(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6308766
(24)【登録日】2018年3月23日
(45)【発行日】2018年4月11日
(54)【発明の名称】トンネル内降温用噴霧システム
(51)【国際特許分類】
E21F 3/00 20060101AFI20180402BHJP
B05B 1/14 20060101ALI20180402BHJP
F24F 6/14 20060101ALI20180402BHJP
F24F 1/00 20110101ALI20180402BHJP
【FI】
E21F3/00
B05B1/14 Z
F24F6/14
F24F1/00 331
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-254661(P2013-254661)
(22)【出願日】2013年12月10日
(65)【公開番号】特開2015-113585(P2015-113585A)
(43)【公開日】2015年6月22日
【審査請求日】2016年10月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000233826
【氏名又は名称】能美防災株式会社
(72)【発明者】
【氏名】稲村 勝正
【審査官】
神尾 寧
(56)【参考文献】
【文献】
特公昭47−041564(JP,B1)
【文献】
特開2014−136954(JP,A)
【文献】
特開2008−175520(JP,A)
【文献】
米国特許第05540383(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21F 3/00
B05B 1/14
F24F 1/00
F24F 6/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半閉鎖空間であるトンネル内で、前記トンネル内の所定のミスト噴霧区画内に設置された噴霧ノズルから水をミストとして噴霧し、トンネル内を利用する運転者の視環境を確保した上で前記トンネル内の温度上昇を抑制するトンネル内降温用噴霧システムであって、
前記噴霧ノズルを1以上備え、前記噴霧ノズルの一次側に前記噴霧ノズルへ前記水の供給の有無を選択する開閉選択弁を有するミスト配管が、ひとつのミスト噴霧区画内に車路に対して略平行に複数備えられ、
前記開閉選択弁を開放する数量によって、前記ひとつのミスト噴霧区画内に放水するミストの噴霧量を調節する
ことを特徴としたトンネル内降温用噴霧システム。
【請求項2】
半閉鎖空間であるトンネル内で、前記トンネル内の所定のミスト噴霧区画内に設置された噴霧ノズルから水をミストとして噴霧し、トンネル内を利用する運転者の視環境を確保した上で前記トンネル内の温度上昇を抑制するトンネル内降温用噴霧システムであって、
前記噴霧ノズルを2以上備えるミスト配管が、前記噴霧ノズルを1以上備える毎にその一次側に開閉選択弁を備え、
前記開閉選択弁のうち、少なくともひとつを閉止させることによって、前記ミスト噴霧区画内に放水するミストの噴霧量を調節する
ことを特徴としたトンネル内降温用噴霧システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル内の温度上昇抑制、およびトンネル内利用者の視環境確保の両立を図るために、ミスト噴霧の制御について規定したトンネル内降温用噴霧システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術として、大気開放された空間の温度低下を目的とした降温用噴霧システムが知られている(例えば、特許文献1参照)。この特許文献1によれば、ミストのザウター平均粒径に基づいて噴霧ノズルの設置高さおよびミストの噴霧量を設定することで、大気開放された空間内の人を濡らすことなく、適切に冷却することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許4488510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来技術には、以下のような課題がある。
