(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の第1実施形態によるエネルギー自己供給型アクティブ振動制御システムについて、
図1〜
図3を参照しながら説明する。
図1は、本発明の第1実施形態によるエネルギー自己供給型アクティブ振動制御システム1を示す概略図である。
図2は、本発明の第1実施形態によるエネルギー自己供給型アクティブ振動制御システム1を示す概略ブロック図である。
図3は、本発明の第1実施形態によるエネルギー自己供給型アクティブ振動制御システム1の振動制御を示すフローチャートである。
【0024】
図1、
図2に示すように、エネルギー自己供給型アクティブ振動制御システム1は、制御部10と、振動センサ20と、制御装置としての回生用アクチュエータ30と、制御装置としての制振用アクチュエータ40と、中床62と、上床61と、を有する。エネルギー自己供給型アクティブ振動制御システム1は、地面に建つビル等の建物の床3と、建物内に配置される被支持部材としての積載物2との間に配置され、地震の際に、積載物2が振動することを抑えるために用いられる。積載物2としては、具体的には、例えば、データサーバや美術品等の、振動に対して弱いものである。
【0025】
建物は、基体としての床3を有している。床3と、被制振体としての上床61と、床3と上床61との間に配置された中間体としての中床62とで、3層の床構造を構成している。床3は、建物の床面である。中床62は、床3に対して床3の上面に平行に振動可能である。上床61は、床3の上面に平行に、即ち水平方向に、床3及び中床62に対して振動可能である。従って上床61は、地震の際に、振動する床3に対して相対的に振動可能である。上床61は、積載物2を支持可能であり、上床61には、積載物2が載置される。床3の上面に平行の方向において、中床62は、上床61よりも大きく振動可能であるように、中床62の端縁から、鉛直上方へ床3から立ち上がる壁面までの距離は、上床61の端縁から、鉛直上方へ床3から立ち上がる壁面までの距離よりも大きく確保されている。
【0026】
振動センサ20は、建物の床3の加速度を検出可能な加速度センサ等により構成される振動センサ20であり、地震の揺れを検出値として検知可能である。
図2に示すように、振動センサ20は、制御部10に電気的に接続されており、地震の揺れの検出値を電気信号として制御部10へ出力可能である。制御部10は、CPU、RAM、ROM等(図示せず)を有しており、回生用アクチュエータ30及び制振用アクチュエータ40に、電気的に接続されている。制御部10は、振動センサ20からの電気信号を受信し、地震の振動に応じて、回生用アクチュエータ30及び制振用アクチュエータ40に対して、これらの駆動を制御する。
【0027】
回生用アクチュエータ30及び制振用アクチュエータ40は、蓄電装置50に電気的に接続されている。蓄電装置50から回生用アクチュエータ30及び制振用アクチュエータ40へ電気を供給可能である。また、回生用アクチュエータ30は、振動エネルギーを回生して電気を発生する。蓄電装置50は、回生用アクチュエータ30において発生した電気を充電可能である。
【0028】
図1に示すように、回生用アクチュエータ30、制振用アクチュエータ40は、それぞれ本体31、41と、本体31、41に対して駆動する駆動部32、42とを有している。回生用アクチュエータ30の本体31は、建物の床3に接続されて固定されており、回生用アクチュエータ30の駆動部32は、中床62に接続されて固定されている。これにより、回生用アクチュエータ30は、床3に対する中床62の相対的な振動を許容する。制振用アクチュエータ40の本体41は、中床62に接続されて固定されており、制振用アクチュエータ40の駆動部42は、上床61に接続されて固定されている。制振用アクチュエータ40は、回生用アクチュエータ30において回生された振動エネルギーを用いて、上床61を中床62に対して積極的に振動可能である。この構成により、回生用アクチュエータ30及び制振用アクチュエータ40は、床3に対する上床61の相対的な振動を許容する。
【0029】
次に、
図1及び
図2に示すエネルギー自己供給型アクティブ振動制御システム1における、制御部10による、回生用アクチュエータ30及び制振用アクチュエータ40の制御について説明する。
【0030】
