特許第6308733号(P6308733)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6308733
(24)【登録日】2018年3月23日
(45)【発行日】2018年4月11日
(54)【発明の名称】レーザ加工装置および製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/00 20140101AFI20180402BHJP
   B23K 26/40 20140101ALI20180402BHJP
   B23K 26/064 20140101ALI20180402BHJP
   C03C 23/00 20060101ALI20180402BHJP
【FI】
   B23K26/00 B
   B23K26/00 N
   B23K26/40
   B23K26/064 A
   C03C23/00 D
【請求項の数】10
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-154687(P2013-154687)
(22)【出願日】2013年7月25日
(65)【公開番号】特開2015-24419(P2015-24419A)
(43)【公開日】2015年2月5日
【審査請求日】2016年6月15日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 「2013 Photonics West」プログラムおよび論文
(73)【特許権者】
【識別番号】504237050
【氏名又は名称】独立行政法人国立高等専門学校機構
(74)【代理人】
【識別番号】100092956
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 栄男
(74)【代理人】
【識別番号】100101018
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 正
(72)【発明者】
【氏名】玉木 隆幸
(72)【発明者】
【氏名】小野 俊介
(72)【発明者】
【氏名】中村 圭吾
(72)【発明者】
【氏名】中角 真也
【審査官】 岩瀬 昌治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−212685(JP,A)
【文献】 特開2002−250708(JP,A)
【文献】 特開2000−002675(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00
B23K 26/064
B23K 26/40
C03C 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超短光パルスレーザを対象物の照射領域に照射して対象物を加工する超短光パルスレーザ照射手段と、
前記対象物の超短光パルスレーザーの照射領域に、対象物に熱レンズが生じて前記超短光パルスレーザの焦点位置が深くなる程度の出力にて、熱効果レーザを重ねて照射する熱効果レーザ照射手段と、
を備えたレーザ加工装置。
【請求項2】
請求項1のレーザ加工装置において、
前記超短光パルスレーザーは、ピコ秒レーザまたはフェムト秒レーザーであることを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項3】
請求項1または2のレーザ加工装置において、
前記熱効果レーザは、炭酸ガスレーザまたはYAGレーザであることを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかのレーザ加工装置において、
前記対象物は超短光パルスレーザの光を透過する性質を有するものであることを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項5】
請求項4のレーザ加工装置において、
前記熱効果レーザの出力を調整することによって、加工深さまたは加工面積を調整することを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項6】
