特許第6309191号(P6309191)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6309191
(24)【登録日】2018年3月23日
(45)【発行日】2018年4月11日
(54)【発明の名称】インク及びインクジェット記録方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/023 20140101AFI20180402BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20180402BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20180402BHJP
【FI】
   C09D11/023
   B41J2/01 501
   B41M5/00 100
   B41M5/00 120
【請求項の数】7
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-289014(P2012-289014)
(22)【出願日】2012年12月28日
(65)【公開番号】特開2014-129497(P2014-129497A)
(43)【公開日】2014年7月10日
【審査請求日】2015年11月18日
【審判番号】不服2017-8741(P2017-8741/J1)
【審判請求日】2017年6月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000137823
【氏名又は名称】株式会社ミマキエンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】大西 勝
【合議体】
【審判長】 國島 明弘
【審判官】 阪▲崎▼ 裕美
【審判官】 天野 宏樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−133012(JP,A)
【文献】 特開2007−231214(JP,A)
【文献】 特開2010−84066(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D11/00-11/54
B41J 2/01
B41M 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散溶媒と、上記分散溶媒に乳濁又は懸濁し、着色剤を含有する第1バインダ樹脂の粒子と、上記分散溶媒に乳濁又は懸濁する第2バインダ樹脂の粒子と、を含み、
上記第2バインダ樹脂の粒子の平均粒子径は、上記第1バインダ樹脂の粒子の平均粒子径より小さく、
上記第2バインダ樹脂の粒子には着色剤が含まれておらず、
上記第2バインダ樹脂の粒子は、印刷時の加熱により融解されるものであり、
上記第1バインダ樹脂のガラス転移温度は、上記第2バインダ樹脂のガラス転移温度より高いことを特徴とするインク。
【請求項2】
上記第1バインダ樹脂の粒子の平均粒子径は、100nm以上、2000nm以下の範囲であることを特徴とする請求項1に記載のインク。
【請求項3】
上記第2バインダ樹脂の粒子の平均粒子径は、上記第1バインダ樹脂の粒子の平均粒子径の1/3以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のインク。
【請求項4】
上記第1バインダ樹脂の粒子及び上記第2バインダ樹脂の粒子の少なくとも一方は、そのガラス転移温度よりもガラス転移温度の高いバインダ樹脂によりコーティングされていることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載のインク。
【請求項5】
上記分散溶媒は、水又は親水性有機溶媒を含んでいることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載のインク。
【請求項6】
上記第1バインダ樹脂の粒子は、複数の着色剤の粒子を包含するように含んでおり、上記第2バインダ樹脂の粒子は、上記着色剤の粒子を含んでいないことを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載のインク。
【請求項7】
請求項1〜のいずれか1項に記載のインクを印刷媒体に吐出する吐出工程と、
上記印刷媒体に着弾したインクを加熱する加熱工程と、を包含することを特徴とするインクジェット記録方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク及びインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置において使用するインクとして、特許文献1及び2に記載された、樹脂でコーティングしてマイクロカプセル化した着色剤を含むインクが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−180419号公報(2010年8月19日公開)
