(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6308939
(24)【登録日】2018年3月23日
(45)【発行日】2018年4月11日
(54)【発明の名称】起泡性水中油型乳化物用油脂組成物及び起泡性水中油型乳化物
(51)【国際特許分類】
A23D 9/00 20060101AFI20180402BHJP
A23D 7/00 20060101ALI20180402BHJP
A23L 9/20 20160101ALI20180402BHJP
【FI】
A23D9/00 518
A23D7/00 508
A23L9/20
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-500656(P2014-500656)
(86)(22)【出願日】2013年2月12日
(86)【国際出願番号】JP2013053198
(87)【国際公開番号】WO2013125385
(87)【国際公開日】20130829
【審査請求日】2014年4月23日
【審判番号】不服2016-10543(P2016-10543/J1)
【審判請求日】2016年7月12日
(31)【優先権主張番号】特願2012-34761(P2012-34761)
(32)【優先日】2012年2月21日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】315015162
【氏名又は名称】不二製油株式会社
(72)【発明者】
【氏名】井上 朋美
(72)【発明者】
【氏名】田村 純一
(72)【発明者】
【氏名】高野 寛
【合議体】
【審判長】
紀本 孝
【審判官】
中村 則夫
【審判官】
佐々木 正章
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2011/111527(WO,A1)
【文献】
国際公開第2010/007802(WO,A1)
【文献】
国際公開第2010/026928(WO,A1)
【文献】
国際公開第2009/025123(WO,A1)
【文献】
特開2008−86268(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D9/00,A23D7/00,A23L9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パーム系油脂とラウリン系油脂を主成分とする原料を、サーモマイセス ラヌギノーサス(Thermomyces lanuginosus)由来の固定化リパーゼによりエステル交換反応させて得られたエステル交換油脂を含む油脂組成物の製造方法であって、前記エステル交換油脂の構成脂肪酸中のラウリン酸含量が8〜24重量%、該エステル交換油脂中のP2O含量が5〜18重量%、さらに前記P2O中のPPO含量が44.3〜60重量%であり、前記油脂組成物が前記エステル交換油脂を50重量%以上及びラウリン系油脂を10〜50重量%含むことを特徴とする起泡性水中油型乳化物用の油脂組成物の製造方法。
但しP2O含量はPPO含量及びPOP含量の合計量。(PPO:1位及び2位、又は2位及び3位の脂肪酸がパルミチン酸であり、3位、又は1位の脂肪酸がオレイン酸であるトリグリセリド、POP:1位及び3位の脂肪酸がパルミチン酸であり、2位の脂肪酸がオレイン酸であるトリグリセリド、P:パルミチン酸、O:オレイン酸)
【請求項2】
前記ラウリン系油脂がパーム核油由来の油脂である請求項1に記載の油脂組成物の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の製造方法で製造された油脂組成物を使用してなる起泡性水中油型乳化物の製造方法。
【請求項4】