超短光パルスレーザを対象物の照射領域に照射し、
前記対象物の超短光パルスレーザーの照射領域に、対象物に熱レンズが生じて前記超短光パルスレーザの焦点位置が深くなる程度の出力にて、熱効果レーザを重ねて照射することによって、対象物を加工するレーザ加工物の製造方法。
【請求項7】
請求項6の製造方法において、
前記超短光パルスレーザーは、フェムト秒レーザーであることを特徴とする製造方法。
【請求項8】
請求項6または7の製造方法において、
前記熱効果レーザは、炭酸ガスレーザまたはYAGレーザであることを特徴とする製造方法。
【請求項9】
請求項6〜8のいずれかの製造方法において、
前記対象物はレーザ光を透過する性質を有するものであることを特徴とする製造方法。
【請求項10】
請求項9の製造方法において、
前記熱効果レーザの出力を調整することによって、加工深さまたは加工面積を調整することを特徴とする製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、レーザ光を用いた加工装置および製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フェムト秒レーザを、ガラス等の透明材料に照射することによりマーキングなどを行うことが行われている。また、この際、レーザ光の焦点がガラスの内部にくるように位置を調整することにより、ガラスの表面だけでなく内部に加工を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−154845
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、フェムト秒レーザによって上記のような加工を行うためには、大きな出力のフェムト秒レーザが必要であった。
【0005】
また、加工部位の深さを変化させるためには、物理的な位置調整が必要であるため、調整が煩雑であったり、迅速な加工深さの調整を行うことが困難であるという問題があった。
【0006】
また、特許文献1に記載の従来技術においては、2種類のレーザ光を順次照射することで、多様な色彩のマーキングを施すことが開示されているものの、上記の問題点を解決するものではなかった。
【0007】
この発明は、小さな出力のフェムト秒レーザを用いて加工を行う装置および製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)(6)この発明に係るレーザ加工装置は、超短光パルスレーザを対象物の照射領域に照射する超短光パルスレーザ照射手段と、前記対象物の超短光パルスレーザーの照射領域に、熱効果レーザを重ねて照射する熱効果レーザ照射手段とを備えている。
【0009】
したがって、超短光パルスレーザだけでは加工ができなかったり不十分である場合でも、これを適切に加工することができる。
【0010】
(2)(7)この発明に係るレーザ加工装置は、超短光パルスレーザーが、ピコ秒レーザまたはフェムト秒レーザーであることを特徴としている。
【0011】
(3)(8)この発明に係るレーザ加工装置は、熱効果レーザが、炭酸ガスレーザまたはYAGレーザであることを特徴としている。
【0012】
(4)(9)この発明に係るレーザ加工装置は、対象物が、超短光パルスレーザの光を透過する性質を有するものであることを特徴としている。
【0013】
したがって、内部加工を行うことが可能となる。
【0014】
(5)(10)この発明に係るレーザ加工装置は、熱効果レーザの出力を調整することによって、加工深さを調整することを特徴としている。
【0015】
したがって、物理的に超短光パルスレーザの焦点を移動させなくとも、熱効果レーザの出力を調整して加工深さなどを制御できるので、迅速な制御が可能である。
【0016】
この発明において、「超短光パルスレーザ」とは、ピコ秒もしくはフェムト秒オーダーの間だけ光が出力され、その光パルスがある一定の間隔ごとに照射されるものをいう。
【0017】