【特許文献2】特開2010−84066号公報(2010年4月15日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1及び2に記載のように、顔料をマイクロカプセル化したものを用いた場合、隣接するマイクロカプセル間に隙間が生じ、このようなインクを用いて形成されるインク層が空気を多く含んでしまう。このため、インク被膜の密度が低下し、インク被膜の強度及び印刷媒体に対する密着性が低下するという問題があった。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、インク被膜の強度及び印刷媒体に対する密着性が良好なインクを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明に係るインクは、分散溶媒と、上記分散溶媒に乳濁又は懸濁し、着色剤を含有する第1バインダ樹脂の粒子と、上記分散溶媒に乳濁又は懸濁する第2バインダ樹脂の粒子と、を含み、上記第2バインダ樹脂の粒子の平均粒子径は、上記第1バインダ樹脂の粒子の平均粒子径より小さいことを特徴とする。
【0007】
上記構成によれば、印刷媒体上に形成されたインク被膜において、平均粒子径の小さい第2バインダ樹脂の粒子が、平均粒子径の大きい第1バインダ樹脂の粒子間に生じる隙間に充填される。平均粒子径の大きい第1バインダ樹脂の粒子間に生じる隙間に、平均粒子径の小さい第2バインダ樹脂の粒子が充填されることによって、印刷媒体上に形成されるインク被膜の密度が向上する。このため、インク被膜の強度及び印刷媒体に対する密着性が向上する。
【0008】
本発明に係るインクにおいて、上記第1バインダ樹脂の粒子の平均粒子径は、100nm以上、2000nm以下の範囲であることが好ましい。
【0009】
上記構成によれば、インク中における第1バインダ樹脂粒子の凝集と沈殿とを抑えることができる。
【0010】
本発明に係るインクにおいて、上記第2バインダ樹脂の粒子の平均粒子径は、上記第1バインダ樹脂の粒子の平均粒子径の1/3以下であることが好ましい。
【0011】
上記構成によれば、第2バインダ樹脂の粒子は、第1バインダ樹脂の粒子同士の間に生じる隙間を好適に充填される。よって、印刷媒体上に形成されたインク層の強度及び密着性が向上する。
【0012】
本発明に係るインクにおいて、上記第1バインダ樹脂のガラス転移温度は、第2バインダ樹脂のガラス転移温度より高いことが好ましい。
【0013】
上記構成によれば、インクが吐出された後、インクが吐出された印刷媒体を加熱したときに、速やかに第2バインダ樹脂を融解させることができる。これによって、融解した第2バインダ樹脂により、速やかに第1バインダ樹脂の粒子を印刷媒体上に定着させることができる。
【0014】
本発明に係るインクにおいて、上記第1バインダ樹脂の粒子及び上記第2バインダ樹脂の粒子の少なくとも一方は、そのガラス転移温度よりもガラス転移温度の高いバインダ樹脂によりコーティングされていることが好ましい。
【0015】
上記構成によれば、第1バインダ樹脂の粒子及び上記第2バインダ樹脂の粒子の少なくとも一方は、そのガラス転移温度よりもガラス転移温度の高いバインダ樹脂によりコーティングされたコアシェル構造を有する。このように、粒子の表面がガラス転移温度の高いバインダ樹脂によりコーティングされることによって、粒子の接着及び凝集を防ぐことができる。また、第1バインダ樹脂の粒子及び第2バインダ樹脂の粒子の両方を同じバインダ樹脂によりコーティングすることによって、分散溶媒中における粒子の分散が安定化することができる。
【0016】
本発明に係るインクジェット記録方法は、上述のインクを印刷媒体に吐出する吐出工程と、上記印刷媒体に着弾したインクを加熱する加熱工程と、を包含することを特徴とする。
【0017】
上記の構成により、様々な印刷媒体上に好適に印刷することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るインクによれば、着色剤を含有する第1バインダ樹脂の粒子と、第1バインダの粒子より平均粒子径の小さい第2バインダ樹脂の粒子とを含むことにより、インク被膜の強度及び印刷媒体への密着性に優れた印刷物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態に係るインクを説明する模式図である。
図2】コアシェル構造のバインダ樹脂粒子を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
〔インク〕
本発明に係るインクは、分散溶媒と、上記分散溶媒に乳濁又は懸濁し、着色剤を含有する第1バインダ樹脂の粒子と、上記分散溶媒に乳濁又は懸濁する第2バインダ樹脂の粒子と、を含み、上記第2バインダ樹脂の粒子の平均粒子径は、上記第1バインダ樹脂の粒子の平均粒子径より小さいことを特徴とする。
【0021】
以下、説明の便宜上、本明細書では、バインダ樹脂の粒子を「バインダ樹脂粒子」と称する。また、本明細書において「インク」とは、印刷媒体を着色するための有色の液体のみならず、印刷媒体をコーティングするためのコーティング剤等をも包含し、透明な液体であってもよい。
【0022】
本発明の一実施形態に係るインクの構成について図1を参照して以下に説明する。図1は、本発明の一実施形態に係るインクに含まれる第1バインダ樹脂粒子1及び第2バインダ樹脂粒子2の構成を模式的に示す図である。図1に示すように、本発明の一実施形態に係るインクにおいて、第2バインダ樹脂粒子2の平均粒子径は、第1バインダ樹脂粒子の平均粒子径よりも小さい。また、第1バインダ樹脂粒子1は着色剤3を包含している。すなわち、着色剤3は、第1バインダ樹脂粒子1中に分散又は溶解している。第1バインダ樹脂粒子1と第2バインダ樹脂粒子2とは、分散溶媒中に乳濁又は懸濁している。
