特許第6308875号(P6308875)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6308875
(24)【登録日】2018年3月23日
(45)【発行日】2018年4月11日
(54)【発明の名称】オイルセパレータ構造
(51)【国際特許分類】
   F01M 13/04 20060101AFI20180402BHJP
   F01M 13/00 20060101ALI20180402BHJP
   F01M 11/03 20060101ALI20180402BHJP
   F02B 37/00 20060101ALI20180402BHJP
   B01D 45/14 20060101ALI20180402BHJP
【FI】
   F01M13/04 C
   F01M13/00 M
   F01M11/03 J
   F01M13/00 G
   F02B37/00 301F
   B01D45/14
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-113735(P2014-113735)
(22)【出願日】2014年6月2日
(65)【公開番号】特開2015-227638(P2015-227638A)
(43)【公開日】2015年12月17日
【審査請求日】2017年5月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005463
【氏名又は名称】日野自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000512
【氏名又は名称】特許業務法人山田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山崎 敏明
(72)【発明者】
【氏名】河西 広之
【審査官】 種子島 貴裕
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−270524(JP,A)
【文献】 特表2009−526937(JP,A)
【文献】 特開2005−023792(JP,A)
【文献】 特開2012−140876(JP,A)
【文献】 特開2011−021561(JP,A)
【文献】 特開2007−309257(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01M 13/04
B01D 45/14
F01M 11/03
F01M 13/00
F02B 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン側から抜き出されてターボチャージャのコンプレッサの入側に導かれるブローバイガスからオイルミストを分離回収するオイルセパレータ構造であって、前記コンプレッサの吸気取込口の外周に環状チャンバを形成すると共に、該環状チャンバに対しコンプレッサ翼車の入側端外周から加圧初期の吸気の一部を導いて前記環状チャンバ内に旋回流を形成させ且つその吸気を加圧直前の吸気の流れに戻して再循環し得るよう導入口及び排出口を夫々開通し、前記環状チャンバの最低部位に対し前記ブローバイガスを導く流路を接続し、該流路を介し前記環状チャンバ内で遠心分離されたオイルを流下させて回収し得るように構成したことを特徴とするオイルセパレータ構造。
【請求項2】
前記コンプレッサ側に、吸気取込口を環状に取り囲むように形成されて吸気の流れの上流側に向かって開放された環状溝と、該環状溝にコンプレッサ翼車の入側端外周から加圧初期の吸気の一部を導く導入口とから成るリサーキュレーション回路が備えられており、前記コンプレッサに連結される吸気管の終端部内周に、前記環状溝の開放側を排出口を残すように塞いで環状チャンバを画成するバッフルプレートが形成されていることを特徴とする請求項1に記載のオイルセパレータ構造。
【請求項3】
前記環状チャンバの最低部位が、該環状チャンバ内で遠心分離されたオイルを下方向きに落とし込むオイルピットとして前記吸気管側に形成されていることを特徴とする請求項2に記載のオイルセパレータ構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オイルセパレータ構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジンの圧縮行程と爆発行程においてピストンリングの間隙よりクランクケースへ漏れ出るブローバイガスは、クランクケース内及び該クランクケースと連通しているシリンダヘッドカバー内に充満してくるため、これらの内部から外部に抜き出す必要があるが、クランクケース内ではクランク軸及びコネクティングロッド等が高速で動いており、クランクケースと連通するシリンダヘッドカバー内においてもロッカアーム及びバルブ等が作動しているため、クランクケースやシリンダヘッドカバーの内部はオイルミストが充満した状態にある。
