特許第6308611号(P6308611)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6308611
(24)【登録日】2018年3月23日
(45)【発行日】2018年4月11日
(54)【発明の名称】蹴りだし検出による歩行補助車両
(51)【国際特許分類】
   A61H 3/04 20060101AFI20180402BHJP
【FI】
   A61H3/04
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-171730(P2013-171730)
(22)【出願日】2013年8月6日
(65)【公開番号】特開2015-29891(P2015-29891A)
(43)【公開日】2015年2月16日
【審査請求日】2016年8月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】501061319
【氏名又は名称】学校法人 東洋大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100192773
【弁理士】
【氏名又は名称】土屋 亮
(72)【発明者】
【氏名】高橋 良至
【審査官】 増山 慎也
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/163789(WO,A1)
【文献】 登録実用新案第3074877(JP,U)
【文献】 特開平09−308663(JP,A)
【文献】 特開2010−018173(JP,A)
【文献】 特開2007−209731(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61H 3/04
B62M 6/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3個以上の車輪を有する歩行補助車両において、前記車両の操作者によるキック蹴り出しをいずれかの車輪の回転正の加速度がスレッシュホールド値を超えている時間の長さに基づいて検出し、キック蹴り出しが検出された場合電動モータによりいずれかの車輪駆動を行うことを特徴とする歩行補助車両。
【請求項2】
前記歩行補助車両は、キック蹴り出しが検出された場合、かかる車輪の減速率が小さくなるように車輪の回転を前記電動モータにより制御する制御プログラムを備えていることを特徴とする請求項1に記載の歩行補助車両。
【請求項3】
前記歩行補助車両は、折り畳み可能な構造であることを特徴とする請求項1または請求項に記載の歩行補助車両。
【請求項4】
前記折り畳み可能な構造は、前輪を支える第1のフレームと後輪を支える第2のフレームとがそれぞれのフレームを結合しているフレーム軸を中心に折り畳み可能であることを特徴とする請求項に記載の歩行補助車両。
【請求項5】
前記歩行補助車両は、前記第1のフレームと前記第2のフレームとがX字状を形成した構造であって、サドルを引き上げるかサドルポストを引くだけでそれぞれのフレームを結合しているフレーム軸を中心に前後に折り畳み可能であることを特徴とする請求項に記載の歩行補助車両。
【請求項6】
前記歩行補助車両は、回生ブレーキを備えていることを特徴とする請求項1から請求項のいずれか一項に記載の歩行補助車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高齢者、肢体不自由者あるいは妊婦、障害者などの歩行困難者に対する歩行または走行補助車両を提供するもので、歩行機能の維持を図りつつ可能な限り要介護状態とならないようにする予防介護、リハビリなどを目的とする歩行または走行補助車両に関する。
【背景技術】
【0002】
歩行または走行を電動でアシストする車両としては電動アシスト自転車(2輪車)、電動車椅子、電動小型自動車などが広く知られ、利用されている。一般的な電動アシスト二輪自転車は人力によりペダルを踏み込むと人力の約2倍から3倍程度までを電動モータにより走行アシストする方式である。この電動アシスト自転車は、人力2輪自転車の走行をアシストするものであり、基本的に自転車の操作が可能な健常者を対象として利用される。そのため、高齢者や歩行障害者にとっては2輪自転車の姿勢保持が困難であったり、操舵が困難であるなどの問題があり、利用するのには適していない。
【0003】
また、電動車椅子や電動小型自動車は3輪車または4輪車の構成による安定性を確保しており歩行障害者にとっては有効であるが、ほぼ人力を必要とせず(電動のみ)で駆動するため身体を動かす機会が少なくなり身体機能の低下を招き、歩行困難者に陥ってしまうこととなる。