油脂分を10〜50重量%及び水分を40〜80重量%含む請求項3記載の起泡性水中油型乳化物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、起泡性水中油型乳化物に好適に使用することのできるエステル交換油脂を含む油脂組成物に関するものである。また本発明は優れた物性、風味及び食感を有する起泡性水中油型乳化物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
起泡性水中油型乳化物には、一般に乳脂肪及び又は植物性油脂が使用される。植物性油脂の例としては、ヤシ油、パーム核油、パーム油、大豆油、菜種油等及びこれらの硬化油、分別油、エステル交換油、さらにはこれらの混合油等が挙げられる。
【0003】
生クリームや油脂として乳脂肪のみを配合した起泡性水中油型乳化物は、風味の点で他に替えがたい非常に優れたものであるが、起泡(ホイップ)前(液状クリーム)の状態で、品温の上昇や輸送中の振動によって著しい粘度上昇や固化(通称“ボテ”と称せられる)が起こりやすく乳化安定性が悪い。またホイップ後に最適のホイップクリームとなる終点の幅が狭い(ホイップ作業性が悪い)、さらにホイップクリームの保形性も充分ではないという欠点がある。また生クリームや乳脂肪は比較的高価であるから製品コストも高くなるという経済的問題点がある。
【0004】
植物性油脂のうち、ヤシ油やパーム核油等のラウリン系油脂を用いた起泡性水中油型乳化物は、口どけが良い反面、多量に配合すると水中油型乳化物の乳化安定性が低下し、またホイップ後に経時的に堅くなる現象(“シマリ”という)が起こりやすくナッペや絞りの作業性が悪くなるという問題点がある。
【0005】
大豆や菜種の植物硬化油は、起泡性水中油型乳化物において、乳化安定性及びホイップ作業性が良いこと、ホイップクリームにしたときの経時変化が少なくナッペや絞り作業性が良いこと、温度変化に強いことなどにより、頻繁に用いられてきた。しかし、これらの硬化油は、トランス酸(トランス型不飽和脂肪酸)を含有する問題点がある。
【0006】
近年、トランス型不飽和脂肪酸は取りすぎると動脈硬化などの心臓病になるリスクを高めるとの研究結果が得られ、欧米諸国をはじめ、最近ではアジア諸国においても食品販売におけるトランス型不飽和脂肪酸含有量の表示義務化やトランス型不飽和脂肪酸を一定量含む食品の販売規制の動きがある。
日本では従来からトランス型不飽和脂肪酸の摂取量が欧米より低いこともあり、特に健康上の問題となることは少ないとの見方が一般的であったが、最近はトランス型不飽和脂肪酸含有量の表示義務化の動きも出始め、トランス型不飽和脂肪酸の低い油脂が切望されている。
以上のような状況から、起泡性水中油型乳化物においてはトランス型不飽和脂肪酸をできる限り含まないものが切望されている。
【0007】
特許文献1には乳脂とパーム系油脂及びラウリン系油脂のエステル交換油を含み、且つ澱粉素材を含む、物性及び風味に優れ、トランス酸をできるだけ含まない、起泡性水中油型乳化物が記載されている。
【特許文献1】特開2010−22305号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、起泡性水中油型乳化物に使用したときに、乳化安定性が良く、ホイップする際のホイップ作業性及び起泡性に優れ、得られたホイップクリームが外観、保形性、耐離水性、ナッペ及び絞り作業性に優れ、植物性油脂由来でありながら食した際に、生クリームに良く似た口どけ感、乳味感を有する起泡性水中油型乳化物となる起泡性水中油型乳化物用油脂組成物を提供することである。さらにトランス型不飽和脂肪酸をできる限り含まない当該油脂組成物を提供することである。
