【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構委託研究「次世代自動車向け高効率モーター用磁性材料技術開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
圧粉磁芯等の磁性部品に使用される軟磁性合金の形態としては、所望の形状への成形の容易性から粉末が求められている。ここで特許文献1の軟磁性合金の薄帯から軟磁性粉末を作製する場合には、粉砕工程が別途必要となり、プロセスが煩雑になると同時に球状粉末の作製が難しく成形性に劣るという問題がある。また、特許文献1の軟磁性合金の製造工程において水アトマイズ法やガスアトマイズ後に水で急冷する方法を採用した場合、軟磁性粉末を合金溶湯から直接的に得ることができるため、簡略化された工程で軟磁性粉末を作製できる利点がある。しかしながら、特許文献1の軟磁性合金は防錆性を持たせる元素であるCrを含有していないため、水で処理した際に粉体に錆が発生する可能性があり、作製された軟磁性粉末の信頼性に欠ける。一方、特許文献2の実施例5の軟磁性粉末は、防錆性を持たせる元素であるCrを含有しているが、SiやBを多量に含有していることから軟磁気特性が劣化する可能性がある。
【0005】
そこで、本発明は、防錆性と軟磁気特性とを高度に両立した軟磁性粉末を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、第1の軟磁性粉末として、
不可避不純物を除き組成式Fe
aSi
bB
cP
dCr
eM
fで表される軟磁性粉末であって、
Mは、V、Mn、Co、Ni、Cu、Znから選ばれる1種以上の元素であり、
0at%≦b≦6at%、4at%≦c≦10at%、5at%≦d≦12at%、0at%<e、0.4at%≦f<6at%、且つ、a+b+c+d+e+f=100at%である
軟磁性粉末を提供する。
【0007】
また、本発明は、第2の軟磁性粉末として、第1の軟磁性粉末であって、
請求項1記載の軟磁性粉末であって、
前記MはCuを含んでおり、
M´をV、Mn、Co、Ni、Znから選ばれる1種以上の元素とすると、M
fはCu
gM´
hで表され、
78at%≦a≦85at%、e≦3at%、0.4at%≦g<0.7at%、且つf=g+hである
軟磁性粉末を提供する。
【0008】
また、本発明は、第3の軟磁性粉末として、第2の軟磁性粉末であって、
0.5at%≦g≦0.65at%である
軟磁性粉末を提供する。
【0009】
また、本発明は、第4の軟磁性粉末として、第2又は第3の軟磁性粉末であって、
(0.2e−0.1)at%≦g≦(2e+0.5)at%、且つ(6−2e)at%≦d≦(21−5e)at%である
軟磁性粉末を提供する。
【0010】
また、本発明は、第5の軟磁性粉末として、第1から第4までのいずれかの軟磁性粉末であって、
5at%<d≦10at%、且つ、0.1at%≦eである
軟磁性粉末を提供する。
【0011】
また、本発明は、第6の軟磁性粉末として、第1から第5までのいずれかの軟磁性粉末であって、
6at%<d≦8at%、且つ、0.5at%≦eである
軟磁性粉末を提供する。
【0012】
また、本発明は、第7の軟磁性粉末として、第1から第5までのいずれかの軟磁性粉末であって、
8at%<d≦10at%である
軟磁性粉末を提供する。
【0013】
また、本発明は、第8の軟磁性粉末として、第1から第7までのいずれかの軟磁性粉末であって、
前記Feの3at%以下を、Nb、Zr、Hf、Mo、Ta、W、Ag、Au、Pd、K、Ca、Mg、Sn、Ti、Al、S、C、O、N、Y及び希土類元素から選ばれる1種類以上の元素と置換してなる
軟磁性粉末を提供する。
【0014】
また、本発明は、第9の軟磁性粉末として、第1から第8までのいずれかの軟磁性粉末であって、
79at%≦a≦83.5at%、且つ、e≦1.8at%である
軟磁性粉末を提供する。
【0015】
また、本発明は、第10の軟磁性粉末として、第1から第9までのいずれかの軟磁性粉末であって、
80.5at%≦aである
軟磁性粉末を提供する。
【0016】
また、本発明は、第11の軟磁性粉末として、第1から第10までのいずれかの軟磁性粉末であって、
e≦1.5at%である
軟磁性粉末を提供する。
【0017】
また、本発明は、第12の軟磁性粉末として、第1から第11までのいずれかの軟磁性粉末であって、
e≦1.0at%である
軟磁性粉末を提供する。
【0018】
また、本発明は、第13の軟磁性粉末として、第1から第12までのいずれかの軟磁性粉末であって、
0.1at%≦bである
軟磁性粉末を提供する。
【0019】
また、本発明は、第14の軟磁性粉末として、第1から第13までのいずれかの軟磁性粉末であって、
Al、Ti、S、N、Oの含有量がAl≦0.05質量%、Ti≦0.05質量%、S≦0.5質量%、N≦0.01質量%、O≦1.0質量%である
軟磁性粉末を提供する。
【0020】
また、本発明は、第15の軟磁性粉末として、第1から第14までのいずれかの軟磁性粉末であって、
Al、Ti、S、N、Oの含有量がAl≦0.005質量%、Ti≦0.005質量%、S≦0.05質量%、N≦0.002質量%、O≦0.3質量%である
軟磁性粉末を提供する。
【0021】
また、本発明は、第16の軟磁性粉末として、第1から第15までのいずれかの軟磁性粉末であって、
平均粒径が200μm以下である
軟磁性粉末を提供する。
【0022】
また、本発明は、第17の軟磁性粉末として、第1から第16までのいずれかの軟磁性粉末であって、
非晶質相が90%以上含まれている
軟磁性粉末を提供する。
【0023】
また、本発明は、第18の軟磁性粉末として、第1から第17までのいずれかの軟磁性粉末であって、
タップ密度が3.5g/cm
3以上である
軟磁性粉末を提供する。
【0024】
また、本発明は、第19の軟磁性粉末として、第1から第18までのいずれかの軟磁性粉末であって、
前記軟磁性粉末はナノ結晶を含有しており、
前記ナノ結晶の結晶化度は35%以上である
軟磁性粉末を提供する。
【0025】
また、本発明は、第20の軟磁性粉末として、第19の軟磁性粉末であって、
前記ナノ結晶におけるbcc相以外の化合物相の結晶化度が5%以下である
軟磁性粉末を提供する。
【0026】
また、本発明は、第1の圧粉磁芯として、第1から第20までのいずれかの軟磁性粉末を用いた
圧粉磁芯を提供する。
【0027】
また、本発明は、圧粉磁芯の第1の製造方法として、第1から第20までのいずれかの軟磁性粉末と結合剤との混合物を製造する工程と、前記混合物を加圧成型して成型体を製造する工程と、前記成型体を熱処理する工程とを備える
圧粉磁芯の製造方法を提供する。
【0028】
また、本発明は、インダクタの磁芯の第1の製造方法として、第1から第20までのいずれかの軟磁性粉末と結合剤との混合物を製造する工程と、前記混合物とコイルとを一体で加圧成型して成型体を製造する工程と、前記成型体を熱処理する工程とを備える
インダクタの磁芯の製造方法を提供する。
【0029】
また、本発明は、第1の磁性部品として、第1から第20までのいずれかの軟磁性粉末を用いた
磁性部品を提供する。
【発明の効果】
【0030】
