(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
[第1実施形態]
本発明に係る抄造機の第1実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0013】
図1は、本発明に係る抄造機の一実施形態を示す全体的な構成図である。
図2は、第1実施形態におけるシート状調整装置50を側面から見た説明図である。
図3は、第1実施形態におけるシート状調整装置50を上方から見た説明図である。
図3においては、8枚あるシート片51のうち、左右5枚のみが使用されており、その他の3枚は使用されていない状態であるため仮想線にて示される。
【0014】
抄造機1aは、例えば住宅用建材であるサイディングボード、シリカボード、パルプボード、セメントボードなどの板材を製造する際の抄造工程で用いられるものである。抄造機1aは、長網式抄造機であり、コンベア装置2と、原料供給槽3と、巻取ローラー4とを有する。
【0015】
コンベア装置2は、例えばフェルトや金網で構成された抄造ベルト10を有し、抄造体を搬送する。この抄造ベルト10は、原料供給槽3の吐出口12(
図2参照)の下方に設けられたブレストロール16と、このブレストロール16と所定の間隔で設けられたボトムクーチロール17との間にループ状に架設される。
【0016】
コンベア装置2は、吐出口12近傍から抄造ベルト10の搬送方向に向かって、登り傾斜を有する抄造ゾーン18を備える。抄造ベルト10は、抄造ゾーン18に吐出されたスラリー15を貯留しながら搬送する。抄造ゾーン18の両側には、
図3に示すように、側板19が設けられる。また、抄造ゾーン18には、抄造ベルト10を介して原料とは反対側に吸引ボックス20が設けられる。吸引ボックス20は、真空吸引装置などを備え、抄造ベルト10を介して抄造体5aの水分を吸引する。なお、図示しないが、吸引ボックスは抄造ゾーン18以外にも設けられる。
【0017】
原料供給槽3は、抄造ゾーン18の手前側に配置され、原料のスラリー15を貯留する。すなわち、抄造機1aは、抄造ベルト10の搬送方向に沿ってスラリー(原料)を供給する順流式抄造機である。原料供給槽3内には、
図2に示すように、スラリー15の沈殿を防止するアジテーター21(攪拌機)が設けられる。なお、アジテーター21は、省略可能である。また、原料供給槽3は、吐出口12を介して抄造ゾーン18へスラリー15を供給する。吐出口12から抄造ゾーン18へのスラリー15の供給量を調整するため、原料供給槽3は上下動可能な仕切板13を有する。原料(スラリー)は、例えば水と、セメントなどの鉱物材料と、パルプなどの繊維材料との混合物、または主としてパルプと水との混合物である。
【0018】
巻取ローラー4は、コンベア装置2の搬送方向下流側に、回転可能に設けられる。巻取ローラー4は、コンベア装置2上で搬送された抄造体5aを巻き取るために設けられる。巻取ローラー4近傍には、所定の層数の巻き取りが完了した抄造体5bを切断するカッターなどの切断装置25が配置される。巻取ローラー4の下流側には、さらに移送ベルト31を有するコンベア装置30が設けられる。巻取ローラー4から切断された抄造体5cは移送ベルト31上で次工程へ移送される。
【0019】
第1実施形態における抄造機1aは、厚み測定装置40を有する。厚み測定装置40は、抄造ベルト10上で抄き上げられ形成された抄造体5cの略幅方向(コンベア装置2、30の搬送方向に略直交する方向)の厚み(幅方向複数箇所の厚み)を測定する。厚み測定装置40には、非接触の光学式、静電容量式など種々の形式を利用することができる。厚み測定装置40により測定された厚み情報は、コントローラー41へ送信される。コントローラー41は、厚み情報に基づいてシート状調整装置50を制御する。
【0020】
コントローラー41とシート状調整装置50とは、抄き上げ量調整装置として設けられる。抄き上げ量調整装置は、厚み測定装置40で測定された抄造体5cの略幅方向の厚みに応じて、抄造ベルト10に抄き上げられる固形分の量を略幅方向において減少させる。
【0021】
