそれぞれ連続部材に形成されるので、車両の側面衝突時に車体横方向の荷重を受けた際に、ピラーとルーフクロスメンバーを別体で製造し接合した場合に比べて、ピラーとルーフクロスメンバーの境界部に生じる応力集中をより効果的に緩和させることができる。また、車体構造全体としてのFRP製チューブの接合箇所の数が減り、一層の工数低減が可能になる。また、上記センターピラーあるいはリヤピラーと一体化されたルーフクロスメンバーは、車体幅方向中央部で接合するように2本の部材からなる(つまり、車体幅方向両側に配置される2本の部材からなる)構造とすることができる。ルーフクロスメンバーは車体幅方向に対称形状であるため、このような2分割構造を取ることで成形金型を小型化でき、より安価に大量に製造することが可能となる。分割部を車体中央部に設けることで、車両の側面衝突時に変形および応力集中の影響の少ない部位を接合部とすることができる。
【0015】
ここで、FRP製チューブ骨格部材として、車体幅方向中央部で接合するように2本の部材からなり、車体幅方向外側の端部形状がチューブ断面形状を押し潰して略C形に形成され、該端部で前記ルーフサイドレールに接合されているフロントルーフクロスメンバーを設けることができる。このフロントルーフクロスメンバーも前述の他のルーフクロスメンバーと同様車幅方向に対称であるため、2分割構造とすることで成形性を向上できる。また、チューブはFRP製チューブで形成しているので、ルーフサイドレールとの接合部の端部のチューブ断面を押し潰して略C形に形成し、接合部に超音波溶着法等を適用することで接合強度を確保しつつ簡便にルーフサイドレールと接合できる。
【0016】
また、FRP製チューブ骨格部材として、車体フロア下面後方部に車体幅方向に配置され、車体前後方向に延設する2本のリヤサイドメンバーが設けられている構造とすることができる。これによって、後突に対して強度的な対策を講じることが可能になる。
【0017】
上記本発明に係る車体構造においては、上記FRP製チューブ骨格部材は、少なくとも部分的に略矩形、略円形、略三角形、略C形、略L形のいずれかの横断面形状を有する部材に構成できる。ここで、各種横断面形状は、FRP製チューブを中空断面形状を維持して形成する場合や、前述のとおりFRP製チューブの中空断面を押し潰すように成形することによっても形成可能である。これら各横断面形状は、車体構造におけるFRP製チューブの配設部位に応じて適宜選択可能であり、また、一つのFRP製骨格部材においても延在方向の途中で横断面形状を変更することも可能である。
【0018】
また、本発明に係る車体構造においては、上記FRP製チューブ骨格部材の成形に用いられるFRP製チューブは、熱可塑性FRP製チューブからなることが好ましい。また、上記FRP製チューブ骨格部材は、上記熱可塑性FRP製チューブを少なくとも内圧成形して形成することが好ましい。熱可塑性FRPチューブを内圧成形することにより、オートクレーブ法やRTM法を用いて生産する場合に比べて成形が容易化され、大量生産に適した高い生産性の達成が可能になる。また、車体の主要な骨格の適用部位に応じて必要に応じて、拡径部や縮径部など容易に望ましい断面形状を成形可能となり、全体にわたって高い剛性・強度を確保した車体骨格を形成することが可能になる。
【0019】
また、本発明に係る車体構造においては、上記FRP製チューブ骨格部材と相手部材との接合に、該相手部材との間にFRP製チューブ骨格部材を挟み込んで一体的に接合するためのシェル状の接合スチフナを用いることが可能である。このような接合スチフナを用いることで、より確実な接合と接合部の強度向上が可能になる。この接合スチフナもFRPで形成することが好ましい。接合スチフナは接合部材の材質に応じて熱可塑性FRPあるいは熱硬化性FRPを選択可能で、またRTM法やプレス成形法を用いて成形できる。さらに、本発明に係る車体構造においては、車体骨格がFRP、特に好ましくは熱可塑性FRPで構成されているため、基本的に、金属製の締結部材を用いる必要がなく、特に熱可塑性FRP製チューブ骨格部材同士を接合する際にはFRPの接合スチフナを併用し、振動溶着法や超音波溶着法などを用いて一体的に接合可能であるため、部品点数、組立工数の低減を図りつつ、低コストかつ高い生産性でもって、所望の軽量かつ高剛性、高強度な車体構造を実現可能となる。上記の溶着法に限らず、必要に応じて接着剤を用いた接合方法等を適宜選択してもよい。