【0023】
(バインダ樹脂粒子)
第1バインダ樹脂粒子1及び第2バインダ樹脂粒子2は、同一のバインダ樹脂により形成されていてもよく、異なるバインダ樹脂により形成されていてもよい。第1バインダ樹脂粒子1と第2バインダ樹脂粒子2とを、同じ種類のバインダ樹脂により形成することによって、印刷媒体上において第1バインダ樹脂粒子1と第2バインダ樹脂粒子2とを好適に融着させることができる。
【0024】
第1バインダ樹脂粒子1及び第2バインダ樹脂粒子2を形成するバインダ樹脂は、親水性バインダ樹脂又は親水化処理したバインダ樹脂であってもよい。バインダ樹脂の具体的な材料としては、ビヒクルに溶けないものであれば特に限定されないが、光若しくは熱で重合して硬化するか又は硬化した高分子化合物から選ばれる少なくとも一種の樹脂であることが好ましく、紫外線、電子線、放射線等のエネルギー線の照射又は熱により重合反応して硬化するモノマー、オリゴマー及び低分子量樹脂であってもよい。ここで、「ビヒクル」とは、インクにおいて、微粒子が内部に分散又は溶解しているバインダ樹脂以外の成分をいい、後述の分散溶媒、添加物、共溶媒等が意図される。
【0025】
バインダ樹脂の例としては、ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、アルキッド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、スチレン系共重合体、スチレン系共重合体とポリエステル樹脂とのハイブリッド樹脂、結晶性ポリエステル樹脂、シリコン系樹脂、フッ素系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノキシ系樹脂、ポリオレフィン系樹脂等、及びこれらの変性樹脂等が挙げられる。この中でも、より好ましくは、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、結晶性ポリエステル系樹脂であり、特に好ましくはポリエステル系樹脂である。
【0026】
また、バインダ樹脂の他の例として、天然ゴムラテックス、スチレンブタジエンラテックス、スチレン−アクリルラテックス、ポリウレタンラテックス等が挙げられる。バインダ樹脂として、例えば、これらの樹脂の原液、当該原液が乳化重合反応したものを採用すれば、重合前の低粘度液状樹脂が水中で分散したときに球形になりやすいため、より好ましい。バインダ樹脂としてこれらの樹脂を採用する場合、分散剤が必要な高分子分散型であっても、自己分散型(参考文献:特開2001−152063号公報を参照)であってもよい。
【0027】
バインダ樹脂として、これらの樹脂を単独又は組み合わせて使用することができる。さらに、印刷媒体との密着性や、低温加熱での定着性を向上させるために、ガラス転移点(TG)の小さな樹脂とTGの大きな堅牢度の高い樹脂を組み合わせてバインダ樹脂として用いることが好ましい。
【0028】
また、硬化した高分子化合物としては下記表1に挙げるものを例示できる。これらは、単独又は組み合わせて使用することができる。さらに、被記録体との密着性や、低温加熱での定着性を向上させるために、ガラス転移温度(TG)の小さな樹脂とTGの大きな堅牢度の高い樹脂を組み合わせて用いることが好ましい。
【0029】
【表1】
【0030】
インク中において、着色剤3は、第1バインダ樹脂粒子1内に含まれている。図1においては、第1バインダ樹脂粒子1が着色剤3を内包している構成を例として示しているが、第1バインダ樹脂粒子1は着色剤3により染色されていてもよい。すなわち、第1バインダ樹脂粒子1の内部に着色剤を分散又は溶解させてもよい。なお、第2バインダ樹脂粒子2は、着色剤により着色されていてもよい。すなわち、第2バインダ樹脂粒子2は、着色剤を内包していてもよく、着色剤により染色されていてもよい。
【0031】
着色剤3が第1バインダ樹脂粒子1内に含まれていることによって、着色剤3の微粒子がそのままインク中に存在せず、着色剤3の凝集を防ぐことが可能であり、着色剤3を分散溶媒に分散させるための分散剤を用いる必要がない。また、第1バインダ樹脂粒子1が着色剤を含有することによって、着色剤3がバインダ樹脂により保護される。したがって、着色剤3に対する紫外線の影響を抑え、インクの耐光性を向上させることができる。また、着色剤3に対する酸素の影響も抑えることができる。すなわち、紫外線又は酸素の影響による着色剤3の変質を大幅に抑制することができる。
【0032】
一粒の第1バインダ樹脂粒子1中には、複数の着色剤3が含まれていてもよい。また、第1バインダ樹脂粒子1中に含まれる着色剤3の種類は1種類でもよく、複数種類の着色剤を混合して含有させてもよい。
【0033】
着色剤3を内包した第1バインダ樹脂粒子1及び第2バインダ樹脂粒子2を製造する方法としては、上述したバインダ樹脂と着色剤とを混合して、乳化重合法、懸濁重合法、溶解懸濁法、エステル伸長重合法等により重合させる方法が挙げられる。第2バインダ樹脂粒子2が着色剤を含有しない場合、第2バインダ樹脂粒子2は、上述したバインダ樹脂を、乳化重合法、懸濁重合法、溶解懸濁法、エステル伸長重合法等により重合させることによって得られる。
