特許第6309181号(P6309181)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6309181-ビール様アルコール飲料 図000013
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6309181
(24)【登録日】2018年3月23日
(45)【発行日】2018年4月11日
(54)【発明の名称】ビール様アルコール飲料
(51)【国際特許分類】
   C12G 3/04 20060101AFI20180402BHJP
   C12C 5/02 20060101ALN20180402BHJP
   A23L 2/00 20060101ALN20180402BHJP
【FI】
   C12G3/04
   !C12C5/02
   !A23L2/00 A
【請求項の数】5
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-559139(P2017-559139)
(86)(22)【出願日】2017年11月8日
(86)【国際出願番号】JP2017040251
【審査請求日】2017年11月10日
(31)【優先権主張番号】特願2016-226052(P2016-226052)
(32)【優先日】2016年11月21日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】311007202
【氏名又は名称】アサヒビール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100122297
【弁理士】
【氏名又は名称】西下 正石
(72)【発明者】
【氏名】大橋 巧弥
(72)【発明者】
【氏名】瀧下 誠一
(72)【発明者】
【氏名】西塚 太一
【審査官】 坂崎 恵美子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/119065(WO,A1)
【文献】 特開2013−201976(JP,A)
【文献】 特許第5911647(JP,B2)
【文献】 特開2016−015935(JP,A)
【文献】 特開2014−128251(JP,A)
【文献】 特開2016−119841(JP,A)
【文献】 特開2015−107100(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12G 3/04
A23L 2/00
C12C 5/02
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/WPIDS/FSTA/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
4−ビニルグアイヤコール(4VG)の量が濃度10〜100ppb(w/v)であり、2−アセチル−1−ピロリン(2AP)の量が濃度0.47ppb(w/v)以下であり、糖質の量が濃度2.0g/100ml以下であり、アルコールの量が濃度4〜10%(v/v)であり、式
(数1)
Y≧―0.017X+0.6 (1)
[式中、Yは2−アセチル−1−ピロリン(2AP)の濃度(ppb)であり、Xは4−ビニルグアイヤコール(4VG)の濃度(ppb)である。]
で表される関係を満たす、ビール様アルコール飲料。
【請求項2】
糖質の量が0.5g/100ml未満である、請求項に記載のビール様アルコール飲料。
【請求項3】
発酵原料の発酵物から得られた成分を含む、請求項1又は2に記載のビール様アルコール飲料。
【請求項4】
発酵原料中に麦から得られた成分又は麦芽から得られた成分を含む、請求項に記載のビール様アルコール飲料。
【請求項5】
アルコールの量が濃度5〜9%(v/v)である、請求項1〜のいずれか一項に記載のビール様アルコール飲料
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はビール様アルコール飲料に関し、特に、糖質の量が低減されたビール様アルコール飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