シート状調整装置50は、抄造ベルト10の幅方向に複数に分割されたシート片51で抄造ゾーン18における抄造ベルト10の少なくとも一部を覆う。これにより、シート状調整装置50は、抄造ベルト10に抄き上げられる抄造体5aの量を減少させる。シート状調整装置50は、コントローラー41により制御されることにより、巻取部52によりシート片51ごとに使用量の調整(巻き出しまたは巻き取り)が可能である。シート片51は、例えば吐出口12から抄造ゾーン18の搬送方向長さ50%程度まで巻き出されるのが好ましい。
【0022】
シート片51は、例えば鋼材、樹脂材、布材などのシート状部材であり、原料を通過させないものであっても、ある程度の原料を通過させるもの(例えばメッシュ状)であってもよい。
【0023】
次に、第1実施形態における抄造機1aの作用について説明する。
【0024】
原料供給槽3にスラリー15が貯留された状態で、抄造ベルト10を走行させる。例えば、一般的な抄造速度は30〜150m/minである。原料供給槽3のスラリー15は、抄造ベルト10の走行およびスラリー15の水頭差(水圧)により、抄造ゾーン18に供給される。スラリー15の重力および吸引ボックス20による吸引により、スラリー15中の固形分は、抄造ベルト10表面に抄造体5aとして付着する(抄かれる)。その際、スラリー15中の大部分の水分は、吸引ボックス20内から外部へ排出される。抄造体5aの厚みは、例えば1〜3mmである。
【0025】
抄造ベルト10に付着した抄造体5aは、抄造ベルト10により搬送され、連続的に送られる。抄造体5aは巻取ローラー4まで送られたところで、この巻取ローラー4に巻き取られる。巻取ローラー4に巻き取られた抄造体5bは所定の厚みのタイミングで、切断装置によって巻取ローラー4から剥離され切断される。切断された抄造体5cは、移送ベルト31により移送される。
【0026】
このように形成された抄造体5cは、移送ベルト31上において厚み測定装置40により測定され、抄造体5cの略幅方向の厚み情報が得られる。コントローラー41は、厚み情報を取得し、シート状調整装置50を制御する。すなわち、分割された複数のシート片51ごとに抄造ベルト10表面を覆うことにより、抄造ベルト10表面の面積を小さく変化させたり、抄造ベルト10に付着した抄造体5aを削り取ったりすることにより、抄造ベルト10に抄き上げられる固形分の量を調整する。また、シート片51がメッシュ状の場合には、シート片を通過したスラリーは抄き上げられるが、このような場合であってもシート片51により抄き上げに対する抵抗を増加させることにより、固形分の量を調整する。なお、シート片51は、巻取部52から巻き出された後、抄造ベルト10の走行に伴い抄造ベルト10上にて搬送されるため、好適に抄造ベルト10上を覆うことができる。
【0027】
コントローラー41は、固形分の量を、抄造ベルト10表面を覆うシート片51の種類(位置)および枚数や、巻取部52の巻出量(抄造ベルト10を覆う面積)により調整する(少なくする)。
【0028】
例えば、コントローラー41は、抄造体5cの幅方向中央の厚みが両端と比べて0.2mm小さいと判断した場合、予め実験的に求められデータベースに記録された調整量に基づいて、抄造ベルト10を覆うシート片51を決定し巻出量を決定する。例えば中央以外(両端部)のシート片51の巻出量が調整されるのが好ましい。抄造体5cの中央部分と両端との厚みの差は、連続的に変化する。このため、常にコントローラー41の制御によりシート片51の巻出量も変化するのが好ましい。
【0029】
シート状調整装置50が作用することにより、抄造ベルト10に抄き上げられるスラリー15中の固形分の量が調整され、抄造体5cに生じる幅方向の厚みのばらつきが解消され、平滑な完成品としての板材が得られる。
【0030】
このような第1実施形態における抄造機1aは、時間とともに変化する抄造体5cの幅方向厚みのばらつきをリアルタイムに得て、抄造ベルト10における抄き上げ量を調整することができる。
【0031】
従来であれば、抄造体5cに生じた幅方向の厚みのばらつきは、プレス加工したり、サンダーで削ったりして最終的に調整していた。このため、厚みを均一化するために原料や製造エネルギーなどの無駄が生じていた。これに対し、第1実施形態における抄造機1aは、きめ細かく抄造量の調整ができ、最終的に得られる抄造体5cの幅方向の厚みを均一にすることができる。
