特許第6308839号(P6308839)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6308839
(24)【登録日】2018年3月23日
(45)【発行日】2018年4月11日
(54)【発明の名称】切梁のヒンジ構造
(51)【国際特許分類】
   E02D 17/04 20060101AFI20180402BHJP
【FI】
   E02D17/04 A
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-70801(P2014-70801)
(22)【出願日】2014年3月31日
(65)【公開番号】特開2015-190295(P2015-190295A)
(43)【公開日】2015年11月2日
【審査請求日】2017年3月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000201478
【氏名又は名称】前田建設工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130362
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 嘉英
(72)【発明者】
【氏名】林 幹朗
(72)【発明者】
【氏名】上田 達哉
(72)【発明者】
【氏名】工藤 敏邦
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 俊
【審査官】 須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−339944(JP,A)
【文献】 特開平06−010352(JP,A)
【文献】 特開平11−310924(JP,A)
【文献】 特開昭53−093612(JP,A)
【文献】 米国特許第04139324(US,A)
【文献】 特開2013−083071(JP,A)
【文献】 特開2006−233509(JP,A)
【文献】 特開2013−139696(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 17/00−17/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向する一対の側壁部の間に掛け渡す切梁のヒンジ構造であって、
切梁の両端部に取り付ける鞘管と、前記鞘管内に挿入するヒンジ部と、からなり、
前記鞘管は、一側が開放し、他側が閉塞した筒状部と、当該筒状部の閉塞側に設けられ、前記ヒンジ部の先端が当接して、前記ヒンジ部を当該鞘管に対して揺動可能に支持する支持部と、当該筒状部の開放側近傍であって、当該筒状部の内周面の同一円周上において不連続に設けられ、前記ヒンジ部の抜け落ちを防止する鞘管側抜落防止部と、を備え、
前記ヒンジ部は、前記切梁の両端部にそれぞれ設けられ、前記鞘管の端部へ向かって突出した略半球状の当接部材と、前記鞘管側抜落防止部の不連続部から前記鞘管の閉塞側へ向かって挿入可能であって、前記切梁の長軸を回転軸として前記鞘管に対して相対的に回転させることにより、前記鞘管側抜落防止部に対向して、前記ヒンジ部の抜け落ちを防止するヒンジ部側抜落防止部と、を備えた、
ことを特徴とする切梁のヒンジ構造。
【請求項2】
前記鞘管の内周面と前記ヒンジ部の外周面との間に、両者の当接を緩衝する緩衝部材を設けたことを特徴とする請求項1に記載の切梁のヒンジ構造。
【請求項3】
前記鞘管は、外周面から突出した複数のズレ防止突起を備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載の切梁のヒンジ構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切梁のヒンジ構造に関するものであり、詳しくは、対向する一対の側壁部の間に掛け渡す切梁において、側壁部との接続部に設ける構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば山留め壁のように、対向する一対の側壁部が存在する場合に、両側壁部の間に切梁を掛け渡すことにより、側壁部を支持することが一般的である。切梁には種々の態様のものが存在するが、例えば、切梁の使用本数を削減する技術(特許文献1参照)、山留め壁周辺の地盤の変形や変位を抑制する技術(特許文献2参照)が開示されている。
【0003】
