特許第6309002号(P6309002)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6309002標的に特異的に結合する少なくとも1つの結合実体を含む抗体Fc領域結合体を作製するための方法およびその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6309002
(24)【登録日】2018年3月23日
(45)【発行日】2018年4月11日
(54)【発明の名称】標的に特異的に結合する少なくとも1つの結合実体を含む抗体Fc領域結合体を作製するための方法およびその使用
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/46 20060101AFI20180402BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20180402BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20180402BHJP
   C12N 9/52 20060101ALI20180402BHJP
【FI】
   C07K16/46ZNA
   C12P21/08
   C12N15/00 A
   C12N9/52
【請求項の数】5
【全頁数】40
(21)【出願番号】特願2015-519057(P2015-519057)
(86)(22)【出願日】2013年6月25日
(65)【公表番号】特表2015-527982(P2015-527982A)
(43)【公表日】2015年9月24日
(86)【国際出願番号】EP2013063259
(87)【国際公開番号】WO2014001325
(87)【国際公開日】20140103
【審査請求日】2016年4月14日
(31)【優先権主張番号】12173876.9
(32)【優先日】2012年6月27日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100114889
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 義弘
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】フェン セバスチャン
(72)【発明者】
【氏名】コペツキ エアハルト
【審査官】 小倉 梢
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/087994(WO,A1)
【文献】 特表平04−501417(JP,A)
【文献】 特表2007−531513(JP,A)
【文献】 PLoS ONE,2011年,Vol. 6, no. 4,e18342, p. 1-6
【文献】 FASEB J.,2011年,Vol. 25,p. 2650-2658
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00 − 15/90
C12P 21/00 − 21/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
WPIDS/WPIX(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組換え抗体Fc領域を第1の構成要素としておよび標的に特異的に結合する少なくとも1つの組換え結合実体を第2の構成要素として含む、抗体Fc領域結合体を、該少なくとも1つの結合実体への該抗体Fc領域の酵素的結合のために黄色ブドウ球菌ソルターゼAを用いて作製するための方法であって、該標的に特異的に結合する結合実体が、Fv、Fab、Fab'、Fab'-SH、F(ab')2、ダイアボディ、直鎖抗体、scFv、scFab、およびdsFvを含む群より選択され、該方法が、
−(a) (i)20個のC末端アミノ酸残基内にアミノ酸配列GnSLPX1TG(SEQ ID NO: 02、n=3であり、かつX1が任意のアミノ酸残基であってよい)を含む、標的に特異的に結合する結合実体と、(ii)少なくともN末端の1つにアミノ酸配列GGCPX4C(SEQ ID NO: 07)もしくはアミノ酸配列GGHTCPX4C(SEQ ID NO: 08)を含み、X4がSもしくはPのいずれかである、抗体Fc領域とを、黄色ブドウ球菌酵素ソルターゼAと共にインキュベートする段階、または
(b) (i)20個のC末端アミノ酸残基内にアミノ酸配列GnSLPX1TG(SEQ ID NO: 02、n=1であり、かつX1が任意のアミノ酸残基であってよい)を含む、標的に特異的に結合する結合実体と、(ii)少なくともN末端の1つにアミノ酸配列GGCPX4C(SEQ ID NO: 07)を含み、X4がSもしくはPのいずれかである、抗体Fc領域とを、黄色ブドウ球菌酵素ソルターゼAと共にインキュベートする段階、ならびに
それによって該抗体Fc領域結合体を作製する段階
を含む、前記方法。
【請求項2】
前記標的に特異的に結合する結合実体が、前記20個のC末端アミノ酸残基内にアミノ酸配列GnSLPX1TGGSGS(SEQ ID NO: 03、n=1たは3であり、かつX1が任意のアミノ酸残基であってよい)を含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記標的に特異的に結合する結合実体が、前記20個のC末端アミノ酸残基内にアミノ酸配列X2GSLPX1TGGSGS(SEQ ID NO: 04、X1が任意のアミノ酸残基であってよい)を含み、X2がグリシン以外の任意のアミノ酸残基であってよいことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記標的に特異的に結合する結合実体が、前記20個のC末端アミノ酸残基内にアミノ酸配列GnSLPX1TGGSGSX3(SEQ ID NO: 05、n=1たは3であり、かつX1が任意のアミノ酸残基であってよい)を含み、X3がアミノ酸配列タグであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記抗体Fc領域が、そのN末端の両方にアミノ酸配列GGCPX4C(SEQ ID NO: 07)を含み、X4がSまたはPのいずれかであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
標的に特異的に結合する少なくとも1つの結合実体を抗体Fc領域に共有結合的に連結するためにトランスペプチダーゼ(例えば、酵素ソルターゼ(Sortase)A)を用いることによってインビトロで抗体Fc領域結合体を酵素的に作製するための方法、ならびに新規の単特異性抗体または二重特異性抗体などの作製のための本方法の使用が、本明細書において報告される。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
モノクローナル抗体は、大きな潜在的治療能力を有し、今日の医療ポートフォリオ(portfolio)において重要な役割を果たしている。この10年の間、製薬業界における顕著な動向は、腫瘍学、慢性炎症性疾患、移植、感染症、循環器内科、または眼科疾患を含む様々な臨床現場に対応する治療物質としてモノクローナル抗体(mAb)および抗体Fc融合ポリペプチド(結晶性断片融合ポリペプチド)を開発することであった(Carter, J.P., Nature Reviews Immunology 6 (2006) 343-357(非特許文献1); Chan, A.C. and Carter, J.P., Nature Reviews Immunology 10 (2010) 301-316(非特許文献2))。
【0003】
治療的抗体の臨床的効率は、主に次の2つの機能性に依拠している:(i)Fvドメインによって媒介される標的特異的結合、および(ii)抗体Fc領域によって媒介されるADCC(antibody-dependent cell-mediated cytotoxicity)、CDC(complement-dependent cytotoxicity)、およびADCP(antibody-dependent cellular phagocytosis)などの免疫介在性エフェクター機能。IgGクラスの免疫グロブリンのFc領域は、ヒンジ領域ならびに2つの定常ドメイン(CH2およびCH3)を含む。Fc領域はまた、新生児型FcRn受容体と相互に作用し、それによって、インビボでの抗体の半減期を決定する。ヒンジ領域は、抗体分子のアームがYに似た構造体を形成して、分子のこの箇所に可動性を与えている領域である。IgGサブクラス(subclass/subclasses)は、ジスルフィド結合の数およびヒンジ領域の長さが異なる。
【0004】
抗体のFc領域に関連付けられているエフェクター機能は、抗体のクラスおよびサブクラスによって異なり、例えば、様々な生物学的応答を引き起こす、細胞上の特異的Fc受容体(FcR)へのFc領域を介した抗体の結合が含まれる(例えば、Jiang, X.-R., et al., Nature Reviews Drug Discovery 10 (2011) 101-110(非特許文献3); Presta, L.G., Current Opinion in Immunology 20 (2008) 460-470(非特許文献4)を参照されたい)。
【0005】
抗体またはFc領域を含む融合ポリペプチドもしくは結合体のヒンジ領域は、抗原結合およびFc領域を介した抗体エフェクター機能などの抗体機能の少なくとも一部分に関与している。抗原結合(特に二価の強力な(avid)抗体結合)は、個々の/天然のヒンジ領域の可動性、長さ、および空間的向きに依存するのに対し、Fc領域を介したエフェクター機能は、抗体のクラスおよびサブクラスに依存している。他のIgG抗体の二価性と比べて、いくつかのヒトIgG4抗体で観察される機能的一価性は、Fc領域の抗原結合特性への関与を示す別の例である。
【0006】
WO 2010/087994(特許文献1)では、連結のための方法およびその使用が報告されている。DOTAキレートに対して高い親和性を有する操作されたタンパク質が、WO 2010/099536(特許文献2)において報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO 2010/087994
【特許文献2】WO 2010/099536
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Carter, J.P., Nature Reviews Immunology 6 (2006) 343-357
【非特許文献2】Chan, A.C. and Carter, J.P., Nature Reviews Immunology 10 (2010) 301-316
【非特許文献3】Jiang, X.-R., et al., Nature Reviews Drug Discovery 10 (2011) 101-110
【非特許文献4】Presta, L.G., Current Opinion in Immunology 20 (2008) 460-470
【発明の概要】
【0009】
トランスペプチダーゼ、例えばソルターゼAによって触媒される酵素的結合反応において、特殊に(specifically)操作されたソルターゼモチーフが特殊に操作されたFc領域と組み合わせて使用された場合、副反応生成物の形成が抑えられ得るか、またはさらになくなり得ることが判明している。
【0010】
特に、
(i)生成物である結合体の内部のLPX1TG(SEQ ID NO: 01)アミノ酸配列を基質として認識することに基づく逆反応、および/または
(ii)行き止まりの加水分解ポリペプチド断片(オリゴグリシン求核剤の代わりに水によってチオアシル−トランスペプチダーゼ中間体が切断されて生成する、LPX1TG認識配列を有していない/が切断されたポリペプチド)の生成は、
(i)少なくともN末端の1つにオリゴグリシン(Gm、m=2、または3、または4、または5)を含む、抗体Fc領域、および
(ii)C末端領域にGnSLPX1TG(SEQ ID NO: 02、n=1、2、または3であり、かつX1は、任意のアミノ酸残基であってよい)アミノ酸配列を含む、標的に特異的に結合する結合実体、例えば、単鎖抗原結合ポリペプチド(例えば、scFv、scFab、およびダルピン(darpin))または多鎖抗原結合ポリペプチド(例えば、dsFvおよびFab抗体断片)
が使用される場合、
酵素的結合反応において減少し得るか、またはさらになくなり得る。
【0011】
さらに、C末端アミノ酸配列およびN末端アミノ酸配列の上記の組合せを用いることによって、より優れた反応収率を得ることができることも判明している。
【0012】
本明細書において報告される1つの局面は、抗体Fc領域を少なくとも1つの結合実体に酵素的に結合させるためにトランスペプチダーゼを用いて、抗体Fc領域を含む第1の組換え構成要素および標的に特異的に結合する少なくとも1つの結合実体を含む第2の組換え構成要素を含む抗体Fc領域結合体を、もっぱら組換えによって作製された開始ポリペプチドから作製するための方法である。
【0013】
1つの態様において、トランスペプチダーゼは、ソルターゼAである。1つの態様において、ソルターゼAは、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus) ソルターゼAである。
【0014】
1つの態様において、結合実体は、ダルピンドメインをベースとする結合実体、アンチカリンドメインをベースとする結合実体、T細胞受容体断片に似たscTCRドメインをベースとする結合実体、ラクダVHドメインをベースとする結合実体、10番目のフィブロネクチン3ドメインをベースとする結合実体、テネイシンドメインをベースとする結合実体、カドヘリンドメインをベースとする結合実体、ICAMドメインをベースとする結合実体、タイチンドメインをベースとする結合実体、GCSF-Rドメインをベースとする結合実体、サイトカイン受容体ドメインをベースとする結合実体、グリコシダーゼ阻害剤ドメインをベースとする結合実体、スーパーオキシドジスムターゼドメインをベースとする結合実体、またはFab断片もしくはscFv断片のような抗体断片より、互いとは無関係に選択される。
【0015】
1つの態様において、標的結合骨格(scaffold)は、ダルピン、ヘモペキシン様分子、およびアンチカリンより選択される。