【0032】
なお、シート状調整装置50には、スラリー15の固形分が付着する可能性がある。スラリー15の固形分が付着した場合、コントローラー41により決定された所望の調整量に対して誤差が出る可能性がある。これを解消するため、シート状調整装置50は、清掃手段を備えてもよい。清掃手段は、例えば、シート状調整装置50の各シート片51に付着した固形分を掻き取るドクター装置(ヘラ)やシャワー(水)である。
【0033】
なお、シート状調整装置50は、シート片51の巻き出しおよび巻き取りを、原料供給槽3手前ではなく他の位置から行ってもよい。
【0034】
例えば、
図4は、第1実施形態の変形例としての抄造機1bのシート状調整装置50を側面から見た説明図である。第1実施形態と対応する構成および部分については同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0035】
図4に示すシート状調整装置50は、シート片51ごとに使用量の調整(巻き出しまたは巻き取り)を行う巻取部52を、原料供給槽3の上方に備える。このように、シート片51が抄造ベルト10表面を覆うことができれば、シート状調整装置50の構成は限定されない。また、シート状調整装置50は、板状のシート片51を動力源を用いて押し出したり、引き戻したりすることにより、抄造ベルト10表面を覆ってもよい。
【0036】
また、シート状調整装置50は、順流式または逆流式単層抄造機にも適用してもよい。
【0037】
例えば、
図5は、第1実施形態の他の変形例としての抄造機1cを示す全体的な構成図である。
【0038】
抄造機1cは、原料のスラリー15を抄造ベルト10の搬送方向とは逆方向に供給する形式の逆流式単層抄造機である。抄造機1aが巻取ローラー4で複数層の抄造体5aを巻き取ることにより多層の抄造体5bを形成するのに対し、抄造機1cは抄造ゾーン18から送られた連続した単層の抄造体5aが、所定のタイミングで切断装置(図示せず)により切断されて抄造体5cを形成する。抄造速度は、例えば5〜20m/min、抄造体5a、5cの厚みは、例えば5〜30mmである。その他の構成は、抄造機1aとほぼ同様であるため、対応する構成および部分については同一の符号を付し、重複する抄造機1cの説明は省略する。
【0039】
他の変形例としての抄造機1cも、上記抄造機1aと同様にきめ細かく抄造量の調整ができ、最終的に得られる抄造体5cの幅方向の厚みを均一にすることができる。
【0040】
[第2実施形態]
本発明に係る抄造機の第2実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0041】
図6は、第2実施形態の抄造機1dの気泡調整装置60を側面から見た説明図である。
図7は、第2実施形態の抄造機1dの気泡調整装置60を上方から見た説明図である。
【0042】
第2実施形態における抄造機1dが第1実施形態における抄造機1aと異なる点は、抄き上げ量調整装置がシート状調整装置50に代えて気泡調整装置60を備える点である。第1実施形態と対応する構成および部分については同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0043】
気泡調整装置60(泡調整装置)は、幅方向に複数設けられたノズル61から抄造ベルト10表面近傍に向けて空気を加圧し気泡62を噴射する。気泡調整装置60は、ノズル61ごとに噴霧された気泡62によりスラリー15中の固形分が抄造ベルト10に付着すること(固形分が近接し抄き上げられること)を抑制する、または付着した固形分を削り取る。これにより、気泡調整装置60は固形分の量を調整する。気泡調整装置60は、ノズル61ごとに気泡62が噴射可能なよう、コントローラー41により制御される。
【0044】
図6および
図7においては、気泡調整装置60は原料供給槽3内の吐出口12手前側に配置される。しかし、気泡調整装置60は、スラリー15の供給方向と気泡噴射方向とが一致していれば、抄造ゾーン18内に配置されてもよい。
【0045】
次に、第2実施形態における抄造機1dの作用について説明する。
【0046】