【0034】
また、例えば、分散染料を内包させたポリエステル樹脂を加熱して分散染料を溶解させ、分散染料により樹脂を染色したもの、並びに、酸性染料又は反応染料を混ぜたナイロン樹脂を加熱して染料を溶解させ、酸性染料又は反応染料により樹脂を染色したものを、バインダ樹脂として使用してもよい。これにより、透明性の高く、滲まず、かつ高精彩なインクジェット印刷用のインクが得られる。
【0035】
ここで、第2バインダ樹脂粒子2の平均粒子径は、第1バインダ樹脂粒子の平均粒子径よりも小さい。ここで、第1バインダ樹脂粒子1又は第2バインダ樹脂粒子2の平均粒子径とは、インク中の複数の第1バインダ樹脂粒子1又は第2バインダ樹脂粒子2の粒子径の平均を意味している。インク中の第1バインダ樹脂粒子1又は第2バインダ樹脂粒子2の平均粒子径は、動的光散乱式粒子径・粒度分布測定装置(日機装株式会社製)を用いて、周波数解析法のヘテロダイン法により測定することができる。
【0036】
第1バインダ樹脂粒子1と、第1バインダ樹脂粒子1より平均粒子径の小さい第2バインダ樹脂粒子2とを分散溶媒に乳濁又は懸濁させることによって、印刷媒体上に形成されたインク被膜において、平均粒子径の小さい第2バインダ樹脂粒子2が、平均粒子径の大きい第1バインダ樹脂粒子1間に生じる隙間に充填される。平均粒子径の大きい第1バインダ樹脂粒子1間に生じる隙間に、平均粒子径の小さい第2バインダ樹脂粒子が充填されることによって、印刷媒体上に形成されるインク被膜の密度が向上する。このため、インク被膜の強度及び印刷媒体に対する密着性が向上する。
【0037】
また、第1バインダ樹脂粒子1と、第1バインダ樹脂粒子1より平均粒子径の小さい第2バインダ樹脂粒子2とを分散溶媒に乳濁又は懸濁させることによって、第1バインダ樹脂粒子1の印刷媒体上での流動性が抑制される。このため、印刷媒体上に着弾したときに、分散溶媒中での粒子の移動に起因する滲みが生じにくい。したがって、特に滲みやすい布帛等への印刷も好適に行うことが可能であり、様々な印刷媒体への印刷が可能である。
【0038】
第1バインダ樹脂粒子1の平均粒子径は、100nm以上、2000nm以下の範囲内であることが好ましく、150nm以上、400nm以下の範囲内であることがより好ましい。第1バインダ樹脂粒子の平均粒子径が当該範囲内であることによって、第1バインダ樹脂粒子1の凝集が抑えられる。
【0039】
第2バインダ樹脂粒子2の平均粒子径は、10nm以上、100nm未満の範囲であることが好ましく、また、第1バインダ樹脂粒子1の平均粒子径の1/3より小さい平均粒子径であることがより好ましく、第1バインダ樹脂粒子1の平均粒子径の1/2以下であることがさらに好ましい。これによって、第2バインダ樹脂粒子2は、隣接する第1バインダ樹脂粒子1間に生じる隙間に好適に充填される。これにより、印刷媒体上に形成されるインクの密度をより向上させることが可能であり、印刷媒体上に形成されたインクの被膜の強度及び印刷媒体に対する密着性がより向上する。また、印刷媒体上における第1バインダ樹脂粒子1の流動性を抑制し、滲みをより生じ難くすることができる。
【0040】
第1バインダ樹脂粒子1及び第2バインダ樹脂粒子2の粒子径の制御は、乳化重合法、懸濁重合法、溶解懸濁法、及び、エステル伸長重合法等によりバインダ樹脂粒子を形成するときの重合条件を制御することにより行うことができる。上述のような重合方法において、バインダ樹脂の乳濁液又は懸濁液の撹拌速度及び撹拌時間のような機械的条件、乳化時又は懸濁時の乳化剤及び重合反応開始剤の量のような化学的条件、並びに、乳化時又は懸濁時の温度を調整することによって、バインダ樹脂粒子の粒子径を制御することができる。
【0041】
第1バインダ樹脂粒子1を形成する第1バインダ樹脂のガラス転移温度(TG)と、第2バインダ樹脂粒子2を形成する第2バインダ樹脂のTGとは、異なっていることが好ましい。このように、一方のバインダ樹脂のTGが、他方のバインダ樹脂のTGよりも低いことによって、バインダ樹脂が速やかに融解し、インクを印刷媒体上に速やかに定着させることができる。また、第1バインダ樹脂のTGは、第2バインダ樹脂のTGより高いことがより好ましい。これにより、平均粒子径の小さい第2バインダ樹脂粒子2がより速やかに融解し、インクの定着をより速やかに行うことができる。
【0042】
第1バインダ樹脂のTGは、50℃以上、80℃以下の範囲内であることが好ましく、第2バインダ樹脂のTGは、20℃以上、70℃以下の範囲であることが好ましい。第1バインダ樹脂のTGを上記範囲内にすることによって、印刷時の加熱により好適に融解させることが可能であり、かつ、インクの保存安定性が向上する。
【0043】
また、第2バインダ樹脂のTGを上記範囲内にすることによって、印刷時の加熱により第2バインダ樹脂粒子2を第1バインダ樹脂粒子1よりも早く融解させることが可能であり、第1バインダ樹脂粒子1を印刷媒体上に速やかに定着させることができる。これにより、例えば、予備加熱により印刷媒体上の第2バインダ樹脂粒子2を素早く融解させてインクの滲みを防止してから、第1バインダ樹脂粒子1を本加熱により確実に印刷媒体上に定着させることができる。