制御部10は、回生用アクチュエータ30及び制振用アクチュエータ40に対して、同時に駆動の制御を行う。回生用アクチュエータ30に対しては、地震による中床62の振動エネルギーを回生するための回生制御を行う。回生制御としては、エネルギー最適制御(以下「EO制御」と言う。)が用いられる。このEO制御と同時に、制振用アクチュエータ40に対しては、床3の振動よりも上床61の振動が小さくなるように、回生用アクチュエータ30において回生された振動エネルギーを用いて、上床61を中床62に対して積極的に振動させることにより、上床61を床3に対して積極的に振動させる振動制御を行う。振動制御としては、最適レギュレータ制御(以下「LQR制御」と言う。)が用いられる。このように、EO制御とLQR制御とを別個のアクチュエータに対して同時に行うことにより、回生用アクチュエータ30において回生される振動エネルギーを、回生用アクチュエータ30及び制振用アクチュエータ40において用いられるエネルギーよりも大きくする。
【0031】
具体的には、
図3のフローチャートに示すように、先ず、振動センサ20が地震の揺れを検出する(ステップS11)。すると、回生用アクチュエータ30において回生された振動エネルギーにより電気が発生し、この電気は、蓄電装置50に充電される。そして、制御部10は、セルフパワード・アクティブ振動制御、即ち、回生用アクチュエータ30において回生された振動エネルギーにより発生した電気を用いて、制振用アクチュエータ40及び回生用アクチュエータ30を駆動制御する、振動制御を開始する(ステップS12)。振動センサ20が地震の揺れを検出しなくなると(ステップS13)、セルフパワード・アクティブ振動制御を終了する。
【0032】
以下、地震における床3の揺れを一次元方向とした場合の、制御部10における制御のモデルについて説明する。上述のような構成において、EO制御による制御入力をu
bとし、LQR制御による制御入力をu
tとする。運動方程式は、以下のとおりである。
【数6】
この式において、それぞれ、
【数7】
【数8】
【数9】
【数10】
である。
【0033】
ここでx
i、x
fは、それぞれ中床62、上床61についての床3からの相対変位、
は外乱(床3の絶対加速度)、m
iは、中床62及び上床61の質量、m
eは、積載物2の質量の和、c
ibは、中床62の減衰係数、c
itは、上床61の減衰係数、k
ibは、中床62のせん断剛性、k
itは、上床61のせん断剛性である。
【0034】
次に、u
bを求める。
図1における回生用アクチュエータ30より上の部分を剛体として、1質点のせん断モデルとして運動方程式を記述すると、次のとおりである。
【数11】
回生エネルギーを得ることのみを制御目的とし,非特許文献4を参考にして設計変数κを用いて、評価関数を次のように置き、この評価関数が最小となるようにする。
【数12】
ここで、
は、中床62の絶対速度である。このとき、エネルギー最適制御による制御入力は次式となる。
【数13】
【0035】
次に、u
tを求める。制御入力u
tを決定するために運動方程式を次のように記述する。
【数14】
ここで,状態ベクトルを
【数15】
とすると,上床61の絶対加速度
、相対変位x
fは、次式のように書くことができる。ここで、分散制御で定式化を行うため、
【数16】
とする。
【数17】
【数18】
【数19】
【数20】
【数21】
【0036】
上床61の絶対加速度と相対変位を制御目的とし、絶対加速度の参照最大応答
と、相対変位の参照最大応答
と、制御力の基準値
とを用いて無次元化評価関数を次のように定義した。
【数22】
【数23】
【数24】
【数25】
ここで、rは第2の設計変数である。以上よりu
tが求まる。
【0037】
次に、各物性値をそれぞれ以下のように定義して実施例を構成し、シミュレーションを行い、上床61の変位(=免震層変位)、上床61の絶対加速度(=免震床絶対加速度)、制御力、及び、使用エネルギーの評価を行った。各評価においては、振動制御を行わない場合を比較例として比較を行った。評価結果は、
図4〜
図7に示すとおりである。
図4は、本発明の第1実施形態によるエネルギー自己供給型アクティブ振動制御システム1の実施例と比較例とのそれぞれの上床61の変位を示すグラフである。
図5は、本発明の第1実施形態によるエネルギー自己供給型アクティブ振動制御システム1の実施例と比較例とのそれぞれの上床61の絶対加速度を示すグラフである。
図6は、本発明の第1実施形態によるエネルギー自己供給型アクティブ振動制御システム1の実施例と比較例とのそれぞれの制御力を示すグラフである。
図7は、本発明の第1実施形態によるエネルギー自己供給型アクティブ振動制御システム1の実施例と比較例とのそれぞれの使用エネルギー量を示すグラフである。
【数26】
【数27】
【数28】
【数29】
