特許第6309062号(P6309062)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6309062
(24)【登録日】2018年3月23日
(45)【発行日】2018年4月11日
(54)【発明の名称】ガス検知装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/12 20060101AFI20180402BHJP
【FI】
   G01N27/12 D
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-177067(P2016-177067)
(22)【出願日】2016年9月9日
(62)【分割の表示】特願2012-28773(P2012-28773)の分割
【原出願日】2012年2月13日
(65)【公開番号】特開2016-200610(P2016-200610A)
(43)【公開日】2016年12月1日
【審査請求日】2016年10月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000190301
【氏名又は名称】新コスモス電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健吾
(72)【発明者】
【氏名】長井 孝行
(72)【発明者】
【氏名】金 鎭國
【審査官】 櫃本 研太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−164402(JP,A)
【文献】 特開2005−283558(JP,A)
【文献】 特開2004−101272(JP,A)
【文献】 特開平11−153575(JP,A)
【文献】 特開2005−221464(JP,A)
【文献】 特開昭60−154161(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0209982(US,A1)
【文献】 特開平10−090207(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/00−27/49
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体式ガス検知素子と、当該半導体式ガス検知素子の出力値を下記(I)式に基づいてガスの濃度に換算する換算手段とを備えたガス検知装置。
[数1]
Y=a・log(X+c+1)+b (I)
(式中、Xはガスの濃度、Yは出力値、a,bはそれぞれ定数を示し、cはバックグラウンドノイズによって設定される定数を示す。)
【請求項2】
前記(I)式において、cはバックグラウンドノイズによる前記半導体式ガス検知素子の出力変動分の濃度換算値である請求項1に記載のガス検知装置。
【請求項3】
前記(I)式において、Xは被検知ガスの濃度であり、cはバックグラウンドノイズによる半導体式ガス検知素子の出力変動分を前記被検知ガスの濃度に換算した値である請求項2に記載のガス検知装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体式ガス検知素子を備えたガス検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、半導体式ガス検知素子は、例えば、清浄空気中等、検知対象となるガス(以下、「被検知ガス」と称する場合がある。)が存在しない雰囲気下では、表面に酸素が吸着した状態となっており、この吸着した酸素によって生じる空間電荷層が粒子内部に向かって広がるため、自由電子の伝導パスが狭くなり、電気抵抗が高くなる。一方、被検知ガスが存在する雰囲気下では、半導体式ガス検知素子は、吸着している酸素が被検知ガスとの酸化還元反応によって、その表面から脱離するため、電気抵抗が低くなる。半導体式ガス検知素子を備えたガス検知装置は、この電気抵抗の変化を出力値として取り出すことによって、被検知ガスを検知している。
【0003】
この種の半導体式ガス検知素子の出力値は、検知範囲の低濃度側で大きく変化し、高濃度になるほど濃度に対する出力値の変化量が小さくなる特性を有する。このため、このような半導体式ガス検知素子は、低濃度のガスを検知するのに適しており、特に高感度検知が要求されるガス警報器やガス漏洩検知装置などに多く利用されている。
【0004】
尚、本発明における従来技術となる半導体式ガス検知素子を備えたガス検知装置は、一般的な技術であるため、特許文献等の先行技術文献は記載しない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、前記従来の半導体式ガス検知素子では、その出力値の特徴をセンサ出力値とガス濃度の対数との関係として図式化すると、非線形の関係になるが、この関係を単純な関数で表現する手法がなかった。このため、これまで半導体式ガス検知素子はガス濃度を計測する濃度計としての用途には活用されてこなかった。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、半導体式ガス検知素子の出力値を被検知ガスの濃度として換算できるガス検知装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明に係るガス検知装置の特徴構成は、半導体式ガス検知素子と、当該半導体式ガス検知素子の出力値を下記(I)式に基づいてガスの濃度に換算する換算手段とを備えた点にある。