特許文献1は、大気開放された空間における温度低下を対象としており、ミストの平均粒径、ノズル設置高さ、およびミスト噴霧量に関するパラメータをある適切な範囲に規定したものである。
【0005】
これに対して、断続的に車両が動いており、半閉鎖空間であるトンネル内を温度低下の対象空間とする場合には、大気開放された空間を前提とする従来技術では、解決できない問題が生ずる。
【0006】
具体的には、半閉鎖空間であるトンネル内では、トンネルの長手方向に風が流れている状態である。また、トンネル内を利用する運転者(トンネル内を通行する車両の運転者)の視環境を確保することが重要となる。このような観点では、トンネル内の温度上昇抑制と、トンネル内を利用する運転者の視環境確保の両立を図るために、半閉鎖空間の中でのミスト噴霧に関し、大気開放された空間を対象とする場合よりも、より厳しい使用条件が必要となる。
【0007】
本発明は、前記のような課題を解決するためになされたものであり、トンネル内の温度上昇抑制と、トンネル内を利用する運転者の視環境確保の両立を図るミスト噴霧を実現することのできるトンネル内降温用噴霧システムを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るトンネル内降温用噴霧システムは、半閉鎖空間であるトンネル内で、前記トンネル内の所定のミスト噴霧区画内に設置された噴霧ノズルから水をミストとして噴霧し、トンネル内を利用する運転者の視環境を確保した上で前記トンネル内の温度上昇を抑制するトンネル内降温用噴霧システムであって、
前記噴霧ノズルを1以上備え、前記噴霧ノズルの一次側に前記噴霧ノズルへ前記水の供給の有無を選択する開閉選択弁を有するミスト配管が、ひとつのミスト噴霧区画内に車路に対して略平行に複数備えられ、前記開閉選択弁を開放する数量によって、前記ひとつのミスト噴霧区画内に放水するミストの噴霧量を調節することを特徴とするものである。
【0009】
本発明に係るトンネル内降温用噴霧システムは、半閉鎖空間であるトンネル内で、前記トンネル内の所定のミスト噴霧区画内に設置された噴霧ノズルから水をミストとして噴霧し、トンネル内を利用する運転者の視環境を確保した上で前記トンネル内の温度上昇を抑制するトンネル内降温用噴霧システムであって、
前記噴霧ノズルを2以上備えるミスト配管が、前記噴霧ノズルを1以上備える毎にその一次側に開閉選択弁を備え、前記開閉選択弁のうち、少なくともひとつを閉止させることによって、前記ミスト噴霧区画内に放水するミストの噴霧量を調節することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ミスト噴霧量を制御する際に、噴霧ノズルが接続されたミスト配管の開閉選択弁を開閉することでミスト噴霧区画内のミスト量を簡単に調整し、最適なミスト噴霧量を得て、トンネル内の温度上昇抑制と、トンネル内を利用する運転者の視環境確保の両立を図ることのできるトンネル内降温用噴霧システムを得ることができる。
【0012】
また、本発明によれば、ミスト噴霧量を制御する際に、噴霧ノズルが接続されたミスト配管の開閉選択弁のうち、少なくともひとつを閉止することでミスト噴霧区画内のミスト量を簡単に調整し、最適なミスト噴霧量を得て、トンネル内の温度上昇抑制と、トンネル内を利用する運転者の視環境確保の両立を図ることのできるトンネル内降温用噴霧システムを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施の形態1におけるトンネル内降温用噴霧システム1の全体図である。
【
図2】本発明の実施の形態1において、開閉選択弁51(1)を閉止し、ミスト噴霧量を通常よりも減らした状態を示す図である。
【
図3】本発明の実施の形態2におけるトンネル内降温用噴霧システム100の全体図である。
【
図4】本発明の実施の形態2において、開閉選択弁52(3)を閉止し、ミスト噴霧量を通常よりも減らした状態を示す図である。
【
図5】本発明の実施の形態1と実施の形態2を組合せたトンネル内降温用噴霧システムの全体図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明のトンネル内降温用噴霧システムの好適な実施の形態につき、図面を用いて説明する。