【数30】
【数31】
上床61の固有周期
【数32】
中床62の固有周期
【数33】
上床61の減衰定数
【数34】
中床62の減衰定数
【数35】
【0038】
上床61の変位についての評価結果は、
図4のグラフに示すとおりである。
図4に示すように、実施例では、比較例と比較して、変位が小さくなっていることが分かる。比較例における上床61の変位の絶対値の最大値は、1.02mであるのに対して、実施例における上床61の変位の絶対値の最大値は、0.83mであり、略20%も値が小さく抑えられている。特に、
図4のグラフから分かるように、比較例において変位の絶対値が大きくなっている部分に対応する実施例の部分では、変位の絶対値が効果的に抑えられていることが分かる。また、比較例におけるRMS値(平均二乗偏差の値)は、0.370であるのに対して実施例におけるRMS値は、0.298と小さい値になっている。
【0039】
上床61の絶対加速度についての評価結果は、
図5のグラフに示すとおりである。
図5に示すように、実施例では、比較例と比較して、絶対加速度が小さくなっていることが分かる。比較例における絶対加速度の絶対値の最大値は、1.42m/s
2であるのに対して、実施例における絶対加速度の絶対値の最大値は、1.21m/s
2であり、略15%も値が小さく抑えられている。また、比較例におけるRMS値(平均二乗偏差の値)は、0.512であるのに対して実施例におけるRMS値は、0.424と小さい値になっている。特に、グラフから分かるように、比較例において絶対加速度の絶対値が大きくなっている部分に対応する実施例の部分では、絶対加速度の絶対値が効果的に抑えられていることが分かる。
【0040】
制御力についての評価結果は、
図6のグラフに示すとおりである。実施例における制振用アクチュエータ40(Unit T)による制御力の絶対値の最大値は、100Nである。また、実施例における回生用アクチュエータ30(Unit B)による制御力の絶対値の最大値は、312Nである。また、実施例における制振用アクチュエータ40(Unit T)による制御力のRMS値は、35であり、実施例における回生用アクチュエータ30(Unit B)による制御力のRMS値は、113である。
【0041】
また、使用エネルギーの評価においては、電力の回生における損失を考慮し、回生率を
【数36】
として、回生用アクチュエータ30、制振用アクチュエータ40における、使用エネルギーを評価した。回生用アクチュエータ30における消費エネルギー及び回生エネルギーは以下の通りである。
【数37】
【数38】
【0042】
また、制振用アクチュエータ40における消費エネルギーは以下の通りである。
【数39】
したがって、エネルギー自己供給型アクティブ振動制御システム1全体でのエネルギー収支は次式となる。
【数40】
以上に基づき、使用エネルギーの評価結果をグラフに表すと、
図7のとおりである。
【0043】
図7において、実施例(Unit T及びUnit B)で使用されるエネルギーは、制振用アクチュエータ40(Unit T)において使用されるエネルギーと、回生用アクチュエータ30(Unit B)において使用されるエネルギーとの和である。
図7のグラフでは、上述のような積分により求められた値を図示されているため、各時刻に得られたエネルギーの累積値を、縦軸上の値として図示している。実施例で使用されるエネルギーは、
図7のグラフにおいて負の値の領域にあり、回生用アクチュエータ30において回生したエネルギーが、制振用アクチュエータ40及び回生用アクチュエータ30において使用されるエネルギーを上回っていることが分かる。
【0044】
上記構成の実施形態によるエネルギー自己供給型アクティブ振動制御システム1によれば、以下のような効果を得ることができる。
【0045】
エネルギー自己供給型アクティブ振動制御システム1は、振動する基体としての床3に対して相対的に振動可能であり、被支持部材としての積載物2を支持可能な被制振体としての上床61と、床3に対する上床61の相対的な振動を許容する複数の制振装置としての回生用アクチュエータ30及び制振用アクチュエータ40と、複数のアクチュエータに対して制御を行う制御部10と、回生用アクチュエータ30において回生された振動エネルギーを電気エネルギーとして蓄電する蓄電装置50と、を備える。制御部10は、複数のアクチュエータのうちの所定の制振装置としての回生用アクチュエータ30に対して、床3の振動エネルギーを回生するための回生制御を行うと同時に、所定の制振装置以外の他の制振装置としての制振用アクチュエータ40に対して、床3の振動よりも上床61の振動が小さくなるように、回生された振動エネルギーを用いて上床61を床3に対して積極的に振動させる振動制御を行う。