[数1]
Y=a・log(X+c+1)+b (I)
(式中、Xはガスの濃度、Yは出力値、a,bはそれぞれ定数を示し、cはバックグラウンドノイズによって設定される定数を示す。)
【0008】
本構成によれば、後述する実施例に示すように、雑ガス等による出力値を被検知ガスによる出力値とすることにより、半導体式ガス検知素子の出力値を清浄空気中における被検知ガスの濃度として換算することができる。
このため、清浄空気中に、被検知ガス、雑ガスを含めたガスがどれだけ存在するかを、被検知ガスの濃度を尺度として知ることができる。
【0009】
前記(I)式において、cをバックグラウンドノイズによる前記半導体式ガス検知素子の出力変動分の濃度換算値とすることができる。
【0010】
前記(I)式において、Xを被検知ガスの濃度とし、cをバックグラウンドノイズによる半導体式ガス検知素子の出力変動分を前記被検知ガスの濃度に換算した値とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】各環境下でのエタノール感度を示すグラフである。
図2】バックグラウンドノイズレベルをエタノール濃度に換算したときの感度を示すグラフである。
図3】清浄空気中のエタノール感度と近似式で算出したものとを比較したグラフである。
図4】各ガス種の感度を示すグラフである。
図5】各ガス種の出力値を近似式で換算したものを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係るガス検知装置は、半導体式ガス検知素子と、当該半導体式ガス検知素子の出力値を下記(I)式に基づいてガスの濃度に換算する換算手段とを備えたものである。
【0015】
[数2]
Y=a・log(X+c+1)+b (I)
(式中、Xはガスの濃度、Yは出力値、a,b,cはそれぞれ定数を示す。)
【0016】
本発明者らは、後述する実施例に示すように、環境中の雑ガス等の影響を実験的に確認し、半導体式ガス検知素子の出力値は、雑ガス等の種類に関わらず、被検知ガスの濃度として換算できることに着目し、上記(I)式を導き出した。
【0017】
上記(I)式において、a、b、cは定数であり、適宜設定することができる。一例として、センサを雑ガスがない清浄空気中で4mAとなるように調整し、校正ガスとしてエタノール50ppmで回路出力値が20mAとなるようにスパン調整をする場合で説明する。清浄空気中では、ガス濃度X=0、雑ガスによるノイズ分の校正ガス換算濃度c=0であり、このときY=b=4となる。次に清浄空気バランスのエタノール50ppm中で20mAとなるように調整する場合はY=20、X=50、c=0、b=4であるので、自ずとa=9.37が求まる。
このようにして調整したガスセンサを使用する通常の室内空気中におくと、雑ガスの影響でセンサの出力値Yは必ず4より大きな値となる。この清浄空気中と室内空気中とのセンサ出力の差がバックグラウンドノイズであり、この差の分を校正ガス濃度に換算してc
に代入する。仮にエタノール1ppm相当分のバックグラウンドノイズがある環境でエタ
ノール濃度を計測する場合は、a=9.37、b=4、c=1とし、環境中にエタノールに
よってセンサ出力Yの値が変化したとすると、Yの値からエタノールガス濃度Xが求まることになる。すなわち、室内に雑ガスが共存する環境中でもエタノールの濃度を求めることができる。
【0018】
本発明に係るガス検知装置は、半導体式ガス検知素子の出力値が複数のガス種に基づいている場合に好ましく適用できる。例えば、環境中に複数種類の雑ガスや被検知ガス、水蒸気等が存在し、その濃度が変動する場合でも、清浄空気中における被検知ガスの濃度として、その変化を捉えることができる。特に、複数種類の被検知ガスが存在する場合には、そのうちの一つのガス種に対応するaを用いることにより、そのガス種の濃度として換算することができる。
【0019】
本発明に係るガス検知装置は、ガスの濃度を表示する表示手段を設けることが好ましい。本発明に係るガス検知装置は、清浄空気中のガスの存在を、所定のガス種の濃度変化として表すことができるので、工場、実験室、クリーンルーム等、仕切られた空間のガス濃度を監視し、ユーザーに対してガスの濃度をリアルタイムで表示するガス濃度表示装置として適用できる。
【0020】
本発明において使用する半導体式ガス検知素子は、特に限定されず、例えば、熱線型半導体式ガス検知素子、基板型半導体式ガス検知素子等が挙げられる。これらの半導体式ガス検知素子は、例えば、既知のガス検知回路等に組み込むことにより用いることができる。
【0021】
本発明に係るガス検知装置は、被検知ガスの種類に応じて、半導体式ガス検知素子の種類を適宜選択することができる。このガス検知装置によって検知できるガス種としては、特に制限はなく、例えば、可燃性ガス、毒性ガス、不活性ガス、VOC等が挙げられ、本発明に係るガス検知装置は、例えば、可燃性ガスセンサ、ガス漏れセンサ、ニオイセンサ等として用いることができる。
【実施例】
【0022】
(実施例1)