【0020】
また、本発明に係る車体構造においては、上記FRP製チューブが、少なくとも長手方向に配向された強化繊維を有することが好ましい。チューブの長手方向に強化繊維を含有するため、FRP製チューブによって形成されたFRP製チューブ骨格部材の曲げ剛性や曲げ強度を高く保つことができる。また、例えば内圧成形を用いてチューブから車体の骨格部材を成形した際には、チューブ内部に強化繊維を含有しているため、チューブの拡径部において厚みは薄くなるが、繊維含有率は逆に高まるため拡径部の強度が高まるので、成形したFRP製チューブ骨格部材も高い強度を確保できる。したがって、金属材料のチューブハイドロフォーミング成形におけるような、拡径部の厚みが薄肉化するために生じる強度低下の問題の発生を回避できる。強化繊維の種類としてはとくに限定されず、炭素繊維やガラス繊維、アラミド繊維、さらにはこれらを組み合わせたハイブリッド構成の強化繊維の使用が可能であるが、高い強度、剛性を達成するためには、強化繊維として長繊維の炭素繊維を有することが好ましい。
【0021】
また、本発明に係る車体構造における上記FRP製チューブとしては、全ての上記FRP製チューブ骨格部材の成形前の上記FRP製チューブの少なくとも内径を同一径とすることも可能である。例えば、成形前の内径が80〜100mm程度の範囲にあるFRP製チューブを使用することができる。成形前の内径が80〜100mm程度の範囲にあるFRP製チューブを使用することにより、車体構造としての必要な剛性を保ちつつ、望ましい車内スペースを確保することが可能になる。このようにすれば、同一内径のFRP製チューブを多用して所望の車体構造を実現することが可能になり、低コスト化、組立工数の削減を一層促進することが可能になる。
【発明の効果】
【0022】
このように、本発明に係る車体構造によれば、金属材料で構成した車体構造よりも軽量かつ高剛性で、部品点数、組立工数を削減でき、FRPを用いても低コストかつ高い生産性で所望の車体骨格構造を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の一実施態様に係る車体構造の斜視図である。
【
図2】
図1の車体構造の主要骨格部の部分斜視図である。
【
図3】
図2の車体構造のA−A線、B−B線、C−C線、D−D線、E−E線に沿って見た各部の概略横断面図である。
【
図4】
図1の車体構造のサイドシルとフロントピラーロアとの接合部の一例を示す概略部分構成図(A)と他の例を示す概略部分構成図(B)である。
【
図5】サイドシルとフロントピラーロアとの接合部のさらに他の例を示す概略部分構成図である。
【
図7】
図6の車体構造のF−F線に沿って見た概略断面図である。
【
図8】
図1の車体構造のフロントフロアクロスメンバーの設置例を示す概略部分平面図である。
【
図9】
図8のG−G線に沿って見たフロントフロアクロスメンバーのサイドシルへの接合部の例(A)、(B)を示す概略断面図である。
【
図10】
図1の車体構造のルーフクロスメンバーとルーフサイドレールとの接合部の例を示す部分斜視図である。
【
図11】
図1の車体構造の後部の下面側から見た部分斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
図1および
図2は、本発明の一実施態様に係る車体構造1を示しており、とくに
図2は、熱可塑性FRP製チューブによって形成されたFRP製チューブ骨格部材によって構成された、車体を構成する主要な骨格部分を示している。
図1、
図2に示されたFRP製チューブ骨格部材のうち、少なくともフロントピラーロア2、フロントピラーアッパー3およびルーフサイドレール4は、1本のFRP製チューブ、本実施態様ではとくに1本の熱可塑性FRPチューブを一体的に成形して連続して延びる部材に形成されている。
【0025】
また、車体構造1は、熱可塑性FRPチューブによって形成された車体幅方向両側に配置されたセンターピラー8とリヤピラー9、および車体幅方向両側に位置するルーフサイドレール4間にわたって延びるフロントルーフクロスメンバー5、センタールーフクロスメンバー6、リヤルーフクロスメンバー7をFRP製チューブ骨格部材として有している。このうち、センターピラー8はセンタールーフクロスメンバー6と、リヤピラー9はリヤルーフクロスメンバー7と、それぞれ、1本の熱可塑性チューブから一体的に成形して連続して延びる部材として形成されている。また、フロントルーフクロスメンバー5は、車体幅方向中央部で接合するように2本の熱可塑性FRPチューブを成形した部材からなり、車体幅方向外側の端部形状がチューブ断面形状を押し潰して
