(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、蓄電装置の充電の要否は、蓄電装置のSOCに基づいて判断されている。SOCが低下すると、到達可能な充電ステーションが少なくなるだけでなく、最悪の場合には、電気自動車が充電ステーションに到達する前にSOCが底をつき、電気自動車の走行が困難となる事態も発生し得る。一方、SOCが低下する前に頻繁に充電を繰り返すと、蓄電装置の劣化が早まり、蓄電装置の寿命が短くなるおそれがある。このため、蓄電装置は、適切な充電タイミングで充電されることが望まれる。
【0005】
ところで、例えば、2台の電気自動車の蓄電装置のSOCの値が同じであっても、これから長距離を走行予定の電気自動車の方が、実質的に走行予定のない電気自動車よりも、充電の必要性が高いと考えられる。また、例えば、ある目的地まで走行する場合であっても、途中の道路の渋滞が予想される場合の方が、渋滞が予想されていない場合よりも、充電の必要性が高いと考えられる。このように、充電の必要性の程度は、SOCだけでなく、他の様々な要素の影響を受ける。したがって、適切な充電タイミングは、SOCだけでなく、他の様々な要素を考慮して総合的に判定されるべきである。
【0006】
そこで、本発明は、電気自動車が適切なタイミングで充電できるように充電の要否を総合的に判定して、充電サービスの向上を図ることができる充電要否判定システム、車載装置及び電気自動車を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、本発明は、電気自動車に搭載された蓄電装置の充電要否を判定する充電要否判定システムであって、電気自動車が所定時間以内に充電しなかった複数の過去事例の標本データからなる標本データ群を、過去事例の選択条件に従って複数の層別標本データ群に層化して記憶した記憶手段と、充電要否の判定対象である電気自動車の対象事例の対象標本データを収集し、かつ、対象事例の選択条件のデータを収集する収集手段と、標本データ群のうち、対象事例の選択条件に対応する層別標本データ群によって構成された単位空間の範囲を規定するマハラノビス距離の基準値と、対象標本データのマハラノビス距離の値とを比較し、対象標本データのマハラノビス距離の値が基準値を超える場合に、要充電と判定する判定手段と、判定手段が要充電と判定した場合に、対象事例の電気自動車に搭載された車載装置に対して、要充電を報知する報知手段と、を備えることを特徴としている。
【0008】
このように構成された本発明によれば、所定時間内に充電しなかった過去事例、即ち、充電不要であった過去の事例の標本データを記憶手段に蓄積しておく。そして、充電の要否の判定対象である電気自動車の対象標本データが、充電不要であった過去事例の標本データによって構成された単位空間内に含まれるか否かによって、判定対象である電気自動車の蓄電装置の充電が必要か否かを判定する。本発明では、統計学において多変量解析に用いられているマハラノビス距離を利用して、対象標本データが単位空間内含まれるか否かを判定する。マハラノビス距離は、標本データのパラメータの相関性を考慮した、標本データ群の分布の中心からの距離を表す。マハラノビス距離は、多変数間の相間に基づくものであるため、SOCだけでなく、他の様々な要素のパラメータを考慮して充電の要否を総合的に判定するのに適している。
【0009】
ところで、充電不要であった過去事例には、様々な条件下における事例が含まれている。条件の例として、電気自動車の乗車人数が挙げられる。電気自動車に運転者一人だけが乗車している場合と、同乗者がいる場合とでは、運転傾向に違いが生じることがある。その結果、乗車人数という条件によって、単位空間の範囲が異なることがある。このため、全ての過去事例の標本データ群によって構成された単位空間と、対象標本データとを比較するよりも、対象事例と同一の条件を有する過去事例の標本データ群のみによって構成された単位空間と、対象標本データとを比較した方が、充電の要否をより的確に判定することができる。