「熱効果レーザ」とは、対象物の照射領域近傍に熱レンズなどの熱効果を生じさせることが可能なレーザをいい、かかる効果を生じるものであれば連続波レーザ、パルスレーザのいずれであってもよい。なお、「連続波レーザ」とは、連続的にレーザ光が照射されるものをいい、出力調整のため等にデューティ比を調整したものも含む概念である。実施形態では、炭酸ガスレーザがこれに該当する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】炭酸ガスレーザによる熱レンズの形成を説明するための図である。
図2】炭酸ガスレーザによる熱レンズの形成を説明するための図である。
図3】装置の構成を示す図である。
図4】熱レンズの効果を示す画像である。
図5】表面アブレーションが生じている場合の画像(図5A)と、内部での屈折率変化が生じている場合の画像(図5B)である。
図6】表面アブレーションが生じている場合の画像(図6A)と、内部での屈折率変化が生じている場合の画像(図6B)、その両者が生じている場合の画像(図6C)である。
図7】フェムト秒レーザパルスのエネルギー、炭酸ガスレーザビームの出力を変化させた場合の加工状態の変化を示す図である。
図8】フェムト秒レーザのみでの加工状態(図8A)と、炭酸ガスレーザを併用した場合の加工状態(図8B)を示す図である。
図9図9Aは、フェムト秒レーザのパルスエネルギーと加工痕の大きさとの関係を示す図である。図9Bは、炭酸ガスレーザの出力と加工痕の大きさとの関係を示す図である。
図10】炭酸ガスレーザを併用した場合の加工痕の増大率を示すグラフである。
図11】加工状態の断面図である。
図12】炭酸ガスレーザの出力と加工深さとの関係を示す図である。
図13】炭酸ガスレーザの出力、走査速度と加工状態との関係を示す図である。
図14】走査を行った場合の、フェムト秒レーザ、ハイブリッドレーザによる加工状態を示す図である。
図15】走査速度と加工状態との関係を示す図である。
図16】走査速度と加工痕幅との関係を示す図である。
図17】フェムト秒レーザのみの場合の加工状態と、炭酸ガスレーザを併用した場合の加工状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
発明者らは、対象物の加工部位もしくは加工部位近傍において、フェムト秒レーザに重ねて、熱効果レーザである炭酸ガスレーザ(デューティ比を調整可能な連続波レーザ)を照射することで、フェムト秒レーザによる加工能力が向上することを見いだした。すなわち、小出力のフェムト秒レーザによっても加工を可能とすることができた。
【0020】
これは、炭酸ガスレーザによって分子が振動することで、フェムト秒レーザによる分子結合の切断が生じやすくなったためであると推測される。
【0021】
また、炭酸ガスレーザの出力を変化させることにより、加工深さや幅を制御できることも明らかとなった。これは、炭酸ガスレーザにより空気中および対象物中に熱レンズが形成されるためであると思われる。
【0022】
図1に、炭酸ガスレーザによって形成される熱レンズを模式的に示す。表1に示すように、空気は温度上昇に対する密度変化が負であるから、炭酸ガスレーザによって暖められるとその部分が周囲よりも密度が低くなり、凹レンズ2が形成される。また、対象物がガラスである場合には、温度情報に対する密度変化が正であるから、逆に凸レンズ4が形成される。
【0023】
【表1】
【0024】
したがって、図1に示すように、本来であれば、フェムト秒レーザは実線6のように集光するが、凹レンズ2、凸レンズ4により、破線8に示すように集光位置が変化する。凹レンズ2、凸レンズ4の屈折率は、炭酸ガスレーザの出力によって変わるので、炭酸ガスレーザの出力を制御することによりフェムト秒レーザの加工位置や範囲を制御することができる。
【0025】
上記では、超短光パルスレーザとしてフェムト秒レーザを用いたが、ピコ秒レーザなどその他の超短光パルスレーザを用いることもできる。また、炭酸ガスレーザにかえて、YAGレーザなどの連続波レーザを用いるようにしてもよい。さらに、熱効果レーザとして、パルス波レーザ(好ましくは、μ秒より長いパルス出力期間を有するもの)を用いるようにしてもよい。
【実施例】
【0026】
1.概要