「ビール」とは麦芽、ホップ及び水などを原料として、これらを発酵させて得られる飲料をいう。「ビール様」とは、味及び香りがビールを想記させる程度に同様であることをいう。「アルコール飲料」とはエチルアルコールを実質的な量で含有する飲料をいう。日本の酒税法では、体積アルコール度数1%以上の飲料を酒類としている。この酒類はアルコール飲料の一例である。本明細書において、文言「アルコール」はエチルアルコールを意味する。
【0003】
近年の消費者の健康志向から、低糖質のビール様アルコール飲料に対する需要が高まっている。しかし、糖質はコク感を生じさせる成分である。糖質の量が低減されたビール様アルコール飲料は、コク感を生じる成分が少ないため、飲用した際にアルコール由来の刺激感が優先して感じられ、飲み易さ又は嗜好性が低下する問題がある。
【0004】
特許文献1には、低カロリーアルコール飲料に増粘多糖類を含有させることによって、当該アルコール飲料の設計品質をほとんど変化させることなく、アルコールの刺激臭を低減させることが記載されている。
【0005】
増粘多糖類は呈味性および香りに乏しいものである。そのため、低カロリー化等を目的としてアルコール飲料から各種栄養成分を除去した後に、増粘多糖類を添加しても、低減された各種栄養成分の香味を補うことができない。例えば、低糖質のビール様アルコール飲料に増粘多糖類を添加すると、香味が減少している上に刺激感まで低減され、ビール様の香味のバランスが劣ることになる。
【0006】
特許文献2には、プリン体濃度が低いにもかかわらず、「ビールらしさ」、特にビール様の泡もち、色度及び香味を保持している非発酵ビール様発泡飲料が記載されている。この非発酵ビール様発泡飲料は特定種類の香料を含有するものである。
【0007】
特許文献2には、しかしながら、アルコール由来の刺激感がビール様アルコール飲料の飲み易さ又は嗜好性に悪影響を与える問題については記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2011−142890号公報
【特許文献2】特開2016−182134号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記従来の問題を解決するものであり、その目的とするところは、糖質の量が低減され、アルコール刺激感が低減され、ビール様の香味のバランスに優れたビール様アルコール飲料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、4−ビニルグアイヤコール(4VG)の量が濃度10〜200ppb(w/v)であり、2−アセチル−1−ピロリン(2AP)の量が濃度1ppb(w/v)未満であり、糖質の量が濃度2.0g/100ml以下であり、アルコールの量が濃度4〜10%(v/v)である、ビール様アルコール飲料を提供する。
【0011】
ある一形態においては、上記いずれかのビール様アルコール飲料は、式
【0012】
【数1】
[式中、Yは2−アセチル−1−ピロリン(2AP)の濃度(ppb)であり、Xは4−ビニルグアイヤコール(4VG)の濃度(ppb)である。]
で表される関係を満たすものである。
【0013】
ある一形態においては、上記いずれかのビール様アルコール飲料において、糖質の量が0.5g/100ml未満である。
【0014】
ある一形態においては、上記いずれかのビール様アルコール飲料は、発酵原料の発酵物から得られた成分を含むものである。
【0015】
ある一形態においては、上記いずれかのビール様アルコール飲料は、発酵原料中に麦から得られた成分又は麦芽から得られた成分を含むものである。
【0016】
ある一形態においては、上記いずれかのビール様アルコール飲料は、アルコールの量が濃度5〜9%(v/v)である。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、糖質の量が低減され、アルコール刺激感が低減され、ビール様の香味のバランスに優れたビール様アルコール飲料が提供された。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施例1〜3で製造した各飲料について、2AP濃度を縦軸、4VG濃度を横軸にしてプロットしたグラフである。なお、ここで、2APとは、2−アセチル−1−ピロリン、また、4VGは、4−ビニルグアイヤコールのことである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