また、本発明の課題は、乳化安定性が良く、ホイップする際のホイップ作業性及び起泡性に優れ、得られたホイップクリームが外観、保形性、耐離水性、ナッペ及び絞り作業性に優れ、植物性油脂由来でありながら食した際に、生クリームに良く似た口どけ感、乳味感を有する起泡性水中油型乳化物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意研究を行った結果、パーム系油脂とラウリン系油脂を主成分とした原料をリパーゼにてエステル交換し、各成分が特定範囲となるように反応をコントロールして得られたエステル交換油脂を含む油脂組成物を使用した起泡性水中油型乳化物は、驚くべきことに、植物性油脂由来であるにも関わらず、ホイップクリームとして食した際に、生クリームに良く似た口どけ感、乳味感を有すること、しかも生クリームや油脂として乳脂肪のみを配合した起泡性水中油型乳化物の欠点であった乳化安定性や保形性に優れることを見出し本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明の第1の発明は、パーム系油脂とラウリン系油脂を主成分とする原料を、リパーゼによりエステル交換反応させて得られたエステル交換油脂を含む油脂組成物であって、前記エステル交換油脂の構成脂肪酸中のラウリン酸含量が8〜24重量%、該エステル交換油脂中のP2O含量が5〜18重量%、さらに前記P2O中のPPO含量が30〜60重量%であることを特徴とする油脂組成物である。
【0011】
本発明の第2の発明は、前記エステル交換油脂を50重量%以上含む第1の発明の油脂組成物である。
本発明の第3の発明は、前記エステル交換油脂及びラウリン系油脂を含む第1又は第2の発明の油脂組成物である。
【0012】
本発明の第4の発明は、第1〜第3の何れかの発明の油脂組成物を使用してなる起泡性水中油型乳化物である。
本発明の第5の発明は、油脂分を10〜50重量%及び水分を40〜80重量%含む第4の発明の起泡性水中油型乳化物である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、起泡性水中油型乳化物に使用したときに、乳化安定性が良く、ホイップする際のホイップ作業性及び起泡性に優れ、得られたホイップクリームが外観、保形性、耐離水性、ナッペ及び絞り作業性に優れ、植物性油脂由来でありながら食した際に、生クリームに良く似た口どけ感、乳味感を有する起泡性水中油型乳化物となる起泡性水中油型乳化物用油脂組成物を提供することが可能になった。
さらに本発明によれば、トランス型不飽和脂肪酸をできる限り含まない当該油脂組成物を提供することが可能になった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明のエステル交換油脂の原料はパーム系油脂とラウリン系油脂を主成分とする。
パーム系油脂としては例えば、パーム油、パーム油を分別して得られるパームステアリ
ン、パームオレイン等の分別油、及びこれらの硬化油等が挙げられ、これらから選ばれる
1種又は2種以上を用いることができ特に、ホイップクリームに保形性を付与しやすい点で、パーム系油脂は、パーム油、パームステアリン、パーム油とパームステアリンの混合油であることが好ましい。
【0015】
ラウリン系油脂としては例えば、ヤシ油、パーム核油、これらを分別して得られるパー
ム核オレイン、パーム核ステアリン等の分別油、及びこれらの硬化油等が挙げられ、これ
らから選ばれる1種又は2種以上を用いることができ特に、起泡性水中油型乳化物の乳化安定性の点で、ヤシ油、パーム核油、パーム核オレインが好ましく、さらにホイップクリームが生クリームに良く似た口どけ感、乳味感を有する点でパーム核オレインが最も好ましい。またパーム核オレインは経済性の観点からも好ましい。
【0016】
そして、本発明のエステル交換油脂の原料におけるパーム系油脂及びラウリン系油脂の配合割合は構成脂肪酸中のラウリン酸含量が8〜24 重量%の範囲であれば良いが、この範囲を満たす限りにおいて、これら以外の油脂も使用することができる。例えば、大豆油、なたね油、ひまわり種子油、綿実油、落花生油、米糠油、コーン油、サフラワー油、オリーブ油、カポック油、ゴマ油、月見草油等の植物性油脂ならびに牛脂、豚脂等の動物性油脂、中鎖脂肪酸トリグリセリドが例示でき、上記油脂類の単独又は混合油あるいはそれらの硬化油、分別油、硬化分別油、分別硬化油ならびにエステル交換等を施した加工油脂が使用できる。