【0003】
このため、ブローバイガスをそのまま大気放出してしまうと、該ブローバイガスに混合しているオイルミストも外部へ排出されてしまう虞れがあるため、図2に示す如く、ブローバイガス1中のオイルミストを分離回収するための濾網又はラビリンス構造を内蔵したベンチレータ2(CCV:Closed Crankcase Ventilator)を設け、エンジン3のシリンダヘッドカバー4からガス抜出管5を介して抜き出したブローバイガス1を前記ベンチレータ2を通すことによりオイルミストを分離回収してからガス戻し管6を介して吸気管7に戻し、前記ベンチレータ2で回収したオイル8をオイル回収管9を介し図示しないオイルパンへと戻すようにしている。
【0004】
尚、図2中における10はエアクリーナ、11はターボチャージャ、11aはコンプレッサ、11bはタービン、12はインタークーラ、13は吸気、14は排気ガスを夫々示している。
【0005】
一般的に、前述の如きブローバイガス1をクローズドサーキットで処理するシステムはクローズドブリーザシステムと称されているが、この種のクローズドブリーザシステムに関連する先行技術文献情報としては下記の特許文献1等がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−278523号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、斯かる従来のクローズドブリーザシステムにおいては、ブローバイガス1に含まれるオイルミストをベンチレータ2で分離回収しているものの、該ベンチレータ2でオイルミストを完全に取り切ることは困難であり、取り切れなかった微量のオイルミストがブローバイガス1の流れに随伴して吸気管7に入り込み、該吸気管7の壁面に付着してオイルの液滴となってエアクリーナ10まで流下し、該エアクリーナ10から滴下して地面を汚してしまうという問題があった。
【0008】
特にトラック等の運搬車両では、エアクリーナ10がシャシ付けとなることから低い位置にレイアウトされるケースが多く、吸気管7におけるガス戻し管6の接続箇所からエアクリーナ10にかけての部位が下り勾配となり易かったため、車両を停止して荷の積み卸し作業を行っている間に得意先の敷地内を汚してしまうことがあり、エアクリーナ10からのオイルの滴下を防ぐ対策が求められている。
【0009】
本発明は上述の実情に鑑みてなしたもので、エアクリーナからオイルが滴下して地面を汚してしまう問題を防止し得るオイルセパレータ構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、エンジン側から抜き出されてターボチャージャのコンプレッサの入側に導かれるブローバイガスからオイルミストを分離回収するオイルセパレータ構造であって、前記コンプレッサの吸気取込口の外周に環状チャンバを形成すると共に、該環状チャンバに対しコンプレッサ翼車の入側端外周から加圧初期の吸気の一部を導いて前記環状チャンバ内に旋回流を形成させ且つその吸気を加圧直前の吸気の流れに戻して再循環し得るよう導入口及び排出口を夫々開通し、前記環状チャンバの最低部位に対し前記ブローバイガスを導く流路を接続し、該流路を介し前記環状チャンバ内で遠心分離されたオイルを流下させて回収し得るように構成したことを特徴とするものである。
【0011】
而して、このようにすれば、高速で回転するコンプレッサ翼車により加圧された初期段階の吸気が導入口を介し環状チャンバ内に流入して旋回流を形成する一方、エンジン側から抜き出されたブローバイガスが流路を介し環状チャンバに導入されて前記旋回流に巻き込まれて旋回し、ブローバイガス中に含まれるオイルミストが遠心分離されて前記環状チャンバの壁面に付着して集まり、ここでオイルの液滴となって最低部位まで流れ落ち、該最低部位から更にブローバイガスの流路を流下して図示しないクローズドブリーザシステムのベンチレータ等に回収されることになる。
【0012】