【0004】
高齢者やリハビリを行っている者などある程度の歩行が可能な者にとっては、介護予防やリハビリなどの観点から自ら歩行しながら必要な場合にのみ歩行のアシストが行われるような歩行または走行補助車両の開発が求められている。
【0005】
また、ある程度の歩行が可能な者が遠距離移動をしたい場合など公共交通機関(バス、電車、飛行機など)へ持ち込むことは困難であり、これらの電動車椅子や小型電動自動車では公共交通機関など他の移動交通手段との組合せが容易でなく、移動範囲が限られるなどの問題があった。
【0006】
上記のような介護やリハビリ目的で車椅子にペダル回転による人力アシスト構造を設けたもの(特許文献1参照)や、電力走行と人力走行とを組み合わせたものとして、車椅子や小型電動自動車に人力による駆動機構を備えた走行補助車両が種々提案されている(特許文献2参照)。しかし、これらの装置はいずれの車椅子も小型電動自動車も構造が複雑でコスト高であるだけでなく、構造上折り畳んだり、小型化することができず、公共交通機関などに気軽に持ち込めるようなものではない。
【0007】
さらにこれらの従来技術による電動車椅子や小型電動自動車では人力がなくても電動のみでも走行可能となっているため、高齢者や歩行困難者は電動走行に頼ってしまい、人の歩行機能を生かすものとなっていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−52383号公報
【特許文献2】特開2011−177340号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
高齢者やリハビリ者など歩行可能な身体能力を維持しつつ、できるだけ歩行しながら歩行補助を行い、必要な場合に電動モータなどによりアシストする歩行または走行補助車両があれば、高齢者にとっては移動距離が大幅に拡大し、リハビリ者にとっては筋力強化や身体の機能回復が期待できる。また、小型または可搬型の走行補助車両であれば近距離の移動をスムーズにするだけでなく、公共交通機関などと組み合わせることで移動・行動距離が大幅に拡大することが可能となる。
【0010】
小型または可搬型の構成において電動アシストを行うには部品、駆動機構の簡素化、軽量化など多くの課題があり、従来の電動2輪車に広く採用されているペダル式トルク駆動電動アシスト機構は折りたたみ式にすることが構造上困難であり、新たな駆動システムが求められている。
【0011】
本発明では高齢者、要介護者、リハビリ者を主な対象として、操作者の歩行身体能力を生かしながら、移動・行動距離を出来るだけ広範囲に移動できるような折りたたみ式歩行アシスト車両であって、走行安定性のある、可搬性に優れた高齢者やリハビリ者向け、または介護用に適した歩行補助(アシスト)車両の開発を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するため、請求項1の発明おいて、3個以上の車輪を有する歩行補助車両において、前記車両の操作者によるキック蹴り出しをいずれかの車輪の回転正の加速度がスレッシュホールド値を超えている時間の長さに基づいて検出し、キック蹴り出しが検出された場合電動モータによりいずれかの車輪駆動を行うことを特徴とする。
【0013】
また、請求項の発明において、請求項1に記載の前記歩行補助車両は、キック蹴り出しが検出された場合、かかる車輪の減速率が小さくなるように車輪の回転を前記電動モータにより制御する制御プログラムを備えていることを特徴とする。
【0015】
また、請求項の発明において、請求項1または請求項に記載の前記歩行補助車両は、折り畳み可能な構造であることを特徴とする。
また、請求項の発明において、請求項に記載の前記折り畳み可能な構造は、前輪を支える第1のフレームと後輪を支える第2のフレームとがそれぞれのフレームを結合しているフレーム軸を中心に折り畳み可能であることを特徴とする。
【0016】
また、請求項の発明において、請求項に記載の前記歩行補助車両は、前記第1のフレームと前記第2のフレームとがX字状を形成した構造であって、サドルを引き上げるかサドルポストを引くだけでそれぞれのフレームを結合しているフレーム軸を中心に前後に折り畳み可能であることを特徴とする。
【0017】