【0017】
エステル交換油脂の原料の好ましい態様はパーム系油脂を45〜85重量%、ラウリン系油脂を55〜15重量%含む油脂である。またより好ましくはパーム系油脂を50〜80重量%、ラウリン系油脂を50〜20重量%含む油脂である。さらに好ましくはパーム系油脂を55〜70重量%、ラウリン系油脂を45〜30重量%含む油脂である。またエステル交換油脂の原料の好ましい態様は、パーム系油脂及びラウリン系油脂の配合量の合計が70重量%以上、より好ましくは80重量%以上、さらに好ましくは90重量%以上である。
【0018】
エステル交換油脂の原料において、パーム系油脂としてパーム油、パームステアリン又はパーム油とパームステアリンの混合油、ラウリン系油脂としてヤシ油、パーム核油又はパーム核オレインを用いた場合、パーム系油脂の配合量が85重量%を超え、ラウリン系油脂の配合量が15重量%未満であるとエステル交換油脂を含む油脂組成物を使用した起泡性水中油型乳化物は乳化安定性が悪く、ボテやすいものとなり、ホイップクリームの硬さが変化しやすく、ナッペや絞り作業性が劣り、さらにワキシーな口どけとなる。また逆にパーム系油脂の配合量が45重量%未満、ラウリン系油脂の配合量が55重量%を超えるとホイップクリームの保形性が悪くなる。
【0019】
本発明においてエステル交換反応はリパーゼを触媒として行われる。リパーゼによるエステル交換油脂は、ナトリウムメチラート等の無機触媒を使用した化学的エステル交換油脂に比べ、油脂としての風味に優れ、また特に起泡性水中油型乳化物に使用した際にホイップクリームが生クリームによく似た口どけと乳味を有する点で好ましい。
【0020】
リパーゼはリパーゼ粉末やリパーゼ粉末を珪藻土、シリカ、イオン交換樹脂等の担体に固定化した固定化リパーゼを使用することができる。
【0021】
一般にリパーゼは1.3位特異性の高いエステル交換を触媒するタイプと位置特異性の無いランダムなエステル交換を触媒するタイプがあるが、本発明では後者のタイプが好適に用いられる。具体的にはAlcaligenes sp.由来のリパーゼ(例えば、名糖産業株式会社製のリパーゼQLM,リパーゼPL)やThermomyces lanuginosus由来の固定化リパーゼ(ノボザイム社製のリポザイムTLIM)が挙げられるが、得られたエステル交換油脂を含む油脂組成物を起泡性水中油型乳化物に使用した際にホイップクリームが生クリームによく似た口どけと乳味を有する点で前記リパーゼQLMを用いるのが好ましく、リポザイムTLIMを用いるのがさらに好ましい。
【0022】
本発明のエステル交換油脂は構成脂肪酸中のラウリン酸含量が8〜24重量%である必要がある。また好ましくは8.5〜21重量%であり、さらに好ましくは11〜20重量%である。エステル交換反応前後で構成脂肪酸の組成は基本的に変化しないので、エステル交換反応の原料及び配合比を適切に調整することで、エステル交換油脂の構成脂肪酸中のラウリン酸含量を調整することができる。
エステル交換油脂の構成脂肪酸中のラウリン酸含量が8重量%未満であるとエステル交換油脂を含む起泡性水中油型乳化物は乳化安定性が悪く、ボテやすいものとなり、ホイップクリームの硬さが変化しやすく、ナッペや絞り作業性が劣り、ワキシーな口どけとなる。
エステル交換油脂の構成脂肪酸中のラウリン酸含量が24重量%を超えるとエステル交換油脂を含む起泡性水中油型乳化物はホイップクリームとしての保型性が劣り、口どけが早すぎて生クリームに良く似た口どけにはなりにくい。
【0023】
