(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6309232
(24)【登録日】2018年3月23日
(45)【発行日】2018年4月11日
(54)【発明の名称】防火帽
(51)【国際特許分類】
A42B 3/12 20060101AFI20180402BHJP
【FI】
A42B3/12
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-198664(P2013-198664)
(22)【出願日】2013年9月25日
(65)【公開番号】特開2015-63779(P2015-63779A)
(43)【公開日】2015年4月9日
【審査請求日】2016年9月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000149930
【氏名又は名称】株式会社谷沢製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】緑川 貴之
(72)【発明者】
【氏名】崔 成根
【審査官】
▲高▼橋 杏子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−350790(JP,A)
【文献】
特開平10−195708(JP,A)
【文献】
特開平09−087919(JP,A)
【文献】
特開2005−273107(JP,A)
【文献】
登録実用新案第3008458(JP,U)
【文献】
特開平10−331021(JP,A)
【文献】
実開平05−045020(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A42B 3/00−3/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
帽体と、該帽体の内部に配置された衝撃吸収ライナーとを備え、帽体は衝撃吸収ライナーより硬質であり、前記帽体の頭頂部には、左右方向の中央位置で上方に隆起して前後方向に延びる頭頂リブが形成され、前記帽体の前部には、前方に突出する前方鍔部が形成された防火帽において、
着用姿勢の前記帽体の頭頂から鉛直方向に延びる直線を基準線とし、前記前方鍔部と同等の高さ位置で前記基準線に直交する水平面を基準平面とし、該基準平面と前記基準線との交点を基準点とし、基準点から上方に向かって基準線に対して45°の角度をもって延びる傾斜直線を、基準線を軸として回転させた際に前記帽体と交差する傾斜直線の移動軌跡に包囲された領域を頭頂保護領域としたとき、
前記頭頂保護領域に対応する位置の前記帽体と前記衝撃吸収ライナーとの間に空気層を設け、
該空気層内に、前記衝撃吸収ライナーにおける前記帽体との対向面の一部のみを覆って前記頭頂保護領域での衝撃を前記衝撃吸収ライナーに先立って受ける該衝撃吸収ライナーより硬質の内装板を設けたことを特徴とする防火帽。
【請求項2】
前記衝撃吸収ライナーは、前記内装板を支持する内装板支持部を前記空気層側の面に備えていることを特徴とする請求項1記載の防火帽。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、火災現場において消防士等の消火作業者が着用する防火帽に関する。
【背景技術】
【0002】
火災現場において消防士等の消火作業者が着用する防火帽が知られている(例えば特許文献1参照)。防火帽は、各国の消火活動の内容によってその満たすべき性能の基準が国ごとに異なっている。日本では、火災時に建物の内部に侵入せず、主に建物外部からの消火活動が行われる。このため、日本における防火帽の性能基準は、十分な衝撃吸収性能を備えていれば、耐火性や耐熱性より軽量化による活動性が重視される。
【0003】
なお、日本においては防火帽に対する規格が明確には定められておらず、産業用安全帽と同等の厚生労働省による保護帽の規格に準じて製造されている。
【0004】
また、防火帽の帽体には、頭頂部を通って前後に延びる頭頂リブが突設されており、落下物や飛来物に対する頭頂部の保護性能が強化されている。このため、防火帽は、全体的に平滑な球面状の帽体を有する乗車用安全帽とは全く異なる人頭の保護性能が要求され、乗車用安全帽の構成を適用することはできない。
【0005】