また、請求項の発明において、請求項1から請求項のいずれか一項に記載の前記歩行補助車両は、回生ブレーキを備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明による歩行アシスト(補助)車両は、3個以上の車輪により安定的走行を維持すると共に、高齢者やリハビリ者が歩行補助車両を操舵しながらキック蹴り出しを行うことで歩行アシストが電動モータにより行われる構成であるため、操作者の歩行機能を維持しながら必要な場合電動モータによる歩行アシストを得ることができる。
【0019】
また、本発明による歩行アシスト(補助)車両は、キック蹴り出しを検出し、電動モータによる歩行アシストを行い、その電動アシスト量は車輪の減速率が小さくなるように車輪の回転を電動モータにより制御しているため、キック蹴り出しにより一定時間の歩行アシストが行われるように制御することができるため、小型かつ簡易な構成でより安定的な歩行補助が可能となる。
【0020】
また、本発明による歩行アシスト車両は、折り畳み構造を採用しており、使用者は本発明による歩行補助車両により近くの駅や停留所まで移動し、折り畳んだ歩行補助車両をバスや電車などの公共交通手段に持ち込み移動することで、高齢者やリハビリ者であっても近距離の移動をスムーズにするだけでなく、公共交通機関などと組み合わせることで移動・行動距離が大幅に拡大することとなる。
【0021】
従って、本発明の歩行補助車両は、高齢者、要介護者、リハビリ者にとって歩行機能を維持しながら移動・行動距離が飛躍的に広がる極めて有用な歩行補助車両を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明による歩行補助車両の全体概念図
図2】本発明による歩行補助車両の折り畳み図
図3】本発明による車輪回転数(速度)およびその変化量(加速度)を示す図
図4】本発明による制御プログラムのブロック図
図5】本発明によるキック蹴り出し制御プログラムのフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、高齢者、要介護者、リハビリ者などの歩行困難者などが歩行しながら、必要に応じて電動によるアシストを可能とし、公共交通機関(バス、電車、飛行機など)との組み合わせにより移動距離を大幅に広げることに利用できる歩行アシスト車両である。
【0024】
なお、一般的に歩行とは足による比較的低速の移動を意味し、走行とは2輪車、自動車などの車輪による比較的早い移動を意味するが、本発明による移動補助車両は予防介護およびリハビリなどを目的とする観点から歩行補助車両として機能する場合もあり、走行補助車両として機能することもあることから、特に歩行(アシスト)または走行(アシスト)を区別するものでない。
【0025】
以下に本発明の実施例を図面に基づき説明する。ここでの説明は本発明が実施される最良の形態であることから、本発明は当該形態に限定されるものではない。また、説明の都合上図は模式的に描いてある。図1は、本発明による歩行アシスト車両の全体説明図である。図1において、歩行アシスト車両は、右前輪2、左前輪3、後輪4から成る3輪車で構成され、左右の前輪2および3とを結合する前輪シャフト5、サドル6と前輪シャフト5を支持する第1のフレーム7、後輪4およびハンドル部8とを支持する第2のフレーム9から構成されている。さらに、第1のフレーム7と第2のフレーム9とはフレーム軸10を中心として交差しており、使用時は第1及び第2のフレームはX字状となり3輪車としての駆動状態となる。また、第1および第2のフレーム7および9は、フレーム軸10を中心として折り畳める構成となっており、折り畳んだ形状は図2に示す通り、コンパクトな形状として可搬性に優れたものとして機能する。
【0026】
本実施例の折り畳み方式はサドル6の一部分(サドルポスト)を引くだけでボディを前後に折り畳む構成となっている。つまり、使用時はサドル6を所定位置に引き上げるとX字状を形成している第1のフレーム7と第2のフレーム9とがサドル6と連動するロックシャフト(図示せず)により固定され走行用として機能する。折り畳む場合はサドル6を引き上げるか、折り畳み用サドルポスト(図示せず)を引くだけで第1のフレーム7と第2のフレーム9とがサドル6と連動するロックシャフトを外し折り畳み形状(図2)となる。
【0027】
本発明の歩行アシスト車両1の使用者は、サドル6に腰掛けると共に、歩行するように推進移動する。つまり足の歩行推進力により前進するが、本発明では足のキック動作が行われた場合、いずれかの車輪の回転数の増加量を検出する。使用者がキック推進をかけると車輪の回転数が増加し、車輪の加速度が増加する場合にのみ第2のフレーム9内に格納されたモータ駆動部(図示せず)を構成する電動モータによる電動アシストを働かせ後輪4を駆動させる。モータ駆動方式については種々の方式が提案されており、従来使用されているいずれの方式でも採用することができる。本発明ではキック蹴り出しにより走行アシストを行うため始動トルクが少なくてすむ利点がある。そのため電動モータとしては比較的小型のサーボモータを使用することができる。