また、本発明においては、前記コンプレッサ側に、吸気取込口を環状に取り囲むように形成されて吸気の流れの上流側に向かって開放された環状溝と、該環状溝にコンプレッサ翼車の入側端外周から加圧初期の吸気の一部を導く導入口とから成るリサーキュレーション回路が備えられており、前記コンプレッサに連結される吸気管の終端部内周に、前記環状溝の開放側を排出口を残すように塞いで環状チャンバを画成するバッフルプレートが形成されていることが好ましい。
【0013】
即ち、コンプレッサ翼車の入側端外周から加圧初期の吸気の一部を抜き出して上流側の加圧直前の吸気の流れに再循環するリサーキュレーション回路を備え、該リサーキュレーション回路を介した吸気の再循環により見掛け上の入側圧力を上げて流量特性を改善(過給効率は低下)するようにしたコンプレッサは従来周知である。
【0014】
そこで、このようなコンプレッサに対しては、吸気管側にバッフルプレートを形成する改造を施して該吸気管を前記コンプレッサに連結すれば、それだけでコンプレッサの吸気取込口の外周に環状チャンバを形成することが可能となり、簡便にブローバイガスからオイルミストを分離回収するオイルセパレータ構造を実現することが可能となる。
【0015】
また、本発明をより具体的に実施するにあたっては、例えば、前記環状チャンバの最低部位が、該環状チャンバ内で遠心分離されたオイルを下方向きに落とし込むオイルピットとして前記吸気管側に形成されていることが好ましく、このようにすれば、ブローバイガスから分離回収したオイルをオイルピットに落とし込んで吸気の旋回流から確実に離脱させることが可能となり、分離回収したオイルが排出口から吸気の再循環流に随伴されて吸気管内へ漏出してしまう事態が未然に防止される。
【発明の効果】
【0016】
上記した本発明のオイルセパレータ構造によれば、下記の如き種々の優れた効果を奏し得る。
【0017】
(I)本発明の請求項1に記載の発明によれば、ブローバイガス中に含まれるオイルミストを環状チャンバ内で遠心分離して最低部位からブローバイガスの流路を流下させて回収して図示しないクローズドブリーザシステムのベンチレータ等に回収することができるので、エアクリーナからオイルが滴下して地面を汚してしまう問題を防止することができる。
【0018】
(II)本発明の請求項2に記載の発明によれば、リサーキュレーション回路を予め備えた既存のコンプレッサをそのまま流用し、バッフルプレートを形成する改造を施した吸気管を前記コンプレッサに連結するだけでコンプレッサの吸気取込口の外周に環状チャンバを形成することができるので、簡便にブローバイガスからオイルミストを分離回収するオイルセパレータ構造を実現することができ、コンプレッサ側のハウジング構造を変更するといった大掛かりな改造が不要となって実施コストの高騰を回避することができる。
【0019】
(III)本発明の請求項3に記載の発明によれば、ブローバイガスから分離回収したオイルをオイルピットに落とし込んで吸気の旋回流から確実に離脱させることができるので、分離回収したオイルが排出口から吸気の流れに随伴されて吸気管内へ漏出してしまう事態を未然に防止することができ、より一層確実にエアクリーナからのオイルの滴下を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明を実施する形態の一例を示す断面図である。
図2】クローズドブリーザシステムの一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。
【0022】
図1は本発明を実施する形態の一例を示すもので、図2と同一の符号を付した部分は同一物を表わしている。
【0023】
図1に示す如く、本形態例においては、図2の場合と同様に、エンジン3(図2参照)側から抜き出したブローバイガス1をガス戻し管6(流路)を介しターボチャージャ11のコンプレッサ11aの入側に導くようになっているが、該コンプレッサ11aの吸気取込口15の外周に環状チャンバ16が形成されており、該環状チャンバ16の最低部位に対し前記ガス戻し管6が下方から上り勾配を維持したまま接続され、該ガス戻し管6を介し前記環状チャンバ16内で遠心分離されたオイル8が流下されて図示しないベンチレータ(図2参照)に回収されるようになっている。
【0024】
即ち、前記環状チャンバ16には、コンプレッサ翼車17の入側端外周から加圧初期の吸気13の一部を導いて前記環状チャンバ16内に旋回流を形成させる導入口18と、その吸気13を加圧直前の吸気13の流れに戻して再循環させる排出口19とが夫々開通されるようにしてあり、前記環状チャンバ16に導入されたブローバイガス1が、前記旋回流に巻き込まれて旋回することでオイルミストを遠心分離されるようになっている。