ビール様アルコール飲料は、その味及び香りがビールを想起させる程度に同様であり、アルコールを実質的な量で含有する飲料である。ビール用アルコール飲料は、原料として麦芽、麦、ホップを使用して製造したものであっても、これらを使用しないで製造したものであってもよい。また、ビール様アルコール飲料は、発酵過程を経て製造してものであっても、発酵過程を経ないで製造したものであってもよい。
【0020】
本発明のビール様アルコール飲料は、アルコールの量が濃度3%(v/v)以上である。アルコールの量が濃度3%未満であると、飲用した際にアルコール由来の刺激感を感じ難くなる。本発明のビール様アルコール飲料のアルコールの量は、例えば濃度4〜10%、好ましくは濃度5〜10%、より好ましくは濃度5〜9%、更に好ましくは6〜8%である。
【0021】
ビール様アルコール飲料のアルコールの量は、従来から知られている方法により調節することができる。ビール様アルコール飲料のアルコールの量は、例えば、デンプン原料や糖原料を発酵させてビール様アルコール飲料を製造する場合に、デンプン原料や糖原料の使用量を増減させる等、醸造条件を工夫することで調節してよい。ビール様アルコール飲料のアルコールの量は、ビール様アルコール飲料にアルコール類、飲用水又は炭酸水を添加することで調節してもよい。
【0022】
ビール様アルコール飲料に添加するアルコール類としては、アルコールを含むものであれば特に限定されるものではなく、例えば、原料用アルコールであってもよく、スピリッツ、ウィスキー、ブランデー、ウオッカ、ラム、テキーラ、ジン、焼酎等の蒸留酒であってもよい。本発明に用いられるアルコール類としては、ビール様アルコール飲料の呈味性に対してあまり影響を与えることなくアルコール濃度を高められることから、原料用アルコールや、ウオッカ等の特徴的な香味が少ない蒸留酒が好ましく、原料用アルコールがより好ましい。
【0023】
本発明のビール様アルコール飲料は、糖質の量が低減されたビール様アルコール飲料である。本発明のビール様アルコール飲料の糖質の量は、濃度2.0g/100ml以下である。糖質の量が濃度2.0g/100mlを超えるとコク感が生じるため、飲用した際にアルコール由来の刺激感を感じ難くなる。また、糖質の量が濃度2.0g/100mlを超えると低糖質とはいえず、消費者の需要に応えられなくなる。
【0024】
本発明のビール様アルコール飲料の糖質の量は、好ましくは濃度1.0g/100ml以下、より好ましくは濃度0.5g/100ml未満である。ビール様アルコール飲料の糖質の量は、従来から知られている方法により調節することができる。尚、ビール様アルコール飲料の糖質の量は、例えば、平成27年3月30日消食表第139号通達に記載の方法に則って分析することで、決定することができる。
【0025】
本発明のビール様アルコール飲料は、例えば、以下に説明する方法により製造することができる。本明細書における発酵飲料とは、発酵原料の種類にかかわらず、発酵原料を酵母により発酵させる発酵工程を経て製造される飲料を意味する。また、発酵ビール様アルコール飲料とは、発酵工程を経て製造される飲料であって、ビールらしさを有する飲料を意味する。具体的には、ビール、発泡酒、リキュール等が挙げられる。なお、本発明でいうビール様アルコール飲料とは、発酵工程を経ず、香料などを添加して製造することもできる。
【0026】
発酵原料とは酵母を使用して発酵させることができるビール様飲料の原料をいう。発酵原料には、麦芽、穀類及び副原料が含まれる。副原料とは、麦芽と穀類以外の発酵原料を意味する。該副原料としては、例えば、大麦、小麦、コーンスターチ、コーングリッツ、米、こうりゃん等のデンプン原料、及び液糖や砂糖等の糖原料が挙げられる。液糖とは、澱粉質を酸又は糖化酵素により分解、糖化して製造されたものであり、主にグルコース、マルトース、マルトトリオース等が含まれる。
【0027】
発酵飲料の製造方法は、発酵原料液に酵母を接種して発酵させる発酵工程を有する。酵母を接種する前の発酵原料液又は前記発酵工程中の発酵液に、アルコール類を添加することもできる。