【0016】
1つの態様において、標的に特異的に結合する結合実体は、抗体、抗体断片、受容体、受容体リガンド、および標的結合骨格より選択され、ただし、受容体リガンドはインクレチン受容体リガンドポリペプチドではないことを条件とする。
【0017】
1つの態様において、抗体断片は、Fv、Fab、Fab'、Fab'-SH、F(ab')2、ダイアボディ、直鎖抗体、scFv、scFab、およびdsFvを含む群より選択される。
【0018】
1つの態様において、受容体は、T細胞受容体断片およびscTCRより選択される。
【0019】
1つの態様において、抗体Fc領域は、少なくとも1つのジスルフィド結合によって連結された2つのポリペプチド鎖を含む。
【0020】
1つの態様において、抗体Fc領域は、ジスルフィド結合された2つの完全長重鎖抗体Fc領域、または2つの重鎖抗体Fc領域断片、または同種の(cognate)完全長軽鎖と対になった完全長抗体重鎖およびジスルフィド結合された完全長重鎖抗体Fc領域、または完全長抗体重鎖Fc領域ポリペプチドにジスルフィド結合された完全長抗体重鎖を含む。
【0021】
1つの態様において、この方法は、以下の段階を含む:
−(i)20個のC末端アミノ酸残基内にアミノ酸配列GnSLPX1TG(SEQ ID NO: 02、n=1、2、または3であり、かつX1が、任意のアミノ酸残基であってよい)を含む、標的に特異的に結合する結合実体、および(ii)少なくともN末端の1つにオリゴグリシンGm(m=1、2、または3)を含む抗体Fc領域を、酵素ソルターゼAと共にインキュベートし、かつそれによって抗体Fc領域結合体を作製する段階。
【0022】
1つの態様において、標的に特異的に結合する結合実体は、20個のC末端アミノ酸残基内にアミノ酸配列
(SEQ ID NO: 03、n=1、2、または3であり、かつX1は、任意のアミノ酸残基であってよい)を含む。
【0023】
1つの態様において、標的に特異的に結合する結合実体は、20個のC末端アミノ酸残基内にアミノ酸配列
(SEQ ID NO: 04、X1は、任意のアミノ酸残基であってよい)を含み、X2は、グリシン以外の任意のアミノ酸残基であってよい。
【0024】
1つの態様において、標的に特異的に結合する結合実体は、20個のC末端アミノ酸残基内にアミノ酸配列
(SEQ ID NO: 05、n=1、2、または3であり、かつX1は、任意のアミノ酸残基であってよい)を含み、X3はアミノ酸配列タグである。
【0025】
1つの態様において、標的に特異的に結合する結合実体は、20個のC末端アミノ酸残基内にアミノ酸配列
(SEQ ID NO: 06、X1は、任意のアミノ酸残基であってよい)を含み、X2は、グリシン以外の任意のアミノ酸残基であってよく、かつX3は、アミノ酸配列タグである。
【0026】
1つの態様において、標的に特異的に結合する結合実体は、C末端アミノ酸残基として、そのC末端にSEQ ID NO: 02、またはSEQ ID NO: 03、またはSEQ ID NO: 04、またはSEQ ID NO: 05、またはSEQ ID NO: 06のアミノ酸配列を含む。
【0027】
1つの態様において、抗体Fc領域は、少なくともそのN末端の1つに、2つのグリシン残基を含む。
【0028】
1つの態様において、抗体Fc領域は、そのN末端の両方に、2つのグリシン残基を含む。
【0029】
1つの態様において、抗体Fc領域は、少なくともそのN末端の1つに、アミノ酸配列GGCPX4C(SEQ ID NO: 07)またはアミノ酸配列GGHTCPX4C(SEQ ID NO: 08)を含み、X4はSまたはPのいずれかである。
【0030】
1つの態様において、抗体Fc領域は、そのN末端の両方に、互いとは無関係に、アミノ酸配列GGCPX4C(SEQ ID NO: 07)またはアミノ酸配列GGHTCPX4C(SEQ ID NO: 08)を含み、X4は、互いとは無関係に、SまたはPのいずれかである。
【0031】
1つの態様において、標的に特異的に結合する結合実体は、第1のエピトープまたは抗原に特異的に結合し、抗体Fc領域は、第1のエピトープまたは抗原とは異なる第2のエピトープまたは抗原に特異的に結合する第2の結合実体を含む。
【0032】
本明細書において報告される1つの局面は、本明細書において報告される方法によって得られる抗体Fc領域結合体である。
【0033】
本明細書において報告される1つの局面は、アミノ酸配列GnSLPX1TGG(SEQ ID NO: 09、n=1、2、または3であり、かつX1は、任意のアミノ酸残基であってよい)を含む抗体Fc領域結合体である。
【0034】
1つの態様において、抗体Fc領域結合体は、アミノ酸配列
(SEQ ID NO: 10、n=1、2、または3)を含み、X1は、任意のアミノ酸残基であってよく、かつX4は、SまたはPのいずれかである。
【0035】
1つの態様において、抗体Fc領域結合体は、アミノ酸配列
(SEQ ID NO: 11)を含み、X1は、任意のアミノ酸残基であってよく、X4は、SまたはPのいずれかであり、かつX2は、グリシン以外の任意のアミノ酸残基であってよい。
【0036】
1つの態様において、抗体Fc領域結合体は、アミノ酸配列
(SEQ ID NO: 12、n=1、2、または3)を含み、X1は、任意のアミノ酸残基であってよく、かつX4は、SまたはPのいずれかである。
【0037】
1つの態様において、抗体Fc領域結合体は、アミノ酸配列
(SEQ ID NO: 13)を含み、X1は、任意のアミノ酸残基であってよく、X4は、SまたはPのいずれかであり、かつX2は、グリシン以外の任意のアミノ酸残基であってよい。
【0038】
1つの態様において、抗体Fc領域結合体は、少なくとも1つのジスルフィド結合によって共有結合的に連結された第1のポリペプチド鎖および第2のポリペプチド鎖を含む。
【0039】
1つの態様において、抗体Fc領域結合体は、完全長抗体重鎖である第1のポリペプチド鎖およびアミノ酸配列
(SEQ ID NO: 10、n=1、2、または3)を含む抗体重鎖である第2のポリペプチド鎖を含み、第1のポリペプチド鎖および第2のポリペプチド鎖は少なくとも1つのジスルフィド結合によって共有結合的に連結されており、X1は、任意のアミノ酸残基であってよく、かつX4は、SまたはPのいずれかである。
【0040】
1つの態様において、抗体Fc領域結合体は、完全長抗体重鎖である第1のポリペプチド鎖およびアミノ酸配列
(SEQ ID NO: 12、n=1、2、または3)を含む抗体重鎖である第2のポリペプチド鎖を含み、第1のポリペプチド鎖および第2のポリペプチド鎖は少なくとも1つのジスルフィド結合によって共有結合的に連結されており、X1は、任意のアミノ酸残基であってよく、かつX4は、SまたはPのいずれかである。
【0041】
1つの態様において、抗体Fc領域結合体は、それぞれがアミノ酸配列
(SEQ ID NO: 12、n=1、2、または3)を含む抗体重鎖である2つのポリペプチド鎖を含み、これら2つのポリペプチド鎖は少なくとも1つのジスルフィド結合によって共有結合的に連結されており、X1は、任意のアミノ酸残基であってよく、かつX4は、SまたはPのいずれかである。
【0042】
すべての局面の1つの態様において、X1はEである。
【0043】
本明細書において報告されるすべての局面の1つの態様において、抗体Fc領域は、ヒト抗体Fc領域またはその変種である。
【0044】
1つの態様において、ヒト抗体Fc領域は、ヒトIgG1サブクラス、またはヒトIgG2サブクラス、またはヒトIgG3サブクラス、またはヒトIgG4サブクラスのものである。
【0045】
1つの態様において、抗体Fc領域は、ヒトIgG1サブクラスまたはヒトIgG4サブクラスのヒト抗体Fc領域である。
【0046】
1つの態様において、ヒト抗体Fc領域は、次のアミノ酸位置:228、233、234、235、236、237、297、318、320、322、329、および/または331のうちの少なくとも1つの天然に存在するアミノ酸残基から異なる残基への変異を含,み、抗体Fc領域中の残基は、KabatのEU指標に従って番号をつけられている。
【0047】
1つの態様において、ヒト抗体Fc領域は、329番目の天然に存在するアミノ酸残基の変異ならびに228、233、234、235、236、237、297、318、320、322、および331番目のアミノ酸残基を含む群より選択される少なくとも1つのアミノ酸残基から異なる残基への少なくとも1つのさらなる変異を含み、Fc領域中の残基は、KabatのEU指標に従って番号をつけられている。これらの特定のアミノ酸残基の変更により、未改変(野生型)Fc領域と比べて、Fc領域のエフェクター機能が変化する。
【0048】
1つの態様において、ヒト抗体Fc領域は、対応する野生型IgG Fc領域を含む結合体と比べて、ヒトFcγRIIIA、および/またはFcγRIIA、および/またはFcγRIに対する親和性が低い。
【0049】
1つの態様において、ヒト抗体Fc領域中の329番目のアミノ酸残基は、グリシンもしくはアルギニン、またはFc領域内のプロリンサンドイッチを消失させるのに十分な大きさのアミノ酸残基で置換されている。
【0050】
1つの態様において、ヒト抗体Fc領域中の天然に存在するアミノ酸残基の変異は、S228P、E233P、L234A、L235A、L235E、N297A、N297D、P329G、および/またはP331Sのうちの少なくとも1つである。
【0051】
1つの態様において、変異は、抗体Fc領域がヒトIgG1サブクラスのものである場合にはL234AおよびL235Aであり、または抗体Fc領域がヒトIgG4サブクラスのものである場合にはS228PおよびL235Eである。
【0052】
1つの態様において、抗体Fc領域は、変異P329Gを含む。
【0053】
1つの態様において、抗体Fc領域は、第1の重鎖Fc領域ポリペプチド中の変異T366Wならびに第2の重鎖Fc領域ポリペプチド中の変異T366S、L368A、およびY407Vを含み、番号付与は、KabatのEU指標に従う。
【0054】
1つの態様において、抗体Fc領域は、第1の重鎖Fc領域ポリペプチド中の変異S354Cおよび第2の重鎖Fc領域ポリペプチド中の変異Y349Cを含む。
[本発明1001]
組換え抗体Fc領域を第1の構成要素としておよび標的に特異的に結合する少なくとも1つの組換え結合実体を第2の構成要素として含む抗体Fc領域結合体を、該少なくとも1つの結合実体への該抗体Fc領域の酵素的結合のためにソルターゼAを用いて作製するための方法。
[本発明1002]
以下の段階を含むことを特徴とする、本発明1001の方法:
−(i)20個のC末端アミノ酸残基内にアミノ酸配列GnSLPX1TG(SEQ ID NO: 02、n=1、2、または3であり、X1が、任意のアミノ酸残基であってよい)を含む、標的に特異的に結合する結合実体、および、(ii)少なくともN末端の1つにオリゴグリシンGm(m=2、3、4、または5)を含む抗体Fc領域を、前記酵素ソルターゼAと共にインキュベートし、かつ
それによって前記抗体Fc領域結合体を作製する段階。
[本発明1003]
標的に特異的に結合する前記結合実体が、前記20個のC末端アミノ酸残基内にアミノ酸配列
(SEQ ID NO: 03、n=1、2、または3であり、かつX1が、任意のアミノ酸残基であってよい)を含むことを特徴とする、前記本発明のいずれかの方法。
[本発明1004]
標的に特異的に結合する前記結合実体が、前記20個のC末端アミノ酸残基内にアミノ酸配列
(SEQ ID NO: 04、X1が、任意のアミノ酸残基であってよい)を含み、X2が、グリシン以外の任意のアミノ酸残基であってよいことを特徴とする、前記本発明のいずれかの方法。
[本発明1005]
標的に特異的に結合する前記結合実体が、前記20個のC末端アミノ酸残基内にアミノ酸配列
(SEQ ID NO: 05、n=1、2、または3であり、かつX1が、任意のアミノ酸残基であってよい)を含み、X3がアミノ酸配列タグであることを特徴とする、前記本発明のいずれかの方法。
[本発明1006]
標的に特異的に結合する前記結合実体が、Fv、Fab、Fab'、Fab'-SH、F(ab')2、ダイアボディ、直鎖抗体、scFv、scFab、dsFvを含む群より選択されることを特徴とする、前記本発明のいずれかの方法。
[本発明1007]
前記抗体Fc領域が、少なくともそのN末端の1つに2つのグリシン残基を含むことを特徴とする、前記本発明のいずれかの方法。
[本発明1008]
前記抗体Fc領域が、少なくともそのN末端の1つにアミノ酸配列GGCPX4C(SEQ ID NO: 07)を含み、X4がSまたはPのいずれかであることを特徴とする、前記本発明のいずれかの方法。
[本発明1009]
前記抗体Fc領域が、そのN末端の両方にアミノ酸配列GGCPX4C(SEQ ID NO: 07)を含み、X4がSまたはPのいずれかであることを特徴とする、前記本発明のいずれかの方法。
[本発明1010]
本発明1001〜1009のいずれかの方法によって得られる、抗体Fc領域結合体。
[本発明1011]
アミノ酸配列
(SEQ ID NO: 09、n=1、2、または3であり、かつX1は、任意のアミノ酸残基であってよい)を含む、抗体Fc領域結合体。
[本発明1012]
本発明1010または1011の抗体Fc領域結合体と、任意で、薬学的に許容される担体とを含む、薬学的製剤。
[本発明1013]
医薬として使用するための、本発明1010または本発明1011の抗体Fc領域結合体。
[本発明1014]
医薬の製造における、本発明1010または本発明1011の抗体Fc領域結合体の使用。
【図面の簡単な説明】
【0055】
図1)ソルターゼAを用いた二価抗体の作製の模式的概要。
図2)結合反応の過程のSDS-page解析。
図3)VH-CH1重鎖Fab断片において3種の異なるC末端アミノ酸配列(それぞれ、
)を含む結合特異性が異なる2種のFab抗体断片とN末端が異なる3種のFc鎖(それぞれ、
)を含む3種の異なる一アーム抗体Fc領域(OA-Fc抗体)とをソルターゼAによって触媒して結合した際の変換(conversion)の比較。
図4)VH-CH1重鎖Fab断片において3種の異なるC末端アミノ酸配列を含む結合特異性が異なる2種のFab抗体断片とN末端が異なる3種のFc鎖を含む3種の異なる一アーム抗体Fc領域(OA-Fc抗体)とをソルターゼAによって触媒して結合した際の変換の、4時点に回数を減らした比較。差が、異なる組合せにのみ基づく、結合特異性に依存しない(すなわち、Fabに依存しない)値を得るために、すべての組合せの値は平均されている。各値は、4つの測定値を含む。