本発明による軟磁性粉末は、所定範囲のFe、Si、B、P、Cr及びM(V、Mn、Co、Ni、Cu、Znから選ばれる1種以上の元素)を含んでいるため、Crを含む酸化被膜が粉体の表面に形成されており、且つ、非晶質相を高い割合で含有することができる。これにより、本発明の軟磁性粉末においては、防錆性と軟磁気特性とが高度に両立されている。また、本発明の軟磁性粉末は防錆性を有していることから、本発明の軟磁性粉末の製造工程においては、量産性に優れ冷却性能の高い水などの冷媒を用いた急冷方法を採用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本実施の形態による軟磁性粉末は、不可避不純物を除き組成式Fe
aSi
bB
cP
dCr
eM
fで表される。組成式Fe
aSi
bB
cP
dCr
eM
fにおいて、Mは、V、Mn、Co、Ni、Cu、Znから選ばれる1種以上の元素であり、0at%≦b≦6at%、4at%≦c≦10at%、5at%≦d≦12at%、0at%<e、0.4at%≦f<6at%、且つ、a+b+c+d+e+f=100at%である。
【0033】
本実施の形態の軟磁性粉末は、様々な磁性部品や圧粉磁芯、インダクタの磁芯を作製するための直接的な材料として使用可能である。
【0034】
本実施の形態の軟磁性粉末は、アトマイズ法等の製造方法によって作製することができる。このようにして作製された軟磁性粉末は、非晶質相(アモルファス相)を主相としている。また本発明の軟磁性粉末は、ナノ結晶を含有していることが好ましい。ここで、ナノ結晶を含有する軟磁性粉末は、後述のように軟磁性粉末に所定の熱処理条件による熱処理を施してbccFe(αFe)のナノ結晶を析出させることにより得られる。
【0035】
一般的に、軟磁性粉末をArガス雰囲気のような不活性雰囲気中で熱処理した場合、2回以上結晶化される。最初に結晶化が開始する温度を第1結晶化開始温度(Tx1)といい、2回目の結晶化が開始する温度を第2結晶化開始温度(Tx2)という。また、第1結晶化開始温度(Tx1)と第2結晶化開始温度(Tx2)の間の温度差をΔT=Tx2−Tx1という。第1結晶化開始温度(Tx1)は、αFeのナノ結晶析出の発熱ピークであり、第2結晶化開始温度(Tx2)は、FeBやFeP等の化合物析出の発熱ピークである。これらの結晶化開始温度は、例えば、示差走査熱量分析(DSC)装置を使用して、40℃/分程度の昇温速度で熱分析を行うことで評価可能である。
【0036】
軟磁性粉末においてαFeのナノ結晶を析出させるためには、化合物相の析出を抑制するように、第2結晶化開始温度(Tx2)以下の温度で熱処理することが望ましい。ここでΔTが大きい場合、所定の熱処理条件における熱処理が容易になる。このため、熱処理によってαFeのナノ結晶のみを析出させて良好な軟磁気特性の軟磁性粉末を得ることができる。即ち、ΔTが大きくなるように軟磁性粉末の元素組成を調整して熱処理することにより、軟磁性粉末に含まれるαFeのナノ結晶組織が安定し、αFeのナノ結晶を含む軟磁性粉末を備える圧粉磁芯やインダクタの磁芯のコアロスも低減することとなる。
【0037】
以下、本実施の形態による軟磁性粉末の組成範囲について更に詳しく説明する。
【0038】
本実施の形態による軟磁性粉末において、Fe元素は主元素であり、磁性を担う必須元素である。軟磁性粉末の飽和磁束密度Bsの向上及び原料価格の低減のためには、基本的にはFeの割合が多い方が好ましい。Feの割合は、軟磁性粉末において高い飽和磁束密度Bsを得るため、78at%以上とすることが好ましく、また85at%以下とすることが好ましい。Feの割合が78at%以上の場合、上述の効果に加えて、ΔTを大きくできる。Feの割合の増加により飽和磁束密度Bsを更に向上させるため、79at%以上であることがより好ましく、80.5at%以上が更に好ましい。しかしながら、Feの割合が85at%を超えると、Fe量が過多となって非晶質相が90%以上の軟磁性粉末が得られない。また非晶質相の割合が高い軟磁性粉末を安定的に得るためには、Feの割合を83.5at%以下とすることが好ましい。
【0039】
本実施の形態による軟磁性粉末において、Si元素は非晶質相形成を担う元素であり、ナノ結晶化にあたってはナノ結晶の安定化に寄与する。Siの割合は、圧粉磁芯やインダクタの磁芯のコアロスを低減するため、6at%以下(ゼロを含む)とする必要がある。Siの割合が6at%を超えるとSi量が過多のためアモルファス形成能が低下し非晶質相が90%以上の軟磁性粉末が得られない。一方、少量のSi量においてもアモルファス形成能の向上に効果があることや、原料の溶解時の安定性を考慮すると、Siを含有することが好ましく、Siの割合は0.1at%以上であることがより好ましい。加えて、Siの割合は、ΔTを大きくするため、2at%以上であることがより好ましい。
【0040】
本実施の形態による軟磁性粉末において、B元素は非晶質相形成を担う必須元素である。Bの割合は、軟磁性粉末の非晶質相を90%以上として圧粉磁芯やインダクタの磁芯のコアロスを低減するため、4at%以上かつ10at%以下とする必要がある。Bの割合が10at%を超えると、合金溶湯の融点が急激に高くなり製造上好ましくなく、アモルファス形成能も低下する。一方、Bの割合が4at%より小さくなると、メタロイド元素であるSi、B、Pのバランスが悪くなりアモルファス形成能が低下する。
【0041】
本実施の形態による軟磁性粉末において、P元素は非晶質相形成を担う必須元素である。前述のように、本実施の形態によるPの割合は、5at%以上且つ12at%以下である。Pの割合が5at%以上となると、アモルファス形成能が向上して非晶質相が多くなり、安定した軟磁気特性が得られる。一方、Pの割合が12at%を超えると、メタロイド元素であるSi、B、Pのバランスが悪くなりアモルファス形成能が低下すると同時に飽和磁束密度Bsが著しく低下する。またPの割合を10at%以下にすると、飽和磁束密度Bsの低下が抑制できるため好ましい。更に、Pの割合を8at%以下にすると、熱処理後に均一なナノ組織が得られやすく、良好な軟磁気特性を得られるため、より好ましい。一方、Pの割合が5at%を超えると、アモルファス形成能が向上してより安定な軟磁気特性が得られるため好ましい。また、Pの割合が、6at%を超えると耐食性が著しく向上し、8at%を超えるとアトマイズ時の軟磁性粉末の球状化が進むため充填率が向上し、また耐食性が更に高まって、熱処理後に均一なナノ組織が得られやすいため、より好ましい。
【0042】
本実施の形態による軟磁性粉末において、Cr元素は防錆性に寄与する必須元素である。前述のように、本実施の形態によるCrの割合は、0at%よりも大きい。詳しくは、Crの割合が0at%よりも大きい場合、軟磁性粉末の粉体の表面に酸化被膜が形成されるため防錆性が付与され、また非晶質相の割合が向上する。軟磁性粉末の粉体の表面に酸化被膜が形成されるため、軟磁性粉末を水を用いた冷却法で作製する場合においても、作製された軟磁性粉末の粉体の表面に錆が生じることはない。一方、Crの割合は、軟磁性粉末において高い飽和磁束密度Bsを得るため3at%以下とすることが好ましく、コアロスの低減を考慮すると1.8at%以下とするのがより好ましい。また、Crの割合は、高い飽和磁束密度Bsを得るためには1.5at%以下とすることが好ましく、より高い飽和磁束密度Bsを得るためには1.0at%以下とすることがより好ましい。加えて、Crの割合は、防錆性を向上させるため、0.1at%以上であることが好ましく、0.5at%以上がより好ましい。