【0028】
発酵原料液等に添加するアルコール類の量は、目的の製品品質、特に最終製品たる発酵飲料の目的とするアルコール濃度を考慮して適宜調整できる。例えば、発酵原料液等に添加するアルコール類の量としては、添加したアルコール類により、製造される発酵飲料のアルコール濃度が1容量%以上増大させられる量が好ましく、製造される発酵飲料のアルコール濃度が1〜4容量%増大させられる量がより好ましい。
【0029】
発酵原料液等に添加するアルコール類としては、アルコールを含むものであれば特に限定されるものではなく、例えば、原料用アルコールであってもよく、スピリッツ、ウィスキー、ブランデー、ウオッカ、ラム、テキーラ、ジン、焼酎等の蒸留酒であってもよい。本発明に係る発酵飲料の製造方法において用いられるアルコール類としては、発酵飲料の呈味性に対してあまり影響を与えることなくアルコール濃度を高められることから、原料用アルコールや、ウオッカ等の特徴的な香味が少ない蒸留酒が好ましく、原料用アルコールがより好ましい。
【0030】
発酵飲料の製造方法において、アルコール類を添加する時期は、仕込工程以降であればよいが、発酵工程にアルコール類を添加する場合には、添加したアルコール類を充分に発酵液と馴染ませることができるため、アルコール類を添加した後にも発酵が充分に進行することが好ましい。具体的には、例えば、アルコール類を添加した後の発酵液のアルコール濃度が、発酵完了までの間にアルコール類添加時点よりも1容量以上は増大するように、アルコール類を添加することが好ましい。
【0031】
発酵開始前にアルコール類を添加する場合、発酵原料液にアルコール類を添加して混合した後に酵母を接種してもよく、発酵原料液に酵母を接種した後にアルコール類を添加して混合し、発酵を開始してもよい。また、発酵原料液を予め、酵母を接種する第1の液汁と、アルコール類を混合する第2の液汁とに分けて調製し、両者を混合して発酵を開始させてもよい。発酵原料を含む第1の液汁と発酵原料とアルコール類を含む第2の液汁とをそれぞれ別個に調製し、第1の液汁に酵母を接種した後、当該第1の液汁とアルコール類を含む第2の液汁とを混合して得られた混合物(酵母を接種した発酵原料液)を発酵させる。
【0032】
前記第1の液汁と前記第2の液汁は、互いに混合しやすいように、比重が実質的に同一なるように調製されることが好ましい。例えば、前記第1の液汁と前記第2の液汁の比重値の差が、0.017以下となるように調製されることが好ましく、0.010以下となるように調製されることがより好ましい。また、前記第1の液汁と前記第2の液汁の比重値は、両方とも1.030〜1.047の範囲内であることも好ましい。
【0033】
なお、本明細書において、液汁や発酵原料液の比重値は、固有振動周期測定方式の密度比重計(例えば、京都電子工業株式会社製「DA-510」)により、液の温度20℃で測定された値である。
【0034】
第1の液汁と第2の液汁は、それぞれ2以上に分けて調製してもよい。第1の液汁を2以上に分けて調製した場合、各液汁にそれぞれ酵母を接種する。第1の液汁と第2の液汁を2以上に分けて調製した場合には、第1の液汁と第2の液汁は、交互に発酵タンクに投入することが好ましい。2以上に分けて調製した第1の液汁と第2の液汁を交互に投入することにより、両者が混合し易くなり、より迅速に均一な発酵原料液となる。
【0035】
酵母を接種する前の発酵原料液や発酵中の発酵液にアルコール類を添加すると、発酵が早く停止してしまい、発酵が不充分となる場合がある。発酵工程において、発酵液にガスをバブリングすることにより、発酵原料液や発酵中の発酵液にアルコール類を添加した場合でも、充分に発酵させることができる。
【0036】
バブリングに用いるガスとしては、ガスであれば特に限定されるものではないが、炭酸ガスや窒素ガスが好ましい。炭酸ガスや窒素ガスを用いてバブリングすることにより、発酵液中の溶存酸素量も低下させられるため、最終的に製造される発酵飲料中の溶存酸素量も低くすることができる。つまり、ガスバブリングにより、アルコール類を添加しても充分な発酵を行うことができる上に、保存安定性が高く、香味劣化が抑制された発酵飲料を製造することができる。
【0037】