一方、ヨーロッパ諸国では、火災時に建物の内部に侵入して消火活動が行われる。このため、ヨーロッパ諸国における防火帽の性能基準においては、極めて高い衝撃吸収性能が要求され、更に、耐火性や耐熱性が重視されるものとなっている(ヨーロッパ統一消防装備規格EN443)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−350790号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、ヨーロッパ統一消防装備規格EN443(以下欧州規格という)に適合した防火帽であっても、重量が重いと日本における使用では良好な活動性が得られないばかりか、厚生労働省による保護帽の規格(以下日本規格という)に適合しない場合もあって、両規格に適合する防火帽を得ることは困難であった。
【0008】
本発明は、上記の点に鑑み、欧州規格と日本規格との両規格に適合させながら、軽量化による高い活動性が得られる防火帽を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる目的を達成するため、本発明は
、帽体と、該帽体の内部に配置された衝撃吸収ライナーとを備え、
帽体は衝撃吸収ライナーより硬質であり、前記帽体の頭頂部には、左右方向の中央位置で上方に隆起して前後方向に延びる頭頂リブが形成され、前記帽体の前部には、前方に突出する前方鍔部が形成された防火帽において
、着用姿勢の前記帽体の頭頂から鉛直方向に延びる直線を基準線とし、前記前方鍔部と同等の高さ位置で前記基準線に直交する水平面を基準平面とし、該基準平面と前記基準線との交点を基準点とし、基準点から上方に向かって基準線に対して45°の角度をもって延びる傾斜直線を、基準線を軸として回転させた際に前記帽体と交差する傾斜直線の移動軌跡に包囲された領域を頭頂保護領域としたとき
、前記頭頂保護領域に対応する位置の前記帽体と前記衝撃吸収ライナーとの間に空気層を設け、該空気層内に、前記衝撃吸収ライナーにおける前記帽体との対向面
の一部のみを覆って前記頭頂保護領域での衝撃を前記衝撃吸収ライナーに先立って受ける該衝撃吸収ライナーより硬質の
内装板を設けたことを特徴とする。
【0010】
日本規格(厚生労働省による保護帽の規格)においては、防火帽を人頭模型に装着し、帽体の頭頂部の頭頂リブに5kgの半球形ストライカを1mの高さから自由落下させて(衝撃エネルギ49J)、人頭模型に付与される衝撃荷重を測定する試験を行ったとき、合格基準は、衝撃荷重が4.9kN以下であることと定められている。
【0011】
欧州規格(EN443規格)においては、防火帽を人頭模型に装着し、帽体の所定箇所に5kgの半球形ストライカを2.5mの高さから自由落下させて(衝撃エネルギ123J)、人頭模型に付与される衝撃荷重を測定する試験を行ったとき、合格基準は、衝撃荷重が15kN以下であることと定められている。
【0012】
本発明は上記構成により、日本規格に定められる比較的低い衝撃エネルギ(49J)の場合は、前記帽体による衝撃分散と前記空気層の圧縮と衝撃吸収ライナーの変形とにより吸収し、上記合格基準が満たされる。
【0013】
また、欧州規格に定められる比較的高い衝撃エネルギ(123J)を例えば頭頂部に付与した場合は、帽体の頭頂リブの破損と前記内装板での衝撃分散と衝撃吸収ライナーの変形とにより吸収し、上記合格基準が満たされる。
【0014】
このように、本発明によれば、帽体と衝撃吸収ライナーとの間の頭頂保護領域に対応する位置に空気層を設けると共に、空気層内に前記内装板を設けたことにより、日本規格と欧州規格との両規格に適合する防火帽を提供することができる。
【0015】
また、帽体外部からの熱を前記空気層と前記内装板とにより遮断することができ、輻射熱による衝撃吸収ライナーの軟化等を防止して高温環境での衝撃吸収性能低下を防止することができる。
【0016】
更に、前記頭頂保護領域の空気層内に内装板を設けたことにより、帽体全体の肉厚寸法を小さく抑えて十分な強度が得られるので、帽体の重量を軽量化して高い活動性を得ることができる。
【0017】
また、本発明において、前記衝撃吸収ライナーは、前記内装板を支持する内装板支持部を前記空気層側の面に備えていることを特徴とする。これによれば、内装板による耐衝撃性を低下させることなく構造簡単に内装板を支持することができ、製造コストの増加を防止することができる。