【0015】
<実施の形態1>
図1は、本発明の実施の形態1に係わるトンネル内降温用システム1の全体図である。より具体的には、1つの半閉鎖空間を構成するトンネル内における各機器の配置を模式的に示した説明図である。
【0016】
図1では、トンネルにおいて、所定のミスト噴霧区画内の壁面に、複数の噴霧ノズル10が設けられている。複数の噴霧ノズル10は、ミスト噴霧区画内の側壁に車路と略平行に複数(例えば3列)敷設された横引き配管であるミスト配管50(1)、50(2)、50(3)に、それぞれ同数ずつ取り付けられており、各ミスト配管50(1)、50(2)、50(3)には噴霧ノズル10よりも一次側に常時開の開閉選択弁(噴霧選択部)51(1)、51(2)、51(3)が設けられている。
【0017】
ミスト噴霧区画の前後には、温湿度計30(1)、30(2)が設けられている。なお、温湿度計の配置は、この
図1の例に限定されず、温湿度計30(1)、30(2)の間に、さらに1以上の温湿度計を配置することも可能である。
【0018】
噴霧量制御部40は、トンネル内の温度が所定の閾値(例えば30℃)を越えたときに、湿度が所定の閾値(例えば80%)未満の場合には、ミスト噴霧を開始するため、図示しない送水ポンプを起動してミスト配管50に水を加圧送水させる。
【0019】
加圧送水された水は、噴霧ノズル10に達すると、ザウター平均粒径が80μm未満のミストとなって放出される。
【0020】
放出されたミストは、トンネル内で蒸散し、その際の気化熱によりトンネル内の温度を下げるが、同時にトンネル内の湿度を上げている。湿度が上昇し、80%以上になると、ミストは蒸散しにくくなり、この状態で同じようにミスト噴霧を続けると、車のフロントガラスに水滴が付着するなどして、運転者の視程に影響が出るため、湿度が所定の値(例えば80%)に収まるようにミスト噴霧量を制御する必要がある。
【0021】
ミスト噴霧中に湿度が上昇し、温湿度計30(1)または温湿度計30(2)の値が所定の閾値(例えば75%)以上になると、噴霧量制御部40は、
図2に示すように、開閉選択弁51(1)を閉止し、ミスト噴霧量を通常の2/3に減量する。
【0022】
この状態でも(所定時間経過しても)、湿度が所定の値(例えば75%)未満に回復しなかった場合、噴霧量制御部40は、さらに開閉選択弁51(2)を閉止し、ミスト噴霧量を通常の1/3に減量する。
【0023】
その後、湿度が75%未満よりも低く回復した場合には、再度、開閉選択弁51(2)、開閉選択弁51(1)を順次開放して、ミスト噴霧量を増やし、周囲温度を下げるように制御してもよい。
【0024】
なお、温度と湿度にそれぞれ閾値を設定し、その組み合わせによって、開閉選択弁51(1)、51(2)、51(3)の開閉状態の組み合わせを設定してもよい。
【0025】
このように開放する開閉選択弁51の数量を制御することで簡単にミスト噴霧量を制御でき、トンネル内の温度上昇抑制と、トンネル内を利用する運転者の視環境確保の両立を図るミスト噴霧を実現することができる。
【0026】
なお、本実施の形態1では、ミスト配管50(1)、50(2)、50(3)に、それぞれ同数ずつ噴霧ノズル10が取り付けられていたが、これに限定せず、噴霧ノズル10が、例えば、ミスト配管50(1)にもっとも多く、ミスト配管50(2)にはミスト配管50(1)の半数、ミスト配管50(3)にはミスト配管50(2)の半数というように、各ミスト配管50に取り付けられる噴霧ノズル10の数量を違えておき、状況に合わせて開閉選択弁51(1)、51(2)、51(3)の開閉の組み合わせを変えることで、ミスト噴霧量をより細かく制御することができる。
【0027】
<実施の形態2>
本実施の形態2のトンネル内降温用噴霧システム100では、実施の形態1のトンネル内降温用噴霧システム1と噴霧ノズル10、温湿度計30、噴霧量制御部40などの構成機器を共通とするシステムであり、異なる点としては、