図3(D)あるいは
図10に示すような略C形に形成されている。センタールーフクロスメンバー6およびリヤルーフクロスメンバー7も、それぞれ、車体幅方向中央部で接合するように2本の部材からなる。熱可塑性FRP製チューブによって形成された各FRP製チューブ骨格部材は、例えば、少なくとも部分的に略矩形、略円形、略三角形、略C形、略L形等の種々の横断面形状に形成され、
図2におけるA−A線、B−B線、C−C線、D−D線、E−E線に沿って見た各部は、例えば
図3の(A)、(B)、(C)、(D)、(E)に例示するような略L形あるいは略矩形状の横断面形状S1、S2、S3、S4、S5に形成される。
【0026】
車体構造1の下部両側には、熱可塑性FRP製チューブを用いて形成された各FRP製チューブ骨格部材としてのサイドシル10が設けられており、本実施態様においては、サイドシル10は、2本の熱可塑性FRP製チューブを用いて形成されたサイドシルアッパー11とサイドシルロア12を車体高さ方向に接合した一体構造に構成されている。本実施態様におけるこれらサイドシルアッパー11とサイドシルロア12は、例えば
図7に例示されるような略L形の横断面形状を有する2本のFRP製チューブにより形成されている。
【0027】
FRP製チューブ骨格部材としてのサイドシル10の前端部は、例えば、フロントピラーロア2の端面に突き当てるように接合される。例えば
図4(A)に示すように、サイドシルアッパー11とサイドシルロア12の両方がフロントピラーロア2の端面に突き当てるように接合される。また、例えば
図4(B)に示すように、サイドシルアッパー11をフロントピラーロア2の端面に突き当てるように接合し、サイドシルロア12をフロントピラーロア2の端面に突き当てるように接合することもできる。さらに、
図5に例示するように、サイドシル10の前端部と、フロントピラーロア2の下端部に対して、両者に嵌入する(図示例では、フロントピラーロア2とサイドシルアッパー11とに嵌入する)接合ジョイント16を介して接合することもできる。接合ジョイント16には、前述したように、強化繊維等を含んだ樹脂製あるいは金属製のソリッドなものを用いることができ、樹脂製の場合、例えばBMC(Bulk Molding Compound)等により成形することができる。また、
図4、
図5では、フロントピラーロア2とサイドシル10を挟み込んで一体化度を高めるとともに図示しないその他のボディ部材と接合するためにシェル状の2枚のFRP製接合スチフナ15を設けている。FRP製接合スチフナ15により、接合強度が向上するとともに、FRP製接合スチフナ15の剛性も加わって、前述のSOL(Small OverLap)のオフセット衝撃荷重が加わった際にフロントピラーロア2の後方への倒れこみ変形を効果的に抑制することができる。
【0028】
図1あるいは
図6に示すように、車体構造1の前部には、車体前部と客室を隔てるダッシュボード13が設けられており、車体構造1の前部下部には、車体幅方向両側に前方に向けて延びるフロントサイドメンバー14が設けられている。
【0029】
車体構造1の前部下部側には、例えば
図6に示すように、熱可塑性FRPチューブを成形したFRP製チューブ骨格部材として、ダッシュボード13の面に沿うような形状でサイドシル10の前端部とFRP製フロアパネル17のセンタートンネル18(
図1)の前端部とにわたって延びるフロントフロアクロスメンバー19が設けられている。上記フロントフロアクロスメンバー19は
図8に示すように、平面図でその略中央部でダッシュボード13を介してフロントサイドメンバー14の後端が接合するように構成されている。このフロントフロアクロスメンバー19は、
図2に示すように車体幅方向両側にそれぞれ設けられている。また、センタートンネル18は、例えば