【0018】
なお、具体的には、前記帽体及び前記内装板を形成する硬質材料としてFRPを挙げることができる。また、前記内装板がFRP製であるとき、その厚み寸法を1〜3mmとして軽量化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施形態の防火帽における帽体及び衝撃吸収ライナーとを人頭模型に装着した状態で示す断面側面図。
【
図2】本発明の実施形態の防火帽における帽体及び衝撃吸収ライナーとを人頭模型に装着した状態で示す断面正面図。
【
図3】帽体を平面視して頭頂保護領域を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1及び
図2に示すように、本実施形態の防火帽1は、帽体2と、衝撃吸収ライナー3と、内装板4とを備えている。なお、衝撃吸収ライナー3の下方には、図示を省略したが、ハンモック、ヘッドバンド、耳紐、及び顎紐等が設けられる。また、帽体2の前面側には着用者の顔面を保護する透明樹脂製のシールドが設けられる。なお、図中符号Hで示すものは人頭模型である。
【0021】
帽体2は硬質材料(例えばFRP)により形成され、上方に隆起する頭頂リブ5と、前方に張り出す前方鍔部6を備えている。頭頂リブ5は、帽体2の左右方向の中央に位置し、頭頂部を含む前後方向に延設されている。頭頂リブ5により、帽体2の強度が向上し、帽体2の肉厚寸法を省として軽量化することが可能となる。
【0022】
衝撃吸収ライナー3は、主ライナー部材31と補助ライナー部材32とで構成されている。衝撃吸収ライナー3を設けることにより、帽体2外部から受ける衝撃を吸収して人頭に伝達される衝撃を確実に緩和することができる。
【0023】
主ライナー部材31は、比較的高密度(低倍率)の合成樹脂製発泡体で形成されており、帽体2の内面側に配置して人頭を覆うように大略半球状に形成されている。補助ライナー部材32は、比較的低密度(高倍率)の合成樹脂製発泡体で形成されており、帽体2の頭頂リブ5に対応する位置において、主ライナー部材31の帽体2との対向面に形成された凹部31aに嵌め込まれることによって、主ライナー部材31に一体的に埋設されている。
【0024】
本実施形態においては、主ライナー部材31は、発泡倍率を7倍として成型した変性ポリフェニレンエーテルが採用され、その密度は200g/リットルであり、比較的硬い。主ライナー部材31の厚み寸法は、最大部位が約35mmで最小部位(凹部31aの位置や先端側等)が約10mmとされている。
【0025】
また、補助ライナー部材32は、発泡倍率を45倍として成型した耐熱発泡ポリプロピレンが採用され、その密度は30g/リットルであり、比較的やわらかい。補助ライナー部材32の厚み寸法は約15mmとされている。
【0026】
衝撃吸収ライナー3は、
図1及び
図2に示すように、後頭部側の一部及び側頭部側の一部が帽体2の内面に密着するが、他の部分は帽体2の内面から離間して設けられている。この離間している領域は、帽体2と衝撃吸収ライナー3との間の空気層7となる。空気層7が設けられていることにより、衝撃が付与された帽体2の変形が衝撃吸収ライナー3によって阻害されることが防止され、帽体2が有する衝撃吸収能力を最大限に発揮させることができる。また、空気層7は断熱作用も有するため、帽体2外部から衝撃吸収ライナー3への熱伝達を低減して、熱による衝撃吸収ライナー3の衝撃吸収能力の低下を防止することができる。なお、衝撃吸収ライナー3の空気層7側の面にアルミニウム層等の熱反射膜を設けてもよく、これにより耐熱性能を向上させることができる。
【0027】
本実施形態の防火帽1においては、水平着用姿勢の帽体2の頭頂から鉛直方向に延びる直線を基準線Sとし、前方鍔部6と同等の高さ位置で基準線Sに直交する水平面を基準平面Aとし、基準平面Aと基準線Sとの交点を基準点Xとし、基準点Xから上方に向かって基準線Sに対して45°の角度をもって延びる傾斜直線Rを、基準線Sを軸として回転させた際に帽体2と交差する傾斜直線の移動軌跡Tに包囲された領域が、
図3に示すように、頭頂保護領域8とされている。そして、空気層7は、少なくとも頭頂保護領域8に対応する位置に設けられる。
【0028】