【0028】
通常の歩行状態において歩行アシスト車両の車両の回転数はほぼ一定の回転数であるため電動アシストは行われず、人力による歩行移動を行う。使用者が足のキック動作を行うといずれかの車輪の回転角速度の変化(増加)が検出される。本発明において、回転角速度の所定値以上の増加分が検出された場合にのみキックアシストとして電動モータを駆動し、走行補助を行うこととなる。
【0029】
利用者が主として自力での歩行機能を生かしたい場合は、利用者は歩行アシスト車両のサドル6に腰掛けて通常歩行に近い動作により歩行することができる。この場合、利用者は本発明による歩行アシスト車両1と共に歩行し、歩行アシスト車両は3輪車構成のため安定しており歩行を支える役割をはたすこととなる。また、通常の歩行利用時はほぼ一定の歩行速度で移動するため車輪の回転数の変化(加速度)はほぼ一定であり、多少の変動は見られても加速度が急に増減することはない。
【0030】
本発明においてキック推進方式を採用するのは主として車両構成が簡単な構造となり、折り畳み方式により可搬性を向上させるのに適しているという理由および利用者がリハビリ者、高齢者、介護補助走行車両としての歩行補助にも適しているからである。しかし、キック推進方式を実用化するには種々の制御上の問題点を解決する必要がある。例えば、歩行利用時において電動アシストを望まない場合でも歩行面の凸凹や坂道など何らかの理由により瞬間的な回転数の変化量が生じることがある。
【0031】
現在市販されている電動自転車(2輪車)はペダル回転による動力に基づきトルク検出を行い電動アシストする方式が主流占めているが、かかるトルク検出による電動アシストでは上り坂などで回転が一定であっても電動アシストを機能させる必要があるためペダル回転によるトルク力がかかれば電動アシストを働かすような構成を必要としている。これに対し本発明においては所定範囲内での回転数の変化量を検出しているため、歩行時のように変化量がほぼ一定である場合電動アシストは機能せず、人力による歩行機能を働かせることとなる。
【0032】
図3は、本発明の歩行補助車両の歩行移動モード時、キック蹴り出し時、電動アシスト駆動時の車輪の回転数と回転数の変化(加速度の増加)量を示すグラフである。歩行移動モード時(t0からt1)においては利用者と車両とがほぼ人の歩行速度で移動するが、路面の凸凹状況などにより常に多少の回転数および加速度の増減が生じている。
【0033】
利用者がキック蹴り出しを行うと(t1)、車輪の回転数は増加し、その変化率(加速度)は急激に増加する。キック蹴り出しにより加速度量がある所定値(スレッシュホールド)Tを超えると、電動モータによる電動アシスト駆動を働かせる。この電動アシストが働きはキック蹴り出しと判断した場合、減速率が小さくなるように車輪の回転をアシストし、この電動アシストは設定した一定速度を下回る時点まで継続する。
【0034】
車輪の回転数はキック蹴り出し量に応じて電動アシスト駆動により上昇し、所定のピーク値(Rmax)に達する。つまり、キック蹴り出し量の加速度値を検出しその蹴り出し力が強ければ電動モータのアシストによる回転数はその量に応じて強くなるが、上述した様に、電動アシスト量は、減速率が小さくなるよう(急に減速しないよう)に設定されているため、回転数がピーク値(Rmax)を超えても回転数は少しずつ回転数を落とすように電動モータを制御する。これにより高齢者などで蹴り出し力が弱い場合でもキック蹴り出し後急に減速して惰行移動に移ることもなく、t3からt4の期間中、徐々にスピードを落としながら数歩分以上に相当する電動アシストが行われるように制御される。
【0035】
この電動アシスト駆動の時間は角速度の増加量に応じて一定時間の電動モータの駆動が行われる。つまり、強いキック蹴り出しによる加速度や変化量が多ければより長時間の電動モータ駆動が行われることとなる。電動アシストは、駆動開始後一定速度を下回る時点に達すると停止され惰行移動となる。更なるキック蹴り出しが無い限り歩行移動モード(t4以降)に戻ってしまう。
【0036】
さらにキック蹴り出しを何回も連続して行うと車輪の回転数(速度)はますます増加することが考えられるが、車輪の回転数の増加量を検出して電動モータを駆動する構成となっているため、一度キック蹴り出しにより回転速度が上がると、それ以上の回転速度(加速度)の変化量が無い限り通常使用における複数回のキック蹴り出しにより回転数の増加が連続して生じ、回転数が異常に増加することは考えられない。