本発明のエステル交換油脂はエステル交換油脂中のP2O含量が5〜18重量%である必要がある。また好ましくは6〜15重量%であり、さらに好ましくは7〜11重量%である。
本発明のエステル交換油脂は前記P2O中のPPO含量が30から60重量%である必要がある。また好ましくは35〜56重量%であり、さらに好ましくは40〜50重量%である。
エステル交換油脂中のP2O含量が5重量%未満であるとエステル交換油脂を含む起泡性水中油型乳化物はホイップクリームとしての保型性が劣り、口どけが早すぎて生クリームに良く似た口どけにはなりにくい。
エステル交換油脂中のP2O含量が18重量%を超えるとエステル交換油脂を含む起泡性水中油型乳化物は乳化安定性が悪く、ボテやすいものとなり、ホイップクリームの硬さが変化しやすく、ナッペや絞り作業性が劣り、ワキシーな口どけとなる。
一方P2O中のPPO含量が30重量%未満であると乳化安定性が悪く、ボテやすいものとなり、ホイップクリームの硬さが変化しやすく、ナッペや絞り作業性が劣るものとなり、口どけが早すぎて生クリームに良く似た口どけにはなりにくい。
P2O中のPPO含量が60重量%を超えるとホイップクリームの乳味が減少し、ワキシーな口どけとなる。
【0024】
本発明のエステル交換油脂が上記のラウリン酸含量、P2O含量、PPO含量の範囲になるように調整することで、より一層生クリームによく似た口どけと乳味の点で優れたホイップクリームとなるので、適切なリパーゼ触媒、反応に使用するリパーゼ触媒の量及び反応時間の調整が望ましい。また温度、PH、などの反応条件も適宜調整するのが好ましい。
【0025】
得られたエステル交換油脂はそれ以外の油脂を配合して、起泡性水中油型乳化物用油脂組成物とすることができる。それ以外の油脂としては特に限定されないが、ラウリン系油脂であると、ホイップクリームとしての口どけが良くなるので望ましい。ラウリン系油脂の好ましい配合量は起泡性水中油型乳化物用油脂組成物中の10〜50重量%、さらに好ましくは20〜40重量%である。
【0026】
前記ラウリン系油脂としては例えば、ヤシ油、パーム核油、これらを分別して得られるパーム核オレイン、パーム核ステアリン等の分別油、及びこれらの硬化油等が挙げられ、これらから選ばれる1種又は2種以上を用いることができる。
また前記ラウリン系油脂としては、パーム核油由来の油脂を用いるのが、ホイップクリームのナッペ及び絞りの作業性及び生クリームに良く似た乳味感を有する点で望ましい。
【0027】
本発明で”起泡性水中油型乳化物”とは、上記油脂組成物、蛋白質、水などの基礎原料を、乳化剤などを併用して水中油型の乳化物とした起泡性を有するクリーム状物質でありホイップ用クリーム”と呼ばれたりもする。これを泡立器具、又は専用のミキサーを用いてホイップさせたとき、俗に”ホイップド・クリーム”又は”ホイップクリーム”と称されるものになる。
【0028】
本発明の起泡性水中油型乳化物は本発明の油脂組成物を10〜50重量%、水分を40〜80重量%含有する。
【0029】
蛋白質としては、通常無脂乳固形分由来の蛋白質が多く利用される。無脂乳固形分は、水中油型乳化物への乳味感付与の他に起泡性水中油型乳化物としての乳化安定生の点においても必要である。これらの無脂乳固形分としては、脱脂粉乳、全脂粉乳、生クリーム、牛乳、加糖練乳などが例示できる。その他の蛋白質としては、カゼイン、ラクトアルブミン、植物性蛋白質なども使用できる。また、脱脂粉乳あるいは全脂粉乳は、これらの粉乳をメイラード処理したものを用いても良い。このような無脂乳固形分を水中油型乳化物全体に対し、1〜15重量%、好ましくは3〜8重量%使用する。
【0030】
さらに、起泡性水中油型乳化物には、公知の合成クリーム類に用いられる乳化剤、各種塩類、安定剤、香料などを共存させることもできる。例えば、乳化剤には、大豆レシチン、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルなど、塩類には、リン酸のアルカリ金属塩、クエン酸のアルカリ金属塩など、安定剤には、キサンタンガム、グアールガムなどを適量使用することができる。