【0010】
そこで、本発明では、過去事例の標本データからなる標本データ群は、過去事例の選択条件に従って複数の層別標本データ群に層化して記憶手段に記憶されている。ここで、選択条件は、例えば、上述の乗車人数である。そして、対象標本データが、対象事例の選択条件に対応する層別標本データ群によって構成された単位空間内に含まれるか否かによって、充電の要否が判定される。ここで、層別標本データ群は、例えば、乗車人数が一人の場合の層別標本データ群と、乗車人数が二人以上の場合の層別標本データ群である。これにより、判定精度が向上し、電気自動車が適切なタイミングで充電できるように充電の要否が総合的に判定され、充電サービスの向上が図られる。
【0011】
また、本発明において好ましくは、過去事例の各々の標本データ及び前記対象事例の対象標本データは、複数の互いに同一項目のパラメータを含み、同一項目のパラメータは、電気自動車に搭載された蓄電装置の充電レベル情報に加えて、電気自動車の走行計画情報、道路混雑情報及び充電設備情報を含む。
【0012】
これにより、電気自動車の充電レベルだけでなく、他の種々の要素も考慮して、充電の要否を総合的に判定することができる。その結果、電気自動車が適切なタイミングで充電することが可能となり、充電サービスの向上を図ることができる。
【0013】
また、本発明において好ましくは、選択条件は、電気自動車の運転者の運転傾向、電気自動車の車種、及び電気自動車の乗車人数の少なくとも一つを含む。
【0014】
運転者の運転傾向だけでなく、車種や乗車人数といった選択条件によっても、運転傾向に違いに生じることがある。このため、これらの選択条件の一つ又は二つ以上の組合せに応じて層化された層別標本データ群によって構成された単位空間と、対象標本データとを比較することにより、充電の要否を的確に判定することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の充電要否判定システム、車載装置及び電気自動車によれば、電気自動車が適切なタイミングで充電できるように充電の要否を総合的に判定し、充電サービスの向上を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付の図面を参照して、本発明の充電要否判定システムの実施形態を説明する。
図1は、本発明の実施形態による充電要否判定システムを含む全体システムの構成を示すブロック図である。
図1には、全体システムとして、充電要否判定システムとしての上位コントローラ10と、充電要否判定対象の電気自動車(EV)20と、充電ステーション30が示されている。
【0018】
上位コントローラ10は、電気自動車20に搭載された蓄電装置の充電要否を判定する充電要否判定システムであって、記憶手段としてのデータベース(DB)11と、収集手段及び報知手段を兼ねる通信装置12と、判定手段としての充電アラーム計算システム13とを有している。
【0019】
まず、データベース11について説明する。データベース11には、電気自動車が所定時間以内に充電しなかった複数の過去事例の標本データから標本データ群が記憶されている。所定時間以内に充電しなかった過去事例とは、充電要否の判定時に充電不要であった事例である。所定時間には、任意好適な値を設定することができる。所定時間を、例えば48時間の範囲内の時間に設定した場合、充電要否の判定時から48時間以内に充電をする必要がなかった過去事例だけが、標本データ群に含まれる。これに対して、例えば、翌日に充電しなければならなくなった事例は、判断時点で充電が必要と判定されるべき事例であるから、標本データ群には含まれない。
【0020】
標本データは、電気自動車に搭載された蓄電装置の充電レベル情報に加えて、電気自動車の走行計画情報、道路混雑情報及び充電設備情報のパラメータを含む。なお、各パラメータは、パラメータ間の相関を計算するため、適宜数値化されている。
【0021】