【0046】
この構成により、回生用アクチュエータ30により回生される振動エネルギーを、制振用アクチュエータ40及び回生用アクチュエータ30において用いられるエネルギーよりも大きくすることが可能となる。これのみならずこれに加えて、十分に効果的な振動制御を行うことができる。このため、効果的な振動制御を行うにもかかわらず、エネルギー自己供給型アクティブ振動制御システム1に対して外部からの電気の供給を不要とすることができる。従って、地震の際に停電した場合であっても、確実に効果的な振動制御を行うことができる。
【0047】
また、エネルギー自己供給型アクティブ振動制御システム1は、基体としての床3と被制振体としての上床61の間に配置された中間体としての中床62を備え、所定の制振装置としての回生用アクチュエータ30は、床3と中床62とに接続され、床3に対する中床62の相対的な振動を許容する。他の制振装置としての制振用アクチュエータ40は、中床62と被制振体としての上床61とに接続され、回生された振動エネルギーを用いて上床61を中床62に対して積極的に振動させる。
【0048】
この構成により、基体としての床3と、中間体としての中床62との間に回生用アクチュエータ30を配置させ、中床62と、被制振体としての上床61との間に制振用アクチュエータ40を配置させた構成とすることができる。このため、制振の効果が大きい制振用アクチュエータ40を積載物2により近い位置に配置させることができ、より効果的な振動制御を行うことができる。
【0049】
また、回生制御では、エネルギー最適制御が用いられる。この構成により、効果的な振動制御と、回生用アクチュエータ30により回生される振動エネルギーを、制振用アクチュエータ40及び回生用アクチュエータ30において用いられるエネルギーよりも大きくすることと、の両立を図ることができる。
【0050】
具体的には、エネルギー最適制御では、第1の設計変数をκとし、中間体の減衰係数をc
ibとし、中間体の絶対速度を
とし、基体の絶対速度を
とし、制御入力をu
bとしたときに、以下の式(1)の評価関数が最小となるように制御を行う。
【数41】
【0051】
より具体的には、エネルギー最適制御では、以下の式(3)の評価関数が最小となるように制御を行うことにより、前記制御入力u
bは、以下の式(2)により導出される。
【数42】
【数43】
【0052】
この構成により、より効果的な振動制御を行い、且つ、より多くの振動エネルギーを回生することができる。
【0053】
また、振動制御では、最適レギュレータ制御が用いられる。この構成により、効果的な振動制御と、回生用アクチュエータ30により回生される振動エネルギーを、制振用アクチュエータ40及び回生用アクチュエータ30において用いられるエネルギーよりも大きくすることと、の両立を図ることができる。
【0054】
具体的には、最適レギュレータ制御では、被制振体のせん断剛性をk
itとし、被制振体の減衰係数をc
itとし、非特許文献5に記載の絶対加速度の参照最大応答を
とし、非特許文献5に記載の相対変位の参照最大応答を
とし、第2の設計変数をrとしたときに、以下の式(4)の評価関数が最小となるように制御を行う。
【数44】
【0055】
より具体的には、最適レギュレータ制御では、以下の式(5)の評価関数が最小となるように制御する。
【数45】
【0056】
この構成により、より効果的な振動制御を行い、且つ、より多くの振動エネルギーを回生することができる。
【0057】
次に、本発明の第2実施形態によるエネルギー自己供給型アクティブ振動制御システムについて、
図8を参照しながら説明する。
図8は、本発明の第2実施形態によるエネルギー自己供給型アクティブ振動制御システム1Aを示す概略図である。
【0058】
第2実施形態においては、中床62が設けられていない点において、第1実施形態とは異なる。これに伴い、回生用アクチュエータ30及び制振用アクチュエータ40が設けられている位置が、第1実施形態における回生用アクチュエータ30及び制振用アクチュエータ40が設けられている位置とは異なり、それに応じた振動制御が行われる。これ以外は第1実施形態と同一であるため、同様の部材については同一の符号を付し、説明を省略する。
【0059】
建物は、基体としての床3と、被制振体としての上床61と、を有する2層の床構造を有している。上床61は、床3の上面に平行に、即ち水平方向に、床3に対して振動可能である。従って上床61は、地震の際に、振動する床3に対して相対的に振動可能である。上床61は、積載物2を支持可能であり、上床61には、積載物2が載置される。