超短光パルスは、パルス幅が極めて短く、ピークパワーが極めて大きいため、三次元形状の加工への応用などに大きな可能性を有している。超短光パルスを透明材料中に集光すると、焦点近傍における強度が非常に大きくなり、多光子イオン化、トンネルイオン化などの非線形吸収現象が生じ、さらに、それに続くアンバランシェイオン化によって、局所的に透明材料における分子構造を変化させることができる。このレーザ励起による構造的変化は、集光条件、被加工材料の種類、レーザパラメータ(波長、パルス幅、入射パルスエネルギー、繰り返し周波数など)によって、概ね、屈折率変化、散乱性の損傷(scattering damage)、ボイド(空隙、voids)の3つのタイプに分類することができる。特に、コンピュータ制御の自動ステージにより屈折率変化領域を透明材料内部に一次元、二次元、三次元的に形成すれば、透明材料内部に光導波路、光結合器、レンズ、回折格子などの三次元光学デバイスを作製することができる。
【0027】
透明材料内部への三次元マイクロ加工のためには、1996年にDavisらがレーザ励起による屈折率変化を用いて導波路を作製して以降、単一の超短光パルスレーザが用いられている。この単一の超短光パルスレーザとしては、高いパルスエネルギー、様々な波長・繰り返し周波数の光パルスを出力することができ、出力された超短光パルスの波長を後に変換することもできる、再生増幅モードロック チタン・サファイア フェムト秒レーザが一般的によく用いられている。繰り返し周波数が1 kHzから200 kHzである、この超短光パルスをガラス内部に集光照射すると、2つのしきい値に応じて、異なる特徴をもつ構造変化を誘起することができる。第一のしきい値と第二のしきい値の間では、小さい屈折率変化量をもつ屈折率変化が誘起される。第二のしきい値を超える領域では、散乱性の損傷が生じ、大きな屈折率変化量をもつ構造変化を得ることができる。また、高い開口数をもつ対物レンズによって超短光パルスを透明材料内部に集光すれば、ボイドを生成することもできる。このボイドは、密度の高い殻によって、密度の低い部分が取り囲まれた形状をしているといわれている。
【0028】
つぎに、超短光パルスの照射パルス間隔が、集光点近傍からの熱拡散時間よりも短い、高繰り返しの超短光パルスレーザを用いれば、集光点近傍において熱蓄積に起因した構造変化領域を形成することができる。この構造変化領域の大きさは、構造的変化のメカニズムが熱蓄積であるため、印加したパルスの数に依存することになる。さらに高繰り返しの超短光パルスレーザは、単一時間に多くのパルス数を供給することができるため、低繰り返しの超短光パルスレーザと比較し、高速なマイクロ加工を実現することができる。現在までに、5 MHz より高い繰り返し周波数をもつキャビティーダンプ チタンサファイアレーザを用いて、ガラス内部への構造的変化を実現している報告もある。ここで、キャビティーダンプとは、再生増幅器が発振器からの光を増幅したあとの光を出力するのに対して、結晶内で発生した自然放出光を発振器からの光を必要とせず増幅し、増幅後に取り出すことをいう。また、最近では、チタンサファイアレーザシステムに比べて優れた信頼性と安定性をもち有用性が高い、ピコ秒、もしくは、フェムト秒の高繰り返しファイバーレーザシステムを利用して、光導波路の作製も行われている。
【0029】
これら研究によって、単一のレーザ光源による超短光パルスと、透明材料との相互関連が明らかになったが、単一のレーザ光源による超短光パルスおよび連続波レーザと透明材料との相互関連は示されていない。ここでは、高繰り返し周波数をもつフェムト秒ファイバーレーザと連続波発振の炭酸ガスレーザとをBK7ガラス加工に適応した場合に、BK7ガラスにおいてレーザ誘起される構造変化について検討する。
【0030】
2.フェムト秒レーザおよび炭酸ガスレーザを用いたマイクロ加工の原理