特許文献1に記載された技術は、腹起こし材が、矢板に沿って上下方向に摺動自在で、かつ所望の高さで位置決め可能な構成の腹起こし支持材により支持され、掘削溝の両側壁の長手方向に沿って架設されている。長手方向に隣接する腹起こし材の端部同士は、当該端部同士を収容する開口部を備えたジョイント部材に連結され、溝幅方向に相対向して配置されたジョイント部材間に切梁が取り付けられた構造となっている。
【0004】
特許文献2に記載された技術は、山留め工事における切梁の施工方法に関するものである。そして、山留め壁を地盤内に構築し、該山留め壁の内側を根切りする前に、山留め壁を支持するための切梁を架設する。切梁は、軸方向に伸縮可能なジャッキを備えた切梁本体と、その両端部に設けられ、少なくとも直交する2方向に延びる支持部材と、切梁本体と支持部材との間に介在したユニバーサルジョイントとを備えた構造となっている。
【0005】
また、特許文献2と同様に切梁と腹越しの連結部にユニバーサルジョイントを用いる技術(特許文献3参照)が開示されている。特許文献3に記載された技術は、火打梁あるいは切梁と腹起しを連結するための技術である。そして、頭部が半円形をしたユニバーサルジョイントの凸部材を火打梁あるいは切梁の先端に取り付け、腹起し側に凸部材に嵌合して摺動し得る半円形のユニバーサルジョイントの凹部材を、火打受ボックスを介して腹起しに取り付けた構造となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−120223号公報
【特許文献2】特開2003−193470号公報
【特許文献3】特開平6−316930号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
例えば、鋼管矢板を用いて構造物を構築した場合に、切梁により鋼管矢板を確実に支持できなければ、構造物の健全性を維持することができない。この際、確実なヒンジ構造となること、切梁に作用する軸力に対して安全性を確保できること、地震発生時に切梁が抜け落ちてしまい構造物が崩壊しないこと、塩害環境下においても耐久性を確保できること等が要求される。さらに、上述した要求性能を満たした上で、施工が容易であり、工期の短縮、施工コストの低減等を図ることが望まれている。
【0008】
この点、従来の技術(特許文献1〜特許文献3)は、上述した要求性能のすべてを満たすことができるとは言い切れない。また、連結部にユニバーサルジョイントを用いた技術(特許文献2及び特許文献3)では、特に、地震発生時に切梁が抜け落ちる危険性がある。
【0009】
本発明は、上述した事情に鑑み提案されたもので、確実なヒンジ構造であり、切梁に作用する軸力に対して安全性を確保でき、地震発生時に切梁が抜け落ちることがなく、塩害環境下においても耐久性を確保できるとともに、施工が容易であり、工期の短縮、施工コストの低減等を図ることが可能な切梁のヒンジ構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の切梁のヒンジ構造は、上述した目的を達成するため、以下の特徴点を有している。すなわち、本発明の切梁のヒンジ構造は、対向する一対の側壁部の間に掛け渡す切梁のヒンジ構造であって、切梁の両端部に取り付ける鞘管と、鞘管内に挿入するヒンジ部とからなる。
【0011】
そして、鞘管は、一側が開放し、他側が閉塞した筒状部と、当該筒状部の閉塞側に設けられ、ヒンジ部の先端が当接して、ヒンジ部を当該鞘管に対して揺動可能に支持する支持部と、当該筒状部の開放側近傍であって、当該筒状部の内周面の同一円周上において不連続に設けられ、ヒンジ部の抜け落ちを防止する鞘管側抜落防止部とを備えている。
【0012】
また、ヒンジ部は、切梁の両端部にそれぞれ設けられ、鞘管の端部へ向かって突出した略半球状の当接部材と、鞘管側抜落防止部の不連続部から鞘管の閉塞側へ向かって挿入可能であって、切梁の長軸を回転軸として鞘管に対して相対的に回転させることにより、鞘管側抜落防止部に対向して、ヒンジ部の抜け落ちを防止するヒンジ部側抜落防止部とを備えたことを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明の切梁のヒンジ構造は、上述した構成に加えて、鞘管の内周面とヒンジ部の外周面との間に、両者の当接を緩衝する緩衝部材を設けることが好ましい。
【0014】
また、本発明の切梁のヒンジ構造は、上述した構成に加えて、鞘管は、外周面から突出した複数のズレ防止突起を備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の切梁のヒンジ構造によれば、切梁の両端部に取り付ける鞘管と、鞘管内に挿入するヒンジ部とからなり、鞘管はヒンジ部を鞘管に対して揺動可能に支持する支持部を備え、ヒンジ部は鞘管の端部へ向かって突出した略半球状の当接部材を備えている。また、鞘管とヒンジ部には、それぞれヒンジ部の抜け落ちを防止するための鞘管側抜落防止部とヒンジ部側抜落防止部とを備えている。