図1に示すように、形成された抄造体5cは、移送ベルト31上において厚み測定装置40により測定され、抄造体5cの略幅方向の厚み情報が得られる。コントローラー41は、厚み情報を取得し、気泡調整装置60を制御する。すなわち、気泡調整装置60は、所要のノズル61から気泡62を噴射し、抄造ベルト10表面を気泡62で覆うことにより気泡62部分のスラリーの濃度などを変化させる。この結果、気泡調整装置60は、抄造ベルト10へ付着する固形分の量を調整する(少なくする)。
【0047】
コントローラー41は、固形分の量を、抄造ベルト10表面を覆うために気泡62を噴射するノズル61の位置(噴射場所)および使用個数や、気泡62の噴射量、噴射速度、噴射方向などにより調整する。
【0048】
このように気泡調整装置60が作用することにより、抄造ベルト10に抄き上げられるスラリー15中の固形分の量が調整され、抄造体5cに生じている幅方向の厚みのばらつきが解消され、平滑な完成品としての板材が得られる。
【0049】
このような第2実施形態における抄造機1dは、時間とともに変化する抄造体5cの幅方向厚みのばらつきをリアルタイムに得て、抄造ベルト10における抄き上げ量を調整することができる。
【0050】
なお、気泡調整装置60(ノズル61)には、付着したスラリー15の固形分を除去する清掃手段を設けてもよい。清掃手段は、例えば、ノズル61に付着した固形分を除去するブラシや、定期的または任意のタイミングでノズル61より強力に気泡を噴射する機能である。
【0051】
また、泡調整装置は、気泡に代えて水泡を噴射する水泡調整装置であってもよい。また、泡調整装置は、気泡と水泡との混合物を噴射してもよい。さらに、第2実施形態においては、順流式の抄造機1dに気泡調整装置60が設けられた例を説明したが、順流式単層抄造機や逆流式単層抄造機に設けられてもよい。
【0052】
例えば、
図8は、第2実施形態の変形例としての抄造機1eの気泡調整装置60を側面から見た説明図である。
【0053】
逆流式単層抄造機1eの気泡調整装置60は、スラリー15の供給方向とは逆方向に沿って、すなわち抄造ベルト10の搬送方向に沿って気泡を供給する。変形例としての抄造機1eも、上記抄造機1dと同様にきめ細かく抄造量の調整ができ、最終的に得られる抄造体5cの幅方向の厚みを均一にすることができる。
【0054】
なお、気泡調整装置60は、
図6〜
図8に示す配置位置近傍に設けられるのが好ましいが、抄造ゾーン18内に設けられていればこれらに限られない。また、気泡調整装置60は、スラリー15の供給方向に沿って、すなわち逆流式抄造機の場合は抄造ベルト10の搬送方向とは逆方向に沿って気泡を供給するように設けられてもよい。
【0055】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0056】
例えば、第1および第2実施形態の各抄き上げ量調整装置を組み合わせてもよい。
【0057】
厚み測定装置40は、巻取ローラー4上、または巻取ローラー4上流(すなわち抄造ベルト10上)に設けられ、各抄造体(例えば抄造体5a、5b)の厚みを測定してもよい。すなわち、厚み測定装置40の設置位置は、上述した実施形態に限られない。また、厚み測定装置40は、抄造機の一部である必要はない。例えば、抄造機から独立した厚み測定装置を用いて厚み情報を得て、この厚み情報がコントローラー41に提供されてもよい。また、使用者(人間)の視認により厚みを判断し、厚み情報をコントローラー41に入力してもよい。
【0058】
調整量の決定は、予め実験により得られた調整量を厚みのばらつきパターンごとにデータベースに記憶し、得られた厚み情報に応じて記憶された調整量から選択することができる。または、抄き上げ量調整装置に演算装置を設け、得られた厚み情報に応じてリアルタイムに演算し、調整量を決定してもよい。
【0059】
原料供給槽3にスラリー15を供給する供給口は1つであってもよいし、各シート片51や各ノズル61に対応する位置に複数あってもよい。供給口が複数設けられた場合、供給口ごとに原料の濃度や量を調整することができる。これにより、シート片51およびノズル61での抄き上げ量の調整に加えて抄造ゾーン18への原料の供給を供給口ごとに調整することにより、よりきめ細かく抄き上げ量の調整を行うことができる。