【0043】
本実施の形態による軟磁性粉末において、M元素は必須元素である。本実施の形態によるMの割合は、0.4at%以上かつ6at%未満である。M元素とP元素との同時添加により、耐食性が著しく向上する。詳しくは、Mの割合は、軟磁性粉末におけるナノ結晶の粗大化を防止して圧粉磁芯において所望のコアロスを得るため、0.4at%以上とする必要があり、十分なアモルファス形成能によって非晶質相を90%以上とするため、6at%未満とする必要がある。
【0044】
本実施の形態のM元素には、Cuを0.4at%以上且つ0.7at%未満で含むことが好ましい。より詳しくは、M´をV、Mn、Co、Ni、Znから選ばれる1種以上の元素とすると、M
fはCu
gM´
hで表され、0.4at%≦g<0.7at%、且つf=g+hを満たしていることが好ましい。M元素が上記の条件を満たすことにより、軟磁性粉末において防錆性の向上及びアモルファス形成能の増大が更に図られることとなる。Cuの割合を0.7at%未満とすると、非晶質相の割合の高い粉末が得られるため好ましく、0.65at%以下がより好ましい。また、Cuの割合を0.4at%以上とすると、αFeのナノ結晶の析出量が多くなり均一なナノ組織を得やすいので好ましく、0.5at%以上とすると、耐食性が著しく向上すると共にαFeのナノ結晶の析出量が更に増加して軟磁気特性が向上するため、より好ましい。
【0045】
本実施の形態の軟磁性粉末においては、前述のように、Crの割合はe(at%)であるが、ここでCuの割合は(0.2e−0.1)at%以上であり、且つ、(2e+0.5)at%以下であることが好ましい。また、Pの割合は、(6−2e)at%以上であり、且つ、(21−5e)at%以下であることが好ましい。Cu及びPの割合をCrの割合e(at%)に対して上記のように設定することにより、防錆性と軟磁気特性とをより高度に両立することができる。
【0046】
本実施の形態による軟磁性粉末は、Feの3at%以下を、Nb、Zr、Hf、Mo、Ta、W、Ag、Au、Pd、K、Ca、Mg、Sn、Ti、Al、S、C、O、N、Y及び希土類元素から選ばれる1種類以上の元素と置換してなるものが好ましい。このような元素が含まれることにより、熱処理後の均一なナノ結晶化が容易となる。
【0047】
本実施の形態の軟磁性粉末に含まれる微量元素のうち、Al、Ti、S、N、Oは、原料や製造工程から混入する微量元素であるため、軟磁性粉末がこれらの微量元素を様々な含有量で含有する可能性がある。また、これらの微量元素は、製造される軟磁性粉末の軟磁気特性に影響を与えるものである。よって、製造される軟磁性粉末において良好な軟磁気特性を得るためには、軟磁性粉末に含まれるこれらの微量元素の含有量を制御する必要がある。
【0048】
Alは、Fe−PやFe−Bなどの工業原料を用いることにより、製造される軟磁性粉末に混入する微量元素であり、Alの軟磁性粉末への混入は非晶質の割合や軟磁気特性の低下を招来する。よって、Alの含有量は、非晶質の割合の低下を避けるため、0.05質量%以下とすることが好ましく、更なる非晶質の割合の向上と軟磁気特性への影響の抑制のため、0.005質量%以下とすることがより好ましい。
【0049】
Tiは、Fe−PやFe−Bなどの工業原料を用いることにより、製造される軟磁性粉末に混入する微量元素であり、Tiの軟磁性粉末への混入は非晶質の割合や軟磁気特性の低下を招来する。よって、Tiの含有量は、非晶質の割合の低下を避けるため、0.05質量%以下にすることが好ましく、更なる非晶質の割合の向上と軟磁気特性への影響の抑制のため、0.005質量%以下とすることがより好ましい。
【0050】
Sは、Fe−PやFe−Bなどの工業原料を用いることにより、製造される軟磁性粉末に混入する微量元素であり、Sの微量添加により軟磁性粉末の球状化を促進する効果がある。しかしながら、Sを過剰に添加した場合、不均一なナノ結晶の組織化や軟磁気特性の低下を招来する。よって、Sの含有量は、軟磁気特性の低下を避けるため、0.5質量%以下にすることが好ましく、0.05質量%以下にすることがより好ましい。
【0051】
Nは、工業原料に由来して、あるいは、アトマイズや熱処理時に空気中から軟磁性粉末に混入する微量元素であり、Nの軟磁性粉末への混入は、非晶質の割合の低下、成型時の充填性の悪化及び軟磁気特性の低下を招来する。よって、Nの含有量は、非晶質の割合や軟磁気特性の低下を抑制するため、0.01質量%以下とすることが好ましく、0.002質量%以下とすることがより好ましい。
【0052】
Oは、工業原料に由来して、あるいは、アトマイズ時や乾燥時に空気中から軟磁性粉末に混入する微量元素であり、Оの軟磁性粉末への混入は、軟磁性粉末の非晶質の割合の低下、成型時の充填性の悪化及び軟磁気特性の低下を招来する。よって、Oの含有量は、非晶質の割合の低下を抑制するため、1.0質量%以下とすることが好ましく、また、軟磁性粉末の充填性の悪化や軟磁気特性の低下を抑制するため、0.3質量%以下とすることがより好ましい。なお本実施の形態においては、Crを含む酸化被膜が軟磁性粉末の粉体の表面に形成されているため、微量のOが軟磁性粉末に意図的に含有されている。また、このような酸化被膜に加えて、軟磁性粉末の表面に樹脂やセラミックなどにより絶縁性被覆を形成することにより、軟磁性粉末間の絶縁性を向上させてもよく、またこれらの酸化被膜及び絶縁性被覆を含めて、Oの含有量は1.0質量%を超えてもよい。
【0053】
以下、本実施の形態における軟磁性粉末、圧粉磁芯、磁性部品及びインダクタの磁芯の製造方法を説明しつつ、更に詳しく説明する。
【0054】
本実施の形態による軟磁性粉末は、様々な製造方法で作製できる。例えば、軟磁性粉末は、水アトマイズ法やガスアトマイズ法のようなアトマイズ法によって作製してもよい。なお、本実施の形態の軟磁性粉末は、防錆性を付与するCrを含有しているため、水を用いた冷却法で作製しても粉体の表面に錆を生じることはない。アトマイズ法による粉末作製工程において、まず、原料を準備する。次に、原料を、所定の組成になるように秤量し、溶解して合金溶湯を作製する。このとき、本実施の形態の軟磁性粉末は、融点が低いため、溶解のための消費電力を削減できる。次に、合金溶湯をノズルから排出して、高圧のガスや水を使用して合金溶滴に分断し、これにより微細な軟磁性粉末を作製する。
【0055】
上述の粉末作製工程において、分断に使用するガスは、アルゴンや窒素などの不活性ガスであってもよい。また、冷却速度を向上させるため、分断直後の合金溶滴を冷却用の液体や固体に接触させて急冷してもよいし、合金溶滴を再分断して更に微細化してもよい。冷却用に液体を使用する場合、例えば水や油を使用してもよい。冷却用に固体を使用する場合、例えば回転銅ロールや回転アルミ板を使用してもよい。但し、冷却用の液体や固体は、これに限定されず、様々な材料を使用できる。なお、本実施の形態の軟磁性粉末は防錆性を付与するCrを含有しているため、量産性に優れた水を用いた冷却法を採用することができる。
【0056】