バブリングの条件は、バブリングを行う容器の容量や大きさ、内部に含む発酵液の量等を考慮して適宜決定することができるが、流量が所定の時間で均一となる条件で行うことが好ましい。また、過度にバブリングして発酵液が起泡しないような条件で行うことも好ましい。具体的には、例えば、発酵液3000L当たり2〜55L/分の割合、好ましくは2〜20L/分の割合で行うことができる。
【0038】
ガスバブリングにより、発酵液中の溶存酸素が低下するため、ガスバブリングは、発酵液中の酵母の増殖が終了した後に開始することが好ましい。酵母の増殖の程度は、発酵液の浮遊酵母数を指標にして知ることができる。酵母が活発に増殖している時期には発酵液の浮遊酵母数は増大し、酵母の増殖が終了すると、酵母は沈降し、発酵液の浮遊酵母数も低下する。このため、発酵液の浮遊酵母数を経時的に測定し、浮遊酵母数のピークを確認した後に、発酵液へのガスのバブリングを開始することが好ましい。
【0039】
発酵飲料の製造方法により製造する発酵飲料が発酵ビール様アルコール飲料の場合、酵母を接種する前の発酵原料液又は前記発酵工程中の発酵液に、アルコール類を添加する以外は、一般的な発酵ビール様アルコール飲料と同様にして製造できる。一般的な発酵ビール様アルコール飲料は、仕込(発酵原料液調製)、発酵、貯酒、濾過の工程で製造することができる。
【0040】
まず、仕込工程(発酵原料液調製工程)として、穀物原料及び糖質原料からなる群より選択される1種以上から発酵原料液を調製する。具体的には、まず、穀物原料と糖質原料の少なくともいずれかと原料水とを含む混合物を調製して加温し、穀物原料等の澱粉質を糖化させる。糖液の原料としては、穀物原料のみを用いてもよく、糖質原料のみを用いてもよく、両者を混合して用いてもよい。穀物原料としては、例えば、大麦や小麦、これらの麦芽等の麦類、米、トウモロコシ、大豆等の豆類、イモ類等が挙げられる。穀物原料は、穀物シロップ、穀物エキス等として用いることもできるが、粉砕処理して得られる穀物粉砕物として用いることが好ましい。穀物類の粉砕処理は、常法により行うことができる。穀物粉砕物としては、麦芽粉砕物、コーンスターチ、コーングリッツ等のように、粉砕処理の前後において通常なされる処理を施したものであってもよい。用いられる穀物粉砕物は、麦芽粉砕物であることが好ましい。麦芽粉砕物を用いることにより、ビールらしさがよりはっきりとした発酵ビール様アルコール飲料を製造することができる。麦芽粉砕物は、大麦、例えば二条大麦を、常法により発芽させ、これを乾燥後、所定の粒度に粉砕したものであればよい。また、本発明において用いられる穀物原料としては、1種類の穀物原料であってもよく、複数種類の穀物原料を混合したものであってもよい。例えば、主原料として麦芽粉砕物を、副原料として米やトウモロコシの粉砕物を用いてもよい。糖質原料としては、例えば、液糖等の糖類が挙げられる。
【0041】
当該混合物には、穀物原料等と水以外の副原料を加えてもよい。当該副原料としては、例えば、ホップ、食物繊維、酵母エキス、果汁、苦味料、着色料、香草、香料等が挙げられる。また、必要に応じて、α−アミラーゼ、グルコアミラーゼ、プルラナーゼ等の糖化酵素やプロテアーゼ等の酵素剤を添加することができる。
【0042】
糖化処理は、穀物原料等由来の酵素や、別途添加した酵素を利用して行う。糖化処理時の温度や時間は、用いた穀物原料等の種類、発酵原料全体に占める穀物原料の割合、添加した酵素の種類や混合物の量、目的とする発酵ビール様アルコール飲料の品質等を考慮して、適宜調整される。例えば、糖化処理は、穀物原料等を含む混合物を35〜70℃で20〜90分間保持する等、常法により行うことができる。
【0043】
糖化処理後に得られた糖液を煮沸することにより、煮汁(糖液の煮沸物)を調製することができる。糖液は、煮沸処理前に濾過し、得られた濾液を煮沸処理することが好ましい。また、この糖液の濾液に替わりに、麦芽エキスに温水を加えたものを用い、これを煮沸してもよい。煮沸方法及びその条件は、適宜決定することができる。
【0044】
煮沸処理前又は煮沸処理中に、香草等を適宜添加することにより、所望の香味を有する発酵ビール様アルコール飲料を製造することができる。特にホップは、煮沸処理前又は煮沸処理中に添加することが好ましい。ホップの存在下で煮沸処理することにより、ホップの風味・香気成分を効率よく煮出することができる。ホップの添加量、添加態様(例えば数回に分けて添加するなど)及び煮沸条件は、適宜決定することができる。