【0044】
第1バインダ樹脂粒子1及び第2バインダ樹脂粒子2の少なくとも一方は、図2に示すように、シェル構造4によりコーティングされたコアシェル構造を有していてもよい。図2は、コアシェル構造のバインダ樹脂粒子を示す模式図である。バインダ樹脂のガラス転移温度が低いと、粒子同士が接着及び凝集する場合があるが、第1バインダ樹脂粒子1及び第2バインダ樹脂粒子2を、そのガラス転移温度よりもガラス転移温度の高いバインダ樹脂によりコーティングすることによって、粒子同士の接着及び凝集を防ぐことができる。また、第1バインダ樹脂粒子1及び第2バインダ樹脂粒子2の両方を同じバインダ樹脂によりコーティングすることによって、分散溶媒中における粒子の分散が安定化することができる。
【0045】
第1バインダ樹脂及び第2バインダ樹脂のTGは、上述のようなバインダ樹脂を構成する材料の種類の選択及び重合条件の調整によって制御することができる。例えば、アクリル系樹脂をバインダ樹脂として使用する場合、共重合させるアクリレート等のモノマーの種類、各モノマーの重合比、及び、共重合体の重合度等を調整することによって、得られるバインダ樹脂のTGを制御することができる。
【0046】
インクの全量に対する、第1バインダ樹脂粒子1及び第2バインダ樹脂粒子2の濃度は、目的に応じて適宜設定すればよい。また、第1バインダ樹脂粒子1と第2バインダ樹脂粒子2とのインク中における含有比率も適宜設定することができる。第1バインダ樹脂粒子1及び第2バインダ樹脂粒子2の濃度又は重量比は、隣接する第1バインダ樹脂粒子1間に生じる隙間に、第2バインダ樹脂粒子2を好適に充填することができるように設定すればよい。
【0047】
(着色剤3)
着色剤3の具体例としては、ビヒクルに溶けないものであれば特に限定されず、目的に応じて様々な着色剤を採用することができる。具体的な着色剤としては、例えば、有機顔料、無機顔料、分散染料、酸化染料、反応染料、酸化チタン、磁性粒子、アルミナ、シリカ、セラミック、カーボンブラック、金属ナノ粒子及び有機金属よりなる群から選ばれる少なくとも一種の粒子が挙げられる。金属ナノ粒子の材料としては、例えば、金、銀、銅、アルミニウム等が挙げられる。なお、酸化チタンの場合は、白色の塗料として好適に用いることができる。
【0048】
インクにおいて、着色剤の平均粒子径は、5nm以上、80nm以下であることが好ましく、10nm以上、50nm以下であることがより好ましい。ここで、着色剤の平均粒子径とは、バインダ樹脂粒子中に分散する複数の着色剤の粒子径の平均を意味している。
【0049】
着色剤が小径であるほど着色性が向上するので、着色剤の平均粒子径が80nm以下であることによって、インクの着色性がより向上し、より高精彩な印刷が可能である。さらに、着色剤3は、第1バインダ樹脂粒子1中に内包されているので、着色剤3の平均粒子径を80nm以下に小さくしても、インクの耐光性を向上させることができる。
【0050】
第1バインダ樹脂粒子1における、第1バインダ樹脂と着色剤3との平均含有比率は、重量比で、20:80〜95:5であることが好ましく、75:25〜95:5であることがより好ましく、65:35〜85:15であることが最も好ましい。第1バインダ樹脂と着色剤3との平均含有比率とは、分散溶媒中に分散する複数の第1バインダ樹脂粒子1における、第1バインダ樹脂と着色剤3との含有比率の平均を意味している。第1バインダ樹脂と着色剤3との平均含有比率の制御は、乳化重合法、懸濁重合法、溶解懸濁法、及びエステル伸長重合法等により第1バインダ樹脂粒子1を形成するときの、重合条件を制御すること等により行うことができる。
【0051】
第1バインダ樹脂の樹脂比率が少ないと、着色剤3が第1バインダ樹脂粒子1の表面に露出し、吐出が不安定になり、樹脂比率が多すぎると、着色剤3による着色力が低下し、十分な彩度や濃度が得られない。したがって、第1バインダ樹脂粒子1を形成する第1バインダ樹脂と着色剤との比率は、着色力と着色剤3第1のバインダ樹脂中への内包との両方の目的を達成するために、一定の比率の範囲に収めるのが好ましく、第1バインダ樹脂と着色剤3との平均含有比率が、重量比で、40:60〜95:5の範囲内であることが好ましい。着色剤3が第1バインダ樹脂に内包されることにより、着色剤3単独よりも平均比重が低くなり、粒子径が大きくても、沈殿が抑制できるという効果が得られる。
【0052】
(分散溶媒)
インクにおいて、第1バインダ樹脂粒子1及び第2バインダ樹脂粒子2は、分散溶媒に乳濁又は懸濁している。分散溶媒としては、水又は親水性有機溶媒を含んでいてもよい。一実施形態に係るインクは、このような水又は親水性有機溶媒を含む分散溶媒に、第1バインダ樹脂粒子1及び第2バインダ樹脂粒子が乳濁又は懸濁している水性ラテックスインクであることが特に好ましい。水性ラテックスインクは、水又は親水性有機溶媒以外に、親水性有機溶媒に親和性がある非親水性有機溶媒を含有していてもよい。インクが、水性ラテックスインクの場合、バインダ樹脂による水性エマルション又は水性サスペンションが形成されているともいえる。水性ラテックスインクは、バインダ樹脂を乳濁又は懸濁させるための乳化剤をさらに含んでいてもよい。
【0053】