【0037】
しかし乍ら、下り坂道などで回転数が上昇した状態でキック蹴り出しを連続して行った場合などは回転数(速度)が増大していることもありうるため、本発明の実施例においては、回転数も常にモニターし、所定の回転数を超えるような場合は電動アシストを働かせないか、制御するような構成としている。また、この回転数や加速度量の制御は基本的にはブレーキ手段で制御する。
【0038】
このブレーキ手段は本発明においては一実施例として電動モータの逆起電力を利用した回生ブレーキを提案する。これは電動モータの逆起電力を利用したブレーキ手段が、ワイヤーブレーキやディスクブレーキに比べ、折り畳み構造における使用時および折り畳み時の形状の変化に柔軟に対応可能であることや、構造上簡易なものとなり、持ち運び(可搬性)に優れた構成とすることができるためである。
【0039】
前記レッシュホールドの設定にあたっては利用者の歩行モード時における車輪の回転数の変化を電動アシストに反映させない範囲に設定すればいい。歩行モード時(t0からt1)における車輪の回転数の変化量(加速度の変化)はキック蹴り出し時に比べ変化量も変化時間も明らかに少ない。したがってスレッシュホールド値の設定にあたっては、検出された車輪の回転数の変化量および・または変化時間のある所定値以下を除外するスレッシュホールド値を設定する。
【0040】
一般的には歩行移動モード時の加速度の変化量とキック蹴り出し時の加速度の変化量はかなりの差が生じるためこのスレッシュホールド値の設定が問題になるほどのものではないが、極端にキック蹴り出し力の弱い利用者などの場合は回転数の変化値(量)より変化時間の短い瞬間的変化(ta)を除外する設定とした方が効果的な場合もある。つまり、キック力の弱い利用者の場合、キック蹴り出し時間(tb)は少なくとも歩行移動モード時における回転数の変化時間に比べ長時間(ta<tb)であるからである。
【0041】
利用者のキック蹴り出し力は利用者により大きく変化することが考えられる。そのため本発明では利用者のキック蹴り出し力に応じてキック蹴り出し検出ポイントを可変にして制御することができる。キック蹴り出し力の強い利用者の場合は瞬間的に車輪の加速度が急激に上昇するので所定の回転数変化量以上を検出できればいいが、キック蹴り出し力が弱い利用者の場合走行する道路事情などにより車輪の回転数変化量がわずかとなることが考えられる。たとえば凸凹や坂道などで瞬間的に車輪の回転変化量が増加するのと利用者のキック蹴り出しによる回転数変化量の増加が区別し難いことが考えられる。この場合加速度の検出ポイントTを調整すると共にキック蹴り出し時間(tb)を利用者にあわせて検出できるようにすればより的確なキック蹴り出し検出を行うことが出来る。
【0042】
図4は、本発明を具体化するキックアシスト推進方式のブロック回路図の例を示す。歩行補助車両の車輪のいずれかには車輪の回転数を検出する回転検出部41を有しており、その検出部41には回転センサー42が配設されている。この回転センサー42により検出された出力はマイクロプロセッサ部43へ送り込まれる。一方、各種パラメータの設定部44では、予め設定されるか、または都度可変に設定されるアシスト量設定部45、減速率設定部46、スレッシュホールド設定部47において制御パラメータが設定され、マイクロプロセッサ部43へ送り込まれる。マイクロプロセッサ部43では、これらの制御パラメータによりアシスト用電動モータの駆動制御信号を作成し、モータ駆動部48内の駆動制御回路49へ送り込む。
【0043】
アシスト量設定部45では、キック蹴り出し量に応じ電動モータに与える駆動電流を設定する。減速率設定部46では、車輪の回転数が最大に達した後、どの程度の減速率で回転数を減速させるかを決定する。スレッシュホールド設定部47では蹴り出し検出のスレッシュホールド値を設定する。
【0044】
駆動制御回路49では、マイクロプロセッサ部43より受領した駆動制御信号に応じてサーボモータ50の起動・回転数・停止等を制御する。この駆動制御信号としては本実施例ではパルス幅変調(PWM)制御により行っている。また、駆動制御回路部49では常時バッテリー51の状態を監視しつつサーボモータ50への駆動電流を制御する。サーボモータ50による車輪の回転数は回転検出部41により常にモニターされている。更にサーボモータ50の出力は回生ブレーキとして作用する場合、バッテリー51を充電するための発電機出力として利用されるため、モータ駆動部48からバッテリー51への出力充電回路が設けられている。