【0031】
本発明の起泡性水中油型乳化物は、通常のフィルドクリーム、又はイミテーションクリーム類の製造工程に準じて作成でき、また必要に応じて殺菌することができる。殺菌に前後して均質化処理もしくは攪拌処理することができ、均質化は前均質、後均質のどちらか一方でも、両者を組み合わせた二段均質でもどちらでもよい。
【0032】
このようにして得られた起泡性水中油型乳化物は、通常のデコレーションケーキなどのナッペ、造花用のクリームをはじめ、パン、菓子類のフィリング材として使用できる。
【実施例】
【0033】
以下に本発明の実施例を示して本発明をより詳細に説明するが、本発明の精神は以下の実施例に限定されるものではない。なお、例中、%及び部は、何れも重量基準を意味する。
【0034】
(エステル交換油脂の調製)
(エステル交換油脂A)
原料として、パーム油(ヨウ素価;52)50部、パーム核オレイン(ヨウ素価;25)50部を混合した後、減圧脱水により水分を100ppmに調整した。さらにノボザイムズ社製の固定化リパーゼ「Lipozymes TL−IM」を1重量%添加し、反応温度70℃で反応時間35時間、密閉容器中で攪拌によりエステル交換反応を行った後、濾過によって固定化リパーゼを除去し、通常の精製を施して、エステル交換油脂Aを得た。
【0035】
(エステル交換油脂B)
原料として、パーム油(ヨウ素価;52)60部、パーム核オレイン(ヨウ素価;25)40部を混合した後、減圧脱水により水分を100ppmに調整した。さらにノボザイムズ社製の固定化リパーゼ「Lipozymes TL−IM」を1重量%添加し、反応温度70℃で反応時間20時間、密閉容器中で攪拌によりエステル交換反応を行った後、濾過によって固定化リパーゼを除去し、通常の精製を施して、エステル交換油脂Bを得た。
【0036】
(エステル交換油脂C)
反応時間を35時間とした以外はエステル交換油脂Bと同様にしてエステル交換油脂Cを得た。
(エステル交換油脂D)
反応時間を70時間とした以外はエステル交換油脂Bと同様にしてエステル交換油脂Dを得た。
(エステル交換油脂E)
原料として、パーム油(ヨウ素価;52)80部、パーム核オレイン(ヨウ素価;25)20部を混合したものを用いたこと及び反応時間を33時間とした以外はエステル交換油脂Bと同様にしてエステル交換油脂Eを得た。
【0037】
(エステル交換油脂F)
原料として、パーム油(ヨウ素価;52)60部、パーム核オレイン(ヨウ素価;25)40部を混合した後、減圧脱水により水分を100ppmに調整した。ノボザイムズ社製の固定化リパーゼ「Lipozymes TL−IM」をカラムに45g充填し、前記の脱水油を流量120g/時間、反応温度70℃で通液することによりエステル交換反応を行った。さらにエステル交換反応された油脂に通常の精製を施して、エステル交換油脂Fを得た。
【0038】
(エステル交換油脂G)
固定化リパーゼに、「Lipozymes TL−IM」に替えて、「リパーゼQLM」(名糖産業株式会社製)を用いたこと及び反応時間を27時間とした以外はエステル交換油脂Bと同様にしてエステル交換油脂Gを得た。
【0039】
(エステル交換油脂H)
原料として、パームステアリン(ヨウ素価;31)60部、パーム核オレイン(ヨウ素価;25)40部を混合したものを用いたこと及び反応時間を35時間とした以外はエステル交換油脂Bと同様にしてエステル交換油脂Hを得た。
(エステル交換油脂I)
原料として、パーム油(ヨウ素価;52)60部、パーム核油(ヨウ素価;18)40部を混合したものを用いたこと及び反応時間を35時間とした以外はエステル交換油脂Bと同様にしてエステル交換油脂Iを得た。
(エステル交換油脂J)