【0060】
図8に示すように、回生用アクチュエータ30の本体31は、基体としての建物の床3に接続されて固定されており、回生用アクチュエータ30の駆動部32は、被制振体としての上床61に接続されて固定されている。これにより、回生用アクチュエータ30は、床3に対する上床61の相対的な振動を許容する。同様に、制振用アクチュエータ40の本体41は、床3に接続されて固定されており、制振用アクチュエータ40の駆動部42は、上床61に接続されて固定されている。制振用アクチュエータ40は、回生用アクチュエータ30において回生された振動エネルギーを用いて、上床61を床3に対して積極的に振動可能である。回生用アクチュエータ30及び制振用アクチュエータ40は、床3に対する上床61の相対的な振動を許容する。
【0061】
次に、エネルギー自己供給型アクティブ振動制御システム1Aにおける、制御部10による、回生用アクチュエータ30及び制振用アクチュエータ40の制御について説明する。
【0062】
制御部10は、回生用アクチュエータ30及び制振用アクチュエータ40に対して、同時に駆動の制御を行う。回生用アクチュエータ30に対しては、地震による上床61の振動エネルギーを回生するための回生制御を行う。回生制御としては、EO制御が用いられる。このEO制御と同時に、制振用アクチュエータ40に対しては、床3の振動よりも上床61の振動が小さくなるように、回生用アクチュエータ30において回生された振動エネルギーを用いて、上床61を床3に対して積極的に振動させる振動制御を行う。振動制御としては、LQR制御が用いられる。このように、EO制御とLQR制御とを別個のアクチュエータに対して同時に行うことにより、回生用アクチュエータ30において回生される振動エネルギーを、回生用アクチュエータ30及び制振用アクチュエータ40において用いられるエネルギーよりも大きくする。
【0063】
以下、地震における床3の揺れを一次元方向とした場合の、制御部10における制御のモデルについて説明する。回生用アクチュエータ30における、回生エネルギーを得るためのエネルギー最適制御に基づく制御力の入力をu
1とする。また、制振用アクチュエータ40における、応答の低減を行うための最適レギュレータに基づく制御力の入力をu
2とする。回生用アクチュエータ30及び制振用アクチュエータ40の制御系設計においては、分散制御として定式化を行う。運動方程式は次のように表される。
【数46】
ここでx
fは、上床61の端縁から、床3から立ち上がる壁までの相対変位、
は、外乱(床3の絶対加速度)、m
iは、床3の質量、m
eは、積載物2の質量の和、c
iは、上床61の減衰係数、k
iは、上床61のせん断剛性である。
【0064】
先ず、u
1の設計を行う。回生エネルギーを得ることのみを制御目的とし、非特許文献4に記載の免震床に対するエネルギー最適制御理論を参考に設計変数κを用いて、評価関数を次のようにおく。
【数47】
ここで、
、
はそれぞれ上床61の絶対速度、床3の絶対速度である。このとき,エネルギー最適制御による制御入力は次式となる。
【数48】
【0065】
次に、u
2の設計を行う。状態ベクトルを
【数49】
とすると、上床61の絶対加速度
、相対変位x
fは、それぞれ次式のように書くことができる。ここで、分散制御で定式化を行うため
【数50】
としている。
【数51】
【数52】
【数53】
【数54】
【数55】
【0066】
上床61の絶対加速度と相対変位を制御目的とし、非特許文献5に記載の、絶対加速度の参照最大応答
と、相対変位の参照最大応答
と、制御力の基準値
を用いて無次元化評価関数を次のようにおく。
【数56】
【数57】
【数58】
【数59】
ここで、rは第2の設計変数である。以上よりu
tが求まる。
【0067】
次に、各物性値をそれぞれ以下の値として実施例を構成し、シミュレーションを行い、上床61の変位(=免震層変位)、上床61の絶対加速度(=免震床絶対加速度)、制御力、及び、使用エネルギーの評価を行った。各評価においては、振動制御を行わない場合を比較例1として、また、EO制御を行わずにLQR制御のみを行う場合を比較例2として比較を行った。評価結果は、
図9〜
図13に示すとおりである。
図9は、本発明の第2実施形態によるエネルギー自己供給型アクティブ振動制御システム1Aの実施例と比較例1と比較例2とのそれぞれの上床61の変位を示すグラフである。