図3のようにミスト配管50が、噴霧ノズル10が1個以上取り付けられる毎にその一次側に常時開の開閉選択弁(噴霧選択部)52(1)、52(2)、52(3)が設けられている点である。(例えば、ミスト配管50の一次側より開閉選択弁52(1)、噴霧ノズル10が10個、開閉選択弁52(2)、噴霧ノズル10が10個、開閉選択弁52(3)、噴霧ノズルが10個の順。)
【0028】
噴霧量制御部40は、トンネル内の温度が所定の値(例えば30℃)を越えたときに、湿度が所定の値(例えば80%)未満の場合には、ミスト噴霧を開始するため、図示しない送水ポンプを起動してミスト配管50に水を加圧送水させる。
【0029】
ミスト配管50に加圧水が供給されると、ミスト配管50に取り付けられた全ての噴霧ノズル10からザウター平均粒径が80μm未満のミストが噴霧される。
【0030】
ミスト噴霧中に湿度が上昇し、温湿度計30(1)または30(2)の値が所定の値(例えば75%)以上になると、噴霧量制御部40は、
図4に示すように、下流側の開閉選択弁52(3)を閉止し、ミスト噴霧量を通常の2/3(ミスト噴霧する噴霧ノズル10は20個)に減量する。
【0031】
この状態でも(所定時間経過しても)、湿度が所定の値(例えば75%)未満に回復しなかった場合、噴霧量制御部40は、さらに上流側の開閉選択弁52(2)を閉止し、ミスト噴霧量を通常の1/3(ミスト噴霧する噴霧ノズル10は10個)に減量する。
【0032】
その後、湿度が所定の値(例えば70%)よりも低く回復した場合には、再度、開閉選択弁52(2)、52(3)を上流側から順次開放して、ミスト噴霧量を増やし、周囲温度を下げるように制御してもよい。
【0033】
このように閉止する開閉選択弁52を選択して制御することで簡単にミスト噴霧量を制御でき、トンネル内の温度上昇抑制と、トンネル内を利用する運転者の視環境確保の両立を図るミスト噴霧を実行することができる。
【0034】
本実施の形態2では、開閉選択弁52(1)、52(2)、52(3)の二次側に、それぞれ同数ずつ噴霧ノズル10が取り付けられていたが、これに限定せず、噴霧ノズル10が、例えば、開閉選択弁52(1)の二次側にもっとも多く、開閉選択弁52(2)には開閉選択弁52(1)の半数、開閉選択弁52(3)には開閉選択弁52(2)の半数というように、各開閉選択弁52で噴霧可能な噴霧ノズル10の数量を違えておき、状況に合わせて開閉選択弁52(1)、52(2)、52(3)を開閉することで、ミスト噴霧量をより細かく制御することができる。
【0035】
なお、実施の形態1のトンネル内降温用噴霧システム1と、実施の形態2のトンネル内降温用噴霧システム100を組み合わせてもよく、例えば、
図5に示すように、車路と略平行にミスト配管50(1)、50(2)、50(3)が敷設され、ミスト配管50(1)に開閉選択弁(噴霧選択部)53(1)、53(2)、53(3)を備え、各開閉選択弁53(1)、53(2)、53(3)の二次側に噴霧ノズル10を10個ずつ備え、同様にミスト配管50(2)には、開閉選択弁(噴霧選択部)53(4)、53(5)、53(6)とその二次側に噴霧ノズル10を10個ずつ、同様にミスト配管50(3)には、開閉選択弁(噴霧選択部)53(7)、53(8)、53(9)とその二次側に噴霧ノズル10を10個ずつ備えることで、温度と湿度の状況に応じて、例えば、実施の形態1および2と同様に、開閉選択弁53(1)〜(9)の閉止位置を変えることでミスト噴霧量をより細かく制御することができる。
【0036】
また、実施の形態1のトンネル内降温用噴霧システム1と実施の形態2のトンネル内降温用噴霧システム100および上述の組み合せの例では、開閉選択弁51(1)〜(3)、52(1)〜(3)、53(1)〜(9)を常時開としているが、これに限定せず、常時閉としてシステム起動時に必要に応じて開放するようにしてもよい。このとき、全ての開閉選択弁を常時閉とせず、例えばミスト配管の最も一次側の開閉選択弁のみを常時閉とするなど、常時開とするか、常時閉とするかは、運用方法や現場の状況に応じて設定が可能である。
【符号の説明】
【0037】
1 トンネル内降温用噴霧システム、10 噴霧ノズル、20 風向風速計、30 温湿度計、40 噴霧量制御部、41 記憶部、50 ミスト配管、51、52、53 開閉選択弁、100 トンネル内降温用噴霧システム。