原料として、パームステアリン(ヨウ素価;31) 60部、パーム核油(ヨウ素価;18)40部を混合したものを用いたこと及び反応時間を35時間とした以外はエステル交換油脂Bと同様にしてエステル交換油脂Jを得た。
(エステル交換油脂K)
原料として、パーム油(ヨウ素価;52)60部、ヤシ油(ヨウ素価;8.5)40部を混合したものを用いたこと及び反応時間を35時間とした以外はエステル交換油脂Bと同様にしてエステル交換油脂Kを得た。
【0040】
(エステル交換油脂L)
原料として、パーム油(ヨウ素価;52)40部、パーム核オレイン(ヨウ素価;25)60部を混合したものを用いたこと及び反応時間を35時間とした以外はエステル交換油脂Bと同様にしてエステル交換油脂Lを得た。
(エステル交換油脂M)
反応時間を12時間とした以外はエステル交換油脂Bと同様にしてエステル交換油脂Mを得た。
(エステル交換油脂N)
反応時間を110時間とした以外はエステル交換油脂Bと同様にしてエステル交換油脂Nを得た。
(エステル交換油脂O)
原料として、パーム油(ヨウ素価;52)90部、パーム核オレイン(ヨウ素価;25)10部を混合したものを用いたこと及び反応時間を30時間とした以外はエステル交換油脂Bと同様にしてエステル交換油脂Oを得た。
【0041】
(エステル交換油脂P)
原料として、パーム油(ヨウ素価;52)60部、パーム核オレイン(ヨウ素価;25)40部を混合した後、触媒としてナトリウムメチラートを混合油に対して0.3重量%添加し、80℃、真空度20Torr、40分間非選択的エステル交換反応を行った後、水洗、脱水し、通常の精製工程を経てエステル交換油脂Pのエステル交換油脂を得た。
【0042】
得られたエステル交換油脂A〜Pの原料配合及び組成分析値を表1に示す。なおP2O含量及びPPO含量については下記の測定方法を用いた。
(油脂中のP2O含量及びPPO含量の測定方法)
油脂中のP2O含量は、下記に示す高速液体クロマトグラフ分析(1)にてPPO含量及びPOP含量の合計量として測定し求めることができる。さらに対照型、非対称型トリグリセリド組成の比を薄層クロマトグラフ分析(2)にて測定し、(1)の結果に乗ずることでPPO含量及びPOP含量を各々求めることができる。
(1)高速液体クロマトグラフ分析は、(カラム;ODS、溶離液;アセトン/アセトニトリル=80/20、液量;0.9ml/分、カラム温度;25℃、検出器;示差屈折計)にて実施した。
(2)薄層クロマトグラフ分析は、(プレート;硝酸銀薄層プレート、展開溶剤;ベンゼン/ヘキサン/ジエチルエーテル=75/25/2、検出器;デンシトメータ)にて実施した。
【0043】
(実施例1〜12及び比較例1〜6)
エステル交換油脂A〜P 75重量部にパーム核油25重量部を配合し、実施例1〜11及び比較例1〜5の油脂とした。
またエステル交換油脂C 75重量部に硬化ヤシ油25重量部を配合し、実施例12の油脂とした。
さらに不二製油株式会社製「メラノフレッシュ31」(菜種油とパーム油を原料とした融点31℃の硬化油)75重量部にパーム核油25重量部を配合し、比較例6の油脂とした。
なお構成脂肪酸中のトランス型不飽和脂肪酸含量は実施例1〜12及び比較例1〜5の油脂はすべて1重量%以下であり、比較例6の油脂は24重量%であった。
【0044】
(実施例13〜24及び比較例7〜12)
実施例1〜12及び比較例1〜6の油脂を用い、下記に示す手順で実施例13〜24及び比較例7〜12の起泡性水中油型乳化物を調製した。
使用した油脂と調製された起泡性水中油型乳化物の対応表を表2に示す。
【0045】
(起泡性水中油型乳化物の調製)
実施例又は比較例の油脂を40部、レシチン0.2部、ポリグリセリン脂肪酸エステル(HLB 8)0.1部を油相とする。これとは別に水55部に脱脂粉乳5部、ショ糖脂肪酸エステル(HLB 5)0.1部、ヘキサメタリン酸塩0.05部、ミルクフレーバー0.1部を溶解し水相を調製する。
