【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る締結部構造は、締結部を有する部材の該締結部周囲に同心円状の複数のリブ壁を有し、締結部材に最も近い最内層リブ壁におけるベアリング強度よりも、少なくとも2層目のリブ壁におけるベアリング強度を低くした締結部構造であって、前記部材が締結部周囲に3層以上の同心円状のリブ壁を有し、最内層リブ壁と2層目のリブ壁との間の部位における径方向強度が、2層目のリブ壁と3層目のリブ壁との間の部位における径方向強度よりも大き
く、締結部を有する部材に縦横に延びる補強リブが配置され、締結部を有する部材が、ガラス転移温度が30℃〜150℃であるポリアミドを含む材料から構成されていることを特徴とするものからなる。ここで、ベアリング強度とは、リブ壁の内周面に作用する荷重が増大しないでも該内周面部位の変位が増大し始めるときの応力として表される。
【0008】
このような本発明に係る締結部構造においては、少なくとも2層目のリブ壁におけるベアリング強度が最内層リブ壁におけるベアリング強度よりも低いので、外部荷重が締結部に加わる際、最内層リブ壁よりも2層目以降のリブ壁の方が先に破壊を生じようとし、締結部から遠い方の部位から破壊を開始しようとする。すなわち、締結部の周囲において逐次破壊のプロセスが成立し、かつ、締結部から遠い方の部位から逐次破壊が開始されることになる。したがって、最内層リブ壁を含む締結部の補強構造により締結部の強度、剛性が安定して高く維持されつつ、締結部から遠い方の部位からの逐次破壊の開始により、締結部に加わる外部荷重のエネルギーが逐次破壊を介して円滑に吸収されていくことになる。つまり、締結部の強度や剛性を高めるための補強と、逐次破壊による円滑な外部荷重のエネルギー吸収とを両立させることが可能になる。
また、本発明に係る締結部構造においては、上記部材が締結部周囲に3層以上の同心円状のリブ壁を有し、最内層リブ壁と2層目のリブ壁との間の部位における径方向強度が、2層目のリブ壁と3層目のリブ壁との間の部位における径方向強度よりも大きい構造とされている。すなわち、2層目のリブ壁と3層目のリブ壁との間の部位の強度を意図的に弱めた構造である。このような構造においては、逐次破壊の過程において、最内層リブ壁と2層目のリブ壁との間の部位よりも、2層目のリブ壁と3層目のリブ壁との間の部位の方を先に破壊させるようにすることができるので、同心円状に配置された部位のうち、外側の面積の大きい側の部位においてリブ壁同士を接触させることが可能になる。リブ壁同士が接触した状態になると、大きな荷重を受け持つことが可能になり、それよりも外側への破断の伝播を効果的に防止でき、部材全体が破断に至ることが効果的に防止される。
【0009】
上記本発明に係る締結部構造においては、上記部材に上述したような逐次破壊を生じさせることができさえすれば、部材の材質は特に限定されないが、好ましくは、上記部材自体が逐次破壊可能な材料からなることが望ましい。
【0010】
このような逐次破壊可能な部材構成材料として、とくに樹脂を含む材料、中でも、熱可塑性樹脂を含む材料を挙げることができる。このような逐次破壊可能な材料としての樹脂として、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、液晶ポリエステル等のポリエステルや、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリブチレン等のポリオレフィンや、スチレン系樹脂の他や、ポリオキシメチレン(POM)、ポリアミド(PA)、ポリカーボネート(PC)、ポリメチレンメタクリレート(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、変性PPE、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリスルホン(PSU)、変性PSU、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリケトン(PK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリアリレート(PAR)、ポリエーテルニトリル(PEN)、フェノール系樹脂、フェノキシ樹脂、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素系樹脂、更にポリスチレン系、ポリオレフィン系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリブタジエン系、ポリイソプレン系、フッ素系等の熱可塑エラストマー等が挙げられ、これらの共重合体、変性体、および2種類以上ブレンドした樹脂などであってもよい。とりわけ、高伸度の観点からはPC樹脂やABS樹脂およびそれらのブレンド材が、高強度の観点からはポリアミド樹脂およびそれらのブレンド材がより好ましく用いられる。
【0011】
本発明で用いられる好ましいポリアミド樹脂としては、アミノ酸、ラクタムあるいはジアミンとジカルボン酸を主たる原料とする重合体または共重合体である。その原料の代表例としては、6−アミノカプロン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸、パラアミノメチル安息香酸などのアミノ酸、ε−カプロラクタム、ω−ラウロラクタムなどのラクタム、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4−/2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、5−メチルノナメチレンジアミンなどの脂肪族ジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミンなどの芳香族ジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1−アミノ−3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、アミノエチルピペラジンなどの脂環族ジアミン、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸などの脂肪族ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2−クロロテレフタル酸、2−メチルテレフタル酸、5−メチルイソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロペンタンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸などが挙げられる。本発明においては、これらの原料から誘導されるポリアミドホモポリマーまたはコポリマーを2種以上配合してもよい。
【0012】