また上述の粉末作製工程において、作製条件を変えることにより、軟磁性粉末の粉末形状及び粒径を調整できる。本実施の形態によれば、合金溶湯の粘性が低いため、軟磁性粉末を球形状に作製しやすい。本実施の形態の軟磁性粉末の平均粒径は、200μm以下であることが好ましく、非晶質化度を向上させるためには100μm以下であることがより好ましい。また、軟磁性粉末の粒度分布が極端に広い場合には、望ましくない粒度偏析を引き起こす原因となり得る。このため、軟磁性粉末の最大粒径は、200μm以下であることが好ましい。また本実施の形態の軟磁性粉末は、非晶質相を90%以上含んでいることが好ましい。これにより、本実施の形態の軟磁性粉末は、優れた軟磁気特性を有している。加えて本実施の形態の軟磁性粉末は、タップ密度が3.5g/cm
3以上である。これにより、本実施の形態の軟磁性粉末を用いて圧粉磁芯等を作製した場合、充填率を高くすることができる。
【0057】
上記の軟磁性粉末の粒径は、レーザー粒度分布計によって評価できる。軟磁性粉末の平均粒径は、評価した粒径から算出できる。X線回析結果のピーク位置から、αFe(−Si)相、化合物相などの析出相を同定できる。また、タップ密度の試験方法は、規格JIS Z2512(金属粉−タップ密度測定方法)に従う。
【0058】
また上述の粉末作製工程から作製された軟磁性粉末を、前述のように熱処理した場合、αFeのナノ結晶が軟磁性粉末中に析出するため、ナノ結晶を含む軟磁性粉末を作製することができる。なお、この熱処理は、前述のように、化合物相を析出させないように、第2結晶化開始温度(Tx2)以下で行う必要がある。また、この熱処理は、アルゴンや窒素などの不活性雰囲気中において300℃以上の温度下で行うことが好ましい。但し、軟磁性粉末の表面に酸化層を形成して耐食性や絶縁性を向上させるため、部分的に酸化雰囲気中で熱処理してもよい。また、軟磁性粉末の表面状態を改善するため、部分的に還元雰囲気中で熱処理してもよい。
【0059】
上記の熱処理により軟磁性粉末中に析出したαFeのナノ結晶の平均粒径が50nmを超えると、結晶磁気異方性が大きくなり軟磁気特性が劣化する。また、αFeのナノ結晶の平均粒径が40nmを超えると、軟磁気特性が多少低下する。従って、αFeのナノ結晶の平均粒径は、50nm以下であることが好ましく、40nm以下であることがより好ましい。
【0060】
また上記の熱処理により軟磁性粉末中に析出したαFeのナノ結晶の結晶化度が35%以上の場合、飽和磁束密度Bsが1.6T以上に向上する。従って、αFeのナノ結晶の結晶化度は、35%以上であることが好ましい。更に、上記の熱処理により軟磁性粉末中に析出したαFeのナノ結晶におけるbcc相以外の化合物相の結晶化度は、軟磁気特性の低下の抑制の観点から、7%以下が好ましく、5%以下がより好ましく、3%以下が更に好ましい。
【0061】
上記のαFeのナノ結晶の平均粒径及び結晶化度、並びにαFeのナノ結晶におけるbcc相以外の化合物相の結晶化度は、X線回析(XRD:X‐ray diffraction)による測定結果をWPPD法(Whole-powder-pattern decomposition method)によって解析することで算出できる。また、飽和磁束密度Bsは、振動試料型磁力計(VSM:Vibrating Sample Magnetometer)を使用して測定された飽和磁化と、密度から算出できる。
【0062】
上述の粉末作製工程から作製された軟磁性粉末を使用して、圧粉磁芯を製造することができる。例えば、軟磁性粉末を所定の形状に成型した後に所定の熱処理条件による熱処理を施すことで、圧粉磁芯を製造できる。また、この圧粉磁芯を使用して、トランス、インダクタ、モーターや発電機などの磁性部品を製造することができる。以下、軟磁性粉末を使用した本実施の形態の圧粉磁芯の製造方法について説明する。
【0063】
本実施の形態の圧粉磁芯の製造方法は、本実施の形態の軟磁性粉末と結合剤との混合物を製造する工程と、この混合物を加圧成型して成型体を製造する工程と、この成型体を熱処理する工程とを備えている。
【0064】
まず軟磁性粉末と結合剤との混合物を製造する工程として、本実施の形態の軟磁性粉末を、樹脂等の絶縁性が良好な結合剤と混合して混合物(造粒粉)を得る。ここで結合剤として樹脂を使用する場合、例えば、シリコーン、エポキシ、フェノール、メラミン、ポリウレタン、ポリイミド、ポリアミドイミドを使用してもよい。絶縁性や結着性を向上させるために、樹脂に代えて、又は、樹脂と共に、リン酸塩、ホウ酸塩、クロム酸塩、酸化物(シリカ、アルミナ、マグネシア等)、無機高分子(ポリシラン、ポリゲルマン、ポリスタナン、ポリシロキサン、ポリシルセスキオキサン、ポリシラザン、ポリボラジレン、ポリホスファゼンなど)などの材料を結合剤として使用してもよい。また、複数の結合剤を併用しても良く、異なる結合剤によって2層またはそれ以上の多層構造の被覆を形成しても良い。なお、圧粉磁芯の製造においては、上述のように成型体を熱処理する工程を有していることから、耐熱性の高い結合剤を使用することが好ましい。結合剤の量は、一般的には、0.1〜10質量%程度が好ましく、絶縁性及び充填率を考慮すると、0.3〜6質量%程度が好ましい。但し、結合剤の量は、粉末粒径、適用周波数、用途等を考慮して適切に決定すればよい。
【0065】
次に、混合物を加圧成型して成型体を製造する工程として、造粒粉を金型を使用して加圧成型して成型体を得る。ここで造粒粉を加圧成型する際、充填性を向上させると共にナノ結晶化における発熱を抑制するため、本実施の形態による軟磁性粉末よりも軟質のFe、FeSi、FeSiCr、FeSiAl、FeNi、カルボニル鉄粉等の粉末を1種類以上混ぜてもよい。また、上記の軟質粉末に代えて、又は、上記の軟質粉末と共に、本実施の形態による軟磁性粉末とは粒径の異なる任意の軟磁性粉末を混ぜても良い。このとき、本実施の形態による軟磁性粉末に対する混合量は、75質量%以下であることが好ましい。
【0066】
その後、成型体に所定の熱処理条件による熱処理を施す。この熱処理により、軟磁性粉末中にαFeのナノ結晶が析出する。この熱処理は、上述の軟磁性粉末に対する熱処理と同様であり、第2結晶化開始温度(Tx2)以下で行う必要がある。また、この熱処理は、アルゴンや窒素などの不活性雰囲気中において300℃以上の温度下で行うことが好ましい。但し、成型体の表面に酸化層を形成して耐食性や絶縁性を向上させるため、部分的に酸化雰囲気中で熱処理してもよい。また、成型体の表面状態を改善するため、部分的に還元雰囲気中で熱処理してもよい。
【0067】
上述の熱処理により圧粉磁芯を構成する軟磁性粉末中に析出したαFeのナノ結晶の平均粒径が50nmを超えると、結晶磁気異方性が大きくなり軟磁気特性が劣化する。また、αFeのナノ結晶の平均粒径が40nmを超えると、軟磁気特性が多少低下する。従って、αFeのナノ結晶の平均粒径は、50nm以下であることが好ましく、40nm以下であることがより好ましい。
【0068】
上述の熱処理により圧粉磁芯を構成する軟磁性粉末中に析出したαFeのナノ結晶の結晶化度が35%以上の場合、圧粉磁芯の飽和磁束密度が向上し、磁歪が低減できる。また、上述の熱処理により圧粉磁芯を構成する軟磁性粉末中に析出したαFeのナノ結晶におけるbcc相以外の化合物相の結晶化度は、圧粉磁芯のコアロス低減の観点から、7%以下が好ましく、5%以下がより好ましく、3%以下が更に好ましい。