分散溶媒の具体例としては、第1バインダ樹脂及び第2バインダ樹脂を溶解しないものである限り限定されず、目的に応じて様々な分散溶媒を採用することができる。具体的な分散溶媒としては、例えば、水を挙げることができる。水は安全性が高く環境汚染がないという利点から、一般に使用されるインクジェットプリンタ用のインク等の用途に好適に用いることができる。水単独では乾燥速度が速く、インクジェットヘッドのノズル詰りの原因となるため、水に保湿剤を添加することがより好ましく、また、印刷媒体上においてヒータによる加熱ですばやく分散溶媒を蒸発させることによって、インクが滲むことを防止するために、水に有機溶剤を添加することがより好ましい。
【0054】
インクは、着色剤3を内包した第1バインダ樹脂粒子1、第2バインダ樹脂粒子2及び分散溶媒の他に、添加物を含んでいてもよい。添加物の種類としては、目的に応じて適宜選択すればよく、例えば、界面活性剤、カップリング剤、緩衝剤、殺生物剤、金属イオン封止剤、粘度修正剤、溶剤等が挙げられる。また、添加物は、第1バインダ樹脂粒子1又は第2バインダ樹脂粒子2の中に分散していてもよく、第1バインダ樹脂粒子1又は第2バインダ樹脂粒子2外であって分散溶媒内に存在していてもよい。
【0055】
インクにおいて、分散溶媒は、第1バインダ樹脂粒子1又は第2バインダ樹脂粒子2を乳濁又は懸濁させるための乳化剤をさらに含んでいてもよい。また、分散溶媒は、乳濁又は懸濁している第1バインダ樹脂粒子1又は第2バインダ樹脂粒子2の他に、分散溶媒に溶解している別の溶解樹脂を含んでもよい。別の樹脂は分散溶媒に溶解しており、インクの粘度調整をするものであり得る。
【0056】
また、この別の樹脂は、乾燥によって水分が飛ぶと、乳濁又は懸濁している第1バインダ樹脂粒子1及び第2バインダ樹脂粒子2同士の結合により皮膜化する際に、当該別の樹脂が結着材として、第1バインダ樹脂粒子1及び第2バインダ樹脂粒子2をさらに強力に結合させる機能を有するものであり得る。このような結着材として機能する別の樹脂として、PVA、ポリビニルピロリドン、ロジン、塩酢ビ、アクリル等を使用可能である。当該別の樹脂を結着剤として、第1バインダ樹脂粒子1及び第2バインダ樹脂粒子2を強力に結合させることによって、印刷媒体上におけるインクの滲みを防ぐことができる。
【0057】
(インクの製造方法)
本発明に係るインクの製造方法は、例えば、第1バインダ樹脂材料に着色剤3を分散又は溶解する分散工程、着色剤を含む第1バインダ樹脂材料を分散溶媒に乳濁又は懸濁させる第1乳化工程、第2バインダ樹脂材料を分散溶媒に乳濁又は懸濁させる第2乳化工程、及び、第1バインダ樹脂のエマルションと第2バインダ樹脂のエマルションとを混合する混合工程を包含する。
【0058】
製造工程において使用するバインダ樹脂は液状であることが好ましい。よって、バインダ樹脂が固体である場合、加温によって融解しておくか、又は、溶媒によって溶解しておくことが好ましい。また、重合してバインダ樹脂となるモノマーをバインダ樹脂の材料とし、乳化工程において、乳濁させつつ重合反応させることもできる。
【0059】
(分散工程)
分散工程は、第1バインダ樹脂材料に着色剤3を分散又は溶解する工程である。バインダ樹脂材料に着色剤3を分散又は溶解するとき、ロールミル、ビーズミル、ボールミル、及びジェットミル等を使用することができる。また、着色剤が顔料である場合、分散剤を使用することによって顔料の分散性を向上させてもよい。また、着色剤3として染料を使用する場合、染料の溶解性の良い溶媒をバインダ樹脂材料に配合して溶解してもよい。なお、ラジカル重合するモノマーをバインダ樹脂の材料とする場合、窒素条件下において着色剤3を分散又は溶解する工程を行うことが好ましい。
【0060】
(第1乳化工程)
第1乳化工程は、着色剤を含む第1バインダ樹脂材料を分散溶媒に乳濁又は懸濁させ、第1バインダ樹脂粒子1のエマルションを作製する工程である。乳化工程においては、ディゾルバー、ホモミキサー、ホモジナイジザー及び超音波撹拌機等の攪拌機を使用することができる。これら撹拌機の撹拌速度、撹拌時間、及び、第1バインダ樹脂材料の投入速度といった機械的条件を調整することによって、第1バインダ樹脂粒子1の粒子径を制御することができる。
【0061】
また、第1バインダ樹脂材料として使用するラジカル重合するモノマーの種類の選択、ラジカル重合の重合開始剤の量、乳化時に使用する乳化剤の量を調整することによっても、第1バインダ樹脂粒子1の粒子径を制御することができる。さらに、乳化時の温度を調整し、重合反応速度を調整することによっても、第1バインダ樹脂粒子1の粒子径を制御することができる。
【0062】
また、ラジカル重合するモノマーを第1バインダ樹脂材料とする場合、分散溶媒中に重合開始剤を配合し、窒素条件下において、上記撹拌機により撹拌しながら第1バインダ樹脂材料を投入するとよい。これにより、モノマーを重合反応させつつ、第1バインダ樹脂粒子1のエマルションを作製ができる。また、第1バインダ樹脂材料に乳化剤を配合することによって、バインダ樹脂粒子を作製してもよい。
【0063】