【0045】
仕込工程後、発酵工程前に、調製された煮汁から、沈殿により生じたタンパク質等の粕を除去することが好ましい。粕の除去は、いずれの固液分離処理で行ってもよいが、一般的には、ワールプールと呼ばれる槽を用いて沈殿物を除去する。この際の煮汁の温度は、15℃以上であればよく、一般的には50〜100℃程度で行われる。粕を除去した後の煮汁(濾液)は、プレートクーラー等により適切な発酵温度まで冷却する。この粕を除去した後の煮汁が、発酵原料液となる。
【0046】
次いで、発酵工程として、冷却した発酵原料液に酵母を接種して、発酵を行う。冷却した発酵原料液は、そのまま発酵工程に供してもよく、所望のエキス濃度に調整した後に発酵工程に供してもよい。発酵に用いる酵母は特に限定されるものではなく、通常、酒類の製造に用いられる酵母の中から適宜選択して用いることができる。上面発酵酵母であってもよく、下面発酵酵母であってもよいが、大型醸造設備への適用が容易であることから、下面発酵酵母であることが好ましい。
【0047】
発酵原料液にアルコール類を添加して混合した後に酵母を接種してもよく、酵母を接種した発酵原料液にアルコール類を添加して混合してもよい。また、発酵原料液に酵母を接種して発酵を開始後に、アルコール類を添加してもよい。更に、前述のように、発酵原料液の一部にアルコール類を混合し、残りの発酵原料液に酵母を接種し、両者を混合して発酵を開始させてもよい。
【0048】
さらに、貯酒工程として、得られた発酵液を、貯酒タンク中で熟成させ、0℃程度の低温条件下で貯蔵し安定化させた後、濾過工程として、熟成後の発酵液を濾過することにより、酵母及び当該温度域で不溶なタンパク質等を除去して、目的の発酵ビール様アルコール飲料を得ることができる。当該濾過処理は、酵母を濾過除去可能な手法であればよく、例えば、珪藻土濾過、平均孔径が0.4〜0.6μm程度のフィルターによるフィルター濾過等が挙げられる。
【0049】
発酵飲料の製造方法においては、アルコール類を発酵完了前または発酵完了後に添加することにより、発酵原料の使用量が少ない場合であっても、アルコール濃度の高い発酵飲料を製造することができる。つまり、本発明に係る発酵飲料の製造方法を用いることにより、発酵原料の使用量を、最終製品中の糖質濃度が0.5g/100mL未満となるように抑えた場合であっても、アルコール濃度が充分に高い発酵ビール様アルコール飲料を製造することができる。
【0050】
本発明のビール様アルコール飲料は、4−ビニルグアイヤコール(4VG)を含有する。このことで、アルコール刺激感を低減する効果が増大する。本発明のビール様アルコール飲料の4VGの量は、濃度10〜200ppb(w/v)である。4VGの量が濃度10ppb未満であるとアルコール刺激感の低減が不十分になり、200ppbを超えると香味のバランスが悪くなることがある。本発明のビール様アルコール飲料の4VGの量は、例えば濃度20〜100ppb、好ましくは濃度25〜100ppb、より好ましくは濃度25〜80ppb、更に好ましくは濃度35〜80ppbである。
【0051】
ビール様アルコール飲料の4VGの量は、例えば、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析法を用いて測定できる。例えば、ビール様アルコール飲料を氷冷し、脱気した試料を、HPLC装置に注入し、処理すればよい。測定条件の一例は次の通りである。
【0052】
[表1]
【0053】
ビール様アルコール飲料の4VGの量は、例えば、デンプン原料を発酵させてビール様アルコール飲料を製造する場合に、デンプン原料として麦芽を使用する等、醸造条件を工夫することで調節してよい。ビール様アルコール飲料の4VGの量は、ビール様アルコール飲料に4VGを含有する香料を添加することで調節してもよい。
【0054】
本発明のビール様アルコール飲料は、2−アセチル−1−ピロリン(2AP)を含有することが好ましい。そのことで、アルコール刺激感を低減する効果が増大する。本発明のビール様アルコール飲料の2APの量は、一般に、濃度1ppb(w/v)以下である。2APの量が濃度1ppbを超えると香味のバランスが悪くなることがある。本発明のビール様アルコール飲料の2APの量は、好ましくは濃度0.12〜0.67ppb、より好ましくは濃度0.17〜0.67ppb、更に好ましくは濃度0.17〜0.47ppbである。