【0069】
上記のαFeのナノ結晶の平均粒径及び結晶化度、並びにαFeのナノ結晶におけるbcc相以外の化合物相の結晶化度は、X線回析(XRD:X‐ray diffraction)による測定結果をWPPD法(Whole-powder-pattern decomposition method)によって解析することで算出できる。
【0070】
本実施の形態における圧粉磁芯は、熱処理していない軟磁性粉末を原料として製造されているが、本発明はこれに限定されず、予め熱処理してαFeのナノ結晶を析出させた軟磁性粉末を原料として圧粉磁芯を製造してもよい。この場合、上述の圧粉磁芯の製造工程と同様に、造粒および加圧成型を行うことで圧粉磁芯を製造することができる。
【0071】
上述の粉末作製工程から作製された軟磁性粉末を使用して、インダクタの磁芯を製造することもできる。以下、軟磁性粉末を使用した本実施の形態のインダクタの磁芯の製造方法について説明する。
【0072】
本実施の形態のインダクタの磁芯の製造方法は、本実施の形態の軟磁性粉末と結合剤との混合物を製造する工程と、この混合物とコイルとを一体で加圧成型して成型体を製造する工程と、この成型体を熱処理する工程とを備えている。
【0073】
本実施の形態の軟磁性粉末と結合剤との混合物を製造する工程は、上述の圧粉磁芯の製造方法と同様であり、詳細な説明は省略する。
【0074】
混合物とコイルとを一体で加圧成型して成型体を製造する工程としては、予め金型内にコイルを設置した後、混合物(造粒粉)を金型に入れて、混合物(造粒粉)とコイルとを一体で加圧成型して成型体を得る。ここで混合物(造粒紛)とコイルとを一体で加圧成型する際、充填性を向上させると共にナノ結晶化における発熱を抑制するため、本実施の形態による軟磁性粉末よりも軟質のFe、FeSi、FeSiCr、FeSiAl、FeNi、カルボニル鉄粉等の粉末を1種類以上混ぜてもよい。また、上記の軟質粉末に代えて、又は、上記の軟質粉末と共に、本実施の形態による軟磁性粉末とは粒径の異なる任意の軟磁性粉末を混ぜても良い。このとき、本実施の形態による軟磁性粉末に対する混合量は、75質量%以下であることが好ましい。
【0075】
成型体を熱処理する工程についても、上述の圧粉磁芯の製造方法と同様であり、詳細な説明は省略する。
【0076】
上述の熱処理によりインダクタの磁芯を構成する軟磁性粉末中に析出したαFeのナノ結晶の平均粒径が50nmを超えると、結晶磁気異方性が大きくなり軟磁気特性が劣化する。また、αFeのナノ結晶の平均粒径が40nmを超えると、軟磁気特性が多少低下する。従って、αFeのナノ結晶の平均粒径は、50nm以下であることが好ましく、40nm以下であることがより好ましい。
【0077】
上述の熱処理によりインダクタの磁芯を構成する軟磁性粉末中に析出したαFeのナノ結晶の結晶化度が35%以上の場合、圧粉磁芯の飽和磁束密度が向上し、磁歪が低減できる。また、上述の熱処理によりインダクタの磁芯を構成する軟磁性粉末中に析出したαFeのナノ結晶におけるbcc相以外の化合物相の結晶化度は、インダクタの磁芯のコアロス低減の観点から、7%以下が好ましく、5%以下がより好ましく、3%以下が更に好ましい。
【0078】
上記のαFeのナノ結晶の平均粒径及び結晶化度、並びにαFeのナノ結晶におけるbcc相以外の化合物相の結晶化度は、上述の圧粉磁芯の場合と同様に測定することができる。
【0079】
本実施の形態におけるインダクタの磁芯は、熱処理していない軟磁性粉末を原料として製造されているが、本発明はこれに限定されず、予め熱処理してαFeのナノ結晶を析出させた軟磁性粉末を原料としてインダクタの磁芯を製造してもよい。この場合、上述のインダクタの磁芯の製造工程と同様に、造粒および加圧成型を行うことでインダクタの磁芯を製造することができる。
【0080】
以上のように作製した本実施の形態の圧粉磁芯及びインダクタの磁芯には、作製工程に係らず、本実施の形態の軟磁性粉末が用いられている。同様に、本実施の形態の磁性部品には、本実施の形態の軟磁性粉末が用いられている。
【0081】
以下、本発明の実施の形態について、複数の実施例を参照しながら更に詳細に説明する。
【0082】
(実施例1〜12及び比較例1〜8)
下記の表1に記載の実施例1〜12及び比較例1〜8の軟磁性粉末の原料として、工業純鉄、フェロシリコン、フェロリン、フェロボロン、及び電解銅を準備した。原料を表1に記載の実施例1〜12及び比較例1〜8の合金組成となるように秤量し、アルゴン雰囲気中で高周波溶解によって溶解して合金溶湯を作製した。次に、作製された合金溶湯をガスアトマイズした後、冷却水により急冷して、平均粒径50μmの軟磁性粉末を作製した。作製された軟磁性粉末の表面に生じた錆の状態を外観観察し、また、軟磁性粉末の析出相をX線回析(XRD:X‐ray diffraction)によって評価して非晶質相の割合を算出した。また、作製された軟磁性粉末を、電気炉にてアルゴン雰囲気中で表1に示す熱処理温度にて熱処理を行い、熱処理された軟磁性粉末について振動試料型磁力計(VSM)で飽和磁束密度Bsを測定した。作製された軟磁性粉末の測定及び評価の結果を表1に示す。
【0084】
表1に示されるように、Crを含まない比較例1においては、非晶質相が42%と低く、また表面に錆の発生が確認された。またCrを含まないFeアモルファスである比較例7においても、表面に錆の発生が認められた。比較例5はCrを含んでいるが、非晶質相が84%と低かった。また、比較例4はCrを含んでいるが、非晶質相が64%と低く、錆の発生を抑制できなかった。一方、実施例1〜12においては、非晶質相が96〜100%と、全て90%以上の値を示し、また表面に錆の発生も認められなかった。比較例3、5、7及び8においては、飽和磁束密度Bsが、1.32〜1.55Tと、全てにおいて1.55T以下を示した。一方、実施例1〜12においては、飽和磁束密度Bsは、1.56〜1.72Tと、全てにおいて1.56T以上を示した。
【0085】
実施例1〜12及び比較例1〜8の軟磁性粉末から圧粉磁芯を作製した。詳しくは、上述の方法で作製された軟磁性粉末を、2質量%のシリコーン樹脂を使用して造粒し、外径13mm且つ内径8mmの金型を使用して10ton/cm
2の成型圧力によって成型し硬化処理を施した。その後、電気炉にてアルゴン雰囲気中で表1に示す熱処理温度にて熱処理を行い、圧粉磁芯を作製した。得られた圧粉磁芯について、交流BHアナライザーを使用して20kHz−100mTのコアロスを測定した。また、得られた圧粉磁芯について、60℃-90%RHにおける恒温恒湿試験を実施し、外観観察にて腐食状況を確認した。加えて、得られた圧粉磁芯の表面をXRD測定してWPPD法で解析することにより、圧粉磁芯に含まれる軟磁性粉末中のαFeのナノ結晶の平均粒径と結晶化度を算出した。作製された圧粉磁芯の測定及び評価の結果を表2に示す。また、実施例6、7及び8の圧粉磁芯の作製に使用した軟磁性粉末についてDSC分析を行い、得られたDSC曲線からΔTを算出した。
【0087】
表2に示されるように、比較例1〜8のコアロスは、75〜1450kW/m
3と幅広い値を示した。一方、実施例1〜12のコアロスは、70〜160kW/m
3と、全てにおいて低い値を示した。また恒温恒湿試験においては、比較例1、2及び7において腐食が確認されたが、実施例1〜12の全てにおいて腐食は確認されなかった。