上記油相と水相を65℃で30分間ホモミキサーで攪拌し予備乳化した後、超高温滅菌装置(岩井機械工業(株)製)によって、145℃において4秒間の直接加熱方式による滅菌処理を行った後、5MPaの均質化圧力で均質化して、直ちに5℃に冷却した。冷却後24時間エージングして、起泡性水中油型乳化物を得た。
【0046】
(起泡性水中油型乳化物の評価)
実施例13〜24及び比較例7〜12の起泡性水中油型乳化物を下記の方法で評価した。
評価結果を表3及び表4に示す。
なお実施例13〜24及び比較例7〜12すべてにおいてホイップタイム及びオーバーランはそれぞれ1分〜1分40秒、100〜110の範囲に収まり、ホイップ作業性、起泡性共に良好な結果であった。
【0047】
A 起泡性水中油型乳化物の乳化安定性の評価方法
(1)粘度(cP):起泡性水中油型乳化物の粘度の測定は、B型粘度計(株式会社東京計器製)にて、2号ローター、60rpm、測定温度3〜7℃の条件下で行った。
(2)ボテテスト:100ml容ビーカーに、起泡性水中油型乳化物50gを入れ、20℃ で2時間インキュベートし、その後、重さ7g、直径15mmの球状アルミナセラミックス製ボール4個を入れて、5分間、横型シェーカーを用い、振動させ、起泡性水中油型乳化物のボテの発生の有無を確認した。
【0048】
B 起泡性水中油型乳化物をホイップさせた場合の評価方法
(1)ホイップタイム:起泡性水中油型乳化物1kgに80gのグラニュー糖を加え、ホバードミキサー(HOBART CORPORATION製 MODEL N−5)3速(300rpm)にてホイップし、最適ホイップ状態に達するまでの時間。
(2)オーバーラン:[(一定容積の起泡性水中油型乳化物重量)−(一定容積のホイップ後のホイップクリーム重量)]÷(一定容積のホイップ後のホイップクリーム重量)×10 0
(3)保形性:造花したホイップクリームを15℃で24時間保存した場合の美しさを調べる。優れている順に、「A」、「B」、「C」の三段階にて評価をつけた。
(4)離水:造花したホイップクリームを15℃で24時間保存した場合の美しさを調べる。離水がない場合は「−」、ある場合は「+」の評価をつけた。
(5)ナッペ及び絞り作業性:ホイップしたクリームのナッペや絞りなどの作業のしやすさについて評価した。
A 作業性が良い。
B やや作業性悪いが、使用できる。
C 作業性が悪い。
(6)風味・口どけ:株式会社明治製の生クリームを上記(1)の方法でホイップし、オーバーランを105としたホイップクリームを基準にして、ホイップした水中油型乳化物を食した際に感じる乳味、甘味、後味の嫌味の程度、口溶けを評価した。評価項目の詳細は以下に示す。
乳味、甘味
A ホイップした生クリームによく似た乳味、甘みを強く感じる
B ホイップした生クリームによく似た乳味、甘みをやや感じる
C ホイップした生クリームによく似た乳味、甘みを感じにくい
後味の嫌味
A ホイップした生クリームと同様に、後味の嫌味を感じない
B 後味の嫌味をやや感じる
C 後味の嫌味を感じる
口どけ
ホイップした生クリームとの比較にて評価した。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の起泡性水中油型乳化物用油脂組成物は、乳化安定性が良く、ホイップする際のホイップ作業性及び起泡性に優れ、得られたホイップクリームが外観、保形性、耐離水性に優れ、植物性油脂由来でありながら食した際に、生クリームに良く似た口どけ感、乳味感を有する起泡性水中油型乳化物用の油脂組成物として使用できる。
また本発明の起泡性水中油型乳化物用油脂を使用すれば、乳化安定性が良く、ホイップする際のホイップ作業性及び起泡性に優れ、得られたホイップクリームが外観、保形性、耐離水性、ナッペ及び絞り作業性に優れ、植物性油脂由来でありながら食した際に、生クリームに良く似た口どけ感、乳味感を有する起泡性水中油型乳化物を製造することができる。