【0055】
ビール様アルコール飲料の2APの量は従来から知られている方法、例えば、イイジマ(Iijima)、他1名、ジャーナル・オブ・アプライド・マイクロバイオロジー(Journal of Applied Microbiology)、2010年、第109巻、第1906〜1913頁に記載の方法により測定することができる。具体的には、まず、容器にサンプルを採取し、TMP(2,4,6−トリメチルピリジン)を加えて混合した後、濾過する。次に濾液に水酸化ナトリウムを添加してアルカリ性にした後、ジクロロメタンを加え、振とう抽出する。その後、溶媒(ジクロロメタン)層を回収し、この回収した溶媒層を、無水硫酸ナトリウムを加えて脱水した後、減圧下で濃縮したものを測定試料とする。この測定試料を、FID(水素炎イオン化型検出器)を備えたキャピラリーGC分析に供し、2−アセチル−1−ピロリン、2−プロピル−1−ピロリンを検出する。
【0056】
ビール様アルコール飲料の2APの量は、例えば、デンプン原料を発酵させてビール様アルコール飲料を製造する場合に、デンプン原料として麦芽を使用する等、醸造条件を工夫することで調節してよい。ビール様アルコール飲料の2APの量は、ビール様アルコール飲料に2APを含有する香料を添加することで調節してもよい。
【0057】
ビール様アルコール飲料に対して、4VGと2APは単独で使用してもよいし、組み合わせて使用してもよい。組み合わせて使用するとビールらしさのバランスを保ったままより効果的にアルコール刺激感の低減効果がみられる。
【実施例】
【0058】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例等に限定されるものではない。実施例及び参考例に記載した4−ビニルグアイヤコール濃度及び2−アセチル−1−ピロリン濃度は、発明の詳細な説明の欄に記載した方法により測定した。
【0059】
<実施例1>
発泡酒(麦芽エキス、ホップ、糖類、カラメル色素、食物繊維、大豆たんぱく、調味料(アミノ酸))、及びスピリッツ(大麦)を原材料とし、以下の成分を含有するビール様発酵麦芽飲料(アサヒビール社製「アサヒオフ」(商品名))を市場より入手した。なお、このビール様アルコール飲料の糖質は、0.5g/100mL未満であり、アルコール度数は、3%(v/v)である。
【0060】
[表2]
成分(100ml当たり)
【0061】
上記ビール様発酵麦芽飲料に原料用アルコールを添加することで、ビール様発酵麦芽飲料のアルコール濃度を6%(v/v)に調節した。これを実施例1の対照飲料とした。
【0062】
対照飲料に4−ビニルグアイヤコール(4VG)を含む香料又は2−アセチル−1−ピロリン(2AP)を含む香料を適量添加することで、ビール様発酵麦芽飲料の4VG濃度又は2AP濃度(ppb(w/v))を表3及び表4に示す量に調節した。
【0063】
得られたビール様発酵麦芽飲料の官能試験は次のようにして行った。即ち、ビール類専門パネル8名が上記ビール様発酵麦芽飲料を試飲し、アルコール刺激感及びビールとしてのバランスを採点した。採点基準は以下の評価軸を採用した。評価点は8人の採点の平均値を採用した。
【0064】
アルコール刺激感とは、アルコールによる鼻につんとくる香り、鼻に戻ってくる刺激及び舌への刺激をいう。
評価軸:1(弱い)−2(少し弱い)−3(対照と同等)−4(少し強い)−5(強い)
評価点が2.5点以下の場合にアルコール刺激感抑制効果があると評価し、2.0点未満の場合にアルコール刺激感抑制に顕著な効果があると評価した。
【0065】
ビールとしてのバランスとは、香味に調和感があり、飲みやすいことをいう。
評価軸:1(悪い)−2(少し悪い)−3(対照と同等)−4(少し良い)−5(良い)
評価点が3.5点以上の場合にビールとしてのバランスがよくなったと評価した。
【0066】
また、官能に関するパネルのコメントをまとめた。欄内の数値はその官能を指摘した人数を示す。結果を表3及び表4に示す。
【0067】
[表3]
【0068】
[表4]
【0069】
<実施例2>