図2A図2Bに、フェムト秒レーザおよび炭酸ガスレーザシステムを用いたレーザマイクロ加工の原理を示す。超短光レーザパルスを透明材料の表面に集光させると、焦点近傍に非線形の吸収が生じ、光電離が生じてマイクロプラズマが形成される。このマイクロプラズマにより、焦点近傍の透明材料を局所的に加工することができる。今回は、焦点を透明材料の表面としているため、材料表面にアブレーション(除去、ablation)が生じることとなる(図2A参照)。つぎに、炭酸ガスレーザビームとフェムト秒レーザパルスを材料に同時に照射すると、熱レンズ効果が生じる。Gordon らによって初めて報告された熱レンズ効果は、レーザ照射領域のまわりの2つの媒質の屈折率の温度依存性に起因して生じる。光軸に垂直な面における光ビームの強度分布は、一般的には、ガウス分布として特徴づけることができる。つまり、レーザ光路にそって径方向に対称なガウスビームが材料に吸収されると、材料中において発生する熱もまた、径方向に対称なガウス分布となる。また、多くの材料は、温度が上昇すると屈折率が減少する。したがって、温度が最も高くなる光照射部の中央部が、最も低い屈折率をもつことになる。
【0031】
前掲の表1に示すように、ガラスの温度係数は正であり、空気の温度係数は負である。さらに、ガラスの温度係数の絶対値は、空気よりも大きい。したがって、空気とガラスの場合、熱レンズは負の焦点距離をもつことになり、フェムト秒レーザパルスの焦点位置は、ガラス材料の表面から内部に移動する(図2B参照)。この結果、アブレーションに代わって、ガラス内部に局所的な構造的変化がもたらされる。
【0032】
3.装置
図3に、装置の構成を示す。三次元ステージ10は、コンピュータ制御によりXYZ方向に移動可能である。三次元ステージ10の上には、対象物12が載置される。フェムト秒レーザ26からのレーザ光は、半波長板28、偏光板30、シャッタ32を通過し、ダイクロイックミラー20によって反射され、対物レンズ18を介して、対象物12に照射される。炭酸ガスレーザ14からのレーザ光は、ミラー16によって反射され、対象物12に照射される。なお、ダイクロイックミラー20はフェムト秒レーザ光を反射し、可視光を透過することができる。したがって、カメラ24は、対象物12の表面ないし内部を撮像することができる。つまり、カメラ24により、対象物12の状況をモニタすることができる。
【0033】
フェムト秒レーザ26として、この例では、Fianium 社のFP1060S-PP-D を用いた。これは、波長1.06 μm のフェムト秒レーザパルスを出力することができる。パルス幅は、250 fsである。最大出力パルスエネルギーは、2 μJである。パルスエネルギーは、偏光板30の前にある半波長板28の回転によって調整することができる。繰り返し周波数は、1 MHz であるため、BK7ガラスに熱蓄積の効果を与えることができる。ここでは、BK7 ガラスとして、オハラ社製、S-BSL7を用いた。その特性の詳細を表2に示す。
【0034】
【表2】
【0035】
炭酸ガスレーザ14として、Kantum Electronics 社製のH48-1-28SW を用いた。この炭酸ガスレーザ14は、波長10.6μmの連続波レーザビームを出力する。最大出力は、10 Wである。また、レーザ出力は炭酸ガスレーザを駆動するドライバ装置(図示せず)に与える電気パルス信号のデューティ比を変えることによって制御可能である。対象物12(ここではガラスを用いた)をきれいにし、コンピュータによって制御される三次元ステージ10の上に載置する。開口数0.40、20 倍の対物レンズ18(オリンパス製、LMPlan20 × IR)により、対象物12の表面にフェムト秒レーザパルスを集光する。対象物12に直線的な構造的変化領域を得るために、フェムト秒レーザパルスの焦点を、X軸にそって0.1 mm/sの速度で、1 mm移動させる。レーザ励起による構造的変化領域は、白色光源(図示せず)により対象物12を照射し、その透過光をカメラ24により撮像することで、対象物12のXY平面を観察することができる。また、カメラ24の位置を変えることにより、対象物12のXZ平面も観察することができる。なお、加工装置として構成する場合には、カメラ24は設けなくともよい。
【0036】
4.結果
4.1 炭酸ガスレーザ14を併用することの効果