【0025】
尚、ここに図示している例では、コンプレッサ翼車17の入側端外周から加圧初期の吸気13の一部を抜き出して上流側の加圧直前の吸気13の流れに再循環するリサーキュレーション回路20を備えたコンプレッサ11aに適用した場合を例示しており、吸気13の再循環により見掛け上の入側圧力を上げて流量特性を改善(過給効率は低下)し得るようにしてある。
【0026】
斯かるリサーキュレーション回路20を備えたコンプレッサ11aは従来周知であり、この種のコンプレッサ11aのハウジングには、吸気取込口15を環状に取り囲むように形成されて吸気13の流れの上流側に向かって開放された環状溝21と、該環状溝21にコンプレッサ翼車17の入側端外周から加圧初期の吸気13の一部を導く前記導入口18とが備えられており、これら環状溝21と導入口18とにより前記リサーキュレーション回路20が構成されている。
【0027】
そこで、前記コンプレッサ11aに連結される吸気管7の終端部内周に、前記環状溝21の開放側を排出口19を残すように塞いで環状チャンバ16を画成するバッフルプレート22を新たに形成し、リサーキュレーション回路20を予め備えた既存のコンプレッサ11aをそのまま流用し、バッフルプレート22を形成する改造を施した吸気管7を前記コンプレッサ11aに連結するだけでコンプレッサ11aの吸気取込口の外周に環状チャンバ16が形成されるようにしている。
【0028】
また、特に本形態例においては、前記環状チャンバ16の最低部位が、該環状チャンバ16内で遠心分離されたオイルを下方向きに落とし込むオイルピット23として前記吸気管7側に形成されており、このオイルピット23の底部にブローバイガス1のガス戻し管6を接続するようにしている。
【0029】
而して、このようにすれば、高速で回転するコンプレッサ翼車17により加圧された初期段階の吸気13が導入口18を介し環状チャンバ16内に流入して旋回流を形成する一方、エンジン側から抜き出されたブローバイガス1がガス戻し管6を介し環状チャンバ16に導入されて前記旋回流に巻き込まれて旋回し、ブローバイガス1中に含まれるオイルミストが遠心分離されて前記環状チャンバ16の壁面に付着して集まり、ここでオイルの液滴となって最低部位まで流れ落ち、該最低部位から更にブローバイガス1のガス戻し管6を流下して図示しないクローズドブリーザシステムのベンチレータ等に回収されることになる。
【0030】
従って、上記形態例によれば、ブローバイガス1中に含まれるオイルミストを環状チャンバ16内で遠心分離して最低部位からブローバイガス1のガス戻し管6を流下させて回収して図示しないクローズドブリーザシステムのベンチレータ等に回収することができるので、図示しないエアクリーナ(図2参照)からオイル8が滴下して地面を汚してしまう問題を防止することができる。
【0031】
更に、リサーキュレーション回路20を予め備えた既存のコンプレッサ11aをそのまま流用し、バッフルプレート22を形成する改造を施した吸気管7を前記コンプレッサ11aに連結するだけでコンプレッサ11aの吸気取込口15の外周に環状チャンバ16を形成することができるので、簡便にブローバイガス1からオイルミストを分離回収するオイルセパレータ構造を実現することができ、コンプレッサ11a側のハウジング構造を変更するといった大掛かりな改造が不要となって実施コストの高騰を回避することができる。
【0032】
また、ブローバイガス1から分離回収したオイル8をオイルピット23に落とし込んで吸気13の旋回流から確実に離脱させることができるので、分離回収したオイル8が排出口19から吸気13の流れに随伴されて吸気管7内へ漏出してしまう事態を未然に防止することができ、より一層確実にエアクリーナからのオイル8の滴下を防止することができる。
【0033】
尚、本発明のオイルセパレータ構造は、上述の形態例にのみ限定されるものではなく、コンプレッサのハウジング側に環状チャンバと導入口及び排出口を予め設けておくことも可能であること、その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0034】
1 ブローバイガス
3 エンジン
6 ガス戻し管(流路)
7 吸気管
8 オイル
11 ターボチャージャ
11a コンプレッサ
13 吸気
15 吸気取込口
16 環状チャンバ
17 コンプレッサ翼車
18 導入口
19 排出口
20 リサーキュレーション回路
21 環状溝
22 バッフルプレート
23 オイルピット(最低部位)
図1
図2