第1バインダ樹脂の材料を投入した分散溶媒を高速撹拌すると、第1バインダ樹脂の表面張力により略球形状又は略楕円形状の第1バインダ樹脂粒子1が得られる。従来のインクにおいては、樹脂間の鎖が絡み合って吐出が不安定になり、分散溶媒への溶解性も劣るため、高分子の樹脂を用いることが困難であった。しかしながら、本実施形態においては、バインダ樹脂の液体、及び、バインダ樹脂の材料の液体を含む分散溶媒を高速撹拌して乳化又は懸濁することによって、バインダ樹脂粒子が略球形状又は略楕円形状になり、樹脂間の鎖が絡み合わない。その結果、インクの吐出安定性が向上し、分散溶媒への溶解性も向上する。
【0064】
(第2乳化工程)
第2乳化工程は、第2バインダ樹脂材料を分散溶媒に乳濁又は懸濁させ、第2バインダ樹脂粒子2のエマルションを作製する工程である。第2乳化工程においては、第1バインダ樹脂粒子に替えて第2バインダ樹脂粒子を用いて、第1乳化工程と同様に行い、第2バインダ樹脂粒子2のエマルションを作製する。
【0065】
(混合工程)
混合工程は、第1乳化工程によって得られた第1バインダ樹脂粒子のエマルションと第2乳化工程によって製造された第2バインダ樹脂粒子のエマルションとを混合する工程である。
【0066】
混合工程において、第1バインダ樹脂粒子のエマルションと第2バインダ樹脂粒子のエマルションの混合は、従来公知の混合方法によって行うことができる。例えば、ディゾルバーを用いて混合することができ、各エマルションが均一に混合されればよく、高速で撹拌しなくてもよい。また、混合工程は第1バインダ樹脂及び第2バインダ樹脂のTGよりも低い温度において混合することが好ましい。これによって、第1バインダ樹脂と第2バインダ樹脂の併合を抑制し、室温で安定なインクを製造することができる。
【0067】
また、混合工程においては、上述の溶解樹脂を始め、添加物として、目的に応じて、界面活性剤、カップリング剤、緩衝剤、殺生物剤、金属イオン封止剤、粘度修正剤、溶剤等を配合することができる。
【0068】
〔インクジェット記録方法〕
本発明のインクジェット記録方法は、上記本発明のインクを印刷媒体に吐出する吐出工程と、上記印刷媒体に着弾したインクを加熱する加熱工程とを包含する。また、インクジェット記録方法は、バインダ樹脂が、熱で硬化する高分子化合物であるとき、上記加熱工程の後に、上記印刷媒体に着弾したインクを、第1バインダ樹脂粒子1を溶解させる温度で加熱する後加熱工程をさらに包含していてもよい。また、インクジェット記録方法は、印刷媒体に着弾したインク中の第2バインダ樹脂粒子2を素早く溶解させるために、上記加熱工程の前に、予備加熱工程をさらに包含していてもよい。
【0069】
第1バインダ樹脂粒子1及び第2バインダ樹脂粒子2に用いるバインダ樹脂として、TGの低い樹脂か、TGの高い樹脂にTGの低い樹脂を混合したものを含むインクを用いることによって、加熱工程のみとすることもできるし、予備加熱工程及び後加熱工程の加熱温度を低温化できるという利点がある。
【0070】
印刷媒体に着弾する前は、第1バインダ樹脂粒子1及び第2バインダ樹脂粒子は分散溶媒に分散している。吐出工程において吐出され、印刷媒体上に着弾した直後のインクは、第2バインダ樹脂粒子2が第1バインダ樹脂粒子1間に生じる隙間を充填するように、印刷媒体上に積層する。ここで、吐出工程においては、インクジェットノズルからインクを吐出する。インクジェットノズルからの吐出安定性を向上させるために、インクに含まれる第1バインダ樹脂粒子1の平均粒子径は、インクを吐出するインクジェットノズルのノズル径の1/10以下であることが好ましい。
【0071】
次に、加熱工程において、分散溶媒中の水分(溶媒)を蒸発させる温度でインクを加熱する。加熱工程における加熱手段は、印刷媒体上のインク層を加熱し、溶媒を蒸発させることが可能な温度にすることが好ましい。さらに、加熱工程において加熱する温度を、第2バインダ樹脂粒子2のTGよりも高く設定しておけば、溶媒の蒸発と同時に第2バインダ樹脂粒子2を融解させることができる。これによって、インクが滲む前に、第2バインダ樹脂粒子2の融解物によって第1バインダ樹脂粒子1が印刷媒体上に定着される。
【0072】
加熱工程では、印刷媒体のインク着弾面の裏側からヒータ等により加熱してもよいし、インク着弾面に、赤外線又は遠赤外線を照射する、電磁誘導加熱する、温風を当てるなどにより加熱してもよい。結果として、溶媒を蒸発させてインク層を乾燥、重合、溶融等させ定着させることができれば、加熱方法は限定されない。
【0073】
印刷の目的によっては、印刷媒体に着弾した状態からインクを加熱して分散溶媒を除去するだけでも、印刷の終了とすることができる。すなわち、第1バインダ樹脂粒子1及び第2バインダ樹脂粒子の表面が、溶媒により膨潤又は部分的に溶解していることによって溶媒の乾燥によって互いの表面が融着する場合、又は、分散溶媒中に溶解している溶解樹脂が多量に配合されている場合等は、溶媒を乾燥させるのみで、第1バインダ樹脂粒子1及び第2バインダ樹脂粒子を融解させることなく印刷媒体上にインクを定着させることができる。
【0074】
第1バインダ樹脂として、室温以上の熱で融解する高分子化合物又は熱で硬化する高分子化合物を用いている場合、印刷媒体上のインクを、第1バインダ樹脂を融解又は硬化する温度でさらに加熱することが好ましい(後加熱工程)。加熱されて融解又は反応した第1バインダ樹脂が一体化することにより、第1バインダ樹脂がしっかりと印刷媒体に定着する。
【0075】