【0016】
したがって、確実なヒンジ構造となり、また、切梁に作用する軸力に対して安全性を確保できるとともに、地震発生時に切梁が抜け落ちるおそれがないので、構造物が崩壊するおそれがない。また、塩害環境下においても耐久性を確保することが可能である。さらに、上述した要求性能を満たした上で、施工が容易であり、工期の短縮、施工コストの低減を図ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施形態に係る鞘管及びヒンジ部の縦断面図。
図2】本発明の実施形態に係る鞘管及びヒンジ部の横断面図。
図3】本発明の実施形態に係る切梁のヒンジ構造の設置手順を示す縦断面図(1)。
図4】本発明の実施形態に係る切梁のヒンジ構造の設置手順を示す縦断面図(2)。
図5】本発明の実施形態に係る切梁のヒンジ構造の設置状態を示す縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明に係る切梁のヒンジ構造の実施形態を説明する。図1図5は本発明の実施形態に係る切梁のヒンジ構造を説明するもので、図1は鞘管及びヒンジ部の縦断面図、図2は鞘管及びヒンジ部の横断面図、図3及び図4はヒンジ構造の設置手順を示す縦断面図、図5はヒンジ構造の設置状態を示す縦断面図である。
【0019】
<切梁のヒンジ構造の概要>
本発明の実施形態に係る切梁のヒンジ構造は、図3図5に示すように、対向する一対の側壁部(例えば、鋼管矢板400)の間に掛け渡す切梁(例えば鋼管切梁100)のヒンジ構造10であって、切梁の両端部に取り付ける鞘管200と、鞘管200内に挿入するヒンジ部300とを主要な構成要素とする。本実施形態の鋼管切梁100のヒンジ構造10は、図5に示すように、対向して設けた鋼管矢板400により形成される溝状構造物(例えば、水路)に適用される構造であり、溝状構造物の底面には底盤コンクリート500が設けられている。なお、本発明において、側壁部は鋼管矢板400に限定されるものではなく、切梁は鋼管切梁100に限定されるものではない。
【0020】
<鞘管>
鞘管200は、図1及び図2に示すように、一側が開放し、他側が閉塞した筒状部210を備えており、この筒状部210の開放側から筒状部210の内部に鋼管切梁100の一端部(ヒンジ部300)を挿入する。すなわち、鞘管200は、鋼管切梁100の両端部にそれぞれ取り付ける部材である。
【0021】
この鞘管200の筒状部210の閉塞側には、ヒンジ部300の先端(当接部材310)が当接して、ヒンジ部300を鞘管200に対して揺動可能に支持する支持部211を設けてある。後に詳述するが、ヒンジ部300の先端には、鞘管200の端部へ向かって突出した略半球状の当接部材310が設けてある。したがって、支持部211は、当接部材310を受け止めるために、略半球状の凹部となっている。
【0022】
また、鞘管200の筒状部210の開放側近傍には、筒状部210の内面から突出した部材であって、ヒンジ部300の抜け落ちを防止する鞘管側抜落防止部220が設けてある。この鞘管側抜落防止部220は、筒状部210の内周面の同一円周上において不連続に設けられており、ヒンジ部300に設けたヒンジ部側抜落防止部320と対向させることにより、ヒンジ部300が鞘管200から抜け落ちることを防止する。
【0023】
すなわち、鞘管側抜落防止部220は、筒状部210の内面から筒状部210の内側へ向かって突出して設けた断面略円弧状の部材であり、本実施形態では、筒状部210の内側において2カ所設けてある。そして、2つの鞘管側抜落防止部220の間に不連続部を設け、当該間隔内を2つのヒンジ部側抜落防止部320がそれぞれ通過可能となっている。
【0024】
また、鞘管200の外周面には、外方へ向かって突出する複数のズレ防止突起230を設けてある。鞘管200は、側壁部(例えば鋼管矢板400)の上部に埋め込んで使用するが、ズレ防止突起230により、側壁部に対して鞘管200を強固に固定することができる。
【0025】
<ヒンジ部>
ヒンジ部は、図1及び図2に示すように、鋼管切梁100の両端部にそれぞれ設けた部材である。このヒンジ部300は、鞘管200の端部へ向かって突出した略半球状の当接部材310を備えている。上述したように、当接部材310が支持部211に当接することにより、鞘管200に対してヒンジ部300を揺動可能に支持することができる。