【発明を実施するための形態】
【0056】
発明の態様の詳細な説明
I. 定義
本明細書および特許請求の範囲において、免疫グロブリン重鎖Fc領域中の残基の番号付与は、KabatのEU指標のものである(参照により本明細書に明確に組み入れられるKabat, E.A., et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th ed., Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD (1991), NIH Publication 91-3242)。
【0057】
「改変」という用語は、変種抗体または融合ポリペプチドを得るための、例えば、Fc領域のFcRn結合部分の少なくとも1つを含む抗体または融合ポリペプチドの親アミノ酸配列中の1つまたは複数のアミノ酸残基の変異、付加、または欠失を意味する。
【0058】
「アミノ酸変異」という用語は、親アミノ酸配列のアミノ酸配列中の変更を意味する。例示的な変更には、アミノ酸の置換、挿入、および/または欠失が含まれる。1つの態様において、アミノ酸変異は置換である。「特定の位置におけるアミノ酸変異」という用語は、指定された残基の置換もしくは欠失、または指定された残基に隣接する少なくとも1つのアミノ酸残基の挿入を意味する。「指定された残基に隣接する挿入」という用語は、それから残基1〜2個の範囲内への挿入を意味する。挿入は、指定された残基に対してN末端側またはC末端側でよい。
【0059】
「アミノ酸配列タグ」という用語は、ペプチド結合を介して互いに連結された、特異的な結合特性を有するアミノ酸残基の配列を意味する。1つの態様において、アミノ酸配列タグは、アフィニティータグまたは精製タグである。1つの態様において、アミノ酸配列タグは、Argタグ、Hisタグ、Flagタグ、3×Flagタグ、Strepタグ、Nanoタグ、SBPタグ、c-mycタグ、Sタグ、カルモジュリン結合ペプチド、セルロース結合ドメイン、キチン結合ドメイン、GSTタグ、またはMBPタグより選択される。1つの態様において、アミノ酸配列タグは、
より選択される。
【0060】
「アミノ酸置換」という用語は、異なる「置換」アミノ酸残基による、所定の親アミノ酸配列中の少なくとも1つのアミノ酸残基の置換を意味する。1つまたは複数の置換残基は、「天然に存在するアミノ酸残基」(すなわち遺伝コードにコードされる)でよく、アラニン(Ala);アルギニン(Arg);アスパラギン(Asn);アスパラギン酸(Asp);システイン(Cys);グルタミン(Gln);グルタミン酸(Glu);グリシン(Gly);ヒスチジン(His);イソロイシン(Ile):ロイシン(Leu);リジン(Lys);メチオニン(Met);フェニルアラニン(Phe);プロリン(Pro);セリン(Ser);トレオニン(Thr);トリプトファン(Trp);チロシン(Tyr);およびバリン(Val)からなる群より選択され得る。1つの態様において、置換残基はシステインではない。1つまたは複数の天然に存在しないアミノ酸残基による置換もまた、本明細書におけるアミノ酸置換の定義に包含される。「天然に存在しないアミノ酸残基」とは、ポリペプチド鎖中の隣接したアミノ酸残基に共有結合することができる、上記に挙げた天然に存在するアミノ酸残基以外の残基を意味する。天然に存在しないアミノ酸残基の例には、ノルロイシン、オルニチン、ノルバリン、ホモセリン、aib、およびEllman, et al., Meth. Enzym. 202 (1991) 301-336で説明されているもののような他のアミノ酸残基類似体が含まれる。このような天然に存在しないアミノ酸残基を作製するために、Noren, et al. (Science 244 (1989) 182)および/またはEllman, et al. (前記)の手順を使用することができる。簡単に説明すると、これらの手順は、天然に存在しないアミノ酸残基を用いてサプレッサーtRNAを化学的に活性化し、続いて、RNAをインビトロで転写および翻訳することを含む。また、天然に存在しないアミノ酸は、化学的ペプチド合成を行い、続いて、組換えによって作製したポリペプチド、例えば抗体または抗体断片とこれらのペプチドを融合することによって、ペプチドに組み入れることもできる。
【0061】
「アミノ酸挿入」という用語は、所定の親アミノ酸配列中に少なくとも1つの付加的なアミノ酸残基を組み入れることを意味する。通常、挿入は、1つまたは2つのアミノ酸残基の挿入からなるが、本出願は、より大きな「ペプチド挿入」、例えば、約3個〜約5個またはさらに最高で約10個のアミノ酸残基の挿入を企図する。挿入される残基は、上記に定義したように、天然に存在するものまたは天然に存在しないものでよい。
【0062】
「アミノ酸欠失」という用語は、アミノ酸配列中の所定の位置において少なくとも1つのアミノ酸残基が取り除かれることを意味する。
【0063】
本出願内では、アミノ酸改変に言及する場合は常に、計画的なアミノ酸改変であり、ランダムなアミノ酸変更ではない。
【0064】
「抗体依存性細胞媒介性細胞障害」、略して「ADCC」という用語は、FcRを発現する非抗原特異的細胞障害性細胞(例えば、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)、好中球、およびマクロファージ)が、免疫グロブリンFc領域に結合することによって標的細胞を認識し、続いて、標的細胞の溶解を引き起こす、細胞媒介反応を意味する。ADCCを媒介する主な細胞であるNK細胞は、FcγRIIIのみを発現するが、単球は、FcγRI、FcγRII、およびFcγRIIIを発現する。造血細胞におけるFcR発現は、Ravetch and Kinet, Annu. Rev. Immunol. 9 (1991) 457-492の464頁の表3に要約されている。
【0065】
「抗体依存性細胞性食作用」、略して「ADCP」という用語は、抗体で覆われた細胞の全体または一部のいずれかが、免疫グロブリンFc領域に結合する食作用性免疫細胞(例えば、マクロファージ、好中球、または樹状細胞)の内部に取り入れられるプロセスを意味する。
【0066】
「抗体断片」という用語は、インタクト抗体が結合する抗原に結合するインタクト抗体部分を含む、インタクト抗体以外の分子を意味する。抗体断片の例には、Fv、Fab、Fab'、Fab'-SH、F(ab')2、ダイアボディ、直鎖状抗体、単鎖抗体分子(例えばscFv)、および抗体断片から形成された多重特異性抗体が含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0067】
「Fc受容体への結合」という用語は、例えばBIAcore(登録商標)アッセイ法(Pharmacia Biosensor AB, Uppsala, Sweden)における、Fc受容体へのFc領域の結合を意味する。
【0068】
BIAcore(登録商標)アッセイ法では、Fc受容体が表面に結合され、分析物、例えば、Fc領域を含む融合ポリペプチドまたは抗体の結合が、表面プラズモン共鳴(SPR)によって測定される。結合親和性は、ka(結合定数:Fc領域融合ポリペプチドまたはFc領域結合体が結合してFc領域/Fc受容体複合体を形成する際の速度定数)、kd(解離定数;Fc領域融合ポリペプチドまたはFc領域結合体がFc領域/Fc受容体複合体から解離する際の速度定数)、およびKD(kd/ka)という用語を用いて定義される。あるいは、SPRセンサーグラムの結合シグナルを、共鳴シグナルの高さおよび解離挙動に関して、参照物の応答シグナルと直接比較することもできる。
【0069】
「C1q」という用語は、免疫グロブリンのFc領域に対する結合部位を含むポリペプチドを意味する。C1qは、2種のセリンプロテアーゼC1rおよびC1sと一緒になって、複合体C1、すなわち補体依存性細胞障害(CDC)経路の第1成分を形成する。ヒトC1qは、例えばQuidel, San Diego, Califから市販されているものを購入することができる。
【0070】
「CH2ドメイン」という用語は、おおよそEU位置231番目からEU位置340番目(KabatによるEU番号付与方式)まで伸びる、抗体重鎖ポリペプチドの部分を意味する。1つの態様において、CH2ドメインは、
のアミノ酸配列を有する。CH2ドメインは、別のドメインと接近して対になっていないという点で、独特である。もっと正確に言えば、N結合型分枝状炭水化物鎖2つが、インタクトな天然Fc領域の2つのCH2ドメインの間に介在している。炭水化物が、ドメイン間の対形成のための代用品となり、CH2ドメインを安定化するのに寄与し得ると推測されている。Burton, Mol. Immunol. 22 (1985) 161-206。
【0071】
「CH3ドメイン」という用語は、おおよそEU位置341番目からEU位置446番目まで伸びる、抗体重鎖ポリペプチドの部分を意味する。1つの態様において、CH3ドメインは、
のアミノ酸配列を有する。
【0072】
抗体の「クラス」という用語は、その重鎖が有する定常ドメインまたは定常領域のタイプを意味する。ヒトの抗体には5つの主要なクラス、すなわちIgA、IgD、IgE、IgG、およびIgMがあり、これらの内のいくつかは、サブクラス、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、およびIgA2にさらに分類され得る。異なるクラスの免疫グロブリンに対応する重鎖定常ドメインは、α、δ、ε、γ、およびμとそれぞれ呼ばれる。
【0073】
「補体依存性細胞障害」、略して「CDC」という用語は、標的に結合したFc領域融合ポリペプチドまたはFc領域結合体のFc領域が一連の酵素反応を活性化して、結果的に標的細胞の膜に穴を形成させる、細胞死を誘導するためのメカニズムを意味する。典型的には、抗体に覆われた標的細胞上のもののような抗原-抗体複合体が、補体成分C1qに結合し活性化し、次に、補体成分C1qが、補体カスケードを活性化して、標的細胞の死をもたらす。また、補体の活性化は、標的細胞の表面への補体成分の沈着ももたらす場合があり、これにより、白血球上の補体受容体(例えばCR3)に結合することによってADCCまたはADCPが促進される。
【0074】
「エフェクター機能」という用語は、抗体のサブクラスによって変わる、抗体のFc領域に起因し得る生物学的活性を意味する。抗体エフェクター機能の例には、C1q結合および補体依存性細胞障害(CDC);Fc受容体結合;抗体依存性細胞媒介性細胞障害(ADCC);食作用(ADCP);細胞表面受容体(例えばB細胞受容体)の下方調節;ならびにB細胞活性化が含まれる。このような機能は、例えば、食作用活性もしくは溶解活性を有する免疫細胞上のFc受容体にFc領域を結合させることによって、または補体系の成分にFc領域を結合させることによって、もたらすことができる。
【0075】
「エフェクター機能の低下」という用語は、例えばADCCまたはCDCのような、ある分子に関連した特定のエフェクター機能が、対照分子(例えば、野生型Fc領域を有するポリペプチド)と比較して少なくとも20%低下していることを意味する。「エフェクター機能の大きな低下」という用語は、例えばADCCまたはCDCのような、ある分子に関連した特定のエフェクター機能が、対照分子と比較して少なくとも50%低下していることを意味する。
【0076】
「Fc領域」という用語は、免疫グロブリンのC末端領域を意味する。Fc領域は、ジスルフィド結合されている2つの抗体重鎖断片(重鎖Fc領域ポリペプチド鎖)を含む二量体分子である。Fc領域は、インタクト(完全長)抗体のパパイン消化もしくはIdeS消化、もしくはトリプシン消化によって生成させることができ、または組換えによって作製することができる。
【0077】
完全長抗体または免疫グロブリンから得られるFc領域は、完全長重鎖の少なくとも残基226(Cys)からC末端までを含み、したがって、ヒンジ領域の一部分および2つまたは3つの定常ドメイン、すなわち、CH2ドメイン、CH3ドメイン、ならびにIgEクラス抗体およびIgMクラス抗体の付加的な/追加のCH4ドメインを含む。US5,648,260およびUS5,624,821から、Fc領域中の所定のアミノ酸残基の変更が表現型に影響することが公知である。
【0078】
2つの同一または同一でない抗体重鎖断片を含む二量体Fc領域の形成は、含まれるCH3ドメインの非共有結合的二量体化によってもたらされる(関与するアミノ酸残基については、例えば、Dall'Acqua, Biochem. 37 (1998) 9266-9273を参照されたい)。Fc領域は、ヒンジ領域におけるジスルフィド結合の形成によって共有結合的に安定化されている(例えば、Huber, et al., Nature 264 (1976) 415-420; Thies, et al., J. Mol. Biol. 293 (1999) 67-79を参照されたい)。CH3-CH3ドメインの二量体化相互作用を妨害するためにCH3ドメイン内にアミノ酸残基変化を導入しても、新生児型Fc受容体(FcRn)結合は悪影響を受けない。これは、CH3-CH3ドメインの二量体化に関与している残基の場所はCH3ドメインの内側の境界に位置しているのに対し、Fc領域-FcRn相互作用に関与している残基は、CH2-CH3ドメインの外側に位置しているためである。
【0079】
Fc領域のエフェクター機能に関連している残基は、完全長抗体分子に関して決定される場合、ヒンジ領域、CH2ドメイン、および/または、CH3ドメインに位置している。Fc領域が関連する/媒介する機能は、
(i)抗体依存性細胞障害(ADCC)、
(ii)補体(C1q)の結合、活性化、および補体依存性細胞障害(CDC)、
(iii)抗原-抗体複合体の貪食/クリアランス、
(iv)場合によりサイトカイン放出、ならびに
(v)抗体および抗原-抗体複合体の半減期/クリアランス速度。
【0080】
Fc領域が関連するエフェクター機能は、Fc領域とエフェクター機能に固有の(specific)分子または受容体との相互作用によって開始される。主に、IgG1サブクラスの抗体は受容体活性化をもたらし得るのに対し、IgG2サブクラスおよびIgG4サブクラスの抗体は、エフェクター機能を有していないか、またはエフェクター機能が限定されている。