ポリアミドの具体的な例としては、ポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリテトラメチレンセバカミド(ナイロン410)、ポリペンタメチレンアジパミド(ナイロン56)、ポリペンタメチレンセバカミド(ナイロン510)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリデカメチレンアジパミド(ナイロン106)、ポリデカメチレンセバカミド(ナイロン1010)、ポリデカメチレンドデカミド(ナイロン1012)、ポリウンデカンアミド(ナイロン11)、ポリドデカンアミド(ナイロン12)、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンアジパミドコポリマー(ナイロン6/66)、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン6/6T)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6T)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリドデカンアミドコポリマー(ナイロン6T/12)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6T/6I)、ポリキシリレンアジパミド(ナイロンXD6)、ポリキシリレンセバカミド(ナイロンXD10)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリペンタメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/5T)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリ−2−メチルペンタメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/M5T)、ポリペンタメチレンテレフタルアミド/ポリデカメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン5T/10T)、ポリノナメチレンテレフタルアミド(ナイロン9T)、ポリノナメチレンテレフタルアミド/ポリ−2−メチルオクタメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン9T/M8T)、ポリデカメチレンテレフタルアミド(ナイロン10T)、ポリデカメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン10T/66)、ポリデカメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンドデカンアミド(ナイロン10T/612)、ポリドデカメチレンテレフタルアミド(ナイロン12T)およびこれらの共重合体などが挙げられる。ここで、「/」は共重合体を示し、以下同じである。
【0013】
とりわけ、220℃〜330℃の融点を有するポリアミドが好ましい。220℃以上の融点を有するポリアミドを用いることにより、耐熱性(荷重たわみ温度)をより向上させることができる。一方、330℃以下の融点を有するポリアミドを用いることにより、樹脂組成物製造時にポリアミドの分解を抑制することができ、樹脂組成物から得られる成形品の耐熱性、高温剛性、機械強度、および耐衝撃性をより向上させることができる。ここで、本発明におけるポリアミドの融点は、示差走査熱量計を用いて、不活性ガス雰囲気下、ポリアミドを、溶融状態から20℃/分の降温速度で30℃まで降温した後、20℃/分の昇温速度で融点+40℃まで昇温した場合に現れる吸熱ピークの温度と定義する。ただし、吸熱ピークが2つ以上検出される場合には、ピーク強度の最も大きい吸熱ピークの温度を融点とする。
【0014】
本発明において、ポリアミドのガラス転移温度は、30℃〜150℃であることが好ましい。ガラス転移温度が30℃以上であれば、成形品の高温剛性、機械強度および耐衝撃性をより向上させることができる。より好ましくは45℃以上である。一方、ガラス転移温度が150℃以下であれば、成形時の結晶化速度を適度に抑え、成形加工に適した樹脂組成物を得ることができる。ここで、本発明におけるポリアミドのガラス転移温度は、示差走査熱量計を用いて、不活性ガス雰囲気下、ポリアミドを、液体窒素にて急冷した後、20℃/分の昇温速度で昇温した場合に現れる階段状吸熱ピークの中点の温度と定義する。
【0015】
220℃〜330℃の融点を有し、30℃〜150℃のガラス転移温度を有するポリアミドとしては、例えば、ナイロン6、ナイロン610、ナイロン66、ナイロン46、ナイロン410、ナイロン56、ナイロン6T/66コポリマー、ナイロン6T/6Iコポリマー、ナイロン6T/12、ナイロン6T/5T、ナイロン6T/M5T、ナイロン6T/6コポリマーなどのヘキサメチレテレフタルアミド単位を有する共重合体や、ナイロン9T、ナイロン9T/M8T、ナイロン10T、ナイロン10T/612、ナイロン10T/66、ナイロン12Tなどを挙げることができる。これらのポリアミドを必要に応じて2種以上配合することも実用上好適である。
【0016】
ポリアミドの重合度には特に制限はないが、樹脂濃度0.01g/mlの98%濃硫酸溶液中、25℃で測定した相対粘度が1.5〜5.0の範囲であることが好ましい。相対粘度が1.5以上であれば、得られる成形品の機械強度、耐衝撃性、耐熱性および高温剛性より向上させることができる。相対粘度2.0以上がより好ましい。一方、相対粘度が5.0以下であれば、流動性に優れることから成形加工性に優れる。
【0017】
本発明で用いられるポリアミドの製造方法としては、例えば、ジアミンとジカルボン酸を主たる原料とするポリアミドの場合、原料となるジアミンとジカルボン酸またはその塩を加熱して低次縮合物を得て、さらに固相重合および/または溶融重合により高重合度化する方法などが挙げられる。低次縮合物を一旦取り出して、固相重合および/または溶融重合する2段重合、低次縮合物の製造工程に続いて、同一反応容器内で固相重合および/または溶融重合する1段重合のどちらを用いてもよい。なお、固相重合とは、100℃以上融点以下の温度範囲で、減圧下あるいは不活性ガス中で加熱する工程を指し、溶融重合とは、常圧または減圧下で融点以上に加熱する工程を指す。
【0019】
また、とくに本発明に係る締結部構造においては、上記同心円状のリブ壁間に、径方向に延びる放射状のリブが設けられていることが好ましい。径方向に延びる放射状のリブは、効率よく径方向の荷重を受け持つことができるので、径方向に延びる放射状のリブの設置により、締結部の強度、剛性が大幅に高められる。すなわち、締結部の強度、剛性を高めつつ、締結部の周囲部における逐次破壊を介して外部荷重のエネルギーの円滑な吸収が可能になる。
【0020】
また、本発明に係る締結部構造においては、上記締結部において、上記締結部材の周囲にカラーが嵌合されている構造を採用することができる。カラーを介して締結することにより、締結部材のネジ部等が部品の孔内面に直接接触することが回避され、また、外部荷重が伝達される際に荷重を均等に分散させることが可能になるので、微小部位に過大な局部荷重が負荷されることが防止され、その状態を通してより円滑なエネルギー吸収が可能となる。
【0021】
また、上記締結部材の種類としてはとくに限定されないが、代表的にはボルトを使用することができる。