走行計画情報は、過去事例の走行スケジュールの内容として、出発地点、目的地点及び出発日時を含むとよい。目的地点は、電気自動車20のカーナビゲーションシステムを含む車載装置21に入力される。また、目的地を入力した時点での電気自動車20の位置を、出発地点とするとよい。電気自動車20の位置は、GPS(global positioning syste
m:全地球測位システム)を利用して得られる。さらに、カーナビゲーションシステムに目的地を入力した日時を出発日時としてもよい。走行スケジュールは、例えば目的地が入力された時点における充電の必要性に大きな影響を与えることがある。
【0022】
道路混雑情報においては、交通情報の他に、道路の混み具合に影響を与え得るカレンダー情報及び気象情報を含むとよい。交通情報は、その時点の道路の混み具合の情報に加えて、その時点から将来の道路の混み具合の予想情報をも含むとよい。
【0023】
カレンダー情報には、道路の混み具合に影響する季節や曜日の情報が含まれる。例えば、観光シーズンや休日には、一般に道路の渋滞の程度が高くなる傾向がある。
【0024】
気象情報において、悪天候の場合には、一般に、道路の渋滞の程度が高くなる傾向がある。さらに、気象情報は、現時点の気象情報だけではなく、翌日以降、例えば2週間程度先までの天気予報を含むとよい。例えば、来週末の悪天候が予想されている場合、今週末の行楽地の道路の混雑程度が高くなる傾向がある。このように、気象情報には、当日だけでなく、翌日以降の予報が含まれるとよい。
【0025】
充電設備情報においては、充電設備の位置に加えて、充電設備の充電レベル及び充電設備のバッテリの劣化程度を示す情報を含むとよい。例えば、目的地付近に充電設備が無い場合の方が、目的地付近に充電設備が有る場合よりも、出発時点での充電の必要性が高くなる傾向がある。また、目的地付近に充電設備があっても、車載バッテリの劣化が進んでおり、十分な充電量とすることが困難である場合にも、出発時点での充電の必要性が高くなる傾向がある。そして、バッテリの劣化程度のデータは、車載装置21から上位コントローラ10へ送信される。
【0026】
このように、各過去事例の標本データは、蓄電装置の充電レベル情報、電気自動車の走行計画情報、道路混雑情報及び充電設備情報の項目のパラメータを含んでいる。そして、これらパラメータは、互いに相関を有している。
【0027】
さらに、データベース11において、標本データ群は、過去事例の選択条件に従って複数の層別標本データ群に層化して記憶されている。ここで、選択条件は、電気自動車の運転者の運転傾向、電気自動車の車種、及び電気自動車の乗車人数のうちの一つでもよいし、二つ以上の組み合わせでもよい。かかる選択条件によって、運転傾向に違いに生じることがある。
【0028】
運転者の運転傾向についての選択条件は、例えば、カーナビゲーションシステムに設定した目的地に直接行く傾向があるか、又は、設定した目的地に直接行かず、寄り道をする傾向があるかで分類するとよい。車種についての選択条件は、例えば、スポーツカーと、それ以外の車種とに分類するとよい。車種により速度の傾向が異なる。また、乗車人数についての選択条件は、例えば、一人の場合と、二人以上の場合とに分類するとよい。なお、選択条件は、一つの項目につき、三つ以上に分類してもよい。
【0029】
選択条件に応じて層化した層別標本データ群は、それぞれ別個の記憶領域に別個のファイルとして記憶してもよいし、共通の全標本データ群に選択条件ごとにフラグを付与して記憶してもよい。
【0030】
フラグを付与する場合、選択条件の各項目の分類ごとに別個のフラグを付与するとよい。例えば、運転者の運転傾向の項目について、寄り道をしない傾向の場合に「0」、寄り道をする傾向の場合に「1」のフラグをそれぞれ付与し、また、車種がスポーツカーの場合に「0」、スポーツカー以外の場合に「1」のフラグをそれぞれ付与するとよい。また、乗車人数が、一人の場合に「0」、二人以上の場合に「1」のフラグをそれぞれ付与するとよい。
【0031】