【0081】
エフェクター機能を惹起する受容体は、Fc受容体タイプ(ならびにサブタイプ)FcγRI、FcγRII、およびFcγRIIIである。IgG1サブクラスに関連付けられているエフェクター機能は、ヒンジ領域下流に、FcγRおよびC1q結合に関与している特定のアミノ酸変化、例えばL234Aおよび/またはL235Aを導入することによって、低下することができる。また、特にCH2ドメインおよび/またはCH3ドメイン中に位置しているある種のアミノ酸残基は、血流中での抗体分子またはFc領域融合ポリペプチドの循環中半減期に関連している。循環半減期は、新生児型Fc受容体(FcRn)へのFc領域の結合に左右される。
【0082】
Fc領域糖鎖構造(glycostructure)上に存在するシアリル残基は、Fc領域の抗炎症媒介性活性(anti-inflammatory mediated activity)に関与している(例えば、Anthony, R.M., et al. Science 320 (2008) 373-376を参照されたい)。
【0083】
抗体の定常領域中のアミノ酸残基の番号付与は、KabatのEU指標に従って行われている(Kabat, E.A., et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th ed., Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD (1991), NIH Publication 91 3242)。
【0084】
「ヒト抗体Fc領域」という用語は、ヒンジ領域の部分の少なくとも1つ、CH2ドメイン、およびCH3ドメインを含む、ヒト由来の免疫グロブリン重鎖のC末端領域を意味する。1つの態様において、ヒトIgG抗体重鎖Fc領域は、重鎖のGlu216あたり、またはCys226あたり、またはPro230あたりからカルボキシル末端まで伸びる。しかしながら、抗体Fc領域のC末端リジン(Lys447)は、存在する場合もあれば存在しない場合もある。
【0085】
「変種Fc領域」という用語は、少なくとも1つ(1種)の「アミノ酸改変/変異」が原因で「天然」または「野生型」Fc領域アミノ酸配列のものとは異なる、アミノ酸配列を意味する。1つの態様において、変種Fc領域は、天然Fc領域または親ポリペプチドのFc領域と比べて、少なくとも1つのアミノ酸変異、例えば、約1〜約10個のアミノ酸変異を有しており、1つの態様において、天然Fc領域または親ポリペプチドのFc領域中に約1〜約5個のアミノ酸変異を有している。1つの態様において、(変種)Fc領域は、野生型Fc領域および/または親ポリペプチドのFc領域と少なくとも約80%の相同性を有しており、1つの態様において、変種Fc領域は、少なくとも(least)約90%の相同性を有しており、1つの態様において、変種Fc領域は、少なくとも約95%の相同性を有している。
【0086】
本明細書において報告される変種Fc領域は、含まれるアミノ酸改変に基づいて定義される。したがって、例えば、P329Gという用語は、親(野生型)Fc領域を基準としてアミノ酸329番目がプロリンからグリシンに変異した変種Fc領域を意味する。野生型アミノ酸のアイデンティティが特定されていない場合があり、その場合、前述の変種は329Gと呼ばれる。本発明で考察したすべての位置に関して、番号付与は、EU指標に従う。EU指標、もしくはKabatによるEU指標、またはEU番号付与スキームとは、EU抗体の番号付与を意味する(参照により全体が本明細書に組み入れられるEdelman, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 63 (1969) 78-85)。改変は、付加、欠失、または変異であってよい。「変異」という用語は、天然に存在するアミノ酸への変化、ならびに天然に存在しないアミノ酸への変化を意味する。例えば、US 6,586,207, WO 98/48032、WO 03/073238、US 2004/0214988、WO 2005/35727、WO 2005/74524、Chin, J.W., et al., J. Am. Chem. Soc. 124 (2002) 9026-9027; Chin, J.W. and Schultz, P.G., ChemBioChem 11 (2002) 1135-1137; Chin, J.W., et al., PICAS United States of America 99 (2002) 11020-11024;および Wang, L. and Schultz, P.G., Chem. (2002) 1-10(すべて、参照により全体が本明細書に組み入れられる)を参照されたい。
【0087】
IgG1サブクラスの野生型ヒトFc領域のポリペプチド鎖は、次のアミノ酸配列:
を有する。
【0088】
変異L234A、L235Aを有するIgG1サブクラスの変種ヒトFc領域のポリペプチド鎖は、次のアミノ酸配列:
を有する。
【0089】
T366S、L368A、およびY407V変異を有するIgG1サブクラスの変種ヒトFc領域のポリペプチド鎖は、次のアミノ酸配列:
を有する。
【0090】
T366W変異を有するIgG1サブクラスの変種ヒトFc領域のポリペプチド鎖は、次のアミノ酸配列:
を有する。
【0091】
L234A、L235A、ならびにT366S、L368A、およびY407V変異を有するIgG1サブクラスの変種ヒトFc領域のポリペプチド鎖は、次のアミノ酸配列:
を有する。
【0092】
L234A、L235A、およびT366W変異を有するIgG1サブクラスの変種ヒトFc領域のポリペプチド鎖は、次のアミノ酸配列:
を有する。
【0093】
P329G変異を有するIgG1サブクラスの変種ヒトFc領域のポリペプチド鎖は、次のアミノ酸配列:
を有する。
【0094】
L234A、L235A、およびP329G変異を有するIgG1サブクラスの変種ヒトFc領域のポリペプチド鎖は、次のアミノ酸配列:
を有する。
【0095】
P239GおよびT366S、L368AおよびY407V変異を有するIgG1サブクラスの変種ヒトFc領域のポリペプチド鎖は、次のアミノ酸配列:
を有する。
【0096】
P329GおよびT366W変異を有するIgG1サブクラスの変種ヒトFc領域のポリペプチド鎖は、次のアミノ酸配列:
を有する。
【0097】
L234A、L235A、P329GおよびT366S、L368AおよびY407V変異を有するIgG1サブクラスの変種ヒトFc領域のポリペプチド鎖は、次のアミノ酸配列:
を有する。
【0098】
L234A、L235A、P329G、およびT366W変異を有するIgG1サブクラスの変種ヒトFc領域のポリペプチド鎖は、次のアミノ酸配列:
を有する。
【0099】
IgG4サブクラスの野生型ヒトFc領域のポリペプチド鎖は、次のアミノ酸配列:
を有する。
【0100】
S228PおよびL235E変異を有するIgG4サブクラスの変種ヒトFc領域のポリペプチド鎖は、次のアミノ酸配列:
を有する。
【0101】
S228P、L235E、およびP329G変異を有するIgG4サブクラスの変種ヒトFc領域のポリペプチド鎖は、次のアミノ酸配列:
を有する。
【0102】
「Fc受容体」、略して「FcR」という用語は、Fc領域に結合する受容体を意味する。1つの態様において、FcRは、天然配列のヒトFcRである。さらに、1つの態様において、FcRは、IgG抗体に結合するFcR(Fcγ受容体)であり、サブクラスFcγRI、FcγRII、およびFcγRIIIの受容体が含まれ、それらの対立遺伝子変種および選択的にスプライシングされた形態も含まれる。FcγRII受容体には、類似したアミノ酸配列を有し、主にその細胞質内ドメインが異なる、FcγRIIA(「活性化受容体」)およびFcγRIIB(「抑制性受容体」)が含まれる。活性化受容体FcγRIIAは、その細胞質内ドメイン中に免疫受容体活性化チロシンモチーフ(ITAM)を含む。抑制性受容体FcγRIIBは、その細胞質内ドメイン中に免疫受容体抑制性チロシンモチーフ(ITIM)を含む(例えば、Daeron, M., Annu. Rev. Immunol. 15 (1997) 203-234を参照されたい)。FcRは、Ravetch and Kinet, Annu. Rev. Immunol. 9 (1991) 457-492、Capel, et al., Immunomethods 4 (1994) 25-34、de Haas, et al., J. Lab. Clin. Med. 126 (1995) 330-341において概説されている。今後同定されるものを含む、他のFcRは、本明細書における用語「FcR」に包含される。また、この用語は、母親のIgGを胎児に移行させるのに関与している新生児型受容体FcRnも含む(例えば、Guyer, et al., J. Immunol. 117 (1976) 587; Kim, et al., J. Immunol. 24 (1994) 249を参照されたい)。
【0103】
「Fcγ受容体」、略して「FcγR」という用語は、IgG抗体Fc領域に結合し、FcγR遺伝子にコードされるタンパク質ファミリーの任意のメンバーを意味する。ヒトにおいて、このファミリーは、アイソフォームFcγRIA、FcγRIB、およびFcγRICを含むFcγRI(CD64);アイソフォームFcγRIIA(アロタイプH131およびR131を含む)、FcγRIIB(FcγRIIB-1およびFcγRIIB-2を含む)、およびFcγRIIcを含むFcγRII(CD32);ならびにアイソフォームFcγRIIIA(アロタイプV158およびF158を含む)およびFcγRIIIB(アロタイプFcγRIIB-NA1およびFcγRIIB-NA2を含む)を含むFcγRIII(CD16)(例えば、参照により全体が組み入れられるJefferis,et al., Immunol. Lett. 82 (2002) 57-65を参照されたい)、ならびに、任意の未発見のヒトFcγRまたはFcγRのアイソフォームもしくはアロタイプを含むが、それらに限定されるわけではない。FcγRは、限定されるわけではないが、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、およびサルを含む、任意の生物に由来してよい。マウスFcγRには、FcγRI(CD64)、FcγRII(CD32)、FcγRIII(CD16)、およびFcγRIII-2(CD16-2)、ならびに任意の未発見のマウスFcγRまたはFcγRのアイソフォームもしくはアロタイプが含まれるが、それらに限定されるわけではない。Fc領域-FcγR相互作用に関与しているアミノ酸残基は、234〜239(ヒンジ領域下流)、265〜269(B/Cループ)、297〜299(D/Eループ)、および327〜332(F/G)ループである(Sondermann, et al., Nature 406 (2000) 267-273)。FcγRI、FcγRIIA、FcγRIIB、および/またはFcγRIIIAに対する結合/親和性の減少をもたらすアミノ酸変異には、N297A(免疫原性の低下および結合/親和性半減期の延長に付随)(Routledge, et al., Transplantation 60 (1995) 847; Friend, et al., Transplantation 68 (1999) 1632; Shields, et al., J. Biol. Chem. 276 (2001) 6591-6604)、残基233〜236(Ward and Ghetie, Ther. Immunol. 2 (1995) 77; Armour, et al., Eur. J. Immunol. 29 (1999) 2613-2624)が含まれる。いくつかの例示的なアミノ酸置換が、US7,355,008およびUS7,381,408において説明されている。
【0104】
「新生児型Fc受容体」、略して「FcRn」という用語は、IgG抗体Fc領域に結合し、少なくとも一部がFcRn遺伝子にコードされるタンパク質を意味する。FcRnは、限定されるわけではないが、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、およびサルを含む、任意の生物に由来してよい。当技術分野において公知であるとおり、機能的なFcRnタンパク質は、重鎖および軽鎖と呼ばれることが多い2つのポリペプチドを含む。軽鎖はβ-2-ミクログロブリンであり、重鎖はFcRn遺伝子にコードされる。本明細書において別段の注記の無い限り、FcRnまたはFcRnタンパク質とは、FcRn重鎖とβ-2-ミクログロブリンの複合体を意味する。Fc領域とFcRnの相互に作用するアミノ酸残基は、CH2ドメインおよびCH3ドメインの連結部の近くにある。Fc領域とFcRnの接触残基はすべて、単一のIgG重鎖の内部にある。関与しているアミノ酸残基は、248、250〜257、272、285、288、290〜291、308〜311、および314(すべてCH2 ドメイン中)ならびにアミノ酸残基385〜387、428、および433〜436(すべてCH3ドメイン中)である。FcRnに対する結合/親和性の増大をもたらすアミノ酸変異には、T256A、T307A、E380A、およびN434Aが含まれる(Shields, et al., J. Biol. Chem. 276 (2001) 6591-6604)。
【0105】
「完全長抗体」という用語は、天然の抗体構造ならびに本明細書において報告されるFc領域を含むポリペプチドと実質的に同一な構造およびアミノ酸配列を有する抗体を意味する。
【0106】
「完全長抗体重鎖」という用語は、N末端からC末端の方向に、抗体可変ドメイン、第1の定常ドメイン、抗体重鎖ヒンジ領域、第2の定常ドメイン、および第3の定常ドメインを含むポリペプチドを意味する。
【0107】
「完全長抗体軽鎖」という用語は、N末端からC末端の方向に、抗体可変ドメインおよび定常ドメインを含むポリペプチドを意味する。
【0108】
「ヒンジ領域」という用語は、野生型抗体重鎖においてCH1ドメインおよびCH2ドメインを連結する、例えばKabatのEU番号方式によれば216番目あたりから230番目あたりまでの、またはKabatのEU番号方式によれば226番目あたりから230番目あたりまでの、抗体重鎖ポリペプチド部分を意味する。他のIgGサブクラスのヒンジ領域は、IgG1サブクラス配列のヒンジ領域システイン残基と整列させることによって決定することができる。