なお、第1バインダ樹脂粒子1及び第2バインダ樹脂粒子2の少なくとも一方は、そのガラス転移温度よりもガラス転移温度の高いバインダ樹脂によりコーティングされているインクによって印刷してもよい。このようなインクは、粒子表面のガラス転移温度が高いため、粒子同士が接着及び凝集しない。また、第1バインダ樹脂粒子1及び第2バインダ樹脂粒子2の両方が同じバインダ樹脂によりコーティングされたインクであれば、インク中における粒子の分散がより安定化されている。したがって、このようなインクを用いれば、吐出安定性に優れ、好適な印刷が可能である。
【0076】
本発明に係るインクにおいては、既に、第1バインダ樹脂粒子1中に着色剤3が分散又は溶解している。したがって、最終的にバインダ樹脂を印刷媒体に定着させる場合であっても、従来のインクのように、内包する着色剤を分散又は溶解させるために、第1バインダ樹脂粒子に対して高温の加熱工程をさらに行う必要がない。すなわち、インクを印刷媒体に定着させるための加熱温度が低温で済むという利点をも有している。
【0077】
従来のインクでは、着色剤と樹脂粒子とがそれぞれ独立して分散溶媒に分散しているため、樹脂粒子を溶融しなければ着色剤を分散溶媒中に分散させることができなかった。しかしながら、本発明に係るインクでは、既に着色剤3が第1バインダ樹脂粒子1に分散又は溶解しているので、第1バインダ樹脂粒子1中に着色剤3を分散又は溶解させるために加熱温度を高温にする必要がなく、バインダ樹脂を溶融一体化させ、印刷媒体に定着させるために必要な加熱温度が低温で済む。
【0078】
つまり、本発明に係るインクジェット記録方法において、インクを加熱する温度は、例えば40℃〜60℃という低温で十分であるため、インク加熱時の高温によりインクジェットヘッドのノズル内のインクが乾燥することを防ぐことができる。その結果、インクの吐出不良を防止できる。
【0079】
<付記事項>
以上のように、本発明の一実施形態に係るインクは、本発明は分散溶媒と、上記分散溶媒に乳濁又は懸濁し、着色剤3を含有する第1バインダ樹脂粒子1と、上記分散溶媒に乳濁又は懸濁する第2バインダ樹脂粒子2と、を含み、上記第2バインダ樹脂の粒子の平均粒子径は、上記第1バインダ樹脂粒子1の平均粒子径より小さい。
【0080】
上記構成によれば、印刷媒体上に形成されたインク被膜において、平均粒子径の小さい第2バインダ樹脂粒子2が、平均粒子径の大きい第1バインダ樹脂粒子1間に生じる隙間に充填される。平均粒子径の大きい第1バインダ樹脂粒子1間に生じる隙間に、平均粒子径の小さい第2バインダ樹脂粒子2が充填されることによって、印刷媒体上に形成されるインク被膜の密度が向上する。このため、インク被膜の強度及び印刷媒体に対する密着性が向上する。
【0081】
本発明に係るインクにおいて、上記第1バインダ樹脂粒子1の平均粒子径は、100nm以上、2000nm以下の範囲である。
【0082】
上記構成によれば、インク中における第1バインダ樹脂粒子1の凝集を抑えることができる。
【0083】
本発明に係るインクにおいて、上記第2バインダ樹脂粒子2の平均粒子径は、上記第1バインダ樹脂粒子1の平均粒子径の1/3以下である。
【0084】
上記構成によれば、第2バインダ樹脂粒子2は、第1バインダ樹脂粒子1同士の間に生じる隙間を好適に充填される。よって、印刷媒体上に形成されたインク層の強度及び密着性が向上する。
【0085】
本発明に係るインクにおいて、上記第1バインダ樹脂のガラス転移温度は、第2バインダ樹脂のガラス転移温度より高い。
【0086】
上記構成によれば、インクが吐出された後、インクが吐出された印刷媒体を加熱したときに、速やかに第2バインダ樹脂を融解させることができる。これによって、融解した第2バインダ樹脂により、速やかに第1バインダ樹脂粒子1を印刷媒体上に定着させることができる。
【0087】
本発明に係るインクにおいて、第1バインダ樹脂粒子1及び第2バインダ樹脂粒子2の少なくとも一方は、そのガラス転移温度よりもガラス転移温度の高いバインダ樹脂によりコーティングされている。
【0088】
上記構成によれば、第1バインダ樹脂粒子1及び第2バインダ樹脂粒子2の少なくとも一方は、そのガラス転移温度よりもガラス転移温度の高いバインダ樹脂によりコーティングされたコアシェル構造を有する。このように、粒子の表面がガラス転移温度の高いバインダ樹脂によりコーティングされることによって、粒子の接着及び凝集を防ぐことができる。また、第1バインダ樹脂粒子1及び第2バインダ樹脂粒子2の両方を同じバインダ樹脂によりコーティングすることによって、分散溶媒中における粒子の分散が安定化することができる。
【0089】
本発明に係るインクジェット記録方法は、上述のインクを印刷媒体に吐出する吐出工程と、上記印刷媒体に着弾したインクを加熱する加熱工程と、を包含する。
【0090】
上記の構成により、様々な印刷媒体上に好適に印刷することができる。
【0091】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明は、染料及びコーティング剤等のインクに好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0093】
1 第1バインダ樹脂粒子(第1バインダ樹脂の粒子)
2 第2バインダ樹脂子(第2バインダ樹脂の粒子)
3 着色剤
4 シェル構造
図1
図2