【実施例】
【0021】
この発明に係るスペーサの一実施例を
図1、
図2に示し、同図に示すように、この実施例のスペーサSは、10個の円柱状スペーサ片10からなる。このスペーサ片10の大きさ、数(スペーサSの分割数)などは、
図2に示す偏向部分の屈曲部(曲線部分21)の長さや孔径等によって適宜に決定する。また、そのスペーサS(スペーサ片10)の材料は、ケーブルPの緊張力に抗する強度を有するものを適宜に選択する。この実施例では、高密度ポリエチレン(High Density Polyethylene:HDPE)製とし、
図1において、径L:125mm、幅W:100mmとした。
【0022】
このスペーサ片10は、その一側面の上下左右に突起11、他側面の上下左右にその突起11が嵌る係止孔12を有し、その突起11と係止孔12を嵌め合わせて適宜数を連結可能である。このとき、突起11と係止孔12の嵌合度合は、突起11の外周面と係止孔12の内周面との間に間隙を持たせて連結されたスペーサ片10が所要角度屈曲し得るように余裕をもっているようにする。突起11及び係止孔12の位置及び数は任意であり、これらは省略することもできる。図中、14は面取りである。
【0023】
また、このスペーサ片10は、同心円上径方向順々に、1、6、12の計:19個の両側面(スペーサSの分割面)に開口する挿通孔13が形成されており、この挿通孔13にケーブルPの各ストランドaが挿通される。挿通孔13の数、大きさ、配置等は、ケーブルPのストランドaの数、径等によって、例えば、数は19以外に、7、12、27等と適宜に設定する。
【0024】
このスペーサSは以上の構成であり、例えば、
図8に示したケーブルPの横桁C又は(及び)下床版偏向部Dの貫通孔偏向部分に使用する。その態様の横桁Cの偏向部分を
図2に示し、その各貫通孔20には、横桁C又は偏向部Dの構築時、適宜に保護管22が埋設される。この実施例では、その貫通孔20の少なくとも曲線部分21にこのスペーサSが位置するように各スペーサ片10を設ける(嵌め込む)。この実施例では10個のスペーサ片10を設けた。
【0025】
そのスペーサSの設置は、少なくとも2本のストランドaに10個のスペーサ片10を挿し通し、その両ストランドaをメッセンジャーワイヤとして貫通孔20に挿し通す。その後、各スペーサ片10を貫通孔20に打ち込んで(カチ込んで)前記曲線部分21に嵌め込み挿入する。このとき、前記メッセンジャーワイヤ用ストランドaは、曲線部分21の最内側と最外側を結ぶ軸に対し90度回転させた位置(軸に対し左右対称位置)に挿通するのが好ましい。このようにすると、メッセンジャーワイヤの重量でスペーサSが回転することが無くて好ましいからである。
貫通孔20には、HDPE製パイプ23をその全長に嵌め込んでも良く、この実施例ではそのパイプ23を嵌めている。
【0026】
貫通孔20の曲線部分21にそのスペーサS(全てのスペーサ片10)を嵌め込んだ後、残りのストランドaをスペーサS(各スペーサ片10)の各挿通孔13に挿通し、
図2に示す、スペーサSを介在した貫通孔20へのケーブルPの挿通を完了する。このとき、全てのスペーサ片10に全てのストランドaを挿通した後で、その全スペーサ片10を貫通孔20に嵌め込むことができる。
下床版偏向部Dの貫通孔偏向部分にも同様にしてスペーサSを介在してストランドaを挿通する。
このように,各偏向部分にスペーサSを配置することにより、スペーサS設置部分の全長に亘りストランドa同士の配置間隔がスペーサSの剛性により一定に保たれる。
【0027】
なお、貫通孔20を貫通するケーブルP(ストランドa)を貫通孔長より少し長くしたものとし、そのストランドaの片端に他の横桁C又は偏向部Dに向かう他の長いストランドaを連結して導入用のストランドとすることもできる。このようにすれば、貫通孔20に挿通するストランドaは仮設の軽いものとし、その軽い仮設のストランドによってストランドaの配列を本設ストランドaの挿入前に確定させることができて取り扱い易い。
【0028】
この挿通状態において、ケーブルPの一端側を固定し(定着部とし)、他端側を緊張する(緊張部とする)ことによって、ケーブルPに所要の張力を付与する。
その張力は、ケーブルPの全体(全てのストランドa)に一度に行っても良いが、ストランドaを1本づつ行っても良い。何れの場合も、スペーサSの存在によって、各ストランドaは位置決めされて動くこと無く、所要の緊張力を付与することができる。
特に、ストランドaの1本毎の張力付与は、小さなジャッキ(シングルジャッキ)で行うことができるため、そのジャッキは軽く、作業性の良いものとなる(
図4参照)。
【0029】
その各ストランドaに1本づつ緊張力を与えてケーブルPに所要の緊張力を付与する際、
図3に示す、スペーサS(スペーサ片10)が回転しないように、そのケーブルPの曲線部分21の外側(
図2において上側)のストランドa
1から内側のストランドに向かってケーブル断面中心軸bに対称に順々(a
1、a
2、a
3・・a
17、a
18、a
19)、又は同内側から外側のストランドに向かって同中心軸bに対称に順々(a
19、a
18、a
17・・a
3、a
2、a
1)に緊張力を付与することができる。このとき、前者の緊張手順又は後者の緊張手順を行った後、逆の緊張手順、例えば、前者の緊張手順で行った場合は後者の緊張手順でもって緊張し直しを行うこともできる。この緊張のし直し数は任意である。
【0030】