【0088】
上記の測定及び評価の結果から、軟磁性粉末中のFeの割合の上限としては、比較例1と比較例2とを非晶質相及び錆の発生の観点から比較すると、85at%以下が好ましいことが理解され、同様に比較例2と実施例1から83.5at%以下がより好ましいことが理解される。また、軟磁性粉末中のFeの割合の下限としては、実施例5と比較例3とを飽和磁束密度Bsの観点から比較すると78at%以上が好ましいことが理解され、同様に実施例4及び実施例5から79at%以上がより好ましいことが理解され、実施例11及び実施例12から80.5at%以上が更に好ましいことが理解される。
【0089】
また上記の測定及び評価の結果から、軟磁性粉末中のSiの割合の下限としては、実施例6と実施例7とをコアロスの観点から比較すると0.1at%以上が好ましいことが理解される。また、軟磁性粉末中のSiの割合の上限としては、実施例9と比較例4とをコアロスの観点から比較すると6at%以下が好ましいことが理解される。
【0090】
実施例6、7及び8の圧粉磁芯の作製に使用した軟磁性粉末についてDSC分析を実施したところ、ΔTが夫々、89℃、93℃及び105℃と算出された。この結果から、Siの割合の増加に伴ってΔTが増大することが理解される。特に、10g程度以上の大型コアを成型する場合には、ΔTが100℃以上となることが好ましいため、Siの割合としては2at%以上がより好ましいことが理解される。
【0091】
また上記の測定及び評価の結果から、軟磁性粉末中のBの割合の上限としては、比較例1と比較例2とを非晶質相およびコアロスの観点から比較すると、10at%以下が好ましいことが理解される。また、軟磁性粉末中のBの割合の下限としては、実施例10と比較例5とを非晶質相およびコアロスの観点から比較すると、4at%以上が好ましいことが理解される。
【0092】
加えて、上記の測定及び評価の結果から、軟磁性粉末中のPの割合の上限としては、実施例10、比較例5、比較例7及び比較例8を飽和磁束密度Bsの観点から比較すると12at%以下が好ましいことが理解され、同様に実施例6、実施例10及び比較例6から10at%以下がより好ましく、実施例5及び比較例3から8at%以下がより好ましいことが理解される。また、軟磁性粉末中のPの割合の下限としては、比較例2及び実施例3をコアロスの観点から比較すると5at%以上であることが好ましいことが理解される。また軟磁性粉末中のPの割合の下限としては、比較例2、実施例1、比較例7及び比較例8をコアロス及び恒温恒湿試験の観点から比較すると、6at%を超えることがより好ましいことが理解される。また、また軟磁性粉末中のPの割合の下限としては、実施例8及び実施例9を非晶質相及びコアロスの観点から比較すると、8at%を超えることが更に好ましいことが理解される。
【0093】
実施例1及び実施例2の圧粉磁芯において、析出したαFeのナノ結晶の平均粒径と結晶化度を算出したところ、実施例1の圧粉磁芯では粒径36nm及び結晶化度51%と算出され、実施例2の圧粉磁芯では粒径29nm及び結晶化度46%と算出された。これにより、実施例1及び実施例2の圧粉磁芯中の軟磁性粉末において、平均粒径が40nm以下であって結晶化度35%以上であるαFeのナノ組織が形成されていることが確認された。
【0094】
(実施例13〜25及び比較例9、10)
下記の表3に記載の実施例13〜25及び比較例9、10の軟磁性粉末の原料として、工業純鉄、フェロシリコン、フェロリン、フェロボロン、及び電解銅を準備した。原料を表3に記載の実施例13〜25及び比較例9、10の合金組成となるように秤量し、アルゴン雰囲気中で高周波溶解によって溶解して合金溶湯を作製した。次に、作製された合金溶湯をガスアトマイズした後、冷却水により急冷して、平均粒径50μmの軟磁性粉末を作製した。作製された軟磁性粉末の表面に生じた錆の状態を外観観察し、また、軟磁性粉末の析出相をX線回析(XRD:X‐ray diffraction)によって評価して非晶質相の割合を算出した。また、作製された軟磁性粉末を電気炉にてアルゴン雰囲気中で表3に示す熱処理温度にて熱処理を行い、熱処理された軟磁性粉末について振動試料型磁力計(VSM)で飽和磁束密度Bsを測定した。作製された軟磁性粉末の測定及び評価の結果を表3に示す。
【0096】
表3に示されるように、Crを含まない比較例9においては、表面に錆の発生が確認された。一方、実施例13〜25においては、表面に錆の発生が概ね認められなかった。飽和磁束密度Bsについては、実施例13〜25においては1.34〜1.74Tであった。
【0097】
実施例13〜25及び比較例9、10の軟磁性粉末から圧粉磁芯を作製した。詳しくは、上述の方法で作製された軟磁性粉末を、2質量%のシリコーン樹脂を使用して造粒し、外径13mm且つ内径8mmの金型を使用して10ton/cm
2の成型圧力によって成型し硬化処理を施した。その後、電気炉にてアルゴン雰囲気中で表3に示す熱処理温度にて熱処理を行い、圧粉磁芯を作製した。得られた圧粉磁芯について、交流BHアナライザーを使用して20kHz−100mTのコアロスを測定した。また、得られた圧粉磁芯について、60℃-90%RHにおける恒温恒湿試験を実施し、外観観察にて腐食状況を確認した。作製された圧粉磁芯の測定及び評価の結果を表4に示す。
【0099】
表4に示されるように、比較例9、10においては、コアロスが290〜660kW/m
3と、幅広い値を示した。一方、実施例13〜25においては、コアロスが75〜420kW/m
3であった。また、恒温恒湿試験においては、比較例9、比較例10及び実施例13において腐食が確認されたが、実施例14〜25の全てにおいて腐食は概ね確認されなかった。
【0100】
上記の測定及び評価の結果において、比較例9と実施例13から、Crをわずかに添加した場合においても、軟磁性粉末における非晶質相の割合が著しく向上し、防錆の効果も発揮されることが理解される。軟磁性粉末中のCrの割合の上限として、実施例21及び実施例22から3at%以下が好ましく、実施例18及び実施例19から1.8at%以下がより好ましく、1.5at%以下が更に好ましく、実施例17及び実施例18を飽和磁束密度Bsの観点から比較すると1at%以下がより好ましいことが理解される。また、軟磁性粉末中のCrの割合の下限として、実施例13及び実施例14から0.1at%以上が好ましいことが理解され、同様に実施例14及び実施例15をコアロスの観点から比較すると0.5at%以上がより好ましいことが理解される。
【0101】
また上記の測定及び評価の結果において、比較例10と実施例24、25から、Cuの含有量の増大と共に防錆性が増大していることが理解される。軟磁性粉末中のCuの割合の上限としては、実施例15と実施例23とを非晶質相及びコアロスの観点から比較すると、0.7at%未満が好ましいことが理解され、実施例15及び実施例16とを非晶質相及びコアロスの観点から比較すると、0.65at%以下がより好ましいことが理解される。また、軟磁性粉末中のCuの割合の下限としては、比較例10と実施例25から0.4at%以上が好ましいことが理解され、実施例24と実施例25から0.5at%以上がより好ましいことが理解される。
【0102】
(実施例26〜36)