そして、選択条件が、例えば、運転者の運転傾向が「寄り道をする」「1」であり、車種が「スポーツカー」「0」であり、乗車人数が「二人以上」「1」である場合には、標本データ群の中から、運転傾向に「1」のフラグが付与され、車種に「0」のフラグが付与され、かつ、乗車人数に「1」にフラグが付与された標本データを選択して層化して、層別標本データ群を構成するとよい。また、選択条件が、運転者の運転傾向が「寄り道をする」「1」だけの場合には、運転傾向に「1」のフラグが付与された標本データが全て選択される。
【0032】
次に、上位コントローラ10の通信装置12について説明する。
通信装置12は、まず、収集手段として、充電要否の判定対象である電気自動車20の対象事例の対象標本データを収集する。対象標本データも、過去事例の各々の標本データと同一項目の上述したパラメータを含む。
【0033】
通信装置12はまた、対象事例の選択条件のデータを収集する。ここでも、選択条件は、上述のデータベースにおける選択条件と同様に、電気自動車の運転者の運転傾向、電気自動車の車種、及び電気自動車の乗車人数のうちの一つでもよいし、二つ以上の組み合わせでもよい。
【0034】
まず、選択条件の一つの項目が運転者の運転傾向である場合について説明する。充電要否の判定対象の電気自動車20の運転者の運転傾向は、電気自動車ごとに設定してもよいし、電気自動車を実際に運転する運転者ごとに設定してもよい。
運転傾向が電気自動車ごとに設定されている場合、電気自動車20の車載装置21のメモリに、運転傾向のデータを登録しておき、その電気自動車の識別信号とともに、運転傾向のデータを上記コントローラ10へ送信するとよい。この運転傾向のデータは、データベースにおけるフラグに対応するように、例えば、寄り道をしない運転傾向の場合に「0」、寄り道をする運転傾向の場合に「1」の信号を送るとよい。
【0035】
また、運転傾向が、電気自動車を実際に運転する運転者ごとに設定されている場合、運転者のイグニッションキー(又はカード)にその運転者の識別データを登録しておくことによって、運転者を識別してもよいし、運転者の頭部を撮像して画像認識によって登録済みの運転者を識別してもよい。さらに、電気自動車20の車載装置21のメモリに、運転傾向を運転者ごとに設定しておくとよい。そして、電気自動車20は、識別された運転者に対応する運転傾向のデータを、その電気自動車の識別信号とともに、運転傾向のデータを上記コントローラ10へ送信するとよい。
【0036】
次に、選択条件の一つの項目が車種である場合について説明する。電気自動車20は、車載装置21のメモリに自車両の車種のデータを登録しておき、その電気自動車の識別信号とともに、車種のデータを上記コントローラ10へ送信するとよい。この車種のデータは、データベースにおけるフラグに対応するように、例えば、車種がスポーツカーである場合に「0」、スポーツカー以外である場合に「1」の信号を送るとよい。
【0037】
次に、選択条件の一つの項目が乗車人数である場合について説明する。充電要否の判定対象の電気自動車20の乗車人数は、車室内の各シートに着座センサを設けてシート毎の着座の有無を検出することによって判定してもよいし、カメラで車室内を撮像して撮像画像を画像認識することによって判定してもよい。そして、電気自動車20は、その電気自動車の識別信号とともに、判定した乗車人数のデータを上記コントローラ10へ送信するとよい。この乗車人数のデータは、データベースにおけるフラグに対応するように、例えば、乗車人数が一人である場合に「0」、二人以上である場合に「1」の信号を送るとよい。
【0038】
このように、通信装置12は、収集手段として、充電要否の判定対象である電気自動車の対象事例の対象標本データを収集し、かつ、前記対象事例の選択条件のデータを収集する。
【0039】
通信装置12はまた、報知手段として、充電アラーム計算システム13、後述するように要充電と判定した場合に、対象事例の電気自動車に対して、要充電を報知するため、充電アラーム信号を送信する。
【0040】
次に、上位コントローラ10の充電アラーム計算システム13について説明する。