【0109】
通常、ヒンジ領域は、アミノ酸配列が同一である2つのポリペプチドからなる二量体分子である。一般に、ヒンジ領域は約25個のアミノ酸残基を含み、可動性であるため、抗原結合領域が独立に動くことが可能である。ヒンジ領域は、3つのドメイン:上部ヒンジドメイン、中央部ヒンジドメイン、下部ヒンジドメインに細分することができる(例えば、Roux, et al., J. Immunol. 161 (1998) 4083を参照されたい)。
【0110】
1つの態様において、ヒンジ領域は、アミノ酸配列
を有し、X4はSまたはPのいずれかである。1つの態様において、ヒンジ領域は、アミノ酸配列HTCPX4CP(SEQ ID NO: 57)を有し、X4はSまたはPのいずれかである。1つの態様において、ヒンジ領域は、アミノ酸配列CPX4CP(SEQ ID NO: 58)(X4はSまたはPのいずれかである)を有する。
【0111】
Fc領域の「ヒンジ領域下流」という用語は、ヒンジ領域のC末端側のすぐ近くのアミノ酸残基、すなわち、KabatのEU番号方式によればFc領域の残基233〜239のストレッチを意味する。
【0112】
「野生型Fc領域」という用語は、自然界に存在するFc領域のアミノ酸配列と同一のアミノ酸配列を意味する。野生型ヒトFc領域には、天然ヒトIgG1 Fc領域(A以外のアロタイプおよびAアロタイプ)、天然ヒトIgG2 Fc領域、天然ヒトIgG3 Fc領域、および天然ヒトIgG4 Fc領域、ならびに天然に存在するそれらの変種が含まれる。
【0113】
参照ポリペプチド配列に対する「アミノ酸配列同一性パーセント(%)」とは、配列を整列させ、かつ必要な場合にはギャップを導入して、最大の配列同一性パーセントを実現した後の、かつ、いかなる保存的置換も配列同一性の一部分とみなさない、参照ポリペプチド配列中のアミノ酸残基と同一である候補配列中のアミノ酸残基のパーセンテージと定義される。アミノ酸配列同一性パーセントを決定するためのアライメントは、当技術分野の技能の範囲内である様々な方法において、例えば、BLAST、BLAST-2、ALIGN、またはMegalign(DNASTAR)ソフトウェアなど公的に使用可能なコンピューターソフトウェアを用いて、実現することができる。当業者は、比較される配列の全長に渡って最大限のアライメントを実現するために必要とされる任意のアルゴリズムを含む、配列を整列させるための適切なパラメーターを決定することができる。しかしながら、本明細書における目的のためには、配列比較コンピュータープログラムALIGN-2を用いて、アミノ酸配列同一性%の値を得る。配列比較コンピュータープログラムALIGN-2は、Genentech, Inc.の著作物であり、ソースコードはユーザー向け文書と共にU.S. Copyright Office, Washington D.C., 20559に提出され、米国著作権登録番号(U.S. Copyright Registration No.)TXU510087として登録されている。ALIGN-2プログラムは、Genentech, Inc., South San Francisco, Californiaから公的に入手可能であり、またはソースコードからコンパイルされ得る。ALIGN-2プログラムは、デジタルUNIX V4.0Dを含むUNIXオペレーティング・システムにおける使用向けにコンパイルされるべきである。配列比較パラメーターはすべて、ALIGN-2プログラムによって設定され、変動しない。
【0114】
ALIGN-2がアミノ酸配列比較のために使用される状況において、所与のアミノ酸配列Bに対する、との、または比較しての(to, with, or against)所与のアミノ酸配列Aのアミノ酸配列同一性%(あるいは、所与のアミノ酸配列Bに対して、と、または比較してある特定のアミノ酸配列同一性%を有するか、または含む所与のアミノ酸配列Aと表現することもできる)は、次のようにして算出される。
100×比X/Y
上式で、Xは、配列アライメントプログラムALIGN-2によって、そのプログラムによるAおよびBのアライメントにおいて同一のマッチとして採点されたアミノ酸残基の数であり、Yは、B中のアミノ酸残基の総数である。アミノ酸配列Aの長さがアミノ酸配列Bの長さに等しくない場合、Bに対するAのアミノ酸配列同一性%は、Aに対するBのアミノ酸配列同一性%と等しくならないことが認識されるであろう。別段の記載が特に無い限り、本明細書において使用されるアミノ酸配列同一性%の値はすべて、すぐ前の節で説明したように、ALIGN-2コンピュータープログラムを用いて得られる。
【0115】
「位置(position)」という用語は、ポリペプチドのアミノ酸配列におけるあるアミノ酸残基の場所を意味する。位置は、順を追って、または確立された形式、例えば抗体番号付与のためのKabatのEU指標に従って、番号付与してよい。
【0116】
「変化」したFcR結合親和性またはADCC活性という用語は、親ポリペプチド(例えば、野生型Fc領域を含むポリペプチド)と比べて、FcR結合活性および/またはADCC活性が増大または減少しているポリペプチドを意味する。FcRに対する「結合が増大している」変種ポリペプチドは、親ポリペプチドまたは野生型ポリペプチドより小さい解離定数(すなわち、優れた/より高い親和性)で、少なくとも1つのFcRに結合する。FcRに対する「結合が減少している」ポリペプチド変種は、親ポリペプチドまたは野生型ポリペプチドより大きい解離定数(すなわち、劣る/より低い親和性)で、少なくとも1つのFcRに結合する。FcRに対して結合の減少を示すこのような変種は、FcRに対して感知できる結合をほとんどまたはまったく有していない場合がある。例えば、野生型IgG Fc領域または親IgG Fc領域と比べて、FcRへの結合は0〜20%である。
【0117】
親ポリペプチドまたは野生型ポリペプチドと比べて「低い親和性」でFcRに結合するポリペプチドとは、結合アッセイ法におけるポリペプチド変種および親ポリペプチドの量が(本質的に)ほぼ同じである場合に、親ポリペプチドと比べて(実質的に)低い結合親和性で、上記に特定したFcRの内の任意の1つまたは複数に結合するポリペプチドである。例えば、低いFcR結合親和性を有するポリペプチド変種は、FcR結合親和性が測定される場合、親ポリペプチドと比べて約1.15分の1〜約100分の1、例えば、約1.2分の1〜約50分の1へのFcR結合親和性の減少を示し得る。
【0118】
親ポリペプチドよりも「低い有効性でヒトエフェクター細胞の存在下の抗体依存性細胞媒介性細胞障害(ADCC)を媒介する」変種Fc領域を含むポリペプチドとは、アッセイ法で使用される変種ポリペプチドおよび親ポリペプチドの量が(本質的に)ほぼ同じである場合に、インビトロまたはインビボでADCCを媒介する有効性が(実質的に)低いポリペプチドである。一般に、このような変種は、本明細書において開示するインビトロのADCCアッセイ法を用いて同定するが、例えば動物モデルなどにおけるADCC活性を測定するための他のアッセイ法または方法が企図される。1つの態様において、変種は、例えば、本明細書において開示するインビトロのアッセイ法において、ADCCを媒介する有効性が親よりも低く、約1.5分の1〜約100分の1、例えば、約2分の1〜約50分の1である。
【0119】
「受容体」という用語は、少なくとも1つのリガンドに結合することができるポリペプチドを意味する。1つの態様において、受容体は、細胞外リガンド結合ドメイン、および任意で他のドメイン(例えば、膜貫通ドメイン、細胞内ドメイン、および/または膜アンカー)を有する細胞表面受容体である。本明細書において説明するアッセイ法で評価される受容体は、完全な受容体またはその断片もしくは派生物(例えば、1つもしくは複数の異種ポリペプチドに融合された受容体の結合ドメインを含む融合タンパク質)であってよい。さらに、結合特性を評価される受容体は、細胞中に存在してもよく、または単離され、アッセイプレートもしくは他の何らかの固相に任意で塗られてもよい。
【0120】
「薬学的製剤」という用語は、その中に含まれる有効成分の生物活性が有効になるのを可能にするような形態で存在し、かつその製剤が投与されると思われる対象に対して許容されないほど毒性である追加成分を含まない、調製物を意味する。
【0121】
「薬学的に許容される担体」とは、対象にとって非毒性である、薬学的製剤中の有効成分以外の成分を意味する。薬学的に許容される担体には、緩衝剤、賦形剤、安定化剤、または保存剤が含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0122】
II. 本明細書において報告される抗体Fc領域結合体を作製するための方法
以下の段階を含む、抗体Fc領域および標的に特異的に結合する結合実体を含む抗体Fc領域結合体を作製するための方法が、本明細書において報告される:
−(i)20個のC末端アミノ酸残基内にアミノ酸配列GnSLPX1TG(SEQ ID NO: 02、n=1、2、または3であり、X1は、任意のアミノ酸残基であってよい)を含む、標的に特異的に結合する結合実体、および(ii)少なくともN末端の1つにオリゴグリシン(Gm;m=1、2、または3)を含む抗体Fc領域を、酵素ソルターゼAと共にインキュベートし、それによって抗体Fc領域結合体を作製する段階。
【0123】
本発明は、抗体Fc領域および標的に特異的に結合する結合実体を含む結合体は、(i)そのC末端領域中にアミノ酸配列GnSLPX1TG(SEQ ID NO: 02、n=1、2、または3であり、かつX1は、任意のアミノ酸残基であってよい)を含む、標的に特異的に結合する結合実体、(ii)少なくともそのN末端の1つにオリゴグリシン(Gm;m=1、2、または3)を含む抗体Fc領域、および(iii)酵素ソルターゼAを用いることにより、酵素的結合において高収率で得ることができるという知見に基づいている。
【0124】
反応物のこの組合せを用いると、
反応回数が増えると通常は起こっている
(i)生成物である結合体の内部のLPX1TG(SEQ ID NO: 01)アミノ酸配列を基質として認識する逆反応、および/または
(ii)行き止まりの加水分解ポリペプチド断片(Gm-抗体Fc領域求核剤の代わりに水によってチオアシル−結合実体ソルターゼA中間体が切断されて生成する、LPX1TG(SEQ ID NO: 01)認識配列を有していない/が切断されたポリペプチド)の生成が、
減少し得るか、またはさらになくなり得る。
【0125】
C末端およびN末端のアミノ酸配列組合せの様々な組合せが試験された(例えば、図3を参照されたい)。
【0126】
より詳細には、例示的な結合実体として抗体Fab断片が使用され、例示的な抗体Fc領域として、一アーム抗体Fc領域(OA-Fc領域=完全長抗体重鎖およびその同種の完全長軽鎖と重鎖抗体Fc領域ポリペプチドとのペア)が使用された。抗体Fab断片VH-CH1重鎖のC末端およびOA-Fc領域のN末端において、それぞれ3種の異なる配列を、例示的なトランスペプチダーゼであるソルターゼAを用いて結合した。9種の異なる結合体が得られた。結合反応の進行/効率を様々な時点に測定した。このために、ペプチド転移反応の分取物をSDS-PAGEによって解析した。反応時間72時間における連結効率は、ゲルから濃度測定によって推定した。これらの結果を下記の表1に示す。
【0127】
(表1)
【0128】
3つのアミノ酸残基KSCは、CH1ドメインの最後の3つのC末端アミノ酸残基である。
【0129】
Fab VH-CH1重鎖断片のC末端領域においてC末端アミノ酸配列GSLPX1TG(SEQ ID NO: 2、n=1であり、かつX1は、任意のアミノ酸残基であってよい)および
(SEQ ID NO: 2、n=3であり、かつX1は、任意のアミノ酸残基であってよい)を用いることによって、抗体Fc領域のN末端アミノ酸配列GGCPPC(X4がPであるSEQ ID NO: 07、SEQ ID NO: 17)と組み合わせた最良の収率を得ることができることが認識され得る。
【0130】
1つの態様において、標的に特異的に結合する結合実体は、20個のC末端アミノ酸残基内にアミノ酸配列
(SEQ ID NO: 03、n=1、2、または3であり、かつX1は、任意のアミノ酸残基であってよい)を含む。
【0131】
1つの態様において、標的に特異的に結合する結合実体は、20個のC末端アミノ酸残基内にアミノ酸配列
(SEQ ID NO: 04、X1は、任意のアミノ酸残基であってよい)を含み、X2は、グリシン以外の任意のアミノ酸残基であってよい。
【0132】
1つの態様において、標的に特異的に結合する結合実体は、20個のC末端アミノ酸残基内にアミノ酸配列
(SEQ ID NO: 05、n=1、2、または3であり、かつX1は、任意のアミノ酸残基であってよい)を含み、X3は、アミノ酸配列タグである。
【0133】
1つの態様において、標的に特異的に結合する結合実体は、20個のC末端アミノ酸残基内にアミノ酸配列
(SEQ ID NO: 06、X1は、任意のアミノ酸残基であってよい)を含み、X2は、グリシン以外の任意のアミノ酸残基であってよく、かつX3は、アミノ酸配列タグである。
【0134】
1つの態様において、抗体Fc領域のN末端の少なくとも1つは、2つのグリシン残基を含む。
【0135】
1つの態様において、抗体Fc領域は、少なくともそのN末端の1つに、アミノ酸配列GGCPPC(SEQ ID NO: 17)を含む。
【0136】
1つの態様において、標的に特異的に結合する結合実体は、抗原結合単鎖ポリペプチド(ヒト、ラクダ、もしくはサメに由来するscFv、scFab、ダルピン、単一ドメイン抗体)または抗原結合多鎖ポリペプチド(Fab、dsFv、もしくはダイアボディ)である。1つの態様において、標的に特異的に結合する結合実体は、FabまたはscFvである。
【0137】
1つの態様において、抗体Fc領域は、少なくとも1つのジスルフィド結合によって共有結合的に連結された第1のポリペプチド鎖(抗体重鎖)および第2のポリペプチド(Gm-Fc領域、m=1、2、または3、または4、または5)鎖を含む。
【0138】
1つの態様において、抗体Fc領域は、少なくとも1つのジスルフィド結合によって共有結合的に連結されている、完全長抗体重鎖である第1のポリペプチド鎖および改変されたGm-Fc領域(m=1、2、または3、または4、または5)重鎖断片である第2のポリペプチド鎖を含む。
【0139】