下記の表5に記載の実施例26〜36の軟磁性粉末の原料として、工業純鉄、フェロシリコン、フェロリン、フェロボロン、電解銅、フェロクロム、フェロカーボン、ニオブ、モリブデン、Co、Ni、錫、亜鉛、Mnを準備した。原料を表5に記載の実施例26〜36の合金組成となるように秤量し、アルゴン雰囲気中で高周波溶解によって溶解して合金溶湯を作製した。次に、作製された合金溶湯をガスアトマイズした後、冷却水により急冷して、平均粒径50μmの軟磁性粉末を作製した。作製された軟磁性粉末の表面に生じた錆の状態を外観観察し、また、軟磁性粉末の析出相をX線回析(XRD:X‐ray diffraction)によって評価して非晶質相の割合を算出した。また、作製された軟磁性粉末を、電気炉にてアルゴン雰囲気中で表5に示す熱処理温度にて熱処理を行い、熱処理された軟磁性粉末について振動試料型磁力計(VSM)で飽和磁束密度Bsを測定した。作製された軟磁性粉末の測定及び評価の結果を表5に示す。
【0104】
実施例26〜36においては、M元素(Cо、Ni、Cu、Zn、Mn)の添加や、Nb、Mo、Sn、CなどのFeへの置換が行われている。表5に示されるように、実施例26〜36においては、表面に錆の発生は認められず、飽和磁束密度Bsについては1.58〜1.72Tであった。実施例26、29及び31から、CをFeと置換した場合、Feの割合が高い場合においても非晶質の割合を高く維持できることが理解できる。また、実施例32から、Coを添加すると飽和磁束密度Bsが向上することが理解される。
【0105】
実施例26〜36の軟磁性粉末から圧粉磁芯を作製した。詳しくは、上述の方法で作製された軟磁性粉末を、2質量%のシリコーン樹脂を使用して造粒し、外径13mm且つ内径8mmの金型を使用して10ton/cm
2の成型圧力によって成型し硬化処理を施した。その後、電気炉にてアルゴン雰囲気中で表5に示す熱処理温度にて熱処理を行い、圧粉磁芯を作製した。得られた圧粉磁芯について、交流BHアナライザーを使用して20kHz−100mTのコアロスを測定した。また、得られた圧粉磁芯について、60℃-90%RHにおける恒温恒湿試験を実施し、外観観察にて腐食状況を確認した。作製された圧粉磁芯の測定及び評価の結果を表6に示す。
【0107】
表6に示されるように、実施例26〜36においては、コアロスが70〜130kW/m
3と良好な結果を示した。また、恒温恒湿試験においては、実施例26〜36の全てにおいて腐食は概ね確認されなかった。
【0108】
実施例26〜29、31、35に係る上記測定及び評価の結果から、Nb、Mo、Sn、CをFeと3at%以下の範囲で置換しても良好な軟磁気特性や防食性を示すことが理解され、特に、実施例27、28のようにNbやMoへの置換によりコアロスの低減や防錆効果の向上が図られることが理解される。
【0109】
実施例32〜34及び実施例36に係る上記測定及び評価の結果から、Cu以外のM元素を添加しても良好な軟磁気特性や防食性を示すことが理解され、特に、実施例33、34のようにNiやZnを添加すると、防錆効果の向上が図られることが理解される。
【0110】
(実施例37〜45、比較例11)
下記の表7に記載の実施例37〜45、比較例11の軟磁性粉末の原料として、工業純鉄、フェロシリコン、フェロリン、フェロボロン、電解銅、フェロクロムを準備した。原料を表7に記載の実施例37〜45、比較例11の合金組成となるように秤量し、アルゴン雰囲気中で高周波溶解によって溶解して合金溶湯を作製した。次に、作製された合金溶湯をガスアトマイズした後、冷却水により急冷して、平均粒径50μmの軟磁性粉末を作製した。作製された軟磁性粉末を、2質量%のシリコーン樹脂を使用して造粒し、外径13mm且つ内径8mmの金型を使用して10ton/cm
2の成型圧力によって成型し硬化処理を施した。その後、電気炉にてアルゴン雰囲気中で表7に示す熱処理温度にて熱処理を行い、圧粉磁芯を作製した。得られた圧粉磁芯について、交流BHアナライザーを使用して20kHz−100mTのコアロスを測定した。加えて、得られた圧粉磁芯の表面をXRD測定してWPPD法で解析することにより、圧粉磁芯に含まれる軟磁性粉末中のαFeのナノ結晶の平均粒径及び結晶化度、並びにαFeのナノ結晶におけるbcc相以外の化合物相の結晶化度を、夫々算出した。作製された圧粉磁芯の測定及び評価の結果を表7に示す。なお、表7中において、αFeのナノ結晶の平均粒径、αFeのナノ結晶の結晶化度及びαFeのナノ結晶におけるbcc相以外の化合物相の結晶化度を、夫々、αFe結晶粒径、αFe結晶化度及び化合物相結晶化度と表記している。
【0112】
実施例37〜42は、互いに同じ元素組成を有しているが、熱処理条件のみが異なっている。また、実施例43〜45も、互いに同じ元素組成を有しているが、熱処理条件のみが異なっている。表7に示されるように、同じ元素組成を有する軟磁性粉末から作製された圧粉磁芯であっても、熱処理条件の相違により、コアロス、αFeのナノ結晶の結晶粒径及び結晶化度、並びにαFeのナノ結晶におけるbcc相以外の化合物相の結晶化度が、大きく相違することが理解される。
【0113】
表7から、実施例38〜41、44、45のように、熱処理を適切な温度及び時間で実施することにより、αFeのナノ結晶の結晶粒径の低減及び結晶化度の増大、並びにαFeのナノ結晶におけるbcc相以外の化合物相の結晶化度の低減が図られ、圧粉磁芯のコアロスの低減が図られることが理解される。
【0114】
比較例11及び実施例43を、コアロス及びαFeのナノ結晶の結晶粒径の観点から対比すると、比較例11のようにαFeのナノ結晶の結晶粒径が粗大化した場合、コアロスが増大するため、αFeのナノ結晶の結晶粒径は50nm以下が好ましいことが理解される。
【0115】
また、実施例37及び実施例43を、コアロス及びαFeのナノ結晶の結晶化度の観点から対比すると、実施例43のようにαFeのナノ結晶の結晶化度が低い場合、磁歪の低減が十分図られず、コアロスが増大するため、αFeのナノ結晶の結晶化度は35%以上が好ましいことが理解される。
【0116】
更に、実施例40、41、42、45を参照すると、αFeのナノ結晶におけるbcc相以外の化合物相の結晶化度の増大と共に、コアロスが増大することが理解される。従って、実施例40、41、45を参照して、αFeのナノ結晶におけるbcc相以外の化合物相の結晶化度は、7%以下が好ましく、5%以下がより好ましく、3%以下が更に好ましいことが理解される。
【0117】
(実施例46〜66)
下記の表8に記載の実施例46〜66の軟磁性粉末の原料として、工業純鉄、フェロシリコン、フェロリン、フェロボロン、電解銅、フェロクロム及び、Mn、Al、Ti、FeSを準備した。原料を表8に記載の実施例46〜66の合金組成となるように秤量し、アルゴン雰囲気中で高周波溶解によって溶解して合金溶湯を作製した。次に、作製された合金溶湯をガスアトマイズした後、冷却水により急冷して、平均粒径50μmの軟磁性粉末を作製した。
【0119】
実施例46〜66の軟磁性粉末の表面に生じた錆の状態を外観観察し、また、軟磁性粉末の析出相をX線回析(XRD:X‐ray diffraction)によって評価して非晶質相の割合を算出した。また、作製された軟磁性粉末を、電気炉にてアルゴン雰囲気中で表9に示す熱処理温度にて熱処理を行い、熱処理された軟磁性粉末について振動試料型磁力計(VSM)で飽和磁束密度Bsを測定した。作製された軟磁性粉末の測定及び評価の結果を表9に示す。