【0045】
図5は、本発明によるキック蹴り出し制御プログラムの主要処理フローチャートを示す。まず、歩行車両のアシスト機能を働かせるスイッチを入れると、初期設定が行われ検出タイミングなどを設定する(S1)。この初期設定は、バッテリー量、車両装置の状態モニター等の確認と共に、システムの安定を図るための各種パラメータなどのリセット、アイドリング時間である。歩行補助車両の移動により車両に設置された回転検出部から車輪の回転数を検出する。さらにその変化量としての加速度を計算する(S2)。計算された加速度に基づきその回転数の変化の増加または減少を判断する(S3)。車輪の回転数の変化が減少している場合は、電動アシストを起動させないかアシストをオフにする(S4)。
【0046】
車輪の回転数の変化(加速度)が増加している場合は回転数が徐々に上がっていることを意味しキック蹴り出しが行われた可能性がある。しかし、キック蹴り出しでなく坂道や路面の凸凹による回転数の変化の増加も考えられる。そのため回転数の変化の増加を検出すると、その増加量が予め設定した所定値以上であるかどうかを判断する(S5)。この所定値(スレッシュホールド値)Tはキック蹴り出し推進力と区別できる程度の値に設定されているが、キック蹴り出し力の弱いリハビリ者や高齢者あるいは子供などの場合はTの設定値を可変とし使用者のコンディションに合わせて調整し、適切なスレッシュホールド値を設定することも可能である。車輪回転数の増加量が所定値以下の場合は、キック蹴り出しと判断されず電動アシストは起動させないか、電動アシストをオフにする(S6)。
【0047】
車輪回転数は下り坂のような場合、キック蹴り出しがなくてもある程度の回転数が上がってしまうことがある。このような状況を勘案し、本発明では回転数の変化量(加速度)に加えて回転数による制御をかけている。つまり回転数がある値以下かどうかを判断する(S7)。回転数が所定値以上に達している場合はキック蹴り出しを行ってもアシストは行わない(S8)。
【0048】
所定値以上の回転加速度の増加量(加速度)である場合、キック蹴り出しが行われたと判断し、パラメータ設定部(図4における44)で予め設定されたアシスト量(電流値)がサーボモータに与えられる。
【0049】
ここで、予め設定されるアシスト量は固定値でなく、キック蹴り出しの推進力に応じた量となるように設定されると共に電動アシストによる減速率が少なくなるように設定される(S9)。つまりこのプロセスS9では上記プロセスS3で検出した車輪の回転数の増加量を勘案してモータに印加される電流値が大きくなるように設定されと共に、走行補助を出来るだけ長く行い、ゆるやかに減速していくように回転数の減速率が少なくなるようにアシスト量が設定される。1回のキック蹴り出しでどの程度のアシスト推進を行うかは利用者の希望によりパラメータ設定により調整することができる。
【0050】
S9で設定されたアシスト量と減速率に応じ、サーボモータを駆動するPWM波形のデューティ比が設定される(S10)。これにより、電動アシスト用モータが駆動される(S11)。モータ駆動の制御量は車輪の回転数として検出されるため、常に電動アシストモータの制御量は回転数の変化としてモニターされている。これにより制御プログラムの動作は終了する。
【0051】
以上本発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本明細書で開示された実施の形態はすべての点で例示であって開示された技術に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の歩行アシスト車両によれば、3輪以上の車両により独自のキック推進による歩行アシストが可能となるため、リハビリ者、介護者、高齢者などが歩行しながら必要に応じてキック蹴り出しによる電動キックアシストを安全に働かすことができ、折り畳み方式により公共交通機関への持ち込みも可能となり、電動車椅子などに比べはるかに利便性の高い、歩行補助車両として利用できるなど極めて産業上の利用価値の高いものである。
【符号の説明】
【0053】
1 歩行アシスト車両
2 右前輪
3 左前輪
4 後輪
5 シャフト
6 サドル
7 第1のフレーム
8 ハンドル部
9 第2のフレーム
10 フレーム軸
41 回転検出部
42 回転センサー
43 マイクロプロセッサ
44 パラメータ設定部
45 アシスト量設定部
46 減速率設定部
47 スレッシュホールド設定部
48 モータ駆動部
49 モータ駆動制御回路
50 サーボモータ
51 バッテリー
図1
図2
図3
図4
図5