更に、
図1及び
図2に示すように、空気層7には内装板4が設けられている。内装板4は硬質材料(例えばFRP)により形成され、衝撃吸収ライナー3に支持されている。即ち、衝撃吸収ライナー3の主ライナー部材31には内装板支持部31bが形成されており、内装板4は、その前方側を除く周縁を内装板支持部31bに着座させることにより、衝撃吸収ライナー3に支持されている。内装板4を設けたことにより、例えば、帽体2の頭頂リブ5に衝撃が集中して頭頂リブ5が破損しても、このときの衝撃を内装板4が分散して比較的広い範囲で衝撃吸収ライナー3に吸収させることができる。これにより、帽体2の肉厚寸法を増加させることなく強度を向上させることができ、帽体2の軽量化を可能として高い活動性を得ることができる。
【0029】
ここで、以上の構成による本実施形態の防火帽1に対する規格試験と合否の判定結果について説明する。なお、
図1及び
図2において、L1は頭頂の打撃点、L2は前頭部の打撃点、L3は後頭部の打撃点、L4は左側頭部の打撃点、L5は右側頭部の打撃点であり、打撃点L1以外の打撃点L2〜打撃点L5においては、人頭模型Hを水平姿勢から各方向に角度30°に傾斜させることにより鉛直方向を向けて試験を行う。また、
図3に示すように、打撃点L1〜打撃点L5の全てが頭頂保護領域8内に位置する。
【0030】
図1及び
図2を参照して、先ず、日本規格として、厚生労働省「保護帽の規格」(第八条)に準ずる衝撃吸収試験を行った。この試験は、前処理として、防火帽に対し、高温処理(温度50℃の場所に継続して2時間置く方法)、低温処理(温度零下10℃の場所に継続して2時間置く方法)、及び、浸せき処理(温度25℃の水中に継続して4時間置く方法)を行う。その後、上記処理を行った夫々の防火帽を人頭模型に装着し、重さ5kgの半球形ストライカを1mの高さから打撃点L1に自由落下させる。そして、人頭模型に掛かる衝撃荷重が4.9kN以下であるものを合格とする。
【0031】
この試験の結果、本実施形態の防火帽1の構成では人頭模型に掛かった衝撃荷重が、高温処理後4.3kN、低温処理後4.5kN、浸せき処理後4.5kNであり、何れの前処理を行っても4.9kN以下であった。これにより、本実施形態の防火帽1は打撃点L1における衝撃吸収が良好に行われ、日本規格に適合する結果となった。
【0032】
次に、ヨーロッパ統一消防装備規格EN443に準ずる衝撃吸収試験を行った。この試験は、前処理として、上述した高温処理、低温処理、及び、浸せき処理の各処理を何れも4〜24時間行ったものと、熱流速14kW/m
2の環境で480秒間暴露した放射熱処理を行ったものとについて、夫々の防火帽を人頭模型に装着し、重さ5kgの半球形ストライカを2.5mの高さから打撃点L1〜L5(放射熱処理後のものはL5のみ)に自由落下させる。そして、人頭模型に掛かる衝撃荷重が15kN以下であるものを合格とする。
【0033】
この試験の結果について、打撃点L1〜L5のなかでの人頭模型に掛かる衝撃荷重の最小値〜最大値を示すと、高温処理後7.5kN〜12.5kN、低温処理後7.8kN〜12.7kN、浸せき処理後7.9kN〜13.1kNであり、何れの前処理を行っても15kN以下であった。また、放射熱処理後も11.3kNであり、15kN以下であった。
【0034】
これにより、本実施形態の防火帽1は打撃点L1〜L5における衝撃吸収が良好に行われ、EN443規格に適合する結果となった。
【0035】
なお、熱に対する内装板4の効果を確認するために、内装板4を取り外した防火帽に対して前記高温処理後と放射熱処理後との夫々で衝撃荷重を測定した。その結果、高温処理後では7.5kN〜15.4kNとなり、放射熱処理後では25kN以上となってしまし、何れも15kN以下にはならなかった。よって、内装板4を備えることで熱による衝撃吸収性能の低下が防止されていることが確認できた。
【0036】
以上により、本実施形態による防火帽1は、厚生労働省「保護帽の規格」とヨーロッパ統一消防装備規格EN443との両方に適合させることができた。
【符号の説明】
【0037】
1…防火帽、2…帽体、3…衝撃吸収ライナー、31b…内装板支持部、4…内装板、5…頭頂リブ、6…前方鍔部、7…空気層、8…頭頂保護領域、S…基準線、A…基準平面、X…基準点、R…傾斜直線、T…傾斜直線の移動軌跡。