【0120】
また、実施例46〜66の軟磁性粉末から圧粉磁芯を作製した。詳しくは、上述の方法で作製された軟磁性粉末を、2質量%のシリコーン樹脂を使用して造粒し、外径13mm且つ内径8mmの金型を使用して10ton/cm
2の成型圧力によって成型し硬化処理を施した。その後、電気炉にてアルゴン雰囲気中で表9に示す熱処理温度にて熱処理を行い、圧粉磁芯を作製した。得られた圧粉磁芯について、交流BHアナライザーを使用して20kHz−100mTのコアロスを測定した。また、得られた圧粉磁芯について、60℃-90%RHにおける恒温恒湿試験を実施し、外観観察にて腐食状況を確認した。作製された圧粉磁芯の測定及び評価の結果を表9に示す。
【0122】
実施例46〜66は、Al、Ti、S、N、Oを微量元素として様々な含有量で含有している。また、実施例46〜62は、Fe、Si、B、P、Cu及びCrの元素組成が同一となっている。表9から、非晶質相の割合については、実施例47及び実施例50を除いて、92%以上と高い値を示すことが理解される。また、飽和磁束密度Bsについては、実施例53を除いて、1.58T以上と良好な値を示すことが理解される。更に、コアロスについては、実施例47、実施例50及び実施例59を除いて、220kW/m
3以下と良好な値を示すことが理解される。一方、微量元素のうち、Al、Ti、S、Oの含有量が多い実施例47、実施例50、実施例53及び実施例59の飽和磁束密度Bsは、微量元素の含有量が少ない他の実施例と比べて低いものの、1.54T以上の値を示すことが理解される。
【0123】
実施例46及び実施例47〜49を参照すると、Alの含有量の増大と共に、非晶質の割合及び飽和磁束密度Bsが低下し、且つ、コアロスが増大することが理解される。即ち、Alの含有量は、非晶質の割合、飽和磁束密度Bs及びコアロスの観点から、0.05質量%以下であることが好ましく、またコアロスの低減の観点から0.005質量%以下であることがより好ましいことが理解される。
【0124】
実施例46及び実施例50〜52を参照すると、Tiの含有量の増大と共に、非晶質の割合及び飽和磁束密度Bsが低下し、且つ、コアロスが増大することが理解される。即ち、Tiの含有量は、非晶質の割合、飽和磁束密度Bs及びコアロスの観点から、0.05質量%以下であることが好ましく、またコアロスの低減の観点から0.005質量%以下であることがより好ましいことが理解される。
【0125】
実施例46及び実施例53〜55を参照すると、Sの含有量の増大と共に、非晶質の割合及び飽和磁束密度Bsが低下することが理解される。Sの含有量は、非晶質の割合及び飽和磁束密度Bsの観点から、0.5質量%以下であることが好ましく、また、防食性の観点から0.05質量%以下であることがより好ましいことが理解される。
【0126】
実施例46及び実施例56〜58を参照すると、Nの含有量の増大と共に、非晶質の割合が低下し、且つ、コアロスが増大することが理解される。即ち、Nの含有量は、非晶質の割合及びコアロスの観点から、0.01質量%以下であることが好ましく、0.002質量%以下であることがより好ましいことが理解される。
【0127】
実施例59、実施例60及び実施例61を参照すると、Oの含有量の増大と共に耐食性が低下することが理解される。即ち、Oの含有量は、耐食性の観点から、1質量%以下であることが好ましく、0.3質量%以下であることがより好ましいことが理解される。
【0128】
(インダクタ)
本実施の形態の軟磁性粉末を用いてインダクタを作製し、作製されたインダクタの直流重畳特性の評価を行った。インダクタの製作方法を以下に詳述する。
【0129】
まず、軟磁性粉末の原料として、工業純鉄、フェロシリコン、フェロリン、フェロボロン、及び電解銅を準備した。原料をFe
82.1Si
2.9B
5P
8.8Cu
0.65Cr
0.55の合金組成となるように秤量し、アルゴン雰囲気中で高周波溶解によって溶解して合金溶湯を作製した。次に、作製された合金溶湯をガスアトマイズした後、冷却水により急冷して、平均粒径50μmの軟磁性粉末Aを作製した。また、作製された合金溶湯を水アトマイズにより、平均粒径10μmの軟磁性粉末Bを作製した。作製された2種類の軟磁性粉末A及びBを、A:B=8:2の質量割合で混合したうえで、結合剤としてのシリコーン樹脂を添加してさらに混合し、この軟磁性粉末A,Bと結合剤との混合物を造粒して造粒粉末を作製した。このとき、結合剤であるシリコーン樹脂は、軟磁性粉末Aと軟磁性粉末Bの合量に対して2質量%となるように添加した。
【0130】
次に、コイルとして、
図1に示すコイル120を用意した。このコイル120は、平角導線121をエッジワイズ巻きしたものであり、巻数は3.5ターンとなっている。ここで、平角導線121は、断面形状が2.0mm×0.6mmの長方形であり、表面に厚さ20μmのポリアミドイミドからなる絶縁層を有している。また、コイル120は、両端に表面実装用端子122を有している。このコイル120を予め金型内に配置した状態で、金型のキャビティに上述の造粒粉末を充填し、5ton/cm
2の成型圧力によって、造粒粉末とコイル120とを一体で加圧成型して硬化処理を施し、成型体を製造した。この成型体を、電気炉にてアルゴン雰囲気中で400℃、30分間熱処理を行い、圧粉磁芯110の内部にコイル120が埋め込まれた、実施例のインダクタ100を作製した。
【0131】
また、比較例のインダクタ100Aとして、軟磁性粉末A及びBの代わりにFe-Si-Cr粉末を用いて、上述の実施例のインダクタ100と同様の製造方法により、圧粉磁芯110Aの内部にコイル120が埋め込まれたインダクタ100Aを作製した。なお、比較例のインダクタ100Aのコイル120は、実施例のインダクタ100のコイル120と同様の構造を有しているため、詳細な説明は省略する。
【0132】
図1及び
図2に示されるように、実施例のインダクタ100は、圧粉磁芯110の内部にコイル120が埋め込まれた、一体成型型のインダクタ100となっている。また、コイル120の表面実装用端子122は、圧粉磁芯110の外部に引き出されている。
【0133】
また、
図3に示されるように、比較例のインダクタ100Aは、実施例のインダクタ100と同様に、圧粉磁芯110Aの内部にコイル120が埋め込まれた、一体成型型のインダクタ100Aとなっており、コイル120の表面実装用端子122は、圧粉磁芯110Aの外部に引き出されている。
【0134】
図4は、実施例及び比較例のインダクタ100,100Aの直流重畳特性を示している。
図4から、実施例のインダクタ100は、比較例のインダクタ100Aと比較して、印加する電流Iの増大に伴うインダクタンスLの低下の割合が小さいことが理解される。即ち、実施例のインダクタ100は、比較例のインダクタ100Aと比較して、優れた直流重畳特性を示すことが理解される。
で表される。上述の組成式において、Mは、V、Mn、Co、Ni、Cu、Znから選ばれる1種以上の元素であり、0at%≦b≦6at%、4at%≦c≦10at%、5at%≦d≦12at%、0at%<e、0.4at%≦f<6at%、且つ、a+b+c+d+e+f=100at%である。