炭酸ガスレーザ14の効果を確認するため、(i)フェムト秒レーザ26のみを用いた場合、(ii)フェムト秒レーザと炭酸ガスレーザの双方を用いた場合(以下、ハイブリッドレーザシステムと呼ぶ)について、対象物12に対するレーザマイクロ加工を行った。フェムト秒レーザのパルスエネルギーは、0.6 μJ に設定した。また、炭酸ガスレーザの出力は3 Wとした。図4に、カメラ24にて撮像した対象物12のXY平面の画像を示す。図4Aは、炭酸ガスレーザ14を照射しない場合の対象物12の画像である。図4Aより、対象物12の表面に描いた文字「5」が明瞭に確認できる。この時のカメラ24の焦点位置をそのままとし、炭酸ガスレーザ14を照射した場合の対象物12の画像が図4Bである。炭酸ガスレーザ14による熱レンズ効果によって、文字「5」がぼやけていることが分かる。
【0037】
図5に、加工後の対象物12のXY平面の画像を示す。図5Aはフェムト秒レーザ26のみを用いた場合の結果であり、図5Bはハイブリッドシステムを用いた場合の結果である。図5Aにおいて、乱反射が生じて黒くなっているため、フェムト秒レーザ26のみを用いた場合には、表面にアブレーションが生じていることがわかる。ハイブリッドシステムの場合には、表面にアブレーションが生じることなく、内部に屈折率変化領域が形成された。これは、図5Bにおいて、表面アブレーションが生じていないため、内部の屈折率変化のある領域がきれいに映し出されていることから、明らかである。
【0038】
図17に、フェムト秒レーザ26のエネルギーを0.525 μJに設定し、炭酸ガスレーザ14の出力を0W、6W、8Wとした場合の加工状態の変化を示す。なお、フェムト秒レーザ26の焦点は、炭酸ガスレーザ14を照射しない状態(出力が0 Wの状態)で、対象物12の表面にくるように調整した。
【0039】
図17Cは、炭酸ガスレーザ14を用いない場合の結果である。上段がXY 平面(横方向)の画像、下段がXZ 平面(深さ方向)の画像である。図17Cから明らかなように、炭酸ガスレーザ14を併用しない場合、加工痕は現れない。
【0040】
これに対し、炭酸ガスレーザ14の出力を、6W、8Wとした場合には、加工痕が現れている。このように、フェムト秒レーザ26の出力が小さいため加工ができない場合であっても、炭酸ガスレーザ14を併用することで、加工を行うことが可能となることが明らかになった。
【0041】
4.2 炭酸ガスレーザビームの出力、フェムト秒レーザパルスのエネルギーによる加工広さの変化
炭酸ガスレーザ14の出力、フェムト秒レーザ26のエネルギーを変えることによる、レーザ励起による加工状態(表面アブレーション、内部加工、その中間状態(表面アブレーションから内部加工への遷移状態))の変化を観察した。フェムト秒レーザ26のエネルギーは、0.60 μJ、0.65 μJ.、0.70 μJ、0.75 μJに変化させた。また、炭酸ガスレーザ14の出力は、1W、2W、3W、4W に変化させた。
【0042】
図6に、加工後の対象物12のXY平面の画像を示す。図6Aは表面アブレーションが生じた状態、図6Bは内部加工がなされた状態、図6Cは両者が生じている状態(中間状態)である。
【0043】
図7に、フェムト秒レーザのパルスエネルギー、または、炭酸ガスレーザの出力を変化させた場合に得られた加工状態を示す。バツ印が図6Aの表面アブレーション、マル印が図6Bの内部加工状態、四角印が図6Cの中間状態である。図7から明らかなように、炭酸ガスレーザ14の出力を2 W以上にすることにより、焦点位置が対象物12の表面から内部に変わり、内部加工がなされていることが分かる。
【0044】
図8Aに、フェムト秒レーザ26の光パルスのみを対象物12の内部に集光し加工した、対象物12のXY平面の画像を示す。図8Bには、フェムト秒レーザ26のエネルギーを変えずに、炭酸ガスレーザ14を重ねて照射した場合の画像を示す。図8より明らかなように、フェムト秒レーザ26単独の場合よりも、ハイブリッドレーザシステムの方が、加工痕が大きくなっていることが分かる。
【0045】