1つの態様において、標的に特異的に結合する結合実体は、第1のエピトープまたは抗原に特異的に結合し、完全長抗体重鎖は、対応する同種の完全長軽鎖と対になった場合、第1のエピトープまたは抗原とは異なる第2のエピトープまたは抗原に特異的に結合する。
【0140】
本明細書において報告される1つの局面は、本明細書において報告される方法によって得られる抗体Fc領域結合体である。
【0141】
本明細書において報告される1つの局面は、アミノ酸配列
(SEQ ID NO: 09、n=1、2、または3であり、かつX1は、任意のアミノ酸残基であってよい)を含む抗体Fc領域結合体である。
【0142】
1つの態様において、抗体Fc領域結合体は、20個のC末端アミノ酸残基内にアミノ酸配列
(SEQ ID NO: 10、n=1、2、または3であり、X1は、任意のアミノ酸残基であってよく、かつX4はPである)を含む。
【0143】
1つの態様において、抗体Fc領域結合体は、20個のC末端アミノ酸残基内にアミノ酸配列
(SEQ ID NO: 12、n=1、2、または3であり、X1は、任意のアミノ酸残基であってよく、かつX4はPである)を含む。
【0144】
1つの態様において、抗体Fc領域結合体は、20個のC末端アミノ酸残基内にアミノ酸配列
(SEQ ID NO: 11、X1は、任意のアミノ酸残基であってよく、X4はPである)を含み、X2は、グリシン以外の任意のアミノ酸残基であってよい。
【0145】
1つの態様において、抗体Fc領域結合体は、20個のC末端アミノ酸残基内にアミノ酸配列
(SEQ ID NO: 13、X1は、任意のアミノ酸残基であってよく、X4はPである)を含み、X2は、グリシン以外の任意のアミノ酸残基であってよい。
【0146】
1つの態様において、抗体Fc領域結合体は、標的に特異的に結合する第2の結合実体を含む。
【0147】
1つの態様において、標的に特異的に結合する結合実体は、FabまたはscFvである。
【0148】
1つの態様において、抗体Fc領域結合体は、少なくとも1つのジスルフィド結合によって共有結合的に連結された第1のポリペプチド鎖および第2のポリペプチド鎖を含む。
【0149】
1つの態様において、抗体Fc領域結合体は、完全長抗体重鎖である第1のポリペプチド鎖およびアミノ酸配列
(SEQ ID NO: 10、n=1、2、または3であり、X1は、任意のアミノ酸残基であってよく、かつX4はPである)を含む第2の抗体重鎖Fc領域ポリペプチドを含み、第1のポリペプチド鎖および第2のポリペプチド鎖は少なくとも1つのジスルフィド結合によって共有結合的に連結されている。
【0150】
1つの態様において、抗体Fc領域は、同種の完全長軽鎖と対になった完全長抗体重鎖を含み、第1のエピトープまたは抗原に特異的に結合し、抗体Fc領域に結合された結合実体は、第1のエピトープまたは抗原とは異なる第2のエピトープまたは抗原に結合する。
【0151】
すべての局面の1つの態様において、X1はEである。
【0152】
本明細書において報告されるすべての局面の1つの態様において、抗体Fc領域は、ヒト由来である。
【0153】
抗体Fc領域中の所定の位置に2つの変異を組み合わせることによって、Fc領域が関連するエフェクター機能の完全な低下を実現することができる。
【0154】
エフェクター機能を惹起するFc領域の選択は、抗体Fc領域結合体の所期の用途に依存する。
【0155】
所望の用途が、可溶性標的の機能を無効にすることである場合、エフェクター機能を惹起しないサブクラスまたは変種が選択されるべきである。
【0156】
所望の用途が、標的を除去することである場合、エフェクター機能を惹起するサブクラスまたは変種が選択されるべきである。
【0157】
所望の用途が、細胞に結合した標的に拮抗することである場合、エフェクター機能を惹起しないサブクラスまたは変種が選択されるべきである。
【0158】
所望の用途が、標的提示細胞を除去することである場合、エフェクター機能を惹起するサブクラスまたは変種が選択されるべきである。
【0159】
抗体または抗体Fc領域結合体の循環中半減期は、Fc領域とFcRnの相互作用を調節することによって影響され得る。
【0160】
抗体依存性細胞媒介性細胞障害(ADCC)および補体依存性細胞障害(CDC)を最小化することまたはさらになくすことは、いわゆるヒンジ領域アミノ酸変化/置換によって実現することができる。
【0161】
古典的な補体カスケードの活性化を最小化することまたはさらになくすことは、いわゆるヒンジ領域アミノ酸変化/置換によって実現することができる。
【0162】
抗体または抗体Fc領域結合体の循環半減期の延長は、新生児型Fc受容体への結合を増大させることによって実現することができ、その結果、有効性が改善され、投与用量もしくは投与頻度が減少し、または標的への送達が改善される。抗体または抗体Fc領域結合体の循環半減期の短縮は、新生児型Fc受容体への結合を減少させることによって実現することができ、その結果、全身曝露が減少し、または標的と非標的の結合比が改善される。
【0163】
通常、本明細書において報告される方法は、野生型Fc領域または改変/変種Fc領域のいずれかを含む抗体Fc領域結合体の作製に応用可能である。
【0164】
1つの態様において、Fc領域はヒトFc領域である。
【0165】
1つの態様において、Fc領域は「概念的」であり、物理的には存在しないものの、抗体技術者は使用すべき変種Fc領域を決定することができる。
【0166】
1つの態様において、抗体Fc領域結合体のFc領域部分をコードする核酸は、抗体Fc領域結合体の変種Fc領域部分をコードする変種核酸配列を生じるように改変される。
【0167】
抗体Fc領域結合体のFc領域部分のアミノ酸配列をコードする核酸は、当技術分野において公知の様々な方法によって調製することができる。これらの方法には、部位特異的(またはオリゴヌクレオチドを媒介とした)変異誘発、PCR変異誘発、および抗体Fc領域結合体のポリペプチドをコードする前もって調製されたDNAのカセット変異誘発による調製が含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0168】
Fc領域は、限定されるわけではないが、Fc受容体(例えば、FcγRI、FcγRIIA、FcγRIIIA)、補体タンパク質C1q、ならびにプロテインAおよびプロテインGなどの他の分子を含むいくつかの受容体またはリガンドと相互作用する。これらの相互作用は、限定されるわけではないが、抗体依存性細胞媒介性細胞障害(ADCC)、抗体依存性細胞性食作用(ADCP)、および補体依存性細胞障害(CDC)を含む、様々なエフェクター機能および下流のシグナル伝達事象のために不可欠である。
【0169】
1つの態様において、(本明細書において報告される方法を用いて作製される) 抗体Fc領域結合体は、次の特性のうちの少なくとも1つまたは複数を有する低下もしくは消失した(ablated)エフェクター機能(ADCCおよび/もしくはCDCならびに/またはADCP)、Fc受容体への減少もしくは消失した結合、C1qへの減少もしくは消失した結合、または減少もしくは消失した毒性。
【0170】
1つの態様において、(本明細書において報告される方法を用いて作製される)抗体Fc領域結合体は、少なくとも2つのアミノ酸変異、付加、または欠失を有する野生型Fc領域を含む。
【0171】
1つの態様において、(本明細書において報告される方法を用いて作製される)抗体Fc領域結合体は、野生型ヒトFc領域を含む抗体または抗体Fc領域結合体と比べて、ヒトFc受容体(FcγR)および/またはヒト補体受容体に対する親和性が低下している。
【0172】
1つの態様において、(本明細書において報告される方法を用いて作製される)抗体Fc領域結合体は、野生型ヒトFc領域を含む抗体または抗体Fc領域結合体と比べてヒトFc受容体(FcγR)および/またはヒト補体受容体に対する親和性が低下しているFc領域を含む。
【0173】
1つの態様において、(本明細書において報告される方法を用いて作製される)抗体Fc領域結合体は、FcγRI、FcγRII、および/またはFcγRIIIAのうちの少なくとも1つに対する親和性が低下している。1つの態様において、FcγRIおよびFcγRIIIAに対する親和性が低下している。1つの態様において、FcγRI、FcγRII、およびFcγRIIIAに対する親和性が低下している。
【0174】
1つの態様において、FcγRI、FcγRIIIA、およびC1qに対する親和性が低下している。
【0175】
1つの態様において、FcγRI、FcγRII、FcγRIIIA、およびC1qに対する親和性が低下している。
【0176】
1つの態様において、(本明細書において報告される方法を用いて作製される)抗体Fc領域結合体は、野生型Fc領域を含む抗体または抗体Fc領域結合体と比べて、ADCCが減少している。1つの態様において、ADCCは、野生型Fc領域を含むFc領域融合ポリペプチドまたはFc領域結合体によって誘導されるADCCと比べて、少なくとも20%減少している。
【0177】
1つの態様において、(本明細書において報告される方法を用いて作製される)抗体Fc領域結合体は、野生型Fc領域を含む抗体Fc領域結合体と比べて、Fc領域によって誘導されるADCCおよびCDCが減少または消失している。
【0178】
1つの態様において、(本明細書において報告される方法を用いて作製される)抗体Fc領域結合体は、野生型Fc領域を含むOA-Fc領域結合体と比べて、ADCC、CDC、およびADCPが減少している。
【0179】
1つの態様において、抗体Fc領域結合体は、S228P、E233P、L234A、L235A、L235E、N297A、N297D、P329G、およびP331Sを含む群より選択される少なくとも1つのアミノ酸置換をFc領域中に含む。
【0180】
1つの態様において、野生型Fc領域は、ヒトIgG1 Fc領域またはヒトIgG4 Fc領域である。
【0181】
1つの態様において、抗体Fc領域は、329番目のアミノ酸残基プロリンの変異に加えて、抗体Fc領域結合体の安定性上昇と相関関係があるFc領域中のアミノ酸残基の、少なくとも1つのさらなる付加、変異、または欠失を含む。
【0182】
1つの態様において、Fc領域中のアミノ酸残基のさらなる付加、変異、または欠失は、Fc領域がIgG4サブクラスのものである場合、Fc領域の228番目および/または235番目に存在する。1つの態様において、228番目のアミノ酸残基セリンおよび/または235番目のアミノ酸残基ロイシンが、別のアミノ酸によって置換される。1つの態様において、抗体Fc領域結合体は、228番目にプロリン残基を含む(セリン残基からプロリン残基への変異)。1つの態様において、抗体Fc領域結合体は、235番目にグルタミン酸残基を含む(ロイシン残基からグルタミン酸残基への変異)。
【0183】
1つの態様において、Fc領域は、3つのアミノ酸変異を含む。1つの態様において、3つのアミノ酸変異は、P329G、S228P、およびL235E変異(P329G/SPLE)である。
【0184】
1つの態様において、Fc領域中のアミノ酸残基のさらなる付加、変異、または欠失は、Fc領域がIgG1サブクラスのものである場合、Fc領域の234番目および/または235番目に存在する。1つの態様において、234番目のアミノ酸残基ロイシンおよび/または235番目のアミノ酸残基ロイシンが、別のアミノ酸に変異する。
【0185】
1つの態様において、Fc領域は、ロイシンアミノ酸残基がアラニンアミノ酸残基に変異するアミノ酸変異を234番目に含む。
【0186】
1つの態様において、Fc領域は、ロイシンアミノ酸残基がセリンアミノ酸残基に変異するアミノ酸変異を235番目に含む。
【0187】
1つの態様において、Fc領域は、プロリンアミノ酸残基がグリシンアミノ酸残基に変異するアミノ酸変異を329番目に、ロイシンアミノ酸残基がアラニンアミノ酸残基に変異するアミノ酸変異を234番目に、ロイシンアミノ酸残基がアラニンアミノ酸残基に変異するアミノ酸変異を235番目に含む。
【0188】
FcRnに対する親和性が上昇しているFc領域変種は、より長い血清半減期を有しており、このような分子は、例えば、慢性的な疾患または障害を治療するために、投与される抗体Fc領域結合体の全身半減期が長いことが望ましい場合、哺乳動物を治療する方法において有用な用途があると考えられる。
【0189】
FcRn結合親和性が低下している抗体Fc領域結合体は、より短い血清半減期を有しており、このような分子は、例えば、毒性の副作用を回避するため、またはインビボの画像診断法に応用するために、投与される抗体Fc領域結合体の全身半減期がより短いことが望ましい場合、哺乳動物を治療する方法において有用な用途があると考えられる。FcRn結合親和性が低下したFc領域融合ポリペプチドまたはFc領域結合体は、胎盤を通過する可能性が低いことが予期され、したがって、妊婦の疾患または障害の治療において使用され得る。
【0190】
1つの態様において、FcRnに対する結合親和性が変化したFc領域は、アミノ酸位置
の内の1つまたは複数においてアミノ酸改変を有するFc領域である。
【0191】
1つの態様において、Fc領域は、アミノ酸位置252、253、254、255、288、309、386、388、400、415、433、435、436、439、および/または447において1つまたは複数のアミノ酸改変を有するFc領域である。
【0192】
1つの態様において、FcRnへの結合の増大を示すFc領域は、アミノ酸位置
に1つまたは複数のアミノ酸改変を含む。
【0193】
1つの態様において、Fc領域は、IgG1サブクラスのFc領域であり、アミノ酸変異P329G、ならびに/またはL234AおよびL235Aを含む。
【0194】
1つの態様において、Fc領域は、IgG4サブクラスのFc領域であり、アミノ酸変異P329G、ならびに/またはS228PおよびL235Eを含む。
【0195】
1つの態様において、抗体Fc領域は、第1の重鎖Fc領域ポリペプチド中の変異T366Wならびに第2の重鎖Fc領域ポリペプチド中の変異T366S、L368A、およびY407Vを含み、番号付与は、KabatのEU指標に従っている。
【0196】
1つの態様において、抗体Fc領域は、第1の重鎖Fc領域ポリペプチド中の変異S354Cおよび第2の重鎖Fc領域ポリペプチド中の変異Y349Cを含む。
【0197】
ソルターゼAを用いた酵素的結合