充電アラーム計算システム13は、標本データ群のうち、対象事例の選択条件に対応する層別標本データ群によって構成された単位空間の範囲を規定するマハラノビス距離の基準値と、対象標本データのマハラノビス距離の値とを比較する。全体の標本データ群の各標本データに選択条件を示すフラグが付与されている場合には、対象事例の選択条件のフラグの付与された標本データが、全体の標本データ群から選択されて、層別標本データ群が構成される。そして、充填アラーム計算システム13は、対象事例の対象標本データのマハラノビス距離の値が基準値を超える場合に、要充電と判定する。
【0041】
ここで、
図2〜
図6を参照して、マハラビノス距離について説明する。
まず、
図2に、標本データ群及び対象標本データの分布を模式的に示す。
図2では、標本データの多数のパラメータのうち、便宜的に2つのパラメータ、即ち、天気の良悪と交通状況の良悪との相関を示す。天気のパラメータは、「晴れ」を良とし、「雨」を悪として、適当な指標に基づいて数値化されている。また、交通状況のパラメータも、「渋滞あり」を悪とし、「渋滞なし」を良として、適当な指標に基づいて数値化されている。
【0042】
図2には、過去事例の標本データが、黒丸印でプロットされている。過去事例の標本データは、いずれも所定時間以内に充電をしなかった事例であり、便宜的に、正常データと称する。これに対して、
図2には、所定時間以内に充電をした2つの事例の標本データが、異常データA及びBとして、それぞれ白三角印でプロットされている。
なお、
図2にプロットされた黒丸印の標本データ群は、左下から右上に延びた分布を有しており、天気と交通状況との間に、正の相関が有ることを示している。また、実際の標本データ群の分布は、より多数の項目のパラメータ間の相関によっている。
【0043】
ここで、
図2に黒丸印で示された正常データと、白三角印で示された異常データとを区別することを検討する。まず、
図3に、黒丸印でプロットされた正常データの標本データ群の分布の中心Oからの一般的な距離L1を示す。半径距離L1の円周上に、正常データD1と、異常データA及びBが位置する。すなわち、
図4に示すように、正常データD1及び異常データA及びBの中心Oからの一般的な距離は、いずれもL1である。このため、正常データD1と、異常データA及びBとを一般的な距離によって区別することは困難である。
【0044】
次に、
図5に、黒丸印でプロットされた正常データの標本データ群の分布の中心Oからのマハラノビス距離示す。マハラノビス距離は、パラメータとの相関性を考慮した、標本データ群の分布の中心からの距離である。
図5では、天気の良悪のパラメータと交通状況の良悪のパラメータとの相関性を考慮した、黒丸印の標本データ群の分布の中心Oからのマハラノビス距離M1、M2及びM3の楕円を示す。
図5に示すように、正常データD1のマハラノビス距離はM2であり、マハラノビス距離M3の楕円の単位空間の内側に位置している。これに対して、異常データA及びBは、マハラノビス距離M3の楕円の単位空間の外側に位置している。すなわち、
図6に示すように、正常データD1のマハラノビス距離がM3よりも小さいのに対して、異常データA及びBのマハラノビス距離は、M3よりも大きい。したがって、マハラノビス距離M3を閾値として、正常データと異常データとを区別することができる。
【0045】
次に、層別標本データ群の単位空間について説明する。
図7に、層別標本データ群の分布を模式的に示す。
図7においても、
図2、
図3及び
図5と同じく、標本データの多数のパラメータのうち、便宜的に2つのパラメータ、即ち、天気の良悪と交通状況の良悪との相関を示す。
図7中、第1の単位空間S1を構成する第1の層別標本データ群が黒丸印でプロットされ、第2の単位空間S2を構成する第2の層別標本データ群が白丸印でプロットされている。第1の層別標本データ群は、運転者の運転傾向が「寄り道をする」運転傾向であることを選択条件として層化されたものであり、一方、第2の層別標本データ群は、運転者の運転傾向が「寄り道をしない」運転傾向であることを選択条件として層化されたものである。なお、第1の単位空間S1の外縁を定めるマハラノビス距離の基準値と、第2の単位空間S2の外縁を定めるマハラノビス距離の基準とは、互いに等しくてもよいし、異なっていてもよい。