【0026】
また、ヒンジ部300には、鞘管側抜落防止部220の不連続部から鞘管200の閉塞側へ向かって挿入可能であって、鋼管切梁100の長軸を回転軸として鞘管200に対して相対的に回転させることにより、鞘管側抜落防止部220に対向して、ヒンジ部300の抜け落ちを防止するヒンジ部側抜落防止部320を設けてある。
【0027】
すなわち、ヒンジ部側抜落防止部320は、鞘管側抜落防止部220の不連続部から鞘管200の閉塞側へ向かって挿入可能となるように、ヒンジ部300の外周面から突出して設けた鍔状の部材である。本実施形態では、ヒンジ部300の基部の2箇所を外方へ向かって鍔状に拡径したもので、2つヒンジ部側抜落防止部320は、2つの鞘管側抜落防止部220の不連続部を通過可能となっている。
【0028】
そして、ヒンジ部300を鞘管200内へ挿入した後に、鋼管切梁100の長軸を回転軸として、鞘管200とヒンジ部300とを相対的に回転させることにより、鞘管側抜落防止部220とヒンジ部側抜落防止部320とが対向し、ヒンジ部300が鞘管200から抜け落ちることを防止する。ここで、鞘管200とヒンジ部300とを相対的に回転させるとは、ヒンジ部300を取り付けた鋼管切梁100を固定状態として、鞘管200を回転させてもよいし、鞘管200を固定状態として、ヒンジ部300を設けた鋼管切梁100を回転させてもよいし、ヒンジ部300を設けた鋼管切梁100と鞘管とをそれぞれ反対方向に回転させてもよいことを意味する。
【0029】
鞘管側抜落防止部220とヒンジ部側抜落防止部320とは、対向状態において重なり合う形状となっており、これにより、鞘管側抜落防止部220にヒンジ部側抜落防止部320が当接して、ヒンジ部300が鞘管200から抜け落ちることを防止する。
【0030】
また、鞘管200の内周面とヒンジ部300の外周面との間に、両者の当接を緩衝する緩衝部材を設けてある。緩衝部材は、鞘管200に貼り付ける緩衝部材331と、ヒンジ部300に貼り付ける緩衝部材332からなる。この緩衝部材331及び緩衝部材332は、例えば、ゴム、合成樹脂等の可撓性及び弾性を有する部材からなり、鞘管200に対してヒンジ部300が揺動した際に、両者の間における衝撃をやわらげることができる。
【0031】
<ヒンジ構造の設置>
本実施形態に係る切梁のヒンジ構造を設置するには、図3及び図4に示すように、ヒンジ部300の空隙内に中詰めグラウト240(例えば、無収縮モルタル)を充填し、鋼管切梁100の両端部に設けたヒンジ部300に鞘管200を取り付ける。ヒンジ部300に鞘管200を取り付けるには、鞘管200の筒状部210に設けた一対の鞘管側抜落防止部220の間隔(不連続部)を、ヒンジ部300に設けた一対のヒンジ部側抜落防止部320が通過可能な状態とし、ヒンジ部側抜落防止部320を鞘管200に設置した緩衝部材331の手前側へ位置させる。
【0032】
そして、鞘管200とヒンジ部300とを相対的に回転させて、鞘管側抜落防止部220とヒンジ部側抜落防止部320とを対向させた後に、ヒンジ部300の当接部材310が鞘管200の支持部211に当接するまで、ヒンジ部300を鞘管200内に挿入する。
【0033】
また、一対の鋼管矢板400からなる側壁部において、各鋼管矢板400の上部を切断して切欠部410を設けるとともに、両鋼管矢板400が対向する側(地山とは反対側)に、コンクリートを打設して支持架台510を設ける。なお、鋼管矢板400の内部には吊り型枠(図示せず)を設置し、支持架台510と略同一高さとなるように中詰めコンクリート520を打設する。
【0034】
そして、支持架台510の上面に、鞘管200を取り付けた鋼管切梁100を載置し、鞘管200及び鋼管矢板400の上部を覆うようにコンクリートを打設して笠部530を形成し、鋼管矢板400の上部に鋼管切梁100を固定する。その後、詳細には図示しないが、鞘管側抜落防止部220にバックアップ部材340を取り付けるとともにシーリング材を充填して、鞘管200の口元をシーリングする。
【符号の説明】
【0035】
10 ヒンジ構造
100 鋼管切梁
200 鞘管
210 筒状部
211 支持部
220 鞘管側抜落防止部
230 ズレ防止突起
240 中詰めグラウト
300 ヒンジ部
310 当接部材
320 ヒンジ部側抜落防止部
331、332 緩衝部材
340 バックアップ部材
400 鋼管矢板
410 切欠部
500 底盤コンクリート
510 支持架台
520 中詰めコンクリート
530 笠部
図1
図2
図3
図4
図5