図9Aに、フェムト秒レーザ26単独の加工において、そのパルスエネルギーを変えた場合の、加工痕の大きさの変化を示す。エネルギー大きくなるにつれて、加工痕の直径も大きくなっていることが分かる。また、図9Aから、同一条件下で行った1回目から3回目までの実験において、同一の加工特性が得られていることから、安定した加工が行われていることも分かる。図9Bに、炭酸ガスレーザ14を併用した場合の加工痕の大きさの変化を示す。炭酸ガスレーザ14を併用することで、加工痕の直径が大きくなることが示されている。また、併用する炭酸ガスレーザの出力を大きくすることで、加工痕の直径が大きくなることも明らかである。
【0046】
図10に、フェムト秒レーザ26のパルスエネルギー、炭酸ガスレーザ14の出力を変化させた場合の加工痕直径を、フェムト秒レーザ26のエネルギーを0.9 μJ、炭酸ガスレーザ14の出力を1 Wとした場合の加工痕直径で割り求めた、倍率を示す。図10から明らかなように、炭酸ガスレーザ14の出力を増加させることにより、フェムト秒レーザ26単体での加工と比較して、加工痕直径を飛躍的に大きくすることが可能であることがわかる。
【0047】
4.3 炭酸ガスレーザビームの出力、フェムト秒レーザパルスのエネルギーによる加工深さの変化
次に、炭酸ガスレーザ14の出力、フェムト秒レーザ26のエネルギーを変化させ、加工深さの変化を調べた。フェムト秒レーザのパルスエネルギーは、0.60 μJ、0.65 μJ、0.70 μJ、0.75 μJ に変化させた。また、炭酸ガスレーザ14の出力は、1W、2W、3W、4Wに変化させた。
【0048】
図11に、対象物12内部に形成された加工痕のXZ平面の画像を示す。ガラス表面40の下、すなわち内部に、屈折率の異なる加工領域である加工痕42が形成されていることが分かる。ここでは、対象物12の表面40から、加工痕42の下端部までを深さとして測定した。
【0049】
図12に、フェムト秒レーザ26のパルスエネルギー、炭酸ガスレーザ14の出力と、加工痕の深さとの関係を示す。炭酸ガスレーザ14の出力が大きくなると、加工痕の深さも大きくなっていることが分かる。同様に、フェムト秒レーザ26のエネルギーが大きくなると、加工痕の深さも大きくなっていることが分かる。しかし、表面アブレーションが生じている場合には、フェムト秒レーザ26のパルスエネルギーが大きくなっても、加工痕の深さには、優位な変化は見られなかった。
【0050】
上記のように、炭酸ガスレーザ14の出力、フェムト秒レーザ26からの光パルスのエネルギーが深さに影響を与えているのは、前述の熱レンズが原因であると思われる。つまり、炭酸ガスレーザの出力が増大すると熱レンズの曲率が変化し、熱レンズの開口数が減少して、加工深さが深くなると考えられる。
【0051】
4.4 走査速度の変化と加工状態
炭酸ガスレーザ14の出力を、1W、2W、3W と変化させ、三次元ステージ10の移動速度(つまり、対象物12のレーザ光に対する移動速度)を変化させた場合の加工状態を、図13に示す。移動速度が速いと、表面アブレーションから内部加工に移るために大きな炭酸ガスレーザの出力が必要であることが分かる。これは、移動速度がゆっくりである方が、炭酸ガスレーザによる熱効果が十分に与えられるからであると思われる。
【0052】
図14Aにフェムト秒レーザ26のみで内部加工を行った場合の対象物12のXY 平面の画像を示す。また、図14Bにハイブリッドレーザシステムで内部加工を行った場合の対象物12のXY平面の画像を示す。ここでは、走査速度1.0 mm/s、フェムト秒レーザ26のパルスエネルギー1.0 μJ、光パルスの対象物12の表面からの焦点深さ200μm、炭酸ガスレーザ14の出力を3 Wとした。
【0053】
図14から明らかなように、フェムト秒レーザ26のみで加工を行う場合よりも、ハイブリッドレーザシステムの方が、加工幅が広くなっている。次に、ハイブリッドレーザシステムを用い、同条件にて、走査速度を変化させた場合の加工状態の変化を、図15に示す。図15より、走査速度が速くなるほど、屈折率の変化が一様に生じてきれいな加工を行えることが分かった。また、図16に示すように、走査速度が速くなると加工幅が狭くなるが、ある一定の速度を超えると(図16では、40 mm/sを超えると)、下降幅の変化はなくなることが明らかになった。
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