原料用アルコールおよびビール香料に炭酸ガスを加え、アルコール濃度を6%(v/v)に、糖質濃度を0.5g/100mL未満に調節したビール様アルコール飲料を作成した。これを実施例2の対照飲料(対照区2)とした。
【0070】
対照飲料に適量の4VGを含む香料又は2APを含む香料を添加することで、4VG濃度又は2AP濃度を表5に示す量に調節した。実施例1と同様にして、得られた飲料のアルコール刺激感及びビールとしてのバランスを評価した。結果を表5に示す。
【0071】
[表5]
【0072】
図1は、実施例1及び2で製造した各飲料を、2AP濃度を縦軸、4VG濃度を横軸にしてプロットしたグラフである。即ち、プロットした飲料は、実施例1の対照区及び試験区1〜7、10及び実施例2の対照区2、試験区2−1、2−2及び2−3である。図1のグラフから、本発明のアルコール刺激感の低減されたビール様アルコール飲料である試験区の飲料は所定量の4VGを含有し、必要に応じて2APを含有し、特に、式
【0073】
【数2】
【0074】
[式中、Yは2−アセチル−1−ピロリン(2AP)の濃度(ppb)であり、Xは4−ビニルグアイヤコール(4VG)の濃度(ppb)である。]
で表される関係を満たすことが理解される。
【0075】
また、試験区の飲料の中でも、特にアルコール刺激感を低減する効果に優れたものは、式
【0076】
【数3】
【0077】
[式中、Y及びXは上記と同意義である。]
で表される関係を満たすことが理解される
【0078】
<実施例3>
実施例1と同じビール様発酵麦芽飲料(糖質濃度0.5g/100ml未満、アルコール度数3%)を市場より入手した。上記ビール様発酵麦芽飲料に原料用アルコールを添加することで、ビール様発酵麦芽飲料のアルコール濃度を表6及び表7に示す量に調節した。これらを実施例3の対照飲料とした。
【0079】
対照飲料に4VGと2APを含む香料を添加することで、ビール様発酵麦芽飲料の4VG濃度を40ppb、2AP濃度を0.27ppbに調節した。実施例1と同様にして、得られた飲料のアルコール刺激感及びビールとしてのバランスを評価した。比較は、アルコール度数が同一の組ごとに行った。すなわち、例えば、アルコール3%の対照飲料に対し、アルコール3%に香料を添加したものを試験飲料として評価した。結果を表6及び表7に示す。
【0080】
[表6]
【0081】
[表7]
【0082】
4VG、2APには特定のアルコール濃度において、ビール様アルコール飲料のアルコール刺激感を抑制する効果が認められた。
【0083】
<実施例4>
実施例1と同じビール様発酵麦芽飲料(糖質濃度0.5g/100ml未満、アルコール度数3%)を市場より入手した。上記ビール様発酵麦芽飲料に原料用アルコールを添加することで、ビール様発酵麦芽飲料のアルコール濃度を6%に調節し、DE11.8の澱粉分解物(松谷化学工業社製「パインデックス#2」(商品名))を添加することで、糖質濃度を表8に示す通りに調節した。なお、パインデックス#2は、各試料に添加する体積が同一になるように濃度を適宜調節した水溶液として添加した。これらを実施例4の対照飲料とした。
【0084】
対照飲料に4VGと2APを含む香料を添加することで、ビール様発酵麦芽飲料の4VG濃度を20ppb、2AP濃度を0.27ppbに調節した。実施例1と同様にして、得られた飲料のアルコール刺激感及びビールとしてのバランスを評価した。比較は、糖質濃度が同一の組ごとに行った。すなわち、例えば、糖質濃度0.3%の対照飲料に対し、糖質濃度0.3%に香料を添加したものを試験飲料として評価した。結果を表8に示す。
【0085】
[表8]
【0086】
4VG、2APには特定の糖質濃度において、ビール様アルコール飲料のアルコール刺激感を抑制する効果が認められた。
【要約】
発明の課題は、糖質の量が低減され、アルコール刺激感が低減され、ビール様の香味のバランスに優れたビール様アルコール飲料を提供することである。課題の解決手段は、4−ビニルグアイヤコール(4VG)の量が濃度10〜200ppb(w/v)であり、2−アセチル−1−ピロリン(2AP)の量が濃度1ppb(w/v)未満であり、糖質の量が濃度2.0g/100ml以下であり、アルコールの量が濃度4〜10%(v/v)である、ビール様アルコール飲料である。
図1