これらの場合、最初のケーブル緊張においては、各ストランドaの規格破断荷重の所要%、例えば10%としてスペーサS(スペーサ片10)と貫通孔20内面との摩擦力を高め、つぎに、ケーブルPの最終緊張においては、各ストランドaのその緊張荷重である引張荷重の所要%、例えば70%を付与するようにすれば、スペーサS(スペーサ片10)の貫通孔の軸心周りの回転を有効に防止できる。このとき、ケーブルP(各ストランドa)への緊張力の繰り返し数は任意である。
【0031】
上記実施例の横桁Cが断面逆台形状のものにおいて、
図4に示すように、その貫通孔20の一端から突出するケーブルPをラムチェア30aを介してアンカーデスク30bによって固定(定着)し、同他端から突出するケーブルPをラムチェア30a及びアンカーデスク30bを介して緊張可能な緊張部とし、その各ストランドaを1本づつシングルジャッキ31によって上記のように順々に緊張したところ、スペーサSの存在によって、各ストランドaは移動(回転)することなく、スペーサ片10の変形、破損もなかった。このとき、曲線部分21は約1m(スペーサ片10×10=100mm×10)であった。
【0032】
上記のように、ストランドaを1本づつ緊張し得れば、
図8に示す通常の外ケーブルにおいて、
図6に示すように、一のケーブルPにおいて、その一部、例えば、9本のストランドaを床版下面の偏向部に導き、残りの10本を下床版Eの偏向部Dに導いて(ケーブルPの偏向部分からそのストランドaを分けて異なる方向に導いて)、各ストランドaの束P
1、P
2に所要の緊張力を容易に付与し得る。
すなわち、ストランドaを1本づつ緊張し得れば、ケーブルPの配設態様を様々に変えることができ、例えば、横桁C、C間の下床版E上に複数の偏向部Dがあったり、同床版下面に複数の偏向部分があったりする場合において、その偏向部や定着部にケーブルP、P
1、P
2を適宜に導いた態様を選択できるため、外ケーブル構造を構築する際の設計の自由度が増す。
【0033】
なお、この種の外ケーブル構造において、ストランドaは、各偏向曲線(曲線部分21)の内側に配置される場合と外側に配置される場合とが生じる。例えば、ケーブルPが横桁Cからの下床版偏向部Dに至る場合、その横桁Cの偏向部分は曲線部分21が下向き(凸状)円弧状となって(
図2参照)、緊張状態のストランドa
1、a
2、a
3・・a
17、a
18、a
19は
図7(a)の配置となり、一方、下床版偏向部Dの偏向部分は曲線部分21が上向き(凹状)円弧状となって、緊張状態のストランドa
1、a
2、a
3・・a
17、a
18、a
19は
図7(b)の配置となる。すなわち、その横桁Cの偏向部分(
図7(a))において最外側のストランドa
1・・は下床版偏向部Dにおける偏向部分(同図(b))においては最内側となり、偏向部分の向きによって、曲線部分21の円弧に対する内側、外側のストランドaが入れ替わる。
このため、一偏向部分では、ストランドaを1本づつその円弧状保護管22(パイプ23)の内側(内径側)に位置するストランドaから順次、同外側(外径側)に位置するストランドaへと緊張していく。例えば、
図7(a)ではストランドa
19、a
18等から同a
2、a
1等へと順次緊張していくことは可能であるが、他の偏向部分では、同外側から内側へは、例えば、
図7(b)ではストランドa
19、a
18等から同a
2、a
1へと順次緊張していくこととなり、その外側のストランドa
19、a
18等の緊張により内側のストランドa
2、a
1等を拘束してしまうため、その緊張を行うことができない。
【0034】
したがって、この種の外ケーブル構造においては、一のストランドaはその長さ方向に必ず複数の偏向部分が存在して上記内側となったり外側となったりするため(
図8参照)、ストランドaを1本づつ緊張することはできない。このため、ストランドaを1本づつ緊張する場合には、外側から内側に向かって順々に緊張する偏向部分にはこの発明のスペーサSを介在する必要がある。勿論、内側から外側に向かって順々に緊張する場合の偏向部分にもこの発明のスペーサSを介在しても良いことは勿論である。
例えば、横桁Cに定着部を構成し、その定着部において、外側に位置するストランドaから内側に向かって緊張する場合、前記各ストランドaの配置態様の変動が生じ易いため、この発明のスペーサSを必ず介在する必要があり、一方、下床版偏向部Dにおける偏向部分においては内側のストランドaからの緊張となるため、この発明のスペーサSを必ずしも介在する必要はなくなる。
【0035】
上記実施形態は、橋梁の場合であったが、他の構造物における外ケーブル構造の偏向部分にこの発明に係るスペーサSを採用し得ることは勿論である。
スペーサ片10の外周形状は、回転しない形状、例えば、縦断面三角形、同四角形、同五角形、同六角形、同七角形、同八角形(
図5)、12角形、16角形等の同正多角形、同楕円形、及び同多角形等とすることができる。この時、貫通孔20(保護管22、パイプ23)もそのスペーサ片10の外周形状に対応する断面形状とすることが好ましい。さらに、スペーサ片10の外周面に摩擦抵抗を増す溝や凸条、多数の突起等を設けることもできる。
ケーブルPのストランドaは、
図9に示す樹脂被覆eがされたものに限らず、その樹脂被覆eがされていないもの等を適宜に採用し得ることは勿論である。
このように、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。この発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。