図7に示すように、車体幅方向両側のサイドシル10間に広がるように設けられるフロアパネル17の車体幅方向中央部に形成されるが、このフロアパネル17のセンタートンネル形成部に間隔をもってFRP製の横断面ハット形の部材20を接合し、センタートンネル18の強度、剛性を向上した中空断面構造に構成してもよい。このような構造を構成することにより、車体の前部両側に設けられるフロントサイドメンバー14からの衝突荷重をフロントフロアクロスメンバー19の延在方向、即ちサイドシル10およびセンタートンネル18の両方に効果的に分散させることができるため、前面衝突時の衝撃荷重を車体後方へ軽減しつつ効果的に分散させて伝達するロードパスを形成することが可能になる。
【0030】
上記フロントフロアクロスメンバー19は、例えば
図6、
図8に示すように、サイドシル10との接合端部で、略L形に曲げられて(
図8に図示)、かつその端部断面を略C形(
図9(A)に図示)または略L形(
図6あるいは
図9(B)に図示)に押し潰して成形され、サイドシル10の側面部に接合され、センタートンネル18側ではセンタートンネル18形成面に突き当てるように接合されている(
図6あるいは
図8に図示)。これら接合部においては、適宜、FRP製接合スチフナ22を用いてフロントフアクロスメンバー19をフロアパネル17あるいはダッシュボード13に一体接合することで車体構造の剛性ならびに接合強度を向上し、フロントサイドメンバー14からの衝撃荷重を適切に分散することが可能となる。
【0031】
FRP製接合スチフナは、上述した部位以外にも、車体構造1の各所に設けることが可能である。例えば
図1に示すようにフロントピラー2あるいはセンターピラー8の途中に各ピラーを挟み込むように補強用の2枚のFRP製接合スチフナ15および21を設けたり、
図6、
図8に示すようにフロントフロアクロスメンバー19の補強用にシェル状のFRP製接合スチフナ22を設けたりすることができる。さらなる実施例として、
図10に示すように、FRP製骨格チューブ部材としてのセンタールーフクロスメンバー6とセンターピラー8との連続一体化部材とルーフサイドレール4とを接合する際には、FRP製接合スチフナ23と相手部材としてのルーフサイドレール4との間にセンタールーフクロスメンバー6とセンターピラー8との連続部材を挟み込んで一体的に接合できる。あるいは同様に、フロントルーフクロスメンバー5とルーフサイドレール4との接合にもFRP製接合スチフナ24を、それぞれ用いることができる。上述の場合、本実施態様では、熱可塑性FRP製チューブ骨格部材を接合するため、FRP製接合スチフナ23、24は熱可塑性FRPで構成でき、これら各車体骨格部材を接合する際には振動溶着法や超音波溶着法を用いて一体接合することが可能である。
【0032】
また、車体構造1のフロアパネル17の車体下面後方部には、例えば
図11(A)に示すように、FRP製後部フロアパネル25に対して、熱可塑性FRPチューブを成形してなる2本のリヤサイドメンバー26を配置することができる。これによって、後突に対して強度的な対策を採ることが可能になる。また、この場合にも、例えば
図11(B)に示すように、各リヤサイドメンバー26の接合にFRP製接合スチフナ27を用い、接合強度ならび車体剛性を向上することが可能である。
【0033】
このようにして
図1に示したような車体構造1が、その大部分がFRPで構成され、特に主要骨格の大部分が熱可塑性FRP製チューブによって形成されたFRP製チューブ骨格部材に構成されるので、金属材料で構成した車体構造よりも軽量かつ高剛性で、部品点数、組立工数を削減でき、FRPを用いても低コストかつ高い生産性で所望の車体骨格構造を実現できる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明に係る車体構造は、あらゆる車種の車体構造に適用でき、とくに、軽量かつ高剛性で、部品点数、組立工数の削減、低コストかつ高い生産性が求められる車体構造に好適なものである。
【符号の説明】
【0035】
1 車体構造
2 フロントピラーロア
3 フロントピラーアッパー
4 ルーフサイドレール
5 フロントルーフクロスメンバー
6 センタールーフクロスメンバー
7 リヤルーフクロスメンバー
8 センターピラー
9 リヤピラー
10 サイドシル
11 サイドシルアッパー
12 サイドシルロア
13 ダッシュボード
14 フロントサイドメンバー
15,21、22、23、24、27 接合スチフナ
16 接合ジョイント
17 フロアパネル
18 センタートンネル
19 フロントフロアクロスメンバー
20 ハット形部材
25 後部フロアパネル
26 リヤサイドメンバー
S1、S2、S3、S4、S5 横断面形状