【0046】
第1及び第2の層別標本データ群のいずれも、所定時間内に充電をしなかった過去事例の標本データから構成されている。しかし、
図7に示すように、第1の単位空間S1の範囲と、第2の単位空間S2の範囲は、大きく異なっている。このため、白三角で示す対象標本データCは、第1の単位空間S1の外側に位置すると同時に、第2の単位空間S2の内側に位置している。
【0047】
対象標本データCの対象事例の選択条件が、例えば、運転者の運転傾向が「寄り道をする」運転傾向である場合には、対象標本データCが第1の単位空間S1内に含まれるか否かによって、充電の要否が判定される。換言すれば、対象標本データCのマハラノビス距離が、第1の単位空間S1の外縁までのマハラノビス距離の基準値を超えるか否かによって、充電の要否が判定される。これに対して、対象標本データCの対象事例の選択条件が、例えば、運転者の運転傾向が「寄り道をしない」運転傾向である場合には、対象標本データCが第2の単位空間S2内に含まれるか否かによって、充電の要否が判定される。換言すれば、対象標本データCのマハラノビス距離が、第2の単位空間S2の外縁までのマハラノビス距離の基準値を超えるか否かによって、充電の要否が判定される。
【0048】
したがって、対象事例の選択条件の運転者の運転傾向が「寄り道をする」運転傾向である場合には、対象標本データCは、第1の単位空間S1の外側に位置するため、充電必要と判定される。これに対して、対象事例の選択条件の運転者の運転傾向が「寄り道をしない」運転傾向である場合には、対象標本データCは、第2の単位空間S2の内側に位置するため、充電不要と判定される。
【0049】
このように、対象標本データCと比較する層別標本データ群が異なれば、充電要否の判定結果が異なることがある。したがって、対象事例と同一の選択条件を有する過去事例の標本データ群のみによって構成された単位空間と、対象標本データとを比較することにより、充電の要否をより的確に判定することができる。
【0050】
次に、
図8のフローチャートを参照して、本発明の実施形態による充電要否判定システムの処理を説明する。
本実施形態では、充電の要否が判定される電気自動車20のカーナビゲーションシステムに、目的地が入力されたことによって、処理が開始される。
【0051】
目的地が入力されると、上位コントローラ10の通信装置12により、判定対象の電気自動車20の対象事例の選択条件が収集される(S81)。ここで、選択条件は、電気自動車の運転者の運転傾向、電気自動車の車種、及び電気自動車の乗車人数の3つの項目を組み合わせたものである。
【0052】
続いて、上位コントローラ10の充電アラーム計算システム13は、データベース11から、標本データ群のうち、対象事例の選択条件に対応する層別標本データ群を選択して読み出す(S82)。全体の標本データ群の各標本データに選択条件を示すフラグが付与されている場合には、対象事例の選択条件のフラグの付与された標本データが、全体の標本データ群から選択されて、層別標本データ群が構成される。
【0053】
選択条件が、例えば、運転者の運転傾向が「寄り道をする」であり、車種が「スポーツカー」であり、乗車人数が「二人以上」である場合には、データベース11から、これらの選択条件の組合せに該当する標本データが選択されて、層別標本データ群が構成される。なお、データベース11において、各標本データに選択条件のフラグが付与されている場合には、対象事例の選択条件の組合せに相当する組合せのフラグが付与された標本データが選択される。
【0054】
続いて、上位コントローラ10の通信装置12は、充電要否の判定対象である電気自動車20の対象事例の対象標本データを収集する(S83)。対象標本データには、データベース11に格納された過去事例の標本データと同一項目のパラメータが含まれる。ここでは、パラメータとして、電気自動車20に搭載された蓄電装置の充電レベル情報に加えて、電気自動車20の走行計画情報、道路混雑情報及び充電設備情報が含まれる。