図10は、本発明の第2実施形態によるエネルギー自己供給型アクティブ振動制御システム1Aの実施例と比較例1と比較例2とのそれぞれの上床61の絶対加速度を示すグラフである。
図11は、本発明の第2実施形態によるエネルギー自己供給型アクティブ振動制御システム1Aの実施例と比較例1と比較例2とのそれぞれの制御力を示すグラフである。
図12は、本発明の第2実施形態によるエネルギー自己供給型アクティブ振動制御システム1Aの実施例と比較例1と比較例2とのそれぞれの使用エネルギー量を示すグラフである。
図13は、本発明の第2実施形態によるエネルギー自己供給型アクティブ振動制御システム1Aの実施例におけるEO制御、LQR制御それぞれについての、制御力及び絶対速度を示すグラフである。
積載荷重
【数60】
上床61の質量
【数61】
上床61のせん断剛性
【数62】
上床61の減衰係数
【数63】
上床61の固有周期
【数64】
上床61の減衰定数
【数65】
【0068】
上床61の変位についての評価結果は、
図9のグラフに示すとおりである。
図9に示すように、実施例は、比較例1と比較して、大幅に変位が小さくなっていることが分かる。比較例1における上床61の変位の絶対値の最大値は、0.75mであるのに対して、実施例における上床61の変位の絶対値の最大値は、0.37mであり、略50%も値が小さく抑えられている。特に、グラフから分かるように、比較例1において変位の絶対値が大きくなっている部分に対応する実施例の部分では、変位の絶対値が効果的に抑えられていることが分かる。また、比較例1におけるRMS値(平均二乗偏差の値)は、0.262であるのに対して実施例におけるRMS値は、0.122と小さい値になっている。
【0069】
また、実施例においては、比較例2と同等の変位の値となっていることが分かる。即ち、実施例では、後述のように、回生したエネルギーよりも、エネルギー自己供給型アクティブ振動制御システム1A全体で使用するエネルギーの方が小さいにもかかわらず、比較例2と同等の変位の値となるような振動制御が行われていることが分かる。
【0070】
上床61の絶対加速度についての評価結果は、
図10のグラフに示すとおりである。
図10に示すように、実施例では、比較例1と比較して、絶対加速度が小さくなっていることが分かる。比較例1における絶対加速度の絶対値の最大値は、2.00m/s
2であるのに対して、実施例における絶対加速度の絶対値の最大値は、1.17m/s
2であり、略40%も値が小さく抑えられている。特に、グラフから分かるように、比較例1において絶対加速度の絶対値が大きくなっている部分に対応する実施例の部分では、絶対加速度の絶対値が効果的に抑えられていることが分かる。また、比較例1におけるRMS値(平均二乗偏差の値)は、0.691であるのに対して実施例におけるRMS値は、0.390と小さい値になっている。
【0071】
また、実施例においては、比較例2と同等の絶対加速度の値となっていることが分かる。即ち、実施例では、後述のように、回生したエネルギーよりも、エネルギー自己供給型アクティブ振動制御システム1A全体で使用するエネルギーの方が小さいにもかかわらず、比較例2と同等の絶対加速度の値となるような振動制御が行われていることが分かる。
【0072】
制御力についての評価結果は、
図11のグラフに示すとおりである。実施例における制御力の絶対値の最大値は、489Nである。この値は、比較例2における制御力の値の545Nに近い値である。また、実施例における制御力のRMS値は、165である。この値は、比較例2における制御力のRMS値の169Nに非常に近い値である。
【0073】
このことから、実施例においては、比較例2と同等の制御力の値となっていることが分かる。即ち、実施例では、後述のように、回生したエネルギーよりもエネルギー自己供給型アクティブ振動制御システム1A全体で使用するエネルギーの方が小さいにもかかわらず、比較例2と同等の制御力の値となるような振動制御が行われていることが分かる。
【0074】
また、使用エネルギーの評価においては、電力の回生における損失を考慮し、回生率を
【数66】
として、回生用アクチュエータ30、制振用アクチュエータ40における、使用エネルギーを評価した。回生用アクチュエータ30における消費エネルギー及び回生エネルギーは以下の通りである。
【数67】
【数68】
したがって,エネルギー自己供給型アクティブ振動制御システム1A全体でのエネルギー収支は次式となる。
【数69】
以上に基づき、使用エネルギーの評価結果をグラフに表すと、
図12、
図13に示すとおりである。