1つまたは複数の、例えば、1つ、または2つ、または3つ、または4つの結合実体を含む抗体Fc領域結合体は、例えば、抗体Fc領域と単鎖抗原結合ポリペプチド(例えば、scFv、scFab、もしくはダルピン)または多鎖抗原結合複合体(例えば、dsFvもしくはFab)とをソルターゼAを媒介としてインビトロで連結することによって得ることができる。
【0198】
多くのグラム陽性菌は、ソルターゼを用いて、病原性因子を含む様々な表面タンパク質をそれらの細胞壁(ペプチドグリカン)に共有結合的に固定する。ソルターゼは、細胞外膜結合型酵素である。野生型黄色ブドウ球菌ソルターゼA(SrtA)は、N末端に膜貫通領域を有する、アミノ酸206個からなるポリペプチドである。第1段階において、ソルターゼAは、LPX1TGアミノ酸配列モチーフを含む基質タンパク質を認識し、活性部位Cysを用いてThrとGlyの間のアミド結合を切断する。このペプチド切断反応により、ソルターゼAチオエステル中間体が生じる。第2段階で、チオエステルアシル−酵素中間体は、(黄色ブドウ球菌(S. aureus)のペプチドグリカンのペンタグリシン単位に相当する)オリゴグリシンを含む第2の基質ポリペプチドのアミノ基の求核攻撃によって分解されて、共有結合的に結合された細胞壁タンパク質が生じ、ソルターゼAが再生される。オリゴグリシン求核剤がない場合、アシル−酵素中間体は水分子によって加水分解される。
【0199】
ソルターゼを媒介とした連結/結合は、様々なタンパク質工学およびバイオコンジュゲーションの目的に応用され始めている。この新しい技術により、LPX1TGタグ付きの組換えポリペプチドまたは化学的に合成されたポリペプチドに天然および非天然の機能性を導入することが可能になる。例には、オリゴグリシンで誘導体化されたポリマー(例えばPEG)、蛍光体、ビタミン(例えば、ビオチンおよび葉酸)脂質、炭水化物、核酸、合成ペプチドおよび合成タンパク質(例えばGFP)の共有結合が含まれる(Tsukiji, S. and Nagamune, T., ChemBioChem 10 (2009) 787-798; Popp, M.W.-L. and Ploegh, H.L., Angew. Chem. Int. Ed. 50 (2011) 5024-5032)。
【0200】
アミノ構成要素のトリグリシンおよびジグリシンモチーフでさえ、SrtAを媒介とする連結段階に十分であることが示されている(Clancy, K.W., et al., Peptide Science 94 (2010) 385-396)。
【0201】
酵素的結合のために、膜貫通領域を欠く可溶性の短縮型ソルターゼA(SrtA;黄色ブドウ球菌SrtAのアミノ酸残基60〜206)が使用され得る(Ton-That, H., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 96 (1999) 12424-12429; Ilangovan, H., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 98 (2001) 6056-6061)。短縮型可溶性ソルターゼA変種は、大腸菌(E.coli)において作製することができる。
【0202】
少なくともN末端の1つにオリゴグリシン(Gm、m=1、2、または3、または4、または5)を含む抗体Fc領域は、真核細胞(例えば、HEK293細胞、CHO細胞)の上清から発現および精製することができる。
【0203】
1つのポリペプチド鎖のC末端にSrtA認識モチーフを含む結合実体(例えば、scFv、scFab、もしくはダルピンなどの単鎖抗原結合ポリペプチドまたはdsFvもしくはFabなどの多鎖抗原結合ポリペプチド)は、真核細胞(例えば、HEK293細胞、CHO細胞)の上清から発現および精製することができる。
【0204】
本明細書において報告される1つの局面は、酵素ソルターゼA用いて結合実体を抗体Fc領域(Gm-Fc領域)に結合させることによって得られる抗体Fc領域結合体であって、ソルターゼ認識配列が結合実体のC末端領域に位置しており、オリゴグリシン(Gm;m=1、2、または3、または4、または5)が抗体Fc領域鎖の少なくとも1つの鎖のN末端に位置している、抗体Fc領域結合体である。
【0205】
本明細書において報告される1つの局面は、本明細書において報告される抗体Fc領域結合体と、任意で、薬学的に許容される担体とを含む薬学的製剤である。
【0206】
本明細書において報告される1つの局面は、医薬として使用するための本明細書において報告される抗体Fc領域結合体である。
【0207】
本明細書において報告される1つの局面は、医薬を製造する際の、本明細書において報告される抗体Fc領域結合体の使用である。
【0208】
III. 組換え法
抗体Fc領域結合体の連結構成要素、特に、一アーム抗体変種(OA-Fc領域-Gm、m=1、または2、または3)および単鎖抗原結合ポリペプチド(例えば、scFv、scFab、もしくはダルピン)または多鎖抗原結合複合体(例えば、dsFvまたはFab)は、組換え法および組換え組成物を用いて作製することができる。例えば、US4,816,567を参照されたい。
【0209】
1つの局面において、抗体Fc領域結合体を作製する方法が提供され、この方法は、(i)結合体の抗体Fc領域部分をコードする核酸を含む第1の宿主細胞を、抗体Fc領域の発現/分泌に適した条件下で培養し、任意で、宿主細胞(または宿主細胞培養培地)から抗体Fc領域部分を回収する段階、および(ii)結合体の結合実体部分をコードする核酸を含む第2の宿主細胞を、結合実体の発現/分泌に適した条件下で培養し、任意で、宿主細胞(または宿主細胞培養培地)から結合実体部分を回収する段階、および(iii)ソルターゼAを媒介としたペプチド転移を用いて、組換えによって作製した部分を酵素的に結合させる段階を含む。
【0210】
抗体Fc領域結合体の抗体Fc領域部分および結合実体部分を組換えによって作製するために、例えば、前述したような結合体の抗体Fc領域部分および結合実体部分をコードする核酸が単離され、宿主細胞においてさらにクローニングおよび/または発現/分泌させるために、1つまたは複数のベクター中に挿入される。このような核酸は、従来の手順を用いて容易に単離および/または作製され得る。
【0211】
ポリペプチドをコードするベクターのクローニングまたは発現/分泌に適した宿主細胞には、本明細書において説明する原核細胞または真核細胞が含まれる。例えば、特に、グリコシル化およびFcエフェクター機能が必要とされない場合、ポリペプチドは細菌において作製され得る(例えば、大腸菌における抗体断片の発現を説明しているUS5,648,237、US5,789,199、およびUS5,840,523、Charlton, Methods in Molecular Biology 248 (2003) 245-254 (B.K.C. Lo, (ed.), Humana Press, Totowa, NJ)を参照されたい)。発現後、ポリペプチドは、可溶性画分中の細菌細胞ペーストから単離され得、または可溶化して生物活性型にリフォールディングされ得る不溶性画分、いわゆる封入体から単離され得る。その後、ポリペプチドはさらに精製され得る。
【0212】
原核生物に加えて、糸状菌または酵母などの真核微生物も、ポリペプチドをコードするベクターのための適切なクローニング宿主または発現宿主であり、これらには、グリコシル化経路が「ヒト化」されており、その結果、部分的または全面的にヒトグリコシル化パターンを有するポリペプチドを産生する真菌株および酵母株が含まれる(例えば、Gerngross, Nat. Biotech. 22 (2004) 1409-1414、およびLi, et al., Nat. Biotech. 24 (2006) 210-215を参照されたい)。
【0213】
また、グリコシル化ポリペプチドの発現のために適した宿主細胞は、多細胞生物(無脊椎動物および脊椎動物)にも由来する。無脊椎動物細胞の例には、植物細胞および昆虫細胞が含まれる。昆虫細胞と組み合わせて、特にスポドプテラ・フルギペルダ(Spodoptera frugiperda)細胞のトランスフェクションのために使用され得る多数のバキュロウイルス株が同定されている。
【0214】
植物細胞培養物もまた、宿主として使用することができる(例えば、US5,959,177、US6,040,498、US6,420,548、US7,125,978、およびUS6,417,429(トランスジェニック植物において抗体を産生させるためのPLANTIBODIES(商標)技術を説明している)を参照されたい)。
【0215】
脊椎動物細胞もまた、宿主として使用され得る。例えば、懸濁液中で増殖するように順応させた哺乳動物細胞株が、有用である場合がある。有用な哺乳動物宿主細胞株の他の例は、COS-7細胞株(SV40によって形質転換されたサル腎臓CV1細胞;HEK293細胞株(ヒト胎児腎(human embryonic kidney))BHK細胞株(仔ハムスター腎臓(baby hamster kidney));TM4マウスセルトリ細胞株(例えば、Mather, Biol. Reprod. 23 (1980) 243-251で説明されているTM4細胞);CV1細胞株(サル腎臓細胞);VERO-76細胞株(アフリカミドリザル腎臓細胞);HELA細胞株(ヒト子宮頸部癌細胞);MDCK細胞株(イヌ腎臓細胞);BRL-3A細胞株(バッファローラット肝臓細胞(buffalo rat liver cell));W138細胞株(ヒト肺細胞);HepG2細胞株(ヒト肝臓細胞);MMT060562細胞株(マウス乳房腫瘍細胞(mouse mammary tumor cell));例えば、Mather, et al., Annals N.Y. Acad. Sci. 383 (1982) 44-68で説明されているTRI細胞株;MRC5細胞株;およびFS4細胞株である。他の有用な哺乳動物宿主細胞株には、DHFR欠損(negative)CHO細胞株(Urlaub, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77 (1980) 4216)を含むCHO細胞株(チャイニーズハムスター卵巣細胞(Chinese hamster ovary cell))、ならびにY0、NS0、およびSp2/0細胞株などの骨髄腫細胞株が含まれる。ポリペプチド産生に適したいくつかの哺乳動物宿主細胞株の概要については、例えば、Yazaki, and Wu, Methods in Molecular Biology, Antibody Engineering 248 (2004) 255-268 (B.K.C. Lo, (ed.), Humana Press, Totowa, NJ)を参照されたい。
【0216】
配列表の説明
SEQ ID NO: 01〜06 ソルターゼモチーフ
SEQ ID NO: 07〜08 Fc領域求核剤
SEQ ID NO: 09〜13 抗体Fc領域結合体中の他のソルターゼモチーフ
SEQ ID NO: 14〜16 例示的な結合実体C末端アミノ酸配列
SEQ ID NO: 17〜19 例示的な抗体Fc領域N末端アミノ酸配列
SEQ ID NO: 20〜38 アミノ酸配列タグ
SEQ ID NO: 39 ヒトCH2ドメイン
SEQ ID NO: 40 ヒトCH3ドメイン
SEQ ID NO: 41〜55 例示的な野生型および変種の抗体重鎖Fc領域ポリペプチド
SEQ ID NO: 56〜58 例示的な抗体ヒンジ領域アミノ酸配列
SEQ ID NO: 59〜74 実施例で使用される配列。
【実施例】
【0217】
以下の実施例は、本発明の方法および組成物の例である。上記に提供した一般的説明を前提として、他の様々な態様が実施され得ることが理解されよう。
【0218】
前述の本発明は、理解を明確にするために、例示および例としていくらか詳しく説明してきたが、これらの説明および例は、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0219】
材料および方法
組換えDNA技術
Sambrook, J., et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual; Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York (1989)において説明されているように、標準的方法を用いてDNAを操作した。分子生物学的試薬は、製造業者の取扱い説明書に従って使用した。
【0220】
遺伝子合成
所望の遺伝子セグメントは、Geneart GmbH(Regensburg, Germany)において化学合成によって調製された。合成された遺伝子断片を、増殖/増幅のために大腸菌プラスミド中にクローニングした。サブクローニングされた遺伝子断片のDNA配列は、DNA配列決定によって確認した。
【0221】
タンパク質測定
280nmにおける光学濃度(OD)を測定し、ポリペプチドのアミノ酸配列に基づいて算出したモル吸光係数を用いることによって、精製したポリペプチドのタンパク質濃度を決定した。
【0222】
実施例1
発現プラスミドの作製
基本的/標準的な哺乳動物発現プラスミドの説明
ヒト胎児由来腎臓細胞(HEK293)の一過性トランスフェクションによって、所望のタンパク質を発現させた。所望の遺伝子/タンパク質(例えば、完全長抗体重鎖、完全長抗体軽鎖、またはN末端にオリゴグリシンを含むFc鎖)を発現させるために、以下の機能的エレメントを含む転写ユニットを使用した:
-イントロンAを含む、ヒトサイトメガロウイルス由来の最初期エンハンサーおよびプロモーター(P-CMV)、
-ヒト重鎖免疫グロブリン5'非翻訳領域(5'UTR)、
-マウス免疫グロブリンの重鎖シグナル配列(SS)、
-発現させようとする遺伝子/タンパク質(例えば、完全長抗体重鎖)、ならびに
-ウシ成長ホルモンポリアデニル化配列(BGH pA)。
【0223】
発現させようとする所望の遺伝子を含む発現ユニット/カセットのほかに、基本的な/標準的な哺乳動物発現プラスミドは、
-大腸菌においてこのプラスミドが複製するのを可能にするベクターpUC18由来の複製起点、および
-大腸菌にアンピシリン耐性を与えるβ-ラクタマーゼ遺伝子
を含む。
【0224】
以下のポリペプチド/タンパク質をコードする発現プラスミドを構築した:
-T366W変異を含むサブクラスIgG1のヒト重鎖定常領域と組み合わせられたペルツズマブ重鎖可変ドメイン:

-ヒトκ軽鎖定常領域と組み合わせられたペルツズマブ軽鎖可変ドメイン:

-T366S、L368A、およびY407V変異を含むサブクラスIgG1のヒト重鎖定常領域と組み合わせられたトラスツズマブ重鎖可変ドメイン:

-ヒトκ軽鎖定常領域と組み合わせられたトラスツズマブ軽鎖可変ドメイン:

-ペルツズマブ重鎖可変ドメインおよびC末端
アミノ酸配列を含むサブクラスIgG1のヒト重鎖定常領域1(CH1)を含む、抗体Fab断片:

-ペルツズマブ重鎖可変ドメインおよびC末端
配列を含むサブクラスIgG1のヒト重鎖定常領域1(CH1)を含む、抗体Fab断片:

-ペルツズマブ重鎖可変ドメインおよびC末端
配列を含むサブクラスIgG1のヒト重鎖定常領域1(CH1)を含む、抗体Fab断片:

-トラスツズマブ重鎖可変ドメインおよびC末端
配列を含むサブクラスIgG1のヒト重鎖定常領域1(CH1)を含む、抗体Fab断片:

-トラスツズマブ重鎖可変ドメインおよびC末端
配列を含むサブクラスIgG1のヒト重鎖定常領域1(CH1)を含む、抗体Fab断片:

-トラスツズマブ重鎖可変ドメインおよびC末端
配列を含むサブクラスIgG1のヒト重鎖定常領域1(CH1)を含む、抗体Fab断片:

-N末端
配列を含む、T366S、L368A、およびY407V変異を有する重鎖Fc領域ポリペプチド(ヒトIgG1(CH2-CH3)):

-N末端GGHTCPPC配列を含む、T366S、L368A、およびY407V変異を有する重鎖Fc領域ポリペプチド(ヒトIgG1(CH2-CH3)):

-N末端GGCPPC配列を含む、T366S、L368A、およびY407V変異を有する重鎖Fc領域ポリペプチド(ヒトIgG1(CH2-CH3)):

-N末端
配列を含む、T366W変異を有する重鎖Fc領域ポリペプチド(ヒトIgG1(CH2-CH3)):

-N末端GGHTCPPC配列を含む、T366W変異を有する重鎖Fc領域ポリペプチド(ヒトIgG1(CH2-CH3)):

-N末端GGCPPC配列を含む、T366W変異を有する重鎖Fc領域ポリペプチド(ヒトIgG1(CH2-CH3)):
【0225】
実施例2
一過性発現、精製、および分析的特徴決定
F17培地(Invitrogen Corp.)中で培養したHEK293細胞(ヒト胎児由来腎臓細胞株293に由来(human embryonic kidney cell line 293-derived))の一過性トランスフェクションによって、抗体鎖を生じさせた。トランスフェクションには、「293フェクチン」トランスフェクション試薬(Invitrogen)を使用した。抗体鎖は、完全長重鎖(ペルツズマブ-ノブまたはトラスツズマブ-ホールのいずれか)、対応する完全長軽鎖、およびノブとしてまたはホール変種としてのN末端オリゴグリシン配列の内の1つを含む重鎖Fc領域ポリペプチドをコードする3種の異なるプラスミドから発現させた。これら3種のプラスミドは、トランスフェクションの際、等モルのプラスミド比で使用した。トランスフェクションは、製造業者の取扱い説明書で指定されたようにして実施した。トランスフェクション後7日目に、抗体Fc領域を含む細胞培養上清を回収した。精製するまで、上清を凍結して保存した。
【0226】
抗体Fc領域を含む培養上清をろ過し、2回のクロマトグラフィー工程によって精製した。PBS(1mM KH2PO4、10mM Na2HPO4、137mM NaCl、2.7mM KCl)、pH7.4で平衡にしたHiTrap MabSelectSuRe(GE Healthcare)を用いたアフィニティークロマトグラフィーによって、抗体Fc領域を捕捉した。平衡緩衝液で洗浄することによって、未結合タンパク質を除去し、0.1Mクエン酸緩衝液、pH3.0を用いて抗体Fc領域を回収した。溶離の直後に、1M Tris塩基、pH9.0を用いて溶液をpH6.0に中和した。Superdex 200(商標)(GE Healthcare)を用いたサイズ排除クロマトグラフィーを、2回目の精製工程として使用した。サイズ排除クロマトグラフィーは、40mM Tris-HCl緩衝液、0.15M NaCl、pH7.5中で実施した。溶出した抗体Fc領域を、Biomax-SK膜(Millipore, Billerica, MA)が装備されたUltrafree-CL遠心ろ過装置を用いて濃縮し、-80℃で保存した。
【0227】
280nmにおける光学濃度(OD)を測定し、アミノ酸配列に基づいて算出したモル吸光係数を用いることによって、抗体Fc領域のタンパク質濃度を決定した。還元剤(5mM 1.4-ジチオトレイトール(dithiotreitol))の存在下および非存在下でのSDS-PAGEならびにクーマシーブリリアントブルーを用いた染色によって、精製および適切な抗体Fc領域形成を解析した。
【0228】
実施例3
C末端LPX1TGモチーフを含む抗体Fab断片の一過性発現、精製、および分析的特徴決定
F17培地(Invitrogen Corp.)中で培養したHEK293細胞(ヒト胎児由来腎臓細胞株293に由来(human embryonic kidney cell line 293-derived))の一過性トランスフェクションによって、抗体Fab断片を生じさせた。トランスフェクションには、「293フェクチン」トランスフェクション試薬(Invitrogen)を使用した。抗体Fab断片は、完全長軽鎖(ペルツズマブまたはトラスツズマブのいずれか)およびC末端LPX1TG配列の内の1つを含む対応する短縮型重鎖をコードする、2種の異なるプラスミドから発現させた。これら2種のプラスミドは、トランスフェクションの際、等モルのプラスミド比で使用した。トランスフェクションは、製造業者の取扱い説明書で指定されたようにして実施した。トランスフェクション後7日目に、Fab断片を含む細胞培養上清を回収した。精製するまで、上清を凍結して保存した。
【0229】
Fab断片を含む培養上清をろ過し、2回のクロマトグラフィー工程によって精製した。PBSおよび20mMイミダゾール(1mM KH2PO4、10mM Na2HPO4、137mM NaCl、2.7mM KCl、20mMイミダゾール)、pH7.4で平衡化したHisTrap HP Ni-NTAカラム(GE Healthcare)を用いたアフィニティークロマトグラフィーによって、Fab断片を捕捉した。平衡緩衝液で洗浄することによって、未結合タンパク質を除去した。ヒスチジンタグ付きタンパク質を、10カラム容量のPBS中20mM〜400mMイミダゾールの直線勾配(1mM KH2PO4、10mM Na2HPO4、137mM NaCl、2.7mM KCl、400mMイミダゾール)を用いて溶出させた。Superdex 200(商標)(GE Healthcare)を用いたサイズ排除クロマトグラフィーを、2回目の精製工程として使用した。サイズ排除クロマトグラフィーは、40mM Tris-HCl緩衝液、0.15M NaCl、pH7.5中で実施した。Biomax-SK膜(Millipore, Billerica, MA)が装備されたUltrafree-CL遠心ろ過装置を用いてFab断片を濃縮し、-80℃で保存した。
【0230】
280nmにおける光学濃度(OD)を測定し、アミノ酸配列に基づいて算出したモル吸光係数を用いることによって、Fab断片のタンパク質濃度を決定した。還元剤(5mM 1.4-ジチオトレイトール)の存在下および非存在下でのSDS-PAGEならびにクーマシーブリリアントブルーを用いた染色によって、精製および適切なFab形成を解析した。
【0231】
実施例4
ソルターゼAの媒介による抗体Fc領域と結合実体(Fab断片)との連結
ソルターゼの媒介によるペプチド転移反応のために、N末端が短縮された黄色ブドウ球菌ソルターゼAを使用した(Δ1〜59)。反応は、50mM Tris-HCl、150mM NaCl、pH7.5を含む緩衝液(ソルターゼ緩衝液)中で実施した。反応において、VH-CH1重鎖のC末端(...KSC)とソルターゼモチーフのN末端の間に短い連結アミノ酸配列を含まないかまたは2つの異なる短い連結アミノ酸配列を含むVH-CH1重鎖のC末端にソルターゼモチーフ(LPETG)を有するFab断片
と、重鎖Fc領域ポリペプチドのN末端にオリゴグリシンモチーフおよび3種の異なるヒンジ配列(それぞれ、GGCPPC、SEQ ID NO: 17、GGHTCPPC、SEQ ID NO: 18、およびGGGDKTHTCPPC、SEQ ID NO: 19)を有する一アーム抗体とを連結して、抗体Fc領域結合体を得た。反応を実施するために、試薬をすべて、ソルターゼ緩衝液に溶解させた。第1段階において、抗体Fc領域および抗体Fab断片を混合し、続いてソルターゼAおよび5mM CaCl2を添加することによって、反応を開始させた。ピペッティングによって成分を混合し、37℃で72時間インキュベートした。続いて、反応混合物を凍結することによって反応を停止させ、解析するまで-20℃で保存した。
【0232】
Fab:一アーム抗体:ソルターゼのモル比=20:4:1
【0233】
結果
FabのC末端および抗体のN末端それぞれの3種の異なる配列をソルターゼAによって結合して、抗体Fc領域結合体の9種の異なる組合せを得た。結合反応の効率を様々な時点に評価した。このために、ペプチド転移反応の分取物をSDS-PAGEによって解析した。連結効率は、SDS PAGEゲルから濃度測定によって推定した。各配列について、72時間の反応後の結果を表2に示す。
【0234】
(表2)Fab断片と一アーム抗体との結合
図1
図2
図3
図4
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]