【0055】
電気自動車20の蓄電装置の充電レベル情報及び走行計画情報は、電気自動車20の車載装置21から、上位コントローラ10の通信装置12に送信される。また、道路混雑情報として、交通状況、気象状況及びカレンダー情報が、例えば、地上局(図示せず)から上位コントローラ10の通信手段12に送信される。また、充電設備情報は、充電ステーション30の通信装置32から上位コントローラ10の通信装置12に送信される。
【0056】
続いて、上位コントローラ10の充電アラーム計算システム13は、選択された層別標本データ群に対する対象事例の対象標本データのマハラビノス距離を、各パラメータの相関に基づいて計算する(S84)。パラメータの相関に基づくマハラノビス距離の計算には、統計学における多変量解析において通常使用されている計算方法を利用することができる。
なお、マハラノビス距離を計算するにあたっては、事故などの特異的な標本データは除去しておくことが望ましい。
【0057】
続いて、充電アラーム計算システム13は、選択された層別標本データ群の単位空間の外縁を規定するマハラビノス距離の基準値と、対象事例の対象標本データのマハラビノス距離とを比較する(S85)。すなわち、対象標本データが、層別標本データ群の単位空間内に含まれるか否かを判定する。
【0058】
選択された層別標本データ群の単位空間が、例えば、
図7に示した第1の単位空間S1であり、対象標本データが
図7に示した対象標本データCである場合、対象標本データCは、単位空間S1の外側に位置するため、充電必要と判定される。これに対して、選択された層別標本データ群の単位空間が、
図7に示した第2の単位空間S2である場合、対象標本データCは、単位空間S2の内側に位置するため、充電不要と判定される。
【0059】
そして、対象標本データのマハラビノス距離が、基準値を超えている場合、すなわち、対象標本データが層別標本データ群の単位空間内に含まれていない場合に(S86で「yes」)、充電アラーム計算システム13は、更に対象標本データのマハラノビス距離に基づいて充電の必要度を判定する(S87)。具体的には、第2の基準値を設けておき、対象標本データのマハラノビス距離がこの第2の基準値を超えている場合の充電の必要度を「高」と判定し、超えていない場合の充電の必要度を「低」と判定するとよい。また、さらに多くの基準値を設定して、充電の必要度を段階的に判定してもよいし、対象標本データのマハラノビス距離に応じて連続的に必要度を高くしてもよい。
【0060】
続いて、上記コントローラ10の通信装置12から、対象となる電気自動車20へ向けて、充電の必要度に応じた充電アラーム信号は送信される(S88)。充電アラーム信号を受信した電気自動車20では、車載装置21が、例えばインストルメントパネルに充電アラームを表示して、充電が必要であることを運転者に報知する。充電アラーム表示は、充電の必要性の程度を反映したものであることが望ましい。
【0061】
また、標本データのマハラビノス距離が、基準値以下である場合、充電アラーム計算システム13は、充電不要と判定する(S86で「no」)。その場合、今回判定対象となった事例の対象標本データが、過去事例の標本データとして、データベース11に追加される(S89)。
【0062】
このように、充電要否の判定対象事例の対象標本データが、その対象事例の選択条件に対応する層別標本データ群によって構成された単位空間内に含まれるか否かによって、充電の要否が判定される。これにより、判定精度が向上し、電気自動車が適切なタイミングで充電できるように充電の要否が総合的に判定され、充電サービスの向上が図られる。
【0063】
上述の実施形態においては、本発明を特定の条件で構成した例について説明したが、本発明は種々の変更及び組み合わせを行うことができ、これに限定されるものではない。例えば、上述の実施形態では、複数の選択条件を組みあせて層別標本データ群を選択した例について説明したが、本発明では、選択条件は1つでもよい。