半導体式ガス検知素子として、酸化スズを感応材料として用いた熱線型半導体式センサを用い、(1)清浄空気中、(2)実験室内の空気中、(3)雑ガス成分として水素を200ppm混入させた実験室内の空気中、(4)雑ガス成分としてトルエン10ppm混入させた実験室内の空気中、(5)雑ガス成分としてエタノールを1ppm混入させた実験室内の空気中、のそれぞれの雰囲気下におけるエタノールの感度を調べ、図1に示した。その結果、低濃度側では環境中の雑ガス(バックグラウンドノイズ)による出力変動は大きいが、エタノールの濃度が高くなるとバックグラウンドノイズの影響が小さくなることが分かった。
【0023】
また、図1における清浄空気中のエタノールに対する感度を基準として、バックグラウンドノイズのレベルをエタノールの濃度に換算すると、室内空気中の200ppmの水素に対する出力値はエタノールの濃度の約1ppmに相当し、室内空気中の10ppmのトルエンに対する出力値はエタノールの濃度の約2ppmに相当することが分かった。すなわち、室内空気中における200ppmの水素、及び10ppmのトルエンが半導体式ガス検知素子に与える影響は、それぞれ清浄空気中のエタノール約1ppm、及び約2ppmと同等と見なせることが分かる。したがって、室内空気中に水素200ppmを含む雰囲気下でエタノールが1ppm存在するときには、エタノールの濃度2ppmと同等であると考えることができ、同様にエタノール10ppm、50ppmがそれぞれ存在するときには、エタノールの濃度11ppm、51ppmと同等であると考えることができる。
これによれば、半導体式ガス検知素子において、エタノール濃度が高くなるほどバックグラウンドノイズの影響(比率)が小さくなることも説明できる。
この考えをもとに、バックグラウンドノイズ分をエタノール濃度に換算して加算し、プロットし直したときの感度特性を図2に示した。その結果、異なるバックグラウンドでもエタノール感度曲線が重なることから、環境中の雑ガス等の種類に関わらず、エタノールの濃度に換算して表すことができることが分かった。
【0024】
上記結果から半導体式ガス検知素子の感度特性を数式で表すと、以下の近似式で表せることが分かった。
[数3]
Y=a・log(X+c+1)+b (I)
(式中、Xはガスの濃度、Yは出力値、a,b,cはそれぞれ定数を示す。)
【0025】
次に、上記の(I)式において、エタノールの濃度Xが0ppm(清浄空気)のときの半導体式ガス検知素子の出力値Yが4mVとなることを前提として、b=4、c=0とし、清浄空気中のエタノールの濃度が50ppmのときの出力値が20mVであることに基づいてaを求め、この(I)式で近似したものと清浄空気中のエタノールの実測した感度とをプロットし、図3に示した。その結果、この近似式は実測の感度特性によく合っていることが分かった。
【0026】
(実施例2)
実施例1で説明した手順にてエタノールで校正したガスセンサのそのほかの各種ガスに対する感度も同じ近似式で表現できることを図4図5に示す。図4は各種ガスに対する感度を雑ガスが存在しない清浄空気中で実際に確認した実測データである。式(I)のb=4、c=0であるので、各種ガスの50ppm中の感度からaを求めることができる。そこで実測データから求めたaを式(I)に代入してガス濃度Xの値を適宜代入してセンサ出力値Yを求めてプロットしたものが図5である。両者を比較すると他のガスに対しても実測値とよく一致した結果が得られていることがわかり、式(I)の関数の妥当性が説明できる。このときの各ガスに対応するaの値は、感度の序列を表す指標として用いることができる。
【0027】
したがって、半導体式ガスセンサを用いて環境中の低濃度のガスを連続的にモニタリングする用途において、予め清浄空気中で任意の校正ガスで調整して、式(I)の定数aとbを決めておき、cを0として、センサ出力値Yを式(I)に代入すれば、環境中の不特定のガス濃度を校正ガスの濃度に換算して表現することができる。これにより、例えば校正ガスをトルエンとすれば、環境中に存在するVOCの濃度レベルをトルエン濃度に換算してTVOCとして表現することが可能となる。
【0028】
尚、各種ガスのaの値は、表1に示す通りである。
【表1】
【0029】
また、半導体式ガスセンサを用いて低濃度のガス濃度を計測する用途において、予め清浄空気中で任意の被検知ガスで校正して、式(I)の定数aとbを決めておき、測定環境
中での被検知ガスが存在しない場合(X=0)のセンサ出力値をバックグラウンドノイズと見なしてcを求めてから、a、b、cおよびYを式(I)に代入すれば、水蒸気や雑ガ
スが存在する環境中であっても、センサ出力の変化分を被検知ガスの濃度に換算して表現できるようになる。これにより例えば携帯型のガス濃度計において、屋外などでゼロ調整(cを求めて式(I)に代入する操作)し、室内の空気を計測すれば屋外と室内の空気の清浄の違いを被検知ガスの濃度として表現することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明に係るガス検知装置は、半導体式ガス検知素子の出力値を被検知ガスの濃度として換算できるため、ガス濃度計、ガス警報器、ガス漏れ検知装置等に適用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5