図12のグラフでは、上述のような積分により求められた値を図示されているため、各時刻に得られたエネルギーの累積値を、縦軸上の値として図示している。
【0075】
実施例で使用されるエネルギーは、
図12のグラフにおいて負の値の領域にあり、回生用アクチュエータ30において回生したエネルギーが、制振用アクチュエータ40及び回生用アクチュエータ30において使用されるエネルギーを上回っていることが分かる。これに対して、比較例2を見ると分かるように、LQR制御においては、大きな電気エネルギーを使用することが分かる。
【0076】
また、
図13のグラフに示すように、「EOの占める部分」で示すEO制御によるグラフは、そのほとんどが第2象限と第4象限とに分布しており、振動エネルギーの回生が大きいことが分かる。一方、「LQRの占める部分」で示すLQR制御によるグラフは、原点を中心として略円形状をなしており、エネルギーを消費する第1象限と第3象限を多く含み、エネルギー消費が大きいことが分かる。この消費されるエネルギーとしては、前記EO制御により回生されたエネルギーが用いられる。
【0077】
上記構成の実施形態によるエネルギー自己供給型アクティブ振動制御システム1Aによれば、以下のような効果を得ることができる。
【0078】
所定の制振装置としての回生用アクチュエータ30、及び、他の制振装置としての制振用アクチュエータ40は、基体としての床3と被制振体としての上床61とに接続されている。回生用アクチュエータ30は、床3に対する上床61の相対的な振動を許容する。制振用アクチュエータ40は、回生された振動エネルギーを用いて上床61を床3に対して積極的に振動させる。
【0079】
この構成により、中床62を不要とすることができ、また、水平方向において、回生用アクチュエータ30と制振用アクチュエータ40とを配置させることができる。このため、鉛直方向におけるエネルギー自己供給型アクティブ振動制御システム1Aの占めるスペースを小さくすることができ、上床61よりも上において、鉛直方向のスペースをより広く確保することができる。
【0080】
本発明は、上述した実施形態に限定されることはなく、特許請求の範囲に記載された技術的範囲において変形が可能である。例えば、第1実施形態においては、中間体として中床62が設けられていたが、中床62に限定されない。同様に、基体は床3により構成されていたが、床3に限定されない。例えば、中床62に変えて、建物としてのビルの所定のフロア、例えば、3階〜5階の部分が、中間体を構成してもよい。また、第1実施形態においては、床3よりも上の部分は中床62と上床61との2層の構造を有していたが、2層に限られず、多数層の構成を有していてもよい。同様に、中間体は1層の中床62により構成されていたが、複数層の中床62により構成されていてもよい。
【0081】
また、第1実施形態では、回生用アクチュエータ30の本体31は、建物の床3に接続されて固定され、回生用アクチュエータ30の駆動部32は、中床62に接続されて固定されて、制振用アクチュエータ40の本体41は、中床62に接続されて固定され、制振用アクチュエータ40の駆動部42は、上床61に接続されて固定されていたが、この構成に限定されない。例えば、制振用アクチュエータ40の本体41は、建物の床3に接続されて固定され、制振用アクチュエータ40の駆動部42は、中床62に接続されて固定され、回生用アクチュエータ30の本体31は、中床62に接続されて固定され、回生用アクチュエータ30の駆動部32は、上床61に接続されて固定されていてもよい。
【0082】
また、エネルギー自己供給型アクティブ振動制御システム1、1Aは、地面に建つビル等の建物に設けられたが、これに限定されない。また、地震の揺れに対する振動制御を行うことに限られない。例えば、エネルギー自己供給型アクティブ振動制御システムは、トラックに設けられてもよい。この場合には、エネルギー自己供給型アクティブ振動制御システムは、例えば、トラックの荷室の床と、荷室内に収容される積載物2との間に配置され、トラックが走行しているときに生ずる振動により、積載物2が振動することを抑えるために用いられる。
【0083】
また、上述した実施形態では、制御部10は、制振用アクチュエータ40に対してLQR制御を行ったがLQR制御に限定されない。また、回生用アクチュエータ30の数、及び、制振用アクチュエータ40の数は、それぞれ1つ以上であればよく、個数は限定されない。上述の実施形態では、説明の便宜上、地震における床3の揺れを一次元方向とした場合の、制御部10における制御のモデルについて説明したが、一次元方向に限定されない。実際には、地震における床3の揺れを三次元方向の揺れとして考えればよい。